つながり ~君は1人じゃない~   作:ティア

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世間ではバレンタインですね〜。と言っても、この話は全くバレンタインと関係ないですが。

では、どうぞ。


ride22 夕陽が照らす感情は

「桜川リンが負けたのは、手札の使いすぎが原因っスかね〜?」

 

「でも、桜川さんはアクアフォースの対策として……」

 

イベントの優勝者は、森宮さんに決まった。今、私たちは表彰式の準備が整うのを待っているところだ。

 

もちろん、森宮さんの姿はもうない。一刻も早く、会いに行かないといけない人がいる。

そのため、表彰式には私たちの内の誰かが代理として出ることになった。

 

で、私たちはさっきのファイトのことについて話をしているところだ。

 

「確かにアクアフォースの特徴は、ユニットを展開させての連続攻撃……。手札を貯めてそれを迎え撃つのも、逆にリアガードを展開させないように手札を使わせるのも、対策にはなるんスよ」

 

「そうだろ。あいつもそう言ってたし」

 

「けど、よく思い出して欲しいっス。さっきのファイトで、リサさんは1回でも連続攻撃してたっスか?」

 

「それはそうだろ。森宮は先攻で、グレード2になった時から攻撃したな……ん?そのターンはしてない……。グレード3になってからは……あれ!?」

 

「そう。リサさんは、デッキに連続攻撃するユニットを入れていなかった。回数指定に、4回目以降のアタックを指定するカードも」

 

そう言えばそうだ。確かに連続攻撃していない。だとすれば、桜川さんの対策は、正直意味がなかったってことになる。

完全にアクアフォースの概念を捨てたデッキだったわけだし……。

 

「……けど、もうあのデッキを使うことは、リサさんにはないっスね」

 

「どうして?」

 

「あくまで可能性として俺が提案しただけっスから。リサさんは本来、連続攻撃する動きがしたいためにアクアフォースを選んだんスから」

 

その話は前にも言ってた気がする。それなら、近いうちにデッキを改良することになるだろうな。

 

「……お待たせしました!ただいまから、表彰式を始めます!」

 

準備が終わったようで、成宮さんがマイク片手に話し始める。

 

「では、優勝者は前へ!」

 

3人で話し合った結果、佐原君が代理として前に出た。優勝記念の賞状を成宮さんから受け取り、手を振りながら賞状を参加者に見せつける。……いかにも自分が勝ったみたいだなぁ。

 

「え〜後、優勝記念品として、これを」

 

「ん?何っスかね?……これは?」

 

ここからじゃよく見えないけど、それほど大きなものではなさそうだ。佐原君が戻ってから聞こう。

 

「では、イベントはこれにて終了とさせていただきます!ご参加ありがとうございました!気をつけてお帰り下さい!」

 

最後に桜川さんが締めて、無事にイベントは終了した。

で、佐原君もこっちに戻ってくる。

 

「シオリさん、ワタル君。優勝記念品で、こんなものもらったんスけど……」

 

「あ、今聞こうと思って……って、ん?」

 

佐原君の手に握られていたのは、1枚の紙。と言っても、ただの紙ではない。

 

「……食事券?」

 

「近くの焼き肉店の商品券っスね。1万円分の」

 

期限は、8月31日までとなっていた。機会があれば、その店にみんなで行くのもいいかな。

 

「さて、今からどうするっスかね?時間もまだあるし……」

 

「そうだね……これから━━」

 

「ちょっといいかな?」

 

「ん、シュンキ君?」

 

と、これからのことについて考えていた時だった。私たちの所に、シュンキ君がやってきた。何だかんだで、今日は全然話してなかったな……。

 

「ちょっと時間いい?久しぶりだし、2人でゆっくり話そうと思って」

 

「私も……そうだね。ごめん佐原君、小沢君。私はこれで……」

 

「そっスか。じゃあまた!」

 

「うん、じゃあまたね!」

 

というわけで、シュンキ君と2人で話をすることになった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

その頃、リサは病院へと向かうため、電車に乗って移動している最中だった。

 

(テツジさん……。私が馬鹿だった。本当に大切にしないといけないものが、見えていなかったから……)

 

思えば、テツジさんに会うことを遠ざける必要はどこにもなかった。名前を遺すだの、そんなこともしなくてよかったはずなのに。

 

だとしたら私は……逃げていただけかもしれない。あの時の現実が、時が経った今でも受け入れられずに、目を背けていたに過ぎなかった。

 

けど、リンが……そしてシオリさんが……気づかせてくれたから。

 

「待ってて……。今行くから」

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

2人と別れた後、私はシュンキ君と一緒に、近くのショップに来ていた。

そのショップには、あまり人はいなかった。多分、昔の話を他人に聞かれないように、シュンキ君が考慮してくれたのだろう。

 

「それでシュンキ君。わざわざショップに来たってことは……」

 

「うん。今日はまだ1回もファイトしてないからさ。ファイトしたくなって」

 

「久しぶりだからな……。よし!始めようか!」

 

早速空いてるテーブル(ほとんど空いてたけど)に座り、準備を済ませる。

 

「「スタンドアップ!「ザ、」ヴァンガード!!」」

 

「……ザ、か」

 

「そうだよ。……不思議だよね?1年ヴァンガードしてなくて、久しぶりにしたファイトでも自然と口に出てたよ。ザ……って」

 

こういうのは、体とかが覚えてるって言うけど、私の場合もそうなのかな?

 

「……最初は、そんな風に考えられなかったのにな」

 

「レイジ君のこと、思い出してる?」

 

「うん……。今頃、何してるんだろうな……」

 

私の脳裏に浮かぶ、1人の少年……峰塚レイジ。彼は私たちと共にヴァンガードをしていた仲間であり……

 

「……また、シオリさんみたいにヴァンガードを始めてくれたらいいんだけどね……」

 

「そうだね……。また一緒に、ヴァンガードしたいよ」

 

今はヴァンガードを捨てた、元ヴァンガードファイターである……。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

リサを乗せた電車は、テツジの入院する病院の最寄り駅に到着した。ちょうど、夕陽が綺麗な時だった。

ここからその病院までは5分とかからない。少し歩けば、病院が見えてくる。リサは記憶を頼りに駅を出て、病院へと向かう。

 

「もう……あれから7年も経つのか」

 

今さらながら、そんなに会っていなかったことに驚いている。けど、もうすぐ再開できる。

 

「……ここね」

 

やはり、すぐに着いた。私は病院に入り、受付でテツジさんのいる部屋を聞く。まだ面会はいいみたいなので、すぐに部屋に向かう……が、

 

「……………」

 

部屋まで来た所で、中に入る踏ん切りがつかなくなっていた。今さら会っても、どうしようもないのでは……?

 

……いや、行くしかないか。7年も会っていないのよ?顔を見せないと……。けど、見せる顔なんてあるのかしら……。

 

散々葛藤した挙げ句、意を決してドアを開けようと手を伸ばす。

一瞬ためらったが、迷いを切り捨て、ドアを開けて━━

 

「……リサちゃん?」

 

「……え?」

 

そうなる前に、後ろから呼ばれた声に思わず振り返る。その声、その姿。何年も野放しにした、幼い時の思い出の人が……そこにはいた。

 

「……テッ……テツジ……さん?」

 

「あ……!やっぱり!リサちゃん!リサちゃんだ!!会いたかった〜!久しぶりだよ!!」

 

……変わってない。何も変わってない。杖をついてるため、足はまだよくなさそうだけど、昔と何も……変わってない。

 

「会うの何年ぶりだっけ?元気にしてた?いや〜!でも本当に久しぶりだ!嬉しいよ!!」

 

私も……嬉しい。

 

「どうして会いに来てくれなかったの?リンちゃんは会いに来てたのに……。会えなくて寂しかったんだよ?……どうしたのリサちゃん?さっきからずっと黙ってるけど……」

 

私は……馬鹿だ。本当に馬鹿よ……!

 

「……っ……うっ、うっ……」

 

「リサちゃん……」

 

私は人目も構わず抱きついた。溢れ出す涙も、止めようなんて思わない。

 

「ごめんなさい!本当に……ごめんなさい!!ずっと会えなくて……テツジさんに悲しい思いさせて……ごめんなさい!!」

 

今こうして会ってみて、私は……とても嬉しい。そんな感情を隠しながら、全国を目指すなんて……どうかしていた。

 

「……いいんだリサちゃん。今こうして来てくれたんだから、俺は……幸せだよ」

 

「これからは……できるだけ会いに行くから!7年も…放っておいたんだから……!」

 

「わかったよリサちゃん。少し落ち着いて。こんな所で立っているのも何だし、病室に入ろう。これまでの話、俺に聞かせてほしいんだ」

 

泣き続ける私に、テツジさんは昔と変わらない声で優しく言った。

 

「お互いに、色んなことがあったと思う。楽しいことも、辛いことも。だから、話し合おう。リサちゃんとまた、久しぶりに話をしたいんだよ」

 

「……うん。わかった、話をしよう。テツジさん!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「……なるほどね。それでヴァンガードを……」

 

「うん……」

 

私は全て話した。7年間のことを、テツジさんに余す所なく伝えた。

 

「……けど、間違っていたわ。全国に行く目的が、テツジさんの道を遺すこと、なんて……」

 

「そんな大それたことを考えていたなんて、俺知らなかったよ。だから、リサちゃんも会いに来れなかったんだね」

 

大それたことか……。端目から見れば、私のやろうとしていたことは、そんな風にしか映らなかったのかしら?

 

「でも意外だったよ。リサちゃんもヴァンガードやってたなんてね」

 

「……え?」

 

私も……って、どういうこと?

 

「俺も、ヴァンガードやってるんだ。病室にいるのも退屈だからね。リンちゃんに頼んで、一緒に始めたんだ」

 

それでリンもヴァンガードを……。だとすれば、どっちにしても私はヴァンガードと出会うことになっていたのかもしれない。

 

「今日は時間も遅いし、ヴァンガードをする時間はなさそうだけど……」

 

「また来た時に……ね」

 

「そうそう!その時が楽しみだ!」

 

その時見せた笑顔は、あの時の決勝戦と同じ笑顔をしていた。よほど楽しみなんだろう。

だったら、今度こそ私は、この笑顔を奪わないようにしていかないといけない。

 

「……で、話の続きだけど」

 

「そうね……。そう言えば、テツジさんの足の状態ってどうなってるの?」

 

7年も経っているから、さすがに変化はあるだろう。そのあたりの細かいことはリンから聞いていなかったから、気になった。

 

「……実は、1度退院してるんだ。足の状態も少し回復してきたから」

 

「そうなの?」

 

「もちろんサッカー選手として復帰はできなかったけど……。日常生活ができるほどにはなってるよ」

 

そうなのか。……なら、どうして今入院をしているのだろう?

 

「けど、ちょっと病気になってね。それで入院していたんだけど……もう大丈夫。後1週間ほどで退院できるから」

 

病気という言葉に驚いたが、もうほとんど治っているらしいので、一安心した。

 

「あ……けど、それじゃあテツジさんに会うのって、どうしたら……」

 

「大丈夫だよ。退院したら、この近くにあるサッカーの練習場にいることが多くなると思うから。そこに来てよ。いなかったら、リンちゃんに家の場所教えてあるけど……」

 

だったら後で聞いておこう。後……改めて謝らないとな、リンにも。

 

「……って、もうこんな時間か。リサちゃん、帰らなくて大丈夫?引っ越したんでしょ?」

 

「そうね……。名残惜しいけど、もう帰ろうかな……」

 

「名残惜しいって、そこまで言わなくても……」

 

実際名残惜しいのだから、仕方ない。もう少し話していたかったとは思うけど、このままだと家に帰るのが遅くなる。

 

「……そうだ。最後に1つだけ」

 

「何?リサちゃん?」

 

「今までは、テツジさんのことで全国を目指していた。けどこれからは……みんなで全国を目指すつもりでいるから……」

 

一旦言葉を切り、テツジさんの顔を見据えてから、

 

「……応援してくれる?ずっと放っておいて、わがまま言ってるかもしれないけど」

 

「当たり前だよ!リサちゃんのことを応援しない理由がどこにあるのさ?」

 

その言葉に、思わず笑みがこぼれる。そう言ってくれたことが嬉しくて。その嬉しさに込み上げてきたものを押さえようとして。

 

「……もう行くね?」

 

「そっか。じゃあ、またねリサちゃん。次に会う時が楽しみだよ!」

 

「えぇ、テツジさん。また会いに来るわ!」

 

私は早足に病室を出て、テツジさんの元を後にする。けど、また会える。毎日は無理でも、会いに行くことはできるから。

 

もう、後悔はしない。知らないうちに、辛い想いをさせることはしない。これからは、何があっても。

 

『リサちゃんを応援しない理由がどこにあるのさ?』

 

私はテツジさんに、辛い想いしかさせていない。それなのに、応援しない理由がないって……。

 

「本当、優しいよ……テツジさん」

 

綺麗に輝く夕陽は、リサの頬を伝う光を照らしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「……ただいま」

 

「お帰り、トウジ。今日は遅かったね」

 

「ちょっと色々あって……。義父さん、ご飯の時になったら呼んでくれない?今から調べたいことがあるから」

 

「わかった、トウジ」

 

義父さんの返事を聞く前に、俺は自分の部屋へと向かっていた。そしてすぐにパソコンをつけ、あることを調べ始める。

 

「……マジであの話、本当なんスかね……?」

 

シオリさんと別れた後、俺はワタル君と一緒に、近くのショップにでも行こうとしたんスけど……

 

『……悪い、今日はもう帰りたい。佐原1人で行ってくれないか?』

 

というわけで、俺1人でショップに行くことにした。ワタル君の雰囲気も少し変わったし、何かあったのかもしれないっスけど……。

 

と、それはそれだ。問題はそのショップでの話だ。今日のイベントのこともあって、俺に合うクランを探していた時だった。

 

俺は店員に声をかけられ、クランについて話をしていくうちに、俺は気になることを聞いた。

……新たなクランが出ると。そのクランは、これまでの常識を覆す力を持っていると……。

 

ここ最近、テスト勉強で(忘れてるかもしれないっスけど、このイベントの前にはテストあったんスよ!?)ヴァンガードの情報は全然入ってこなかった。

 

だから、その話を聞いた時には驚いたっス。それで今、俺はそのクランについて調べていた。そして見つけた新たなクラン。それは……

 

「……リンク、ジョーカー……」

 

禍々しい黒輪を身体中に纏った異形の存在……。さらに驚いたのは、リンクジョーカーの特徴……呪縛。

ロックと呼ばれるその能力は、相手を無に帰す、他にはない能力だった。

 

「……これだ」

 

俺はようやく見つけた。自分にとって、求めていた力をやっと見つけた。

 

「これでようやく……次へと進める」

 

歓喜するトウジを、窓から射し込む月明かりが静かに照らしていた……。

 




この辺りの話を見返して思ったのが、全然ファイトしてないな……っていうのが第一で。

けど、これからはどんどんファイトしていきますので、その辺りも楽しみにしてもらえたら幸いです。

……まぁ、使ってるカードはかなり前のものだけどね……。

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