ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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26話 天照出航

 

「「せーの」」

 

二人は閉じていた目を開けてクラス分けの掲示板を見て、自分達の名前を探した。

そして、明乃の名前は、

 

『超大型直接教育艦 武蔵 艦長 岬明乃』

 

と、書かれていた。

 

「ミケちゃん凄いじゃない!!武蔵だよ!!ミケちゃん武蔵の艦長さんだよ!!」

 

「‥‥」

 

もえかは明乃が武蔵の艦長になっていることに驚きつつ祝福するが、明乃自身は目が点になっている。

 

「ミケちゃん?」

 

「わわわわわわ私が‥‥むむむむむ武蔵のかかかか艦長‥‥」

 

もえかが声をかけると、明乃は珍しく動揺していた。

 

「そそそそそんな‥‥私で大丈夫かな?艦長の仕事なんて受験勉強でやっただけだし‥‥」

 

「大丈夫だよ、ミケちゃんならきっと良い艦長さんになれるって」

 

「そ、そうかな‥‥」

 

もえかに励まされてもやはり不安な様子の明乃だった。

 

「もかちゃんはどのクラスなの?」

 

「えっと‥‥私は‥‥」

 

もえかが掲示板に目を通し、自分の名前を探す。

そして自分の名前を見つけると其処には、

 

『超大型直接教育艦 天照 艦長 知名もえか』 

 

と、書かれていた。

 

「「天照?」」

 

聞いたことのない艦名に二人は首を傾げた。

 

「天照って聞いたことのない艦だね」

 

「う、うん‥‥」

 

「それに超大型直接教育艦って事は武蔵と同じ位の大きさだよね?」

 

「でも、武蔵と同じ位の大きさの艦なんて見当たらないよ。それに副長さんの名前も無い」

 

二人は辺りを見回すが、武蔵と同じ位のデカイ艦ならば嫌でも目立つはずであるが、辺りに武蔵と同レベルの大きさの艦など見当たらない。

更には各艦にいる筈の副長の名前も空白になっていた。

 

「あっ、此処に何か書いてあるよ」

 

天照クラスの下には、追加の張り紙があり、

 

『なお、天照クラスの生徒は海洋実習日の当日、桟橋に集合』

 

と書かれていた。

 

「もしかして宗谷校長が言っていた助っ人ってこの天照って言う艦なのかな?」

 

「そうかもね。でも、副長さんが不在なのはちょっと気になるなぁ‥‥」

 

天照のことに関して一応、納得した二人。

しかし、もえかは副長が居ない事で、もしかしたら、実習中、自分は副長抜きで実習を行わなければならないのかと明乃とは違う意味で不安を感じた。

 

「大丈夫だよ、船は別々だけど同じ海の上だもん。私には武蔵の、もかちゃんには天照の新しい仲間ができるし」

 

明乃は、自分が武蔵の艦長が務まるのか不安に思ったが、もえかも不安に思っているのを感じ取り、彼女を励ます。

 

「そうだね。海の仲間は家族だもんね」

 

「頑張って卒業してブルーマーメイドになろうね!もかちゃん!!」

 

「うん」

 

「海に生き!」

 

「海を守り」

 

「海を行く!」

 

「「それがブルーマーメイド!」」

 

明乃ともえかがブルーマーメイドの標語を語り合うと、

 

「ブルーマーメイドの標語だ~。懐かしいね」

 

「私達も子供の頃やったよね」

 

「「//////」」

 

他の生徒に聞かれ、二人とも赤面した。

 

「各艦の艦長となった生徒は、今から艦長服と制帽を支給しますので、至急体育館までお越しください」

 

艦長服と制帽の支給があると言う事で、明乃ともえかは体育館へと向かった。

体育館にて各艦の艦長となった生徒達が集まる。

艦長の生徒全員に制帽は配られるが、制服については中型教育艦(重巡)以上の艦長に支給された。

白い制帽と同じく白い詰襟タイプの艦長服を受け取り、明乃ももえかも終始笑みを浮かべていた。

 

明乃ともえかの二人が体育館に向かった後、真白はクラス分けの掲示板を見て、唖然とする。

 

(ふ、副長‥‥わわわわ私が武蔵の副長だと!?)

 

武蔵に乗れるのは嬉しい。

しかし、武蔵のトップではなく、ナンバー2と言う事実に真白は愕然とした。

 

(な、何故だ‥‥試験は完璧だったはずなのに‥‥何故‥‥)

 

真白は自分の敗因を知る由も無く、暫くの間ベンチに座り、そのままショックを受けていた。

 

一方、真白が去った後、麻侖と黒木もクラス分けの掲示板を確認した所、二人は同じクラスとなっていた。

ついでに言うと合格発表の際、色々あった留奈達四人組と顔馴染みの杵﨑姉妹とみかんも同じクラスだった。

 

「やったぜぃ!!クロちゃん同じクラスだな!!それに他の奴等も一緒か‥‥こりゃ、楽しい航海になりそうだな!!」

 

「そ、そうね‥‥」

 

麻侖は黒木と同じクラスになれた事に大喜びをしたのだが、黒木の方は、

 

(宗谷さんは‥‥やっぱり武蔵ね‥‥)

 

真白の名前を見つけ、クラスが異なる事にショックを受けつつも、

 

(まぁ、当然の結果ね‥‥半年足らずの努力じゃ、やっぱり無理よね‥‥)

 

真白と同じクラスになれなかったのは仕方がないと割り切った。

 

 

海洋実習は翌日と言う事で、新入生達は家へと戻り、明日からの海洋実習の準備へと取り掛かった。

その日の夜、葉月も翌日の海洋実習の準備を済ませ、一人部屋で小説を読んでいた。

すると、部屋のドアをノックする音がした。

 

「どうぞ」

 

「はぁ~い~こんばんは、葉月」

 

「ま、真霜さん‥‥」

 

夜更けに尋ねて来た真霜に警戒する葉月。

これは何時ものパターンかと思ったが、真霜は、

 

「しばらく葉月と会えなくなるので、葉月の淹れたコーヒーが飲みたい」

 

と言って来た。

確かに葉月は明日、朝早くに出るので、朝食でコーヒーを真霜に振舞う時間的余裕は無い。

そこで、葉月は真霜のリクエストに応える事にした。

 

真霜と自分の分のコーヒーを淹れ、葉月は再び読んでいた小説に目を通す。

時計の針のチッ、チッ、チッと言う音だけがする葉月の部屋で真霜は葉月の淹れたコーヒーをゆっくり味わうように飲み、葉月は相変わらず小説に目を通している。

すると、不意に葉月が真霜に声をかける。

 

「ねぇ、真霜さん」

 

「ん?なにかしら?」

 

「真霜さんはドストエフスキーの『罪と罰』を読んだことはありますか?」

 

「えっ?ええ‥学生時代に‥‥えっとアレは‥‥」

 

真霜は学生時代に読んだことの有る小説の内容を思いだそうとするが中々思いだせない。

 

「高利貸しのお婆さんと殺害現場に偶然居合わせたその妹を殺してしまった青年、ラスコーリニコフの物語ですよ‥‥彼は罪の意識さいなまれる‥‥」

 

葉月は振り返り、真霜の顔をジッと見る。

 

「‥‥」

 

真霜は葉月の無表情なその表情に少し寒気を感じた。

 

「真霜さん」

 

「な、何かしら?」

 

「ラスコーリニコフが‥‥自分が本当に殺したかったのは誰だと思います?」

 

「さ、さぁ‥‥」

 

「‥‥そう」

 

葉月は再び真霜に背を向けて小説へと目を移す。

真霜はコーヒーを飲みながらチラチラと葉月の様子を窺った。

後ろから見た葉月の姿は何だかはかないようにも見え、このまま葉月が帰って来ない様にも見えた。

 

やがて、葉月は小説を閉じ、真霜もコーヒーを飲み尽くした後、

 

「はぁ~づぅ~きぃ~」

 

真霜は先程の思いを振り切って葉月に抱き付く。

 

「ま、真霜さん!?」

 

真霜に抱き付かれ、驚いた時の葉月の表情は普段の葉月に戻っているように見えてちょっと安心した真霜だった。

 

「明日から実習でしょう?暫く葉月に会えなくなるから、やっぱり葉月分を此処でもらいたいなぁ~」

 

(やっぱりこんな展開かよぉ~!!)

 

真霜は葉月をベッドに押し倒すし、一度距離を取ると、

 

「はぁ~づぅ~きぃ~ちゃ~ん」

 

「うわぁぁぁぁ~!!」

 

ルパンダイブをかまして葉月を抱いた。

 

 

翌日、真霜は目を覚ますと、葉月の姿はなく、机の上には『罪と罰』の文庫本が一冊ポツンと置かれていた。

 

(葉月‥‥行っちゃったんだ‥‥)

 

真霜は人知れずに行ってしまった葉月に寂しさを感じつつ、葉月の匂いが残ったベッドに再び沈み、二度寝した。

 

横須賀女子の桟橋では、天照クラスの生徒達は昨日、クラス分けの掲示板に貼られていた張り紙の指示に従って、待機していた。

ただ、自分達は何故、他のクラスと違って桟橋に集合なのか不思議に思っていた。

 

「私たちだけ此処(桟橋)に集合って、何だろうね?」

 

「さあ?」

 

「天照ってそんな艦あったけ?」

 

「聞いたことない艦名だよね」

 

皆がざわついている中、白い制帽に白い詰襟の艦長服に身を包んだもえかに、

 

「ねぇ、知名さん。知名さんは何か聞いていない?」

 

黒木がもえかに何か知っていないかを尋ねる。

 

「私も詳しくは知らないけど、昨日宗谷校長が言っていた助っ人なんじゃないかと私は思っているわ」

 

「成程‥確かに天照なんて艦聞いたことが無いものね‥‥新造艦かしら?」

 

「うん、多分そうだと思う」

 

クラスメイトがざわついていると、横須賀女子の教官の制服を着た女性が桟橋に現れた。

 

「天照クラス全員揃ったか?」

 

教官の声を聞き、生徒達は整列する。

 

「艦長、クラスメイトは全員揃っているか?」

 

「はい」

 

「指導教官の古庄です。今日から貴女達は高校生となって海洋実習に出ることになります」

 

古庄は天照クラスの生徒を見渡し、自己紹介をする。

 

「辛いこともあるでしょうが『穏やかな海はよい船乗りを育てない』という言葉があります。仲間と助け合い厳しい天候にも耐え荒い波を超えた時あなた達は一段と成長しているはずです。また丘に戻った時立派な船乗りになった貴女達と会えることを楽しみにしています」

 

古庄が実習の意義を皆に伝ええ、

 

「なお、貴女達が乗艦する艦ですが、現在、横須賀大型船ドックに停泊しているので、これより、水上バスにて、横須賀大型船ドックへ向かい、そこで乗艦となります。出航後は他の学生艦と一時合流した後、各自指定された針路で合流地点の西之島新島を目指してもらいます」

 

乗艦する艦が横須賀女子の港に停泊していない理由を話し、水上バスにてこれより乗艦する艦の下へ向かってもらう旨を伝える。

 

「では、各自、準備出来次第、乗船」

 

『はい』

 

天照クラスの生徒達は荷物を手に持ち、次々と用意された水上バスへと乗って行く。

すると、水上バスには生徒達よりも早く先客が乗っていた。

 

「あれ?猫だ」

 

水上バスの座席には横須賀女子の敷地内で度々目撃されていたあのドラ猫がチョコンと座っていた。

 

「どこから来たんだろう?」

 

「勝手に乗り込んできたみたい」

 

「どうする?」

 

「もうバス出ちゃったし」

 

今から桟橋へ戻る事は不可能なので、仕方なく、連れて行く事になった。

 

もえか達、天照クラスの生徒達が水上バスで横須賀大型船ドックへ向かっているその頃、武蔵の教室では、

 

(はぁ~‥‥何で副長なんだ‥‥そりゃ武蔵に乗れるのは嬉しいが‥‥)

 

真白が未だに落ち込んでいた。

すると、そんな真白に声をかけてくる人物が居た。

 

「あ~!一緒の船なんだ!」

 

「ついてない‥‥しかも此奴が武蔵の艦長‥‥」

 

その人物は紛れもなく、昨日自分を海へ叩き落とした明乃であった。

しかも明乃は横須賀女子のセーラー服ではなく、艦長の証である白い制帽と白い詰襟の制服を着ていた。

 

「縁があるのかな?」

 

「絶対ない!」

 

真白は思わず声を荒げる。

 

「私、岬明乃」

 

「‥‥宗谷‥真白」

 

明乃が自己紹介をしたので、真白も渋々自らの名を名乗る。

 

「宗谷真白さん?副長さんだよね!よろしくね!」

 

「あ、ああ‥‥」

 

(岬‥明乃‥‥)

 

そこへ、桟橋から武蔵へ指導教官の古庄がやって来て自己紹介と挨拶を行い、武蔵は出航準備となる。

古庄が武蔵の教室を出ると、明乃は慌てて古庄の後を追う。

 

「あの!古庄教官!」

 

「何かしら?」

 

「どうして私が艦長なのでしょう?その‥‥私は艦長になれる程の器じゃ‥‥」

 

「では聞くけど貴女の理想の艦長とは?」

 

古庄は明乃に理想の艦長像を尋ねる。

 

「それは‥‥船の中のお父さん。みたいな‥‥船の仲間は家族なので!」

 

「ではそうなればいいわ。この武蔵に相応しい艦長に‥‥」

 

武蔵は横須賀女子のエリートが乗る船だが、古庄は押し付けるような教育はせず、生徒の自主性を重んじる教官だった。

 

 

その頃、もえか達を乗せた水上バスは横須賀大型船ドックへと着いた。

 

「お待ちしておりました。横須賀女子海洋高校の皆様」

 

船着き場では、ドックの技師がもえか達を出迎えた。

 

「では、皆様が乗艦される天照へご案内させて頂きます。どうぞ此方へ‥‥」

 

技術者の案内の下、もえか達がドックの中を進んで行く。

ちなみに水上バスに便乗していたあのドラ猫はもえかが抱いている。

 

『っ!?』

 

ドックには超大型の戦艦が鎮座していた。

 

「な、なにこの艦‥‥」

 

「デカっ!!」

 

クラスの皆は天照の姿を見て唖然としている。

そして、タラップの前には黒い詰襟に軍帽を被った人物が立っていた。

 

(あっ、アレはっ!?)

 

もえかがタラップ前に立つ人物に気づく。

 

「ようこそ、天照へ」

 

タラップの前に立つのは葉月であり、葉月の姿をみたもえかは思わず、

 

「お姉ちゃん!!」

 

と、声を出してしまった。

 

「ええっー!!」

 

「あの人、知名さんのお姉さんなの?」

 

もえかの「お姉ちゃん」発言にざわつく生徒達。

 

「えっ、あ、あの人は、その、血の繋がったお姉ちゃんってわけじゃなくて‥‥」

 

「それじゃあ、『お姉さま』ってやつ?」

 

「禁断の愛‥‥」

 

またもやもえかの一言にざわつくクラスメイト達。

このままでは収拾が点かないので、

 

「ああ、もう!!みんな、整列!!」

 

もえかは抱いていた猫を下ろして声を上げて、皆を整列させる。

 

「知名もえか以下、三十名、天照クラスへの着任を受け、只今到着いたしました」

 

もえかが葉月に着任の挨拶をする。

 

「天照艤装員長の広瀬葉月です。今回の実習では先任士官として皆さんの実習に同行いたします」

 

葉月ももえか達に挨拶し、

 

「これが、艦内図と部屋割りが記してあるしおりです。各自、部屋に荷物を置いたら、教室に集合させてください」

 

もえかに事前に製作したしおりを手渡す。

 

「分かりました」

 

もえかはクラスメイトにしおりを配る。

そして、もえか達は天照へと乗艦する。

クラスメイトは今まで見た事の無い大型艦が物珍しいのか辺りを見渡している。

しおりをもらってもまだ来たばかりで慣れずに部屋を間違えたり、迷ったりするクラスメイトも居た。

漸く教室に集まったのは、乗艦してから10分もかかった。

 

教室に集まった皆は葉月から天照の大まかなスペックとドックを出航した後、その他の学生艦との合流地点である西之島新島沖への航路を説明する。

葉月の話を聞いて、麻侖は大型艦の機関を動かせると興奮し、

制服の上からオレンジ色のパーカーを着ている西崎芽依(いりざきめい)はデカい砲を撃てると目をキラキラして、

航海科に所属している鈴は、「こんな大きな艦、操艦できるかな?」と不安な様子だった。

ミーティングが終わり早速皆は出航準備へと取り掛かる。

 

葉月達艦橋メンバーが艦橋に上がると、ジャイロコンパスの上に猫が座っていた。

 

「あっ、お前は‥‥」

 

葉月はこの猫に見覚えがあり、猫の頭を撫でる。

すると、

 

「クシュン」

 

くしゃみが出た。

 

「あれ?おね‥‥先任、風邪?」

 

もえかが顔をのぞかせて尋ねてくる。

 

「い、いやそんな筈は‥‥クシュンっ!!クシュンっ!!」

 

葉月は相変わらずくしゃみを連発する。

 

「もしかして猫アレルギーかな?」

 

「猫アレルギー?」

 

「猫と接触することによってくしゃみとかが出るアレルギー反応の事だよ」

 

「そうなの?クシュンっ!!‥‥で、この猫何処から来たの?学校に居た猫に見えるけど‥‥クシュンっ!!」

 

「此処に来る水上バスに乗り込んできたみたいで‥‥」

 

「クシュンっ!!」

 

「大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫‥‥クシュンっ!!」

 

葉月は大丈夫と言うが大丈夫そうではないので、とりあえず、猫を艦橋から出す。

 

「では、改めまして艦長の知名もえかです。よろしくね!」

 

艦橋メンバーは役職と名を名乗る。

 

「先任の広瀬葉月」

 

「私は書記の納沙幸子(のさこうこ)です」

 

「水雷委員の西崎芽依よ」

 

「わ…私、航海長の知床鈴です」

 

「ほ‥‥ほ‥‥」

 

立石は自分の所属と名前を名乗ろうとするが、口下手なのか上手く出て来ない。

 

「砲術委員の立石志摩さんだよね?」

 

そこでもえかが確認するかのように立石に尋ねる。

 

「う、うん」

 

立石は間違いないと頷く。

 

「では、艦長、出航の指示を」

 

「はい。総員定位置に着いて!出航準備!」

 

「出航準備!」

 

もえかが出航の指示を出し、葉月が伝声管にて皆に出航の指示を出す。

 

「舫いはなて」

 

天照とドックを係留していた舫いが放たれ、機関が始動する。

 

「天照出航!機関、微速前進!」

 

「機関、微速前進!」

 

天照の機関がうなりを上げ、ゆっくりとドックを離れる。

 

ドックから海原へと出ると、

 

「左舷前方、横須賀女子、学園艦を視認」

 

天照から左前方に横須賀女子から出航した武蔵以下の学生艦の姿が見える。

 

「航海長、本艦を武蔵の右舷側へ」

 

「りょ、了解」

 

「機関、微速から巡航速度へ上げろ」

 

鈴が舵をきり、針路を武蔵の横へと向ける。

天照も速度を上げて他の学園艦と合流する。

天照の姿を見た学生達はさぞや驚いている事だろう。

念の為発光信号にて所属を知らせながら、天照は武蔵の右舷側を航行する。

 

「ん?‥‥艦長、展望指揮所(防空指揮所)へ上がられては?」

 

「えっ?」

 

葉月は双眼鏡で武蔵の展望指揮所を見てみる様にアイコンタクトをもえかに送る。

もえかが武蔵の展望指揮所を双眼鏡で覗くと、其処にはもえかの友人の姿が見えた。

 

「先任、少しの間、艦橋を頼みます」

 

「了解」

 

もえかは急ぎ、展望指揮所へと登る。

そして、展望指揮所へと登ったもえかは、帽子を振り、

 

「ミケちゃん!」

 

武蔵の展望指揮所に居る友人に声をかける。

 

「もかちゃん!」

 

明乃ももえか同様、帽子を振ってそれに答える。

横須賀女子の学生艦は、暫くは艦隊行動をとったが、その後は学校側が指定した別々の航路で集合地点の西之島新島沖を目指した。


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