南方のトラック諸島にて、天照は突如、行方不明になっていた同じ学校の戦艦比叡を発見した。
しかし、比叡の乗員は謎のウィルスに感染し、暴走状態となっていた。
感染した比叡はトラック諸島へと入り込んだら、ウィルスが世界中に広まってしまう恐れがある。
だが、ブルーマーメイド、ホワイトドルフィンは比叡がトラック諸島に入る前には間に合わない。
天照は‥もえかは葉月が風邪でダウンしている中、葉月からの依存を打ち消す為にも‥‥世界をウィルスの脅威から守る為、比叡と戦う事に決めた。
砲撃戦により、比叡は天照相手では不利だと判断したのか、逃走を始めた。
もえかはウィルスの脅威から世界を守るのと同時にウィルスに感染した比叡乗員を救うため、比叡を追撃する事となった。
そして、もえかは作戦の概要、そして現在比叡が置かれている状況を天照乗員に放送で伝えた。
「…以上が作戦の概要です」
「そこまでして止めなきゃならないの?」
等松は比叡を追撃するのにこの天照を使うほどオーバーな事なのかと懐疑的であった。
しかし、次の美波の言葉で納得した。
「比叡は現在、ウィルスに感染している。私が抗体を開発した。データは学校に届けた。だから足止めさえしておけば比叡の生徒は後日治療ができるはずだ。しかし、今ここで比叡を放置したら、世界中にウィルスがばら撒かれる恐れがある」
「私は比叡の乗員を‥‥ううん、トラックに住む人達も守りたい!!海の仲間は家族なんだから!!だから、この作戦を成功させるにはみんなの力が必要なの!!だけど、この作戦にはみんなにも危険が及ぶ可能性があり、私はみんなの安全を完全に保証できない。だから私一人じゃ決められない。みんなの意見を聞かせて!!」
もえかの放送を聞き、天照の足である機関室では、
「比叡クラスって、武蔵の次に優等生のクラスだよね?」
「私達じゃ無理っぽくない?」
何だか諦めモードとなっている。
それはCICに居る通信委員も同様だった。
「大型艦だもんね~」
「武蔵の時も怖かったし…」
一応、天照は超大型艦なのだが、やはり武蔵とドンパチやった時の恐怖が残っているのか消極的な意見が飛び交う。
そんな中、
「わ…私やります!頑張ります!」
艦橋にて鈴が目一杯の声を張り上げた。
「タマはどうする?」
「うぃ」
「私はやるよ!!ドンパチ撃てるし」
「うぃ!!」
鈴の精一杯の行動に艦橋メンバーはやる気を出した。
「やぶさかではありません!」
「わしも手伝う。他人事ではないしな」
「私達もやります!!」
艦橋メンバーに次いで砲術委員、水雷委員も比叡の救出に賛同する。
「ま、なんとかなるぞな」
勝田が海図を広げる。
「波飛沫一滴さえも見逃さない!」
マチコが展望デッキにて、比叡を睨む。
「マッチもやる気になっているみたいだし頑張ろう!」
やがて、消極的だったクラスメイト達も次々と比叡救助に賛同していく。
「私達は…」
「どうすれば…」
「う~ん…とにかくご飯を炊こう!」
炊飯委員は戦勝後にクラスのみんなに心尽くしの料理を食べてもらおうと、夕食の準備を行った。
そして、機関室では、
「でもやっぱり無謀よ。…ねぇ麻侖」
「よーし!やってやろうってんでぃ!」
『ええっ!!』
最後まで難色を示していた機関科委員達であったが、麻侖はもえかに賛成した。
「艦長ってのは神輿よ!軽くて馬鹿でも神輿を担ぐのが江戸っ子の心意気でぃ!」
「いや千葉出身でしょ機関長殿」
「でもまぁ、機関長が言うなら…」
「やりますか!」
「やれやれ、麻侖は一度決めると頑固だからねぇ…いいわ、付き合ってあげる」
こうしてもえかは天照乗員の全員の了承をとりつけた。
「みんな…ありがとう‥‥戦闘用意!」
「戦闘用意!総員、配置につけ!!」
天照の艦内に警報が鳴り響く。
(さて、お手並み拝見といきますか‥ガンバレ、もえかちゃん)
葉月はベッドの中で、もえかを応援した。
「納沙さん、例の海域のデータを」
「はい、艦長」
幸子はこの先にある岩礁と潮流が入り組んでいる海域のデータをもえかに見せる。
「すごいねこれ」
「データはより多くより新しくがモットーでして。個人的に収集してます!」
「流石です」
「お主やるではないか」
幸子のデータ収集力を褒めるもえかとミーナ。
「このへんでええとこ見せんともう舞台は回ってきませんけぇ」
「間尺に合わん仕事かもしれんなぁ」
こんな時でも何故か任侠映画のセリフを吐く幸子とミーナであった。
「艦長!進路の候補でました!」
「‥‥このルートでいこう…知床さん、立石さんお願い!」
「は、はい!!」
「うぃ」
鈴に航路の設定と立石にこの航路に沿うように比叡を模擬弾で攻撃する様に伝えるもえか。
やがて比叡は後部の第三、第四砲塔を使って天照を攻撃してきた。
「撃ち方はじめ!!」
「うぃ、攻撃‥撃て」
天照も第一主砲で応戦する。
もちろん弾種は模擬弾で、比叡の船体スレスレを狙って撃つ。
「此処が勝負どころじゃ…」
「後がないんじゃ!」
台詞どころか顔も任侠を意識している。
「あ…当たりそう~…」
前方から降って来る比叡の砲弾に震えながら舵を握る鈴。
「大丈夫、当たらないよ」
もえかは鈴の不安を拭うように微笑みながら言う。
「か、艦長」
もえかの表情と言葉に葉月と同じ様な安心感をこの時、感じた鈴だった。
「比叡、第一ポイントへの誘導へ乗りました!」
展望デッキからはマチコから比叡が予定のコースに乗った報告が入る。
「ここで座礁させれば沈めずに足を止められる!」
「撃て」
第二主砲から比叡に向けて模擬弾が放たれるが、流石は高速戦艦、比叡は速力を上げて天照の砲弾を躱した。
「外した!?」
比叡がお返しと言わんばかりに撃ってきた。
「撃ってきた!とーりかーじ!」
「左舷に着弾!」
「被害報告!!」
「第一装甲板で防ぎました!!」
「被害微小!!」
「比叡、第二ポイント通過確認!」
マチコからは二か所目の予定座礁ポイントを比叡が無事通過したと報告が入る。
「座礁させるポイントを今度も抜けられたらどうする?艦長」
既に二か所も座礁ポイントを躱されて、ミーナがこの後どうするのかを尋ねる。
「まだだよ…まだ終わってない!!」
「しかし艦長!もう…」
「超えられない嵐はないんだよ!砲撃を続行!!比叡を絶対にこの海域から逃がさない様に!!」
「う、うぃ」
立石も今日のもえかは一味違うと思いつつ、指示に従って比叡に模擬弾を放つ。
天照の砲撃で比叡は再び同じコースをたどる。
レースで言えば、二周目に突入した。
「此処はさっきと同じ所じゃ!!」
「でも、ここじゃ比叡は座礁しませんでしたよ」
「納沙さん、タブレットを見せて」
「は、はい」
幸子はもえかに言われてタブレットを見せる。
「‥‥」
もえかは幸子のタブレットと時計を交互に見る。
「‥‥和住さん、合図したらバラストを限界まで排水して」
「りょ、了解」
「か、艦長、バラストを限界まで排水したりしたら、艦の安定性が!」
「それに主砲も撃てなくなります!!」
51cm砲の衝撃は凄まじい。
バラストを排水した状態で撃てばバランスを崩して転覆する恐れがある。
「砲撃は第一から第三副砲を連射して比叡を座礁ポイントへと追いやる」
「しかし、主砲を使用しても座礁出来なかったのに副砲で出来るでしょうか?」
幸子が副砲のみで比叡を座礁させることが出来るのかと不安視する。
「大丈夫、今度はちょっと比叡の針路をズラすだけでいい」
『?』
もえかは自信ありげに言うが、艦橋メンバーは首を傾げる。
「鈴ちゃん!速度いっぱいで!」
「りょ、了解」
天照は速度をあげて比叡に接近する。
「比叡、先程と同じコースに入りました!」
「副砲、連続斉射」
天照の第一から第三副砲が連続して斉射され、比叡の右舷側に幾つもの水柱が立つ。
比叡は左へと舵をきる。
もえかを除く艦橋メンバーはまた比叡はその高速を利して座礁ポイントを躱してしまうのかと思ったが、
ドゴッ‥‥
ズシャァァァ‥‥
轟音を立てて先程躱された座礁ポイントにて比叡は座礁した。
「比叡停止!」
マチコは比叡が完全に停止した事を報告する。
「比叡の機関停止を確認しました…」
座礁し動くことが出来なくなり、比叡は機関を停止する。
「ど、どうして‥‥」
「比叡が?」
先程は座礁しなかったポイントなのに今回は何故、このポイントで比叡に座礁したのかをもえかを除く艦橋メンバーは不思議がっている。
「それはね‥‥」
もえかは何故、このポイントで比叡が座礁したのかを皆に説明した。
「成程、潮の満ち引きか?」
ミーナが納得したように頷く。
「納沙さんおかげだよ」
「私ですか?」
「オンラインの海図だったから水深の変化はリアルタイムでわかったし」
「成程。前に通った時より潮が引いて水位が下がってると‥‥だから、バラストを限界まで上げたんですね」
「うん。天照も座礁したら大変だからね」
先程、もえかが幸子のタブレットと時間を確認したのは潮流によって海底の深さが変わる時間と場所を確認していたのだった。
「さっ、最後の仕上げをしようか。ブルーマーメイドに現在位置を通報、本艦はブルーマーメイドが来るまで比叡の監視を行います」
もえかは美波から例のウィルスの抗体を大量に用意してもらい、比叡の乗員を助ける事にする。
しかし、比叡は機関を止めたが、武装はまだ使用可能な状態だったので、砲撃してきた。
「バラスト復元!!」
「バラスト復元!!」
「立石さん、散弾の模擬弾を!!」
「うぃ」
天照は散弾の模擬弾を撃ち、比叡の主砲の砲身を変形させて主砲を封じた。
「比叡、完全に沈黙」
比叡の機関、武装を封じ、後はブルーマーメイド隊が着くのを待った。
やがて、通報したブルーマーメイド隊がやって来た。
やって来たのは黒いインディペンデンス級沿海域戦闘艦だった。
艦尾には「弁天」と書かれている。
真冬が艦長を務める艦だ。
弁天の乗員は天照に一度、乗艦し、ワクチンを受け取ると、比叡に臨検を行い、比叡の乗員にワクチンを打った。
尚、その際、艦内ではブルーマーメイド隊と比叡の乗員との間で戦闘があったが、所詮は入学したての女子高校生とプロのブルーマーメイド隊、勝負にはならなかった。
比叡乗員を鎮圧させ、後は座礁した比叡の曳航だけとなった。
その比叡の曳航作業はブルーマーメイド隊が行ってくれる事になっており、比叡の乗員達も病院へと搬送される予定だ。
「私達が助けたんだよね…」
「トラックと比叡と両方とも…」
「やっぱり、うちの艦長っていけるクチなのかも」
「いや、その誉め方おかしいから…」
比叡、そしてトラック諸島、ひいては世界を救った事に天照の乗員達は歓喜した。
そして、それは彼女達にも今後の大きな自信にもつながった。
「そう‥‥無事に救助を出来たんだ」
「はい」
もえかから比叡の一件を聞き、葉月も安堵した。
そして何より、もえかに自信が取り戻せたことにもホッとした。
「艦長、ブルーマーメイド隊の指揮官の方が艦長にお会いしたいそうです」
鶫から館内放送を聞き、もえかが甲板へとあがった。
もえかが甲板へとあがると、横付けされている弁天の後半から黒いブルーマーメイドの制服と同じく黒いマントをつけたブルーマーメイド隊員が降りてきた。
「ブルーマーメイドの宗谷真冬だ」
「横須賀女子海洋高校、大型直接教育艦、天照艦長の知名もえかです」
もえかは真冬に敬礼し、自らの所属、役職、氏名を名乗った。
「おう、よろしく。比叡と乗員の事は任せろ」
「はい、お願いします」
女性ながら爽やかスマイルを見せる真冬。
彼女のこの笑みに惚れてしまうブルーマーメイドの隊員も多いのだ。
(あれ?この黒マント‥‥この人、確かブルーマーメイドフェスタで‥‥)
もえかは真冬の顔を見て、去年のブルーマーメイドフェスタでクイントとわんこそば対決をしていた人であり、宗谷校長の娘の一人ではないかと思った。
そこで、もえかは真冬本人に確認することにした。
「‥あの‥‥」
「ん?なんだ?」
「宗谷艦長は、宗谷校長の娘さんですよね?」
「お?なんだ?私の事を知っていたのか?」
「え、ええ。去年のブルーマーメイドフェスタでクイントさんとわんこそば対決をしていた方ですよね?」
「あ、ああ‥‥もしかして、見ていたのか?」
「はい」
「そ、そうか‥あの戦いは私にとっては善戦でもあり、屈辱的な敗北でもあるんだ‥‥」
真冬の周りには哀愁が漂っていた。
どうやら、あの時のわんこそば対決は彼女の中では黒歴史の様なので、これ以上触れないで上げようと思ったもえかだった。
「そう言えば、葉月の奴はどうした?実は真霜姉から葉月に渡しておいてくれと言われたモノがあるんだが‥‥」
「先任でしたら、実は先日風邪をひいてしまい、今はお休み中です」
「何!?風邪!?」
「は、はい‥‥」
真冬の大声に思わずビクッと震えるもえか。
「ったく、しょうがねぇなぁ、風邪をひくなんて根性が足りない証拠だ!!こうなれば、真冬さまが気合を注入してやろう!!」
「‥‥」
「それで、葉月の奴は今何処だ?医務室か?」
「いえ、自室です」
「そうか。それじゃあ案内を頼む」
「えっ?あっ、はい‥‥」
現役のブルーマーメイド隊員。しかも校長の娘と言う事で、下手に断ることも出来ず、もえかは真冬を葉月の下へ案内した。
コンコン‥‥
「はい、どうぞ」
もえかが葉月の船室の扉をノックし、中から葉月の応答を確認すると、もえかと真冬は葉月の部屋へと入る。
葉月はベッドの上で上半身を起こして、寝間着の上に第一種軍装のホックボタンを全開にした状態で羽織っていた。
「おーす!!葉月、お前風邪ひいたんだって?」
「えっ?ええ‥まぁ‥‥」
(なんか嫌な予感‥‥)
「ったく、この大変な時に風邪だなんて、体調管理が出来ていない証拠だぞ」
「す、すみません」
「そこで、体調管理が出来ていない葉月に私が根性注入してやろう!!」
そう言って真冬は葉月に襲い掛かったが、
「ふん!!」
「ぎゃぁぁぁぁー!!ギブギブ!!って、元気じゃねぇか!!葉月!!」
葉月は真冬にコブラツイストをかけた。
「流石に注射を打って半日も寝ていればある程度はよくなります!!」
「‥‥」
葉月と真冬のやりとりを唖然とした顔で見ていたもえか。
「それで?態々真冬さんが自分の下に来たのはお見舞いですか?」
「お~痛てぇ‥‥まぁ、お見舞いもあったが、真霜姉から葉月に渡すモノがあるんだよ」
「渡すモノ?」
「ああ、とりあえず甲板に来てくれ」
「わかりました。ただ、着替えるので、少し外で待っていて下さい」
「えぇーいいじゃん。女同士なんだし」
「『外』で待っていて下さい!!いいですね?」
「わ、わかったよ」
渋々と言った様子で真冬は外へと出て、もえかも同じく外で葉月を待った。
それからすぐに葉月は着替えて出てきた。
そして、弁天の後部の飛行船甲板からクレーンを使って天照の後部ヘリ甲板に降ろされていくモノを見て思わず声をだした。
「海兎!!」
「かいと?」
海兎がなんなのか分からないもえかと真冬は首を傾げていた。
「おい、葉月。これは一体何なんだ?」
「えっ?真霜さんからは何も聞いていないんですか?」
「いや、何も」
「これは空を飛ぶ乗り物ですよ」
「空を‥‥」
「飛ぶ?」
葉月の説明にキョトンとする真冬ともえか。
「本当にこれが空を飛ぶのか?」
真冬は懐疑的な視線で海兎を見る。
「本当に飛びますよ」
「うーん‥‥なら、飛ばしてくれ」
「えっ?」
「ホントに飛ぶならそれぐらい良いだろう?」
「まぁ、いいですよ」
葉月が海兎を飛ばそうとしたら、
「宗谷艦長!!比叡の曳航準備できました!!」
「艦にお戻りください!!」
「ええっー!!もう!!」
「さっ、行きますよ」
「えっ!?ちょっ!!まって!!」
時間切れの様で弁天の乗員に引っ張られて艦へと連れ戻されて行った。
「なんか、騒がしい方でしたね」
「まぁ、それが真冬さんだからね‥とりあえず、海兎は格納庫に格納しよう。いずれ機会があれば、海兎を使用する事も有るだろうから」
「う、うん」
こうして海兎は天照の格納庫へと格納された。
しかし、戻って来た海兎がこの後すぐに使用される事になろうとはこの時、もえかも葉月も知る由もなかった。