つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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はい、お久しぶりです。2ヶ月近く間が空いてしまいました。

理由としては、時間が上手く取れなかった事もそうなんですが……今過去編で、ファイトが全くないので、つまらないだろうと思いまして。

なので、過去編を完結させてから投稿しようと思った事が理由の一つです。過去編は後2話あるので、すぐに投稿します。

と言いながら、理由はまだあったりするんですが……それは、次の話の前書きで話しましょう。

では、どうぞ。


ride63 影生む亀裂

こうして、俺はアクセルリンクを手にすることになった。

 

だが、この時の俺がアクセルリンクの事を知っているはずがない。ただの都合のいい力程度の解釈でしかなかった。

 

この力さえあれば、俺はいくらでも勝つことができる。次に何が来るのか、トリガーをいつ引かれるのか。今までとは違ったファイトの進め方に、最初こそ苦戦したものだ。

 

それも、ほんの一瞬の事だ。俺は自力で、アクセルリンクの感覚をつかんでいた。もはや、周りに敵はいない。

 

俺を超えることは、たとえタツヤでも不可能だという、どこか狂気じみた確信を持っていた。

 

ある日のことだ。俺は肩慣らしにと、ショップを訪れていた。と、そこにいたのは、かつて会ったことのある人物。

 

「おや、あなたはタツヤさんのお兄さん!」

 

「……あんたは、確か」

 

「タツヤさんの同級生の、小野ヒロムですよ!今日は1人なんですか?」

 

「あぁ。軽くファイトをしようと思ってな」

 

この力を対人戦で使うことは初めてだ。ちょうどいい。俺の強さを証明してやろう。

 

「俺とファイトしろ、小野ヒロム。ここにいるということは、あんたもファイターだろう?」

 

「えぇ!タツヤさんとは、いつもヴァンガードしているんですよ!」

 

ほう。それなら、こいつの実力はタツヤレベルか。甘く見てはいけないな。この力がなかったらな。

 

「そう言えば、タツヤさんはどうしたんです?最近学校でも、元気がないみたいなんですよ」

 

「タツヤなら、家にいる。今日もショップに誘ったんだが、家にいると言って聞かないんだ」

 

俺がこの力を手にしてから、タツヤはショップに行く回数が目に見えて少なくなっていた。

心配しているのだが、タツヤは何もないからと、話を強引にそらして逃げられてしまう。

 

俺、何かしただろうか……?

 

「タツヤさんとファイトできるの楽しみなんですけどね……。この前の連勝をストップされた借りを、返しておきたくて」

 

連勝を止められただと?ということは、こいつはタツヤに何度も勝っているということか。そいつは聞き捨てならないな。

 

お灸を据える意味合いでも、こいつには負けてもらわないといけないな……。

 

「……そうか。ならファイトだ」

 

俺がデッキを取り出したのを見て、向こうもデッキを構える。幸いにも空いているテーブルはあったため、そこに腰を下ろした。

 

俺は目を閉じ、意識を集中する。ほら、聞こえる。竜の嘶く声。かげろうのユニットたちの声が。

 

当時の俺には知る由もなかったが、俺の瞳は赤く輝いていた。今でこそ瞳は黄色く輝いているが、使うクランによって異なるものになるらしい。

 

「ナツキさんとファイトなんて、初めてですね!楽しみです!」

 

「楽しみ?ふん、言ってろ。勝つのは俺だ。無駄口なんて叩く余裕なんてないぞ」

 

お前のような奴に、負けるはずがない。タツヤをも負かした、この力があるのだから。

 

「……なんか、雰囲気違いますね。ナツキさん」

 

「何を言っている。俺はいつも通りだ」

 

「……まぁ、ナツキさんがそういうなら、いいんですけど」

 

何だ、この反応は?俺が違う?どこがだ。ただヴァンガードをしようとしているだけじゃないか。

 

「なら行くぞ」

 

「は、はい」

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

勝負は、圧倒的なものだった。

 

「こんなものか。拍子抜けだな」

 

「な、何だよこいつ……。2回も6点ヒールして、こっちのトリガーも完全に見切っている!?」

 

敬語が抜けているぞ?やれやれ……お仕置きが必要だ。

 

「もうファイトするだけ時間の無駄だ。俺のターン。スタンドアンドドロー」

 

「く……!」

 

いつのまにか、俺たちの周りには観客ができていた。最初は興味本位で寄ってきたみたいだったが、終盤に差し掛かった現在、歓声は途絶え、ただただファイトの行く末を見守っているだけだった。

 

だが、なぜかその表情は強張ったものになっていたが。

 

「強すぎる……。何だよ、あれ」

 

「まるで相手の手の内がわかっているようなファイトの進め方だぞ」

 

「トリガーも必ず引いてるし、仕組んでるんじゃないの?」

 

「イカサマか?あいつ、このショップの常連だろ?」

 

散々な言いようだな。これは俺の力だ。変な言いがかりをつけて、非難するのは止めろ。

 

「イカサマ……。あぁ、そうだな!タツヤさん、まさかそんなことしてるんじゃないですよね!?」

 

「人を悪人に仕立て上げて、そんなに愉快か?文句があるなら、観客の誰かが隅々まで調べてもらっても構わないぞ?」

 

「そ、そこまで自信たっぷりに言い切るなんて、イカサマしてないのか?」

 

しているわけない。この力を使っているという証拠は、どれだけ調べても出てくるとは思えないだろうからな。

 

「いや、念のためだ。誰か!こいつのこと調べてください!」

 

奴が観客に呼びかけ、男性の一人が立候補する。俺は全身を触られ、入念に調べつくされたが、何も確認することはできていなかった。

 

「……ダメだ。何かを仕込んでいるとか、そんな手の込んだ仕掛けは見つけられなかった」

 

「調べ足りないとかじゃないんですか!?」

 

「怒鳴るな。他の客の迷惑だろう」

 

疑念のこもった視線が俺に突き刺さる。だが、そこに痛みは何もない。悪いことなど、何もしてないのだから。

 

なぜだ?俺は強くなった。これくらいの芸当はできるほどに。それなのに、どうして。

 

「文句なら、後で聞いてやろう。アタック。ツインドライブ。どちらもクリティカル」

 

「何っ!?」

 

予言通りに俺は2枚のクリティカルを引き、奴に3枚のダメージを与える。ヒールトリガーは1枚出たが、残りはトリガーではなかった。

 

「そ、そんな……」

 

「イカサマだと疑って決めつけるのは、お前が弱いからだ。その言い訳を求めて、根拠もないことに縋ろうとする。負け犬の遠吠えとは、このことを言うんだろうな」

 

「何だと!?いくらタツヤさんでも、少し言いすぎですよ!?」

 

「だったら、もう1度ファイトするか?今度は、ここにいる誰かに身体調査でもしてもらってからファイトしてもいいぞ?」

 

そうでもしないと気が済まないらしい。だったら何度でも付き合ってやる。結果は見えたも同然だがな。

 

「……あぁ。わかったよ。その勝負、受けてやる!ただし、このファイトで俺に負けたら、さっきのファイトでのイカサマを認めてもらうぞ!」

 

「俺は負けない。イカサマなどしていないし、そんなものに頼るまでもない」

 

「……俺を怒らせたいんですか?」

 

「好きにしろ。後、調べるならとことん調べるがいい。男性なら、より隅々まで調べられるだろう。持ち物については、預かってもらっても構わない」

 

身の潔白を証明するには、効果は十分だ。そもそも、どうしてこのような気を回さないといけないんだ。

 

これは俺の力なのだから。

 

「調べた。持ち物は一旦預からせてもらう」

 

「これで俺と条件は同じだな!」

 

「……そうだ。これで恨みっこなしだぞ」

 

「その言葉、そっくり返してやる!」

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!!」」

 

すっかり意気込んでファイトに挑んでいたが……そんなものは通用しない。俺にはデッキが見える。

 

現在という時間の流れは、俺が握っているのだから。

 

「アタック」

 

「ガード!」

 

「これでどうだ」

 

「くそっ、もう手札が……!」

 

「宣言しろ。ノーガードを」

 

苦しそうに手札を見つめても、そこに残されているカードの詳細を、俺は知っている。

 

「……の、ノー、ガードだ!」

 

ダメージは、見るまでもなかった。トリガーはトリガーだが、クリティカルトリガー。

 

「勝負あったな。俺の勝ちだ」

 

「そ、そんなことが……!」

 

「ありえないとでも言いたいか?なら、この俺の勝利は何だ?ファイト前に念入りに身体チェックまでやらせて、不正ができないことがわかっていたはずだ」

 

「なら、何でまたさっきみたいなファイトを……!」

 

「簡単だ。これが俺の実力で、お前はただ弱かったから負けた。それだけだろう?言いがかりをつける前にまず、自分の強さを過信しないことだ」

 

冷たくあしらい、俺はデッキを片付け始める。彼はまだ納得がいかないのか、デッキに手を伸ばすこともないまま、俺を睨みつけていた。

 

「い、いや!きっとこの中の誰かがこいつに加担してたんだ!共犯者がいたんだ!」

 

「こんな大勢の人がいる前で、どうやってやり取りを行うんだ。イヤホンでもつけるか?そんな物をつけていなかったことは、既に明白だが」

 

「く……!」

 

やれやれ。まだ言いがかりをつけるのか。この男は。

 

「だったら、どうしてあんなファイトができるんですか!?デッキが見えるような、イカサマみたいなファイトを!」

 

「イカサマ?性懲りもなく、まだそんな事を言う。屑に成り下らないと気が済まないらしい」

 

「屑同然の行動をとっているのは、ナツキさんの方ですけどね!それに、今の言動だってナツキさんらしくない。そんなことを言う人じゃなかったはずでしょう!?」

 

「……お前に俺の何がわかる?俺と同じ場所に立つこともできない弱者に、わかったような口を聞かれる筋合いはない」

 

俺は騒然とする観客をかき分け、預けた手荷物をかっさらってショップを出る。これ以上は、居心地が悪く感じたからだ。

 

また身もふたもないことを言われるのはごめんだ。一々対処するのが面倒くさい。今日は家に帰って、大人しくデッキの調整でもしてみるか。

 

「…………」

 

最近このデッキにも、しっくり来ないと感じてきたことだしな。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

この前のショップ大会の後から、兄さんの様子が少しおかしい。

 

俺は教室の自分の机に座り、ぼーっと外を眺めながら、昼休みの時間を費やしていた。

 

兄さんにしては珍しく1回戦敗退。それは仕方ないのかもしれないけど、そこから違和感が生じていった。

 

知らない間に家に戻り、執拗なまでのファイトを重ねた。カギとなったのは、6点ヒールからの逆転勝利を決めた、あのファイトだ。

 

そこから、兄さんは変わっていった。話をするのも怖くなり、ファイトも避けるようになった。

 

今までにはなかった、執念に似た何かを感じてしまう。それが怖かった。俺の知らない兄さんを見るのが、俺は嫌だった。

 

でも……そうなってしまった原因は、俺にあるのかもしれない。

 

ようやく勝てたヴァンガード。その勝利が、兄さんの中にある何かを壊してしまった。俺が、兄さんを変えてしまったんだ。俺のせいで……。

 

「タツヤさん」

 

はっと顔を向けると、そこにはヒロムがいた。またこいつか……と一瞬思ったが、いつものしつこい言動は見られない。それどころか、今までには見たことのない真剣な表情になっていた。

 

「……そんな顔できるんだ」

 

「ふざけるのは今度にしましょう。それよりも、今から時間ありますか?いや、その様子だとありますよね」

 

「一方的だな。こっちの意見は無視?」

 

「……ナツキさんのことです」

 

どうしてこいつの口から兄さんのことが?けど、ただごとではなさそうだ。それに、俺の興味を引くには十分だった。

 

「いいよ。俺も最近の兄さんの事は少し気になっていたんだ。ここじゃ何だし、場所を変えようか」

 

俺たちは本来立ち入り禁止の屋上に移動して、話をすることにした。ここなら、誰かが乱入する心配はない。先生に見つかったら知らないけど。

 

「それで、ヒロムは兄さんについて何の話があるの?」

 

「素っ気ないですね。そんな風にとぼけて見せるとは。最近のナツキさんの様子がおかしいことに、気づいていないはずがないでしょう?」

 

「……それはもちろん、わかっているよ。と言うか、ヒロムもそのために俺に話を持ち掛けたんでしょ?」

 

ヒロムは無言で頷き、肯定だということを示す。まぁ、そうだとは思ってた。これで兄さんへのサプライズ企画とか言い出したら、俺は全力で逃げ帰ってたけど。

 

「今のナツキさんは他人を見下して、冷たく横暴な態度でふるまう……。そんなの、今までのナツキさんとは全然違う。明らかにおかしいですよ。だから、あのショップではナツキさんをよく思わない人が増え始めているんです」

 

「え……!?」

 

「え、って……知らなかったんですか?」

 

「兄さんが前と変わっていることにはもちろん気づいていたけど、そんなことになっているなんて……」

 

俺が兄さんから距離を置いている間に、兄さんの評判は目に見えて悪くなっていた。上位層に名を連ね、常に輝いていた兄さんが……。

 

「じゃあ、ナツキさんがイカサマ同然のファイトをしているってことも?」

 

「イカサマ!?」

 

「やっぱり知らないんですね……」

 

どういうこと?兄さんは、そんな卑怯な手段に訴えるような人じゃないのに。

 

「最近のナツキさんのファイトは、互いのデッキが見えているようなファイトをしているんです。トリガーを把握したり、次にドローするカードが何なのかもわかっている。俺はイカサマだろうって言ったんですけど、何の証拠もなくて……」

 

「イカサマなんて……何かの間違いじゃ!?」

 

「タツヤさんには悪いですけど、今のところはイカサマ説が有力です。そうじゃないと、あのファイトの説明がつかない」

 

本当なのか。何とか反論したかったけど、ここで言い合っても事態は解決しない。こいつ1人を言い負かしたところで、兄さんの潔白が証明されるわけじゃない。

 

「そこで聞きたいんですけど……何か心当たりとかありませんか?ナツキさんがそんな風になってしまったことについて、どんな些細な事でもいいですから」

 

「それは……」

 

思い当たることは、俺には1つしかなかった。

 

「……前に兄さん、ショップ大会で1回戦敗退のことがあってさ。その日は俺が優勝したんだけど、俺が家に帰ってから、兄さんに執拗にファイトに誘われたんだ。何と言うか、異様なほどの執着心を感じたんだ」

 

「それで?」

 

「最初は俺が勝ち続けていたんだ、でも、あるファイトの時から立場が逆転して、兄さんが勝つようになった。その時からだよ。兄さんがおかしくなっていたのは」

 

兄さんの中にあった何かが音を立てて砕け散り、狂気が表に這い上がってきた。兄さんは、歪んでしまったんだ。

 

「兄さんがおかしくなってしまったのは、俺のせいだ。俺が兄さんを狂わせてしまった。その変化に、もっと早く気付くべきだったのに」

 

その予兆は、探せばいくらでも見つけることだってできたはずなのに。

 

けど、気づけなかった。

 

いや、気づかなかったふりをしていただけかもしれない。自分から手を伸ばせば、きっと触れられたはずだから。

 

「……俺、最近兄さんとファイトしてないんだ。一緒にショップに行くこともなくて……それは知ってるか」

 

「それはまぁ。心配してましたから」

 

「本当は、兄さんとファイトしたいんだ。兄さんって、とにかく真っすぐでさ。ファイトしてたらわかるんだ。勝ちに対して純粋でいられるって言うか……そんな兄さんとファイトするのが、俺には嬉しかった」

 

誰よりもヴァンガードに真剣で。だから腕が上達するのも、俺以上に早かったのかもしれない。

 

そんな姿が、俺には少し眩しく見えていたんだ……。

 

「でも、今の兄さんは怖いんだ。勝利に対して貪欲で、そんな兄さんを見るのが嫌なんだ。純粋に勝つことを考えていた兄さんは、今の最上ナツキの中にはどこにもいないんだよ……」

 

「タツヤさん……」

 

「教えてくれよヒロム……。俺は一体どうしたらいい?元の兄さんに戻ってもらうには、俺はどうすればいいんだ!?」

 

何かの拍子でストッパーが外れ、感情に任せてヒロムに詰め寄る。制服を掴み、揺さぶりをかけて。

そんな俺の姿を見たことがなかったヒロムは、ただただ驚くことしかできなかったようだった。

 

「……ごめん。つい先走ってしまった。驚かせてしまったよね?」

 

「いいですって。驚きましたけど……ただ、本当にタツヤさんは、ナツキさんのことを心配して、思いやって、大切に思っているんだなって」

 

彼女のことが頭から離れない彼氏か。そう突っ込みたかったが、生憎俺の返答は決まっていた。

 

「そんなの、当然だよ。兄弟なんだから」

 

「そういうの、羨ましいですね。俺には兄弟はいませんから」

 

「そっか。なら、気が済むまで羨ましがってよ」

 

「このタイミングで毒吐きますか!?」

 

「吐くよ。それがヒロムの扱い方でしょ?」

 

「ひっどい言われようですよね、本当!」

 

その反応がいちいち面白くて、俺はつい笑ってしまった。さっきまで暗い話をしていたというのに。そんな俺を見たヒロムは、

 

「……笑いましたね、タツヤさん。それに、いつも通りだ」

 

「あ……」

 

兄さんのことで自然と暗くなっていた俺の気持ちがほぐれていたことに、笑みを浮かべていた。

 

こいつも、やる時はやるってことなのかな。

 

「俺だって、ナツキさんのことは尊敬してるんですよ。タツヤさんのお兄さんなんですから。だから、あんなナツキさんは見たくない。元に戻せるなら、俺は喜んで手伝いますよ」

 

「協力してくれるってこと?」

 

「えぇ!タツヤさんのためなら、俺は身命を賭して事に挑む覚悟があります!」

 

「大げさ……。でも、一応頼りにしておくよ」

 

「一応!?」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

どうにも、デッキの調子が悪い。

 

構成は問題ないはずなのだ。何度も改良を重ね、使い込んできたデッキなのだから。だとしたら、一体何がいけないのか。俺にはそれがわからなかった。

 

「かげろうが俺には合っていないのか?」

 

俺は店員に勧められ、このデッキを手にした。使いやすく、すぐに俺の手になじみ、好成績を残してきたかげろうだが……本当は合っていなかったのではないか?

 

思えば、俺は自分から適したクランを模索したことがなかった。ただかげろうを使っていただけで、それ以外のクランという選択肢を捨てていたのかもしれない。

 

「……違うクランか」

 

とは言え、そんなクランがあるものなのか。ロイヤルパラディン、オラクルシンクタンク、ノヴァグラップラー……。様々なクランを頭の中で照らし合わせてみるが、どうも違う。

 

確かにどのクランにも個性はあるが、その個性が本当に俺に合っているかと言われると、はいそうですとは言い難い。

 

「なら、俺のこの不調をどうやって改善すればーー」

 

そう思いながら、たまたまテレビをつけた時だった。俺は言葉を失った。

 

漆黒の騎士団が、そこにはいたからだ。

 

「こいつは……」

 

青髪の愉悦に満ちた少年が使うのは、どれも黒い鎧や装束をまとったユニットばかり。だが、そのユニットたちはどこかロイヤルパラディンの面影を感じる。

 

情報は以前からあった。確か、このクランはシャドウパラディン。仲間のユニットを退却させ、力に変えるというクランだったはず。

 

俺はそのファイトを最後まで見ることにした。結果は青髪の少年の圧勝。他を寄せ付けないポテンシャルを秘めたクラン。まさに強者が使うにふさわしいものだった。

 

「……そうか」

 

この瞬間、俺は決断した。このクランを使ってみようと。より強く、タツヤが追い越せないほどに高く。そうすれば、俺は永遠に兄としていられるのだから。

 

俺が炎に染まる竜を捨て、影に沈んだ騎士を手にしたのは、この出会いがあったからだった。

 


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