さて氷漬けにされてもおかしくない展開だが、さすがのユキノも姉の言動に驚きを隠せないらしい。
強く出てはいるものの、ハルノさんが一向に俺から離れようとしない、ならまだしもいやいやと顔を俺の胸に押しつけて駄々をこねるのだから、手のつけようがなくなっている。
「ハルノさんが落ちた………」
「はあ………、実の姉のこんな姿を目にする日が来るとは………」
取り敢えず身体は起こしたものの………。
マジでこれどうすればいいんでしょうか………。
「姉さん、起きて早々駄々をこねるのはみっともないわよ」
「…………」
反応のないハルノさんに思わずユキノと目が合ってしまう。やれやれといった感じか。
と、あることを閃いた。
ユキノを手招きしてハルノさんの耳を指さす。
すると意図が分かったのか、ニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
うわー、すげぇ楽しそう。
「ふー」
「うひゃあっ?!」
おーおー、もう完全に仮面が剥がれてんじゃねぇか。
「ふー、ふー」
「ひぁ、ひぅ、あ、ちょ、ユキノちゃ………ひぁあっ!」
いやー、実に百合百合しい。
眼福である。
「姉さん、人のものを横取りしようなんて言い度胸ね」
「いつから俺はお前のものになったんだよ」
「あら、いやかしら?」
「それとこれとは別問題だろ」
「お兄ちゃんも落ちた………」
「捻デレがただのデレに………」
「お前ら………」
落ちちゃいねぇよ。なんだよ、落ちるって。
「さあ、いいから早く離れなさい」
「んー」
またしてもいやいや。
この人、いつから幼くなっちまったんだよ。
「あなたも何か言いなさいよ。何さりげなく頭撫でてるのよ」
「そこに頭があったから?」
いや、だってこんだけこすりつけられるとねぇ。
手が勝手に動くのが普通じゃん?
「そんなことをするから姉さんが離れないんじゃない」
「はいはい。えっと、ユキノシタさん? そろそろみんなの目が痛いんで離れてもらえます?」
これ以上ユキノを怒らせると怖いので、従っておく。
「名前」
手を放して肩を軽く叩くとポツリとそう呟いた。
「はい?」
「名前で呼んでくれたら離れてあげる」
この人一体何を企んでいるのだろうか。
めちゃくちゃ怖い。めちゃくちゃ怖いが、従わなかったらもっと怖い。
なので仕方なく呼んでみることにする。
「えっと、じゃ、じゃあハルノさん?」
「えいっ!」
呼んだら呼んだで胸倉掴まれるってどういうことだってばよ。
「んぐっ!?」
えー、なんでハルノさんの顔が俺の目の前にあるんでしょうか。
というか近すぎない? それに唇が生温かい………生温かい?
なっ?!
えっ、ちょ、これ………まさか………?!
「ぷはっ。ハチマンの初めてもらっちゃった」
…………くっ、やはり魔王は健在だったか。
イロハ顔負けのあざとい笑みを浮かべやがって。
「………姉さん、覚悟はできてるかしら?」
「やだー、ユキノちゃん。嫉妬?」
いつもの調子に戻ったのかユキノをからかい始める。
「ええ、そうよ。嫉妬よ。いけないかしら?」
「ありゃ、ユキノちゃんが本気だ」
だが、その反応は期待してたものではないらしく、ちょっとやりすぎたかなー、と頬をポリポリ掻き始めた。
や、というか、それって、ねぇ。
「あ、あの………先輩の初めては私です………。はるさん先輩は先輩の初めての相手じゃありません」
「はっ?」
ユキノシタ姉妹の言動に戸惑っていると、さらなる爆弾が落ちてきた。
おい、イロハ。今なんつった?
「えっ、それを言ったらあたし人工呼吸されてる………」
「…………」
それは知ってる。ただこの状況で口にしないでほしかったね。なぜそこまでして張り合おうとするんだよ。
「……! コマチも「待て、コマチ! それ以上は言うな! 今言ったら冗談じゃ済まなくなる!」はあ……、コマチも混ざりたいなー」
冗談でもそんなことを言っちゃいけません!
血の繋がった兄妹でとか、マジ危険だから。
通報されちゃう。
「「……ハチマン?」」
うっ、なんだよ、この姉妹は。
姉妹でそっくりな顔するなよ。怖ぇよ。
「な、なんでしょうか………」
「どういうことか説明、してくれるよね?」
俺の膝の上にまたがったままのハルノさん俺の顔を固定して目を合わせてきた。逃げられない。
「私に手を出しておきながらずっと放っておいた挙句、他の子にまで手を出すなんて………」
その視界の端ではまたもや聞いてはいけない情報が聞こえてくる。やめて! これ以上修羅場にしないで!
「「「「「えっ……?!」」」」」
「えっ……? あ………」
無意識かよ。とんだ暴れ馬だな。
「ユキノちゃん、どういうこと!?」
さすがのハルノさんも驚愕でようやく張りなおした仮面を崩している。
「ゆきのん、聞いてないよ! いつの間にそんな関係だったの?!」
「ユキノ先輩、ずっとってどういうことですか!!」
「うひょー、正妻きたぁぁぁああああああ!! コマチ的にポイントカンストだぁぁぁあああ!!」
コマチが壊れた。
「………ロケット団殲滅作戦の後よ。一暴れしたハチマンが急に、その………えと……キ、キキキキス、してきたのよ!」
「「「「「…………………」」」」」
マジ?
記憶がないから確かめようがないんだけど。
「その後気を失って、私のことも忘れて…………」
おいこら、そこの三人。ほっとするんじゃない!
まだ危機的状況は変わらねぇんだよ。
「………それ、多分ダークライの力借りすぎた反動で倒れたところにお前とキスしたってことじゃね?」
暴れて倒れて気を失って記憶なくなって………って、もう何したか理解できたわ。よかった、ただの事故で。
「……………ふん! キスはキスよ」
「キスに拘りすぎだろ………」
それでもユキノはそれをキスとカウントしたいらしい。
普通逆じゃね?
あれは事故だからカウントしないよね、ってのが常だろ。
「ああ……、みんなハチマンに傷物にされてしまったのね………」
傷物ってなんだよ。傷物って。君たちまだ穢れのない身体だろうが!
「せーんぱいっ!」
「ヒッキー!」
「ハチマン!」
「ハーチマンっ!」
ぐふっ?!
痛い、ぐるじぃ…………首絞まる…………入ってる、から………。
「「「「みんなまとめて責任とってね!」」」」
「うひょー、ハーレムきたぁぁぁあああああああああああ!!!」
コマチが煙を上げた。
あれ、つか修羅場じゃなかったのん?
✳︎ ✳︎ ✳︎
色々と予想外の展開についていけなくなった後、ハヤマたちが来たことでようやく落ち着き、無事エンテイとディアンシーに再会することに成功した。ディアンシーが抱えていたタマゴが勝手にぴょんぴょん動き出し、今度はコマチの腕の中で収まる、なんてハプニングもあったが、土産としてそのままコマチにタマゴの世話をさせることにした。
タマゴの孵化とか超レアな体験だしな。いい機会になった。
そして翌日。
約束通りハヤマとバトルすることになった。
「バトルのルールを確認しておく。使用ポケモンは六体。交代は自由。準備はいいな?」
「はい」
「いつでもいいすっよ」
なったのだが、正直眠たい。
病院の外にあるバトルフィールドにて、朝食後にバトルよ? ゆっくり食休みさせろよって話だ。
ま、無理だろうね。この面子が観客だと。
昨日の謎の告白大会? のメンバーに天使二人とハヤマグループ、それにザイモクザと先生は、まあ片や審判してくれるしいいとして。すっかりディアンシーと仲良くなってしまったサガミと俺のポケモンどももまあ分かる。なんか全員ポケモン出してるし。だが…………………あの、そこのお二人さん? 何してんの? 帰らないわけ?
「では、バトル開始!」
なんか目的を達成したはずのオリモトたちも見てるっていうね。
もういいや。さっさと終わらせて二度寝しよう。
「ブー、まずはお前からだ!」
「ヘルガー、よろしく」
ハヤマが最初に出してきたのはブーバーン。
なぜ最初のポケモンのタイプを被らせてくるんだよ。
俺は別にいいけども!
「ブー、グロウパンチ!」
初手から弱点をついてきたか。
あくタイプを持つヘルガーにはかくとうタイプの技が有利。しかもグロウパンチは当たれば当たっただけ攻撃力が上がっていく面倒な技だ。
「ふいうち」
突き出された拳? ………あれ、拳と表現できるような腕じゃないな。噴射口といったほうが無難か。まあ、ブーバーンの突き出された腕を身軽に躱して懐から背後に回りこみ、一撃を加えた。
「ブー、ふんえん!」
直接触った相手には近距離の炎で攻撃する算段だったらしい。一応考えられてはいるようだが………。
「効いていない?!」
「そいつ、もらいびだから。ほのおのキバ」
特性もらいびの効果で威力の上がったほのおのキバで腕に噛みついた。ブーバーンはヘルガーを引き剥がそうと、腕を振り回していく。
「遠心力を使え!」
左右に揺らしていた腕を左回りに身体ごと回し始め、ヘルガーを突き飛ばした。
「じならし!」
そしてヘルガーの着地の瞬間を狙って地面を揺らしてくる。
いやー、さすがに躱せないよね。仕方ない、仕方ない。
「きあいだま!」
弱点ばっかついてきますね。
というかそれだけ炎技以外に覚えてんのね。
ま、普通と言えば普通だけど。
「躱して近づけ」
振り回されて突き飛ばされた分、距離が開いてしまったからな。一発撃ち込むなら近い方がいいだろ。
ただじならしの効果で素早さが下がったのがツラい。
「もう一度きあいだま!」
ポンポン撃ってくるけど、軌道が単調なんだよな。やっぱはどうだんとかの方が操れるから俺は好きだわ。
「躱せ」
ジグザグに走り込み、ブーバーンの懐に到着。相変わらず身軽だな。
「はかいこうせん」
「くっ、まもる!」
大きく開いた口から至近距離ではかいこうせんを撃ち込んだ。咄嗟にブーバーンが防壁を貼り、防がれてしまったが、衝撃で後方へと下がっていく。
「グロウパンチ!」
「ほのおのキバで受け止めろ」
もらいびの力で大きくなった炎でできた牙、で飛び込んでくるブーバーンの右腕を受け止めた。
「ほえる」
「ルッガッ!」
グロウパンチを何度も使ってきてるし、ブーバーンには一度退場してもらおう。
ヘルガーに威嚇されたブーバーンは強制的にハヤマの方へと戻っていきボールへと収まった。
代わりに出てきたのはヨノワール。
ハヤマの逃げ足となる厄介なポケモンだ。
それにあのヨノワールは俺たちとバトルして疲弊していたとはいえ、三鳥の動きを止めている。曲者なのは間違いない。
「ヨル……、いわなだれ!」
「アイアンテールで弾け」
ヘルガーの頭上に岩々を作り出し、落としてきた。それを尻尾を鋼にして打ち上げ、逃げ場を作っていく。
「かみくだく」
そうして徐々にヨノワールとの距離を詰めたところで一気に攻め込む。
黒い大きな牙を作り出し、ヨノワールを捕らえた。
だが、やはり厄介なゴーストタイプ。タイプ特有の消える能力を使ってギリギリで躱しやがった。
「トリックルーム!」
チッ。
また面倒な技を使いやがって。
空間内では素早さが逆転する部屋を作り出し、ヘルガーが閉じ込められてしまう。
「れんごくで自分を取り囲め」
何をしてくるか分からない以上、防御体制に入っておくべきだろう。
そんな考えから激しく燃え盛る炎で身を固め、壁を作った。
「シャドーパンチ!」
またもやヨノワールが消えた。
次はどこから攻めてくる?
いや、それよりも大事なのはトリックルームにいるということ。
攻撃を躱そうと咄嗟の判断で動くと逆に動きが鈍くなり、確実に攻撃を食らってしまう。
ということは動かなければいい。
「…………………きた。かみくだくで受け止めろ」
その場で動かず、正面に現れた拳を黒い牙で受け止めた。
「れんごく」
牙が拳を受け止めている間に口から炎を吐き出し、焼いた。
ほう、やけどが入ったか。
上々だな。
「やけど………、ヨル、さっさと決めるぞ! いわなだれ!」
「ヘルガー、合図を出すまで動くな!」
「!?」
あ、そっか。
ヘルガーは初めてだよな。リザードンとゲッコウガはトリックルームの経験があるから慣れただろうけど。
「まだだ……………」
まだ、落ちてくる岩の距離が遠い。
もっと、もっと引きつけろ。
「まだだ……」
もう少し………。
「今だ! ゆっくり躱せ!」
半信半疑って感じだな。
だが、一応は信用してくれてるようで、のっそりとした動きで目の前に迫った岩を躱す動きをする。
瞬間。
ヘルガーの身体は残像を残して移動した。
「なっ?!」
「出た! トリックルーム破り!」
イロハは散々俺にこれをされてるからな。
トリックルームは遅ければ遅いほど速くなる。何を言ってるのか分からないだろうが、そのまんまの意味だ。
あの部屋の中では遅く動けば動くだけ、速くなるのだ。
「ヨル、あやしいひかり!」
今度は絡め手も加えてきたか。
だったら。
「目を瞑れ」
あやしいひかりは光を見なければいい。
「はかいこうせん!」
「えっ?」
「ヨノワールに効果ないんじゃ………」
そんなことくらい知ってるわ。
別に攻撃が目的ではないんだよ。
「あ、岩が………!?」
「砕くためだったんだ………」
ユイの言う通り、はかいこうせんは降ってくる岩を砕くため。
命中するかどうかなんてのはどうでもいい。取り敢えず撃っておけばいいのだ。
「それとこっちもな」
パリン! と。
トリックルームが砕け散った。
本来の目的はこの以上空間を壊すことだからな。
「なっ?! トリックルームが!」
「れんごく」
口から再度炎を吐き出し、トリックルームの破壊に戸惑っているヨノワールを焼き付ける。
「い、いわなだれ!」
戸惑いを隠せないのはトレーナーの方、といった方が正しいかもしれない。
指示が遅れてヨノワールの反応も遅れて。
後手に回りすぎて、ヨノワールに大ダメージが入ってしまった。さらに火傷の追撃が走る。
「アイアンテールで打ち返せ」
変な空間に囚われなくなったので、軽快に鋼の尻尾で岩々をヨノワールへと打ち返していく。
「くっ、シャドーパンチ!」
「ふいうち」
もうダメだな。
ヨノワールはこれで終わりだ。
トレーナーの方がそもそも焦っている。
そんなんじゃヘルガーに勝てるわけがない。
「かみくだく」
最後に大きく噛み付いて効果抜群のダメージを与えた。
「ヨノワール、戦闘不能!」
いくら耐久力のあるヨノワールであろうと火傷のダメージもある。あれで持ち堪えられたら驚きだな。
「………お疲れ様、ヨル。すまない」
悔しそうにハヤマは意識を失ったヨノワールをボールに戻した。
「うっそ、あのヨルが………」
「タイプの相性から見ればヘルガーの方が有利だわ。それにトリックルームを破られたことでハヤマ君に焦りが生まれていたもの。彼がそこを突かないわけがないわ」
ミウラの驚きに淡々とした口調でユキノが語りだし睨まれている。何やってんだよ。
「お疲れさん。交代な」
「ルガ」
えっへんと胸を張ってくるヘルガー。
このドヤ顔を写真に撮っておきたいくらいだわ。
変な顔。
取り合えず顎を撫でておいた。ユイがじっと見つめているが、というかちょっと涎が垂れているが見なかったことにしよう。
「んじゃ、次暇そうだしボスゴドラな」
「ゴラ」
欠伸をしていたので、ボスゴドラを出すことにする。すっげぇ暇そうだな。
「ボスゴドラ………、重量級には重量級。サイ、いくぞ!」
「ドサイィッ!」
サイ……? ああ、ドサイドンか。
同じ重力級って言うけど、こっちの方が不利なんだよな。なんせお得意の地面技とか致命傷にしかならない。他にもかくとうタイプの技を覚えている可能性だってある。
さて、どうしたもんか。
「ボスゴドラ、ボディパージ」
同じ重量級なんて言ってたし、まずはそこを崩そうじゃないか。
同じにならなきゃいい。
「サイ、じしん!」
自分の体重を軽くし、身軽な体にしていると足踏みをして地面を揺らしてきた。
「ジャンプ」
「跳んだ?!」
「あの重たいのが?!」
いや、ちょっとは軽くなったし。
「ボディパージのおかげね。………なるほど、さすがいやらしいバトルが好きな人だわ」
いやらしいって酷くない?
頭を使ったって言ってくれよ。
「もう一回」
ジャンプしている間にもう一度ボディパージ。
途中で軽くなったためか、まだまだ上昇していく。その内、空飛び出したりしないよね?
「アイアンテール」
高くジャンプしたことだし、次は落ちる力を使おうかね。リザードンで言えばハイヨーヨーと同じ原理だな。
「アームハンマー!」
ほら、やっぱり覚えてたよ。
くるっと回って鋼の尻尾を振りかざすと、そこに拳を突き出してきた。
「回り込んでもう一度」
尻尾は弾かれ、両者に隙が生まれた。
同じ重量級ならば、ここで態勢を立て直すところではあるが、身軽になったボスゴドラなら先に動ける。
ボズゴドラは地面に着地するや、即蹴り上げ、ドサイドンの懐に飛び込んだ。
「はやっ?!」
「もうあれはボスゴドラじゃないよ………」
イロハとユイがげんなりした目でボスゴドラを見てくる。
「サイ!? くっ……、こっちもロックカットだ!」
どうしても同じ舞台でやりたいのだろうか。
そこに拘る意味が俺には理解できない。
「じしん!」
鋼の尻尾で突き飛ばしたドサイドンがまたしても足踏みをして地面を揺らし始める。
「ジャンプ」
同じ手を使ってくるとか、頭大丈夫なのかね。
こんなのが四冠王とか世の中ちょっと危ういんじゃねぇの?
「がんせきほう!」
あー、それが狙いなわけね。
空中じゃ思った動きが取れない。そこを一発撃ち込めばダメージにはなる。
巨大な岩石を作り上げると、空中にいるボスゴドラめがけて飛ばしてきた。
「メタルバースト」
躱せないなら受ければいいだけのこと。
何を血迷う必要がある。
「なっ………!? サイ、アームハンマー!」
メタルバーストで岩石を打ち返すと、アームハンマーで砕いてきた。そして、もう一方の腕で砕いた岩石の破片を飛ばしてくる。
「アイアンヘッド」
ま、所詮岩だし。
鋼の敵じゃない。
「ドサイドン、戦闘不能!」
うーん、そういやドサイドンってハードロックとかいうダメージ軽減の特性を持ってる奴もいたよな? それ考えるとこんなあっさり倒れるとも思えないし、ハヤマのドサイドンはハードロックの持ち主じゃなかったってことなのか?
「お疲れ様、サイ。ゆっくり休んでくれ」
ま、何でもいいか。
「さすが群れのボスだわ。お前、順応早すぎ」
ポケモン自体がそもそも自分でバトルをある程度組み立てるってのもあるのかもしれない。しかもそれが俺の考えと一致していて、結果順応しやすいのだろう。要はどいつも俺と同じ考え方をしてるってことだな。なんなんだ、俺のポケモンって………。
「取り敢えず、交代な」
「ゴラ」
さて、ボスゴドラは下げて、お次は………。
「次は………ジュカイン、やるか?」
「カイ!」
じっと見つめてきたのでジュカインに出てもらおうか。
どうやらバトルしたいみたいだし。
「おーおー、やる気だねー」
「エレン、頼む」
ん?
ここでエレキブルなのか?
ブーバーンかリザードンが出てくるもんだと思ってたんだが。
となるとれいとうパンチかほのおのパンチは確定だな。それともかえんほうしゃとかか?
まあ、何かしら覚えてはいるだろう。
ま、ジュカインの相手じゃないか。
「れいとうパンチ!」
ほら、早速来たよ。
単純すぎだろ。もう少し搦め手を挟んでから攻撃してこいよ。
「くさぶえ」
腕の草に口を当て、ジュカインは心地よいメロディーを奏でた。
飛び込んでくるエレキブルの足が段々と止まり、とうとう地面に倒れ伏す。あ、寝返り打って仰向けに大の字になりやがった。
「寝ちゃった………」
「コマチも眠くなってきちゃった………」
効果はありありのようだな。
コマチにまで効果あったみたいだが。
うん、その目をこする仕草も可愛いぞ!
「くっ、エレン、一度戻れ。リュー!」
眠ってしまったエレキブルを一度ボールに戻し、次に出してきたのはカイリューだった。
カイリュー、ドラゴン・ひこうタイプ。くさタイプは相手じゃないってか。
「くさぶえ」
寝かせてしまえば意味ない話だな。
「りゅうのまい!」
炎と水と電気を頭上で三点張りに作り出し、竜の気を作り出していく。そのせいで草の音色は届かず、眠らすこともできなかった。
恐らくこれが狙いか。
同時に攻撃力と素早さも上がって一石二鳥、いやタイプ相性を見て一石三鳥だな。
「ドラゴンダイブ!」
竜の気をそのまま赤くて青いドラゴンに模して、突っ込んでくる。
仕方がない。全力でいきますか。
「ジュカイン、メガシンカ」
俺の持つキーストーンとジュカインのメガストーンが共鳴し出す。
光と光が絡まりあい、ジュカインの姿がみるみるうちに変わった。
「メガシンカ………。リュー!」
「回り込んでドラゴンクロー」
引きつけたカイリューの脇に滑り込み、回り込んで竜の爪で背中を切りつけた。
「……?」
「あん? どういうことだ?」
効果抜群の技のはずなのにあまりダメージが入った感覚がない。事実、カイリューはこれといったダメージが入っている素振りをしていない。
どういうことだ………?
「フリーフォール!」
振り返ったカイリューがジュカインを掴み上げ、空高く昇り始める。
なんだ? マジで分からん。
「ドラゴンクロー」
チッ、やはり無理があるか。
カイリューの腕っぷしには敵わない。だったらーーー。
「タネマシンガン!」
「振り落とせ!」
地面に投げ出されながらも無数の種を飛ばしていく。いくつかがカイリューに埋め込まれ、蔓を伸ばし始めた。やどりぎのタネマシンガンってか。
「ジュカッ!?」
ひこうタイプの技は痛いな。
メガシンカしてるとはいえ、やはりダメージは大きい。
「リュー、蔓を引き千切ってはねやすめ!」
地面に降り立ったカイリューが翼を折り畳み休み始める。
チッ、回復技かよ………。
なら、こっも。
「ジュカイン、つめとぎ」
両腕の草を擦り合わせて研いでいく。
「れいとうビーム!」
「ハードプラント」
直接型から遠距離型に切り替えてきたか。
ジュカインは吐き出される冷気を地面を両腕で叩いて太い根を掘り出し、壁にする。
「リュー! 横からもきたぞ!」
そして脇から新たに根を伸ばして攻撃に移るがハヤマに気づかれてしまった。
果たしてカイリューはどう対処してくる?
「りゅうのまい!」
竜の気を纏うことで根を焼こうというわけらしい。だが、そう簡単に逃すと思うなよ?
「なっ?!」
カイリューの足元からも太い根を掘り出しようやく腕と足を絡め取った。
「タネマシンガン!」
地面からの根に気を取られている間にやどりぎのタネマシンガンをぶつけていく。さっきは引き千切られたが、今度こそそうはさせまい。体力を根こそぎ奪ってやる。
「リュー、ぼうふう!」
自由を残した翼で扇ぎ、暴風を生み出す。
種は飲まれて散り散りになり、太い根も引き千切られていく。
風には嵐か。
「リーフストーム!」
メガシンカしたことで成長した尻尾を切り飛ばし、回転させながら無数の草を送り込んだ。
「躱せ!」
尻尾が迫ると竜の気のおかげで上昇した素早さを活かして軽々と躱す。そのまま旋回し、ジュカインに向けて突っ込んできた。
「ドラゴンダイブ!」
竜の気を赤くて青いドラゴンに模して、さらに加速してくる。
ジュカインが指示を仰ぐようにこちらを見てきた。
ふむ、ギリギリだがやってみるか。
「引きつけて種を植えこめ!」
りゅうのまいによるカイリューの素早さの上昇は著しいが、メガシンカしたジュカインの実力に賭けてみよう。
「カイ!」
ジュカインは突っ込んでくるカイリューを迎え討つべく、腰に体重をかけた。
そして、カイリューの突撃のギリギリのところで身を反らして地面から草を伸ばし、カイリューと自分との隙間に潜り込ませると、口からは一つの種を吐き出した。
種はカイリューの体内に吸収されていく。
「なっ?! あれを躱すのか…………。リュー、戻ってはねやすめ!」
攻撃が当たらなかったことを確認するとカイリューを自分のところに戻らせ、地面に下ろして翼を落ち着かせた。
今度はこっちから仕掛けるか。
「ハードプラント!」
まずは同じような攻撃パターンに見せかける。
地面から太い根をいくつも掘り出し、あらゆる方向からカイリューに襲いかかった。
「れいとうビーム!」
翼を休ませている間は飛べない。そのために全方向に冷気を発し、太い根を食い止めていく。
「こうそくいどう!」
食い止められた太い根を素早く駆け抜け、ジュカインがあっという間にカイリューの正面にたどり着いた。
「ドラゴンクロー!」
シャキン! と竜の爪を出し、カイリューを切り裂いた。
今度は大きくダメージが入ったらしい。
「リュー?! マルチスケイルが解けた………のか? はっ!? まさか、さっきの種はなやみのタネ?!」
マルチスケイル。
なるほど、それが原因だったか。
ポケモンが持つ特性の中にはマルチスケイルという体力があると頑丈な体になる特性があるという。実際に誰が持っているのかも知らなかった、どうやらカイリューがその特性を所持しているようだ。
ああ、だから度々回復していたわけだ。
「これが本当の種明かしってか」
「面白くないわよ」
「言うな。自分でも思ったから」
ツッコミ早いな………。
「リュー、大丈夫だ。こっちもジュカインを倒す手段が見つかった」
「えっ、ハヤト見つかったの?」
「ああ、恐らくジュカインはメガシンカしたことでドラゴンタイプを得た。だからドラゴンクローの威力も上がっているんだ」
「ジュカインにドラゴンとか…………ないわー、ヒキタニくんマジないわー」
トベうるさい。
「トベ先輩、うるさいです」
やーい、後輩に怒られてやんの。
「いくぞリュー! げきりん!」
ふむ、りゅうのまいの連続使用からの全力のげきりんか。
ハヤマの話が本当ならば、効果抜群となり致命傷となりうる。
素直に躱しましょう。
「ジュカイン、こうそくいどう!」
目の前で竜の気を暴走させて地面を蹴り上げてきたのを、ジュカインは軽々しい身のこなしで躱した。
「まだまだ!」
地面を蹴り直し、ワンステップで向きを変えて、再度ジュカインに向けて突っ込んでくる。
「やれ」
面倒になったので、最後はジュカインの好きにさせることにした。
どんな技でとどめを刺すのやら。
「カー、イッ!」
竜の爪を立て。
一瞬でカイリューの背後に移動すると両爪で背中を切り裂いた。
あっれー、いつの間に背後に行った?
俺の目では見えなかったぞ?
本気のジュカイン、恐るべし。
「リュー?!」
「カイリュー、戦闘不能!」
ぶった切られたカイリューは意識を失い、地面に倒れ伏した。
いやー、実にレアな特性を見せてもらった。
マルチスケイルなんて初めて見たわ。
「勝たせてやれなくてすまない。ゆっくり休んでくれ」
ハヤマってさ。
四冠王とか言われてるんだよな?
…………いや、俺のポケモンたちがおかしいだけだ。世間一般的にはハヤマは強いんだ。だから問題は無い。例外しかいないからこんな展開になってるだけだ。きっとそうに違いない。
「カイ!」
「えっ? なに? ディアンシー、通訳!」
『まだやりたいそうです』
「まだやるの? いいけど」
『やっと準備体操が終わった感じだと言ってますわ。これから本番だって』
「はっ? 準備体操? マジか………」
「カイカイ」
おいおいおいおい!
やっぱりこいつも壊れてやがるぞ。
なんだよ、リザードンといいゲッコウガといいジュカインといい。
絶対、頭のネジが一本足りてないだろ。
「あっはっはっはっ、準備体操とかウケる」
ひぃーっと腹を押さえて笑い転がるオリモト。
今の笑うとこなのか?
あいつの笑いのツボは一体なんなんだろうな。謎だわ。
「リザ、最初から全開でいくぞ!」
お、ようやくリザードンが出てきたか。
こいつを倒せばハヤマの負けが加速するな。
「我が心に応えよ、キーストーン。進化を越えろ、メガシンカ!」
…………………ぶほっ!?
なんだ、あの決め顏。
ウケるんだけど………。
「って、そこはウケねぇのかよ」
オリモトの笑いのツボが全く分からん。
「お兄ちゃんが一人でぶつぶつ言ってる……」
「目が怖いね………」
「キモ………」
「そ、その割には顔がニヤけてますよ?」
「に、にやけてなんかないし!」
とうとう後輩にまでいじられるようになったか、サガミよ。
「ハヤト………」
「姉さん、このバトル勝つのは?」
「十中八九ハチマンの方でしょ。まだまだ全力を出し切ってないもの」
「そうね、まだゲッコウガもリザードンも控えているものね」
「ハヤトが勝つのは無理だろうねー」
「ハヤトー! 四冠王の意地見せろし!」
あーあ、ユキノシタ姉妹の会話にむっとしたミウラが本気で応援しだしたぞ。
「いくぞ、リザ! だいもんじ!」
メガシンカしたことで日差しが強くなり、ほのおタイプの技の威力を底上げしてくるんだったな。
「躱して、タネマシンガン!」
ま、これくらいなら普通に焼かれるだろうけどね。牽制くらいにはなるだろ。
「エアスラッシュ!」
「ドラゴンクローで弾け!」
翼を扇ぎ、空気を圧縮し、刃のように送り込んでくる。飛ばした種も切り裂かれ、そのままジュカインへと押し寄せてきた。
それを竜の爪で全て弾き、後方に投げ捨てた。
「りゅうのはどう!」
刃がダメなら今度は波導を送り込んでくる。
「リーフストーム!」
それを尻尾を飛ばして真っ二つに。
おっと、段々とリザードンが近づいてきてるじゃん。
「オーバーヒート!」
「こうそくいどう!」
うわ、もうジュカインの動きが見えなくなってる。
ジュカインは一瞬でリザードンの背後に移動すると、拳に電気を纏わせた。
「かみなりパンチ!」
背中に一発打ち込み、地面に叩きつける。
「もう一発!」
上から降りかかるように左の拳を打ち込む。
「きあいパンチ!」
くるっと仰向けになったリザードンが電気を纏った拳に力強く拳を叩きつけ、受け止めた。
日差しが元に戻り、太陽が雲で隠れていく。
「押し返せ!」
翼を動かし、仰向けのまま羽ばたき出し、その力でジュカインを弾き飛ばしやがった。
「タネマシンガン!」
「エアスラッシュ!」
去り際に種を蒔いてみるが案の定ぶった切られる。
「たつまき!」
翼を扇ぎ、竜巻を生み出してきた。
次から次へと翼を使った技で攻撃してくるな。
「リーフストーム!」
空中じゃこれぐらいしか動きようがない。
あまり連発したくはないが、いつの間にか再生していた尻尾を竜巻の中に送り込む。
「かみなりパンチ!」
尻尾を飛ばして地面に着地すると、ジュカインは地面を蹴り上げ、一気に距離を詰めた。
「オーバーヒート!」
目の前に迫り来るジュカインに全ての力を吐き出すように、今日一番の炎を爆発させる。
だが、ジュカインはもう目の前にはいなかった。
背中に一発、下から一発、最後に上からも一発、拳を叩き込み、リザードンを再度地面に突き落とした。
「リザードン、戦闘不能!」
メガシンカが解けたことで、意識を失ったことを教えてくれる。先生もそれを見て判定を下した。
「リザ……、いいバトルだった。ゆっくり休んでくれ」
ハヤマは切り札とも言えるリザードンが敗北し、この先の手に行き詰まってる表情をしている。
「あ、もういいのか?」
「カイ」
気が済んだのか、ジュカインは自らメガシンカを解いた。
なら、交代だな。
次は……。
「ゲッコウガ、何か新しい芸増えたか?」
「コウガ」
「あるのかよ。なら見せてみ」
というわけでお次はゲッコウガ。
ギャラドス以上の芸ってなんだろうな。
「ゲッコウガには……エレン!」
寝てますけど?
ぐっすり寝てるぞ?
「何が起きるか分からないから使いたくはなかったが、エレン! ねごと!」
あー、確かに何が起きるか分からんよな。
ねごととかある意味怖い技だ。
「尻尾を地面に………エレキフィールドか」
ということは、だ。
これ起きるやつじゃん?
無事何事もなくお昼寝タイムは終了。
「みずしゅりけんで顔を洗ってやれ」
「コウガ」
フィールドに電気が張り巡らされ、エレキブルは次第に眠りから覚めていく。
仕方ないので、一気に起こすことにした。
「かみなりパンチ!」
あ、こら。
人がせっかくさっぱりさせてやろうとしてるのに。
みずしゅりけんを拳でただの水に分解しやがった。
「かみなり!」
尻尾を頭上に伸ばすとエレキブルは雷撃を飛ばしてきた。
雨雲から落ちてくるんじゃねぇのかよ。
便利な尻尾だな。
「躱せ」
ま、余裕なゲッコウガさんですけどね。
雷撃をひょいひょい躱して、いつの間にエレキブルの背後に移動してるというね。
気楽な奴め。
「んじゃ、一発芸のためにやるか」
「コウガ」
「メガシンカ」
どうもねメガシンカした方が一発芸の技の出来がいいらしいのよ。
そのためだけにメガシンカするってのもどうかと思うけど。
「メガシンカ………なのか?」
あれ? ハヤマはちゃんと見たの初めてだったんだっけ?
覚えてねーや。
「知らん。現象が似てるからそう呼んでるだけだ」
水のベールに包まれたゲッコウガはみるみる姿を変え、八枚刃の手裏剣を背負った姿になった。
「目つきがどことなく君に似ている………。それに八枚刃………」
「それ以上は言うな。ゲッコウガ、みずのはどう!」
合掌して、水を作り出し、何かを練り上げていく。
大きさ的にギャラドスではない。
人型っぽいが……………。
「コウガ!」
………………。
「お前…………、新しいっちゃ新しいけど、それはないだろ………」
なんでよりにもよって、その………、俺なんだよ。
や、目の腐り具合とか緻密に計算されていて、水の色をしているって以外は完成度高いけどよ。
「…………やっぱり、ゲッコウガってヒッキーのこと大好きすぎるよね」
「まあ、自分からついてきたポケモンだし」
「あのメガシンカも先輩との愛の結晶…………」
「はっ! まさかのゲコ×ハチ!?」
「おい、お前ら! 言いたい放題すぎるだろ!」
なんだよ、ゲコ×ハチって。
もう種族めちゃくちゃじゃねぇか。
「えっと、エレン、かみなりパンチで水のヒキガヤを壊せ!」
あ、ちょ!
「おい、ゲッコウガ! お前、俺に対して何か恨みでもあるのか!?」
水でできた俺の首から上が吹っ飛んだ。
「グー、じゃねぇよ!」
何がグー! だ。
ちっとも楽しくないわ!
自分の首が飛んだような感覚だぞ!
「コウガ」
はあ………、やっとまともに動いてくれるのか。
……………でもやっぱりギャラドス…………じゃねぇ…………これって………。
「なんでルギアなんだよ」
どうやら俺を作ったのは本当に一発芸だったらしい。
本来はルギアを作るつもりだったってのもどうかと思うが。
「もう、めちゃくちゃすぎるでしょ」
「くくくっ、なに、あのゲッコウガ! 超ウケるんですけど!」
君たち楽しそうだよね。
俺は今自分の首が飛んで落ち着かないわ。
「今度は俺に対しての憂さ晴らしかい?」
確かに。
そうかもしれない。
だって、こいつシスコンだし。
マフォクシーを危険な目に遭わせたとかって怒っていてもおかしくはないな。
「エレン、かみなり!」
「ハイドロポンプ!」
ルギアがハイドロポンプ撃ってるみたいだな。
エアロブラストとかできたりすんのかね。
「あ、それは無理なのね」
伝わってしまったらしく、頭の中に否定の言葉が流れてきた。
「ぐっ、なんてパワーなんだ………」
ほんと、ふざけきってるのになんて威力だよ。
エレキフィールド上でのかみなりだぞ?
相当の威力なはずなのに、水砲撃が負けないってマジでやばすぎだろ。
「エレン、エレキネット!」
電気の走った白い網をルギアに向けて飛ばしてくる。
ただの水に戻すつもりか?
「飛べ!」
飛べないとは言ってないし、いけるか?
あ、飛んだ。
「………ゲッコウガがついに空まで支配し始めたわね」
「炎も草も氷も使えるのにね」
「あまごい!」
お、ついに雨を降らせてきやがった。ついでにエレキフィールドが放電させちまったけど。
まあ、それならそろそろかな。
「かみなり!」
きたよ。かみなりが来ちゃいましたよ。
「ゲッコウガ!」
「コウガ!」
呼びかけるとすぐに対応してきた。
水でできたルギアから飛び降り、エレキブルに向けて突っ込んでいく。
「エレン、かみなりパンチで迎え討て!」
空ではルギアが弾け、ただの水へと戻った。大粒の雨となって降り注ぐ水を、背中の手裏剣へと吸収していく。
「躱して、みずしゅりけん!」
巨大化した手裏剣を携え、エレキブルの拳を躱すと、回り込んでみずしゅりけんでぶん殴った。
エレキブルは身動き取る時間も与えられず、突き飛ばされ、フィールド外の木にぶつかり…………気を失ったな。
「っと……、エレキブル、戦闘不能!」
うん、遊ぶだけ遊んで最後は勝つって………。
こいつもはや伝説になれるぞ。
「エレン、お疲れ様。すごい相手だったな」
それに関してはなんかすまん。
やっぱり一通りやりたそうなんで出してみたけど、エンテイたちと変わりない奴だったな。
「コウガ」
「シャア」
あ、自ら交代しましたよ。
もう気が済んだのか。
さて、最後はリザードンだな。
「今日は何発でやる?」
「シャア!」
中指だけを立ててきた。
ということは一発かよ。
なにゲッコウガに触発されてんだよ。
一発だったら、メガシンカもいらないってことだろ。
「はあ………、お前らそんなとこで張り合うなよ」
一発ねー。
やっぱ、あれかね。
「ブー。リザードンだけでも落とすぞ!」
そうだ、最後はブーバーンだ。
あ、でもヘルガーに結構ダメージ与えられてたような………。
まあ、一発だし関係ないか。
「10まんボルト!」
あー、こっちはこっちで覚えてるのね。
「躱せ」
あらよっと、リザードンは躱した。
「ブー、グロウパンチ!」
うん、終わったな。
「掴め」
突き出された拳を片手で受け止めた。
「じわれ」
そのまま地面に押しつぶし、地面を割り、その中に押しやった。
地面から吐き出されたブーバーンは当然意識を失っている。
「ぶ、ブーバーン、戦闘不能! よって勝者、ヒキガヤ!」
「一撃………必殺…………」
ゲッコウガでふざけてた分、リザードンが一発で終わらせたことに驚愕を露にしているハヤマ。
すまんな、これが俺たちのやり方なもんで。
「一発で、終わっちゃった………」
「ゲッコウガの時は遊んでたのに」
「遊んでる時点でもう規格外だと思うのだけれど。仮にも四冠王よ?」
「うわー、鬼畜」
「ハヤマくん、かわいそう」
「くくくっ、やばい、お腹痛い」
「カオリ、笑いすぎ。……………敵に回さなくてほんとによかった………」
さて、これで俺もゆっくりできるな。
続けて短いですが84話もどうぞ。
単に長くなったので切っただけです。