ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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42話 武蔵と歓迎会

補給と補修の為、オーシャンモール四国沖の近くで停泊し、乗組員達の休暇も終わり、天照は再び出航しようとしていた。

 

「天照艦長。ここに修理した箇所を記載しておいた」

 

珊瑚がもえかに天照の補修箇所のデータが入ったUSBを渡す。

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃ我々はこれで。これから武蔵の補給に向かう」

 

「えっ?武蔵‥‥」

 

「うむ、武蔵もビーコン切ってて位置がわからないんで調査を兼ねてなんだけど‥‥」

 

「そう、武蔵も‥‥」

 

もえかはあの時、明乃からのSOSが入ってから武蔵でも何か異常事態が起こっていると確信しており、未だに安否がわからない親友の事を案じる。

 

明石、間宮からの補給・補修を受けた天照は横須賀へと帰港しようとしたら、学校側からの通信を受信した。

しかも、天照個艦宛てに‥‥

通信内容は、武蔵の他にあの時の海洋実習でビーコンを切り、行方不明になっている学生艦が多数あり、天照にその捜索を依頼するモノであった。

ブルーマーメイドの方も捜索にあたっているのだが、探し手は少しでも多い方が見つかる確率は高い。

天照にかけられた反逆者の汚名は拭い去られているので、ブルーマーメイド、ホワイトドルフィンから攻撃を受ける心配はもう無い。

もえかとしても親友の明乃が行方不明になっているので、この依頼はまさに天佑でもあった。

しかし、艦長と言う立場上、独断で決める訳にはいかず、もえかはクラスメイトを集め、事情を説明し、学校側のこの依頼を受けるか受けないかの審議を問うた。

すると真っ先に賛成したのは西崎と立石そしてミーナであった。

西崎と立石は艦に乗っていればまたドンパチをする機会があると思い賛成し、ミーナはやはり自分の乗艦が心配という理由からだった。

次に機関科も賛成した。

麻侖はもう少し、大型艦のエンジンを弄りたい。黒木はもえか同様、武蔵に乗っている真白が心配、他のメンバーは座学より実践の方がわりかし自由がきくし、楽しいからという理由であった。

他の科のクラスメイト達も次々と賛成していき、天照は学校側の依頼を受けることにした。

ただ、その中で鈴一人が暗い顔をしていた。

天照は行方不明になった学生艦の捜索活動へ向かう方針が決まったが、まだ平賀達による立石の事情聴取が終わっておらず、もう少しこの海域で足止めを喰らう羽目となった。

その頃、天照やブルーマーメイド、ホワイトドルフィンが行方不明になった学生艦を捜索している様に東舞鶴男子海洋学校の教官艦も今回の捜索活動に参加していた。

伊201、202の失態を犯した東舞校としても積極的に任務に参加して、高評価を得ようとアピールしていたのだ。

そんな東舞校の教官艦が南方の海域で武蔵を補足した。

 

「教官先生、哨戒船から入電です。発5分隊2号船宛旗艦あおつき 武蔵を発見。北緯19度41分東経145度0分で航行中。無線で呼びかけるも応答。ビーゴンの反応もなしで電装系の故障だと思います」

 

あおつきの副長が艦長でもある東舞校の教頭に武蔵発見の報告を入れる。

 

「武蔵の位置を横須賀女子海洋に伝えろ。まぁ見つかってよかった。随分と心配しただろ、生徒の身に安全を保障するのが我々教官の優先事項だからな。それにしても複数同時に学生艦が行方不明になるとは‥‥」

 

「幸い我が校の伊201、202に乗艦していた我が校の生徒達は全員無事に救出できましたが‥‥」

 

「聞けば、超弩級戦艦、天照は教員艦とも撃ち合いになったというし一体何がこの海で起こっているんだ‥‥いや…何が起きたにせよ武蔵の保護に向かおう。哨戒船を呼び戻せ」

 

「了解」

 

東舞校の教官艦は武蔵発見の海域へと向かった。

そこで彼らは予想もしない事態に巻き込まれる事も知らずに‥‥

 

 

平賀達による立石の事情聴取が終わるまで、手空きの者は海水浴を楽しんでいた。

マチコはパラセイリングを楽しみ、近くにはイルカの群れが通りかかり、青木が興奮しながらその姿をスマホのカメラでとらえていた。

 

「ちょっと、ちゃんと準備運動をしないと!!」

 

甲板ではもえかが甲板から海へと飛び込んでいくクラスメイト達に注意を促す。

そして、海水浴や水鉄砲で遊んでいるクラスメイト達みて、

 

(はぁ~こんなにのんびりしてていいのかな?)

 

折角武蔵の捜索活動を堂々とできる事になったのにまだ出航する事が出来ない事にちょっと焦りを覚えるもえかだったが、しかし、この後どうしても外す事の出来ないイベントが控えていたので、今は必死に焦りを抑えるしかなかった。

 

「は~い。撮るよ~」

 

もえかの焦りを余所に甲板では写真を撮ったり、スイカ割りも行われており、楓が叩き割ったスイカを食べているクラスメイト達の姿もあった。

 

「今月の運勢は‥‥」

 

そんな中、若狭はショッピングモールで買ってきた雑誌の占いコーナーで自分の星座の運勢を確認していた。

 

「おうし座は11位‥‥」

 

自分の星座は12星座の内、ブービーだった。

 

「ビリじゃないからいいんじゃない?」

 

留奈がフォローを入れる。

ちなみに12位はふたご座‥‥真白の星座だった。

 

「獅子座は何位?」

 

もえかが気になって自分の星座の順位を尋ねる。

 

「7位‥‥大切な友人と喧嘩をしてしまうかもしれません‥‥だって」

 

「‥‥」

 

「えっと‥‥心理テストもあるよ。艦長、やってみる?」

 

伊勢が心理テストをもえかに薦める。

 

「いや、いい‥‥」

 

もえかは再び視線を海へと向けた。

 

「知床さんやってみる?」

 

「私!?」

 

もえかが心理テストをやらないといったので、広田が近くに居た鈴に変わりに心理テストを受けてみるかと尋ねた。

鈴は物は試しとその心理テストを受けた。

その頃‥‥

 

「あ~い~な~。私もキャッキャウフフしたいな~」

 

「ごめんね、もう少しで終わるから」

 

天照のある部屋では、西崎、立石の他、葉月と平賀、福内の姿があり、先日の立石の明石、間宮へ対する発砲に関する聴取がとられていた。

しかし、立石の発砲に関して西崎は全くの無関係なのだが、立石が一人だと寂しそうだからという理由でこうして立石に付き合っていた。

 

「立石さん。もう一度聞くけどなぜ急に攻撃したのかどうしても思い出せないのね?」

 

福内が改めて立石にあの時の事を尋ねる。

 

「うぃ‥‥」

 

立石にしてみれば、気づいたらいつの間にか明石、間宮に発砲した犯人にされており、何が何でもわからない状況だった。

 

「思い出せないなら仕方ないよ、タマちゃん。私だって撃てるものなら撃ってたし。あの状況だったらさ」

 

「終了しましょうか?」

 

「以上の聴取内容をまとめ海上安全委員会に報告します」

 

立石の事情聴取はこれにて終了した。

 

その頃、横須賀のある病院に真霜がある人物の見舞いへと来ていた。

 

「天照の反乱を最初に報告したのは猿島ですよね?なぜ反乱と断定を?」

 

「天照が実習の集合時刻に遅れて当該海域に到着。その際こちらから砲撃を行いました。天照は短魚雷で反撃し本艦に命中。これを反乱とみなし報告しました」

 

「遅刻程度で先制攻撃を行った理由は?」

 

「それは‥‥」

 

「他の乗員は全て艦長が命令したと証言しています」

 

とある病室では猿島艦長である古庄が事情聴取を受けていた。

 

「命令したことはよく覚えています。ですがなぜそういう判断に至ったか自分でも不明なのです」

 

古庄は立石程ではないが所々記憶が欠如しており、何故たかが遅刻程度で実弾を使用しての砲撃に至ったのか分からないと言う。

そこへ、

 

「監督官の宗谷です」

 

真霜が古庄の病室を訪れた。

 

「差し入れを持って来たわ。私も古庄教官から話を聞きたいのだけど少しいいかしら?」

 

「はい」

 

「大丈夫ですか古庄先輩。つい最近まで意識不明だったと聞きましたけど?」

 

「後輩に心配かけるなんて情けないわね。ありがとう大丈夫よ」

 

「すみません、調書が完成するまでは此処に居てもらいます」

 

古庄のこの処遇は軟禁に近い処遇であった。

 

「これ、食べて下さい」

 

「ありがとう」

 

真霜は持って来た差し入れの品を古庄に渡す。

 

「生徒に向かって発砲したの。なぜそんなことをしたのか思い出せないなんて自分に腹が立つわ‥‥」

 

古庄も教官としてあるまじき行為をしたと自覚しているのだが、肝心の詳しい経緯が思いだせない。

そんな自分に腹が立っていた。

 

「他の乗組員もちゃんと記憶はあるのになぜこんなことをしたのか思い出せないと証言しているのです。先輩だけじゃありません。サルベージした猿島の戦術情報処理システムもログが消えていました」

 

真霜は事件の経緯が纏められた報告書を古庄に見せる。

 

「ログ‥消失‥13時20分から機能を喪失していたとみられる、か‥‥天照は本当に大丈夫?」

 

「艦長以下全員無事です」

 

ピリリリ‥‥

 

真霜は天照のことを伝えた時、彼女の携帯にメールが入った。

メールの内容は武蔵発見の報告だった。

 

「先輩すいません。ちょっと急用が。それ食べてくださいね」

 

武蔵発見の報告を受け、真霜は急ぎブルーマーメイドの隊舎へと戻って行った。

 

クラスメイト達の殆どが水着に着替え、海水浴をしている中、

 

「ちょっと小さいな‥‥」

 

ミーナも水着を貸して貰って来てみたのだが、どうも胸のサイズが合わない様だ。

そこへ杵﨑姉妹が通りかかる。

 

「お?主計課は遊びに行かんのか?」

 

ミーナの姿を見た途端、杵﨑姉妹は咄嗟に手に持っていた物を隠した。

 

「うん、後で行くよ」

 

「それじゃあ」

 

杵﨑姉妹は急ぎ足でその場から去って行った。

 

「わし‥‥避けられとるのかな?」

 

杵﨑姉妹の対応に首を傾げるミーナだった。

 

 

「聴取が終了したのでこれで失礼します」

 

「発砲についての正式な処分は帰港した後で学校から下されると思うけど損害もなかったし厳重注意程度で済むんじゃないかしら」

 

「ありがとうございます」

 

「お疲れ様でした」

 

立石の聴取が終わり、平賀と福内は哨戒艇に乗り、帰って行った。

 

「立石さんもお疲れ様」

 

「うぃ~」

 

表情がとぼしい立石だったが、見るからに落ち込んでいるのがわかる。

 

「だ、大丈夫だよ、立石さん。学校にはちゃんと説明して私も一緒に謝るから」

 

「また私もばっちり付き添うよ~」

 

「うぃ‥‥」

 

もえかと西崎に励まされて少し嬉しそうな立石だった。

その頃、葉月は甲板で項垂れている鈴の姿を見つけた。

 

「こ、航海長、どうしたの?皆と遊ばないの?」

 

「さ‥‥さっき心理テストをやったんだけど‥‥私の性格って真面目系クズって言う結果で‥‥」

 

「えっ?クズ?」

 

鈴の口からなんか普段は出ないような言葉が出て来た。

 

「当たっていると思う‥‥だって私逃げてばっかりの逃げ逃げ人生だし‥‥」

 

「逃げ逃げ人生?」

 

それから鈴は葉月に「逃げ逃げ人生」とはどんな人生なんかを話した。

 

「うん‥‥小学校の時にね。みんなで肝試しをしたんだけど‥‥友達を置いて逃げちゃったの!!」

 

「‥‥」

 

「いつもいつも気付いたら逃げてばっかりで‥‥」

 

過去を振り返す鈴。

小学校時代、下校時犬に吠えられて、逃げてわざわざ遠回りして帰り、修学旅行の時、仁王像を見て、怖くなって逃げ出して担任の先生やクラスメイト達に迷惑をかけ、今年の年始には神社にお参りに行ったら、そこの巫女さんに絡まれて、無理矢理労働を強いられて、その途中で逃げて‥‥

確かにこれまでの人生、鈴本人の言う通り、辛い目や怖い目に会った時は逃げてばかりいた。

 

「そんな時はいつも一人で海を見てた。不思議と気持ちが落ち着いて‥‥それで海が好きになって‥‥ブルマーを目指して船に乗っていれば逃げ場はないから逃げ逃げをやめられると思ってたんだけど‥‥結局また船ごと逃げ出して‥‥」

 

「‥‥逃げるのは悪くないと思うよ」

 

「えっ?」

 

「戦術にも『三十六計逃げるに如かず』ってやつもあるし、こうしてみんなが無事なのは航海長が逃げてくれたおかげなんじゃないかな?的確に状況を見極めてうまく逃げるのは航海長の長所だと思うよ。名将は引き際を心得ないとね」

 

葉月は微笑みながら鈴に言うと、

 

「‥‥」

 

鈴は葉月の顔をじっと見ていた。

 

医務室では美波が例のハムスターに似た小動物に餌を与えていた。

与えられた餌を食べ始めるハムスターに似た小動物。

すると、

 

ビィービィー

 

「?」

 

美波の腕についている電波時計がなり、彼女はその時計に目をやると、

 

「っ!?」

 

電波時計はバグを起こした。

 

「‥‥」

 

美波はバグを起こした時計とハムスターに似た小動物を交互に見た。

 

 

その頃、南方海域では、東舞校の教官艦が武蔵へと接近していた。

 

「武蔵安定して巡航中ですね」

 

双眼鏡であおつきの副長が武蔵の状況を報告する。

見た所、特に武蔵には異常を感じられず、動いている事から機関も正常に稼働し、損傷箇所も見当たらない。

 

「みんな無事ならばいいが」

 

すると、武蔵の砲塔が旋回しはじめて、東舞校の教官艦めがけて発砲してきた。

 

「撃ってきました!」

 

「四番艦から受信、機関部被弾、航行不能!」

 

武蔵の初弾で東舞校の教官艦の一隻が航行不能となる。

 

「発光信号を送っていますが応答ありません!」

 

「我々を脅威と誤解しているのか?」

 

東舞校の教頭は、武蔵の生徒が、自分達が武蔵に攻撃を仕掛けてくると思い込んでいるのかと思い、

 

「二番艦は接近し音声にて呼びかけてくれ」

 

発光信号ではなく、音声信号にて武蔵へと呼びかける様に指示を出した。

 

「武蔵の生徒諸君!我々は東舞高の教員だ。君達を保護するために来た!速やかに停船し指示に従い‥‥」

 

二番艦が音声信号をやりはじめると、武蔵は右舷の副砲を旋回させ、発砲。

二番艦は艦首に浸水する被害を受けた。

 

「‥‥砲撃をやめさせよう。どこかに穴を開けて傾斜させれば砲は仕えなくなる」

 

教頭は武蔵相手にこのあきづき型大型教員艦では不利であり、撃ってくるのであれば下手に接近も出来ない。

そこで、浸水させて武蔵の船体を傾斜させることにより給弾機を使用不能にさせる事にした。

 

「生徒の船を撃つことになります‥‥」

 

「砲を撃てなくしてから生徒を保護する」

 

「‥‥了解。対水上戦闘用意!」

 

この間にも武蔵の攻撃は続き、

 

「三番艦被弾!」

 

「対水上戦闘噴進魚雷、攻撃始め!」

 

残った教官艦から一斉に噴進魚雷が発射され、武蔵の右舷に命中する。

しかし‥‥

 

「目標、速力変わらず、主砲動いています!」

 

「演習弾では無理か!」

 

先程撃った噴進魚雷は全て模擬弾の為、武蔵には損傷は全くなかった。

武蔵の艦橋では、

 

「折角助かると思ったのに‥‥やっぱりついていない」

 

真白が項垂れており、他の皆も不安そうに外の状況を見ている。

若狭の見ていた雑誌の占いは奇しくも此処で発揮された。

真白本人としては外れて欲しかっただろう。

だが、諦めきれなかった。

此処で何とか武蔵を航行不能にでもしてくれれば、真白達の艦橋ぐらしも終幕し、明乃を助ける事も出来る。

今の真白達は東舞校の教官らに自分達の命運を託すことしか出来なかった。

 

南方海域で武蔵と東舞校の教官艦がドンパチやっている頃、

 

「艦長、準備出来ました」

 

みかんがもえかに例のイベントの準備が出来たと報告する。

 

「じゃあ、始めようか?艦長の知名です。クラス全員急いで艦首付近の前甲板に集まって下さい」

 

もえかはクラスメイト達を艦首の前甲板に集めた。

集まったクラスメイト達はこれから何をやるんだ?と言う表情をしている。

 

「では、今から‥‥ミーナさんの歓迎会を始めま~す」

 

「わ、わしの?」

 

もえかが招集内容を言うと拍手が起こった。

船の皆は家族。

その信条をもえかは忘れておらず、イレギュラーながらも天照の乗員となったミーナの歓迎会をする事にしたのだ。

その企画を立てたのは、学校側から行方不明になった学生艦の捜索依頼が来る前の事で、炊事委員の子らも賛成してくれたので、今更中止には出来なかった。

歓迎されるミーナは突然のサプライズに驚いている。

 

「じゃあ私達の新しい仲間のミーナさんから一言!」

 

「え~。天照乗員諸君。全くこの天照というのは変な船じゃ‥‥じゃ、じゃが‥‥こんな風にわしを歓迎してくれるとは…天照乗員諸君‥‥わしはこの手厚い歓迎にド感謝する!」

 

ミーナは感謝の言葉を述べてケーキの上に立つロウソクの火を消す。

 

「はい!じゃあみんなでケーキを食べようね」

 

こうしてミーナの歓迎会が始まった。


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