ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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プロローグ2

独逸による二度目の英国本土占領作戦は失敗に終わった。

しかし、OKW(国防最高司令部)参謀総長に就任した新貴族、ワルター・G・F・マイントイフェル大将は旭日艦隊本隊とその根拠地であるイーサフィヨルズにノルウェー、トロンへイム基地に駐屯していた噴式型ヨルムンガンドDをさし仕向け、港湾地と艦隊に対して爆撃を仕掛けて来た。

だが、一早く噴式型ヨルムンガンドDの接近を探知した旭日艦隊は港外へ出港した。

そして、爆撃機に戦闘機が護衛していた事に近くに機動部隊が居ると判断した。

イーサフィヨルズに襲来した噴式型ヨルムンガンドDはイーサフィヨルズ基地の対空砲と防空隊の迎撃にて全滅した。

また、爆撃機隊の護衛機を出していた独逸第一航空機動艦隊も旭日艦隊の返り討ちにあり、こちらも全滅した。

尚、この戦いで旭日艦隊は駆逐艦弦月が撃沈された。

 

戦術的に勝利してきた旭日艦隊であったが、戦略的にはヒトラーが勝ち、独・米・英はブレストにて、休戦協定の調印がなされ、北太平洋の制海権は独逸の手に落ちた。

一方、ロシアでは、ウラル要塞が陥落しスターリンは行方不明となり、その生死不明となった。

スターリンの行方不明でソ連は崩壊した。

大高はヒトラーに対抗すべく、レオン・トロッキーを首相とする東シベリア共和国の設立に尽力した。

またロンメル元帥を中心とする亡命独逸人を中心とし、中国の大連近郊にて新国家も樹立させた。

そして、大高自身は来たるべく満蒙決戦の陣頭指揮を執るべく首相の座を退き、新たに設置された亜細亜防衛軍の国連軍総長に就任した。

 

一方、ヒトラーは休戦協定中に新独国であるアルゼンチンを策源地に海軍力を増強してアフリカから南米に至る「鉄十字の鎌」を構築、南大西洋の制圧を目論んでいた。

それを阻止せんと高杉艦隊と紺碧艦隊に対して大西洋への出撃が命じられた。

同じく米国も独逸を迎撃すべく機動部隊及びアルゼンチンへの上陸作戦を敢行するため上陸部隊を編成し、アルゼンチンへと出撃した。

赤道大戦前の前哨戦であるダガール沖海戦で旭日艦隊はバルト海第十一艦隊を殲滅。

 

続く大西洋セントヘレナ島沖海戦では、高杉艦隊が独逸地中海第三艦隊を殲滅。

紺碧艦隊も米部隊の殲滅を目指していた独逸地中海第二艦隊を殲滅した。

しかし、高杉艦隊、紺碧艦隊が地中海第二、第三艦隊を相手にしている最中、アルゼンチンへ向かっていた米機動部隊と上陸部隊は待ち伏せていた100隻近いUボート群の攻撃により壊滅し、米国のアルゼンチン上陸作戦は失敗に終わった。

 

大西洋海戦にて敗北したヒトラーは起死回生を図り、満蒙決戦に勝利すべくカザフスタンに集中させた全兵力に進撃命令を下した。

東アフリカ戦線では、マッカーサー率いる機甲師団と高杉艦隊と川崎弘率いる紅玉艦隊がこれの支援を行い、日・米・英の反攻作戦を展開。

また、紺碧艦隊旗艦亀天号は一時的に旭日艦隊の指揮下に入り、独逸地中海第四、第五艦隊をダクラにて撃滅した。

だが、囮として出撃させた地中海第四、第五艦隊の殲滅を聞いたマイントイフェル大将は超重爆撃機アースを出撃させ、旭日艦隊殲滅作戦、神々の黄昏(ラグナロク)を実行に移した。

アースの攻撃を受け、装甲空母信長は大破し、その後自沈、航空戦艦謙信も中破、巡洋艦・駆逐艦群も壊滅し、第一遊撃打撃艦隊は壊滅した。

 

旭日艦隊、第一遊撃打撃艦隊を壊滅させたアースは続いて旭日艦隊本隊へと迫ったが、超戦艦、日本武尊、天照はこれらの攻撃を退けた。

しかし、巡洋艦、駆逐艦部隊に大きな被害を出した。

 

海上で大きな被害を出した旭日艦隊であったが、満蒙決戦では、日本を中心とした連合陸軍は独逸の機甲師団を破り、独軍の亜細亜侵攻は阻止された。

旭日艦隊本隊から離れた航空戦艦信玄を旗艦とする分艦隊は英国領トリスタン・ダ・クーナ島にて島民の避難と船団護衛の為、展開していた。

そこを独軍の超爆撃機アースとUボート群が襲い掛かり、軽空母尊氏、航空戦艦謙信を始めとした主要艦艇はことごとく沈められた。

 

その頃、高杉艦隊・紅玉艦隊・旭日艦隊所属の前衛遊撃艦隊はマダガスカル島沖に展開しており、マッカーサー元帥率いる連合軍のアフリカ支援を行っていた。

そして、ソマリランドを拠点とするアースの基地を叩いた。

だが、その勝利とは裏腹に次なる危険が迫った。

ジブチ方向から出撃して来たUボート群から発射された対艦噴進弾の攻撃とアースの魚雷攻撃を受け、新鋭装甲空母建御雷は大破し、開戦から第一線で戦い続けて来た戦艦比叡はインド洋にその姿を没した。

この戦いにより、栄光の旭日艦隊の幕も降ろされたのであった。

 

インド洋にて多くの艦艇を失った旭日艦隊に残ったのは旗艦の超戦艦日本武尊と二番艦天照のみとなった。

しかし、旭日艦隊の任務が援英任務と言う事で、未だに英国が解放されていない中、日本へ帰る事は出来ずに、この二艦は大西洋に踏みとどまった。

そんな中、日本武尊は英国からの避難船団の護衛と補給、乗組員の休養を目的として、一時英国近海から離れる事となった。

その際、残された天照は英海軍、米海軍と共同で日本武尊不在の穴を埋めなければならなかった。

 

独軍はさんざん今まで自分達に煮え湯を飲ませ続けて来た日本武尊と同型艦の天照を狙い続けて来た。

今までの戦いに日本武尊と共に連戦連勝し続けて来た天照であったが、これまでの戦いで全くの無傷と言う訳では無かった。

独軍は補修をさせる暇なく、攻撃を繰り返し行い、また天照の方も修繕に使う資材を無限に貯蔵していた訳では無く、応急修理にも限界はあった。

また、武器弾薬も同じで、特殊弾頭は補給がままならず、今は通常の砲弾を使用している状態となっていた。

そして、この日の独軍の襲撃は何時にもまして苛烈を極めた。

既に英・米の小、中型艦艇は撃沈ないし、大破状態となり航行不能。

英国のキングジョージⅤ世級戦艦、アメリカのアイオワ級戦艦も自分達の身を護る事が精一杯の状態で、味方の援護を行える余裕は無かった。

そして、今まで海中から艦隊の支援をしてくれていた潜水遊撃艦隊のア号潜は紺碧艦隊旗艦亀天号の指揮下に入り、潜水艦隊は別命を受けて、大西洋には不在で、天照は味方の潜水艦からの援護は皆無の状態となっていた。

 

「うあわっ!!」

 

「左舷魚雷命中多数!!浸水で艦の傾斜が増しています!!」

 

強力な注排水システムを兼ね揃えている筈の日本武尊級戦艦の注排水システムが既に機能しなくなっている程、天照は押されていた。

日本武尊級戦艦はその両舷に張り出したバラストタンクを要とした水流防御機構を採用しているが、前世の戦艦大和同様、常に片舷からの攻撃ばかり受けていては、どうしようもない。

しかし、だからと言って日本武尊級の防御が弱い訳では無い。

設計では、魚雷20本目までは最大速力を発揮し、魚雷30本を片舷に受けても早急に傾斜復元が可能。

魚雷60本を受けて速度が低下しても、戦闘航行が可能で、戦闘に支障がないように設計されていた。

つまり今の天照は魚雷を既に60本以上受けている状態となっていた。

 

「此方、左舷高角砲指揮所!!浸水の為、指揮不能!!」

 

「此方、第一砲塔!!艦の傾斜が大きいため、砲弾が上がって来ません!!」

 

「此方機関室!!上はどうなっている!?状況を知らせ!!」

 

各部からの被害状況はどれも酷いモノばかりだ。

 

「艦長!!」

 

「右舷バラストタンクに注水!!傾斜復元!!」

 

「はい!!」

 

すぐに右舷側のバラストタンクに注水が行われ、天照は船体の傾斜を復元させようとする。

 

「只今、独軍の艦載機を攻撃中!!大丈夫!!本艦は任務を続行する!!直に日本武尊が戻って来る!!それまで頑張れ!!」

 

天照の艦長は必死に乗員を鼓舞する。

 

「右だァ!!右舷上方から敵機!!突っ込んで来る!!」

 

「取り舵20!!バウスラスター全開!!ダッシュ!!水流一斉噴射!!」

 

天照はスラスターと水流噴射推進装置で敵の爆撃を躱そうとするが、速力が低下していた天照の回避行動を読んでいた別の機からの急降下爆撃を受けた。

 

「後部電探室被弾!!」

 

「電探員総員戦死!!」

 

「艦長、雲が低くて対空砲火が間に合いません!!」

 

「電探も妨害されており、役に立ちません!!」

 

「くっ」

 

艦長は苦虫を噛み潰したように渋い顔をする。

この時には独逸も連合軍も互いに電探を無力化する技術はすでに使用されていた。

そして、独逸は強力な妨害電波を流しており、天照は対空電探が使用できない状況になっていた。

 

「敵機直上!!突っ込んで来る!!」

 

「取り舵!!」

 

「左舷から雷撃機!!」

 

「魚雷、左舷に更に命中!!」

 

「右舷、注水タンク既に一杯です!!」

 

「むぅっ・・・・右舷機械室及び罐室に注水!!」

 

「っ!?か、艦長!!それでは本艦の推進力の半分を失う事になります!!それに多くの作業中の乗員を見殺しにする事になります!!」

 

「これ以上、艦の傾斜を増やすわけにはいかない!!これ以上傾斜が激しくなれば、給弾機が使用できずに高角砲も射撃出来んのだぞ!!」

 

「・・・・分かりました・・・・右舷注水指揮所!!右舷機械室及び罐室に注水!!」

 

副長は悲痛な面持ちで注水指揮所に命令を下した。

しかし、この命令は右舷機械室及び罐室で作業中の乗員を溺死させる命令でもあった。

任務と艦の為、艦長はやむを得ず、右舷機械室及び罐室で作業中の乗員を見殺しにするしか方法はなかった。

左舷側を集中的に狙われた為、左舷側の指揮所と高角砲群はあらかた全滅した。

しかし、独軍は天照が海へ沈むまで攻撃は止めない勢いだ。

やがて、独軍の攻撃は左舷高角砲群から艦橋めがけて攻撃を行い始めた。

 

「艦橋被弾!!」

 

「っ!?」

 

艦橋が被弾した報告を聞き、航海科に所属する青年士官、航海長補佐の役職についている広瀬葉月中佐は艦橋へと走った。

すると、彼の目に飛び込んできたのは、まさに地獄絵図の様な艦橋の有様だった。

 

「艦長!!」

 

葉月が急いで艦長の下へと駆け寄る。

 

「うっ・・・・ぐっ・・・・」

 

「衛生兵!!艦橋へ至急来られたし!!」

 

伝声管に向かって大声をあげて衛生兵艦橋へと呼ぶ。

そして、壁を背に艦長を起こす。

 

「うっ・・・・ごふっ・・・・」

 

艦長は口から大量の血を吐血した。

 

「艦長!!間もなく衛生兵が到着します!!」

 

「ひ、広瀬・・・・中佐・・・・」

 

「はっ、なんでありましょう」

 

「か、艦隊指揮は・・・・アイオワのリー提督に・・・・移譲しろ・・・・そして・・本艦の指揮は・・・・貴様が執れ・・・・」

 

「じ、自分がでありますか?し、しかし自分の指揮権は序列で言えば、三番目です。砲術長や航海長をさしおいて自分が指揮を執る訳には・・・・」

 

「ま、周りを見ろ・・・・既に艦橋は被弾し、指揮を執れる士官はおらん・・・・この緊急時に序列など関係ない・・・・」

 

「で、ですが・・・・」

 

「広瀬・・・・日本の意地を・・・・旭日艦隊の意地をナチ共に見せてやれ・・・・」

 

「は、はい・・・・広瀬葉月、これより艦長代理の任に着きます!!」

 

艦長に敬礼した。

その後、衛生兵が到着し、負傷者を担架に乗せていくが、戦死者もいた。

 

艦の指揮者が変わっても独軍は攻勢を止める事無く、それどころかこれを好機と見て、攻撃の手を苛烈させてくる。

航空機とUボートだけだったのだが、途中からは海上艦までもが海戦海域へ到着した。

ナチス独逸が誇る高速戦艦ビスマルク級に巡洋艦戦艦シャルンホルス級、アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦、ドイッチュラント級装甲艦・・・・旭日艦隊の活躍でかなり沈めたと思ってきたが、まだこれだけの艦船と運用できる人間が居る辺り、独逸の底力をまざまざと見せつけられた気分だ。

 

「アイオワのリー提督より、撤退信号です」

 

ここに来て連合軍も分が悪いと判断し、残存艦に撤退信号を出す。

連合軍艦隊が撤退行動をしても独逸軍は天照だけは確実に沈めようと、撤退する連合軍艦艇には目もくれず、天照のみを狙ってきた。

 

「ぬぅ・・やはりどの艦も本艦を目の敵に狙って来るか・・・・」

 

天照は今使用できる全ての火器で応戦するが、これまでの戦闘でダメージを受け過ぎていた為、満足な抵抗は出来ていない。

 

「流石に多勢に無勢か・・・・しかし、天照の命が続く限り、少しでも多くの敵を道連れにしてやる!!」

 

独軍が自分達のみを狙って来るのであれば、自分達は味方撤退の援護に回る事にした天照。

しかし、人の造ったモノに完璧なモノ、無敵なモノは存在せず、後世日本が作った超戦艦にもいよいよ最後の時が来た。

 

「艦首浸水止まりません!!」

 

「傾斜増大にて主砲旋回不能!!砲撃続行不能!!」

 

「広瀬艦長代理、本艦の命運も尽きました・・・・」

 

「・・・・」

 

「艦長代理、この上は速やかに乗員の退艦を!!」

 

葉月はギリッと悔しそうに奥歯を噛みしめるが、確かにこれ位以上戦闘を続行し、退艦命令を躊躇し続ければ、助かる命も殺してしまう。

 

「総員に告ぐ、残念ながら本艦の命運は尽きた・・皆よく戦った・・・・総員速やかに退艦せよ!!」

 

等々天照に退艦命令が下された。

乗員が艦を退艦していく中、またもや天照の艦橋が被弾した。

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁー!!」

 

爆風の衝撃で葉月の身体は床に叩き付けられる。

 

「ぐっ・・・・ごほっ・・・・」

 

起き上がろうとした葉月であったが、その直後に体に走る激痛で再び倒れる。

 

(天照も・・自分も此処までか・・・・)

 

葉月は出血とケガから自分の死期を悟る。

 

(巴・・・・)

 

葉月は胸ポケットから写真入れを取り出した。そこには一枚の写真が入っていた。

その写真を葉月は瞼が重くなりつつなる目で見る。

写真には一人の和服姿の女性が写っていた。

その女性こそ、葉月の許嫁の女性であった。

葉月は大西洋から撤退し、日本へ帰ったら彼女と祝言を上げる予定だった。

 

(巴・・・・お前とも、もう会えなくなった・・・・此処で死ぬ俺を許して・・・・く・・・・れ・・・・)

 

パタッと葉月の手が力なく床に落ち、眠ったように葉月は息を引き取った。

その直後、天照の船体も転覆し、船体は大西洋の冷たい海へと沈んでいった・・・・。

 

 

 

 

とある世界のとある女子中学のとある女子寮のとある部屋

 

「っ!?」

 

女子寮の自分の部屋のベッドで眠っていた一人の少女はバッと目を覚ました。

 

(なに、今の夢・・・・?)

 

先程まで自分が見ていた夢はどこかの国の超弩級戦艦が、どこかの国の艦船と戦い沈んでいき、その乗員の最後を彼女は垣間見た光景だった。

あまり夢見が良い夢では無い夢を見たせいで、彼女の息は荒く、寝汗も掻いていた。

 

「ん?どうしたの?もかちゃん?」

 

彼女と同室の友人が眠そうに目をこすりながら尋ねて来た。

きっと夢で魘される自分を心配していたのだろう。

 

「ううん、なんでもないよ。ミケちゃん」

 

友人を心配させまいと知名もえかは笑顔でそう答えた。

 


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