ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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12話 出会い パート2

図書館から戻って来た葉月のテンションは物凄く低かった。

葉月が一度宗谷家に戻った時に、葉月は許嫁の写真が入った写真入れを落したことに気づき、慌てて図書館に引き返し、受付で写真入れの落し物が無かったかを受付嬢に尋ねたが、その様な落し物は来ていないと言う返答を受けた。

それでも何処かに落ちているのではと思い、館内を隅々探したが、写真入れは見つからなかった。

その写真入れを偶然拾った明乃であったが、葉月が図書館に戻る前にもえかと共に退館していたので、巡り合わせが悪かったとしか言いようがなかった。

夕食時でも葉月のテンションは下がっており、真霜達が心配そうに見ていた。

葉月の後ろには青白い火の玉が浮かんでいるようにも見え、周りは黒い瘴気の様なモノで、囲まれている様にも見える。

 

(真霜姉さん‥葉月さんやけに落ち込んでいるみたいですが、何かあったんでしょうか?)

 

真白が真霜に何故、葉月のテンションが低く、落ち込んでいるのか不思議に思えて尋ねる。

 

(さ、さあ‥‥少なくとも、生理が来た訳じゃないと思うわ‥‥)

 

葉月の場合、つい最近に来たので、今の葉月が生理痛で悩んでいる訳では無いと予測する真霜。

 

(もしかして、この前の一件かしら?)

 

真霜はこの前やや強引に葉月を抱いた事に何か後ろめたいモノでも抱いているのではないかと思ったが、

 

(でも、あの後の朝食の時は、別に普段通りであそこまで落ち込んではいなかったし‥‥)

 

あの後の葉月の様子から今の落ち込み様があの一件とは言い切れない真霜。

 

(真霜姉さん、何か心当たりがあるんですか?)

 

真霜の様子に気づいた真白が真霜に小声で話しかける。

 

(えっ!?な、なんでもないわよ)

 

突然真白に話しかけられ、きょどる真霜。

そんな真霜の様子に真白は首を傾げつつ、意味深しな目で真霜を見た。

 

「なんだ?葉月、随分と元気ねぇじゃねぇか」

 

真冬も真冬なりに落ち込んでいる葉月を心配していた‥‥筈。

 

「よし、それなら私が元気にしてやる!!」

 

(またか‥‥)

 

(ほんと、懲りないわね、真冬)

 

そう言って真冬は葉月の背後へと回り込み、

 

「元気、でろぉ~」

 

葉月の胸を揉み始めた。

普段ならば、此処で葉月の悲鳴と共に真冬に鉄拳が炸裂するのだが、この日だけはそれはなく、葉月は何の抵抗も無く、真冬に胸を揉まれていた。

 

「なっ!?」

 

胸を揉んでいる真冬本人もそれには意外性を感じ、驚いている。

しかし、手は止めない。

真冬も葉月のこの様な事をすればどうなるかぐらいは予想で来ていた。

いつもであれば、鉄拳が飛んでくるか手を抓られるかと思っていたのだが、今日の葉月はそれらの行為を一切行ってこない。

 

(あの葉月さんが真冬姉さんに抵抗することなく、胸を揉まれているだと!?)

 

真冬に胸を揉まれている葉月に驚愕する真白。

 

(これはかなりの重症ね‥‥)

 

真霜はやれやれと思いつつ、

 

「真冬、いい加減にしなさい」

 

真冬に笑みを浮かべて迫る。

その姿は物凄く凄みがあり、背後からはゴゴゴゴゴ‥‥と言う効果文字が浮かび上がっている様だ。

 

(それは私のおっぱいなのよ‥貴女なんかにはもったいないわ。それに触れて良いのは私だけなのよ‥‥)

 

真霜の凄みの中には何やら別の感情も混入している。

 

「わ、わかったよ‥」

 

真冬は真霜の凄みにあっさりと屈し、葉月の胸から手をどけた。

 

「葉月さん、何か悩み事?私で良ければ相談に乗るけど‥‥」

 

真雪が葉月にそう言うが、

 

「いえ‥‥大丈夫です‥‥」

 

ポツリと葉月はそう言うが、とても大丈夫そうでは無かった。

 

「‥‥」

 

真霜はそんな葉月の様子をジッと見ていた。

 

それから‥‥

 

「はぁ~‥‥」

 

葉月は部屋で深いため息をつく。

そこへ‥‥

 

コンコン‥‥

 

部屋のドアをノックする音がした。

 

「‥‥どうぞ」

 

「はぁ~い、葉月」

 

真霜が部屋に入って来た。

 

「真霜さん‥‥」

 

「どうしたの?葉月‥何か物凄く落ち込んでいるみたいだけど‥‥」

 

「‥‥」

 

真霜はジッと葉月を見るが、葉月は真霜からの視線を気まずそうに逸らす。

 

「ねぇ、話して‥‥」

 

「‥‥」

 

「私と葉月の関係ってそんなモノなの?」

 

「うっ‥‥」

 

目をうるわせながら迫る真霜に対し、葉月は真霜とあの一件もあり、真霜に対しては、強気にでれなかった。

 

「‥‥じ、実は‥‥‥」

 

葉月は真霜に話した。

前の世界での許嫁の写真が入った写真入れを落した事を‥‥

その話を聞き、真霜は少し不機嫌そうな顔をする。

 

「葉月、私と言うもモノがあるのに、浮気?」

 

「い、いや、浮気って‥‥そう訳じゃあ‥‥」

 

迫る真霜にタジタジな葉月。

 

「会えないって分かっていても、やっぱりその人を忘れる事はできませんから‥‥それが大切な人ならなおさらです‥‥忘れる事はその人の最後を思い出す事よりも耐え難い事でしょうから‥‥」

 

「‥‥」

 

哀愁が漂う葉月に真霜はこれ以上何も言えなかった。

葉月の返答次第では、今日も無理矢理にでも葉月を抱いてやろうと思ったが、今日はその気が失せた。

 

「事情は分かったわ‥でも、葉月。その人の事を忘れろとは言わないし、忘れなくてもいいけど、いつまでも過去に縛られていては前に進めないわよ‥‥」

 

真霜はそう言って葉月の部屋から出て行った。

 

(‥‥過去に縛られている?自分が‥‥?)

 

真霜の言葉に自分を振り返る葉月。

確かに真霜の言う事も一理あった。

この世界ではもう二度と会える事はない許嫁。

この世界で新たな人生を歩んでいこうと思っていたのだが、やはり前世の世界に残して来た許嫁の存在が強い未練になっていた。

写真を失った事で、その未練が浮き彫りになった。

 

「‥‥」

 

(忘れる訳では無い‥‥いつか‥いつか、また君と出会えることを信じている‥‥だから‥それまで、さよなら‥‥巴‥‥)

 

 

真霜の言葉を一晩考え、葉月は許嫁を忘れる訳では無いが、必死に割り切る事にした。

写真でなくても彼女の姿は心の目に焼き付けている‥‥。

現世ではもう会う事は叶わない許嫁‥‥来世での再会を夢見る葉月だった。

 

翌朝‥‥

 

「おはようございます」

 

葉月は昨日の朝と変わらない様子で宗谷家の皆に挨拶する。

 

「おはよう、葉月‥調子、戻ったみたいね」

 

真霜は葉月が戻ったようにホッとした様だった。

 

「おーす、葉月元気か?」

 

そこへ、真冬が登場し、例の如く葉月の胸を狙ってきた。

 

「っ!?」

 

葉月は咄嗟に身体を捻って、真冬の背後をとり、彼女にコブラツイストをかける。

 

「あたたたたた‥‥い、いつもの葉月だ‥‥」

 

コブラツイストをかけられながらも真冬も葉月が元に戻ったのだと安心した。

真雪と真白もそんな葉月の様子を見て微笑みながら見ていた。

 

 

此処で時系列は進む‥‥。

 

図書館にて、自分(明乃にとっては親友)とそっくりな写真を持った人物。

自分の帽子を取ってくれて、友人が困っている時に助けてくれた人物。

もえかと明乃は気にはなったが、ブルーマーメイドになる為、今は目の前の試験に集中する事にした。

試験の後には試験休みがあり、その時にあの人を探せばいい。

その思いと努力があってはもえかと明乃はその時の試験にはかなりの手ごたえを感じ、試験を終えた。

試験が終わり、学校が試験休みに入ると、もえかと明乃はあの人を探し始めた。

あの人と会った図書館にも何度も足を運んだが、会う事は叶わなかった。

たった一人の人間を探すのにこの街は広すぎて、探す人数は余りにも少なすぎた。

それでも、二人は諦めなかった。

もえかは帽子のお礼の件を含めて、どうしても写真に写っている人物の事聞きたかったから。

そして、明乃はそんな必死に人探しに奔走する親友の手助けをしたかったから。

その思いが二人を動かしていた。

そんな中、二人は運悪く、街の裏路地で社会不適合者と遭遇し、絡まれてしまった。

大きな戦争が起きなかったこの世界。

しかし、世界全体が完全な平和と言う訳では無い。

日常生活の中では様々な犯罪は起きている。

それは人間社会の中で切っても切れない事なのかもしれない。

そして今、もえかと明乃はそんな日常の中で起きている犯罪に片足を突っ込んでしまったのだ。

 

「へっへっへ、嬢ちゃん達可愛いねぇ~」

 

「俺らと遊ばねぇか?」

 

「み、ミケちゃん‥‥」

 

目の前の社会不適合者に怯えるもえか。

明乃はそんな彼女を守っているかのようにもえかの前に立つ。

しかし、明乃だって怖い。でも、その恐怖を表に出してしまったら、自分も動けなくなってしまう。

明乃は必死に恐怖を押し殺すが、相手は自分よりも年上の男達。

本能的に捕まったらきっと痛い目に遭う、酷い事をされる。そんな予感がしていたが、何もせず、男共の言いなりになってたまるか、自分はどうなっても良いから、せめて親友だけでも逃がさなければ‥‥。

 

「す、すみません、私達人を探しているんです‥‥ですから、今急いでいるんです」

 

無駄だと思いつつも明乃は震える声で男達に今の自分達の現状を説明する。

もえかも、無言ながら首をコクコクと縦に振る。

 

「へぇ~人探し?」

 

「それなら、お兄さん達も手伝ってあげようか?」

 

「嘘だ」と明乃ももえかもそう感じた。

男達の醸し出す雰囲気からは自分達に協力しようなんて気概が一切感じられない。

 

「い、いえ‥私達だけで大丈夫です。それじゃあ‥‥」

 

明乃ともえかは男達を見ずにその場を離れようとした。

しかしその態度が気に入らず、男は声を荒げ、

 

「おい、嬢ちゃん、人と話すときは相手の顔を見ろと教わらなかったのか?ええ、おい!」

 

「い、いやっ!!」

 

男は明乃ともえかをつかもうと手を伸ばすが思わず反射的にもえかはその手を振り払う。

 

「こっちが下手に出てりゃ図に乗りやがってこのアマ!」

 

「面倒くせぇ~、ここでヤッちまおうぜ」

 

「ヘヘ、そうだな」

 

男達がナイフを取り出しや明乃ともえかに向ける。

 

「も、もかちゃん‥‥」

 

「み、ミケちゃん」

 

ナイフの登場でとうとう明乃も恐怖で動けなくなってしまった。

そこへ、

 

「其処で何をしている!?」

 

路地裏に凛とした声が響いた。

 

 

 

 

「うぅ~」

 

この日、葉月はまたもや、生理痛で苦しんでいた。

 

(なんで、この前あったばかりだと思ったのに~)

 

身体がずっしりと重く、変則的に襲いかかって来るこの鈍痛‥‥。

またもや、葉月の機嫌はその日の朝から、不機嫌であった。

しかし、幸いな事に今日はドックでの作業は休みとなっていたので、今日は一日家の中で過ごそうと思っていた。

葉月のその思いと行動はドックの技術者達にも幸いしていた。

だが、神は非情だった。

その日の十時過ぎ、宗谷家の電話が鳴った。

出てみると、それは葉月が日ごろ、コーヒー豆を買いに行っているコーヒーショップの店長からで、以前葉月が注文したコーヒー豆が入荷したと言う知らせであった。

葉月としては、今日は一日家に居たかったが、新しいコーヒー豆が届いたと言う事で、その豆を使ってコーヒーの研究もしたかった。

店長に頼んで送ってもらってもいいのだが、その他にももしかしたら、掘り出し物があるかもしれない。

そう言った物は直接自分の目で見て、選びたい。

葉月は、面倒だと思いつつコーヒーショップへと足を運ぶ事にした。

 

コーヒーショップにて、注文した豆を引き取り、ついでに幾つかの豆を自分の目や匂いで選び、会計を済ませて急いで家路につく葉月。

そんな中、葉月が街中を歩いていると、路地裏から人の気配がして行ってみると微かだが悲鳴が聞こえた。

そして、葉月の目の前には、図書館で出会った女の子と帽子を取ってあげた許嫁そっくりの女の人がナイフを持った男達に絡まれている場面に遭遇した。

その光景を見た葉月は生理痛以外で、苛立ちを覚え、声を上げた。

 

「其処で何をしている!?」

 

葉月の声に反応し、男達と一緒に二人の女の子も葉月の存在に気づき、葉月の方へ視線を向けた。

 

 

 

 

「其処で何をしている!?」

 

路地裏に凛とした声が響き、男達も明乃ともえかの二人も声がした方へと視線を向ける。

すると、そこには、明乃ともえかが探していた人物が居た。

 

「あの人はっ!?」

 

「うん、間違いないよ。図書館に居たあの人だよ」

 

明乃ともえかはようやく探し人に会えたことに一瞬であるが、男達に絡まれていると言う恐怖を忘れる事が出来たが、男達の声を聞いて再び恐怖した。

 

「あんだっ!?姉ちゃんよ」

 

「ヒーロー気取りか?」

 

「よく見れば、姉ちゃんもなかなかの上玉じゃねぇか」

 

「俺達と遊びたいのか?」

 

「そうなら、そう言えばいいのに~優しくしてやるよ」

 

ゲスな笑みを浮かべてくる男達に生理痛の鈍痛も合わさって葉月の不快指数は最高潮となる。

 

「遊んでやるから、かかってこいよ、ド三流以下のドぐされ共」

 

購入したコーヒー豆をその場に置き、社会不適合者共を挑発する葉月。

 

「このアマ!!」

 

「後悔すんなよ!!」

 

社会不適合者共がナイフを振りかざしながら、葉月に迫った。

明乃ともえかはその光景を見て、思わず目を閉じた。

葉月としては生理痛から来るこの鈍痛によるむしゃくしゃを少しでも暴れて晴らしたいと言う思惑あった。

 

葉月とナイフを装備した社会不適合者共の戦いは、途中、葉月は腕に傷を付けられたがそれが余計に葉月の闘争心に火をつけ、社会不適合者共をボコボコにした。

始めは目を閉じていた明乃ともえかであったが、恐る恐る目を開けてみると、其処では葉月が社会不適合者共と互角‥いや、それ以上の実力で戦っている光景が目に入った。

 

「すごい‥‥」

 

「相手はナイフを持っているのに‥‥」

 

二人は思わず、戦っている葉月の姿に見とれてしまった。

 

「ぐはっ!!」

 

やがて、フィニッシュを迎え、社会不適合者共は葉月の一本背負いで裏路地にてノックアウトされた。

 

(ああ、すっきりした)

 

一暴れした事により、葉月の顔は満ち足りた顔をしていた。

 

(さて、後は警察に任せるか‥‥)

 

葉月は携帯で警察を呼び、現場に警官が来るのを待つことにした。

そんな葉月に、もえかが声をかけてきた。

 

「あ、あの‥‥」

 

(ん、まだいたのか)

 

葉月が社会不適合者共を相手にしている間に逃げたのかと思っていた明乃ともえかはまだその場に居た。

 

「えっと‥‥無事だった?」

 

「は、はい。あの‥‥助けてくれてありがとうございました!!」

 

「ありがとうございました!!」

 

もえかと明乃は葉月に頭を下げ礼を言う。

礼を言われた葉月の方は少し驚いた。

態々その一言を言うためだけにまだいたのかと。

正直こういう風に割り込んで喧嘩をしても大抵は、面倒事は御免だと何時の間にか逃げているものだとばかり思っていたからだ。

 

「無事なら良かった‥‥もうすぐ警察が来る‥面倒事にならない間に逃げた方が良い」

 

葉月は明乃ともえかにこの場から去る様に言うが、

 

「いえ、私達も待っています」

 

「そ、そうですよ。私達も関係者ですから‥‥」

 

と、何と二人ともこの場に残ると言いだした。

二人の言葉に目をぱちくりさせて驚く葉月の姿が裏路地にあった‥‥。

 

 


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