トイレットペーパーがなくなり、オーシャンモール四国沖店へと買い出しに来た葉月達。
しかし、其処には運悪くブルーマーメイドの平賀達も居り、葉月達一行を見つけた。
平賀は、直ぐに包囲網は敷き葉月達一行を拘束する準備を整える。
だが、平賀達の存在をいち早く察知していた葉月は一緒に同行しているみかん達を逃がす策を立てた。
そして、今入っている喫茶店を出た所で平賀達ブルーマーメイドと葉月達天照の乗員組、互いにミッションが開始された。
「あっ、目標が店から出てきました」
平賀の部下が喫茶店から出て来た葉月達一行に気づき平賀達は早速葉月達を追う。
まずは一定の距離を取りゆっくりと距離を詰めて行く。
「‥‥」
葉月は、顔は向けずに視線を後ろに向けつつ平賀達の動きを警戒する。
そしてT字路に出た時、葉月達は左右の路地にそれぞれ分かれて走り出した。
左側にはみかんと美波、右側には葉月と和住が走り去って行った。
「「っ!?」」
「なっ!?」
葉月達の行動に平賀達は慌てた。
「くっ、貴女はそっちをお願い!!私達はこっちを!!」
「は、はい」
平賀はみかん達の方へ一人を行かせて、自分達二人は葉月達の方を追いかけた。
「葉月さん、次はこの先のY路地で二手に分かれれば良いんですよね?」
走りながら和住が葉月に確認をとる。
「そうだ、くれぐれも捕まらない様に。それと天照に着くまでは携帯は使える様にして、伊良子さん達と連絡を取れるようにしておいてね」
「わかりました」
やがてY路地に出ると葉月と和住はそれぞれ左右に分かれて走り去っていく。
「またわかれた!!」
「どうしますか?平賀さん」
平賀は此処で決断を強いられる。
二人で葉月を追うか、それとも此方も二手に分けるか。
そして、平賀は決断した。
「貴女はもう一人を追って!!私は広瀬三等監査官を追います!!」
「はい」
二手に分かれる方をとった。
例え、葉月に逃げられてももう片方の乗組員の身柄を抑えれば、葉月は必ず出てくると踏んだからだ。
人質をとるようなマネであるが、葉月の身柄を抑えられるためならば今は手段を選んでいる余裕はない。
しかし、これは平賀にとって悪手であり、葉月にとっては望む結果となった。
「くっ、速い‥‥」
平賀が予測していたよりも葉月の足は速かった。
そして、ある路地を曲がる前、葉月は平賀の方を見た後、路地へと入っていった。
(読まれている‥‥でも、此処で逃がすわけには‥‥)
平賀は葉月が自分を誘導している事を悟ったが、此処で諦める訳にはいかなかったので、敢えて葉月の誘いに乗り、路地へと入って行った。
葉月が逃げ込んだ路地は建物と建物の間で狭く、薄暗く、そして人通りが少ない。
平賀は警戒しつつ路地を進んで行く。
すると、平賀の後ろから葉月が襲い掛かって来た。
平賀一瞬対応が遅れたが、一応彼女もブルーマーメイド、日々の訓練で格闘戦の訓練は行っていた。
葉月が繰り出す拳と蹴りを平賀は手で裁く。
そして、足で葉月の足を払うが、葉月はジャンプし、それを躱し、逆に平賀の足を払う。
「キャッ!!」
葉月の足払いを受け、バランスを崩す。
バランスを崩した平賀を葉月は袖と後ろ襟を持ち、壁に押し付け、手をねじる。
「イタッ!!」
そして、平賀の首筋にヒヤリと冷たい金属が押し当てられる。
「声を出すな‥‥騒いだり、変な真似をしたら、このまま頸動脈をバッサリと切る」
「っ!?」
平賀の背後からは葉月の声がした。
その声は、平賀が聞いた事のある葉月の声では無く、冷たい無機質な声だった。
「‥‥久しぶりですね‥‥平賀さん‥‥まさかこんな形で再会する事になって残念です」
「そ、そうね‥‥」
「では、質問に答えて貰おう‥此処で何をしていた?」
「わ、私は宗谷監察官からの密命で‥‥」
「密命?それは、自分を暗殺することかな?」
葉月は未だに宗谷親子を疑っていた為、平賀が真霜の暗殺命令を受けてきたのではないかと思った。
「ち、違います!!宗谷監察官は天照の‥‥葉月さんの無実を訴えています」
「ならば何故、あんな命令を出した!?自分一人の為に天照に乗る大勢の学生をも殺しかねないあんな命令を!?」
「あれは、宗谷監察官が出した命令じゃありません。海上安全整備局の上層部‥宗谷監察官や葉月さんを快く思わない連中が勝手に出した命令です。逆に宗谷監察官も宗谷校長もその命令を撤回する為に奔走しています」
「口ではどうとでも言える」
「本当です!!信じて下さい!!」
「ならば、直接真霜に聞いてみる事にしよう‥‥電話をかけろ‥‥ただし片手でな‥‥」
葉月は片方の手で平賀の腕を拘束し、もう片方の手にはあるモノを握り、それを平賀の頸動脈に押し当てているので、今は手が使えない状況。
一方の平賀も片腕は葉月に拘束されているがもう片方の手は使える。
しかし、今葉月を拘束しようとすれば、葉月の言う通り、頸動脈を切られるかもしれない。
そんな恐怖の為、平賀は葉月の指示に従い、器用に懐から携帯を取り出し、真霜に電話をかける。
「もしもし」
平賀からの電話を真霜は海上安全整備局にある自分の部屋で受けた。
「む、宗谷監察官ですか?」
「平賀二等監察官。どうしたの?何かあったの?」
通話口から聞こえてくる平賀の声は心なしか震えている。
「そ、その‥‥広瀬三等監察官と接触したのですが‥‥」
「はづ‥‥広瀬三等監察官と!?それで、彼女は今何処に!?」
「そ、それが‥‥」
「やあ、真霜‥まさか、まだ自分に役職名が残っているとは思っていなかったよ‥もう、とっくの昔に除籍されたかと思っていたよ」
「葉月‥‥ね、ねぇ葉月、聞いて頂戴‥‥」
真霜は久しぶりに葉月の声を聞いたのだが、葉月の声は真霜が知っている葉月の声とは全くの別モノのように聞こえる。
それに対して驚いたのか、真霜は葉月の事をつい、いつもの様に名前で呼んでしまう。
「あの命令は‥‥貴女が出したモノですか?宗谷真霜」
真霜が葉月にあの討伐命令の事を言う前に葉月が真霜に尋ねた。
「い、いいえ‥違うわ‥‥」
真霜は当然、あの命令は自分が出したモノではないと言う。
「そうですか‥‥しかし、今回の真雪さんからの依頼、そしてあの討伐命令‥‥貴女達親子が裏から糸を引いて、自分と天照を学生共々抹殺を考えていたとしたら、辻褄が合うのですが‥‥」
「っ!?それは、誤解よ!!私も母さんも貴女達を助けるために‥‥」
「その証拠は?」
「‥‥」
「証拠は無いんですか?」
「‥‥今は私達を信じてとしか言えないわ‥‥それに葉月の方も私があの命令を下したって言う証拠は持っていないのでしょう?」
「ええ」
「なら、此処はお互いに信頼関係が必要だと思わない?」
「しかし、現に天照は猿島とドイツからの留学生艦、アドミラル・シュペー、潜水艦伊201、202からの攻撃を受けました。船体は傷つきましたが、幸いな事に負傷者が出ていないのは奇跡です‥‥学校側から戦闘停止命令が出ているとはいえ、今後猿島の時の様に先制攻撃をして、後で先制攻撃を受けました‥なんて虚偽の報告をする輩がいないと言い切れるのですか?」
「だからこそ、母さんが天照の補給の為、明石と間宮を派遣したわ。私もあの討伐命令を撤回する様に動いている‥‥ねぇ、葉月お願い私を信じて」
「は、葉月さん‥宗谷監察官を信じて下さい‥‥大体この状況からどうやって逃げるつもりです?既に水上バスの停留所とスキッパーの停車場には警戒網を敷かせてもらっています。此処を出るには、私達の協力が‥‥」
平賀も葉月に真霜を信じてくれと言う。
「‥‥そうですね‥‥確かにこの状況では、平賀さんに協力してもらわなければなりませんね‥‥」
葉月のこの言葉に真霜と平賀はホッと安堵するが、次の葉月の言葉で再び凍り付く事になる。
「自分の目の前に有るブルーマーメイドの制服を奪っていけばいいだけですから‥‥」
「「っ!?」」
(自分の目の前にあるブルーマーメイドの制服?それってまさか‥‥)
平賀は葉月の言葉に嫌な予感を感じる。
「は、葉月、どういう意味よ?それっ!?」
真霜は葉月のブルーマーメイドの制服姿を見たいと言う願望を抱きながらも葉月に言葉の意味を尋ねる。
「言葉の通りですよ‥‥平賀さんには自分がこのショッピングモールを出る為の生贄になって貰いましょう‥‥とりあえず、息の根を止めた後、顔を潰せば少しは時間も稼げるでしょうし、それに水上バスとスキッパー乗り場を抑えられても、平賀さんの制服を奪った自分が警備体制を解除すれば問題ありません」
(ひっ、殺されて服を奪われて顔まで潰されるなんてそんな死に方は嫌!!)
平賀の震えは最高潮となるが、葉月の拘束から逃れる事も出来ない。
「真霜さんも平賀さんも自分が前世では軍人だった事は知っていますよね?‥‥つまり、自分は人を殺す事に関しては何のためらいもないと言う事です」
「ひっ、た、助けて下さい!!宗谷監察官!!」
平賀は死への恐怖からとうとう泣き出してしまい、真霜に助けを求める。
「大丈夫ですよ、平賀さん‥‥痛みを感じる前に殺しますから‥‥」
「全然大丈夫じゃないです!!」
「葉月、バカなマネは止めなさい!!」
真霜は、このままだと本当に葉月は平賀を殺すかもしれないと思い、説得をする。
「ブルーマーメイドの隊員を殺したりしたら、それこそ本当に重罪になるわよ!!その後貴女は如何するつもりなの!?」
「そうですね‥‥天照を手土産にアメリカにでも亡命しますかね」
「なっ!?」
「学校も海上安全整備局も自分達をだまし、学校についた途端身柄を拘束し、反逆罪の罪をきせるつもりだと皆に伝え、その後、アメリカに亡命する旨を説明します‥‥勿論、退艦したい者は退艦させるつもりですが‥‥」
葉月のアメリカへの亡命話を聞き、真霜は、葉月なら本当にやりかねないと思い、
「ちょっと待って!!さっきも言った様に、私と同じ、母さんも葉月達の無実を信じているからこそ、補給と補修の為、明石と間宮を派遣したの!!平賀を殺すのはそれを見極めてからでもいいじゃないかしら?」
(む、宗谷監察官!!結局それって葉月さんに信用されないと私、殺されるんですけど!!)
「‥‥わかりました」
葉月は真霜の提案を呑んだが、一応警戒しておくに越したことはないので、平賀に残りのブルーマーメイドの隊員を撤収させて、水上バス乗り場、スキッパー停車場の警備も解かせた。
そして、葉月は平賀を後ろ手に彼女が持っていた手錠をかけた。
平賀の手の自由を奪い、その後、葉月はみかんと和住に連絡をとった。
他の皆は追っ手のブルーマーメイドの隊員を撒くのと、変装に時間がかかっていたみたいで、まだショッピングモールに居た。
葉月は水上バス乗り場とスキッパー乗り場の警備が解かれた事を説明し、来た時と同じルートで帰れることを皆に説明した。
そして、天照へ帰る為に皆と合流した時、ブルーマーメイドの隊員である平賀を捕まえて来た葉月を見て唖然としていた。
天照に帰る際、二艇のスキッパーの内、一艇はみかんがもう一艇には和住と美波は乗り、葉月は平賀達が使用していたブルーマーメイドの哨戒艇を使い天照へと戻った。
平賀は後ろ手に手錠をかけられたうえ、更にその上からロープで縛られていた為、哨戒艇の運転は葉月が行っている。
途中、ショッピングモール沖で待機していた間宮、明石、浜風、舞風と合流し、それらの艦艇全てで天照が停泊している海域を目指した。
その天照では‥‥
日が落ちて海が少し荒れて来た中、
「漂流物漁っている場合じゃなくなってきたねぇ~」
「うぇ~気持ち悪い~」
昼間からずっと漂流物を漁っていた松永と姫路であったが、荒れてきた海の中で、下を向いて作業をしていた為か船酔いを催した様子。
彼女達の周りには沢山の漂流物(ゴミ)があった。
「先任たちはまだ戻らない?」
「まだですねぇ~」
もえかが葉月達一行の帰りを待っていると、五十六が艦橋へとやって来た。
「ん?五十六、何を咥えているの?」
五十六が口に咥えているのは昼間、通販会社の箱から最初に逃げたあのハムスターの様な生物であった。
そして、五十六はそのハムスターの様な生物を生け捕りにしており、まるで艦橋のメンバーに自慢するかのように見せた。
「かわ‥‥いい‥‥//////」
五十六が床に置いたそのハムスターの様な生物を立石が手に取ると五十六は、
「俺の獲物を横取りするな!!」
と言っているかの様な態度をとるが、西崎に抱きかかえられて、ハムスターの様な生物を取り返せなかった。
「こら、こら、落ち着け、五十六」
ハムスターの様な生物は自らを掌に乗せてくれた立石の頬に自らの頬を寄せる。
「人懐っこいですねぇ」
「それネズミ?」
「色を見る限り、ハムスターじゃないですかね?」
「誰かのペット?」
「さあ?とりあえず飼い主が見つかるまで預かっておきましょうか?」
もえかと幸子がこのハムスターの様な生物について話している時、
展望指揮所で見張りをしていたマチコが水平線から此方に接近して来る艦船を発見した。
「間宮・明石および護衛の航洋艦二隻!右60度!!距離200此方に向かう!!」
「また攻撃されちゃうの~!?」
「どうする?撃っちゃう?」
「それはダメ、絶対にこっちから手を出しちゃダメ」
不安そうに事の成り行きを見ていた立石。
その彼女の手にはあのハムスターの様な生物が居たが、この時、この生物は先程見せた人懐っこい姿はなく、まるで魔界の使い魔か小悪魔の様な雰囲気を出していた。
艦船が接近していると言う事で艦橋に緊張が走るが、それは間宮、明石、浜風、舞風の乗員も同じであった。
間宮、明石は殆ど武装なんて施されていない艦船で、駆逐艦の浜風、舞風では天照とドンパチやっても勝てる訳がない。
天照の主砲だけでも自分達を殲滅出来る。
そんな艦船に近づくのであるから緊張しない筈がない。
また、天照の方もいきなり攻撃をされるのではと言う不安があった。
やがて、間宮、明石、浜風、舞風は探照灯と照らしながら天照の左右を固める。
甲板に居た砲術委員の武田美千留(たけだ みちる)と小笠原光(おがさわら ひかり)も松永と共に不安そうに周囲を見渡す。
姫路だけは船酔いでそんな余裕も無く、一人吐いていた。
「ドマヌケ共が何をやっている!買い出し組はどうした!?」
「まだ戻ってきていません!」
「なにっ!?」
間宮、明石、浜風、舞風が天照を包囲すると、その後ろから天照のスキッパーとブルーマーメイドの哨戒艇が近づいてきた。
「先任達が戻ってきました!ブルーマーメイドの哨戒艇もいます!」
「ブルーマーメイドって私達を捕まえに来たの~!?」
艦船に包囲されさらに後ろからはブルーマーメイドまで現れた。
天照の艦橋の不安と緊張がピークに達したその時、
「カレーなんか食ってる場合じゃねぇ~!!」
突如、艦橋に怒声が響いた。
「た、立石さん?」
「なんだ?カレーって‥‥」
幸子は普段の立石からは考えられない声を出した彼女に困惑し、ミーナは今日の夕飯のメニューでもないカレーの事を口走った立石に困惑する。
「それより逃げないと‥‥」
鈴は何とかしてこの場から逃げようと言うが、
「何言ってんだ!逃げてたまるか!攻撃だ~!!」
立石は攻撃をしようと言う。
その態度は余りにも普段の立石らしからぬ態度であった。
「おっ、撃つか?撃つのか?」
そんな立石の態度に疑問を感じつつ砲を撃てるかもしれないと西崎は少し期待した目をする。
「ダメよ、立石さん」
もえかは絶対に此方からは手を出すなと言うが、
「黙れ!!腰抜け!!」
「っ!?」
もえかは立石から腰抜けと言われショックを受けた。
武蔵からのSOSを無視して学校に戻ろうと決めたのは艦長として天照の乗員の為の決断だったのに‥‥
此方から発砲しない様に言ったのは、学校から戦闘停止命令が出ている中、先制攻撃をすれば、今度こそ本当に反逆者となってしまうかもしれないから‥‥皆天照の乗員の命を守る為の決断だったのに、それを腰抜けと言われてショックを受けない筈がなかった。
「タマちゃんどうしちゃったの?急に~!」
「『もう逃げるのは嫌!』『そうよね。逃げちゃ駄目。私戦う~』『元グリーンベレーの俺に敵うもんか』『お前らは女や子供たちを殺したんだ。だが今、迫害されたもの達の手に、敵に反撃する強力な武器が与えられた!!』」
幸子がもう恒例となった一人寸劇を始める。
「た、立石さん少し落ち着いて」
もえかと西崎が立石を取り押さえるが、
「HA・NA・SE」
「うわっ!?」
「キャッ!!」
立石は物凄い力で二人を振りほどき、艦橋から出て行った。