ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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39話 名誉挽回

停泊していた天照に接近してきた間宮、明石、浜風、舞風の四隻の学生艦。

学校から戦闘停止命令が出ているが、包囲されている為、いつまた戦闘になるか不安になる天照の乗員。

更にその後方からブルーマーメイドの哨戒艇も来て、天照の乗員の不安は尚も増大する。

そんな中、砲術長の立石がいきなり豹変し、間宮、明石、浜風、舞風へと攻撃を仕掛けようと言いだした。

その様子は普段の立石からは信じられない程の豹変ぶりだった。

此処で機銃一発でも発砲すれば、ややこしい事態になるので、もえかは絶対に攻撃をしかけてはならないと言うが、立石はそんなもえかに反発して艦橋を出て行く。

そんな立石をミーナは急いで追いかけて行った。

一足先に艦橋を出て行った立石はまるで猫の様に高所でも飛び移って行く。

 

「ド○キーコングのマ○オみたいだな」

 

その様子を見た西崎はゲーム業界で有名なイタリアの配管工兄弟の兄の名前を呟く。

やがて、立石は機銃にたどり着くと、

 

「明石!間宮!お前らにやられるタマじゃねーんだこっちは!誰がテメェなんか!テメェなんかこわかネェェェ!野郎ぶっ殺してやああぁぁる!」

 

銃口の照準を明石へと向ける。

 

「本当に撃つ気だ!?」

 

西崎はてっきり立石が冗談で言っているのかと思ったが、どうやら立石は本気の様で、引き金に指をかけると、それを引いた。

 

ダダダダダダッ

 

明石に四、五発機銃弾を撃ち込むと、次は間宮に対しても機銃弾を撃ち込む立石。

 

「撃っちゃったね‥‥」

 

「なんてことを‥‥」

 

もえかの中にこれで本当に自分達は反逆者になってしまったと言う絶望感が沸きあがる。

 

「広瀬さん、これはどういうことですか!?」

 

突然の天照からの発砲は平賀と葉月の両者も困惑する。

 

「そんなのこっちが聞きたいぐらいだ」

 

もえかの性格からして此方から攻撃命令を下すとは思えない。

それに発砲しているのは機銃一基だけ‥‥攻撃命令にしてはあまりにも不自然だ。

やがて、機銃弾全弾を討ち尽くした立石は別の機銃へと移動しようとした時、

 

「このドアホウのドマヌケが~!」

 

追いついてきたミーナが立石を掴むと海へと投げ込んだ。

 

「しまった!」

 

立石を海へと投げ込んだ後、ミーナは止めるためとは言え、夜の海に人を投げ込んでしまった事の重大さに気づいた。

 

「タマちゃーん!!」

 

「立石さーん!!」

 

甲板からはクラスメイト達が海に投げ飛ばされた立石の安否を心配する。

 

「っ!?」

 

立石が海へと投げられるのを見た葉月は急いで海へと飛び込み、海中へ沈む立石を拾い上げた。

 

「ぷはっ!!砲術長、大丈夫!?」

 

「う、うぃ‥‥」

 

「先任!!これに捕まって下さい!!」

 

天照から縄が着いた浮き輪が投げられ、葉月は立石と共にそれに捕まり、船体から降ろされた縄梯子で天照の甲板へと戻った。

甲板には艦橋メンバーも降りて来て、立石を海へ投げ飛ばしてしまったミーナは立石に抱き付き、

 

「よくぞド無事で~」

 

「それを言うならご無事だって‥‥」

 

間違った日本語で立石が無事だった事に安堵し、西崎は冷静にミーナの間違った日本語にツッコミをいれる。

 

「あら?あなたそんな所にいたの?」

 

幸子は立石のスカートのポケットに入っていたあのハムスターの様な生物に気づく。

ハムスターの様な生物は直ぐに助けられたとは言え、一時的に海水に浸かったせいかぐったりとしていた。

 

「立石さん、大丈夫?」

 

もえかが立石に怪我がないかを尋ねる。

 

「うぃ」

 

「あれ。いつもの調子に戻っている」

 

立石は先程の様子と違い何時もの無口な様子で一言返事をした。

その後、明石、間宮が天照へと左右に横付けされ、天照は補修と補給を受けることが出来た。

ブルーマーメイドの哨戒艇の艇内で身柄を拘束されていた平賀はスキッパーに乗っていたみかんが拘束を解き、天照へと案内した。

明石が横付けされた際、葉月は明石艦長の杉本珊瑚(すぎもとさんご)より、真雪からの親書を手渡された。

親書を受け取った葉月は平賀と共に天照の艦内に有る自室へと行く。

受け取った新書にはこれまでの経緯が記されており、海上安全整備局の一部が勝手に暴走してあの討伐命令を下した事、そして、自分達が討伐命令を撤回する事に対し奔走している事、学校側からも今回の事件の原因究明の調査を行っている事と命の危険にさらしてしまったことに関しての謝罪が記されていた。

 

「‥‥」

 

「わかってもらえましたか?」

 

親書を読み終えた葉月に平賀が宗谷親子は今回の一連の事件に関して葉月の味方である事が理解できたかを尋ねる。

 

「分かりました‥‥真霜さんや平賀さん達には大変不快な思いをさせて申し訳ありませんでした」

 

葉月は平賀に深々と頭を下げて謝罪する。

 

「いえ、分かってもらえたなら‥‥でも、葉月さんは本当にあの時、私を殺す気だったんですか?」

 

平賀は恐る恐る葉月にショッピングモールでの件を尋ねる。

 

「流石に素手で殺すには時間がかかるので、平賀さんを眠らせて制服を奪うだけのつもりでした」

 

「でも、ナイフを持っていたのに‥‥」

 

「ナイフ?ああ、それは‥‥」

 

葉月は懐から折りたたまれた鉄扇を取り出した。

 

「あの時のナイフの正体はこの鉄扇ですよ」

 

「えっ?‥えええええーっ!!」

 

ナイフの正体が実はナイフでは無く鉄扇だったと言う事実に驚く平賀。

 

「ほら」

 

葉月は折りたたんだままの鉄扇を平賀の首筋に当てる。

 

「っ!?」

 

その感触はまさにあの時、自分の首筋に当てられたナイフと同じ感触であった。

 

「極限状態でしかも見えない中、ナイフと言われ、首筋に冷たい金属質なモノを当てられて、平賀さんはこの鉄扇をナイフだと思い込んだんですよ」

 

「なっ、なっ、なっ‥‥//////」

 

思い込んでいたとはいえ、泣いて真霜に助けを求めていた時の事を思い出し、赤面する平賀。

唯一の救いは彼女があの時、失禁しなかったことだろう。

もし、していたら彼女の人生の中で物凄い黒歴史を残していただろうから‥いや、今回の事も十分黒歴史となるかもしれない。

 

「だ、騙したんですか!?//////」

 

赤面のまま葉月に掴み寄る平賀。

 

「あの時はああするしかなかったんですよ、実際効果はてきめんだったでしょう?」

 

「うぅ~//////」

 

「‥‥わ、分かりました‥じゃあ、お詫びに良質のブルーマウンテンのコーヒーをご馳走しますから」

 

葉月はせめてものお詫びとして良質のブルーマウンテンの豆を使ったコーヒーを平賀にご馳走した。

最初は納得できない様子だった平賀であったが、葉月の淹れた良質なブルーマウンテンの豆を使ったコーヒーを飲み少しは機嫌をなおした。

コーヒーを飲んだ後、葉月は平賀をもえか達に紹介した。

 

「こちら海上安全整備局・安全監督室情報調査隊の平賀二等監察官」

 

「あ、あの‥この度は誠に申し訳ありませんでした」

 

もえかは立石が明石、間宮に発砲した件について平賀に謝罪した。

 

「今回攻撃した生徒は?」

 

「とりあえず身柄は拘束しています」

 

「そう‥‥」

 

「すみません、普段は大人しくてあんな攻撃する子じゃないんだけど‥‥」

 

「また戦闘になると思って気が動転したのかもしれないわね」

 

平賀はこれまでの経緯から葉月と同じく立石も疑心暗鬼になっていたのだろうと思い立石やもえかに対して、厳罰を下す様な事はしなかった。

 

その明石、間宮に対して発砲した立石は一応、軟禁と言う形で運用倉庫にて補給してもらったトイレットペーパーを段ボール箱に詰めていた。

 

「しばらく拘束されるのは仕方ないよね~。まぁ、私も付き合うからさ」

 

「うん‥‥」

 

立石と仲の良い西崎も立石一人では心細いだろうと思い、立石の軟禁生活につきあった。

自分のせいで西崎は始めとし、大勢の人に迷惑をかけたと思っている立石は気分が沈んでいる。

 

「いや~いい撃ちっぷりだったよ、タマ。引っ込み思案な砲術長だなって思っていたけど見直した!」

 

そんな立石を元気づけようとしているのか西崎は立石に励まし?の言葉をかける。

 

「でも‥‥なんであんなことしたのか‥‥」

 

立石は明石、間宮に発砲したと言う記憶がなく、艦橋に居たと思ったら、気づいたら自分は海中にいて、そこを葉月に助けてもらった。

自分が明石、間宮に発砲したと知ったのは助けられた後、もえかから聞いた時だった。

 

「心に撃て撃て魂があるんだよ!」

 

「うぃ?」

 

安定のトリガーハッピーな西崎の発言に首をかしげる立石。

そんな時、

 

コンコン

 

立石達が軟禁されている運用倉庫のドアがノックされ、

 

「「差し入れで~す」」

 

杵﨑姉妹が差し入れを持ってきた。

 

「立石さんがカレー食べたがっているって聞いたから」

 

杵﨑姉妹が持ってきた差し入れは、立石が好きなカレーだった。

 

「あ‥‥と‥‥」

 

「ありがとうって言っている」

 

杵﨑姉妹の粋な計らいに不器用ながらも喜びながら、カレーを食べた。

 

 

「あ、あの今後、私達はどうなるのでしょう?」

 

もえかはこの後の自分達の処遇を尋ねる。

自衛とは言え、猿島、シュペー、伊201、202へ攻撃をしたのは事実である。

なにか処分の様なモノを受けるのであろうか?

 

「その件について、海上安全整備局は猿島の報告を鵜呑みにして天照が反乱したという情報を流しています。ですが我々安全監督室の見解は異なっており、天照は自衛のためにやむを得ず交戦したのですね?」

 

「はい、その通りです」

 

「ホントに教官艦が攻撃してきたの?」

 

杉本がもえかに確認をするかのように尋ねる。

 

「うん」

 

「我々は演習が終わった後に合流する予定だったから状況がよくわからなかったの」

 

間宮艦長の藤田優衣(ふじたゆい)が間宮と明石の予定を伝え、あの時何故あの場所にいなかったかをもえかに伝える。

 

「じゃあどうして私達に補給を?」

 

「校長先生の指示で‥‥」

 

「校長先生の?」

 

「我々も宗谷校長に依頼を受けたの。海上整備局の見解と違って、校長は天照が猿島や潜水艦に対して先制攻撃したとは思えない、と主張しているわ。それに潜水艦が所属していた東舞校とは既に話はついていると、宗谷校長は仰っていました」

 

平賀はもえかに先程、葉月が見た新書と同じ内容をもえかに説明した。

 

「それと、猿島の艦長、古庄教官の意識がやっと戻ったみたいだからこれで、あの時猿島で一体何が起こったのか解明できると思う」

 

「「‥‥」」

 

葉月ともえかにしてみてもあの時、何故古庄がいきなり実弾を使用して発砲してきたのか?

何故、先制攻撃をしてきたにも関わらず、古庄は虚偽の報告をしたのか?

二人はその事実を知りたかった。

 

「後ほど発砲した生徒には聴取を行います。それでは後は頼んだわね、二人共」

 

「「はい」」

 

平賀は補給と補修の指揮を杉本と藤田に任せ、聴取の準備の為、一度哨戒艇へと戻って行った。

もえかと葉月も補給と補修の現場を立ち会おうとした時、

 

ニャー

 

ニャ~

 

猫の声が聞こえて来た。

 

「ん?」

 

猫の声がした方へと二人が視線を向けると、其処には五十六の他にロシアンブルーと三毛猫が居た。

 

「あれ?猫が増えている」

 

見慣れない猫の姿にもえかが首をかしげる。

 

「ああ、うちと明石の猫よ」

 

藤田が増えた猫についてもえかに教え、

 

「へぇ~そうなんだ」

 

「補給艦はネズミが発生しやすいから飼っているの」

 

杉本が艦で猫を飼っている理由を話す。

すると、二匹の猫はどういう訳か葉月に近づいてきた。

 

「えっ?ちょっと‥‥」

 

「先任は猫に好かれる体質なのかな?」

 

もえかは呑気にそんな事を言っていたが、天照の甲板に葉月のくしゃみが響いたのは言うまでもなかった。

 

哨戒艇に戻った平賀は天照の様子を真霜へと報告し、真霜は真雪へと伝えた。

 

「部下からの報告では、天照の艦長・乗員共おかしな様子は無かったとの事です」

 

「そう」

 

「海上安全整備局にも報告を上げたけどまだ天照に危険分子がまだ乗船してるいのではと疑っている。その急先鋒が‥‥」

 

「葉月さんね」

 

「ええ、学校に戻る前に全員拘束するべきではないかとの意見もあるの。これ以上天照に何かあると、私だけじゃなくお母さんや葉月の立場も危うくなるわ」

 

「私の心配はしなくていいわ。でも何か異常事態が発生している。貴女はその解明を急いで」

 

「はい」

 

真霜としては折角葉月の誤解を解くことが出来たのにまた海上安全整備局の上層部連中が余計な茶々をいれたら今度こそ、葉月からの信頼を失い天照は自分達に牙をむけてくるかもしれない。

天照‥葉月と敵対する事だけは、どうしても避けたかった。

 

その頃、天照の医務室では‥‥

 

「結局飼い主が見つからなくて。ここで預かってもらえますか?」

 

幸子が美波に例のハムスターの様な生物の面倒を頼んでいた。

 

「無問題(モーマンタイ)」

 

美波はこのハムスターの様な生物の面倒を見ると言う。

 

「ただしハムスターにはあらず‥‥」

 

美波は飼育箱に入っているハムスターの様な生物をジッと見て、この生物はハムスターではないと断言する。

 

「じゃあ何ですかね?」

 

「調べてみる」

 

美波はこの生物が一体何なのかを調べると言った。

彼女がこの何故の生物の正体を知るのはもう少し先になってからの事だった。

そしてその日のうちに、海上安全整備局から出された天照への討伐命令は撤回され、天照は反逆者の汚名を返上する事が出来た。


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