ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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15話 ブルーマーメイドフェスター パート2

「まーしろ、走ると転ぶぞ」

 

「だいじょーぶだよー。おかーさーん。おねーちゃーん。はーやーくー」

 

真白は夢を見ていた‥‥。

これは自分がまだ小学生低学年頃の夢だろう‥‥。

母の真雪が横須賀女子海洋学校の校長では無く、まだ現役のブルーマーメイドだった頃、

姉の真霜は横須賀女子海洋学校の女子高生で卒業後は、母の後を追ってブルーマーメイドへ歩むつもりでおり、真冬は中学生だが、まだ中学卒業後の進路は決めていなかった。

 

そんな過去の自分は諏訪大神社の石段を駆け上っていた。

後ろを振り向くと、母と姉二人が石段を登って来る。

 

「昔は横須賀の街も此処みたいに陸地が多かったんでしょう?お母さん」

 

母の隣を歩く真霜は昔の横須賀の街並みを尋ねる。

 

「ええ。学校で習ったと思うけど日露戦争の後メタンハイドレードの採掘を機に日本は地盤沈下を始めた。水没した都市部に巨大フロート艦を建造してフロート都市に変わって海上開発が進んだ‥‥」

 

「それで日本は海洋大国になったんでしょう?軍事用に建造された多くの船が民間用に転用されたけど、戦争に使わないという象徴として艦長は女性が務めるようになったんだよね?」

 

「それがブルーマーメイドの始まり、だよね?真霜姉」

 

「そしてその第一号が‥‥」

 

「あなた達の曾お婆様よ。それから代々宗谷家の女性はブルーマーメイドになっているの。お母さんもね‥‥でもお母さんは次が最後の航海になるの」

 

「「「えっ!?」」」

 

真雪は突如、娘達に現役を退くと言いだした。

その発言に真白を始めとして、真霜、真冬も驚き、唖然とした表情で母、真雪を見る。

 

「これからはお母さんブルーマーメイドの先生になるの。こんな広い海のように豊かで清々しい海に生きる女の子を育てていくのよ‥‥」

 

真雪は諏訪大社から見える海を見つめながら現役を退いた後の事を娘達に語る。

 

「私そんな女の子になりたい!」

 

真霜は母や曾祖母の様な海の女になりたいと言い、

 

「お母さんが先生になる学校に入る!」

 

と、中学卒業後の進路を決めかねていた真冬は母の話を聞き、今ここで明確な進路を決めた。

まぁ、真冬らしいと言えば真冬らしい。

 

「わたしも!わたしもはいる!」

 

そして、真白も曾祖母や母の様に海の女になると言う。

 

「ええ、楽しみにしているわ」

 

そう言って真雪は自分が被っていたブルーマーメイドの制帽を真白に被せる。

真白は嬉し恥ずかしそうな表情をする。

その時、風が吹き、真白が被っていた帽子が飛んで行ってしまった。

真白が慌てて帽子を追いかけるが、当時まだ小さい真白にはその帽子を掴む事は出来ず、真雪の帽子は空の彼方へと飛んで行った。

 

(思えばあの頃から私の不幸は始まった‥‥)

 

真雪の帽子を無くした事に先祖が怒ったのか、それともあの帽子の様にツキが逃げて行ったのか、この日以降、真白の身の回りには不幸な事が起こる日々が続いた‥‥。

 

「んぅ?」

 

真白が目を覚ますと、其処には見慣れた天井が目に入った。

ふと視線をずらし、カレンダーを見ると、今日の日付には色ペンで『ブルーマーメイドフェスター』と書かれていた。

次に目覚まし時計見ると、針はまだ午前4時半を指していた。

起きるにはまだ早い。それに昨日は今日行われるブルーマーメイドフェスターを楽しみにしていた為、興奮して中々寝付けず、最終的に寝たのは午前1時ぐらい‥‥。

まだ眠れるなと思い、真白は二度寝した。

しかし、それがいけなかった‥‥。

 

「おい、シロ、真白、起きろ!!」

 

真冬がまだ寝ている真白の身体を揺すり、彼女を起こす。

 

「んぅ‥‥」

 

「おい、ブルーマーメイドフェスターに行くんだろう?」

 

真冬の言い放った「ブルーマーメイドフェスター」の言葉に真白は一気に覚醒した。

 

「っ!?」

 

バッと身体を起こし、目覚まし時計見ると、針は既に9時を指していた。

 

「ね、寝坊した~!!」

 

真白は急ぎベッドから飛び起き、寝間着から普段着へと着替え、歯を磨き、髪を整える。

 

「もう、真冬姉さん!!何でもっと早くに起こしてくれなかったんですか!?」

 

真白は自分を起こしに来た真冬を睨みながら、尋ねる。

 

「起こしたさ、昨日シロが頼んだ時間に‥でも、お前何度声をかけても全然起きないんだもの」

 

どうやら、真冬はちゃんと昨日自分が頼んだ時間には自分を起こしに来たらしい。

しかし、寝不足の為、それには気づかず、今の今まで自分は眠っていた様だ。

 

「母さんと真霜姉は先に行ったし、葉月もギリギリまでお前が起きてくるのを待っていたんだが、約束があるみたいでついさっき、出たぞ」

 

「そ、そうですか‥‥」

 

真白は葉月にはすまないことをしたと思った。

 

「ほら、行くぞ!!今ならスキッパーを飛ばせば間に合う」

 

「は、はい‥‥」

 

急いで準備をした真白は朝ご飯も食べずに真冬と共に急いで家を出た。

真冬が運転するスキッパーの後ろに乗り、ブルーマーメイドフェスターへと向かう真白。

しかし、寝不足とスキッパーの揺れが再び真白に睡魔を誘う。

真白は暫しの間であるが、その睡魔に身を委ねた。

 

「おい、シロ、真白、着いたぞ。起きろ!!」

 

「ん、んん‥‥」

 

真冬に起こされて真白が目を開けると、其処はブルーマーメイドフェスターの会場であった。

会場は、普段の基地の様相は無く、大勢の人と艦船でにぎわいを見せていた。

港湾スペースにはブルーマーメイドのインディペンデンス級沿海域戦闘艦の他に学生艦として使用されている旧海軍の艦船が停泊し、水上バスが忙しそうに行ったり来たりしている。

真冬はスキッパーの停車場に乗って来たスキッパーを止め、真白と共に桟橋へと降り立つ。

 

「うんうん、今年も先輩方はみんな張り切っているな」

 

真白は基地内で出店を出している横須賀女子の生徒達を見ながら感心する様にそう言うと、

 

「先輩方と言うのはまだ気が早いぞ、シロ。お前が後輩になれるとは限らねぇんじゃないか?何しろお前の受験はこれからなんだからな」

 

真冬は真白の頭をくしゃくしゃと撫でながらツッコム。

 

「そ、そんなこと分かっている!!」

 

真白は真冬の手を払いのけながらムキになったように言う。

いくら年が離れているとは言え、真白も現在中学三年生‥いつまでも子ども扱いは嫌なのだろう。

 

「まぁ、いいけどよ。お前は肝心な所が抜けているからな」

 

真冬が真白に哀れむ様な心配そうな目で語る。

 

「わ、私は抜けている訳じゃない!!ただちょっと、運が悪いだけだ!!」

 

真白は、自分は決して間抜けでは無いと主張する。

とは言え、受験の事を考えると、やはりプレッシャーを感じる。

曾祖母の代からブルーマーメイドを輩出していた宗谷家の娘の一人である自分が横須賀女子を受験して落ちましたでは、洒落にならないし、あってはならない事だ。

真白のそのプレッシャーとそれに打ち勝とうとする決意が空回りしない事を祈るしかない。

 

「いくら、母さんが校長をしている学校だからと言っても、校長の娘と言う理由で入学出来ると思ったら大間違いだぞ。母さん、そう言うことに関しては、贔屓はしないで、公私をちゃんと区別する人だからな」

 

「だから、そんな事わかっている!!」

 

真白は再び声を荒げ、荒ぶった気を落ち着けようと再びブルーマーメイドフェスターの会場を見渡す。

すると、ある違和感を覚えた。

 

「あれ?姉さん‥‥武蔵の姿が見えないのだけれど‥‥」

 

横須賀女子が誇る超大型直接教育艦 武蔵。

横須賀女子の中でも成績優秀者だけが乗る事が許される艦‥‥。

自分の姉である真霜と真冬がかつて横須賀女子の学生の頃、艦長を務めていた艦で、同型艦の大和はブルーマーメイドの総旗艦であり母、真雪が艦長を務めていた。

真白は毎年のブルーマーメイドフェスターには姉の力で来る事が出来、そして毎年開催されている武蔵の体験航海には乗船していた。

今年は受験生なので、ゲン担ぎでどうしても乗りたかった。

海の家系である宗谷家の娘に生まれたからには、横須賀女子に入り、武蔵の所属になりたい、いや、むしろ武蔵の艦長にならなければならない。

偉大な母と姉二人の存在は真白を自然に追い詰めているのかもしれない。

そんな宗谷家にとっては縁のある艦の姿が見えなかった。

 

「あれ?まだ来てねぇのか?途中でなんかトラブったって聞いてはいたんだが‥‥」

 

頭をかきながら武蔵がまだ会場入りしていない理由を零す真冬。

 

「トラブルって、武蔵は横須賀女子の優秀な生徒が配置されるんじゃあ‥‥」

 

「優秀って言っても人間だし、海にはトラブルがつきものだ。それに今回のトラブルは武蔵自体のトラブルじゃなくて、同じ会場に向かっていた僚艦がエンジントラブルで航行不能になって、それを近くに居た武蔵が曳航してくるんだと‥‥」

 

「なるほど」

 

真冬の話を聞き、真白は武蔵の乗員達を感心した。

自分達も大事な役目があるにもかかわらず、困っている仲間を見捨てない。

学業や技術だけではなく、武蔵の乗員は船乗りとしての礼儀も忘れていない。

素晴らしい心意気だ。

 

「ワクワクして居る所悪いが、シロ。まずは開催本部へ行くぞ」

 

「本部?私は早速見て回りたいんですが‥‥」

 

真冬の言葉に何か嫌な予感を感じる真白。

 

「いいから来いって、私は母さんじゃないから、シロを贔屓して、ブルーマーメイドの仕事を経験させてやるよ」

 

ニヤリと笑みを浮かべる真冬。

その真冬の笑みを見た真白は全身に悪寒を感じた。

此処に居てはいけない。

直ぐのその場から逃げろ!!

真白の本能がそう語っている。

 

「や、やっぱり贔屓はいけないなぁ~。 うん‥という訳で、私はこれで‥‥」

 

真白が本能に従ってその場から逃げようとしたが、

 

ガシッ

 

そうは問屋が卸さなかった‥‥。

まるで、万力の様な力で真冬は真白の腕を掴む。

次いで、真白が逃げれない様に首根っこを掴まれた。

真白の不幸は、お祭りのめでたいこの日にも関係なしに発動していた。

 

「不幸だぁぁぁぁぁぁ―――――‐!!」

 

とある男子高校生の台詞と同じ台詞を吐きながら、真白は真冬に開催本部へと引きずられていった。

 

真冬の手で本部へと連行された真白はブルーマーメイドフェスターのスケジュール調整の役を押し付けられた。

武蔵とエンジントラブルを起こした学生艦の到着が遅れている事でブルーマーメイドフェスターのスケジュールに乱れが生じ始めたのだ。

真白は真冬からこのままでは、武蔵の体験航海も潰れてしまうと脅しをかけられて渋々手伝う事になった。

しかも服装は私服だと一般客と分からないからと言う理由で、真冬が横須賀女子時代に使用していた体操服を着せた。

胸の部分には大きく「宗谷」と書かれているので、自分が宗谷家の人間だと直ぐに分かる。

宗谷家の人間だと分かれば、多少は融通が聞くからと、真冬の好意らしいが、

真白が「どうしてこんなモノが?」と尋ねると、真冬は、

 

「そりゃあ、始めから着せて手伝わせるために決まっているだろうが」

 

と、悪びれる様子も無く、真白に言い放った。

どうやら、トラブルが起きなくても何かしらの仕事を真白に手伝わせる気満々だったようだ。

 

「なら、せめてブルーマーメイドの制服にしてよぉ~!!」

 

真白の悲痛な叫びが開催本部の部屋に響いた。

ブルーマーメイドフェスターの仕事を手伝うのであれば、自分もブルーマーメイドの制服を着たかった真白であった。

 

 

その日、黒木洋美は機嫌が悪かった。

 

「なんでぇ、なんでぇ、クロちゃん。折角の祭りなんだからよぉそんな辛気くせぇ顔すんなって」

 

「一体誰のせいだと思っているの?マロン」

 

そんな黒木に江戸っ子口調で話しかけるのは、彼女の幼なじみであり親友の榊原麻侖だった。

黒木が今、不機嫌なのは隣に居る親友が関係していた。

その日、朝早く‥‥まだ黒木が自分の部屋のベッドの中で眠っていた時、

 

「クロちゃん!!」

 

突如、部屋に麻侖が乱入してきた。

 

「っ!?マロン!?」

 

突然部屋に入って来た親友に驚いて飛び起きた黒木。

時間はまだ朝の5時。

起きるにはまだちょっと早い時間だ。

 

「どうしたのよ?こんな朝早くに?」

 

「クロちゃん!!祭りに行くぜぇ!!」

 

「は?」

 

麻侖のその一言で、黒木はベッドから引きずり降ろされ、寝間着を引っぺがされて、強引に着替えさせられて、千葉の実家から船を飛ばして横須賀で開催されるブルーマーメイドフェスターに連れて来られた。

ブルーマーメイドフェスターの事は黒木も知っており、明乃ともえかの中学校で入場券の抽選を行っていたのと同じように麻侖と黒木の中学校でもそれは行われた。

黒木は今時の女子にしては珍しく、別にブルーマーメイドフェスターやブルーマーメイドについて周囲の女子程そこまで強い関心はなかった。

そんな中、麻侖の親の知り合いがブルーマーメイドフェスターの入場券をどこからか入手してきてその券を麻侖にあげ、ブルーマーメイドフェスターには色んな船のエンジンが展示され、更には大型艦のエンジンの模擬操縦もあると言ったらしく、船のエンジンの展示、そのエンジンの模擬操縦、お祭り、その三要素が、麻侖を突き動かした。

入場券は二枚あったので、麻侖は親友の黒木をこうしてブルーマーメイドフェスターに連れて来たのだ。

 

(今日は、映画に行こうと思っていたのに‥‥)

 

黒木は今日、映画を見に行こうとしていたのに、なんで折角の休みを朝早く叩き起こされて、こんな大混雑している場所に行かなければならない?

そんな不満が黒木の中に強く渦巻いていた。

 

「おおおおー!!」

 

エンジンの展示場で麻侖は目をキラキラさせて、エンジンを眺めている。

 

「麻侖、エンジンばかり見てないで、他の所見ないの?」

 

エンジンばかり眺めている麻侖に黒木は呆れながら尋ねる。

 

「う~ん‥‥もうちょっと‥‥」

 

「そう言ってもう30分以上見ているわよ」

 

「う~ん‥‥もうちょっと‥‥」

 

「‥‥私、他の所行くからね」

 

「う~ん」

 

とりあえず、エンジンばかり見ていても楽しくはないので、黒木は強引に連れて来られたとは言え、折角来たのだから、辺りを見て回ろうと麻侖に一言かけて、エンジンの展示場から出て行った。

何かあれば携帯に電話かメールを送って来るだろう。

そう思いながら、黒木は祭りの会場へと向かった。

 

(凄い人‥‥)

 

辺りの人ごみを見ながら歩いていると、

 

「ん?醤油のにおい‥‥」

 

黒木の鼻が焼けた醤油の香ばしい匂いを感じ取った。

その匂いを嗅ぎ、思わず足を止める黒木。

 

(そう言えば、朝ご飯食べてきていなかったなぁ~‥‥)

 

朝、バタバタとしていて朝食を食べていない事を思いだす黒木。

周囲を見渡すと、香ばしい匂いは屋台ブースの方から匂っていた。

黒木はその屋台ブースの方へと足を向けた。

 

 


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