ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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久しぶりの金曜日投稿。


80話

「みんな、こっちに!」

 

 声のした方を見ると上空にイベルタルが二体いた。

 ああ、メグリ先輩がメタモンをイベルタルに変身させたところか。となると炎の女、パキラと交戦中の時間に飛ばされたってわけだな。最初がここからって、なんかなー。

 つか、マジで一瞬だったな。一瞬で景色が変わっちまったよ。もっと時空移動を楽しめるもんだと思ってたわ。

 

「イベルタル、あんな小細工は消しとばしなさい」

「させるかよ。ゲッコウガ!」

 

 うわー、ゲッコウガって俺の陰に潜ってたんだ。いるの自体は分かっても姿が見えないんじゃ、そりゃいきなり出てきた感じだわな。

 しかも何回見てもまもるを使いながらのメガシンカでデスウイングをかき消してしまうのはチートだと思う。もはや伝説級だ。

 

「あら、変わったポケモンね。いただいちゃおうかしら。イベルタル、もう一度やっちゃいなさい」

 

 おーおー、動けなくなってんな、俺。ダークライの力は負荷が掛かるみたいだからな。しかもここ最近連発して使ってたから、あそこで動けなくなるのも無理はない。というかそれだけで済んで何よりって話だな。最悪黒い穴の中で待機とかになる可能性だってありそうだし。

 

「中二先輩、いきますよ」

「うむ」

「「レールガン!!」」

 

 俺たちが戦ってる間にあの二人はレールガンを撃つ準備をしてたわけね。

 イベルタルに集中してたから気がつかんかったわ。

 ジバコイルとその上に乗るザイモクザに抱えられたエーフィ、ダイノーズにその上に乗るヤドキング、リザードンの上にイロハといるメガシンカしたデンリュウ、そしてポリゴンZ。計六体からのレールガンがイベルタルへと撃ち出された。

 

「サンダー、カミナリ」

 

 ミウラ達と対峙していた寝取られ王子がハイパーボールを投げ込んでくる。

 あのスーツってのは視界が広かったりするのかね。

 今はもうミウラが引き剥がしてしまって壊れてたからな。 

 

「サンダー、だと………」

 

 ボールの中からサンダーが出てきた。激しく唸らせるサンダーの雷撃により六閃は無と化し、代わりに雨が降り出してくる。同時に雨雲も造り出してたのか。

 

「クレセリア、サイコキネシス!」

「カーくん、ニャーちゃん、サイコキネシス!」

「サーナイト、サイコキネシス!」

 

 エスパー組がサイコキネシスで落雷を何とか止めた。

 伝説のポケモンがこっちにもいるにも拘らずギリギリとは…………。

 それだけ電気ってのは危険な代物ってことなのかね。

 

「フリーザー、フブキ」

 

 またしてもエスプリがハイパーボールを投げてきた。

 守りが手薄になったところにボールから出てきたフリーザーが口から吐かれた冷気を翼を使って仰ぎ、猛吹雪を飛ばしてくる。

 ポケモンを出すタイミングといい、あれで意外に策を弄するんだよな。

 中身がハヤマだからかね。

 

「リザードン、マフォクシー、だいもんじ!」

 

 イロハもひどいよなー。

 リザードンに当てずっぽうで技を使わせるとか、使えたからよかったものの、はずれたら危険だぞ。

 

「ボーマンダ、クッキー、だいもんじ!」

 

 ユイも戦闘に加わってきた。

 今にして思えば、この時にはもう彼女は逞しくなってたんだろう。アホの子だから気づいてないかもしれないが、もっとずっと怯えていてもおかしくない状況なんだぞ?

 ま、それだけ自信がついてきた証拠と取っておこう。

 

「イベルタル、デスウイング」

「くっ、ダークライ、もう一度だ」

 

 イベルタルが身を引き、翼を大きく広げていく。

 ここだな。

 

「それじゃ一発頼むぞ、ディアンシー」

『はい、マスター』

「マジカルシャイン」

 

 ディアンシーから太陽のような光が迸り、上空にいるイベルタルを包み込んだ。

 だが、うん、咄嗟に躱されるんだよな。

 でも、これがあの女が立ち去るきっかけにもなったんだし、よかったと言っていいのだろう。

 

「オホホホホッ! まだ虫ケラが混ざっていたようね。いいわエスプリ。後は任せるわよ。私にはやるべきことがあるの」

 

 俺は虫ケラなんですね。

 ちょっと後で面貸せや。

 

「あ、おい、待て!」

 

 下にも自分の敵がいると把握したからなのか、高笑いをしてパキラがさっさとセキタイの方へと飛んで行ってしまう。

 さて、後で俺もご挨拶に行かないとな。

 

「ルギア、オマエモヤレ」

「くっ、マジかよ。ダーク、ルギア………。くそ、パキラを追いたいってのに………」

「ルギア、エアロブラスト。ファイヤー、ホノオノウズ。サンダー、カミナリ。フリーザー、フブキ。リザ、ゲンシノチカラ」

 

 いやー、これやっぱり無理ゲーだよなー。

 まず飛行戦という縛りがある時点で使うポケモンが絞られるし、伝説のポケモンが四体にメガシンカが一体だぞ。

 よく頑張ったよな、俺たち。

 

「ゆきのん、ボーマンダ使って! あたしはクッキーでやるから!」

「分かったわ! ボーマンダ、メガシンカ!」

「リザードン、お前もメガシンカだ!」

 

 上ではさらにメガシンカが増えていく。

 あ、ここでミミロップとフシギバナもメガシンカしてたのか。

 

「ダークホール!」

「トゲキッス、ひかりのかべ! ミミロップ、ミラーコート! ファイヤーを抑えて!」

「ボーマンダ、オーダイル、りゅうのまい!」

「中二先輩!」

「うむ、いくのである! レールガン!」

 

 あの二人は案外タッグを組むと強いのかもな。

 バトルしたい気もするが先客もいるし、そもそも俺が疲れてやる気が出ないだろう。

 あ、でもバトルするとなると俺も誰かと組まないといけなくなるのか。

 ……………一人で二人相手する方がやりやすそうだわ。やめよ。

 

「サンダー、デンキヲヒキヨセロ」

 

 サンダーが周りの電気を避雷針のように集めていき主導権を奪うと圧縮し、自分で溜め込んだかみなりのエネルギーと合成し、新たな雷撃を練り上げ始める。

 

「インファイト!」

「ムーンフォース!」

 

 先生とメグリ先輩がフリーザー目掛けて攻撃を仕掛ける。

 ふぶきを放つ前に背後から現れたエルレイドに気づいたフリーザーは旋回し、エルレイドをサーナイト目掛けて突き飛ばした。そのままふぶきも放たれ、ムーンフォースも同時にかき消された。

 

「ファイヤー、ゴッドバード」

「ギャラドス、躱してハイドロポンプ!」

「ピジョット、ナイフエッジロール!」

「オムスター、げんしのちから!」

 

 ファイヤーに狙われたミウラたちだが、ギャラドスとピジョットが攻撃を躱しきれず、ギャラドスの上にいたミウラが宙に投げ出されてしまった。

 よくあれでエビナさんが投げ出されなかったよな。逆にすごいわ。ギャラドスひっくり返ってるからな?

 

「ビィ」

 

 ディアンシーに頼もうかと思ったら、先にセレビィの方がサイコパワーでさりげなく落ちる速度を落としやがった。

 さすが伝説。仕事が早い。

 

「ユミコ?!」

「ムクホーク!」

 

 トベがボールからムクホークを出し、ミウラを回収させに行かせる。だが、やはりというか。あいつは自分も真っ逆さまに落ちていることに気づいてなさそうだ。

 ま、生きてたしなんとかなるだろ。

 

『マスター、わたしたちも加勢しなくていいのですか?』

「表立って加勢したらややこしいことになるからな。こうやって見えないところでサポートするくらいが丁度いいんだよ。そのためにやってきたようなもんだし」

『それならいいのですが………』

 

 ディアンシーも心配なんだろうな。

 相手のポケモンがポケモンだけにうずうずしてることだろう。

 

「フリーザー、フブキ」

「イッシキ、そのままリザードンを使え!」

「ボーマンダ、だいもんじ! オーダイル、アクアジェット! クレセリア、サイコキネシスでサポートしてあげて!」

「リザードン、マフォクシー、もう一度だいもんじ!」

 

 三つのだいもんじで壁ができ、その上をオーダイルとゲッコウガが駆け抜けていく。サイコキネシスにより攻撃側の二体への吹雪も抑えられ、道ができた。

 

「カミナリ」

 

 すると、今度は背後から圧縮した雷撃を飛ばしてくる。ゲッコウガとオーダイルはフリーザーとサンダーに挟み撃ちされた気分だろう。

 

『マスター、どうしてあのポケモンは黒いのでしょうか。どんなポケモンなのかわたくし分かりませんが、普通じゃないように思えます』

「あれはダークオーラを纏っている………纏っているって表現も違うな。呑まれたってところか。まあ、とにかくお前の言うように普通じゃないんだ。しかもそれをやったのは人間だ。ルギアは人間の征服欲のために使われ、弄られた。ダイヤモンドを造り出せるというお前もそんな経験、ないわけでもないだろ?」

 

 ディアンシーについて手帳にはそう記されていた。

 ダイヤストームを見る限り、本当にダイヤを作り出せそうだし、実際にその物珍しさにフレア団によって狙われたみたいだからな。コンコンブル博士たちが上手く隠してくれたおかげで、今こうして俺の前にいるのだ。

 

『ええ、そうですわね。わたくしもこの力のせいで狙われました。誰かとは申し上げられませんが』

「いや、いい。そっちの方も知っている。だが、もうそいつらと出会うことはないと思うぞ」

『それもそうですわね。今のわたくしにはマスターがいますもの』

「ま、そっちもあるか。自分のポケモンくらいは守ってやるよ」

『ふふふっ』

 

 自分のポケモンなんて言ってしまったが、本当に俺のポケモンとしているわけ?

 結構面倒なことに巻込まれることになるかもだぞ?

 

「よっと」

「ヒョウテキ、カクニン。リザ、オーバーヒート」

 

 ディアンシーと話していると上空で俺がルギアの背中に辿りついていた。すぐにエスプリも追ってくる。

 リザードンでルギアに着地したエスプリが攻撃に転じようとしたので、ルギアの上の俺も動いた。

 

「させるかよ、来い! ゲッコウガ!」

「コウガ!」

 

 あそこでジュカインを出すべきか迷うところではあったが、ゲッコウガでよかったかもしれない。いきなりジュカインにバトルさせるのとかキツいと思うわけよ。状況もあまり飲み込めてなかったら動きようがないのだし。そしてそれは大きな隙となる。致命的な判断ミスをしなかったと考えた方がいいな。

 まあ、ジュカインを見る限りその心配もなさそうだったけどな。念には念をだ。

 

「みずしゅりけん!」

 

 バネを効かせた身体でルギアの背中にいる俺の前に飛んでくると、ゲッコウガは八枚刃の手裏剣で壁を作って燃え盛る炎を防いだ。

 

「ハイドロカノン!」

 

 炎を防いだ流れで手裏剣の形を変え、一直線に激しく唸る水の究極技を撃ち込んだ。

 ハヤマのリザードンは勢いに飲まれ、遠くへ吹っ飛んでいく。

 

「イクスパンションスーツ破損、10パーセント」

 

 あのスーツの方にもダメージが入ったみたいだな。

 損傷度が激しくなってくると離脱を強制的に行われるんだっけ?

 まあ、あんな独りでに飛んでいられる代物だしな。負荷をかければそれだけ壊れやすくなるか。

 

「ルギア、ハイパーモード」

 

 ハイドロカノンを受けて吹っ飛んで行ったリザードンが帰ってきて、ルギアの背中に拳を打ち付けた。衝撃でルギアはダークオーラに呑まれていく。

 

「ルギィィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!」

「うおっ?!」

 

 ハヤマのリザードンのせいで、とうとうルギアが暴走を始めた。

 翼を大きく開いて雄叫びを上げ、上に乗っていた俺がバランスを崩して宙へと投げ出された。頼みのリザードンも三鳥の相手をしており飛んでこられない。ゲッコウガが咄嗟に飛びついてきたが、あいつでは飛べないから危険度は変わらない。

 ふーん、だからか。

 

「エンテイ、せいなるほのお」

 

 だから下から炎が飛んできたのね。

 足場を確保するのと同時に傷を癒すために俺がこうして今いるってわけだ。

エンテイの炎はホウオウの炎でもある。つまりはエンテイたちを蘇らせたと言われている炎。その炎を俺が避けようしないのはやはり本能的に安全だと判断したのだろう。記憶がなくてもエンテイの炎は覚えていたということだ。

 

「ヒキガヤくん?!」

 

 ユキノが炎に呑まれる俺を見て、絶望的な顔になっている。釣られて女性陣が俺を見ていた。

 

「そろそろか」

 

 俺がああして炎に呑まれてるということは、時期に魔王がやってる頃だな。

 

「あれ? セレビィ、どこいった?」

 

 気づけばセレビィの姿がない。

 あれ? 俺たち元の時間軸に帰られない?

 

「ルギア、ダークブラスト」

 

 雄叫びの後に再度口を大きく開き、禍々しい黒い爆風を生み出してきた。

 俺はエンテイの背中に登り、ディアンシーの手も引いて引き上げる。ちょっと重いかもしれないが我慢してくれよ。

 

「カメックス、ネイティオ、まもる!」

 

 爆風は皆を巻き込み、暴れていく。

 さらに三鳥がかぜおこしで爆風の威力を高めだした。

 だが爆風の中に投げつけられたボールから、カメックスとネイティオが出てきて障壁を貼り、黒い爆風を受け止めた。

 

「あ………」

 

 小さいから見えなかったが、二体の隙間にセレビィがいる。

 そりゃ、あの二体の障壁で抑えられるわな。

 

「くそっ! ゲッコウガ、めざめるパワー!」

 

 一緒に炎に呑まれたゲッコウガがめざめるパワーで炎を掌握し、支配権を奪ったようだ。あいつ、水も草も炎もお手の物なんだな。恐ろしいわ。

 ………その内、炎や草でもポケモンを模るようなことをしそうだと思うと、余計に現実味が増してくる。

 

「ナイトバースト!」

 

 上空からは暗黒の衝撃がルギア目掛けて一直線に降りかかってくる。

 なんだかんだで魔王らしいポケモンを連れていたんだよな。俺、ハルノさんに連れてるポケモンのことを聞かれた時、バンギラス二体って言っちまったんだけど。

 うわっ、はず…………。あの人絶対心の中で笑ってたよ。

 

「ファイヤー、サンダー、フリーザー、ウチオトセ」

 

 風を起こしていた三鳥がエスプリの命によりゲッコウガの炎とゾロアークの黒い衝撃波を翼で受け止め、地面に向けて叩き落とした。

 やはりファイヤーがいると例えエンテイの炎でも効果は薄いようだ。

 さて、ゲッコウガがエンテイの炎を掌握したことだし、移動するか。

 

「見つけたわよ、バカハヤト! バンギラス、メガシンカ!」

 

 どこかで一人、未来を見ていたであろうハルノさんのご登場。

 その間に、衝撃波で飛ばされていったリザードンたちを探してみる。

 

「ヒョウテキヘンコウ。ルギア、ダークブラスト」

 

 ぶうんと翼を仰ぎ、背後に現れたハルノさんの方に向き直るルギア。

 

「いてて、………なに今の………」

「カメックスにネイティオ…………っ!?」

「シロメグリ、助かった」

「いえ、みんな無事みたいでよかったです」

「ハチマンはまだ………」

 

 ちょっと離れたところから声がしたため覗いてみると、メタモンが全員を無事に受け止めていた。

 メグリ先輩の咄嗟の判断でみんな助かったってわけか。

 

「バンギラス、いわなだれ! メタグロス、ラスターカノン! ハガネール、かみくだく!」

 

 メタグロスに乗ったハルノさんが次々と命令を出していく。

 地面からはハガネールまで出てきて、第ニラウンドが開始した。

 

「リザードン!」

 

 上空からリザードンを呼ぶ声がする。それを聞いたリザードンはすぐに這い上がり、飛んでいった。相変わらず律儀な奴だな。

 

「フャイヤー、サンダー、フリーザー、ゴッドバード。リザ、ソーラービーム。ルギア、ハガネールヲフリオトセ」

「ゲッコウガ、ハイドロカノン! リザードン、ブラストバーン!」

「カメックス、オーダイル、起きなさい。私たちもやるわよ」

「ユキノシタ先輩、私もやります!」

「フシギバナ、私たちもやるよ!」

「バナァ!」

 

 ユキノの意図に気づいたイロハとメグリ先輩がマフォクシーとフシギバナを連れて集まってきた。そして、焦点を合わせようと空を仰いだ瞬間、サンダーがフリーで動き回っているのが森から見えた。周りには青白い電気をバチバチさせている。

 

「カメックス、オーダイル、ハイドロカノン!」

「マフォクシー、ブラストバーン!」

「フシギバナ、ハードプラント!」

 

 だが、下からサンダーに向けて三色の究極技を走らせ、牽制には成功し、上空の俺から標的をこちらに変えることができた。

 

「ユキノさん、後は任せて下さい!ハルノさんを!」

「分かったわ!」

 

 コマチに後押しされ、ユキノはクレセリアに乗って上昇していった。

 

「姉さん!」

 

 あ、ネイティオがユキノの後を追い出したぞ。これは例のやつだな。

 

「えっ?ネイティオ、どこいくの?!」

 

 ユイが呼び戻そうとするがネイティオはふらふらと飛んでいってしまう。

 

『マッテ! ワタシガヒキツケルカラ、フタリデハイゴカラコウゲキシテ!』

 

 ……………うん、やっぱりおかしいと思う。

 ネイティオってそんな芸ができるようなポケモンだったか?

 伝説のポケモンでもない、ましてやテレパシーを使えるようなポケモンでもない奴が声を発するなんて聞いたことないぞ。

 一つ、可能性があるとすれば、ゲッコウガみたいな存在だ。トレーナーと繋がることで何らかの作用が働く可能性。それがハルノさんとネイティオにあればの話だが。実際に目にした俺にはそれを否定することはできない。

 

「ハルノ………」

「はるさん………」

 

 さて、俺も行きますか。

 

「え、ちょ、そっちはまずっーーー」

 

 エンテイに任せたら急加速して、一気にあいつらの前を通ることになったんだけど。

 バレてないよね……………。何も言ってなかったし、うん………。

 

「ゾロアーク、ホウオウに化けて三鳥を誘導しなさい! バンギラス、メタグロス、はかいこうせん!」

 

 速すぎて見えなかったということにしておいて。

 俺は一人囮役を買って出た魔王の言葉を思い出した。

 

『時間を超えてまで助けられちゃ、お姉さんもさすがに無理かも…………』

 

 あの時、この言葉が何を意味していたのかは想像すらできなかったが、終の洞窟で生き埋めになりそうになった時に理解できた。

 俺がこうしてお姫様を助けにきていたのだ。

 だからあの人は無事だったし、あんな意味不明なことを口走っていたのだ。

 

「ダークブラスト」

 

 エスプリが命令を出した。狙うはメタグロスに乗ったハルノさん…………。

 だが、そこにいたのはメタグロスとバンギラスだけだった。

 バンギラスが黒いオーラを出して守りの態勢に入っている。

 

「ハヤト!!」

「いけ、エンテイ」

 

 ルギアの黒いダークブラストと二体のはかいこうせんが交錯している横を走ることにした。危険ではあるが、その方があいつらからもあの二人からも俺たちは映らなくなる。

 

「リザ、レンゴク」

「姉さん!?」

 

 その証拠にエスプリは気づいていない。

 リザードンに命令を出し、灼熱の炎を身を投げ出したハルノさんに走らせてくる。

 だが、その炎は彼女に届かせはしない。

 

「奪え」

 

 ハルノさんをキャッチし、エンテイに炎の主導権を奪わせ、あたかも攻撃を真正面から受けたかのように動かして森の方へと降りていく。

 

「ダークライ、あくのはどう!」

「~~~!! クレセリア、ムーンフォース!」

「マニューラ! ユキメノコ!」

「リザードン! ゲッコウガ!」

 

 後はあっちで片がつく。

 それよりも俺はこっちをどうにかしないとな。

 

「ルギィィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?!」

「ファイヤー、サンダー、フリーザー、ルギア、モドレ」

 

「ヒキ、ガヤ………くん?」

「全く………、姉妹揃ってその顔かよ」

 

 驚いたような、どこか嬉しそうな………。

 夢で見たユキノと同じじゃねぇか。

 

「自分の未来が見えないからって普通死ぬ方を選びますか?」

「えっ………、どうしてそれを…………えっ? うそっ………」

「と、迎えが来たか………ぁ」

 

 キャッチしたのが図らずもお姫様抱っこになっていたのは知らないフリをしておこう。

 

「ほれ、お前のご主人様は無事だ」

 

 一目散に駆けつけてきたゾロアークにハルノさんを渡した。

 俺を見るや困惑した表情を浮かべている。まあ、無理もない。あっちにもこの顔がいるんだからな。

 

「ヒキガヤくん………、君ってずるいね………」

「何言ってんですか。『ユキノちゃんをよろしくね』とか脅しをかけてくる方がよっぽどずるいと思いますけど? んじゃ、俺は急いでますんで」

 

 ユキノと俺が駆けつけてきそうだったので、それだけ言ってその場を離れることにした。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ハルノさんから離れてセレビィに次に行くように伝えると、いきなりパキラの目の前だった。

 えっ? なに? 早速バトルしないといけないのん?

 

「……あら、ここまで追ってくるなん、て………」

 

 俺の姿を見るやパキラの表情が固まる。そういや俺の格好ってフレア団のものだったな。それにエンテイとディアンシーもいるからか。

 

「なるほど、そういうことね。まさか団員の中にスパイが混じっていたなんて」

「スパイ? 俺が? はっ、んなわけねぇだろ。剥ぎ取っただけだ」

 

 俺がスパイとかやめてくれ。

 あんなおかしな集団、スパイとしてでもいたくないわ。そんなのはシャドーだけで充分である。

 

「剥ぎ取るだなんて行儀が悪いわね。一着五百万円もする高価なものなのよ?」

「らしいな。俺からしたら趣味の悪い服でダサいとしか言いようがないが」

 

 俺の知る限り、どこの組織も趣味の悪い制服しかないような気がする。

 だからもう少しかっこいいのとか作れよ、と思わなくもない。

 

「それで? 今度はどういう要件かしら? ここにいるということはエスプリは負けたようだけれど」

「いや、まだ俺たちは勝っちゃいねーよ。スーツが壊れたってんで途中で逃げやがったぞ」

 

 そうは言ったが、向こうの方では炎の柱が薄っすらと立つのが見えた。俺が聖なる炎に呑まれてるのかね。

 

「そう、さすがは試作品。中身は良くても使えないわね。こんなことなら、生身のまま使った方が良かったかしら」

 

 どうでもいい、といった感じか。

 ま、下々のことなんて本当にどうでもいいんだろうな。

 

「やめておけ。その場合は怒り狂った女王と魔王に殺されるだけだ」

「…………ほんと、読めない子ね」

「見るからに分かるだろ? 俺を理解しようなんざ、あんたには無理だ」

「別に理解しようだなんて思わないわ。私はフラダリ様さえいてくれればそれでいいもの」

「当の本人はそんなこと微塵も考えてなさそうだが」

 

 ほらやっぱり。

 心酔しすぎてるわ。

 恐らく、愛情に似た感情を持ち合わせているのだろう。

 

「予定変更ね。あなた、殺すわ。ついでそこの宝石もいただこうかしら」

「結局やるのかよ」

 

 およよ………。

 やりたくないなー。面倒くさいなー。

 でもディアンシー狙った奴でもあるからなー。

 

「イベルタル、デスウイング」

「はあ………、エンテイ、せいなるほのお。ディアンシー、ムーンフォース」

 

 禍々しい風を聖なる炎で、パキラに向けてはディアンシーに直接仕返しをさせることにする。

 

「………あなたもダイヤを独り占めにしたいようね」

「はっ、別にそういうのじゃねぇよ。お前らと一緒にすんな」

『そうです! マスターは昔からわたくしに優しくしてくれた恩人です! 私利私欲に塗れたあなたとは違うんです!』

 

 ちょ、そういうのを人前で言うなよ。しかも本人の前で。小っ恥ずかしいだろ。

 

「ッ?!」

「おっ」

 

 堂々としたディアンシーの語りを聞いて恥ずかしくなっていると、山の峰の隙間から青白い光の柱が立ち出した。

 やった。めっちゃタイミングいいじゃん。

 上から見た限り、ここはまだシャラシティ付近。一っ飛びでセキタイまで行ける距離だが、なんせもう最終兵器は起動準備に入ったのだ。

 これなら俺が今ここで去ろうが、セキタイに着くのは丁度俺がブラックホールを使った後だろう。

 

「セレビィ、次よろしく」

「ビィ」

 

 セレビィの姿に一層目を開いて驚いたパキラの表情は一瞬で見えなくなった。


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