ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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17話 ブルーマーメイドフェスター パート4

「おおおおー!!」

 

「うわぁ~‥‥」

 

ブルーマーメイドフェスターの会場入口前では明乃ともえかが目をキラキラと輝かせていた。

行けないと思っていたブルーマーメイドフェスターにこうして行く事が出来たので、二人は嬉しさと興奮で満ちあふれていた。

 

「さてと、それじゃあ、行こうか?」

 

葉月が明乃ともえかに入場を促すと、

 

「「はい!!」」

 

明乃ともえかは元気に返事をする。

そして、入場券を受付で見せて会場入りをする三人。

会場入りした三人がまず、最初に行ったのは、横須賀女子の生徒達が主催している屋台ブースであった。

明乃ともえかの二人は朝早くから出てきた為、朝食を食べていなかった。

そこで、何かを食べる事にした。

明乃ともえかの二人はホットドッグを食べながら、屋台ブースで売り子や客の呼び込みをしている横須賀女子の生徒達を見て、

 

「私‥来年、あの制服を着れるかな‥‥」

 

明乃は不安そうに言う。

 

「大丈夫だよ、ミケちゃん。この前の模擬試験で合格率60%だったんでしょう?」

 

もえかは明乃を励ます様に言う。

 

「う、うん‥‥」

 

明乃の成績はここ最近になり、うなぎ登りとなっている。

中学二年に行われた最後の模擬試験では明乃の合格率は横須賀女子を受験するギリギリの成績だった。

それが僅かこの半年の間で合格率が上がった。

これならば、受験時には80%代ぐらいはいけるのではないかとさえ、思ったが、やはり、不安な様子。

 

「でも、もかちゃんは凄いよね、合格率98%だったんだよね?」

 

「う、うん‥‥」

 

明乃は羨ましそうにもえかを見る。

もえかは中学生二年時での合格率は80%後半から90%前半だったが、中学三年時となったこの前の模擬試験では、合格率90%後半と言う好成績をたたき出した。

担任からも横須賀女子合格は間違いなしと言うお墨付きである。

 

「もえかちゃんの言う通り、大丈夫だよ、明乃ちゃん。明乃ちゃんも着々と力を着けてきているから、自信を持って」

 

「は、はい‥‥」

 

葉月もこのままの調子を維持できれば、明乃も来年は横須賀女子の生徒になれるのではないかと予測する。

そもそも明乃がここ最近になって合格率を上げる事が出来たのはもえかと葉月が勉強を見ているおかげであった。

その葉月が言うのであるのだから、明乃も少しは自信を持ってくれればと思うもえかであった。

 

「でも、もえかちゃんも油断はダメだよ」

 

「えっ?」

 

葉月は合格率98%をたたき出したもえかにも警告する。

 

「合格率98%ってことは残り2%‥つまり、100回やって2回は落ちる可能性がある。その内の1回が本番の受験の時に起こるかもしれないんだから」

 

「あっ‥‥」

 

葉月の指摘を受けて改めて自分も絶対に横須賀女子に受かる訳では無いと自覚させられたもえか。

落ちる確率は低いがそれが本番の受験で絶対に起きないとは言い切れない。

 

「う、うん‥が、頑張る‥‥」

 

もえかは緊張した面持ちで言う。

 

「さっ、今日は楽しいお祭りなんだから、今は受験の事は忘れて楽しもう。せっかく来れたんだから」

 

「「はい!!」」

 

葉月の言う通り、今は楽しみにしていたブルーマーメイドフェスターの日‥‥来れないと思っていたにも関わらず、ブルーマーメイドフェスターにこうして来れたのだから、今だけは受験の事を忘れて、ブルーマーメイドフェスターを楽しもうと気分を受験モードから切り替える明乃ともえかだった。

 

 

屋台ブースにて、食事を終えた明乃ともえか。

そこへ、

 

「間もなく、ブルーマーメイドによるスキッパーショーを開催いたします」

 

と、ショーの案内が放送された。

 

「行ってみようか?」

 

「「はい」」

 

三人はスキッパーショーが行われる会場へと足を運んだ。

 

スキッパーショーの会場では色とりどりのスキッパーが居り、やがて開催時間になると、一斉に走り出した。

一糸乱れない動きや交差、更には空中一回転など、難易度が高い技もブルーマーメイド達は行い観客を圧倒させた。

 

「わぁぁ~」

 

つい最近、中型スキッパーの免許をとった明乃はブルーマーメイド達の見事な曲技に釘付けにとなり、

 

(私にも出来るかな?)

 

と、あまりにも無謀な思いを抱いていた。

特に空中一回転ジャンプの時などは明乃の周囲からキラキラした何かが出てきた様にも見えた。

中学一年の頃、明乃は新聞配達のバイトの為、小型スキッパーの免許を取得したのだが、免許取得以降、スキッパーの出すスピードに魅了されていたのだった。

ちなみに葉月もつい最近、スキッパーの免許をとった。

ドックでの作業中の合間にそこでの教習を受けていたのだ。

この先、スキッパーの免許は役に立つと思い、免許を取得したのだ。

 

「‥‥明乃ちゃん、もしかして『今の技、自分にも出来るかな?』なんて思ってない?」

 

「えっ!?そ、そんな事ないですよ、アハハハハハハハ‥‥」

 

乾いた笑みを浮かべる明乃。

彼女のその様子から十中八九思っていたなと明乃の心を読むもえかと葉月。

 

「あのね、明乃ちゃん、いくら中型のスキッパーの免許を取ったと言っても、いきなりあんな高度の技が出来る訳ないでしょう」

 

「そうだよ、ミケちゃん。危ないよ」

 

「わ、分かったよ」

 

生兵法は大怪我の基、葉月ともえかに促され、明乃は諦めた様子だった。

 

スキッパーショーが終わり、次は何を見に行こうかとパンフレットをいている中、葉月は、体操服姿で走っている真白の姿を見つけた。

 

「ちょっと、ごめん。少し、此処で待っていて」

 

「あっ、はい‥‥」

 

「わかりました」

 

葉月は明乃ともえかの二人に声をかけた後、真白を追いかけた。

 

「えっと、次は‥‥」

 

真白が真冬に渡されたスケジュール表を見ていると、

 

「真白ちゃん!!」

 

真白は突如、声をかけられた。

 

「葉月さん」

 

真白が振り返ると、其処には葉月の姿があった。

 

「真白ちゃん、その恰好どうしたの?」

 

葉月は真白が何故、体操服姿でフェスタ―会場を走り回っているのか、理由を尋ねる。

 

「そ、その‥‥ま、真冬姉さんが‥‥」

 

真白は葉月に何故、体操服姿なのか理由を話す。

 

「まぁ、真冬さんらしいと言えばらしいけど‥‥手伝う?」

 

「い、いえ大丈夫です。葉月さんは連れが居るのでは?」

 

「ま、まぁ‥‥そうなんだけど‥‥」

 

「でしたら、その人達についていてあげて下さい、私の方は大丈夫ですから‥それじゃあ」

 

真白はそう言って再び走り出した。

ただ、真白の後を一人の女の子がまるで真白を尾行する様に後を追って行ったが、その子からは特に悪意的なモノは感じられなかったし、見た所真白と同い年ぐらいの子だったので、葉月は、

 

(真白ちゃんの友達かな?)

 

と、思い明乃ともえかの二人に下に戻った。

 

葉月と分かれた真白は次なるブースへと向かった。

ブルーマーメイドのブースは大体回り、スケジュール調整は解決し、次は横須賀女子達高校生のブースを中心に回った真白。

すると、そこでは何やら揉め事が起きていた。

話を聞くと、スケジュール調整のせいで、イベントを掛け持ち出場する予定の子が参加するイベントの時間が重なってしまい、どちらか一方に穴が開いてしまうのだと言う。

 

(しまった!!)

 

こういうケースは考えられた事ではないか。

これならば、やはり葉月について来てもらいたかった。

しかし、今更葉月を呼び戻す訳にはいかない。

本部に連絡を入れて指示を仰いでも良かったのだが、あの真冬がきけば、どちらかのイベントを切り捨てる可能性が大である。

イベントに参加する生徒達はこの日の為に猛練習をしてきたのだ。

それを参加メンバーが足りないから中止では、あまりにも報われない。

こうした生の感情を目の前でぶつけられてしまうと人間、どうしても感情に左右されやすくなる。

今の自分はあくまで伝令役だ。

と、真白はあくまで自分に与えられた職務に忠実にあれを貫こうとしたが、先輩方に頼まれ、真白は自らが助っ人となる事でこの事態を収める事にした。

 

真白を追いかけて来た黒木は行く先々で真白がブルーマーメイドの人や高校生の人達と何やら話をしている姿を目撃した。

真白は年上相手でも物怖じせずに話をし、彼女が立ち去った時、皆笑顔で真白を見送っている。

その姿を見て、黒木は心の中で、

 

(宗谷さん、凄い)

 

と、真白に対して尊敬の眼差しをいつの間にか彼女に向けていた。

そんな中、黒木は真白の姿を見失ってしまった。

黒木は辺りを見渡して真白の姿を探していると、彼女の姿はインディペンデンス級沿海域戦闘艦の甲板で行われる艦上競技のスタート地点に居た。

 

『第五コースの宗谷真白さんは今回の競技は特別参加となります。まだ中学三年生なのですが、な、な、な、なんと!!彼女は、横須賀女子海洋高校の校長、宗谷真雪さんの娘で、ブルーマーメイドに所属している宗谷真霜・真冬両姉妹の妹でもあります!!気になる実力ですが、此処に彼女の中学から取り寄せた資料があります。尚、提供者は匿名希望の宗谷真冬さんからです』

 

匿名希望なのに提供者の名前を出しちゃダメじゃんと黒木はそう思った。

 

『数値を見る限りでは、素晴らしい数値です。これは期待できるかもしれません!!』

 

「あんのぉ~バカ姉がぁぁぁぁー!!」

 

司会の実況を聞き、ギャラリーもにわかに盛り上がる。そして、真白は自分の情報を他人に流した真冬(バカ姉)に咆哮する。

 

(そっか、やっぱり凄い人だったんだ‥‥宗谷さんって‥‥)

 

自分と同じ年なのに、彼女と自分の人柄が天と地ほどの差があるように思えた。

ぶつかった事実は消えないが、自分はケガもしていないし、海に落ちてもいない。

ついでに買った焼きトウモロコシも落していない。

真白の様子を見ると、本当に忙しい様だったし、あの時ちゃんと真白は自分に謝った。

だから、今更彼女に文句なんて言う筋合いなんて無い。

そう思うと自分の人としての器が小さすぎると惨めな思いがこみ上げて来た黒木だった。

やがて、競技が始めると、真白は年上の‥しかもブルーマーメイドの候補生相手にも関わらず、勝利をおさめた。

勝者インタビューもそこそこに終わらせて真白は次ぎの会場へと向かう。

 

次の会場はクイズ会場で一人がクイズに答え、もう一人は滑り台の上に乗ると言うモノで、解答者が間違えると、滑り台が上がり、乗って居る者が滑り台から落ちたら、負けとなるルールである。

真白は自分のチームパートナーとなった横須賀女子の女生徒を励まし続けた。

例えパートナーが答えを間違えても怒ったりはせず、最後までパートナーを信じ続けた。

そんな彼女の姿勢はギャラリーや黒木に好感を与えたのは言うまでもなかった。

クイズ大会が終わり、到着が遅れていた武蔵が漸く到着したとの連絡が入った。

武蔵自体は到着したが、体験航海までもう少し、時間的余裕が有る。

しかし、真白は此処でも大きなミスを犯した。

自分の体力の限界を考慮していなかったのだ。

しかし、今自分が助っ人から外れれば、これまでのスケジュール調整が全て水の泡になってしまう。

重くなる身体を引きずりながら、次の助っ人会場へと向かう真白。

そして、会場を見て、真白は固まる。

真白が助っ人に来たのは何と400m水泳リレーだった。

体力は既に限界に近い中、400mも泳げない。

しかも、朝バタバタとして、朝食も食べていない。此処までの間でお腹に入れたモノと言えば、音楽隊の楽屋で少し食べたお菓子ぐらだ。

しかし、コレに出なければ、スケジュールが乱れ、武蔵に乗れない。

だが、この競技に出ても、体力が尽きて、その場に倒れるかもしれない。

倒れたら医務室へ運ばれ、当然武蔵に乗る事が出来ないかもしれない。

 

(やっぱり、ついていない‥‥)

 

真白は自分の不幸体質を呪ったが、どちらにしても武蔵に乗れないのであれば、少しでも先輩方の役立つ方を選んだ。

しかし、此処で真白にとって奇跡が起きた。

武蔵が到着した事で、遅れていた生徒達も到着し、人員が揃ったのだ。

先輩方は真白に精一杯の感謝の言葉をかけ、真白はその言葉を聞き、思わず涙が出る。

やはり、母が校長を務める横須賀女子の生徒は素晴らしい生徒達だ。

自分は何が何でも横須賀女子に入ってみせる!!と意気込んだ真白だった。

 

真白の活躍を見て、黒木は感動した。

彼女の行動は横須賀女子海洋高校の生徒達の心も動かした。

真白が横須賀女子海洋高校の校長の娘、ブルーマーメイドでは有名な姉妹の妹だと言う面もあるかもしれないが、ただそれだけでは人の心は動かせない。

真白の自らの犠牲も厭わない行動に皆感謝したのだろう。

真白と自分は同じ中学生なのに、どうしてこうも違うのだろう?

黒木は自分の非力さを嘆いたが、それでも自分は真白の力になりたいと思う自分がそこには居た。

 

「ブルーマーメイドになれば、私も宗谷さんの力になれるのかな?」

 

黒木はそう呟き、ブルーマーメイドフェスターの会場を見渡す。

同じ会場なのに最初見た時と今見ている時、それが何だか違って見えた。

 

「横須賀女子海洋高校か‥‥」

 

今年受験生にも関わらず、明確な進路をまだ定め切れていない自分に明確な進路が導き出せた気がする。

それはまさに濃霧の中で、陸地を求めている時、一筋の灯台の明かりを見つけた様な感覚であった。

そんな時、黒木の携帯が鳴り出した。

ディスプレイを見ると、それは親友の麻侖からだった。

出てみると、いきなり大声で、「クロちゃん!!今何処に居る!?」と居場所を聞いてきた。

とりあえず、黒木は麻侖と合流する事にした。

合流すると、黒木は麻侖から出会い頭、

 

「ひでぇじゃねぇか、クロちゃん!!アタシを置いてきぼりにするなんて!!」

 

と、愚痴られた。

 

「ごめんごめん」

 

普段の黒木ならば、「一言声をかけたじゃない」とドライな対応をしていたが、今の黒木は何か良い事でもあったのか、ご機嫌な様子。

 

「ん?どうしたんでぃ?クロちゃん、随分と機嫌がいいじゃねぇか」

 

「ん?そう?‥‥ねぇ、マロン‥‥」

 

麻侖に言われて、黒木自身もいつの間にか自分の機嫌が治って居た事に気づく。

 

(これも宗谷さんのおかげかな?)

 

黒木はそう思っているが、もし、彼女が麻侖に一連の出来事を話していたら、

「麻侖ちゃんのおかげでぇい!!」と言っていただろう。

確かに麻侖が強引に黒木を今回のブルーマーメイドフェスターに連れて来たからこそ、黒木は真白に出会う事が出来たので、あながち間違ってはいなかった。

でも、黒木はこの思いは自分の中だけにとっておきたかったので、麻侖には言わなかった。

 

「ん?なんでぇい?クロちゃん」

 

「ブルーマーメイドも‥‥いいかもね‥‥」

 

「ん?」

 

今までブルーマーメイドに関心が無かった黒木がいきなりブルーマーメイドに興味を持ちだしたことに首を傾げる麻侖だった。

 

「それより、折角の祭りなんだから、クロちゃん!!楽しもうぜぇ!!」

 

「ちょっ、マロン!?‥‥いいけど、もうエンジンの展示だけ見るのは勘弁してよね」

 

麻侖は黒木の手を引いて祭りの雑踏の中へと消えて行った。

 

 

真白が助っ人として、色んなイベントに狩りだされていたその頃、ブルーマーメイドや横須賀女子の模擬店やイベントを回っていた葉月達は、武蔵が到着し、その体験航海がある連絡を聞いた。

 

「武蔵って一体どんな艦なんだろう?」

 

「これですよ。これが武蔵です」

 

もえかが葉月にパンフレット見せ、武蔵についての詳細を教える。

大和級戦艦の二番艦で、現在は横須賀女子海洋学校所属の超大型直接教育艦として使用されている戦艦で、乗員は横須賀女子の中でも優秀な学生が選ばれている。

武蔵の艦影を見て、葉月は、

 

(何か、日本武尊級に似ているな‥‥一番艦の大和も日本武尊に似ている名前だし‥‥高野総長、ヒトラー、巴のそっくりさんがいる様に戦艦にもそっくりなモノが存在したのか‥‥それに二番艦と言う事はこの武蔵はこの世界における天照なのかな?)

 

自分がこの後、指揮を務める艦と武蔵に何か因果なモノを感じる葉月。

 

「この後、体験航海があるみたいですし、乗りませんか?」

 

明乃が武蔵に乗ろうと言う。

 

「そうだね、乗ってみよう」

 

葉月も武蔵に興味を持ち、折角だから乗ろうと決めた。

そして、三人は武蔵の体験航海が行われる埠頭へと向かった。

 

 

 


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