ハイスクール・フリート 旭日のマーメイド   作:破壊神クルル

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6話 事情聴取 パート2

「‥‥じゃあ貴女は女性ではなく、本当は男性だったの?」

 

「はい‥気づいたら、この姿に‥‥」

 

「でも、今は完全に女の身体なのよね?」

 

「えっ?は、はい‥‥」

 

(あら~かわいそう~‥と言う事は、男の方の大事なタマタマも無くなってしまった訳ね‥‥)

 

事情聴取が始まり、葉月が本当は男で、気がついたらこの姿になっていた事を真霜達に話す。

真霜達は信じられないといった表情であるが、葉月本人もなんでこんな事になったのか知りたいぐらいだった。

大西洋で乗艦と共に沈んだと思ったら、自分一人だけが天照と共に洋上に漂流して気がついたら横須賀に居た。

おまけに女の体になるなんて‥‥。

真霜も心の中で突然性転換してしまった葉月に同情していた。

 

「えっと‥‥今の貴女は見た目、15~16歳くらいなんですけど、男性の時は幾つだったんですか?」

 

平賀が葉月の男の時の年齢を尋ねる。

 

「31です‥‥」

 

「生年月日は?」

 

「太正9年の1月生まれです」

 

「「「えっ?」」」

 

葉月の生年月日を聞いて真霜達は唖然とする。

 

「ど、どうかしましたか?」

 

葉月は真霜達が唖然とした表情で自分を見てくるので、なんでそんな唖然とした表情をするのかを尋ねる。

 

「‥冗談‥よね‥‥?」

 

福内が声を震わせて尋ねる。

 

「自分の生年月日に嘘を言ってどうするんです?」

 

葉月はなんで自分の生年月日を偽らなければならないと首を傾げながら真霜達に尋ねる。

 

「えっと‥‥言いにくいんだけど、今の年号は『平成』なんだけど‥‥」

 

「へいせい?‥照和ではないんですか?」

 

「昭和はもう28年前に終わっているわ‥‥」

 

「えっ!?」

 

照和の世が既に終わっている事に今度は葉月が絶句する。

自己紹介の時同様、互いに噛み合わない。

 

「‥まずはお互いに状況確認をする必要があるみたいね‥‥」

 

真霜がお互いに状況確認をしようと言う事になった。

そして、真霜が葉月に今のこの世界の状況を葉月に話した。

100年ほど前、日露戦争の後日本はプレートの歪みやメタンハイドレートの採掘などが原因でその国土の多くを海中に失った事、

その結果、海上都市が増え、それらを結ぶ海上交通などの増大に依り海運大国になった事、

戦争が起きず、海洋航路の重要性が再認識されるようになった。

しかし海洋時代に暗躍するかの如く、テロリストグループ‥所謂海賊が目立つようになった。

その他にも海上での事故対応や戦争に使わないという象徴として軍艦は民間用に転用され、女性の社会進出の象徴とも言うべき、女性の艦長の登場により、ブルーマーメイドと呼ばれる職業が生まれ、今やその職は女性の憧れの職業となっている事、

それらを葉月に話した。

真霜の話を聞き、葉月は信じられなかったが、真霜が取り出したタブレットなるものを見て、照和の世には無かったモノを見て、更に画面の中に表示されている文字の羅列や画像が、真霜が言っている事が事実である事を物語っている。

そして、葉月は自分の上官達がこの世界では、どうなったのかを調べた。

しかし、この世界では首相である大高弥三郎も旭日艦隊司令長官である大石蔵良も存在していなかった。

軍令部総長を務めていた高野五十六は山本五十六としてこの世界に存在していた。

さらに『しょうわ』の字も葉月の知る照和ではなく、昭和と言う書き方だった。

自分の生まれた時代の年号である太正も大正と言う字だった。

唖然としている葉月に真霜は、今度は葉月にどういった経緯で此処に来たのかを尋ねた。

 

葉月の話を聞き、今度は真霜達が驚愕する番となった。

葉月の知る世界と日本は、日露戦争後‥太正の世となり欧州では、第一次世界大戦が起き、照和となると、日本は白人からの亜細亜解放を目標とし、米国との戦争へ突入し、ハワイを占領。続いて米国のアキレス腱であるパナマ運河を破壊。

北太平洋の米新機動艦隊とその根拠地であるダッチハーバーを攻略し豪州を閉鎖し、クリスマス島をも攻略した。

続いて日本は世界征服を目論むナチス第三帝国にも宣戦布告。

対独逸戦で苦戦している英国と同盟を組み、マダガスカル島へ進攻し、英印軍と共に同島を攻略した。

その後もインド洋、大西洋にて日本海軍は英軍と共に独逸と戦った。

やがて、日本はハワイ諸島を返還し、米国とも和平交渉の後、停戦。

その後、世界情勢は日・米・英 対 独逸 となり、その過程で葉月は大西洋にて、乗艦していた天照が撃沈され、乗艦と共に運命を共にした事を話した。

 

「第一次世界大戦に第二次世界大戦‥‥」

 

「アメリカと戦争だなんて‥‥」

 

「それにドイツが世界征服なんて‥‥」

 

真霜達は葉月の話した経緯をやはりそう簡単には信じられなかった。

彼女達からしたら、葉月の話は架空戦記物の小説の様な内容だったからだ。

しかし、葉月が話したのは紛れもなく事実なのであるが、今の葉月にはそれを証明する方法がない。

だが、この世界の歴史においても昭和時代に米国との関係が悪化した事が有ったと言う。

 

「あっ、でも昭和の始め頃、アメリカと関係が悪くなったことはあったかな?」

 

「ああ、そう言えば‥‥」

 

「確かあの時は、開戦直前まで行ったけどギリギリの日米交渉とロシアの仲介で開戦は回避したって歴史の授業で習ったわ‥もし、交渉が決裂していたら、貴女の言う日米との戦争が起こっていたかもしれないわね」

 

真霜達は思い出したかのように過去この世界で起こった米国との戦争危機の出来事を言う。

 

「結局、その後も戦争は‥起きなかったんですか‥‥?」

 

「ええ、起きなかったわ。そして、その時に対米のために作られた軍艦が今のブルーマーメイドや各地の海洋学校で使われているのよ」

 

「そうなんですか‥‥あっ、もう一つ聞きたい事があるんですけど‥‥」

 

「何かしら?」

 

「独逸人でハインリッヒ・フォン・ヒトラーと言う人物を知りませんか?照和時代‥1940年代に独逸に存在していたと思うのですが‥‥」

 

葉月は続いてヒトラーの存在を真霜達に尋ねた。

米国との戦争が交渉で回避されても独逸にあの独裁者が居れば、世界征服の野望を抱いてもおかしくはないと思ったからだ。

米国との戦争が交渉で回避されたと言うのであれば、あの独逸の独裁者相手にどんな交渉をして、世界征服の野望を諦めさせたのか?

それが気になったのだ。

 

「うーん‥‥当時の独逸にそんな人は居なかったみたい‥ヒトラーと言う家名で当時の時代にヒットするのは‥風景画家のアドルフ・ヒトラーぐらいね」

 

「えっ?」

 

平賀がタブレットを操作して、1940年代の独逸の事を調べたが、ハインリッヒ・フォン・ヒトラーなる人物も存在していなかった。

あの独逸の独裁者が居ない‥‥。

その事実は葉月を驚愕させた。

一介の画家が世界征服なんて野望を抱くはずもなく、この世界の独逸ではカリスマ的指導者は存在しなかった。

その為、この世界の独逸は世界征服なんて野望を抱かず、ポーランドにも侵攻はせず、第二世界大戦の様な大きな戦争は起きなかったのだ。

しかし、このアドルフ・ヒトラーの顔は高野五十六と山本五十六が同じ顔の様にハインリッヒ・フォン・ヒトラーと瓜二つだった。

あまりにも噛み合わない話に真霜はある結論を導き出した。

 

「広瀬さん」

 

「何でしょう?」

 

「貴女と私達の話の内容から見て考えられる事があるのだけれど‥‥」

 

「‥‥」

 

「これはあまりにも荒唐無稽で、昔読んだ空想小説の内容なんだけど‥‥落ち着いて聞いてね」

 

「は、はい」

 

「多分、貴女はなんらかの拍子で時代を超えて別の世界にきてしまったんじゃないかしら?そしてその過程で性別も入れ替わり、年齢も若返った‥‥」

 

「さ、さすがにそれは‥‥」

 

「この状況からしてあり得ないとは言い切れないんじゃないかしら?」

 

「‥‥もし、そうだとしたら自分はどうなるのでしょうか?それに天照も‥‥」

 

「あまてらす?」

 

「自分が乗艦していた艦の名前です」

 

「その件についても今日は貴女と交渉をしに来たのよ」

 

真霜は続いて天照と葉月の今後についての交渉に移った。

 

「まず、第一に貴女の生存権よ‥この件に関しては私が海上安全整備局から安全の保障を取り付けるわ。いくら日本とはいえ、この世界の日本は貴女にとって他国に等しいのは分かっているわね?」

 

「は、はい‥‥でも、そこまでしてくれるには何か見返りを求めるのでは?」

 

「話が早いわね‥‥貴女が乗艦していた天照‥‥そして貴女共々我々、海上安全整備局の指揮下に入ってもらう‥これが条件よ」

 

真霜が出した条件は半ば拒否権の無い条件であった。

しかし、葉月にはこの条件を拒否するだけの権限も無かった。

自分の知らない世界に一人だけ‥‥

そして、艦には補修、補給行える港が必要だ。

真霜は‥海上安全整備局はそれらと共に葉月の身の安全も保障してくれると言う。

 

「‥‥」

 

「広瀬さん、話を聞く限りでは、貴女が元の世界に戻るのは、事実上不可能だと判断します。ですから、どうか宗谷一等監察官の条件を呑んでください」

 

福内が葉月に真霜の条件を呑むように頼む。

 

(確かに不幸にも天照は指揮系統を失った‥しかし、天照の力はあまりにも危険すぎる‥宗谷一等監察官らが所属する海上安全整備局が一体どんな組織なのか今の自分には判断しかねる‥‥ならば‥‥)

 

「‥海上安全整備局の傘下に入るとしても、天照の指揮権においては自分が執ります。それと、こちらが必要と判断した場合、独断で動くこともありますが、いいでしょうか?」

 

葉月としては天照の力が余りにも強大な事と一時は指揮を執った艦を顔も知らない赤の他人に奪われたくなかった。

天照は葉月にとって数少ない故郷との繋がりでもあったからだ。

 

「分かりました。貴女の条件を呑みましょう‥こちらに敵対行動をとらない場合、法律での範疇での行動を認めます」

 

こうして葉月と真霜‥海上安全整備局との間で交渉が成立した。

 

 

「あ、あの‥‥」

 

交渉が終わると平賀が葉月に話しかけてきた。

 

「なんでしょう?」

 

「此方が行った天照の調査で気になるモノがあったんですが‥‥」

 

「ん?なんですか?」

 

「コレ‥なんですけど‥‥」

 

平賀がタブレットを操作して天照を調査した調査隊が撮影した海兎の画像を葉月に見せた。

 

「コレはなんですか?」

 

「コレって‥‥海兎ですね」

 

「カイト?」

 

「ああ、この機体の名前です。正式名称は、多用途オートジャイロ 海兎です」

 

「多用途オートジャイロ?」

 

平賀は首を傾げ、福内も真霜も訳が分からないとった表情をしている。

 

「何に使うんですか?」

 

「何って‥これで人員や物資を輸送するんですよ‥空を飛んで」

 

「「「空を飛ぶ!?」」」

 

オートジャイロの使用方法を知らない真霜達は海兎が空を飛ぶ乗り物だと知り驚愕する。

 

「これが本当に空を飛べるの?」

 

「え、ええ‥」

 

(なんでそんなに驚くんだ?この世界が照和の次の世ならば、オートジャイロも航空機ももっと性能が良いモノが誕生していてもいい筈だと思うんだが‥‥)

 

「広瀬さん」

 

「はい?」

 

「私が知る限りでは、この世界には海兎の様に空を飛ぶ乗り物はなく、有人で空を飛ぶ乗り物と言えば、飛行船か気球ぐらいです」

 

「えっ!?」

 

福内の言葉に今度は葉月が絶句する。

未来の世界の筈なのにオートジャイロも航空機もなく、あるのは飛行船か気球ぐらい‥‥。

機械技術は照和の世界よりも進んでいるのに空に対する技術は全くと言っていいほど進んでいなかった。

何故この様な技術差が生まれてしまったのか不思議に思う葉月。

 

「もしかして‥‥」

 

しかし、思い当たるフシはあった。

 

「この世界では第一次世界大戦、第二次世界大戦が起きなかった事が原因かもしれませんね」

 

戦争は兵器の‥科学技術を大いに高める出来事である。

葉月の世界では、二度にわたる大きな戦争‥そして、葉月の知らない、前世からの転生者達の記憶にて、本来ならば有り得なかった誘導兵器やジェット機の投入が可能となったのだ。

 

「戦争は技術を高め、平和は人類の進化を緩める‥‥皮肉なモノね‥‥」

 

真霜は葉月の推測を聞きあながち間違いではないと思いつつ平和と技術の進歩は比例しない事に皮肉を感じながら呟いた。

 

「広瀬さん、これが空を飛ぶ乗り物なら、今度乗せてもらえませんか?」

 

平賀が葉月に海兎に乗せてくれと言う。

 

「ああ!!ズルイ、平賀!!私も!!」

 

福内も平賀同様、葉月に海兎に乗せてくれと言う。

 

「あっ、はい‥いいですよ」

 

「「やった!」」

 

平賀も福内も子供の様に喜んでいた。

 

「広瀬さん‥‥」

 

「は、はい」

 

「その時は私も勿論、ご一緒させてもらいますよ」

 

「え、ええ‥」

 

真霜もなんだかんだ言って空への未知なる体験をしてみたかったのだ。

 

「あっ、そう言えば‥‥」

 

葉月は思いだしたかのように言う。

 

「どうしたの?」

 

「此処を退院したら、自分は何処へ行けばいいのでしょうか?」

 

「「「あっ!!」」」

 

真霜達は此処で葉月の身の振りを考えていなかった事に気づいた。

 

「それなら、家で面倒を見てあげる」

 

真霜が退院後の葉月の面倒を見ると言う。

宗谷家ならば、葉月一人ぐらい十分に養うぐらいの経済力はある。

それに宗谷家で面倒を見れば、真霜の目の届く所に葉月を置いておけるので、問題はない。

むしろ、監視しやすい。

葉月としても真霜の思惑はすぐに分かったが、このまま退院して宿なしになるよりは十分マシだったからだ。

話は直ぐにまとまり、この日は解散となり、葉月の病室を出た後、真霜は母であり、現横須賀女子海洋学校の校長を務めている宗谷真雪に電話を入れた。

そして、小笠原諸島での不明艦を発見した事とその乗員の面倒を宗谷家で面倒を見る事を真雪に伝えた。

真雪も元ブルーマーメイドで旗艦大和の艦長を務めていた経緯から真霜から聞いたその不明艦の乗員の心情を直ぐに理解し、快く承諾してくれた。

こうして葉月の異世界暮らしの幕はあがった‥‥。

運命と言う名の歯車は動き出した。

それを誰も止める事は出来ない‥‥。

人はただ、歯車の動きに身を委ねてしまう。

この先、葉月には一体どんな出会いが待ち受けているのか?

この先、どんなことが待ち受けているのか?

それはまだ、誰にもわからない‥‥。


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