ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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今日中に投稿おこうということで。

時間旅行もこれで終わりです。


82話

「さがれ、エックス!」

 

 ポケモンの村にたどり着くと。

 早速修羅場になっていた。

 

「ぐ……!」

「がはっ……!」

 

 えっ? ミュウツー?

 あいつ、何してんの?

 もしかして操られてたり? 

 主人の留守の間に何かが起きたのは間違いない。でなければ、顔見知りであるはずのあのイケメンをミュウツーが襲うとか考えられないからな。

 ミュウツーは自らが作り上げたスプーンにサイコウェーブを乗せて回転させ、竜巻を起こし、二体のリザードンとドサイドンとブリガロンが吹き飛ばしていた。

 

「フフフ、これは好都合だ。こちらが手を下さずとも、邪魔者を一蹴してくれた」

 

 この声、は………フラダリ……。

 なるほど、要するにあいつが一枚咬んでいるのだな。

 

「フラダリ!」

「ミュウツーを操ってるのはきさまか!?」

 

 と、あれはエックス? と言ったか? 新しい図鑑所有者。初代図鑑所有者のグリーンと合流したようだな。

 二人はギャラドスに乗って現れたフラダリに敵意丸出しに吠えた。

 

「ミュウツー……。村を守っていた伝説のポケモン」

「村を守る?」

 

 村を守る、というニュアンスにエックスの方が驚いた。おそらくミュウツーについて何も知らないからだろう。エックスからしてみれば、力を暴走させて襲ってきた凶悪なポケモンにしか見えないし。

 

「カツラさん」

「うむ、分かっている。わが兄弟は操られているのではなく怒っているのだ。しかし、案ずるな。わたしがここにいる」

「んじゃ、あいつを頼みますよ」

 

 ただ近づくのでは意味がないので、二人して高台へと移動し、見晴らしのいいところから全体を見渡すことにする。

 

「われわれが村に入り、潜伏をはじめても村のポケモンたちはにげもかくれもしなかった。不思議だと思わないか? 人間からひどい仕打ちを受けたポケモンなのにわれわれを恐れなかったのだ。やがて気づいた。この村とポケモンたちを守る存在にな。だが、一向にその姿を現すことはなかったのだ。昨夜までは……」

「……昨夜……。村のポケモンたちを最終兵器のもとへ連れていったのか? そのことでミュウツーは怒り、暴れているんだな?」

 

 そんなこんなしていると聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。

 村のポケモンたちを最終兵器まで連れて行っただと?

 確かに人間に捨てられたポケモンたちがいるって話だったのに野生のポケモンが見当たらない。グリーンの言う通り最終兵器まで連れて行ったのだとしたら……………再起動以外にないか。

 ゼルネアスがいたから計画が早まっていたが、そもそもは野生のポケモンの生体エネルギーを吸い取っていたのだ。塵も積もれば山となるとはよく言ったもので、体のいいエネルギー資源として捕獲されたのか。

 そりゃ確かにミュウツーが我を忘れてでも暴れるわな。

 

「図星か……」

「フッ、知ったところでなにができる? ミュウツーはわたしのギャラドス、カエンジシ、コジョフーと戦ってなお、体力を残している。果たして勝てるのかな?」

 

 ミュウツーがサイコパワーで固めた無数のエネルギー体を打ち上げた。

 

「せいぜい善戦してミュウツーを疲弊させてくれたまえ。きみたちがたおれたあと、わが戦力となってもらうのでね」

 

 そして、奴が腕をグリーン達の方へと振り下ろすと、りゅうせいぐんのようにエネルギー体が降り注いだ。サイコブレイクだ。

 

「サイコブレイクか!」

「マリソ!! ニードルガード!」

 

 ニヤッと笑みを浮かべるフラダリに反して、ミュウツーが突然腕をフラダリへと向けた。エネルギー体は滑空し、軌道を曲げ、フラダリに襲い掛かる。

 横を見るとカツラさんがキーストーンを取り出していた。

 さすが悪に落ちたジムリーダーである。敵の隙の作り方もよくご存知のようで。

 

「ミュウツー、なぜ……!」

 

 急に軌道を変え、正確に自分を狙ってきたことにフラダリ自身も理解ができていないようだ。手負いながらもその眼差しはしっかりと暴君様へ向けられている。

 

「ミュウツナイトの光よ、わがキーストーンの光と結び合え!!」

 

 当の暴君様は主人の声がしっかりと届いたようで、最初から持たせていたのかカツラさんのキーストーンと共鳴し合い、白い光に包まれると姿を変え始めた。

 

「「あの光は……!」」

 

 白い光に気付いた二人が声をそろえて荒げる。

 

「なに!」

「「メガシンカ!!」」

 

 ミュウツーのメガシンカにグリーンだけがあることに気が付いた。

 

「なるほど持ち主がいたのか。ならば……」

 

 俺たちと目が合うとフラダリは鼻で笑い除け、フラフラとした動きで立ち上がり、何かのスイッチを押した。

 ミュウツーは小さく細くなった姿で、コジョフーとカエンジシの攻撃を軽々とかわしていく。

 

「なんという速さだ!」

 

 メガシンカしたミュウツーの早さにあのグリーンも驚きを隠せないらしい。

 

「「!?」」

 

 すると突如。

 ゴゴゴッ、という唸り声をあげたかと思うとグリーンたちがいる地面が割れた。中からは蛇のような緑色のポケモン? が這い上がってくる。

 

「ジガルデ!」

「エスプリ!」

 

 ジガルデ?! ………なのか?

 俺が知っているジガルデとは姿が全く違う。四足歩行だったのにいつの間にか蛇になっているなんて。

 やはりジガルデはフォルムチェンジを、しかも複数のフォルムに変わるポケモンだったみたいだ。まだまだ謎だらけのポケモンだな。

 

「ハチマン、わたしは行くが君はどうする?」

「俺は少しポケモンの村について調べてみます。まだ何かいるかもしれませんし」

「わかった。気を付けるのだぞ」

「分かってますよ」

 

 そう言うと、ギャロップに乗ったカツラさんはグリーン達の元へと降りて行ってしまった。

 さて。

 俺はこれからどうすればいいんだろうな。

 

「やっぱりヒャッコクで捕獲してたのか!」

「バラはそれを知らなかったんだ! けど………なぜ?」

「エスプリはジガルデを捕獲し、『ポケモン預かりシステム』に預けていた。そのためにわれわれはジガルデの居場所を特定できなくなっていたのだ」

 

 エックスの疑問に答えるようにフラダリがつぶやいた。

 と、ジガルデの上にいるヘルメットスーツは見たことがあるな。だがあれはハヤマではない。恐らくは完成品の方。能力の高さはジガルデを操っている時点で明白である。

 

「エスプリはおまえたちの命令で動いていたんじゃなかったのか?」

「クセロシキという科学者ははんぱに博愛精神を残していてね。イクスパンションスーツの被験者が催眠状態に置かれ、代わりに人工知能がクセロシキの指示に従う。活動時間にも制限をもうけ、心身に負担が残らないように作られていた。だが、たび重なる活動で催眠効果がうすれ、被験者の意識がさめ、制御不能になってしまった。そこで制限をはずした。指一本動かすこともわたしがコントロールできるようになった。そうしてようやくエスプリがジガルデをボックスに入れていたとわかったわけだ。今やエスプリは、被験者がこわれようとわたしの指示通りに動く完全無欠の存在だ。科学の力はすごいと思わないか?」

 

 フッと笑みを浮かべるフラダリにエックスは敵意丸出しにギリッと睨みつけた。

 非道。

 その一言に尽きるな。

 サカキも似たような人間であるが、それでもここまで腐った奴じゃない。じゃなければ、俺と付き合いが保つはずがないんだから。

 フラダリ達の会話に耳を傾けながら、こそこそと村を探索してみる。

 

「こんな言葉を聞いたことがある。神なき学問は、知恵ある悪魔を生む……と。そのクセロシキという科学者はまだ……、踏みとどまり、もどる道がありそうだ」

「やはり……。あなたもこのカロスにきていたのか」

「長い年月を経てようやくわが兄弟に再会できてね、ここで共に暮らしていた。だが、ほんの少し村を離れていた間に兄弟が怒りをおさえられぬほどに事態になっていたとは……」

 

 よし、無事に合流できたみたいだな。それなら後は任せておこう。

 

「ビィビィ」

「セレビィ………。今度はどこに行けってんだよ」

 

 エンテイに汲に現れたセレビィの後をついていくように命令し、様子を伺う。

 どうやら洞窟に連れて行きたかったらしい。

 何があるっていうんだ?

 

「ここに行けってか」

「ビィビィ」

 

 まあ、セレビィが行けってんならしょうがない。

 楽しそうな洞窟ではないが入ってみるか。

 

「暗っ………」

『これでどうですか?』

「すまん、よく見えるようになったわ」

 

 洞窟の中は真っ暗だった。正直前が見えない。

 後ろでディアンシーが気を利かせて明かりを灯してくれた。それでようやくちょっと先が見える程度。どんだけ暗いんだよ。

 

「今回俺が来る意味あったのかね………」

 

 はっきり言って何をすればいいのかも分からない。

 これまでは自分の尻吹きみたいなものだったから何をするべきか分かったものの、今回に限っては元々いなかったところだ。そんなところに来ても動いようがないっての。下手に介入するのも危なっかしいし。帰れなくなったらどうすんだ?

 

「うおっ?!」

『ひぁあっ?!』

 

 なんかいきなり地面が激しく揺れたんですけど。

 おかげでエンテイがバランス崩してこけそうになっちゃったじゃん。

 誰だよ、ド派手な技使ってんの。

 

『すごかった、ですね………』

「そうだな。あいつら無事だといいが………」

 

 エンテイは足取りを立て直し、奥へと進み出した。

 悪いな、エンテイ。もう少し付き合ってくれよ。

 

『誰も………いませんわね』

「使えるものはすべて連れて行ったんだろう。またあのポケモンたちみたいなのが生まれるかと思うと心が痛い」

『ど、どのような………』

「暴君曰く、生体エネルギーを吸い取られた状態らしい。あの状態から立ち直れるかどうかはそいつ次第で、俺たちにはどうしようもないんだと」

『そんな………』

 

 またあんなポケモン達が増えるのかと思うとうんざりだな。

 そうならないようにあいつらには頑張ってもらわねば。

 

「ま、これがフレア団の、フラダリのしてきたことだ。そして今もそれが行われようとしている」

『マスターが止めてくださるんですよね?』

 

 うわー、すげぇ期待の眼差しを感じる。

 

「いや、それは分からん。ここで勝負がつく可能性だってある。いざとなったらセレビィがセキタイへ飛ばすだろ」

『だったら、ここでみなさんが片をつけてくださることを祈るばかりですわね』

「まったくだ」

 

 ダメだ。

 期待の眼差しが消えねぇ。

 

『あ、マスター。エンテイが何か見つけたみたいですよ?』

「何が出てくるのやら………」

 

 しばらく進んでいるとエンテイが何かを察知したみたいで、それをディアンシーが伝えてくれた。

 暴君がいなくなってからというもの、通訳してくれる奴がいなかったからディアンシーの存在はありがたい。しかもあいつみたいに毒吐かないし、すげぇいい子じゃん?

 

「よっと」

 

 エンテイから降りるとそこは部屋になっているらしく、行き止まりだった。

 その奥に何か気配を感じる。

 

『マスター、奥に………』

「ああ、何かあるな………」

 

 変なの出てきませんように。

 特に伝説のポケモンとかもう懲り懲りだからね。

 

『あれの………ようですわね』

「あれ………?」

 

 えっ?

 あれ?

 マジで………?

 

「ポケモンのタマゴ………?」

『何か特別なポケモンのタマゴなのでしょうか』

「どう………、なんだろうな」

 

 洞窟の最深部の空間にポツンと置かれたポケモンのタマゴがあった。

 暗くて柄がよく分からないが、ポケモンのタマゴなのは間違いない。

 

「………まさか俺はこのためだけにここに連れてこられたとか?」

『かもしれないですわね………』

 

 なんだそりゃ。

 結局何しに来たんだよ。

 タマゴの保護が目的だったのか?

 

「はあ………、まあいいか」

 

 これも何かの前触れなのかもしれないしな。保護しろというのならそれに従おうではないか。

 

「えっ………」

 

 タマゴを拾い上げようとしたら、躱された。

 はっ?

 

「まさかのこういうオチかよ」

『どうやら遊んで欲しいようですわね』

「マジで? タマゴのくせに? そんな知能があったりするのか?」

 

 なにそれ、聞いたことないんだけど。

 えー、マジでー。これ追いかけて捕まえろってことなのん?

 

「また面倒なのがきたな………」

 

 きっと碌なポケモンに育たんぞ。

 

「エンテイ、周りこめ。ディアンシーはここで待ち伏せだ。俺が囮になる」

『了解しましたわ』

 

 無言でタマゴの背後に移動していくエンテイを余所目に、俺はタマゴに近づいていった。

 時折ジャンプしている。タマゴってそんなことまでできたんだな。何気にタマゴを育成するのって初めてのような気がする。手帳にもタマゴについては特に書かれてなかったし。

 

「あたっ?!」

 

 おいおい、まさかタマゴに攻撃されたんだけど?

 顎痛すぎ………。唇噛まなくてよかった………。

 

「このやろ…………」

 

 マジでなんなの、このタマゴ。

 セレビィも酷いな。こんなのを相手にしろだなんて。タマゴだから下手に攻撃もできないし。

 頬が引きつるのは仕方ないよな。

 

「少しやんちゃが過ぎんだろ………」

『マスター、相手はタマゴですよ?』

「分かってる。もうこうなったら、意地でも捕まえてやるよ」

 

 さっさと捕まえてさっさと帰ろう。

 

『タマゴさん、こちらにいらして』

 

 いや、そんなんで………おい、マジかよ………。

 泣いていいかな? いいよな?

 

「なんで俺だけこんな目に合わないといけないんだ…………?」

 

 ディアンシーの一言で飛びついていきやがったぞ?

 俺には顎にタックルしてきたくせに。

 

「はあ…………、また碌なのしか生まれてこないんだろうな」

 

 これ、俺が育てないといけないのかね。

 なんだろう、マフォクシーやカメックスといい。ちょっとはオーダイルを見習え。自分のトレーナーと同格以上に俺の言うこと聞いてくれるぞ。

 …………俺には懐くか懐かないかの二極しかないのだろうか。

 

『マスター、捕まえましたわ!』

「あ、ああ、うん、サンキュー」

 

 そんなキラキラした目でこっちみないで!

 

『マスター、お顔の色が悪いようですが』

「気にするな。さっき顎にタックルされて、それが痛いだけだ」

 

 決して心が痛いわけではない。断じてない。

 

「うーん、この色どこかで見たことがあるような………」

『色、ですか………?』

「ああ、お前の光のせいかもしれないが、このタマゴの模様といい、色といい、どこかで見たことがある気がするんだ」

 

 上が濃い深緑で下が淡い深緑色。

 何かで見たことがあるような気がする………。気のせいかもしれないが。

 

『それは実際に目にした、ということなのでしょうか』

「どうだろうな………。なんせ俺の記憶はないに等しい。恐らく図鑑とか写真とかじゃねぇの」

『それだとかなり範囲が広いと思うのですが…………』

「まあ、深緑だし候補は絞れるんじゃないか? というか深緑で合ってるよな?」

『ええ、確かに普通の緑よりは暗めですね。土色が入ったような………、そんな色です』

「………へー、ポケモンも人間と同じ色彩を持ってるんだな。ちょっとした新たな発見」

『言われてみればそうですわね。わたくしたちの見ているものをマスターたちも当然見えているものだと思っていましたわ』

「当然のことのように思えても確認してみると違うことだってあるさ。自分たちの常識が相手に通用するわけじゃない。ましてや俺たちは人とポケモン種族の異なる者同士、同じ色が見えていたことの方に驚きだわ。………はあ、ポケモンってマジですげぇな。人の言葉は理解するし、テレパスで会話もできるし。身体が丈夫で見えているものは同じもの…………。うわ、人間情けねぇ………」

 

 つくづくポケモンという存在は人間より遥かにたくましく思う。なのに人間ときたら使う側に回ってるんだからな。世の中わけ分かんねぇわ。

 

『そうでもありませんわ。マスターたちにはわたくしたちにない発想をお持ちです。わたくしたちでは考えもしないバトルを楽しませてくれますわ』

「うちにはゲッコウガという独特な発想の持ち主がいるんだけど………。あいつ、勝手に変な芸を仕入れてくるからな。しかも何気に使えるし。マジでなんなんだ、あいつは………」

 

 最初から独特な奴だったが、水でギャラドスを作り出した時には「もうこいつ、俺のこといらねぇんじゃね?」って思ったりもしたわ。それくらい、あいつはやばい。

 

『それもマスターに強く影響されてのことだと思いますわ。ゲッコウガはよりマスターに近づくことに成功した。だからそのような技の使い方もできるのだと思いますよ』

 

 要するに、あのメガシンカの影響が強いって言いたいのだろう。

 確かにあれはゲッコウガだけの特別製だ。特別近いってのも理解できる。

 

「ま、今は置いておく話だな。戻ろうぜ」

『そうですわね。みなさんのことも気になります』

 

 再びエンテイの背中に乗り、元来た道を引き返した。後ろに乗るディアンシーの腕の中にはしっかりとタマゴが抱えられている。どうやら定位置が決まったらしい。

 

「………なあ、結局セレビィは俺にどうしてほしかったんだと思う?」

『さあ、タマゴの保護だけとは思えませんが………』

「だよなー………」

 

 暗い暗い洞窟の中を颯爽と駆け抜け、一気に出口へと到着。

 

「散り始めた!!」

 

 ああ、帰りは早かったな。あっという間に洞窟を引き返しちゃったよ。

 で。

 出てきてみれば、なんだこれ………。

 ジガルデ? がどんどん分散していってるんだけど。

 

「ぜるぜる……!」

「がああああ! なにごとだあああ!」

「ルット、ばかぢから!! ラスマ、あくのはどう!! エレク、かみなり!! ガル、げきりん!! サラメ、フレアドライブ!!」

 

 エックスのポケモンたちが持てる力をすべて出してジガルデに最後の一撃を加えていく。一斉攻撃によりジガルデの分離はどんどん加速していき、ジガルデの上に載っていたフラダリは足場がなくなり、宙に投げ出された。

 ………あ、何気にエックスのポケモンが五体もメガシンカしてるんだけど。まさかの五体同時にってやつ?

 あっさり俺の記録を抜かれてしまったな………。

 

「フラダリさま!」

 

 そこに上空から炎の女の声が飛んできた。

 見ると誰かとバトルしていたらしい。

 どうでもいいがここにもサーナイトがいるし。みんな好きだね………。

 

「パキラ!」

 

 おそらく彼女と知り合いなのだろう。

 敵であるパキラを最後は必死に助けようと手を伸ばしている。だが、彼女はその手を振り払い、フラダリの元へ 飛び込んでいった。

 

「終わった、な………」

『………これで、よかったのでしょうか』

「分からん」

 

 見ていないで助けなくてよかったのかって言いたいんだろうが、生憎そんな発想に行かなかった。あいつらは俺の大事な奴らに手を出したんだ。これくらいの罰を受けても俺の奥底では煮え切らないのが実情だ。このまま死んでくれても構わないとさえ思っているくらいだからな。相当の怒りが俺の中にはあったらしい。

 

「パキラ……、最終兵器は………、浄化の光はまだか?」

 

 エックスたちが見守る中、フラダリは混迷していく。

 

「なぜだ……」

 

 だが、返事が返ってこないことにさらに頭の中は迷走しているようだ。

 

「なぜ……」

「なぜもクソもあるかよ」

「フレア団………!?」

「まだ残っていたのね………!!」

 

 エックスとガールフレンドは俺の姿を見ると戦闘態勢に戻った。

 

「エンテイを連れた下っ端がフレア団にいるわけないだろ。………お前、今まで何してたんだ」

 

 だが、グリーンは冷静に状況を判断していた。俺の後ろにいるエンテイに気付いて、エックスたちの警戒を解かせる。

 

「言っただろ。いつかお前らの計画は潰れるって」

 

 ま、質問の方はガン無視ですけどね。

 だって、まずはこっちの方から話しておかないと、いつ死ぬか分かんねぇし。

 

「……それは、君が………」

「誰も俺がやるとは言ってねぇよ。そこのエックスが図鑑をもらったって時点である程度読めていた。最終的に蹴りをつけるのはこいつだってな」

 

 やっぱり俺が手出すと思ってたんだな。俺に対しての攻撃の仕方がえげつなかったし、理解してねぇんだろうとは思っていたが。

 

「な、何者なんですか………」

「ヒキガヤハチマン。最終兵器のエネルギーをすべて吸い上げた男だ」

 

 ねえ、俺と似たような声で紹介しないで。

 一瞬俺の声に俺の声が被さってきたかと思ったじゃん。

 

「また無茶をしおって………」

「おかげで記憶はパーですよ」

 

 カツラさんは呆れた表情を浮かべ、さっきとは別のメガシンカの姿になっているミュウツーもやれやれといった感じである。

 

「………いくつもの、偶然………。わたしの、負けだ……」

 

 フラダリはその一言を最後に動かなくなった。

 

「グリーンさん!」

「カルネ、と四天王か。フラダリもパキラもこの様だ」

「パキラ………」

 

 パキラと空中戦を広げていた女性が、三人の男女を連れて現れた。従えてるといった方がいいのか………。

 えっ? まさかチャンピオン?

 その女性は鉄の鎧の男にパキラを回収させる。同じ四天王の最後に言葉も出ない様子だ。

 

「ああ、そうだ。さっきの質問、まだ答えてなかったな」

「そうだ、お前は今まで何をしていたんだ。見ていたのなら手伝えばいいものを」

「時間旅行だよ。この時間の俺は12番道路の方でバトルしている」

「ビィビィ!」

「セレビィ……?!」

「ま、というわけだ。詳しい話は未来でな」

 

 時間が来たようなのでセレビィに合図を送る。

 結局、俺は何しに来たんだろうな。フラダリと話すためだけに連れてこられたのかね。

 

「はあ………、何もかもがお前の掌の上ってことか」

「俺じゃなくてセレビィのな。俺だって振り回されてるんだぞ。んじゃな」

 

 エンテイとディアンシーを連れて白い光に包まれると、次なる場所へと飛ばされた。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 と、ここは………?

 病院………だな。

 しかも見たことのある天井に壁。

 恐らくクノエの総合病院である。

 

「あれ、ディアンシーとエンテイは………?」

 

 一緒に飛ばされたはずなのにあいつらの姿がない。建物の中だからか?

 それとも俺だけ別に飛ばされたとか?

 最悪帰れないとかないよね?

 あ、ってことはハルノさん起きてるかな………。

 

「病室はー…………知らねぇや。さて、どうしようか」

 

 うーん、俺がいたのは個室だったしな。恐らくハルノさんも個室だろうけど。まずは俺がいた病室にでも行ってみるか。

 階段を昇ってとことことことこ歩いていると、ようやく俺の元? 病室に到着。あ、俺の名前まだあるわ。

 

「あ………」

 

 隣の部屋に魔王の名前があった。

 なんだ、隣だったのか。

 

「ノック、しないと怒るだろうな………」

 

 主に見つかった時に妹の方が、だけど。乙女の部屋にノックもなしに入るだなんて、マナーのマの字もないわね、このマの字ガヤ君、なんて言ってきそうだ。

 ダメだな、俺じゃあいつみたいに語呂合わせが上手くできねぇわ。

 そんな妹の方の高い知能の無駄遣いを改めて確認しながら、扉をコンコンとノックした。

 ………………………。

 

「まだ寝てるのか?」

 

 まあ、最初から起きてる保証はなかったんだけどね。

 

「入りますよーっと」

 

 勝手に乙女の入った〜とか言いふらさないでくださいよ。

 ハルノさんならやりかねないから怖い。

 

「なんだ、やっぱり寝てるか………」

 

 一体どんな荒業をしたんだか。

 酷使しすぎて自分の時間を奪われてちゃ意味ないでしょうに。

 

「今がいつか知りませんけど、もう夕方ですよー」

 

 病室の窓からは綺麗な夕焼け空が見えていた。オレンジ色に焼けた空には今日も平和にキャモメの群れが飛んでいる。

 

「ユキノシタさんならもっといい立ち回りの仕方もできたでしょうに。妹のこととなると周りが見えなくなるんですね」

 

 まさかここまでシスコンだったなんて俺も思わなかったぞ。ユキノのこと溺愛しすぎでしょ。

 

「………帰ろ。なんでここに飛ばされたのかも知らねぇし」

 

 えっ?

 動けないんですけど……………。

 扉の方に振り返って歩き出そうとしたら何かに引っ張られる感覚がした。

 

「えっ、ちょ、おわっ?!」

 

 次に来たのは伸し掛かられたような重み。

 器用にも俺の身体を倒れながらに回すというね。おかげで背中がめっちゃ痛い。

 

「………起きてたんなら返事くらいしてくださいよ」

「………君が悪いんだからね」

「はっ? なぜに………!?」

「どこまで、私のこと落とせば気が済むのよ……」

「………なんで急に涙流してんですか。さっき言ったことが気に障ったなら謝りますから」

「バカ………」

「えっ、ちょ!」

 

 ………えー………。

 なにこれ、どゆこと?

 なんかハルノさんに抱きつかれてるんだけど。

 しかも胸には柔らかい感触が。あ、髪が鼻に来やがった。ちょ、なんで寝たっきりだったのにいい匂いしてんだよ。女こわっ!

 

「バカバカバカ、バカハチマン! …………お姉さんのことまで落としちゃダメじゃん。君はユキノちゃんのなんだから………だから………」

 

 …………えっ? 落とす? さっきから出てくる単語だけど落とすって何? 何を落とすの?

 うそだよね………?

 

「なんで来ちゃうのよ………」

 

 あ、これ完全にアウトだわ。

 俺は一体、どこでそんなフラグを立てた?!

 あれか? ルギアとのバトルの時か?

 あの時助けたからこうなったっていうのか?

 勘違いも甚だしいだろ。なんでそうなるんだよ………。

 

「あのハルノさ……」

「何をやっているのかしら、エロガヤくん?」

 

 えっ………?

 マジ………?

 

「あ、お兄ちゃん、おかえりー」

 

 おかえり?

 

「えっ? ここって現実………?」

「さて、説明してもらおうかしら。人の姉に、それも病人に手を出した言い訳とやらを聞かせてもらおうじゃない」

 

 は、はは………。

 デスヨネー。そんな旨い話があるわけがない。

 

「と、とりあえず、このアングルアウトだわ………」

「えっ? あっ!? ヒッキーのエッチ!!」

 

 どうやら俺は元の時間に戻ってきたらしい。

 戻ってきて早々、これはないだろ………。

 今ならこれを言っても大丈夫だよな。

 

 せーの、不幸だぁぁぁぁぁあああああああああああ!!

 

 

 


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