ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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43話 追跡断念

ミーナの歓迎会が始まり、クラスメイト達はそこで出されたケーキに舌鼓をうっている中、

 

「ねぇ、ミーナちゃんは何で自分の事を『わし』っていうの?」

 

和住がミーナの一人称に関して、今まで疑問に思っていたのだろう。

此処で彼女に質問をした。

 

「ん?おかしいか?日本の映画を見て覚えたんじゃが?」

 

「仁義がない感じの映画ですね。『あんたは儂らが漕いどる船じゃないの。船が勝手に進める言うなら進んでみぃや!』」

 

幸子がサングラスを取り出し、例の一人芝居をする。

すると、

 

「『ささらもさらにしちゃれー!』じゃな」

 

ミーナもそれに乗る。

 

「しかし、上手いなぁこのケーキ」

 

ミーナが再びケーキに口を着けていると、

 

「これ記念品」

 

「貰って」

 

杵﨑姉妹からは紅白の達磨がプレゼントされたミーナ。

 

「お、おう‥ダンケシェーン 」

 

ミーナは達磨にちょっと引きながらも折角のプレゼントと言う事で杵﨑姉妹から紅白の達磨を受け取った。

 

「あの映画シリーズ全部見たんですか?」

 

「見たぞ」

 

「私、四作目が好きで」

 

「おお、あれかあれはええのう」

 

幸子は天照でやっと話が合う人物が見つかり嬉しそうだった。

そんな中、

 

「艦長!学校から緊急電です!」

 

鶫が学校からの緊急伝を伝える。

 

「総員、出航配置!!」

 

歓迎会から一転、天照はドタバタとクラスメイト達が忙しく動き、出航準備となる。

 

「通信長、電文の内容は?」

 

葉月が鶫に学校からの電文内容を尋ねる。

 

「武蔵を捜索していた東舞高教員艦との連絡が途絶えた。周辺で最も近い位置にある天照は現地に向かい状況を報告せよ。なお戦闘は禁止。自らの安全を最優先すること‥‥以上」

 

「武蔵がこんなに近くに‥‥」

 

まさか、探していた武蔵がこんな近くに居たとは予想外だった。

 

「艦長、命令はあくまで状況報告です」

 

「そうだね‥‥出航用意!!錨をあげ!両舷前進強速ヨーソロー!見張りを厳に!」

 

天照は電文であった地点へと向かう。

 

その頃、武蔵を捕捉していた東舞校の教官艦群は‥‥

 

「増援の八隻到着!陣形整いました!」

 

あおつきは、あれから此方が不利だと直ぐに悟ると援軍を呼んだ。

直ぐ近くに居た艦隊を含めて全部で十六隻となった。

武蔵は主砲を左右に旋回し、東舞校の教官艦に対して発砲。

南方海域は戦争でもしているかのような光景となった。

 

「すごい‥‥すごすぎます‥‥」

 

幸子が震える声で目の前の光景の感想を口にした。

 

「夾叉もなしにいきなり命中させるなんて‥‥あんなのに狙われたら‥‥」

 

西崎が武蔵の砲術の凄さを言う。

確かに此方も超弩級の戦艦だが、武蔵の46cm砲は十分脅威である。

 

「操艦もあんなに大きな艦なのにあっという間に針路を変えている‥‥」

 

鈴も武蔵の操艦能力を褒める。

やはり、横須賀女子の中でも成績優秀者を乗せているだけのことはある。

 

「どうして‥‥なんでこんなことに‥‥」

 

もえかは震えながら双眼鏡を見ている。

 

一方、武蔵と戦闘を続けているあおつきの艦橋では、

 

「なんとしても足だけでも止めなければ‥‥噴進魚雷攻撃始め!」

 

もはや手段を選んでいる時では無かった。

多くの艦で武蔵を包囲しても武蔵はその包囲艦に攻撃を行い、そこからできた包囲網の穴を縫って逃亡を図る。

しかし、迷走しているあの超弩級戦艦をこれ以上、海を航行させたら、一般商船にも被害が及ぶ可能性がある。

そこで、東舞校の教頭は実弾を使用して武蔵の足を止めようとした。

しかし、発射された噴進魚雷は武蔵の方へと向かわず見当違いの方向へと進んでいく。

 

「何!?」

 

「教頭!イルミネーターに異常発生!増援艦隊との通信も取れずCICでも動作不良が発生!データリンクも止まっています!」

 

「バカな!?」

 

教頭がこの突然の事態に驚愕していると、あおつきの後部甲板に武蔵の砲弾が命中した。

あおつき以下、被弾した艦は通信が使用不能なので、発光信号にて救難信号を行った。

 

東舞校の教官艦をあらかた片付けた武蔵は次に天照へその主砲の照準を向けた。

 

「武蔵の主砲こっちに向いています!」

 

マチコが武蔵の次の狙いがこの天照である事を知らせる。

 

「っ!?」

 

艦橋内に緊張が走る。

 

「面舵一杯!!武蔵と反航」

 

即座に葉月が鈴に操艦指示を出す。

 

「はい!!」

 

「よく逃げずに頑張っているね、今日は」

 

西崎が鈴にいつもとは違うと言う。

確かに普段の鈴であれば、「逃げようよぉ~!!」と騒いでいる筈であった。

学校側から行方不明になった学生艦の捜索依頼が来た時も猿島やシュペーの時の様なドンパチに巻き込まれると思って暗い顔をしていた鈴だったが、昼間、葉月に褒められてちょっとは前向きに取り組む姿勢が芽生えてきた鈴だった。

それでも目はやはり涙目だった。

 

「感あり!主砲弾3こちらに向かっています!10秒後艦首右前方に着弾!」

 

CICに居る電測員の慧からの報告を聞き、立石は、

 

「340の60」

 

射撃指揮所に砲撃指示を伝える。

 

「撃つんだ…やっぱり撃っちゃうんだ!」

 

主砲を撃つことに西崎はやや興奮している。

 

「弾で…弾を撃つ!」

 

「砲塔回す。340度広角60度!‥‥はい回した!」

 

武田が砲塔を旋回させ、

 

「バキュンといくよ!」

 

日置が引き金を引く。

 

轟音と共に天照から51cm砲弾が発射される。

 

「感3そのままきます!」

 

天照の第一主砲の砲弾は外れた。

 

「面舵一杯!内側に入って!」

 

「ダメです!!間に合いません!!」

 

「第二主砲、350度発射!」

 

続いて第二主砲からもう一度51cm砲弾が発射される。

すると、今度は武蔵の砲弾と天照の砲弾が空中でぶつかり炸裂した。

 

「やった!!」

 

「イエーイ!!」

 

西崎と立石がハイタッチをしている。

 

何とか武蔵からの砲撃を回避した天照。

すると、もえかが、

 

「知床さん、このまま武蔵を追って!!」

 

と、武蔵追撃の命令を出した。

 

「えっ!?」

 

もえかのこの命令に鈴はドキッとする。

さっきはたまたま武蔵の砲撃を何とかすることが出来たが、この次もそううまくいくだろうか?

もし、艦橋に46cm砲弾があたったら、自分達は一瞬で木っ端微塵になるかもしれない。

他の艦橋員もちょっと不安そうな表情をしている。

そんな時、葉月が、

 

「艦長、それはあまりにも危険です。それに学校からは『戦闘は禁止。自らの安全を最優先する』と指示が来ている筈です」

 

「でも、私達には武蔵の捜索依頼も来ていた!!それにあそこにはミケちゃんがいるんだよ!!」

 

もえかの声は震えていた。

今まで安否不明となっていた明乃が目の前に居る。

助けに行きたくても実習の始めには、反逆者の烙印を押され、探しに行けなかったが、ようやく反逆者の汚名も拭われ、学校から武蔵の捜索を正式に依頼されて、そしてやっと武蔵が‥‥明乃が目の前に居る。

耐えに耐えてきた明乃に対する感情が此処で爆発したのだ。

もえかとしては、天照にどんな被害が出ても良い、武蔵を何としてでも止めたい、明乃に会いたいと言う感情が優先されてしまった。

横須賀女子主席とは言え、もえかだって一人の人間である。

人としての感情があり、それが爆発したっておかしくはなかった。

 

「お姉ちゃんはミケちゃんが心配じゃないの!?」

 

「‥‥勿論、心配です」

 

「だったら‥‥!!」

 

「でも、幹部二人ですぐに決める案件ではないでしょう!!貴女は自分の感情を優先させて、天照全員の命を危険にさらす気ですか!?それに‥‥」

 

葉月は周辺の海を指差す。

 

「今、海上には助けを求めている人が大勢いるんです!!その人達を見捨てて武蔵を追いかける事が、艦長が目指すブルーマーメイドの姿ですか!?」

 

「っ!?」

 

葉月に指摘されてもえかが周辺の海を見渡すと、そこには東舞校の教官艦乗組員達がボートで漂流または、ライフジャケットを着たままで海に漂流している姿が見える。

彼らが乗っていた艦は全て大破し、沈没するのも時間の問題と言う艦もある。

 

「‥‥」

 

もえかは唇をグッと噛んで、拳を握り、悔しさを露わにした後、決断する。

 

「‥‥機関停止‥漂流者の救助を‥‥それと学校にも連絡を‥‥」

 

もえかは武蔵追跡を断念した。

 

「‥‥」

 

艦橋は武蔵との戦闘が終わったにも関わらず、まるでお通夜のような空気であった。

もえかは何処かへと去っていく武蔵の姿を双眼鏡で見ると、後部にある予備射撃指揮所にもえかと同じ、白い艦長帽に白い詰襟を着た人物がチラッと見えた。

 

「っ!?ミケちゃん!?」

 

もえかは双眼鏡を一度、目から離し、もう一度、武蔵の予備射撃指揮所を双眼鏡で見るが、そこには誰も居なかった。

 

(見間違い‥‥? でも‥‥あれは間違いなくミケちゃんだった‥‥)

 

夕陽の光を浴び、武蔵は何処かへと去って行った。

その武蔵の艦橋では、真白達武蔵の正常者達が項垂れていた。

 

「折角助かるかと思ったのに‥‥」

 

「私達の武蔵が東舞校の教官艦を‥‥」

 

ようやく救助が来たと思ったら、武蔵はその救助者へ攻撃を加えて、返り討ちにして、新たにやって来た天照は救助の為、武蔵追跡を断念した様子。

助かるかと思った矢先にやっぱり無理でした。

この結果は真白達にかなりの精神的ダメージを与えた。

 

天照は母校である横須賀女子海洋高校へ事の次第を通信で送り、ブルーマーメイドにも東舞校の教官艦の乗員救助の通信を送った。

ブルーマーメイドが到着するまで、天照の乗員は東舞校の教官艦乗組員の救助を行った。

初めての救助作業と言う事でまごついたが時間が経つにつれ、クラスメイト達も慣れてきた様子で次々と東舞校の教官艦乗組員の救助が行われた。

 

「東舞鶴男子海洋学校教頭兼教官艦あおつき艦長の大野です」

 

「横須賀女子海洋高校、大型直接教育艦、天照艦長の知名もえかです」

 

「この度は救助の手を差し伸べて頂いた事に感謝いたします」

 

「い、いえ‥‥」

 

東舞校の教頭から礼を言われ恐縮するもえか。

それと同時になんだか、自分の事が物凄く醜く感じた。

自分はついさっきこの人達を見捨てようとした。

それをこの人達は知らず、自分に感謝の礼を言ってきている。

自分は、本当は感謝されるべき人間じゃないのに‥‥。

その事がもえかの心を傷つけた。

やがて、東舞校の教官達は到着したブルーマーメイドの艦艇に乗り、報告の為、東舞鶴へと帰って行った。

 

天照から、武蔵との戦闘経過報告が横須賀女子の真雪の下にも入った。

 

「東舞鶴教官艦艦隊十六隻が航行不能!?まさか本当に武蔵が反乱したの?」

 

反乱をしたのは天照ではなく武蔵の方だったのかと言う憶測が真雪の脳裏をよぎった。

 

「天照は攻撃から離脱後、東舞校の教官の救助作業で追跡を断念し、目標をロスト。でも、あそこの教官艦は最新鋭だったはず‥‥」

 

「電子機器と誘導弾が全て機能不全を起こしたようです」

 

最新鋭の教官艦が何故、武蔵に返り討ちにあったのかその原因を真雪に報告する秘書。

 

「乗組員は?」

 

「三重の安全装置は伊達ではありませんね。報告では、死者は0。軽傷者数名です」

 

死者が出なかったのは不幸中の幸いだった。しかし、今回の件は伊201、202の時の様にはいかず、証言者が大勢いる。

またあの財前校長が此処に殴りこんでくるかもしれないと思うと頭が痛い真雪だった。

そこに追い打ちをかける様に、

 

「校長!比叡・鳥海との連絡が途絶しました!!」

 

教頭が駆け込んで来て、新たに連絡が途絶した学生艦が出たと報告した。

 

「何ですって!?」

 

「それは確かなの?」

 

「はい、間違いありません」

 

「‥‥武蔵以外に所在不明の艦は?」

 

「比叡・鳥海・摩耶・五十鈴・名取・天津風・磯風・時津風ならびにドイツより演習参加予定だったアドミラル・シュペーです」

 

「そんなに‥‥今、動かせる船は?」

 

「補給活動中の間宮・明石・風早、護衛の秋風・浜風・舞風、偵察に出ている長良・天照・浦風・萩風・谷風のみです」

 

「山城・加賀・赤城・伊吹・生駒はドッグに入っていてどんなに急いでも半年以上は動けません。航洋艦は前倒し可能ですがそれでもせいぜい三か月かと‥‥」

 

この非常時に主力戦艦の殆どがドック入りの状態となっていた。

動かせるのは駆逐艦、軽巡洋艦の小型艦艇ばかり‥‥。

 

「武蔵との遭遇地点に向かわせられるのは?」

 

「天照以外は他の艦艇の捜索に出ているので少なくともあと数日は…」

 

「はぁ~一体どうすれば‥‥」

 

天照以外、武蔵の近くに居る艦居らず、武蔵の行方は再び不明となった。

真雪は、この後しばらくは頭を抱える事となった。

 

 

(私…艦長失格なのかな?)

 

救助作業が終わり、無駄だと思うが天照は武蔵が去って行った方向へと針路をとり、急いで武蔵追跡へと移ったが、今のところレーダーには武蔵の反応がなく、現在はあてもなく南海を彷徨っている様な状況だった。

そんな中、もえかは夕食を前にしても食事に手を付けずにただひたすら物思いにふけっていた。

そこへ、

 

「艦長!!」

 

「黒木さん」

 

機関科の黒木が物凄い剣幕でもえかに近づいてきた。

 

「艦長、何で武蔵を!!宗谷さんを見捨てたの!?」

 

「‥‥そ、それは‥‥」

 

「貴女、まさか、東舞校の教官を助けて内申点を稼ごうとしたんじゃないでしょうね!!」

 

「ち、違う!!私だって!!」

 

もえかも黒木に負けじと彼女を睨む。

 

「そこまで!!」

 

いつ殴り合いになるかわからない雰囲気の中、其処に待ったをかけたのは葉月だった。

 

「黒木さん、艦長に武蔵の追跡を断念させたのは自分だよ。艦長は最後まで武蔵を追いかけようとしていた」

 

「なら、何故武蔵を追いかけなかったの!?貴女だってあの艦に宗谷さんが乗っていたことを知っていた筈よ!!」

 

武蔵追跡を断念させたのが葉月だと知ると今度は葉月に食ってかかる黒木。

 

「ああ、知っている」

 

「だったらどうして!?」

 

「何の策も無しに飛び込んで行って勝てる相手か?武蔵は‥‥?それに海上には多くの助けを求めている人達が居たんだ。あのまま武蔵を追いかければその人達を見捨て、死亡者を出すところだったんだ。ブルーマーメイドの主任務は海難救助じゃないのか?」

 

「そ、それは‥‥」

 

「それに真白ちゃんも曲がりなりにもブルーマーメイドの名門家‥‥仮にもし、あのまま武蔵を追って真白ちゃんを助けた反面、東舞鶴の教官たちに大勢の死傷者を出した時、真白ちゃんはどう思う?黒木さんに礼を言うと思う?」

 

「‥‥」

 

葉月は黒木の名を言うが、それはもえかに対しても安易に同じ事を言っていた。

自分もそうだが、明乃も海難事故で両親を亡くしていた。

でも、その時、ブルーマーメイドに助けられたことが切っ掛けで自分達はブルーマーメイドになろうと決めたのだ。

その自分が助けるべき人を見捨てるなんて、あってはならない事だった。

 

「もし、今回の事が我慢ならないというのであれば、ブルーマーメイドになる事はお薦めしない‥‥今のうちに諦めた方が良い‥‥」

 

「「っ!?」」

 

葉月は心を鬼にして言い放った。

 

(そうだ、辛いときに辛い決断が出来ない様ならば、ならない方が良い‥‥あの時、艦長は大勢の乗員と艦を救うために右舷側の乗員を見捨てたんだ‥‥それがどれほど辛い選択だっただろうか‥‥そう言った選択をこの娘達は出来るであろうか?)

 

前世における天照最後の戦いで、当時の天照の艦長は艦の傾斜を戻す為、まだ乗員が居る区画に海水を流し込んだ。

それはそこいた乗員を見殺しにする命令でもあった。

海での仕事は決してあこがれだけでやっていける仕事ではない。

葉月自身も辛そうに帽子を目深にかぶり直して食堂を出て行った。

すると、食堂の直ぐ近くの通路には麻侖が立っており、

 

「随分と無理をするじゃねぇか先任」

 

「機関長‥‥」

 

「まっ、先任が言っている事も分かるさ‥‥クロちゃん達の事はアタシに任せな」

 

「‥‥すまない」

 

そう言って葉月は麻侖に一言礼を言って天照の通路を歩いて行った。


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