容姿もクイント・ナカジマをそのままご想像下さい。
武蔵の体験航海が行われる埠頭では、葉月達が出会った迷子の中島スバルと麻侖と黒木が出会った迷子の中島ギンガの中島姉妹は無事に会う事が出来た。
迷子となった中島姉妹を保護した葉月達と麻侖&黒木は互いに自己紹介をした。
そして、何故この武蔵の体験航海が行われる埠頭に来たのかを尋ねると、スバルが武蔵に乗ろうとしていた様に当然、ギンガも武蔵の体験航海に参加するので、葉月が思った様にギンガもこの埠頭ならば、妹と母親が来るのではないかと思い、この埠頭に来たのだと言う。
やがて、武蔵への乗船が始まったのだが、葉月達はまだ武蔵には乗船せず、ギンガとスバルの母親が来るかもしれないと言う事で、そのまま埠頭で待っていた。
すると、
「ギンガ!!スバル!!」
ギンガとスバルの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「「おかーさん!!」」
中島姉妹が駆けだし、一人の女の人に抱き付く。
女の人の服装は確かにジーンズを穿いている女性で、容姿はギンガをそのまま大きくした感じなので、三人が揃って「親子です」と言われても別に不思議では無かった。
ただ、二児の母にしては若い様に見えたが‥‥。
そして、ギンガとスバルが葉月達の事を説明すると、中島姉妹の母親が姉妹達と共に葉月達に近づいて、
「本当にありがとう。娘達がお世話になったみたいで‥‥」
と、葉月達に頭を下げて礼を言ってきた。
年上の女性にお礼を言われて、何だかこそばゆい感じがした明乃達であった。
「間もなく、超大型直接教育艦、武蔵は出航致します!!ご乗船のお客様はお急ぎください!!」
武蔵の出航を知らせる放送が流れる。
葉月、明乃、もえかの三人と中島親子は元々武蔵に乗る予定だったので、乗船タラップへと向かい、麻侖と黒木も此処まで来たのだから、折角なので武蔵の体験航海に参加する事にした。
その頃、武蔵の体験航海に参加したがっていた真白はと言うと‥‥
「あ~あ、もう!!『何が大丈夫』だ!!あのバカ姉め!!」
真白は開催本部から武蔵が停泊している埠頭へ走っていた。
フェスターのスケジュール調整とイベントの助っ人をこなした後、真白は着替える為に開催本部へと戻り、着替えたのだが、その後、真冬達に捕まり、お礼と称した女子会に強制参加となった。
武蔵に乗る為、時間が無いと言う真白に真冬は大丈夫だと言って、真白は女子会に強制参加させられたのだが、やはりと言うべきか、真白は時間ギリギリに解放された。
そして、走りながら体験航海の時間ギリギリまで自分を拘束していた姉(真冬)に対して、走りながら毒づく。
やがて、埠頭に着くと、
「すみません!!乗ります!!宗谷真白です!!乗せて下さい!!」
声を張り上げて真白は埠頭の横須賀女子の生徒達に声をかける。
真白自身、こんな私事で『宗谷』の名前を使うのは好ましく思っていなかったが、時間ギリギリで武蔵に乗れるか乗れないかの瀬戸際にもはや恥や外聞もない。
乗れるのであれば、『宗谷』の名前でもなんでも使ってやる。なりふりなんてかまっていられない真白。
タラップを仕舞おうとしていた乗員を押し切り、真白は何とか乗る事が出来た。
「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥な、何とか間に合った‥‥」
息を整えながら、ポケットからハンカチを取り出し、額に浮き出た汗を拭う。
やがて、ほんの少し体力と呼吸が回復し、楽になり、辺りを見回すと、真白は違和感を覚えた。
甲板上に一般客の姿が無かったのだ。
既に艦内に入ったのだろうか?
スケジュールが変わったとは言え、武蔵に乗りたいと思う一般客が少ない筈がない。
やがて、少し離れた所で音楽隊が演奏する音楽が聴こえて来た。
その音楽を聴いて真白は、
(あれ?この音楽が終わってから武蔵は出航する筈‥‥と言うか、音楽隊は武蔵の前で音楽を演奏する筈‥‥)
スケジュール調整をしていたので、真白は武蔵がどのような経緯で出航するのかを知っていた。
音楽が終わり、出航ラッパが鳴り響く。
真白の本能が自分に呼びかけている。
(これは武蔵では無い)
と‥‥。
しかし、
ガコンと、真白が乗っている艦が揺れる。
「ん?んんっ?」
突如、乗っていた艦が揺れた事により、
(なんだ、やっぱり、出航するんじゃないか、やはりこの艦で間違っていなかった‥‥)
真白がやはり、自分が乗っているのは武蔵だと確信を持ったその瞬間、
「支援教育工作艦 明石、接舷完了しました!!」
状況を報告する乗組員の声を聞いて、真白はピシッと固まった。
何故、今から出航する筈の武蔵に支援教育工作艦明石が接舷する必要がある。
武蔵同様、横須賀女子に所属する支援教育工作艦明石は主に艦船の整備・修繕を主目的としている艦だ。
その整備・修繕を主目的としている艦が今、自分の乗っている艦に接舷していると言う事は‥‥
真白は恐る恐る今、自分が乗っている艦の艦橋や周囲を見渡す。
すると‥‥
「こ、これは武蔵じゃない‥‥比叡だ‥‥!!」
真白は、声を絞り出しながら今、自分が乗っている艦が武蔵では無い事を察する。
エンジントラブルを起こした比叡の修理を行う為、明石と比叡の乗員達が修理作業を開始し始めている中、真白は自分の名前通り、真っ白になり、膝から崩れ落ちた。
真白の周囲では明石と比叡の乗員達の声が聞こえる。
そして、比叡と接舷した明石の横を、一般客を大勢乗せた武蔵が通過して行くのを真白の視線が捉えた。
全ての不幸は未来への踏み台の布石に過ぎない。
今日のこの出来事を自分は僥倖と思もうできだ。
確かに今年のブルーマーメイドフェスターは苦難の連続であったが、ブルーマーメイドへの‥‥横須賀女子への思いもより強固なものにする事が出来た。
それが分かっただけでもいいじゃないか‥‥
真白はそう割り切り、出航して行く武蔵に対してまるで宣言するかの様に、
「うぅ~‥‥待っていろよ!!武蔵!!私はお前に絶対に乗ってやるからな!!」
両手を高々にあげて、真白は武蔵に向かって叫んだ。
艦首で出向して行く武蔵に対して、叫んでいる真白を明石と比叡の乗組員は怪訝そうな顔で見ていた。
武蔵が埠頭を離れ、出航して行く際、甲板上に居た葉月の目の前にある別の埠頭には一隻の戦艦と工作艦が停泊していた。
(あれは、金剛級の戦艦だ‥‥この世界には金剛級の戦艦はそのままの艦影でそんざいしていたのか‥‥)
大和級と日本武尊級は似て異なる存在であったが、その他の艦船はそのままの姿で二つの世界に存在していた様で、艦尾から見た艦影から葉月は埠頭に停泊している戦艦が金剛級の戦艦である事を認識し、艦尾に書いてある名前を見て、驚いた。
艦尾には白い塗料で、『ひえい』と書かれていた。
(ひえい!?ひえいって、もしかしてあの比叡か!?)
葉月の知る比叡はあの真珠湾攻撃を始めとして、数多くの戦場を渡り歩いた高杉艦隊の旗艦として名をはせた戦艦だった。
武蔵が停泊している比叡の横を通り過ぎると、自分の知る比叡と目の前に止まっている比叡とでは幾つかの違いが見受けられた。
その大きな違いは電探と武装であった。
目の前の比叡の電探はこの時代の電探を装備しており、金網の様な電探では無く、棒状の電探で、兵装に関しても電探連動砲や高角砲群に全周防盾が装備されていない等の違いがあった。
葉月がジッと比叡を見ていると、艦首にて葉月の知る人物が武蔵に向かって叫んでいるのが見えた。
(真白ちゃん!?なんで比叡に乗っているんだ!?何か用があったのかな?)
葉月は真白が比叡に乗っている事に驚いたが、今日の真白はフェスターの運営を手伝っていると先程本人に聞いていたので、比叡に何か用があったのだろうと判断した。
まさか、本当の理由が武蔵と比叡を間違えた事など知る由も無かったが‥‥。
武蔵の体験航海は順調で、まず最初に乗員が一般客達を艦内に案内した。
そこで、設備の説明や一般客からの質問に丁寧且つ分かりやすく答えていった。
流石、横須賀女子の成績上位者と言うべき生徒達で、明乃ともえかは武蔵の乗員達を尊敬のまなざしで見ていた。
武蔵の機関室では、麻侖が目を輝かせていた。
大型戦艦の動いているエンジンに麻侖の気分は最高潮に達していた。
そんな子供の様に輝いている麻侖に黒木は苦笑しながら彼女の様子を見ていた。
一通り、艦内の案内が終わると、あとはフリータイムとなった。
「へぇ~クイントさんも元はブルーマーメイドだったんですね」
そこで、明乃達は、先程埠頭で知り合った中島姉妹の母親、中島クイントと後部甲板に設けられたテーブル席で談笑した。
それによると、クイントも元はブルーマーメイドの隊員であったのだが、結婚を機に寿退社をしたのだと言う。
しかし、現役時代には何と彼女はあの大和の副長を務め、その後は艦長となったと言う。
真霜の時と同じように明乃達はクイントからブルーマーメイド時代の事を聞いて、目を輝いており、今日になってブルーマーメイドに興味を抱いた黒木も興味深そうにクイントの話を聞いていた。
明乃達がクイントの話を聞いている頃、ギンガとスバルの面倒は葉月が見ていた。
「はづきおねえちゃん、かたぐるまして!!」
「いいよ‥よっ、と‥‥」
スバルにせがまれて葉月はスバルを肩車する。
「わぁぁぁぁ!!たかい!!たかい!!」
葉月に肩車をされてご満悦のスバル。
「ああ!!いいな!!私も!!」
スバルは迷子の一件で葉月に慣れ、そんなスバルと共にギンガも葉月に慣れた様子だった。
葉月に肩車されているスバルを見て、ギンガも羨ましくなったのか、彼女も葉月に自分も肩車してくれと頼んできた。
葉月はスバルに一言声をかけた後、彼女を下ろし、今度はギンガを肩車した。
肩車をしてもらったギンガもスバル同様、喜んでいた。
やがて、武蔵の体験航海が終わり、一般客達がタラップを使い、次々と武蔵から下艦して行く中、
くぅ~
くぅ~
可愛らしいお腹の音がギンガとスバルから聞こえて来た。
迷子になり、飲まず食わずでずっと家族を探していた中島姉妹はお腹が空いた様だ。
時間も既にお昼を過ぎている。
「おかーさん、おなかすいた‥‥」
「私も~」
中島姉妹の二人は両手でお腹を押さえ、母親に自分達がお腹が空いている事をアピールする。
「そうね。それじゃあ、お昼御飯にしましょうか?」
「「やったー!!」」
お昼御飯が食べれると言う事で、万歳をして喜ぶ中島姉妹。
「貴女達も一緒にどう?娘達がお世話になったみたいだし、ご馳走するわよ」
クイントは葉月達に一緒に昼を食べないかと誘う。しかも、食費は全てクイントが持つと言うのだ。
「はづきおねえちゃん、あけのおねちゃん、もえかおねちゃん、いっしょにたべよー!!」
「マロンおねちゃんとひろみおねえちゃんも!!」
『うっ!!』
純真無垢な中島姉妹の瞳に断れない雰囲気となる葉月達。
しかし、食費を全てクイントが持つと言われて何だか負い目の様なモノを感じる。
「さぁ、行くわよ!!」
「「おぉー!!」
「えっちょっ‥‥!!」
クイントが号令をかけ、ギンガは麻侖と黒木の両手を引き、スバルは葉月の手を引いていく。
葉月がスバルに連れて行かれたので、明乃ともえかはなし崩しに後を追う形となった。
『‥‥』
そして、屋台ブースの中に設けられたフードコートにて、クイントが屋台の商品を買ってきたのだが、幾ら八人いるからと言ってもクイントが買ってきた商品の量は物凄かった。
フードコートのテーブル二つを突き合わせてやっと全部が乗り切る形で、葉月達はその量の多さに圧倒された。
(こんなにたくさん買って来て大丈夫なのだろうか?)
それが、葉月達が抱いた印象であった。
しかし、それは杞憂に終わった。
「んー、美味しかったー。もう大満足っ!!」
「まんぞくー!」
「まんぞくー」
あれだけあった屋台の商品の殆どは中島親子のお腹へと消えていった。
中島親子は三人とも両手でお腹をさすり満足そうな表情をしている。
容姿だけでなく、沢山食べる所も親子であった。
『‥‥』
テーブルに並んだ屋台の商品の量にも驚いたが、それをほとんど片付けた中島親子にも驚いた葉月達だった。
「相変わらず、沢山食べるわね、クイントちゃん」
不意にクイントに声をかける人物が居た。
「流石にこの年で『ちゃん』は、やめて下さいよ。雪ちゃん先輩」
クイントには声だけで誰が自分の事を呼んだのか察しがついた様子。
「そっちだって学生時代からずっとその呼び名じゃない」
「えっと‥‥ほら、先輩のは、あだ名みたいなものですから」
クイントがそう言いながら振り向く。
彼女の視線の先には、雪ちゃん先輩こと、宗谷真雪が居た。
「あっ、真雪さん」
「あら?葉月さん」
葉月は真雪に声をかけ、真雪はクイントと同じ席に居る葉月を見て、意外そうな表情をする。
「あれ?雪ちゃん先輩、知り合いですか?」
「え、ええ。私の古い友人の娘さんで、今は私が預かっているのよ」
「そうなんですか。いやぁ~葉月さんには家のスバルがお世話になったみたいで、お礼を兼ねてこうして一緒に食事をしていたんですよ」
「あら?そうなの?」
真雪は一瞬キョトンとした顔になったが、学生時代からの後輩の言葉に納得した様子だった。
その後、真雪も中島親子、葉月達と同じ席に着いた。
「いやぁ~それにしても久しぶりですね、雪ちゃん先輩」
「ええ、貴女も‥‥暫くの間音信不通だったけど、どうしていたの?」
真雪の話では、クイントは暫くの間、音信不通の状態だったらしい。
「この子達と一緒にヨーロッパ経由でアメリカに行っていたのよ」
クイントの話では、彼女は自分の子供達とヨーロッパ、アメリカを旅していたと言う。
そして、彼女は両手で子供達の頭を撫でて自らの子供達を真雪に紹介する
「しばらく見ない間に大きくなったわね、ギンガちゃん、スバルちゃん。最後に会ったのはギンガちゃんがまだ3歳の頃で、スバルちゃんは1歳だったから覚えていなくても仕方がないと思うけど‥‥」
真雪はギンガとスバルに微笑む。
しかし、ギンガとスバルは目の前の女の人に見覚えがないので、少し警戒している様子。
そりゃあ3歳の頃に出会った人物なんて、年がら年中出会っていなければ、忘れる。
まして、1歳の頃の事なんて覚えている筈がない。
「ほら、二人ともそんなに怖がらないの。この人はお母さんのお友達なんだから。さっ、挨拶しなさい」
「「う、うん‥‥」」
母親(クイント)のお友達と言われて、幾分警戒心が和らいだ二人は真雪に対して姿勢を正し、自己紹介をした。
「な、中島ギンガです」
「なかじますばる‥です」
「私の名前は宗谷真雪よ。よろしくね、ギンガちゃん、スバルちゃん」
「「は、はい‥‥」」
(宗谷真雪って、宗谷さんと同じ苗字‥‥それに名前も似ているし‥‥もしかして、この人‥‥)
黒木は真白と真雪の苗字が同じで名前が似ている事から真雪は真白の関係者ではないかと思った。
彼女がそれを知るのはそれからすぐの事だった。