ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

38 / 80
34話 紺碧のチート艦隊にあらず

反逆者、そして更には討伐命令までも出されてしまった天照。

海上安全整備局は、天照の全ての港の入港を禁止し、包囲網は確実に完成されつつある。

そんな状況でも天照は自分達の潔白を訴える為、学校への帰路を目指す。

途中、独逸からの留学生艦アドミラル・グラーフ・シュペーとの戦闘後、もえかの親友、明乃が艦長を務める武蔵からの緊急伝が入る。

もえかとしては本来ならば、一刻も早く明乃の下へと駆けつけたかったが、乗員の安全の為、武蔵の事は学校側に任せる判断をした。もえかにしてみればそれは苦渋の決断だった。

そんな中、天照は海中で潜水艦の反応を探知した。

討伐命令が出ている中、戦闘艦艇との接触は戦闘の可能性が大きい。

不要な戦闘を控える為、アクティブソナーにて、コンタクトを取ろうかと模索したが、下手にアクティブソナーを打つと相手を刺激するかもしれないと言う事で、警戒しつつ潜水艦は無視して先を急ぐ天照。

そんな中、伊201は天照を討つ為の準備を始めた‥‥。

 

「例の伊201より、通信電波を捉えました!!」

 

『っ!?』

 

通信員の鶫からの報告に艦橋内に緊張が走る。

 

「通信文の内容は?」

 

もえかが鶫に尋ねる。

もし、伊201が海上安全整備局に天照の位置を通報したのであれば、ブルーマーメイドかホワイトドルフィンの艦艇が来る。

伊201は一体どんな通信文を打ったのか?

艦橋の皆は鶫の報告に息をのむ。

 

「そ、それが暗号変換されていて内容は‥‥」

 

伊201の通信文は暗号変換されていて解読するにはかなり時間が掛かるとの事だった。

 

「目標、急速に深度を増していますわ」

 

通信文を打った伊201は潜望鏡深度から更に潜航して行った。

海上安全整備局に通報するのに暗号文を態々使うだろうか?と言う疑問もあったが、警戒するに越した事は無い。

しかし、それ以前に伊201は確実に此方を追尾している。

 

「やっぱり追手なんだって!」

 

「は、早く逃げようよ‥‥」

 

西崎は、やはり伊201は追手であり、海上安全整備局に此方の位置情報を流していると予測し、鈴もブルーマーメイド、ホワイトドルフィンの艦艇が来る前に振り切ろうと言う。

 

「‥‥航海長、ソナーの邪魔にならない速度で現針路を維持」

 

「りょ、了解」

 

葉月は鈴に速度と針路を指示する。

万が一に備えソナーは何時でも使用可能な状態にしておく。

どうせ、機関点検中で全速はだせないのだからせめてソナーだけは何時でも使用可能な状態にしておきたい。

 

「納沙さん、伊201の情報ってある?」

 

もえかが幸子に伊201の情報が無いかを尋ねる。

もし、戦闘となった場合、相手のスペックを知っておくといないとでは、それだけでも勝敗に左右する。

 

「えっと‥‥あっ、ありました」

 

幸子がタブレットのページをめくり、伊201の情報を探し当てる。

 

「基準排水量1070t、水中速力20ノットは出る高速艦ですね」

 

「水中で20ノット‥‥今の天照にはちょっと厄介ね‥‥武装は?」

 

「53cm魚雷発射管4門、25mm単装機銃2挺、魚雷は10本!」

 

「10本‥‥発射管に全門装填して撃ってもあと2本は撃てるわけか‥‥」

 

「対処すべきは10本の魚雷ですね‥‥天照相手に恐らく水上戦闘は幾らなんでも挑んではこないでしょうから」

 

「そうだね」

 

葉月の予測に頷くもえか。

 

「‥‥水雷長」

 

「はい」

 

「マ式豆爆雷砲の発射準備。いつでも撃てるようにしておいて」

 

「了解」

 

天照では万が一を想定し、対潜水艦戦闘が進められた。

しかし、今の天照は機関部の点検中で全速、巡航維持が出せない‥タイミングが最悪だった。

 

一方、伊201の方でも、

 

「‥‥このまま、何もせず、ただ追いかけっこもつまらんな」

 

「はぁ‥‥」

 

「向こうも俺達の存在は探知している筈だ。ならば、反逆者のお嬢さん方にまずは挨拶として魚雷をプレゼントしてやろう」

 

「了解、発射管一番、二番魚雷装填」

 

「一番、二番魚雷発射用意!!」

 

「発射口、開口」

 

「ふん、恨むなよ、お嬢さん方。恨むのなら、反逆した自分達と此処で俺達に出会った運命を恨め」

 

「発射準備完了!!」

 

「発射!!」

 

「発射!!」

 

伊201から挨拶代わりの魚雷が放たれた。

 

「魚雷2本いらっしゃいました!!」

 

楓からの報告で葉月は急ぎ西崎に指示を出す。

 

「水雷長!!マ式豆爆準備!!」

 

「了解!!マ式豆爆発射準備!!」

 

「万里小路さん!発射音はどっちから!?」

 

もえかは楓に魚雷の接近方向を尋ねる。

 

「魚雷音方位、270。近づきます!!感2‥‥感3‥‥」

 

「野間さん!!目視確認を頼む!!方位270!!10時から11時の方向!」

 

続いて葉月は展望指揮所で見張りをしているマチコに魚雷の確認を頼む。

 

「了解」

 

マチコは目を細めて、葉月から指示が来た方向を見張る。

すると、彼女の目には此方に接近して来る2本の雷跡がはっきりと確認できた。

 

「雷跡左30度距離20! こちらに向かっている!」

 

「航海長!!取舵いっぱい!」

 

「と、とりかじいっぱーい!」

 

もえかが鈴に回避運動を指示し、葉月は、

 

「水雷長!!マ式豆爆発射」

 

「了解!!マ式豆爆発射!!」

 

対魚雷防御用の兵装であるマ式豆爆雷の発射命令を出した。

天照からはマ式豆爆雷海中へと放り投げられ、迫り来る魚雷を迎撃する。

 

「魚雷撃破に成功!!」

 

「あと8本‥‥副砲、高射砲群、発射準備」

 

「うん」

 

もえかは即時に副砲と高射砲の発射準備を下令し、立石もそれに従い砲身を魚雷が来た方向へと向ける。

 

「目標、ロスト!!」

 

「万里小路さん、相手の位置分かる?」

 

「お、恐れ入りますが、先程の爆雷で音が乱れて‥‥」

 

マ式豆爆雷と魚雷の爆発音で海中が掻き回され、水音が乱れて伊201の正確な居場所が掴めなくなってしまった。

 

「そ、それならアクティブソナーを使ったら‥‥」

 

鈴がアクティブソナーを使って相手の位置を探知すればと提案するが、

 

「いや、この状況でアクティブソナーを使ったら、相手に此方の正確な位置を伝えることになる」

 

葉月が今アクティブソナーを使ったデメリットを指摘する。

 

「な、なら全速が出せれば多分逃げ切れる‥‥」

 

「だから全速は出せねぇって!」

 

「わかっています~」

 

鈴が全速を出せれば、逃げ切れるのだが、今は機関の点検中なので全速を出すことが出来ない事を忘れていたのかそう呟くと、機関室の麻侖から怒声が飛び、縮こまる鈴だった。

 

「とにかく今は逃げ回ろう」

 

「ええ」

 

天照が今できるのは逃げ回る事だけだった。

しかし、ただ逃げ回るだけでは無く、ちゃんと対策もうった。

 

「砲術長」

 

「うぃ?」

 

「第一主砲と第三主砲の砲身一つにZ弾を装填」

 

「う、うぃ‥‥第一主砲‥‥第三主砲‥‥Z弾‥‥装填‥‥」

 

立石は本当にあの弾を使うのかと言う表情をしながらも葉月の指示通り、第一主砲と第三主砲の砲身一つにZ弾を装填した。

なにせこの時の葉月の顔は無表情で立石は葉月の顔を見て、寒気が走ったので、此処は指示に従わないといけないと本能的にそう思ったのだ。

 

「Z弾?」

 

聞き慣れない砲弾の名前を聞き、皆は首を傾げる。

 

「Z弾は親子爆弾式(クラスター式)砲弾で、砲弾の中に小さな小型爆弾が内蔵されていて、容器となる大型の弾体のカバーが外れると中から多数の子爆弾が広範囲に散らばって目標や構造物を破壊する」

 

「そんなの撃って大丈夫なの?」

 

葉月の説明を聞き、西崎がそんな砲弾を伊201に向けて撃って撃沈してしまわないか尋ねる。

 

「敢えて、目標から外して水中爆発を起こさせてその衝撃波で相手の船体を傷つけて潜水不能に追い込めれば逃げ切れる」

 

「成程」

 

武装の関係から伊201の装備での水上戦闘は、向こうはしてこないだろうから、潜水不能にしてしまえば、相手が逃げるか、追撃は断念すると判断した。

 

「本当はこれを使わずに逃げ切れるのが一番いいんだけどね‥‥」

 

そう言いながらZ弾が装填された第一主砲をジッと見る葉月だった。

 

 

最初の接触から既に一時間が経過した‥‥。

時間が経ち、伊201からの攻撃が無い事から次第に緊張は緩み始め、眠気により集中力も落ちて来た。

 

「周囲異常なし‥‥」

 

マチコから周辺に異常はなく、平穏な夜の海が広がっている報告を受ける。

 

「あれから一時間か‥‥」

 

「向こうも水の中を常に全速で航行している訳では無いでしょうけど‥‥」

 

「何とか振り切ったかな?」

 

「逃げるなら任せて!」

 

鈴が自信満々で答える。

 

「それって自慢する所ですか~?」

 

幸子が茶化す様に鈴に尋ねる。

 

「こ、ココちゃ~ん」

 

鈴と幸子のやり取りに艦橋は笑い声が満ちた。

 

「万里小路さん。何か聞こえる?」

 

もえかが水中にも何か変化がないか楓に尋ねる。

 

「あら、お許しあそばせ。起きておりますわ‥‥」

 

楓は少しウトウトしていた様だった。

 

「ごめんね、こんな遅くまで‥でも、もう少しお願い」

 

本来ならば、寝ている時間であったが、完全に潜水艦の脅威が去っていない中、推測員の楓を任務から外すわけにはいかなかった。

其れに対してすまなそうに言うもえか。

 

「かしこまりました」

 

楓ももう一息と気合を入れて、ヘッドホンを耳に当てた。

 

「ふわぁ~‥‥ねむぃ‥‥」

 

「駄目だ~‥‥眠い‥‥」

 

立石は大きなあくびをし、西崎の目の下には隈が浮き出て来た。

眠気と疲労で集中力はダダ下がりの中、

 

「そんな、みなさんに杵埼屋特製のどら焼きです」

 

ほまれが夜食の差し入れにどら焼きを艦橋に持ってきた。

艦橋のメンバーは炊飯委員からの差し入れに食いついた。

 

「どら焼き!?」

 

特に西崎の食いつきがものすごく、もし、彼女に尻尾があれば、勢いよく振っていただろう。

 

「‥‥メイ‥犬みたい‥‥」

 

そんな西崎の様子を見て、立石がポツリと呟く。

 

「い、犬!?そう言うタマは猫じゃん!!//////」

 

「うぃ」

 

西崎と立石のやりとりに艦橋メンバーは苦笑しつつどら焼きを食べ始める。

 

「他の部署にはもう配ったの?」

 

葉月が他の部署にはもうどら焼きがいきわたったのかを確認する。

 

「はい、艦橋が一番最後です」

 

「そう、ありがとう」

 

どら焼きの登場で艦橋の気が緩んだその頃、海中では、

 

「伊202、所定の位置に着きました」

 

「よし、狩りの始まりだ」

 

伊201と伊202が天照に牙を剥けようとしていた。

 

「一番から四番、発射準備!!どちらに舵を切っても当たる放射状に撃て!!」

 

「了解」

 

「発射管開口!!」

 

「発射準備完了!!」

 

「発射!!」

 

「発射!!」」

 

伊201から4本の魚雷が放たれた。

 

「雷跡ヨン! 左120度30! 接近中!」

 

マチコからの報告で艦橋はさっきまでの空気から一転し、再び緊張した重苦しいものへと変わる。

 

「緊急回避!!ダッシュ!!水流一斉噴射!!」

 

「了解!!でも、これ一回きりだからな!!」

 

機関室からは水流一斉噴射がこれ一回きりしか使えない報告が入る。

 

「取り舵いっぱい!!」

 

「と、取り舵いっぱい!!」

 

「右舷スラスター全開!!」

 

「右舷スラスター全開!!」

 

水流一斉噴射とスラスターにて、回避運動をとる天照。

全速は出せなくても水流一斉噴射で大きく距離を取る事が出来、魚雷回避は成功したかと思われたが、

 

「左舷、前方からまた別の雷跡!!」

 

今度は伊202の放った魚雷が天照へと向かう。

 

「もう一隻いたのか!?」

 

「なんで気づかなかったの!?」

 

「も、申し訳ありません。水中雑音が多い表面層の音響屈折部(ダクト)に居たみたいですわ」

 

楓が申し訳なさそうに報告する。

 

(やはり、対潜水艦戦闘の訓練不足か‥‥)

 

元々今回の演習は海上艦同士の演習でそこに潜水艦が入る事など想定されていなかった為、対潜水艦戦の訓練不足が此処で仇となった。

 

「面舵いっぱい!!」

 

「お、面舵!!」

 

続いて鈴は舵を右に切るが、船体の大きな船は舵を切っても直ぐには方向転換が出来ない。

 

「だ、だめです!!当たります!!」

 

回避運動も虚しく、伊202の魚雷は天照の左舷側に命中する。

 

ドドンッ

 

轟音と揺れは艦全体に響く。

 

「な、なんじゃ~!!」

 

その揺れと轟音は医務室で眠っていた独逸娘を起こすには十分の威力だった様だ。

 

「って、此処は一体どこなんじゃ?」

 

「気がついたか?」

 

起きた独逸娘に美波が声をかける。

 

「お主は何者じゃ?」

 

「私か?私は鏑木美波‥この天照の保健委員だ」

 

「天照?」

 

美波は独逸娘にこれまでのいきさつと現状を説明した。

シュペーから脱出した独逸娘を救助し、母校へ戻る途中、潜水艦と遭遇し、現在その潜水艦と戦闘中である事を‥‥。

そして今の揺れと轟音は魚雷が命中した事を独逸娘に教えた。

すると、

 

「ワシの制服はどこじゃ」

 

「此処に有る。濡れていたが洗濯し、乾燥機にかけてある」

 

美波が机の上に置いてあった独逸娘の制服を彼女に手渡す。

すると、独逸娘は美波がいるにも関わらず、今着ている検診衣を脱ぎ捨て、制服を着用する。

 

「艦橋はどこじゃ?」

 

「これが艦内の地図だ」

 

「すまぬ」

 

独逸娘はそう言って美波から地図を受け取り、その地図を頼りに艦橋を目指していった。

 

その頃、艦橋では、命中した魚雷の被害がどれくらいなのか被害状況の調査に入った。

 

「被害報告!!」

 

「左舷中央部付近に魚雷2本命中!!ただし、浸水被害なし!!水線下装甲に僅かな歪みが発生!!」

 

応急修理へと赴いた和住から報告でほっと胸を撫で下ろすもえか達。

 

「ば、バカな!!魚雷を2本くらってノーダメージだと!?化け物め!!」

 

伊201の艦長は潜望鏡から伊202の魚雷が命中した光景を見たが、天照は全くの無傷。

 

「魚雷全弾発射用意!!伊202にも今度は2本ではなく、4本撃てと伝えろ!!平文で良い!!」

 

「了解」

 

もう暗号文に変換して送る時間的余裕がないのか伊201は伊202に平文で追加の魚雷攻撃を指示した。

 

 

「伊201からの通信電波を傍受!!さかんに電波を飛ばしています!!恐らくもう一隻の潜水艦と連絡を取り合っているものと思われます!!」

 

「位置は?」

 

「後方と左前方約十五海里!!」

 

「砲術長!!砲撃準備!!」

 

鶫の報告を聞き、もえかが立石に射撃準備命令を出す。

 

「うぃ」

 

第一主砲は左前の伊202に第三主砲は後方の伊201に照準を合わせる。

ただし、わざと外す形で‥‥。

前から来るかもしれないと用意しておいた第一主砲がまさかこんな形で使用するとは思っていなかった。

だが、今回はその予測が外れた事で、一気に形勢を逆転できる展開となった。

 

「まる」

 

「撃て!!」

 

もえかから発射命令が出されたちょうどその瞬間、

 

「このドヘッタクソな操艦はなんなんじゃ!? 艦長はだれじゃい!?この船はド素人の集まりか!」

 

勢いよく艦橋の扉が開かれた。

そして独逸娘が艦橋内に入り、辺りを見回した瞬間、第一主砲と第三主砲がZ弾を放つ。

 

「うおっ、な、なんじゃ?」

 

51cm砲の発射音に独逸娘が驚く。

驚いたのは独逸娘だけではなく、伊201の乗員達も同じだった。

 

「ううっ‥‥目標から主砲射撃です!!来ます!!」

 

「何発だ!?」

 

「2発‥‥内1発は此方に向かってきます!!」

 

「それなら大丈夫だ!!大口径とは言え、たかが主砲弾の1発ぐらい何とも‥‥」

 

艦長がそう言った瞬間、伊201の周辺を凄まじい爆音と衝撃波が襲い掛かった。

艦長としてはまさか、一発の主砲で海に潜っている潜水艦にダメージを与えるなんて不可能だと思っていた。

しかし、実際は‥‥

 

「うわぁぁぁぁぁー!!」

 

艦内に激しい揺れが生じる。

 

「な、なんだ?何が起こった!?」

 

「目標からの攻撃です!!」

 

「直撃したのか!?」

 

「い、いえ‥しかし、船体とパイプの彼方此方に亀裂が入り、浸水し始めています!!これ以上の潜航は危険です!!」

 

伊201の艦内には浸水を知らせる警報が鳴り響く。

 

「くっ‥‥浮上しろ‥浮上後は直ちに国際救難信号を打て!!」

 

「は、はい」

 

このまま潜航し続けたら、沈没の恐れがあると判断した艦長は浮上を決断した。

だが、浮上しても今度は天照の攻撃もあると思ったが、このまま沈むよりはマシである。

 

 

「潜水艦の様子はどうだ?」

 

「機関音は聴こえませんが、船体の軋み、圧搾空気の排出音を確認、急速浮上中と思われます!!」

 

楓の言う通り、やがて天照の後方と左前からは潜水艦が急浮上した姿が見えた。

 

「今です!艦長、退避しましょう!」

 

「最短コースは既に選定澄みです!」

 

「うん、両舷前進強速!」

 

「伊201、伊202からの国際救難信号の発信と応答を確認。現在東舞校教員艦が30ノットで接近中」

 

「面舵いっぱい。20度、ヨーソロー!!」

 

「さっさと逃げようよ~」

 

鈴は号泣しながら、舵を切り、天照は浮上した二隻の潜水艦を放置して、東舞校教員艦が来る前に現海域を離脱した。

 

「な、なんじゃ‥あの砲弾は‥‥」

 

ようやく潜水艦との戦闘海域から脱出した時、独逸娘が口を開いた。

 

『あっ‥‥』

 

そこで、艦橋メンバーも独逸娘の存在に気付いた。

 

「お前は誰だ?」

 

西崎が独逸娘に正体を尋ねる。

 

「あっ、ワシか?ワシは‥‥」

 

独逸娘が名を名乗ろうとした時、

 

「あっ、救助したドイツ艦の子ね?目が覚めたんだ!よかったぁ」

 

独逸娘が名乗る前にもえかが彼女の正体を言ってしまう。

 

「あっ、私は知名もえか。この艦の艦長です」

 

もえかの行動に面食らった独逸娘だが、表情を切り替えて、

 

「ドイツ、ヴィルヘルムスハーフェン校所属、アドミラル・グラーフ・シュペー副長のヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクじゃ」

 

互いに役職名と自己紹介を終えた後、

 

「聞いてもいい?あなた達の船で何があったか?」

 

もえかは早速、ミーナにシュペーの艦内で一体に何が起きたのかを尋ねた。

 

「我等がアドミラル・シュペーか‥‥」

 

「そう‥‥あっ、でも、もし、言いたくなかったら‥‥」

 

「いや、ワシもよくわからんが聞いてもらった方がいいな」

 

そう言ってミーナは自分の乗っていた艦に何が起きたのかを話し始めた。

艦橋メンバーは静かにミーナの話に耳を傾けていた。

 

「我らの船も貴校との合同演習に参加する予定だったのは知っておるな?」

 

「うん」

 

もえかは頷くが、艦橋メンバーの中には、『えっ?そうだったの?』と初めて知った感じの子も居た。

 

「ワシらは合流地点に向かっていたんだが、突然電子機器が動かなくなって調べようとしたら誰も命令を聞かなくなった‥‥」

 

「それって叛乱?」

 

「わからん。ワシは艦長から他の船に知らせるよう命じられて脱出してきた」

 

「艦長?」

 

「ああ‥帽子を拾ってくれたのは感謝している。あの帽子は我が艦長から預かった大事な物‥シュペーに戻って艦長に返さなければ。必ず‥‥」

 

そう話すミーナの瞳には明確な決意が宿っていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。