ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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16話 ブルーマーメイドフェスター パート3

真冬にブルーマーメイドフェスターのスケジュール調整と言う役を押し付けられた真白は会場の彼方此方のテントや楽屋、ブースを走り回っていた。

電話や無線があるのだから、態々走り回らなくてもいいじゃないかと思った真白であるが、真冬曰く、

 

相手は人間であり、予定が狂えば、当然不満も募る。それが一方的に上からの命令ならば尚更だ。

その時、電話や無線で上から一方的に命令を出された方は不満が強く募り、フェスターの運営には何らかの支障が出る。

その為、予定が狂った時に不平不満・愚痴を言える相手が目の前に居た場合、多少は不満も和らぐだろうと言う。

つまり、真冬は真白に緩衝材になれと言うのだ。

 

「34○プロ、アイドル控室‥‥此処だな」

 

真白はブルーマーメイドフェスターにゲストとして呼ばれたアイドルの楽屋へと訪れ、フェスターの進行の遅れとその調節をアイドル達と同行してきたプロデューサーと打ち合わせをする為に来た。

万が一、武蔵の体験航海とアイドル達のショーが重なり、ショーの方にお客が少なかったら、折角来たアイドル達は立つ瀬がないし、芸能関係‥引いてはマスメディアを敵に回す事になる。

マスコミの中には精巧な出鱈目記事を書く週刊誌もあるので、もしそうなれば、ブルーマーメイドのイメージがかなり悪くなる。

それだけは避けなければ‥‥。

真白は緊張した面持ちでアイドル達の楽屋のドアをノックした。

 

「はい‥‥」

 

楽屋の中から低い男の声がして、ドアが開くと、身長190cmを超えようかという巨躯、三白眼の据えた目つきの男が出てきた。

 

「ひぃっ‥‥」

 

その男の姿を見て、真白は怯える。

 

(此処はアイドル達の楽屋じゃなかったのか?間違えてヤクザの組か殺し屋の部屋と間違えたのか?)

 

ブルーマーメイドの基地内にそんなものが有る筈ないのにも関わらず、真白はそう考えてしまうほど、目の前の男の顔は強面だった。

 

「あの‥‥何か御用でしょうか?」

 

怯える真白に男は声をかけてくる。

 

「ひゃ、ひゃい‥そ、その‥‥開催本部から通達を知らせに来たのですが‥‥」

 

怯えるあまり、舌が上手く回らず、台詞を噛んだ真白。

 

「どうしたの?Pちゃん」

 

「誰か来たの?」

 

すると、楽屋の中からアイドル達が顔を此方に覗かせてきた。

流石、アイドルと呼ばれる女子達は同性の真白から見ても皆綺麗だったり可愛い女の子達ばかりだ。

アイドル達の姿を見て、此処が間違いなくアイドル達の楽屋だと分かりホッとする真白。

 

「アハハハハハハハ‥‥確かにPちゃん、顔怖いもんね」

 

「私も初めて会った時、思わず叫んじゃいましたし‥‥」

 

「私の時は不審者扱いされていたもんね‥‥」

 

(まぁ、この顔なら、怯えられたり不審者扱いされても不思議ではない)

 

と思う真白。

怯えている様子の真白を見て、何があったのか直ぐに分かったアイドル達。

彼女らとプロデューサーの間には強い絆の様なモノがあるのだろう。

アイドル達に茶化されて照れているのかその強面の男は首の後ろに手をやる。

そして、何かを思いだしたかのように懐に手をやる。

 

(っ!?)

 

彼の行動一つ一つにビビる真白。

すると、男は懐から一枚の紙を真白に差し出した。

 

「どうぞ‥‥」

 

「ど、どうも‥‥」

 

ビクビクしながら受け取るとそれは名刺で、其処には、

『34○プロダクション プロデューサー 武内 』

と、書かれていた。

 

「ぷ、プロデューサー!?」

 

名刺を見た真白は思わず声を上げる。

そして、アイドル達の説明でこの強面の男が彼女らのプロデューサーだと説明を受け、

 

(この殺し屋の様な顔つきの男がプロデューサー!?嘘だろう!?てっきり私服の警備員かと思っていた)

 

アイドル達の説明を受けてもやはり、この男がプロデューサーだとは信じられなかったが、このままここで時間を無駄に潰すわけにはいかないので、真白はこの強面のプロデューサーに事情を説明し、ショーの時間帯の調節を行った。

 

「では、この時間帯でお願いします」

 

「わかりました‥‥所で宗谷さん」

 

調整が終わった後、真白はプロデューサーに名前を呼ばれる。

どうして名前が分かったのかと思ったが、体操服の胸部には大きく『宗谷』と書かれていたので、これを見たのだろうと直ぐに分かった。

 

「な、なんでしょう?」

 

「アイドルに興味はありませんか?」

 

「は?」

 

いきなりスカウトされた真白であったが、自分にはブルーマーメイドになると言う夢があるので、プロデューサーからのスカウトは丁重にお断りした真白であった。

プロデューサーの了承を貰い、続いて真白はパレードを行う音楽隊の楽屋へと向かった。

音楽隊のパレードは最終地点を武蔵が停泊する桟橋前で、そこで盛大に盛り上げた所で、集まった一般客は武蔵に乗り体験航海へと出て行く。

パレード自体が武蔵の体験航海を左右するし、この後もパレードが通過する各ブースとも調整しなければならない。

 

「と言う訳で、連絡はきていると思うのですが、何か問題点はありませんか?」

 

「は、はぁ‥‥」

 

体操服姿の真白の姿を見て、音楽隊に所属するブルーマーメイドの隊員は、面食らったが、真白の体操服の胸の部分に貼られた『宗谷』と書かれた名札を見て、「あっ」 っと声をあげ、

 

「宗谷真白さんですね?お姉さんの真冬さんには大変お世話になっています」

 

「あ、あの‥そう言うのはいいので‥‥私はあくまで宗谷真冬の妹で今日は使い走りなので‥‥」

 

年上の‥しかも、ブルーマーメイドの隊員にかしこまった態度をとられ、恐縮する真白。

 

「なるほど、真冬先輩も形式張った事を嫌う方ですが、流石、その妹さんですね」

 

「わ、私はあんな傍若無人な人ではありません!!」

 

真白は真冬と同類だと言われ、心外だと声を上げる。

 

「失礼しました!!」

 

ブルーマーメイドの隊員は真白に敬礼し、謝罪するが、やがて、敬礼ポーズのまま口元を引きつらせ、肩がフルフルと震えている。

やがて‥‥

 

「ぷっ‥‥アハハハハハハハ‥‥だ、だめ‥‥我慢できない‥‥アハハハハハハハ‥‥」

 

突然大爆笑する。

 

「ち、ちっちゃな真冬先輩が居る!!アハハハハハハハ‥‥超かわいい!!」

 

「は、はい?」

 

突然大爆笑したブルーマーメイドの隊員の態度についていけず、ポカンとした顔で大爆笑をしているブルーマーメイドの隊員を見ている。

 

「皆!!ちょっと!!真冬先輩の妹さんが来ているんだけど、超かわいいの!!よりによってあの頃の体操服を着ているし!!」

 

「あ、あの‥‥」

 

流れに全くついて行けない真白は恐る恐るブルーマーメイドの隊員に声をかける。

 

「ああ、ごめんなさいね。私もそうなんだけど、この音楽隊には学生時代に真冬先輩にお世話になった人が多いのよ」

 

ブルーマーメイドの隊員が理由を話すと、楽屋に他の音楽隊のメンバーも入って来た。

 

「なになに?真冬先輩の妹さん?」

 

「わぁ!!本当にかわいい!!」

 

「今何年生?何に乗っているの?」

 

「えっと‥‥あの‥‥」

 

大勢のブルーマーメイドの隊員に囲まれてあわわと困惑する真白。

 

「妹さん、まだ中学生だって、今着ている体操服は真冬先輩のお古だって」

 

「「えええっ!?あの伝説の体操服!?」」

 

ブルーマーメイドの隊員らは今、真白の着ている体操服に驚いている。

それを聞き、真白自身も驚き、ブルーマーメイドの隊員に尋ねる。

 

「で、伝説!?伝説ってなんですか!?姉は一体何をしたんですか!?」

 

「よろしい、ならば妹さんに語ってあげよう!!伝説の生き証人である我々真冬先輩の後輩マーメイドが横須賀女子最強マーメイド、宗谷真冬の伝説を!!」

 

(しまった!!)

 

真白は自分の発した言葉が悪手だと此処で気づいた。

しかし、既に時遅く、音楽隊の楽屋にはパイプ椅子が円陣で組まれ、どこからか持って来たのか大量のお菓子と飲み物が現れ、真白は逃げるに逃げる事の出来ない状況へと追い込また。

 

 

「‥‥ええっと、それでは、パレードの時間前の人払いについてもう一度確認して欲しいと言う事で、本部にはそう伝えておきます」

 

「はい。真冬先輩にもよろしくお伝えください」

 

真冬の高校生時代の伝説を散々聞かされた真白は此処で時間を大きくロスし、同時に気力も奪われた。

まだ、伝達するブースへ回らないといけないと思うと、気が滅入る。

 

「ハハハハ‥‥了解しました」

 

真白は乾いた笑みを浮かべそう言った。

どうも真白は押しには弱いのではないだろうかと自分自身でそう思ったが、それでは、この先、宗谷家の名を背負ってはいけないぞと自身を奮い立たせた。

 

「あっ、それと‥‥」

 

「は、はい」

 

たった今、自分を奮い立たせた真白だが、突如、ブルーマーメイドの隊員にまた声をかけられて、ビクッと身体を震わせる真白。

 

「真白さんに来てもらって正直助かりました。あの子達、真白さんが来る前、武蔵が遅れているって報告を受けて、『近頃の学生はたるんでいる』『武蔵は何をしている』って不満タラタラだったから‥‥」

 

ブルーマーメイドの隊員は小声で真白が来る前の楽屋の様子をこっそりと教える。

真冬の予想通り、かなり不平不満が溜まっていた様だ。

 

「それなら、姉が来た方が良かったのでは?」

 

真白は不満があるのであれば、彼女らが慕う真冬が来た方が、彼女らを喜ばす事が出来たのではないだろうか?と思う。

 

「うーん、でもそれだとかえって萎縮しっちゃうから、かえって逆効果だったかも‥‥」

 

苦笑するブルーマーメイドの隊員を見て、姉が自分を伝令役にした理由が分かった気がした。

確かに真冬が来れば、その場での不平不満は収まるが、彼女がその場からいなくなった時にまた再燃焼しかねない。しかも一度目の燃焼以上に‥‥。

そうなれば、現在の武蔵や航行不能になった学生艦の乗員である横須賀女子の生徒にその矛先が向けられ、彼女らがブルーマーメイドになった時、新たな溝や確執を生む結果となる。

真冬はそれを防ぐために真白を伝令役としたのだろう。

普段の姉の様子からは信じられない考えの深さであるが、やはり真冬も宗谷家のブルーマーメイドなのだと真白はそう思った。

真白は音楽隊の楽屋を後にし、次なるブースへと急いで向かった。

 

 

その頃、屋台ブースでは‥‥

 

朝食抜きとなった為、小腹がすいた黒木は屋台のブースへと近づいた。

屋台ブースでは縁日では、定番のメニューが並んでおり、空腹の自分の胃が食べ物を求めて来る。

黒木は何を食べようかと思い屋台ブースを見渡しながら、歩いていると、

 

「いらっしゃいませ!!そこの素敵なお姉さん!!焼きトウモロコシはいかがですか?美味しいですよ!!」

 

「す、素敵なお姉さん‥‥?」

 

焼きトウモロコシの屋台の売り子からの声で黒木は思わず、辺りをキョロキョロと見渡すが、売り子が言う「素敵なお姉さん」は自分の事を指しているのだと分かった。

 

「そうそう、そこの貴女ですよ。あぁん、クールな瞳も素敵!!大学生さんですか?」

 

確かに黒木は中学生にしては背が高いがよりによって大学生に間違われるとは‥‥。

黒木は売り子をジッと見るが、その子も今の自分と年は大差なく、精々一、二歳ぐらい年上なのだろう。

でも、なんでブルーマーメイドの基地で自分よりほんのちょっと年上の子が屋台をだしているのだろうか?

こういうのはブルーマーメイドの人か業者の人がやるものばかりだと思っていたが、黒木は、まず誤解を解くことにした。

 

「あの‥‥私、中学生なんです‥‥」

 

「へ?」

 

「だから、中学三年生なんです‥‥」

 

「と、年下!?ご、ごめんね。大学生とまちがえちゃって‥‥でも、素敵なのは本当だから、あっ、焼きトウモロコシどう?美味しいよ!!」

 

「じゃ、じゃあ、一本」

 

互いに気まずい空気の中、黒木は焼きトウモロコシを一本購入した。

 

「ホント!?ありがとう!!ごめんね、なんか無理矢理買わせちゃったみたいで‥‥」

 

売り子は申し訳なさそうに焼きトウモロコシを黒木に手渡し、黒木は売り子に焼きトウモロコシの料金を支払う。

 

「い、いえ‥‥あの‥‥この辺の屋台は皆高校生の方々がやっているんですか?」

 

黒木が辺りの屋台ブースを見渡すと、売り子の殆どは目の前に居る売り子と変わらない年代の子が多くセーラー服を着用している。

 

「うん、私達横須賀女子海洋高校の生徒なの!!毎年ブルーマーメイドフェスターにはこうしてブルーマーメイドの人達と混じって模擬店やイベントをやっているの。まぁ、文化祭の予行演習みたいな感じで‥‥」

 

「へぇ‥‥」

 

売り子の横須賀女子の生徒は何故、ブルーマーメイドの基地に高校生がいるのかを説明した。

 

(横須賀女子海洋高校‥‥確かブルーマーメイドの育成する学校ではかなり有名でトップクラスの学校‥‥マロンが今年の春に行きたいって言っていた学校じゃん)

 

黒木は今年の春に進路希望調査にて、普通の高校生への進学を記入したが、今でも自分は本当にその学校に行きたいのか?とモヤモヤした気持ちを抱いていた。

横須賀女子海洋高校‥‥どんな学校なんだろう?

今までブルーマーメイドなんて眼中になかったから、詳しくは知らない。

屋台に戻って聞くのもなんか、気まずい。

別の横須賀女子海洋高校の生徒に聞こうかな?

そう思いつつ焼きトウモロコシを齧る黒木。

焼きトウモロコシの味はとても美味しかったのだが、高校の事と焼きトウモロコシに注意が集中していた為、周囲への注意が散漫になっていた様で、黒木は艦と艦を結ぶ橋で誰かとぶつかった。

 

「うわっと!?」

 

「きゃっ!?」

 

ぶつかった拍子に黒木は手に持っていた焼きトウモロコシを落しそうになり、反射的にソレを追いかけて、焼きトウモロコシは無事に落とさずに済んだのだが、黒木の身体は橋の外へ落ちかけていた。

このままではバランスを崩して海へ落ちてしまう。

しかし、咄嗟の事で、黒木は思考が停止していて動けない。

 

「危ない!!」

 

すると、自分にぶっかった人が手を掴み、黒木は海へ落ちずに済んだ。

黒木は助かった後も目をぱちくりさせていた。

 

「ぶつかっちゃってごめんなさい。大丈夫?ケガは無い?」

 

「は、はぁ‥‥大丈夫です」

 

「そう、それならよかった」

 

黒木が無事だと分かると、そのぶつかった人はホッとした様子で笑みを浮かべた。

見たところ、その人は同い年ぐらいの女の子なのだが、その笑みを見て、黒木は思わずドキッとした。

 

「それじゃあ、急いでいるからこれで、失礼するね。ほんとにごめんなさい」

 

そう言ってポニーテールを靡かせて颯爽とその場を去って行く。

黒木はその後ろ姿をポカンと見ていたが、その人が消えて我に戻る。

 

「な、なんで、体操服?‥‥はっ!?そうじゃなくて、結構危なかったし、もう少しなんかあってもいいんじゃないの!?」

 

一歩間違えれば、海へ落ちていたのかもしれないのにあんななげやりな謝罪じゃ気が済まない。

 

「今の子を追いかけ一言文句言ってやる!!」

 

黒木は慌ててさっきぶつかった体操服の女の子を追いかけた。

ただその際‥‥

 

(べ、別にあの子がちょっと私より背が低くてもかっこよくて大人の余裕みたいなのがあるからって絶対にそれだけじゃ済まないんだから!!)

 

と、幼馴染が照れ隠しをしているような思いを抱いて、『宗谷』と書かれた体操服姿の女の子を追った。

一方、その『宗谷』と書かれた体操服姿の女の子、真白の方も、

 

(さっき、ぶつかっちゃった子、私と似た匂い(苦労人・不幸体質)をしていたな‥‥)

 

と、そう思っていた。

類は友を呼ぶと言う言葉がぴったりな真白と黒木だった。


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