ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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40話 半舷上陸

軍艦には「半舷上陸」という制度がある。

全乗組員を半分に分けて、一方は艦に残り、もう一方は艦を降りて陸で休暇をとるというものだ。

そのグループ分けを右舷の組と左舷の組に分けることからそう呼ばれているらしい。

宗谷真雪、真霜の尽力により、反逆者の汚名を雪いだ天照は現在、四国沖にて明石、間宮からの補修、補給を受けていた。

補給に関しては、一日もあれば、終わるが、補修に関しては、これまでの戦いから、各部総点検となり、時間がかかることりなり、数日はこの海域に留まる事になった。

幸いにもこの海域の近くにはオーシャンモール四国沖店があり、クラスメイトからの要望もあって交代でそこへ休暇を取る事になった。

猿島からの先制攻撃から今日まで、頑張って来たのは何も天照だけではなく、乗員達も頑張り、心身ともに疲弊していたのは明白である。

そこで、ガス抜きと英気を養う為にも丁度良かった。

今後は追手の脅威も完全に消え去って居り、後は学校に戻るだけなのだが、まだ航海が続くことには変わりない。

艦長、先任(副長)両方が居ないのは、流石に困るので、半舷上陸では必然的に艦長組と先任組に分かれる事になった。

組を分け、後はどちらの組が最初に休暇をとるかとなり、もえかは、

 

「それじゃあ、先任、じゃんけんできめようか?」

 

「えっ?」

 

と、じゃんけんで休暇をとる順番を決めた。

その結果、先任組、つまり葉月達が最初に休暇を取る事になった。

 

「おおっ、でかしたぞ、先任!!天気の方も上々の様子、いい休暇が過ごせそうだな」

 

ミーナが葉月の背中をバンバンと叩き、喜びを体で表現している。

そんなミーナにすすすっと近づく幸子。

 

「叔父貴、お供しまっせ。おっとっと、行くなと言われても行きまっせ。叔父貴ひとり行かして四国へのこのこ帰ってみなはれ」

 

「「わい親分に絞め殺されますがな!!」」

 

任侠映画の台詞なのだろうか、ミーナと幸子の台詞がハモる。

別にミーナと一緒に回りたいならそんなまどろっこしい誘い方をしなくてもストレートに「一緒に回ろう」と言えばいいのに‥そう思う葉月であったが、まぁ、当の本人達はあれで意思疎通が出来ている様子なので、問題ないだろう。

 

「それじゃあ、先任、楽しんできてね」

 

「は、はぁ‥‥でも、自分が先でよろしいのですか?」

 

「勿論だよ。でも、なんで?」

 

「いえ、買い出しの時に自分は外出したので‥‥」

 

「でも、先任が勝ったのは結果だから、先に入って来ていいんだよ。それに行くのは先任一人の訳じゃないし、折角勝ったのに、私に譲ったりしたら、先任の組の皆が、がっかりするんじゃないかな?」

 

もえかはそう言って葉月を送り出してくれた。

葉月達とショッピングモールへ行くクラスメイト達は私服に着替えて甲板に出ると、そこには平賀が待っていたのでお互いに敬礼を交わす。

 

「半舷上陸の報告は受けています。問題はないと思いますが、海上安全整備局の中には未だに天照に危険分子が存在していると疑っている人もいます。派手な行動は慎むようにお願いします」

 

「はい」

 

平賀は此処までは職務だったと言わんばかりに、急ににっこりと笑みを浮かべて、口調を崩し、

 

「とは言っても犯罪行為や警察、警備員が大勢集まるような騒ぎは起こさないようにってだけのものだから、あんまり気にせず休暇を楽しんできてね。特に艦長のもえかさんもそうですけど、先任の葉月さんやも今まで大変だったでしょう?まとめ役はなんやかんやで休めなかっただろうし、この際、思いっきり息抜きをしてらっしゃい」

 

「お気遣い感謝いたします。では、行ってまいります」

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

平賀は笑みを浮かべて葉月達を見送った。

そんな平賀をクラスメイト達は尊敬の眼差しで見つめていた。

オーシャンモールへは天照の内火艇で向かい、集合時間を決めて現地で解散、集合時間になったら、内火艇を泊めてある場所に戻り天照へと戻る。

 

(派手な行動はなるべく慎め‥か‥‥うーん、ちょっと心配だな‥‥)

 

天照のクラスメイト達は、海洋実習に出てから休みらしい休みをとっていない。

この久しぶりの休みに羽目を外して騒ぎを起こさなければいいのだが‥‥

女三人寄れば姦しいと言うが、今回はその五倍の人数のクラスメイトがこのオーシャンモールに来ている。

 

「思わず羽目を外してしまう‥‥十分に考えられるな‥‥」

 

そこで、葉月は今回オーシャンモールに来ているメンバーの確認をする。

今回オーシャンモールに来ているは、葉月の他に幸子、ミーナ、小笠原、武田、万里小路、山下、八木、野間、柳原、伊勢、広田、青木、杵﨑姉、等松‥‥以上である。

この面子を考えると警察沙汰になるほどの羽目を外すメンバーが居るとは思えないが、あの大人しそうな立石がいきなり豹変し明石、間宮に発砲したことから日頃の印象は案外とアテにならないのかもしれない。

 

「念の為、見て回るかな‥‥」

 

心配になった葉月はクラスメイト達の様子を見て回る事にした。

どうせ、欲しいモノや、見て回り合いモノなんて今は特にないし、もし、羽目を外しそうなクラスメイトがいたら注意しようと思い、葉月はショッピングモール内を見渡した。

葉月の眼前には色とりどりの店にごった返す人の群れ。

このショッピングモールには様々な店舗の他にもテーマパークやスパ、銭湯などのレジャー施設も備わっている。

その為、女性同士で買い物に来ている者やカップル、家族連れ出来ている者も居る。

前に買い出しに来た時には、それらの施設を見回る余裕なんてなかった。

さて、天照の乗員達は何処に向かったのだろうか?

葉月がショッピングモールの案内図を見て、天照の乗員達が何処へ行ったのか予測していると、

 

「あら?先任?」

 

「ん?」

 

背後から葉月に声をかけてくる人物がおり、葉月が振り向くと、其処には、

 

「やっぱり」

 

「ああ、万里小路さん」

 

水測員の楓が居た。

彼女は葉月の姿を確認すると、葉月に歩み寄って来る。

 

「あれ?万里小路さん、一人なの?」

 

「はい、お恥ずかしながら‥‥失礼ながら伺いますが、先任も今、おひとりでございましょうか?」

 

彼女の言う通り、周りには楓の連れと思しきクラスメイトの姿は無い。

楓は普段の様子と変わらず、柔らかい笑みのまま葉月に尋ねてくる。

 

「うん、特に誰かと行動をしている訳では無いよ」

 

「まぁ、それは‥もし、よろしければ、私も同行させてもらえませんでしょうか?」

 

「えっ?自分と?」

 

「はい。そうでございます。私、恥ずかしながらこの様な場所には慣れておりませんので、誰かとご一緒されて頂ければと思っておりましたところ、先任をお見掛けしたという次第なのです」

 

「へ、へぇ‥‥」

 

(そう言えば、万里小路さんってお金持ちのお嬢様だったからな‥‥お嬢様なら、ショッピングモールに買い物なんて来ないだろうし、来ても護衛やメイドと大勢で来ただろうからな‥‥)

 

「そういうことなら、自分もあまりこういう所は慣れていないけど、それでもいいなら‥‥」

 

「構いませんわ。慣れていない者同士それはそれで案配なのではないでしょうか?慣れている方とではその方の楽しみの邪魔になってしまいますし」

 

「まぁ、確かに‥‥」

 

(なんだろう?やっぱり、お嬢様なのか、言葉遣いは丁寧で物腰柔らかいためか逆らいがたい雰囲気を出している‥‥)

 

「あっ、でも、自分は他の人が羽目を外し過ぎないように見廻る役目もあるから、あまり楽しくないかもしれないけど‥‥」

 

「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。さて、どこから見回りましょうか?」

 

こうして葉月は楓と共にショッピングモールを見て回る事になった。

葉月が楓をチラッと見ると、彼女も葉月の視線に気づき、にっこりと微笑んで小さく首を傾げる。

持ち前の雰囲気のせいか、いまいち楓は何を考えているのかわかりづらい。

 

「それじゃあ、近場から見回って‥‥」

 

「おおお?先任と万里小路さんとはなんとも変わった組み合わせッスね」

 

「おーホントだ~」

 

葉月と楓に声をかける人物達が居たので、葉月と楓がその声がした方へと視線を向けると、其処には青木と美海が居り、その二人の真ん中にはマチコが居り、葉月と楓にペコッと一礼した。

 

「三人で見て回っているの?」

 

「はい」

 

美海が返事をする。

 

「そう‥まぁ、大丈夫だと思うけど、久しぶりの休暇だからと言ってあまり羽目を外さないようにね」

 

葉月が三人に忠告を入れる。

 

「分かっていますよ」

 

「むっ、ピンときたッス。ミミちゃん、ちょっと‥‥」

 

「ん?なに?なに?モモちゃん」

 

青木が美海を呼んで何やら耳打ちをしている。

 

「このお二人にも付き合ってもらうのはどうッスか?」

 

「その心は?」

 

「先任もマッチ同様、なかなかのスタイルをしているじゃないッスか、それに万里小路さんもお嬢様雰囲気でそれを引き立ているッス」

 

青木からそう言われ、美海は葉月と楓を見る。

確かに青木の言う事も最もであり、

 

「ふむ、確かに映えるかも」

 

美海は青木の意見に納得した。

 

「ん?二人とも、何の話をしているんだ?」

 

青木と美海の会話についていけない葉月が二人に尋ねる。

 

「もちろん、ショッピングモールを見て回る算段ッス」

 

「さあ~行きましょう~この等松美海が、お二人に最先端のコーディネートをしますから、ほら、ほら、マッチも~」

 

そう言って美海はマチコの手を取り、青木は葉月と楓の手を取り、ショッピングモールの奥へと進んで行った。

葉月は自分が皆の様子を見回る仕事があるのにいいのだろうか?と思っていると、

 

「先任、どうかしましたか?」

 

マチコが声をかけてきた。

 

「い、いや‥‥その‥‥いいのかな?と、思って‥‥」

 

「えっ?」

 

「他の皆が羽目を外さないかな?と心配で‥‥」

 

「で、でも‥‥でも、先任にも息抜きが必要‥だと思う」

 

「おおっ、流石マッチ、良い事を言う。と言う訳行きましょう」

 

「行くッス」

 

「万里小路さんはこれでいいの?」

 

「今日の私は、先任のお供をさせてもらっている立場でございますから、先任が行くのであれば、私もお供をさせて頂きます」

 

にっこりと微笑む楓。

こうして、葉月と楓は青木と美海、マチコらと共に洋服屋へと連れられて行った。

 

 

そして、洋服屋では、

 

「や~、マッチ似合いすぎ、カッコイイ~!!」

 

主に美海と青木がチョイスした服をとっかえひっかえで着させられているマチコ、葉月楓の姿がそこにあった。

 

「おおおおっ!!先任と万里小路さんもナイスッス!!これはメラメラと沸き上がるッス!!」

 

青木はスケッチブック片手にコーディネートされたマチコ、葉月、楓をデッサンしている。

一体何に使うつもりなのだろうか?

葉月としては女物の服を着るのはどうかと思ったが、幸いにも美海と青木が選んだ服は、所謂カッコイイ系の服で、下は主にレディースジーンズが中心となっていた。

 

「いや~堪能させてもらったッス」

 

「そうね‥‥写真も一杯撮ったし」

 

青木はスケッチブックに描いていたが、美海は携帯で写真を撮っていた。

堪能したのだから、これで終わりかと思っていた葉月であったが、

 

「さっ、次のお店に行くッス」

 

「えっ?」

 

どうやら、まだ続くようだ。

 

「どうかしましたか?先任」

 

「いや、さっきので終わりかと‥‥」

 

「何を言っているんですか、たったあれだけで」

 

「そうッスよ。洋服の店は何軒も見て回るモノッスよ。最初のお店だけで終わるなんて断じてあり得ません」

 

美海と青木は「何を言っているんだ?」みたいな様子で葉月に洋服屋の何たるかについて語る。

 

「さっ、さっさと着替えて次のお店に行くッス」

 

「‥‥」

 

この調子で葉月と楓、ついでにマチコは青木と美海の着せ替え人形となった。

 

 

果たしてこれで何件目だろうか?

着せられた服の種類や数を数えるのもバカらしくなる。

っていうか、この二人、目のつく服屋という服屋に入っている様な気がする。

幸いなのは、葉月は青木と美海の中ではカッコイイ系にカテゴリーされている様なので、薦められる履物は全てジーンズかスラックス、ハーフパンツ等のズボンなので、スカートを履いていないと言う事だ。

しかし、このまま服屋を回っていては何時かスカートを履く時がくるかもしれない。

そう思うとゾッとする。

それにこのままでは、休暇時間全てをこのショッピングモール内の服屋を見るだけで終わってしまうかもしれない。

そんな中、

 

「うぉほっ!やっぱり万里小路さん着物似合うッスね」

 

もはやどういった経緯でこの店に入ったかなんて覚えていない。

恐らく目についたから入ったのだろう。

和服何て滅多に着る機会もないだろうし、珍しいので‥‥。

ただ、和服の店なのに着付けが出来る店員が少なく、楓は自分で着付けをしていた。

そして、楓は今、着物姿となっている。

確かに青木の言う通り、楓は洋服よりも和服の方が似合う。

 

「恥ずかしながら、実家では着物を着る機会が多かったものですから」

 

(そう言えば、万里小路さん、制服の上から羽織を着ているのをよく見かけるから、実家では着物を着ている機会が多いと言うのは本当みたいだな)

 

葉月も羽織袴を身に着けていた。

勿論、青木達に薦められたモノだ。

そして、葉月も前世の経験上、羽織袴の着付けぐらいは出来た。

 

「店員さん、店員さん、もっとですね、マッチのよさを活かして、もっと、こう、なんていうんですか?賭場の壺振りみたいなニュアンスでお願いします!!」

 

「良いッスね!!捗るッス!!」

 

(一体どんなニュアンスなんだ?この二人もミーナさんや納沙さんみたく、任侠映画の影響を受けているのか?)

 

店員に目をやると、青木と美海の意見に同調する者とちょっとドン引きしている者の二者に分かれている。

葉月は自分同様着せ替え人形となっているマチコに同情の視線を向けると、マチコは視線で何か合図を送っているように思えた。

葉月がマチコのアイコンタクトに疑問を抱いていると、

 

「壺振りなら、もっと着流しの様なモノがいいんじゃないかな?二人はそれっぽい奴を選んできて」

 

マチコは青木と美海の二人に声をかける。

 

「うん、わかったマッチ。着物はあんまり得意じゃないけど、私頑張る!!」

 

「いいのを見つけてくるッス」

 

そう言って二人は店の奥へと姿を消した。

そして、マチコは二人が店の奥へと行ったのを確認すると、葉月と楓の方を向き、小さく首を縦に振る。

 

(なるほど、この隙に逃げろって事か‥‥)

 

「万里小路さん」

 

「心得ております。十秒で済ませましょう」

 

「えっ?十秒?せめて四十秒にして」

 

そして、楓は本当に僅か十秒足らずで着替えを済ませてしまった。

 

「ふぅ~‥‥どうにか無事に脱出できたみたいだ‥‥」

 

「お疲れ様です」

 

穏やかな笑みを絶やす事無く微笑んでいる楓。

 

(野間さん‥すまん)

 

葉月が後ろを振り向いて確認するが、青木と美海の二人が追ってくる気配はない。

自分らを逃がすために囮となったマチコ、なんだかんだ言って楽しんでいた青木と美海の二人にはすまない事をしたと思ったが、葉月としてもあのままずっと洋服屋巡りをするわけにはいかなかった。

 

「でも、よく考えたら、万里小路さんは、残っても良かったんじゃないの?今、出てきた和服のお店、万里小路さん、興味があったんじゃ‥‥?」

 

「確かに興味が全くないと言えば嘘になりますけど、今日は先任のお供をすると決めましたので」

 

「い、いや、でも、自分の事は別に‥‥」

 

葉月がそこまで言いかけると、楓の人差し指が葉月の唇に押し当てられ、葉月の唇はそれ以上動かなくなる。

 

「お嫌でなければ、今日はこのままお傍においてくださいませ」

 

「わ、わかった」

 

「ふふっ」

 

相変わらず、微笑んでいる楓。

やっぱり、楓は何を考えているのか分からない葉月。

葉月が楓の態度に困惑していると、

 

「あっ、万里小路さんと先任」

 

葉月と楓はまた別のクラスメイトに呼ばれた。


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