ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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27話 世にも奇妙な天照の夜

天照は横須賀の大型船ドックを出航し、横須賀女子の港から出航したその他の学生艦と合流、暫くは艦隊行動をとった学生艦は学校側が決めた各々の航路を通り、合流地点の西之島新島沖を目指す。

西之島新島沖までの航路の間、ただ何もしない訳にはいかず、短い時間ながらも合流地点の西之島新島沖まで、天照の基本的な能力だけでも学生達にも身に着けてもらわなければならず、他の学生艦と別れた後、天照は早速訓練に入った。

 

「本艦はこれより、水流一斉噴射に入る。総員ショックに備えよ」

 

もえかが艦内に警報を発し、

 

「機関室、ダッシュ!!水流一斉噴射!!」

 

葉月が伝声管で機関室に水流一斉噴射を指示する。

 

「合点承知!!ダッシュ!!水流一斉噴射!!」

 

伝声管からは麻侖の威勢のいい声が響く。

それからすぐに天照の両舷艦底部に装備されている水流噴進機から勢いよく大量の水流が放出され、天照は急加速する。

 

『うわぁぁぁぁぁー!!』

 

乗艦がいきなり、急加速‥しかも戦艦ではありえないぐらいの急加速をして、思わずバランスを崩す生徒や何かにしがみつつ、衝撃に驚く生徒が多発した。

この水流一斉噴射は緊急回避用の加速装置なので、ため込んだ水流を出し切れば、後は通常の航行速度に戻る。

 

『‥‥』

 

水流一斉噴射を体験した生徒達は皆唖然としていた。

 

「す、凄い‥‥」

 

「遊園地のアトラクションみたいだった」

 

立石と西崎は目をパチクリしながら呟いた。

鈴は舵輪を握ったまま固まっている。

よほどびっくりしたか怖かったのだろう。

続いて天照は半潜航行へと移った。

 

ブルーマーメイドの隊員を乗せた試験航海の時同様、天照の船体が沈んでいくと、葉月を除く艦橋メンバーは皆、息をのむ。

このまま沈んでしまうのではないか?

ブルーマーメイドの隊員同様、それが、生徒達が抱いた印象である。

続いての片舷半潜航行では、艦が大きく傾き、船体がギシギシと音を立てるたび鈴が悲鳴をあげてパニック寸前にまでなった。

一方で、西崎と立石は物凄く興奮していた。

幸子は半潜航行、片舷半潜航行の時、現実逃避したのか一人で独り芝居をしていた。

もえかは艦長としての責務なのか、取り乱す事はなかったが、緊張した面持ちで固まっていた。

 

航行性能、電探性能をある程度体験した生徒達は続いて仮想戦闘訓練を行った。

しかし、仮想戦闘訓練のやる時間は艦長のもえかと先任の葉月を始めとし、各部署の長のみが知っており、タイミングを見計らって突如始まる事になった。

そうでなければ、いざという時に咄嗟の行動がとれないし、古庄が言った『穏やかな海はよい船乗りを育てない』精神であった。

 

それは、昼食後皆がお腹いっぱいでウトウトし始めた時に起こった。

 

「対水上レーダーに感あり!」

 

「不明艦発見!!総員戦闘配置!!」

 

艦内に警報が鳴り響き、艦内の緊張感は一気に高まる。

 

「左舷方向124、艦影数3!速力33ノットで接近!」

 

「目標は航洋艦(駆逐艦)クラス!登録船舶ビーコン応答無し!」

 

「納沙さん、不明艦に警告文を送信!!」

 

「りょ、了解!!‥‥『こちらは横須賀女子海洋学校所属超大型直接教育艦天照。ただちに停船し、こちらの指示に従われたし、繰り返します、ただちに停船しこちらの指示に従われたし』

 

最初に日本語による警告が行われ、続いて制海共通用語でもある英語による警告文を発する。

しかし、それらに対しては不明艦三隻共反応を示さない。

 

「不明艦より応答なし!!」

 

「警告射撃用意!」

 

「警告射撃用意!」

 

「第一、第二、第三副砲スタンバイ」

 

砲術長の立石が射撃指揮所へと指示を出す。

自己紹介の時、口下手だった立石がここまで多弁なのは珍しい事だが、今はそんな事を言っている余裕は無い。

 

「第一、第二、第三副砲射撃用意よし!!」

 

「撃て!!」

 

「不明艦より、噴進魚雷接近!!」

 

「機関最大船速!!面舵20!!バウスラスター起動!!」

 

「機関最大船速!!面舵20!!バウスラスター起動!!」

 

「噴進魚雷、左舷後部に命中!!」

 

「被害報告!!」

 

「損害軽微!」

 

「防水作業(ダメージコントロール)かかれ!!」

 

防水作業を命じられた被弾箇所では、ジャージの上着にスパッツ姿が特徴の和住 媛萌(わずみ ひめ)応急長・美化委員長とベレー帽を被っている同じく応急員の青木 百々(あおき もも)以下、主計科の美海やみかん、杵﨑姉妹らが防水作業をしていたのだが、

 

「えっと‥‥これどうやって当てるんだっけ?」

 

「こっち向きかな?」

 

慣れない手つきで、防水シートと当て木に悪戦苦闘していた。

そこへ、

 

「お前達、学校で何を習って来た!?それじゃあ当て方が逆だ!!ぐずぐずしていたら、溺死するぞ!!」

 

「は、はい‥‥!!」

 

艦内を回っていた葉月が来て、応急員らに喝を入れて、自らも防水作業を手伝う。

 

 

「艦長、17:35に訓練終了しました」

 

葉月がもえかに敬礼しながら訓練の終了を告げる。

 

「お疲れ様」

 

「予定よりも20分遅れですね」

 

幸子は時計を見ながら当初の訓練終了時間から遅れていた事を呟く。

 

「でも、初めての訓練で20分遅れなら十分だよ」

 

もえかは艦橋メンバーにそう言った。

 

航海初日から中々ハードスケジュールな訓練をしたためか、皆少々お疲れの様子だったので、夜間での訓練は『無し』となった。

やりすぎて実際の演習の際、使い物にならなくなったでは、洒落にならないので‥‥。

日が落ちて来た中、

 

「夜間は艦橋の明かりはつけず、航海灯のみの点灯とする」

 

葉月が夜間航行中、艦橋の明かりは点けないと言う。

 

「えっ?でもそれじゃあ、まっくらで何も見えなくなるんじゃ‥‥」

 

「暗い中にいると、時期に目が慣れる。それに夜間に航海灯以外の灯火を点けていると、他船に誤認されたり幻惑させて、最悪衝突する恐れがある。艦橋内での明かりは海図台のみとする」

 

「わ、わかりました」

 

衝突と言う言葉を聞き、艦橋メンバーも夜間の明かりの点灯の件については納得する。

 

日が完全に落ち、辺りは漆黒の闇が覆い、天照の艦橋も明かりは海図台のスタンドライトのみで薄暗い。

そんな艦橋にて、

 

「これはとある戦艦で起きた本当にあったことなんだけど‥‥」

 

幸子が声のトーンを低くして話始める。

 

「その戦艦はある日、係留中に謎の大爆発を起こして沈んでしまって、乗員に大勢の犠牲者を出したらしいの‥‥原因は諸説あって、某国のスパイの破壊工作、砲弾の自然発火による暴発、乗員のいじめによる自殺や精神異常をになった一下士官による放火説まであるんだけど、結局原因は不明のまま‥‥でもその予兆めいたものがあって、爆発事故の前の日の夜、複数の乗員が見たんですって‥‥」

 

「見た?一体何を?もったいつけないでよ」

 

西崎がそわそわした様子で、話の続きを急かせる。

幸子が頷き、続きを話す。

他の艦橋メンバーも幸子の話を聞き逃すまいと聞き耳を立てている。

 

「その戦艦の第三砲塔の上で二人の女性が言い争っていたんだって」

 

「ふ、二人の女性‥‥?」

 

鈴がゴクリと生唾を飲む。

 

「ええ、一人は白い衣物に赤い袴の巫女の様な女性‥‥もう一人はボロボロの着物を纏った般若の様な形相の女だったらしいよ」

 

「ヒィッ‥‥」

 

艦橋メンバーの誰かが悲鳴をあげた。

その後、幸子が独り芝居を行い、その妙な二人の女を見た乗員のリアクションが行ったであろう台詞を言う。

 

(暗い艦橋の雰囲気に悪のりしたな‥‥しかし、怪談か‥‥まぁ、ソレを言うなら、自分とこの天照も幽霊みたいなものなのだけどね‥‥)

 

葉月としては一度死に、天照も撃沈された筈なのだが、こうして蘇った事から、自分自身と天照自体がオカルトの塊だと思った。

 

(航行中と言っても別に問題があるわけじゃないし、まぁいいか)

 

もえかも幸子を止める事無く、好きにさせていた。

 

「さて、そろそろ就寝時間だよ。夜間当直以外は各自の部屋にね。休むのも仕事のうちだよ」

 

もえかが解散を言うと、当直者以外の者達は艦橋を離れる。

非当直者はそれぞれの部屋へと戻って行った‥‥。

 

 

 

 

大勢の人で港はごったがえしていた。

 

「はい、そうです。救助されたのはこれで全員です」

 

「乗船していたのは乗員乗客を含め全部で423名です。現時点で死亡11名、行方不明者は29名となっております」

 

港の一角にある青いシートの下からは人間の腕がのぞいているのが見えた。

 

「ほとんどの方が落下時に岩礁に打ち付けられ、荒波にかき回されていますから、損傷が激しく‥‥」

 

「そうか‥‥船外に放り出された行方不明には生存は見込めないな‥‥船体の方は?」

 

「そちらも完全に沈没しました。この辺の海域の深さは約50mあり、船内に取り残された者も恐らくは‥‥」

 

「そうか‥‥あっ、おいコラ!!勝手に触っちゃ‥‥」

 

「おかあさん!」

 

幼い少女が捲り上げたシートの下にあったのは、すっかり見分けがつかなくなった人間の変わり果てた姿だった。

 

 

 

 

「っ!?」

 

幼い少女がシートに下に置かれていた人間の変わり果てた姿を見た所で葉月はバッと目を覚ました。

 

(なんだ‥‥今の光景は‥‥)

 

上半身をベッドから起こすと、其処は天照の自分の部屋で先程見た光景は自分が見ていた夢だと悟る。

しかし、内容は余りにも生々しく、動悸が激しく体の中を打ち、大粒の汗が額にはりついた前髪を伝って、からからに乾いた口に落ちた。

震えの止まらない背中が胃を揺らし、軽い吐き気を覚える。

 

(少し感覚がなまったか‥‥)

 

前世では軍人として人の生死をたくさん見て来た葉月だったのだが、この世界に転生してからはそうした人の生死を見ていない為か、夢とは言え、久しぶりに人の遺体を見て動揺していた。

 

(それにしてもあの少女‥‥もえかちゃんに似ていたような気がするが‥‥)

 

何故、夢の中にもえかそっくりの少女は出てきたのか分からない。

 

(そう言えば、もえかちゃん、明乃ちゃんと親しくなったけど、自分は彼女達の家族構成は一切しらなかったな‥‥)

 

明乃ともえかの二人と会うのは何時も外で、二人から家族の話を聞いたことは無かったので、特に気にもしていなかったが、今さっき見た夢で少々気になった葉月だった。

変な夢を見てしまったせいで、すっかり目が覚めてしまったので、艦内の巡回でもしようと思い、寝間着から制服へと着替えた葉月は部屋を出た。

そしてまず、艦橋へと上がると、其処には今日の夜間当直者の幸子と鈴が居た。

 

「他に何かありませんか?海での怖い話」

 

鈴が幸子に怖い話をもっと聞きたいと強請っている。

怖がりな鈴が意外にも怖い話を強請っていると言う珍しい光景だが、「怖いもの見たさ」と言う心理が有る様にこの環境で鈴も普段の怖がりもナリを潜めてこうして幸子に怖い話を強請っているのだ。

 

「えっとですね、ある釣り人が船で釣りをしていたんですけど、いつの間にか居眠りをしちゃったその釣り人が起きると辺りは既に日が暮れちゃっていて、その時に船を借りた時、この辺りじゃ、決して夜釣りはしちゃいけないって地元の漁師さんに言われた事を思いだしたの」

 

「そ、それで‥‥」

 

「その時、釣り人は漁師さんに聞いたんです。『夜釣りをするとどうなるんだい?』『そりゃ、海に呼ばれるんですよ‥‥おーい、おーいって‥‥でも、呼ばれても決して返事をしてはいけませんよ‥‥』」

 

鈴は舵輪を握りながらガタガタと震えながら幸子の怖い話を聞いている。

特に異常なさそうなので、葉月は艦橋を後にした。

 

夜間は必要最低限の所のみ明かりがついており、それ以外は消灯しているので、夜の艦内は基本薄暗い。

そんな中、葉月の後ろからコッ、コッ、コッ、コッ、と足音が聞こえて来た。

葉月は立ち止まり、振り返る。

足音は尚も葉月の方へと迫って来る。

自分自身の存在がオカルトの様な存在である葉月も流石にこの時は少し緊張した面持ちとなる。

 

「あれ?葉月さ‥‥じゃなくって、先任?」

 

「もえ‥‥いや、艦長」

 

葉月の後ろから来たのはもえかだった。

 

「どうしたんですか?てっきり、お部屋でお休みになっているかと‥‥」

 

「うーん‥なかなか寝付けなくて‥‥それで艦内の巡回をしようと思って巡回をしていたの」

 

「そうですか」

 

「先任は?」

 

「自分も艦長と同じです」

 

「じゃあ、折角だから、一緒に巡回をしましょう」

 

「ええ、いいですよ」

 

こうしてもえかと葉月は共に艦内の巡回を行う事となった。

居室区画では、今日の昼間の訓練で疲れたのか、非当直者は静かに寝息を立てている。

それ以外でも各部、水漏れ等の問題点は見つからない。

とは言え、天照は超弩級戦艦なので、見回るところは沢山あり、二人の巡回は続いた。

そんな中、厨房から明かりが漏れているのが見えた。

 

「なんでしょう?」

 

「なんだろうね?」

 

葉月ともえかはドアの隙間から中の様子を窺った。

すると、厨房では‥‥

 

「私、絶対に此処に置いたもん!!」

 

「そんな事言っても無いじゃない!!」

 

「ちょっ、ほっちゃんもあっちゃんも落ち着いて、今は就寝時間だから、皆の迷惑になるよ」

 

炊事委員のほまれとあかねが口論しており、同じく炊事委員のみかんが二人を宥めていた。

みかんの言う通り、就寝時間に騒がれては流石に寝ている他の皆に迷惑なので、葉月ともえかは厨房へと入って内を揉めているのか、尋ねる事にした。

 

「どうしたの?こんな夜遅くに?」

 

「あっ、先任」

 

「今は就寝時間だぞ。何を騒いでいる?」

 

葉月が就寝時間なのに何故起きているのかを尋ねる。

 

「ごめんなさい、新作レシピの研究をしていたらこんな時間になっちゃって‥‥」

 

みかんが杵崎姉妹を庇うように言う。

 

「研究熱心なのは良いが、あんまり無理をしない様に。でも何があった?何か口論していたみたいだけど?」

 

葉月が三人に事情を尋ねる。

 

「実は‥‥」

 

ほまれが口論の原因となった理由を話す。それによると厨房の台の上に置いた食材が無くなったのだと言う。

あかねはほまれが何処か別の所に置いたのを勘違いしたんじゃないかと言い、ほまれがそれに反論して、先程の口論に発展したのと言う。

しかし、ほまれは確かに此処に食材を置いたのだと言う。

そこで誰かがつまみ食いをしに厨房へ侵入したのではないかと疑ったが、誰かが厨房に来た気配はなかったと三人は証言する。

 

「これはやっぱりアレだよ!!ホラ、中学生の時にもあったでしょう?家庭科室のあの話」

 

あかねが思いだしたかのように言う。

 

「家庭科室?‥‥ああ、アレね」

 

「そうそう、家庭科室の消える食材の話、アレ、オチが怖かったよね」

 

ほまれとみかんは、思いだしたかのように言い合う。

 

「それ、どんな話なの?」

 

葉月が興味深そうに尋ねる。

 

「えっと、ですね、家庭科室からよく食材が無くなる事件が多発して、誰かがつまみ食いをしているんじゃないかと思って、食材を置いた後、監視カメラをセットしたんですよ」

 

「そして、翌日になるとやっぱり食材は消えていたので、監視カメラの映像を再生してみた所‥‥」

 

「キッチン台の下から手が伸びて来て食材を持って行ったらしいの‥‥」

 

ほまれ、あかね、みかんの三人が台詞を分ける形で、彼女らの中学校にあった七不思議の一つ、消える家庭科室の食材を話し始める。

 

「それってキッチン台の下に誰かが潜んでいたの?」

 

葉月はまさかのオチで実はキッチン台の下に人が隠れていました。なんてオチはないだろうと思いつつ三人に尋ねてみた。

 

「もちろん誰もがそう思ってそのキッチン台を調べてみると‥‥」

 

「そのキッチン台は流しがついているタイプのものだったんだけど、その台の下には人が隠れるスペースなんて無かったの‥‥」

 

「「‥‥」」

 

あかねは少し俯き、不気味さを演出しながら話す。

彼女らの話はまだ続きそうなので、葉月ともえかはジッと三人の話に耳を傾けた。

 


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