ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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21話 初詣

海上安全整備局の海洋研究機関内で偶然誕生した突然変異種のマウス〈通称RATt(ラット)〉は、調査・研究が重ねられて行き、その結果特殊な生体電流が確認された。

この生体電流に関しては、まだ調査中でどういった電流なのかは不明だったが、それ以上の研究目的として、「密閉環境における生命維持及び低酸素環境に適応するための遺伝子導入実験」と言う研究が行われる事になった。

この実験に何故このマウスが使用されたのかと言うと、その理由は、このマウスの遺伝子が通常のマウスと異なる為であった。

実験は文部科学省海洋科学技術機構、海上安全整備局装備技術部、国立海洋医科大学先端医療研究所の三者共同で行われ、マウス達を実験艦(潜水艦)に乗せ、その実験艦をある程度の深さの海の底へ一定期間沈めた後、その後浮上させ、マウスの状態を見ると言うモノだった。

マウスを乗せた実験艦は現在海底火山の動きがみられ、現在船舶・潜水艦の航行が禁止となっている西之島新島付近の海域に沈められる事になった。

この海域ならば、船舶及び潜水艦の航行が無いので、誰にも邪魔されずに実験を行えると言う為、この海域が選ばれたのだ。

 

マウスを乗せた実験艦は予定通りの深さで海の底へと沈められ、後は浮上時期に生き残っていたこのマウスと搭載されている計器のデータを回収し研究・解析をするだけだった。

勿論実験艦の位置はビーコンで常にその位置は探知されており、見失う心配はなかった。

しかし、選んだこの海域が現在海底火山の動きがみられる海域であり、ある日、その海底火山の活動により、実験艦はサルベージ不可能な水深1500mまで沈没してしまった。

深海深くへと沈んだ事で実験艦からのビーコンも届かなくなり、その事から、実験艦は水圧で圧潰し、マウスは全滅したものと推測され、文部科学省海洋科学技術機構、海上安全整備局装備技術部、国立海洋医科大学先端医療研究所はこの実験の存在を闇へと葬った。

実験艦には研究員や技術者が乗っていた訳ではないので、人的被害は無く、死んだのは突然変異種のマウス達だけで、精々一部のマスコミや動物愛護団体からの抗議が来るぐらいだが、災いの芽は出てくる前に潰してしまおうと考えたのだ。

そして、世間では突然変異種のマウスが誕生していた事も、このマウス達が実験で海の底へと沈められた事を知る由も無く、普段と変わらない日常の時間が流れた。

 

 

ブルーマーメイドフェスターから月日は流れ、間もなく本格的な受験シーズンが近づこうとしていた。

そんな中、宗谷真白は、横須賀女子を目指す為、学習塾に通って勉学に勤しむ日々を送っていた。

 

「うぅ~」

 

その日、真白は先日行われた、模擬試験の結果表を見て、険しい表情をしていた。

その結果表には、

 

『志望校 横須賀女子海洋高校 合格率 20% 志望校の変更を考える必要あり』

 

と、書かれていた。

 

「何故だ!!何故!!こんな低い結果なんだ!!あの時の模擬試験は九割以上あっている筈なのに!?」

 

真白本人としては、模擬試験後の自己採点では、90点代の筈なのに、どういう訳か、点数は殆どが20点代と表記されている。

その事実に真白は、「これは何かの間違いじゃないか」と一人憤慨していた。

 

「真白ちゃん?」

 

そこへ、葉月が真白の部屋を尋ねて来た。

 

「なんです!?」

 

尋ねて来た葉月に真白は声を荒げる。

それはまるで、生理中の葉月の様に機嫌が悪かった。

 

「ご、ごめん‥部屋の外にも聞こえる程の大声を出していたから‥‥その‥気になって‥‥」

 

「っ!?な、なんでもありません」

 

真白は気まずそうに葉月から視線を逸らす。

 

「あっ、それ‥‥佐々木ゼミナールの模擬試験結果だね」

 

葉月は真白が手に持っている封筒に見覚えがあったので、確認するように真白に尋ねる。

 

「ど、どうして知っているんです!?」

 

どうやら、真霜の持っている封筒は葉月の予想通りのモノだった様だ。

 

「自分の知り合いがこの前、佐々木ゼミナールの模擬試験を受けていたから。ちなみに受験する学校は真白ちゃんと同じ、横須賀女子だよ」

 

「‥‥そ、そうですか」

 

葉月の知り合いが自分と同じ横須賀女子を受けると言う事実を聞き、やはり横須賀女子は人気が高いと思い知らされると同時に、この時期に合格率がたった20%の自分が受かるのかと言う不安が真白を支配する。

 

「ち、ちなみに葉月さんは、その知り合いの結果はご存知なんですか?」

 

「うん、知っているよ。結果が出た後、皆で集まって自己採点をして、問題点や課題点を話し合ったからね」

 

「‥‥その知り合いの合格率は幾つでしたか?」

 

真白はグッと唇をかみしめた後、声を振り絞るかのように葉月の知り合い(もえかと明乃)の合格率を尋ねる。

 

「うーんと、二人いるけど、その内、一人(もえか)は90%後半で、もう一人(明乃)は80%後半だよ」

 

「‥‥」

 

葉月の知り合いの横須賀女子の合格率を聞いた真白は悔しそうに顔を歪め、唇を噛んだ。

真白は根が真面目なのだが、その反面、どうもプライドが高い所がある。

それは自分がブルーマーメイドの名門家、宗谷家の出身であると言う事を誇りに思っている所からきている。

その為、真白は受験に関してもあまり周りには頼らず孤高を貫いていた。

真白の様子を見て、葉月は真白の模試の結果が思わしくないのだと判断した。

そして、真白と一緒に生活をしていて、彼女が受験に関してあまり人を頼っていない事も見て来た。

このままでは、本当に真白は受験に失敗すると思い、葉月は余計なお節介かもしれないが、アドバイスをする事にした。

 

「‥‥これは余計なことかもしれないけど、真白ちゃん、もう少し人に頼った方が良いんじゃないかな?」

 

「‥‥」

 

真白もそれは分かっている。

もうすぐ受験だと言うのに模擬とは言え、こんな低い合格率では、志望校に落ちてしまう。

ブルーマーメイドの名門家、宗谷家の者としてそれは何としても避けなければならない。

だが、その反面、どうしても自分の中のプライドが人に頼ると言う事を許さない所が反発する。

まして、今回の様な恥ずかしい成績結果を他人に見られたくないと言う所もある。

でも、今は横須賀女子に受かる為、時間も無い‥‥恥も外聞も気にしている暇はない。

ブルーマーメイドフェスターで武蔵に乗ろうとした時も自分は宗谷家の名前を使ったじゃないか。

横須賀女子に落ちれば、それこそ目も当てられない。

母や姉達は自分に失望するかもしれない、家を勘当されるかもしれない。

追い詰められたあげく、真白は‥‥

 

「‥‥葉月さん」

 

「ん?」

 

「その‥‥これから見せる模擬試験の結果は‥‥姉さん達や母さんには黙っていて貰えませんか?」

 

真白はそう言って、今回の模擬試験の結果を葉月に見た。

 

「‥‥」

 

葉月は真白の模擬試験の結果を見て、違和感を覚えた。

あの真面目な真白がこんな低い成績結果を出すだろうか?

勿論努力=結果が必ずしも比例するとは言い切れないが、それでもこの結果は普段の真白を見ている限りあまりにも低すぎる。

 

「真白ちゃん、今回の模擬試験の問題と解答用紙はある?」

 

「え、ええ‥あります」

 

「見せて」

 

「は、はい‥‥コレです」

 

真白は模擬試験の時に配られた問題用紙と封筒に同封されていた解答用紙を葉月に見せる。

 

「‥‥」

 

葉月は問題用紙と真白の解答用紙を見比べる。

すると‥‥

 

「‥‥真白ちゃん」

 

「は、はい」

 

「‥‥これ、本来の解答すべき解答欄がズレている」

 

「‥‥」

 

葉月の指摘に気まずい空気が真白の部屋に流れる。

 

「本来の解答なら、九割以上の正解だけど、解答欄がズレていたから今回の様な成績になっていたんだけど‥‥」

 

自己採点した結果、真白の予想通り、本来ならば、合格率の数値は高かった。

その事から、真白は成績には特に問題はなかった。

欠点と言えば、真白が緊張したのか試験の際におっちょこちょいなミスをした事だろう。

真白は、解答用紙は見ずに、今回の模擬試験の結果表を見てショックを受けていたのだ。

 

「‥‥真白ちゃん、答えを記入する時、ちゃんと解答欄を確かめて記入した?」

 

「‥‥//////」

 

葉月の問いに真白は顔を赤くして、葉月から視線を逸らした。

どうやら、真白は問題の答えを記入する時、解答欄をよく確かめずに答えを記入した様だ。

 

「‥今度から答えを書く際には、手か定規で未記入の解答欄を隠して記入したらどうかな?」

 

「‥‥そ、そうします//////」

 

真白は羞恥で顔を赤くしながらそう言いつつ、

 

(よかった、自分は決してバカじゃなかったんだ‥‥)

 

と、安心している自分も居た。

 

その後、真霜は別の学習塾で行われた模擬試験を外部参加として受けた。

その時の模擬試験で真白は葉月の忠告通り、未記入の解答欄には定規を当て、解答の記入ミスを防いだ結果、合格率は90%代の数値を叩きだし、受験に関して自信がついた。

しかし、真白は葉月から、たとえ合格率が90%代でも油断はするなと忠告は受けた。

その時、真白は、「分かっています」と答えたが、彼女の浮かれ具合を見て、本当に分かっているのかとちょっと心配になる葉月であった。

 

 

そして、年が明けた新年‥‥

 

神社は初詣の参拝客で大変な賑わいを見せていた。

そんな参拝客達を巫女衣装に身を包んだ八木鶫(やぎつぐみ)と鶫の幼馴染である宇田慧(うだめぐみ)は眺めていた。

慧は今日、鶫の神社が初詣で混雑する事が予想されたので、手伝いに呼ばれたのだ。

しかし、今の慧は巫女装束でなく、私服の上にコートを羽織っている姿だ。

 

「お~お~相変わらず、凄い人数だね」

 

「大きい神社だからね」

 

慧は大勢の参拝客を見て呟く。

そして、鶫は神社が賑わっている理由を話す。

 

「それにほら横須賀女子の受験で来ている子も多いだろうから‥きっと、この中にも横須賀女子を受ける子もいると思うよ」

 

「そう言えば、もうすぐだよね‥‥」

 

慧はもうすぐ横須賀女子の入学試験が近づいている事を指摘する。

鶫の神社は横須賀女子の直ぐ近くにあり、しかも学業成就の神社であり、この時期は大変賑わうのだ。

 

慧からの指摘で鶫も受験が迫っている事を自覚する。

 

「鶫ちゃんは、受験勉強は進んでいる?」

 

慧は鶫に受験状況を尋ねる。

鶫も慧も共に横須賀女子を受験する受験生なのだ。

 

「言わないで~」

 

慧からの質問に鶫は視線を逸らし、やや落ち込んだ様に言う。

どうやら、あまり芳しくない様だ。

 

「とにかく今は巫女としての奉仕を頑張らなくちゃ」

 

「そうだね」

 

鶫は気分を切り替えて、受験よりも今は目の前の仕事に集中する事にした。

 

鶫が社務所でお守りを売っている時、慧は鶫の後ろで小さな旗を振って鶫を応援し、鶫がお使いで神社の彼方此方を駆けずり回っている時、慧はカルガモの雛の様に鶫の後を追い、案内所での仕事の時は、

 

「声出して頑張ろう」

 

と、慧は鶫を励ますが、

 

「あの、手伝ってほしいんだけど‥‥」

 

慧の声援はたいして役に立ってはいなかった。むしろ手を出してくれた方が鶫としては助かった。

その間にも神社の参拝客は増々増えていく。

 

「それにしてもどんどん人が増えてくるね」

 

「ますます忙しくなるよ」

 

この後も仕事量を考えるとなんだけで、モチベーションが落ちてくる。

 

「もう少し人手が必要なんじゃない?」

 

慧がこのままの人数で運営できるのかちょっと心配になる。

 

「うん、そうだね‥‥でも、宇田ちゃんが手伝ってくれれば一番手っ取り早いんだけどね‥‥その辺どうお考え?それに今から人手を増やすと言っても巫女経験者じゃないと‥‥一から作法を教えている時間も暇もないし‥‥」

 

「それじゃあ、私が探してあげよう!!これだけ人が居るんだし、一人くらい見つかるかも~ 人探し宇田レーダー発動~~!!」

 

慧は変なポーズをとり、参拝客の中から巫女経験者を探し始める。

 

「なに、その変なポーズ?それにそんなに都合よく‥‥ん?」

 

鶫がふと、手水舎の方を見ると、其処には一人の少女が手水を使っていた。

その少女は、手水舎に一礼した後、右手で柄杓(ひしゃく)を取り、手水を掬(すく)い、その手水で左手を清め、次に柄杓を左手に持ち替え、同様の動作で右手を清めた。

次にもう一度右手に柄杓を持ち替え、左の手のひらに手水を溜めて口に含み音を立てずに口をゆすいで清め、左手で口元を隠してそっと吐き出す。

その後、最初に左手を清めた動作で左手を清め、最後に柄杓の柄を片手で持ち、椀部が上になるよう傾け、柄に手水をしたたらせて洗い流し、柄杓を元の位置に静かに戻し、一礼した。

それは洗礼された手水作法であり、それらの動作から彼女が巫女または神職の関係者だと鶫はすぐに分かり、彼女の方へと近寄った。

 

 

知床鈴(しれとこりん)は今年、横須賀女子を受験する予定の受験生で、受験成就と名高いこの神社の御利益にあずかろうと一人で神社に参拝に来ていた

鈴の実家も神社であり、昔からの癖なのか、手水舎にて一般的な手水作法を行い、その後、参拝しようとした時、

 

「お嬢さん」

 

背後から突然声をかけられた。

 

 

「お嬢さん」

 

鶫は手水舎にて、手水作法をしていた少女に声をかけた。

 

「はい?」

 

声をかけられ、鈴が振り向くと、其処には巫女衣装の同い年ぐらいの少女が立っていた。

そして、鈴に

 

「貴女、もしかして神職関係者では?」

 

と、自分が神社の関係者ではないかと尋ねて来た。

その巫女さんは笑みを浮かべているが、彼女の後ろでは、

 

とても忙しくて人手が足りない

 

お手伝いが欲しい

 

手伝って

 

人手欲しい

 

お願い

 

等の煩悩が鈴には見えた様な気がした。

 

「ち、違います」

 

本能的に危険を察知した鈴は無意識的そう答えた。

 

「その歳で手水作法を完璧にこなす素人なんて限りなくゼロに近いですよ!!お願いします~!!手伝って下さい~!!」

 

鶫は鈴が逃げ出さない様に抱き付いて、彼女に懇願する。

しかし、鈴は、

 

「ぐ、偶然です!!奇跡です!!テキトーにやってみただけです!!」

 

面倒事に巻き込まれるのは御免だとあくまで白を切る。

 

「わ、私はただお守りを求めに来ただけなんです!!」

 

そして、今日この神社へ参拝しに来た目的を鶫に話す。

すると、

 

「あら?ご自分の神社じゃダメなんですか?お守り?」

 

慧が鈴に尋ねる。

 

「いやぁ~家の神社の御利益はどちらかというと縁結び系で合格祈願はこの神社がいいかなぁ~と思いまして~」

 

「ほうほう、なるほど」

 

と、背後から現れた慧の質問につい正直に答えてしまった。

慧は鈴の答えを聞き、何故自分の家の神社では無く、他の神社に参拝しにきたのか納得した様子。

 

「やはり、神社の生まれでしたね~言質取りましたよぉ~」

 

(し、しまった!!)

 

当然鈴に抱き付いていた鶫にも鈴が神社の家の者だと聞こえており、鈴はあっさりと鶫に神社の家の生まれだとバレた。

 

「さっそく着替えましょう!!」

 

「あああああ~なし崩し的に手伝わされるぅ~」

 

鈴は号泣しながら。鶫に引きずられて行った。

何が悲しくて正月の三が日の期間、他の神社の手伝いをしなければならないのだろう?

鈴は自分の迂闊さと不幸と共に世の中の理不尽さを呪い、

引きずられて行く鈴を見て、慧は、

 

(私もちゃんと手伝おう)

 

鶫の様子を見て、本当に追い込まれているのだと確信し、今後はちゃんと手伝う事にした。


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