つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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ride82 変革の龍

「さて……戻ってきたのはいいけど……」

 

グレートネイチャーの使い手、藤宮ヒロシさんとのファイトを終えて、私は観客席に戻って来ていた。新しい切り札、ガンスロッド・ゼニスの活躍もあって、何とか勝つことができたんだよね。

 

けど……誰もいない。小沢君は今からファイトなのはわかるけど、佐原君と森宮さんはまだ戻ってきていないみたいだ。どこかで休憩しているのかな。

 

少し心細くなっていると、突然肩を叩かれる。びっくりして振り返ると、そこにいたのは……。

 

「シオリさん」

 

「……あっ、シュンキ君」

 

今日は初めて顔を見る、シュンキ君だった。ヒナやハヤト君の姿が見えない辺り、今はファイト中と言ったところか。

 

「1人みたいだね。他のみんなは?」

 

「場所がわかる人だと……ほら、あそこ」

 

「どれどれ……あれ、小沢ワタル君じゃないか」

 

MFSはファイトテーブルの形になっているけど、まだ起動はしていないみたいだ。今、ファイトの準備をしているところか。

 

「……そう言えば、シュンキ君って、小沢君と何かあったの?その、小沢君がシュンキ君の事、かなり意識してたみたいだったから」

 

「僕の事を?へぇ、それはよかったな。あ、いや、特に何かあったわけじゃないんだけどね」

 

「それじゃあ、小沢君はどうして……」

 

「ただ、強くなるための心構え……覚悟を教えたんだ。その時、少々荒っぽい言葉を選んでしまったからね。心が折れてしまわないか不安だったけど……そうか。あの時の事を糧に、前に進んでいるんだ」

 

私はあの時、バトルロワイヤルを終えた小沢君から、以前とは違った雰囲気を感じ取っていた。あれが、シュンキ君の教えた覚悟の表れだったのか。

 

「文化祭で会った時もそうだったけど、いい顔をしているよ。成長している」

 

「そこまで褒めてくれると、何だか私まで嬉しくなるな」

 

「けど、どこまで強くなったかは、僕はまだ知らない。今の彼のファイトを、僕はまだ見ていないからね」

 

「それなら……あ、始まった。今から、小沢君のファイトだよ」

 

ちょうどいいタイミングだ。火山地帯を背景に、2人のヴァンガードが映像として映し出されている。

 

「シュンキ君も、一緒に見ようよ。多分、他の2人はしばらく帰ってこないと思うから」

 

「そうだね。なら、見せてもらおうかな」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「俺のターン、ドロー。ドラゴンモンク ゴジョー(7000)にライド!サーデグは左後ろへ。続けてゴジョーのスキル。レストし、手札1枚を捨てて1ドロー。ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー。必中の宝石騎士 シェリー(7000)にライド。ヘロイーズは右後ろへ。シェリーの後ろに、厳戒の宝石騎士 アルウィーン(6000)をコールします」

 

早速リアガードを並べてきたか。数ではなく、1点にパワーを集める考えか。

 

「アルウィーンのブースト、シェリーでアタック!(13000)」

 

「ノーガードだな」

 

「ドライブチェック、連携の宝石騎士 ティルダです」

 

アルウィーンの援護を受け、シェリーがゴジョーに武器を叩き込む。ダメージには、ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンドが入った。

 

「ターンエンドです」

 

 

ワタル:ダメージ1 相手:ダメージ0

 

 

「俺のターン、ドロー。ヌーベルクリティック・ドラゴン(9000)にライド!」

 

「ヌーベルクリティック……」

 

この反応、バレているか。だが、そう言うデッキだと思わせるだけでもプレッシャーになるはず。それに、バレてるのならこいつを使うか。

 

「クリティックのスキル!CB1、そして……手札からこのカードを公開する」

 

俺は手札に持っていた指定のカードを見せ、スキル発動の条件を満たす。

 

「これにより、アルウィーンを退却!さらにサーデグのスキル!相手のリアガードが退却した時、自身をソウルに入れて、追加で相手にリアガードを退却してもらう!」

 

とは言え、残っているのはヘロイーズだけ。相手はヘロイーズをドロップゾーンに置き、悔しそうな顔を見せる。

 

この流れは、俺の理想形。序盤からリアガードを削り、攻撃の展開を遅くすると同時に、ファーストヴァンガードを使用不能にすることができるからだ。

 

「もう1体、ヌーベルクリティック・ドラゴン(9000)をコール。ヴァンガードのヌーベルクリティックでアタック!(9000)」

 

「……ノーガードです」

 

「ドライブチェック、槍の化身 ター。ゲット!クリティカルトリガー!パワーはリアガードへ(9000) クリティカルはヴァンガードのヌーベルクリティックへ!(9000 ☆2)」

 

ヌーベルクリティックの両手から形成された、白い螺旋を描く光の玉。それが真っすぐにシェリーへと襲い掛かる。

 

シェリーは後方に飛んでかわそうとしたが、避けきれずに一撃を食らってしまう。背中から高温の地面に倒れ、二重の痛みがシェリーを蝕む。

 

「ダメージチェック、1枚目、宝石騎士 ぷりずみー。2枚目、純真の宝石騎士 アシュレイ」

 

「リアガードのヌーベルクリティックでアタック!(14000)」

 

「ノープル・スティンガーでガード!」

 

再び光の玉がシェリーを包もうとするが、ノープル・スティンガーが体を張って守り抜いた。

 

「ターンエンドだ」

 

 

ワタル:ダメージ1(裏1) 相手:ダメージ2

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー。友愛の宝石騎士 トレーシー(9000)にライド。続けて連携の宝石騎士 ティルダ(9000)をコールします」

 

あまりリアガードをコールしないな……。さっきリアガードを退却させたことが響いているのか?

 

「トレーシーでアタック!(9000)」

 

「そこは、ターでガード!」

 

ターが槍でトレーシーの斧による攻撃を受け止め、そのまま押し返す。ターは役目を終えると、光の粒子となって消えていく。

 

「ドライブチェック、熱意の宝石騎士 ポリー。ヒールトリガーです。ダメージを1枚回復して、パワーはティルダへ(14000) そのままアタック!(14000)」

 

が、そこをティルダがついて接近する。手にしたレイピアが今にもヌーベルクリティックの首を捉えようとして……。

 

「ノーガード」

 

そこに立ちふさがる者もなく、レイピアの刃が鮮やかに軌跡を描いた。

 

「ダメージチェック、ヌーベルロマン・ドラゴン」

 

「ターンエンド」

 

 

ワタル:ダメージ2(裏1) 相手:ダメージ1

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー!」

 

リアガードもあまり展開されていない。なら、ここで手札を消費しても苦にはならないだろう。

 

「進撃せよ!大地を揺るがす炎の王者!!ライド!ドーントレスドライブ・ドラゴン!!(11000)」

 

ここまでは、前の俺のデッキとあまり変わらない。決定的に変わったのは、次のターンからの動きだ。

 

「ドーントレスの後ろに、ドラゴンナイト アシュガル(7000) ヌーベルクリティックの後ろに、ドラゴンモンク ゴジョー(7000)をコール!」

 

これで俺のリアガードは3体。向こうは1体。それだけで優劣を決めるつもりはないが、俺に分があるだろうか。

 

「アシュガルのブースト、ドーントレスでアタック!ドーントレスのスキルで、相手よりリアガードが多いなら、パワープラス2000!(20000)」

 

「ノーガード!」

 

「ツインドライブ、1枚目、バーサーク・ドラゴン。2枚目、ベリコウスティドラゴン」

 

火山から溢れ出す溶岩を踏みしめながら、ドーントレスは高温をものともせずにトレーシーに近づく。そして、両手を重ね合わせ、大地を揺らすほどの鉄槌を与えた。

 

「うわっ……ダメージチェック、閃光の宝石騎士 イゾルデ」

 

「ゴジョーのブースト、ヌーベルクリティックでアタック!(16000)」

 

「ポリーでガードします!」

 

「ターンエンドだ」

 

 

ワタル:ダメージ2(裏1) 相手:ダメージ2

 

 

「私のターン、スタンドアンドドロー。ライド!純真の宝石騎士 アシュレイ!!(11000)」

 

ブレイクライドのユニットか。宝石騎士のデッキとなると、考えられるライド先は2種類くらいだが……。

 

「ティルダのスキル。宝石騎士を含むグレード3のユニットがヴァンガードとして登場した時、CB1でデッキから、必中の宝石騎士 シェリー(7000)をスペリオルコール!」

 

要はグレード3にライドすれば、スキルを使えると言う事。ブレイクライドとは相性のいいユニットだな。

 

「さらに手札から共闘の宝石騎士 ミランダ(9000)をコールして、そのままアタック!ミランダはアシュレイがヴァンガードなら、パワープラス2000!(11000)」

 

盾を前方に構えながら、溶岩を避けつつドーントレスドライブに迫るミランダ。十分に距離を詰め、跳躍と共に右肩へと狙いを定める。

 

「ヌーベルクリティックでインターセプト!」

 

それをヌーベルクリティックが、光の玉を飛ばすことで接近を許さない。と、ミランダは狙いを変え、クリティックを切りつけた。

 

「アシュレイでアタック!スキルでパワープラス2000!(13000) ツインドライブ、1枚目……宝石騎士 ぷりずみー。2枚目……炎玉の宝石騎士 ラシェル。クリティカルトリガーです。パワーはティルダへ(14000) クリティカルはアシュレイへ!(13000 ☆2)」

 

クリティカルトリガーを引かれたか……。だが、それならむしろ好都合だ。

 

「ダメージチェック。1枚目、ドーントレスドライブ・ドラゴン。2枚目、ヌーベルロマン・ドラゴン」

 

「シェリーのブースト、ティルダでアタック!(21000)」

 

「これもノーガードだ」

 

シェリーが後方から支援し、アシュレイとティルダが連携を取りながら、ドーントレスドライブの体に傷をつけていく。

 

「ダメージチェック、ブルーレイ・ドラゴキッド。一応クリティカルトリガーだな。効果はヴァンガードに与えておく」

 

「ターンエンド」

 

 

ワタル:ダメージ5(裏1) 相手:ダメージ2(裏1)

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー!」

 

ダメージは5か……。だが、ここまで耐えきって見せたんだ。俺の新たな切り札を、見せてやるよ!

 

「新たな時代は、暗雲裂く炎と共に!今こそ変革を呼び覚ませ、全てを超えし龍よ!!ブレイクライド!」

 

ドーントレスドライブが飛翔し、その姿が炎に包まれる。一面が真昼のように明るくなったと錯覚させる炎の輝きが戦場を支配する中、現れた竜の名は……。

 

「超越龍 ドラゴニック・ヌーベルバーグ!!(13000)」

 

やや細身の竜。いや、竜と呼ぶには少し異質な存在。むしろ人に似たような姿をしている。

 

「ヌーベルバーグ……。まさか、グレード4のユニットを使うなんて……」

 

ドラゴニック・ヌーベルバーグ。それは、ヴァンガード史上初のグレード4のユニットだった。前にもグレード4のユニットはいたが、期間限定で使えると言う特殊なものだった。そのため、これが初のグレード4となる。

 

グレード4であるため、グレード3から出ないとライドはできない。そのため、登場するのはかなり遅くなる。その上、デッキに採用するとなると、他のグレードの枠を削らないといけない。そうなれば、ライド事故を引き起こす原因にもなってしまう。

 

当然、ガードにも使えない。つまり、グレード3を多めに採用しているのだと考えたらいい。このようなデメリットがある分、ライドできると強力な力を発揮する。

 

「ブレイクライドスキル!ヌーベルバーグにパワープラス10000!(23000) さらにスキルを与える!」

 

「パワー23000……。元々のパワーも、クロスライドと同等の13000なんて……」

 

パワーが高いなら、攻めでも守りでも重宝する。が、これだけなら他のクロスライドを持つユニットでも行える動きだ。

 

ヌーベルバーグがその力を見せるのは、これからだ。

 

「ゴジョーの前に、バーサーク・ドラゴン(9000)を、何もいない列にドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド(11000)をコール!バーサークのスキルでCB2、ティルダを退却する!」

 

ブレイクライドを使われるなら、またティルダのスキルも発動してしまう。そうなる前に、先に根元を断つ!

 

「ヌーベルバーグ単体でアタック!この時、スキル発動!ヌーベルバーグのアタックは、グレード0では防げない!(23000)」

 

まともに防ぐには、大量の手札が必要だ。もしくは完全ガードを使う必要がある。が、ブレイクライドでパワーが上がっている今、安全にガードできるなら後者だ。

 

「……ノーガード!」

 

「ツインドライブ!1枚目、ドラゴンモンク ゴジョー。2枚目、ドラゴンダンサー バルバラ。よし、ヒールトリガー!ダメージを1枚回復して、パワーはジ・エンドへ!(16000)」

 

ヌーベルバーグの両手から形成されたエネルギーの奔流が、成すすべなくアシュレイを飲み込んでいく。

 

「……ダメージチェック。専心の宝石騎士 タバサ。よかった、ドロートリーー」

 

「悪いが、ヌーベルバーグのもう1つのスキル!俺のターン中、相手はトリガーを発動できない!」

 

「え……っ!?」

 

ダメージトリガーに期待して、あえてダメージを受ける戦法は間違ってはいない。だが、ヌーベルバーグの前では無意味となる。

 

今は使っている方だからいいが、使われたらかなり厄介なスキルだ。

 

「続けてブレイクライドスキル!手札3枚を捨てて、ヌーベルバーグをスタンドする!」

 

俺はドライブチェックで得た手札と、手札のベリコウスティを捨てることで、再アタックを可能にする。と言うことはつまり、もう1度さっきのスキルが発動するわけで……。

 

「アシュガルのブースト、ヌーベルバーグでアタック!アシュガルのスキル、ドラゴニック・ヌーベルバーグをブーストした時のみ、パワープラス3000!さらにヌーベルバーグのスキルで、グレード0のガードを封じる!(33000)」

 

「……ノーガードします!」

 

「ツインドライブ!1枚目、ブルーレイ・ドラゴキッド。ゲット!クリティカルトリガー!パワーはジ・エンド(21000) クリティカルはヌーベルバーグへ!(33000 ☆2) 2枚目、ガトリングクロー・ドラゴン。ゲット!ドロートリガー!」

 

ここでダブルトリガーなのは運がいい。だが……こっちはトリガーばかり引いて、相手はトリガーを引かせてもらえないのも、少しかわいそうだな……。

 

「1枚ドローして、パワーはバーサークだ!(14000)」

 

再びエネルギーの奔流がアシュレイを襲う。クリティカルが乗っているからか、さっきより勢いが強くなっているみたいだ。

 

「ダメージチェック、1枚目……連携の宝石騎士 ティルダ。2枚目……炎玉の宝石騎士 ラシェル。クリティカルトリガー……だけど」

 

「あぁ。ヌーベルバーグのスキルで、発動はできない」

 

こちらは後2回のアタックを残している。それを前にして、トリガーの恩恵を受けられないのは痛い。

 

「ゴジョーのブースト、バーサークでアタック!(21000)」

 

「ラシェルでガード!ミランダでインターセプト!」

 

「ジ・エンドでアタック!(21000)」

 

「……ノープル・スティンガーと、ぷりずみーでガード!」

 

「防がれたか……ターンエンド」

 

 

ワタル:ダメージ4(裏2) 相手:ダメージ5(裏1)

 

 

「私のターンですね。スタンドアンドドロー……」

 

さっきのターンで一気に手札を使わせた。リアガードも削ったし、大きく展開されることはないだろう。何せ、相手の手札は2枚だ。

 

「ここで決めるしかない……!クロスブレイクライド!哀哭の宝石騎士 アシュレイ“Я”!!(11000)」

 

だからこそ、ブレイクライドで火力を底上げするのがベストではあるが……手札に持っていたのか。それも、アシュレイ“Я”か……。

 

「ソウルにアシュレイがいることで、常にパワープラス2000!(13000) さらにブレイクライドスキルで、アシュレイ“Я”にパワープラス10000!クリティカルプラス1!(23000 ☆2)」

 

アシュレイが赤黒いオーラをまとい、次の瞬間には背中に黒輪を背負った戦士へと変貌する。その瞳には赤い光が宿っていた。

 

「専心の宝石騎士 タバサ(5000)をコールし、アシュレイ“Я”のリミットブレイク!CB1、タバサをロックして、バーサーク・ドラゴンを退却!」

 

アシュレイ“Я”が剣を高く掲げると、タバサが黒輪に囚われてしまう。だが、その黒輪から溢れたオーラが剣に集まり、刀身を黒く染め上げる。

 

その剣がバーサークに振り下ろされ、凝縮したオーラが迸る。黒い稲妻のような形になったオーラは、バーサークを貫いて塵へと変えてしまった。

 

「さらに退却後、デッキから共闘の宝石騎士 ミランダ(9000)をスペリオルコール!」

 

退却と展開を同時に行う……。ロックするという条件はあっても、厄介なスキルだ。

 

「アシュレイ“Я”でアタック!(23000 ☆2)」

 

「クリティカルも上がっているか……。なら、ワイバーンガード バリィで完全ガードだ!コストはヌーベルバーグ!」

 

「完全ガード!?くっ……ツインドライブ!1枚目、友愛の宝石騎士 トレーシー。2枚目、炎玉の宝石騎士 ラシェル。クリティカルトリガー!効果は全てミランダへ!(14000 ☆2)」

 

ヌーベルバーグの前に防護壁を張るバリィ。アシュレイ“Я”の剣では、その防護壁を打ち破ることはできなかった。

 

「シェリーのブースト、ミランダでアタック!アシュレイがヴァンガードなので、パワープラス2000!(23000 ☆2)」

 

「ブルーレイ、ガトリングクローでガード!」

 

「ターンエンドです……」

 

 

ワタル:ダメージ4(裏2) 相手:ダメージ5(裏1)

 

 

「俺のターン、スタンドアンドドロー。ライドはなしで、ゴジョーのスキル。手札のカードを1枚捨ててドローする」

 

相手はドライブチェックで得た2枚の手札と、インターセプトのみ。勝負はついたな。

 

「アシュガルのブースト、ヌーベルバーグでアタック!アシュガルのスキルで、ドラゴニック・ヌーベルバーグをブーストすれば、パワープラス3000。さらにヌーベルバーグのスキルで、このアタックはグレード0でガードされない!(23000)」

 

相手の2枚の手札のうち、1枚はグレード0。もう1枚でガードし、インターセプトしたとしても……俺のパワーに並ぶだけ。

 

パワーが同じなら、アタックは通る。だからこそ、相手の取るべき選択は1つだけ。

 

「……ノーガードします」

 

「ツインドライブ。1枚目、ヌーベルクリティック・ドラゴン。2枚目、ドーントレスドライブ・ドラゴン」

 

3度目の奔流が、闇に囚われた戦士を容赦なく襲う。背負う黒輪にもひびが入り、瞳にも光が戻っていく。

 

「ダメージチェック……熱意の宝石騎士 ポリー。ヒールトリガー、なのに……」

 

「この土壇場でヒールトリガーを引くのか……。だが、ヌーベルバーグのスキル!相手のトリガーは、俺のターン中には発動できない!」

 

ポリーの放った癒しの光は、エネルギーの勢いが強すぎるためにアシュレイ“Я”に届くことはなく……アシュレイ“Я”は、膝をついて倒れこんだ。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ファイト、終わったみたいだね」

 

「うん。どうだった?シュンキ君」

 

「前よりも確実に強くなってるよ。最後だって、相手に付け入る隙を与えていなかったからね」

 

うん。小沢君、新しいデッキを使いこなしている。しかも、ヌーベルバーグは癖が強いから、上手くデッキを回すのも難しいはずなのにな。

 

「さて……僕はそろそろ行くよ。2人の事もあるけど、どうやらお呼びのようだしね」

 

シュンキ君のバックルは緑に光っていた。次はシュンキ君の番か。

 

「それじゃあ、またね。シオリさん」

 

「うん。また今度ね」

 

シュンキ君に手を振り、私は再び1人になる。さて、これからどうしたものか……。

 

「……ちょっと休憩しようかな」

 

人も多いし、MFSの映像を見ているだけでも疲れてくる。気分転換に、外の空気でも吸いに行こう。

 

「まだまだ先は長いしね……あっ、小沢君」

 

「おっ、星野。ちゃんと勝ったぞ」

 

エントランスに移動した私は、ちょうど戻ってきた小沢君と合流した。このまま観客席に戻るのも何なので、ここでしばらく時間を潰すことにする。

 

「そういや、森宮と佐原はどこにいるんだ?」

 

「まだ戻って来てないんだ。どこにいるんだろう……ん?」

 

何か怒声が聞こえる。耳を澄まさないと聞こえないほどだが、確かに聞こえている。他の人は気づいていないのか。

 

「どうした?」

 

「小沢君、何か声が聞こえない?」

 

「声?……言われてみれば、向こうの方から聞こえるな。誰かが喧嘩でもしてるのか?」

 

「喧嘩……」

 

まだ戻ってきていない森宮さんたち。そして、遠くで行われているであろう喧嘩。

 

結び付けられるのは、1つの可能性しかなかった。

 

「おい、まさか!?」

 

「わからない……。でも、嫌な予感はする」

 

「マジかよ……くそっ、携帯もつながらない!」

 

私たちの中で、不吉な警鐘が鳴り響く。告げるのは、最悪のシチュエーション。

 

「とにかく急ごう!もし2人に何かあったら……!」

 

「あぁ、急ぐぞ星野!」

 

「うん……!」


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