佐原君とのファイト。その最中、私は不思議な声を聞いた。そして、それと同時に感じる波紋が広がるような感覚。
周りは気づいていない。私だけが感じ、声が聞こえている……。
(この……感覚は……!?)
何がなんだかわからない。いきなり声が聞こえて、不思議な感覚になって、訳がわからず混乱している。
……だが、その声が誰のものであるかは、不思議とわかった。
(ゴールドパラディンの……みんな……!?)
そんな中聞こえた1つの声。聞いたはずないのに、何故だかわかる。誰のものかが。
『シオリ……』
(アルフ、レッド……!?)
『君は……1人じゃない……』
そこで声は途切れた。さっきまでの感覚もなくなっている。
「シオリさん?負けたくないのはわかるっスけど、ダメージチェックはして欲しいっスよ」
「あっ……ごめん!」
(なんだったんだろう?今の……)
私は一瞬、PSYクオリアではないかと考えた。
PSYクオリアとは、ヴァンガードのアニメに出てくる特別な力のことを言う。ユニットの声を聞き、ファイトの流れを教えてくれる。それだけではなく、自分が勝利するイメージまでも教えてくれるのだ。
けど、さっきの感覚は、それとは少し違うように思えた。ユニットの声は確かに聞いた。半信半疑だけど、あれはユニットの声だ。
ただ、ファイトの流れ、自分の勝利するイメージは頭には浮かんで来なかった。トリガーを願った瞬間、ユニットの声が聞こえただけ。
(なんだかよくわからなかったけど……)
「じゃあ改めて、ダメージチェック。2枚目……」
ただ、声が聞こえただけだったのだろうか?……でも、あの声は、私に言った。
『まだ戦いたいと思うあなたに、戦いを続ける力を……』
そして、アルフレッドの言葉……。
『君は……1人じゃない……』
このタイミングで、聞こえた言葉。それの意味するものは、一体……?
そんなシオリの考えは、すぐに中断されることになる。その理由は、まさに今、シオリが見せたダメージトリガーが物語る……。
「嘘っスよね?ここでそれを引くとは……!」
「……どうして」
信じられなかった。今、私が捲ったカードを望み、その瞬間に聞こえた声と、あの感覚。
全くの偶然と言ってしまえばそれで済む。……でも、私はそうは思えなかった。
「霊薬の解放者……ヒール、トリガー……!」
まさか、ユニットたちが、私の望むカードを呼んでくれたの……?
「ダメージを……1枚回復。パワーをアルフレッドへ(16000)」
そんな馬鹿な……。いや、カードの声が聞こえる時点で色々おかしいんだけど……。
(……でも、これでまだ……ファイトを続けることが出来る)
そうだ。カードの声はどうあれ(放っておくような話でもないが)、これでまた、私にターンが回って来る。
「カルラのスキルで、ダメージを表にして……ターンエンドっス……。まさかあんなところでヒールトリガーを引くとは……凄くないっスか!?」
「私も……驚いてる」
ユニットの声が聞こえて、欲しいカードを引いたなんてね……。
シオリ:ダメージ5 トウジ:ダメージ5(裏2)
「私のターン、スタンドアンドドロー……」
本当は回って来ることがなかったはずのターン。なんとかして、ここで勝負を決めたい!
「アルフレッドのスキル、CB2で、デッキトップのカードをスペリオルコール!……ブラスター・ブレード・解放者!(9000)」
いいタイミングだ。これなら……!
「ブラスター・ブレードのスキル!CB2で、ダストプラズマ・ドラゴンを退却!」
「ここでブラスター・ブレードっスか……」
「さらにアルフレッドのリミットブレイク!解放者は3体、パワープラス6000!(17000)リューのブースト、アルフレッドでアタック!(23000)」
本当はまだリアガードをコールしたかったけど、佐原君には表のダメージがまだ3枚あるため、ヴァーミリオンのリミットブレイクを発動されたら、せっかくのリアガードが退却される。
「セイオウポ、カーバンクルでガード!トリガーは2枚出たら突破っスよ!」
「ツインドライブ、1枚目……王道の解放者 ファロン。2枚目……武装の解放者 グイディオン、ゲット!ドロートリガー!!パワーはブラスター・ブレードへ(14000)、1枚ドロー」
トリガーは2枚出なかったけど、手札が少ない今、ドロートリガーは大いに役立つ。
「霊薬の解放者のブースト、ブラスター・ブレードでアタック!(19000)」
「毒心のジンでガード!」
「……ターンエンドだね」
シオリ:ダメージ5(裏4) トウジ:ダメージ5(裏2)
「じゃあ、俺のターン!スタンドアンドドロー!」
さて、どう来る?ヴァーミリオンのリミットブレイクを発動して一気に攻めるか、それとも、私のリアガードが展開していないことを見越してそのまま攻めるか……。
「戒めの力は、雷を得て、理をも崩壊させる!クロスライド!ドラゴニック・カイザー・ヴァーミリオン“THE BLOOD”!!(11000)」
そっか……!確かヴァーミリオンには、クロスライド出来るユニットがいたんだった……!
「クロスライドスキルで、BLOODはパワープラス2000っス!(13000) さらにヴァーミリオン(11000)をコール!そして……BLOOD!今こそ究極を越える時!!アルティメットブレイク!!」
グローリーと同じくアルティメットブレイクが使えるユニット……。確か、その効果は……。
「CB3、BLOODにパワープラス5000!クリティカルもプラスするっスよ!(18000 ☆2)」
ヴァーミリオンの効果を強力にしたものであり、その上、前列全てにアタック出来る効果はなくなっていない。
「ワイバーンのブースト、BLOODで前列全てにアタック!ワイバーンのスキルで相手ダメージが3枚以上なら、パワープラス4000!!(28000 ☆2)」
ブラスター・ブレードのインターセプトは、ブラスター・ブレード自身がアタックされているため、使えない……。なら、
「マルクで、完全ガード!コストはグイディオン!!」
「なっ……!」
さっきのドロートリガーで運よく引くことが出来たからよかった……。これがなくても、ガード自体は出来たけど、トリガーが乗ることを考えると、完全ガード出来たことはよかった。
「……ツインドライブ!1枚目、ドラゴニック・デスサイズ。2枚目、毒心のジン。クリティカルトリガーっス!効果は全てカルラへ!(14000 ☆2) そのカルラが、アルフレッドにアタック!レッドリバーのブースト!!(22000 ☆2)」
「エポナ!ヨセフス!!守って!」
「……完全ガードを持ってるとは思わなかったっス。ターンエンド」
シオリ:ダメージ5(裏4) トウジ:ダメージ5(裏5)
「私のターン」
何とか耐えた。そして、これは好機だ。何しろ、佐原君はもうCBが使えない。
つまり、ヴァーミリオンのスキルが使えない。なら、リアガードを展開しても、一気にやられることはない!
「スタンドアンドドロー!横笛の解放者 エスクラド(9000)と、王道の解放者 ファロン(9000)をコール!そして、アルフレッドのリミットブレイク!解放者は4体。パワープラス8000!(19000)」
このチャンスは逃さない!
「ファロンでカルラをアタック!スキルで、解放者のヴァンガードがいるから、パワープラス3000!(12000)」
クロスライドのせいで、守りが固い……。だから、ファロンはカルラを狙うしかない……。
「ノーガードっス!」
妥当か。ここでガードしても、次に備えようと思えばガードしないのが普通だ。
「リューのブースト、アルフレッドでアタック!リューのスキル、解放者のリアガードが他に3体以上いるなら、パワープラス4000!(29000)」
「く~!ジン!デスサイズ!カストルでガードっス!」
必要なトリガーは1枚。引けるか……?
「ツインドライブ!1枚目……孤高の解放者 ガンスロッド……2枚目……霊薬の解放者。ゲット!ヒールトリガー!!ダメージ1枚回復、パワーはアルフレッドへ!(34000)」
決まった。後は、佐原君がトリガーを引かなければ……。
「ダメージ……チェック……!」
「…………」
「……レッドリバー・ドラグーン。残念。俺の負けっスわ」
***
「何なんスか!?あんな状況でヒールトリガー引くなんて!?」
佐原君が言うヒールトリガーは、もちろん最後に引いたものではない。私が6ダメージ目に引いた、あのトリガーだ。
「私にも、わからないよ。まさか、あそこでね……」
不可思議な声。あれは幻聴だったのか……?
波紋が広がるようなあの感覚。あれは幻だったのか……?
「ん、終わったわね。どうだった?ファイトの結果は」
「それが、聞いて欲しいんスよリサさん!俺、本当は勝ってたのに……シオリさんがまさかの6枚目でヒール引くんスよ!?」
「6枚目で!?……なかなか珍しいわね」
狙ったタイミングで欲しいカードを引くなんてこと、どんな強者でも出来るものではない。
そんな中でヒールトリガーを引いたのだから、珍しいと言うのもわかる。
「……まぁ、気持ち切り換えて、次!今度こそ小沢君と━━」
ファイトするっス!……とでも続いたであろう言葉は、サンシャインの自動ドアが開いた音で中断された。
中に入って来たのは、私達よりも年が4、5歳ほど離れているであろう男の人だった。手には、棒状に丸められた紙。ポスターだと思うけど……彼は?
「すいません!誰か、店員さん来てくれません?」
「いらっしゃい。何の用でした?」
店長が、男の所へ向かう。男は、手に持ったポスター(?)を広げながら、店長と何やら話しているようだった。
「何スかね?あれ……?」
「……さぁ?」
やがて、話を終えた男は、手に持ったポスター(?)を壁に貼っていく。その紙には、
「……ヴァンガードのイベント?」
ヴァンガードのイベントを告知する内容のポスター(やっぱりポスターだったんだ……)だった。どうやら、近くのホールで行われるみたいだ。
「誰でも参加出来て……」
「参加者全員でのバトル・ロワイアル……」
「優勝者には、豪華景品……ってマジっスか!?」
へぇ……。ちょっと面白そうだ。
「……ん?君たち、このイベントに興味ある?」
「えっ?」
すると、さっきポスターを貼っていた人が、ポスターを見る私達を見て、話しかけて来た。
「俺はこのイベントの手伝いをしてる、成宮ヒロキだ。よかったら、君たちもこのイベントに参加してくれないか?」
「どうするっスか?」
「別に……いいんじゃないの?日時は……えぇ。この日なら学校も休みだし、みんなの都合さえ合わせてくれたら、参加は出来るわ」
「よかった……。あ、いや、決して参加者が少ないとかじゃないんだが……」
…それを言うということは、参加者は少なそうだね……。
「一応、イベントを手伝ってる俺達も、参加者扱いになるがな……」
「……大変だな」
「とにかく、参加してくれるならありがたい。ただ、参加の申し込みだけして欲しいんだが……」
すると、成宮さんは1枚の紙を取り出す。
「この紙に参加者の名前を書いてくれないか?そうすれば、申し込み完了だ」
「わかりました。じゃあ、少しだけ待っていてくれませんか?」
「わかった。書き終わったら呼んでくれ」
私達は、申し込み用紙に順番に名前を書いていく。佐原トウジ、小沢ワタル、森宮リサ、そして星野シオリ。
「書き終わりました」
「ありがとう。それじゃあ、俺はこの辺で。イベント楽しみにしてて下さい!」
男は、用紙を懐に仕舞うと、サンシャインを後にした。
「ヴァンガードのイベントね……」
「豪華景品って何なんスかね!?」
「どうせ安物だと思うな。よくて、ヴァンガードのブースター1箱とか」
「それって十分いいと思うわよ!?」
イベントか……。行われるのは、2週間後の土曜日か。
「まぁ、とにかく楽しもうよ。あの人が言ってたように」
みんなが私に微笑みかける。私も自然と微笑んでいた。
……そんな私、いや私達がこのイベントで大きな転機をもたらすことになるとは……。この時、誰もが想像していなかった……。