書きたいことは山ほどあるんですけどね。
「ユキメノコ、シャドーボール! マニューラ、こおりのつぶて! ギャロップ、ほのおのうず! ボーマンダ、ドラゴンダイブ! オーダイル、アクアジェットでルギアの背中に乗りなさい!」
開けた方でバトルをしているユキノの声が聞こえる。
それを背後に俺は少女二人と対峙していた。
「その格好………。さっきあたしらの邪魔をしてきたから全員倒したけど、まだいたんだ」
オリモト…………。
何故お前がこんなところにいる。
「あんたたちみたいな怪しい集団にエンテイが従ってるのには腹が立つんだよね」
怪しい集団。
そうだ、今の俺ってフレア団の格好をしてるんだった。
ってことは、まだ俺だとバレてないのか。そもそも覚えてるわけないよな。
「………ね、ねえ、カオリ。エンテイってそう簡単に手懐けられるようなポケモンだったっけ?」
「違うから腹立つんじゃん。またあんな目に遭ってるのかもしれないし」
……………あんな目、か。
ダーク化のことを言ってるんだろうな。
えっ? ということはなに? シャドーの一員として追ってるわけじゃないのん?
「「っ?!」」
取り敢えず、こいつらを倒すなりどうにかしないとあいつらを助けにも行かせてもらえそうにないので、まずはエンテイから降りた。そしてエンテイにはユキノを助けに行かせ、ジュカインをボールから出した。
「ハヤト、いい加減に目を覚まして! お願いだからルギアたちの命令を解いてよ!」
ハヤマに呼びかけるミウラの声が聞こえてくる。もう涙まみれのかすれた声になってるよ。
「ジュカイン、メガシンカ」
一つ目のキーストーンを取り出し、ジュカインをメガシンカさせた。石と石と結び合いジュカインの姿を変えていく。
最初から暴れてもらおう。
「ジュカインが姿を変えた………?」
「チカ、多分例の進化を超えた進化、メガシンカだよ」
「服装からして下っ端っぽいけど…………」
「人は見かけで判断しちゃいけないよ。あたしもそれで失敗したから。マグマラシ! ふんか!」
「ユキノ先輩! どうしてエンテイが!?」
「分からないわ! でもどうやら味方になってくれるみたいよ!」
タイプの相性からマグマラシを出してきたか。
…………マグマラシ、だと?
まだ進化していないのか………?
ダークポケモンは進化する傾向が見られなかったが、まさか……………。
「ジュカイン、こうそくいどう」
背中から打ち出された溶岩を綺麗に躱していく。
「コロトック、シザークロス!」
「ブラッキー、あくのはどう!」
躱した先には二体が技の準備をして待ち構えている。だが、突っ込んできたコロトックを尻尾で殴り、首根っこを掴むと遠心力を使ってブラッキーへと投げ飛ばした。
「ニョロトノ、アイスボール! マグマラシ、ダークラッシュ!」
頭上からは新たに氷の塊を持ったニョロトノと黒いオーラを纏ったマグマラシが降ってくる。
ジュカインもマグマラシの方には危機感を覚えたようで、咄嗟に躱していた。
こおりタイプの技よりもダーク技は本能的に危険を感じるのか。
やっぱ、ヤバイものなんだな。
「…………シャドーから出たものの、未だダークオーラに囚われている、そんなところか」
「なっ?!」
「シャドーを知って、るの………?」
「エンテイへの反応からして反逆者って感じだな。…………ああ、なるほど。目的はルギアか」
口に出したらようやくオリモトがカロスにいる理由が理解できた。
恐らくはシャドーから脱退し、ダークルギアの話をどこからか仕入れてきて遥々カロスにやってきたってところか。マグマラシがまだ進化してなくてダークラッシュを使ってるんだから、ダークポケモンのまま。となると、ルギアの話を耳にするまではマグマラシのダークオーラをどうにかしようとしてたのかもしれない。
ま、フレア団に対して邪魔してきたから倒したって言ってたし、概ね合っているだろう。
「ルギアをどうするつもりだ?」
「答えると思ってんの?」
「返答次第じゃ協力しようかとも思ったんだがな」
「協力? ないないない。まずそもそも信用できないでしょ」
「だよなー。仕方ない、やれ、ヘルガー」
ヘルガーをボールから出し、新たに覚えたと思われるほえるで威嚇した。ダークオーラによるものなのか、マグマラシだけはオリモトの元へ戻っていかない。
強制的な交代で出されてきたのはオンバーンとバクオングと、トロピウスだった。
二人とも空は飛べるのね。
「ヘルガーって…………誰か……………」
ヘルガーを見るや、オリモトが考え込み始める。
その間もポケモン達とのバトルは続いていく。
マグマラシが再びふんかで上空から溶岩を落としてくるし、トロピウスが銀色の粉を風に乗せて撒いてくるし、新しく出されたもう一人の方のポケモンであるレントラーがジュカインに向かって電気を帯びた巨大な牙で噛みついてくるし………。
加えてオンバーンとバクオングがりゅうのはどうとみずのはどうを撃ち出してくるという。
それをヘルガーが溶岩を特性を発動させて吸収していき、高まった爆炎を放出して水を蒸発。ジュカインが腕に噛みついてきたレントラーの電気を奪い、尻尾をドリルのようにトロピウスに飛ばして、そのまま身体を回してオンバーンへと投げ飛ばした。
さすがっ。
「ジュカイン、ハードプラント。ヘルガー、もう一度れんごく」
統制の取れていないポケモンたちを牽制目的に太い根で取り囲み、根を燃やして火の海に葬る。
「っ!? まさかヒキガヤっ?!」
うわっ、マジか!?
覚えてやがったのか。どんな記憶力してんだよ。
俺を覚えてるとか。末端の末端だぞ?
…………今でも覚えられていることにちょっと喜んでいる俺がいる。でもーーー。
「ワタシ、ヒキガヤチガウネ」
「ぷっ、くくくっ、なにそれ、ウケるんだけど」
「ウケねぇよ」
「やっぱヒキガヤじゃん」
「うっ……………」
なん、だと………?!
誤魔化しがきかないだと?!
まあ、こんな下手な誤魔化しが効くはずもないか。
「ちょ、カオリ、笑すぎ。てか、これヤバい状況だから。早く火を消さないと」
それな。
マジでそれ。
笑いすぎて腹痛くなってんじゃん。
火の方もだけど。
「あーあー、だからエンテイが、ねー………ぷくくくっ」
やだもうこの子。
一度笑い出したらずっと笑い続けるじゃん。笑のツボもよく分からないのに。
なんて思っていると段々と鎮火し始めた。そういえばみずのはどうを使うバクオングがいたな。
「はあ………で、どうすんだ?」
「ヒキガヤの言う通り、あたしらはシャドーの反逆者………みたいなもんだよ。誰かさんがエンテイとスイクンを連れ出した後、今度はスナッチ団でも反逆者が出てきて瞬く間にシャドーの計画は潰されちゃってさー。結局ワルダックが捕まってシャドーも潰れて、あたしらは身を隠す羽目になったはずなのに、いつの間にかシャドーが復活してて、ダークルギアを作り上げてた。だからあたしらはそれを追ってここまで来たってわけ」
ワルダックって誰………?
取り敢えず、俺の知っているシャドーは潰れたと認識していいんだな?
「ちょ、カオリ?! それ言っちゃダメじゃん!」
「いいのいいの。ヒキガヤは敵じゃないから」
「味方とも限らんがな」
「でも共通の目的があるんでしょ?」
さすがはロッソ。幹部より下の者の中では強者の位置にいたのは伊達ではない。
「そうだな。俺はルギアを止めなければならない。そのためにエンテイに力を借りている」
「へー、スイクンは?」
「………新しい主人を見つけたみたいだ」
まだトレーナーになりたてのだけど。おそらくあの三人よりも強くなってそうだけど。
…………今度会ったらバトルする約束してしまったが、少し早まったか?
『ジジ………、カロスの民よ』
あ? ホロキャスター?
勝手に起動したやがった?
トツカのだと思われるホロキャスターを取り出すと、画面にはフラダリの顔がドアップで映し出されていた。
『わたしはホロキャスター開発者のフラダリだ。ホロキャスターは大ヒット商品となり、カロスの多くの人たちが所有しているといううれしい報告を受けた。その感謝という意味で、今日はわたしみずから諸君に重大な報告をする。心して聞いてほしい。これよりわがフレア団はカロスの浄化を始める。けがれと混乱を一掃し、美しいカロスを取りもどす。選ばれた者だけによる美しいカロスを築き上げる』
最終兵器の、再起動、か………?!
『選ばれなかった諸君とは、残念ですが、さようなら』
この野郎………。
こんな時にさらに問題を増やすんじゃねぇよ。
おい、間に合えよ、図鑑所有者ども。
「フラダリ………、ジガルデだけじゃ無理があったか。これじゃ時間がねぇ………」
「そっか。じゃあ、早く止めないとね」
ホロキャスターから音が漏れていたのか、すんなり納得しているのが約1名。
「なんだ? 俺に肩入れするのか? 信用できなんじゃなかったか?」
「それはその格好の奴らならの話じゃん。中身がヒキガヤなら、まあ、信用くらいはしてあげなくもないかなーって」
「都合のいい奴」
「でも時間ないんでしょ?」
うっ………、こいつマジもんの素で言ってるから手に負えねぇんだけど。
もう少し魔王みたいな腹の黒さを見せてくれてもいいものを。
「そうだな。それにあっちの三鳥もどうにかしねぇと。…………スナッチマシンって今でも持ってるのか?」
「あるよ。あった方が便利じゃん」
左腕を見せて手をひらひらさせてくる。
「人のポケモンを奪えるやつだぞ?」
「ヒキガヤも持ってったでしょ?」
「はあ………なら、オリモトは三鳥を。俺はルギアをやる」
「それアグリー! 正直あたしらじゃルギアは相手にできないもん。チカ、ニョロトノたちを預かってて!」
オリモトが乗ってきた。
まあ、ルギアを相手取るのは嫌だもんな。俺だって嫌だもん。
「預かっててって、どうする気よ」
「サポートは任せたよ!」
「ちょ、人の話を最後まで聞きなさいよ!」
かわいそうに。
自由奔放なオリモトに振り回されちゃって。
俺もあれが俺だけに向けられてるものだとばかり思い込んでたからな。無自覚ほど危険なものはないな。
「ミミロップ、おんがえし! トゲキッス、サイコショック! クロバット、アクロバット! ニョロボン、ハイドロポンプ!」
「Zよ、テクスチャー2! エーフィ、超念力! ダイノーズ、パワージェム! ギルガルド、キングシールド! そしてロトムよ! 今こそ用意したその姿の力を撃ち出すのだ! ハイドロポンプ!」
空ではザイモクザを中心にユイとトツカとトベとエビナさんの五人で三鳥の相手をしている。だが、まあ見るからに空を知らない女子二人がやられまくっている。落ちてこないだけマシか。ポケモンたちが優秀なんだな。ユイなんかウインディに振り回されてるし。トレーナーよりポケモンの方が性能が上だからな。それでも気に入られるんだから、案外大物なのかもしれない。
ま、あそこにオリモトが加われば何とかなるか。なるといいな……………。
「ボスゴドラ、ヘルガー。お前らも手伝ってやれ」
「ゴラ!」
「ヘルゥ!」
ボスゴドラもボールから出すと、すぐにルギアに狙いを定めてロックブラストを撃ち出した。その岩を使ってヘルガーは三鳥の元へと駆け上がって行く。
「オンバーン、ばくおんぱ! マグマラシ、かえんほうしゃ!」
「全員ポケモンは全て出してるみたいだが、戦力は見るからに、だな」
ミウラはハヤマの相手に手こずってるし(六対二の戦力差があっても、あのリザードンが悉く潰してしまっているし、それだけメガシンカは大きいってことなのだろう)、三鳥相手には攻撃が入ったりするもののすぐに反撃に出られ、躱すのが精一杯になってきている。
そして、ルギアを相手にしている女子三人。基本的にエスパータイプにサポートをさせて迫っているが、あの巨体をどうにかできるわけでもないようだ。何度攻撃しても効いていない。
リザードンをボールから出して、その背中に跨った。
「お前もメガシンカだ」
二つ目のキーストーンとリザードンのメガストーンとが結び合い、メガシンカを遂げた。二回目の二体連続のメガシンカができたってことは、キーストーンの数だけできるってことでいいみたいだな。
「来なさい、フォレトス! あなただけに辛い思いはさせないわ!」
「トスッ!」
「ユキノさん!?」
「ユキノ先輩?!」
そうこうしている間に、ルギアが口を大きく開いた。
エアロブラストか。
狙いはクレセリアからフォレトスに飛び移り、ルギアの口元に突っ込んでいくユキノ。
「ニョロトノ! 止めて!」
だが、行き先を阻むようにニョロトノが飛んで出てきた。サポートってこっちもなのね。気が効く。
というかあいつの意図をすぐに理解できてしまうってなんて人なんだ………。
「構わずやりなさい! だいばくはつ!」
フォレトスはニョロトノに体の噴射口を押さえつけられたまま、爆発しようとするも。
「えっ? 不発………?」
なるほどな。これがトツカの言っていたことか。
だいばくはつをフォレトスに使わせるのに、自分も一緒に逝く気でいたのだろう。不発に終わったことに素っ頓狂な声が漏れ出ている。
「ルゥゥゥギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
隙だらけなユキノに目掛けて咆哮が走った。
「ジュカイン、ハードプラント」
無防備なユキノを取り囲むように太い根が地面を穿ち這い上がってくる。その根はそのままルギアの咆哮の中を駆け抜け、あろうことか口を塞いだ。
「リザードン」
「シャアッ」
「えっ?」
コマチの上を飛びながら突風に煽られて吹っ飛んだユキノの回収に向かった。
「おっと」
何とかキャッチしたものの、なにこれ。デジャブ?
夢で見たのと同じ格好で抱きとめちゃったんだけど。
それとフォレトスはニョロトノに回収されていた。
「はあ………、ったく、ド素人が」
「っ!? あ、あなた………まさか………………」
「すまん、遅くなった」
「………バカ」
ぎゅっと服の袖を握ってきた。こいつはあの時のことを今でも覚えてるんだな。
「お前さ、ハヤマを解放してもそこからあいつらをどうするつもりだったんだ?」
「……………」
ま、言いたくはないだろうな。失敗に終わったことだし。
「ったく、もう少しマシな案を出せっての。おい、コマチ!」
「やっぱりお兄ちゃんだ!」
「俺のリュックは持ってきてるのか?!」
「あ、あるけど………」
なら、これで準備は整った。
後はルギアをおとなしくさせる必要があるが…………、ジュカインももう限界か。
「その中にポケモンの笛じゃない、もう一つの笛があるはずだ。それを出しておいてくれ」
「わ、分かったよ!」
賭けではあるが可能性の高い賭けだ。やってみる価値はある。
これでダメなら力づくでもルギアを落とすしかなくなるが………。
「それと俺たちで今からルギアを引きつけておくから、その間に究極技を使える奴をタイプごとに整列させておいてくれ」
「究極技………」
コマチが深く考え込んでいる間にイロハにも指示を出した。
「イロハ! コマチと俺たちのサポートをしてくれ!」
「えっ? い、今名前で………」
「あ? ああ………言われてみれば。誰かさんが変なこと言い出すからだな。別に俺は悪くない」
「捻デレた?!」
「プテラ、お前はドーブルを回収して、ものまねでブラストバーンを撃ってくれ」
「ラー!」
先に三鳥の方へと飛んでいき、攻撃を仕掛けて隙を作っていく。
「おい、こっちだ!」
「全員、かかれーっ!」
「チッ」
また新しいのが出てきやがった。
こんな時に邪魔するんじゃねぇよ。
「ボスゴドラ、ホルビー、フレア団を落とし穴で封じとけ!」
「ゴラァ!」
「ほっび!」
倒したと言ってもまた来るかもしれないから張り巡らせておこうと思ったが、そう必要はなさそうだ。上手くない夢でも少しでも足しにしようと影から奴が出てきて、黒い穴を作ってフレア団を吸い込んでいた。
「カマクラ、サイコパワーでジュカインをルギアのところに飛ばしてくれ!」
「にゃーお」
なんてふてぶてしい声。
ニャオニクスとは思えないふてぶてしさ。
サイコパワーでルギアの背中にジュカインを飛ばしてくれた。
「かみなりパンチ!」
一発打ち込むがあまり効いていないようだ。
すぐに翼を動かして弾き飛ばされた。
「ボーマンダ! ジュカインを拾ってくれ!」
「マンダ!」
なるほど、やっぱデカイの撃ち込むしかなさそうだな。
究極技の必要性を再確認したところで次の手に移る。
「エンテイ!」
ルギアの背後にいるエンテイに声をかけ、ボーマンダがジュカインを回収する時間を稼がせる。
「…………やっぱりあのルギアおかしいわ」
「そうだな、あのルギアは正常じゃない。しかもあれはフレア団の仕掛けじゃない。シャドーの仕掛けだ」
「どういう………っ!?」
「ああ、そうだ。ルギアはダーク堕ちしている」
「だから黒くて、目がおかしい………!?」
シャドーでようやく合点がいったようだ。ユキノにはルギアのことを話しておけばよかったんだが、いかんせん話す暇なく最終兵器を止めに行ったからな。すっかり忘れてたぜ。
「ど、どうすれば………」
「準備は整えた」
「……………どうしてあなたはいつもいつも私の前を行ってしまうのかしら」
「知るか」
「ちょっとー、こんな時にイチャつくのやめてもらえますー?」
「げっ、イロハ………」
別にイチャついてもいなければ、そんな気も…………うん、ない。ないってばない。
「げっ、てなんですか。ユキノ先輩だけ毎度ずるいですよ」
「ずるいって何がだよ。つか、いつの間に進化したんだよ」
「さっきです」
リザードンの横に並走して飛ぶのはフライゴン。
あのビブラーバが俺の知らない間に進化したらしい。みんな一皮むけていくみたいだな。
「マグマラシ、ダークラッシュ! オンバーン、りゅうのはどう!」
「トロピウス、エアスラッシュ! ニョロトノ、アイスボール! ブラッキー、あくのはどう!」
「クッキー、だいもんじ! マロン、ころがる!」
「ミミロップ、ミラーコート! トゲキッス、マジカルシャイン!」
「ピジョット、ファイアロー、ゴッドバード!」
「オムスター、げんしのちから!」
「全主砲、ってーっ!!」
あっちはあっちで大丈夫そうだ。
「取りあえず、デカイの撃ち込むから焦点合わせを手伝ってくれ」
「分かったわ」
「ユキノ、お前はクレセリアたちで右側から引きつけてくれ。俺は左側からやる」
「クレセリア!」
「イロハ、お前は全体のサポートだ。ルギアの動きを読んで対応してくれ」
「仕方ないですねー。先輩からお願いされちゃ、断れませんもんねー」
ユキノは呼び戻したクレセリアに再び乗り、ルギアの左翼の方に流れていった。
こっちで動けるのはユキメノコとマニューラとギャロップ………あれ? いつの間にギャロップを入れてたんだ? 宙を歩けるからあの後にでも入れ替えたのかね。後はオーダイルとボーマンダだし代わったのはエネコロロか。俺はリザードンとエンテイとジュカイン。イロハがフライゴンにフォレトスにデンリュウとヤドキングか。
「ギャロップ、だいもんじ! ユキメノコ、ふぶき! マニューラ、こおりのつぶて!」
俺も左に流れて右翼を狙いに行く。
「リザードン、かえんほうしゃ! エンテイ、だいもんじ!」
左翼が攻撃されて少しだけバランスを崩したところに炎の塊を撃ち込むと、ルギアが雄叫びをあげた。
「ルゥゥゥギャァァァッッ!!」
「フライゴン、りゅうのいぶき! ヤドキング、トリックルーム! フォレトス、ジャイロボール!」
ルギアが再び口を開いたところに赤と青の光線を打ち込み、咆哮の発射を遅らせてくる。上向いた顎にはジャイロ回転のフォレトスが突っ込み、ルギアに体勢を整わせた。
「ジュカイン、かみなりパンチ!」
「ボーマンダ、ギガインパクト! クレセリア、ムーンフォース!」
「デンリュウ、ヤドキング、でんじほう!」
その隙に次のポケモンたちで一斉に攻撃。
ジュカインはボーマンダからルギアの背中に飛び移り、当のボーマンダは形振り構わずルギアに突っ込み、空中に作り上げたトリックルームを足場にデンリュウとヤドキングがでんじほうを撃ち出してきた。
効果抜群の電気技だが、それでもあまり効果がないようだ。さすが伝説に名を残すポケモン。
「コマチ!」
「準備はできてるよ、お兄ちゃん!」
「んじゃ、奴が口を大きく開いたところを狙ってくれ!」
「あいあいさー!」
「エンテイ!」
究極技の方も準備が整ったようなのでエンテイを呼び戻し、リザードンから飛び移ると、ルギアの背中から羽を奪ってきたジュカインを連れてコマチの元へと向かわせる。
「ルゥゥゥギャァァァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「ゴラァッ!!」
「ほっるぅぅぅぅううううううううっっっ!!」
追加のフレア団がやってきたところからはボズゴドラに投げられた電気を纏ったホルビーが飛んできた。何でもいいけどすごい巻き舌である。
あ、黒いのがフレア団を餌にしてるからか。ちょっとは復活したのね。
「ホルビー!!」
ホルビーの回収に行こうとしたら、トツカに先を越された。
「ハチマン!」
トゲキッスに乗ったトツカが何か投げてきた。
「お、おう」
スナッチマシンか。
俺の言う通りザイモクザは準備しておいてくれたみたいだな。んでそれを渡すように頼まれたってとこか。腕にはしっかりとハイパーボールが嵌められてるし。
「カオリ!」
「いっけぇぇぇぇえええええええええええっ!!」
あっちはすでにスナッチしにかかったようだ。
俺もやらないとな。
早速スナッチマシンを左腕に取り付けていく。
「エンテイ、ルギアを引きつけるぞ!」
命令を出すと無言で頷き、一度ルギアの正面にまで移動してくれた。
「ルゥゥゥギャァァァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
ルギアが大きく口を開けて黒いオーラを取り込み始める。
「全員下がれ!」
黒いエアロブラスト、ダークブラストが来るのだろう。
力を蓄えている今がチャンスか。
「コマチ!」
「あいあいさー! みんなー! ゴーっ!!」
俺の背後から様々な声が飛んできた。
逃げないと邪魔だな。
「エンテイ、上昇!」
後ろ足で空気を蹴り上げると思いっきり上昇を始める。
その下をまず二つの太い根が通り、それを軸にして炎と水が螺旋状に走り去っていった。
ジュカインとドーブルのハードプラント。マフォクシーとプテラのブラストバーン。そしてカメックスとオーダイルのハイドロカノン。
太い根がルギアの黒い両翼を捉え、二色の螺旋がそれぞれ直撃。大きく開いた口にはリザードンのブラストバーンが撃ち込まれた。おかげでダークブラストは不発に終わった。
「うそ………」
だが、それでも。
ルギアは倒れなかった。
「これでも効かないなんて………」
「いいや、まだだ。ゲッコウガ!」
ずっと頭の中で見えていたもう一つの景色。
ルギアの背中にどんどんと近づいていく世界は、奴の位置を知らせているのと同じである。
「コウ、ガッ!」
一度下がって体勢を整え始めたルギアの背中に八枚刃のみずしゅりけんを打ち込み、水でできた二体のギャラドスでハイドロカノンをも撃ち出した。
前と後ろを挟まれ身動きが取れなくなったルギア。これならいけるかもしれない。
「メガニウム、ソーラービーム! エモンガ、でんげきは!」
「フッロォォォ!」
二体のギャラドスの間を水のベールに包まれたフローゼルがポケモンを乗せてこちらに向かってくる。
『マスター!』
「来たか。あれを使えるんだよな? 一発デカイの頼むぞ、ディアンシー!」
『はい、マスター!』
「メガシンカ!」
メガシンカに絆がどうとか、そんなこと知ったことか。ディアンシーが俺になら自分を扱いきれると言っていたんだ。メガシンカできるって話だし、全力といったらこれのことしかない。だから俺は命令を出すだけ。
「あ、新しいポケモン?!」
「な、なにっ?!」
三体目のメガシンカ。
そもそも俺はすでにキーストーンを使い切っている。だが、一つだけまだ試していないものがある。
俺が寝ている間に検査に回されたらしい俺の身体。腹の中からキーストーンと思われる波長が取れたんだそうだ。
可能性があるなら全て試さないとな。
「あれは、メガシンカ………」
「どこにキーストーンが?!」
思った通り、俺の腹が光り出したかと思うと、ディアンシーの姿が変わり始めた。
下半身が白いドレスのように伸び、まばゆいピンク色の光を発している。
「ダイヤストーム!」
『はぁぁぁああああああああああああああああああああああっっっ!!!』
手帳に書いてあったディアンシーの技。
聞いたこともなければ見たこともない。
おそらく名前からしてディアンシーだけが使える技なのだろう。
両手の間から渦巻くエネルギーを溜め、膨張させていき、いくつものダイヤモンドの弾丸に作り変えた。
それを突風に乗せて黒いルギアに撃ち込んでいく。
「ルゥゥゥギャァァァッッ!?!」
力なく叫ぶルギアにもう戦う余力は残っていないだろう。
そろそろいくか。
「エンテイ」
エンテイにルギアの元へと向かわせる。
上方から降りていき、ハイパーボールを左手で投げた。
ルギアの頭に開閉スイッチが当たり、そのまま開いてルギアを取り込んでいく。
よかった、ちゃんと当たった。外したら絶対泣いたからな。
「ハヤト!?」
弾けて俺の手元に戻ってきたハイパーボールはファンファン言いながら揺れていたが、離れたところでハヤマが倒れるのと同時にカチッと開閉スイッチがしまった。
スナッチ完了。
これで奴を安全に呼び出せるな。
…………ちゃんと来るよね?
「ハヤト!? しっかりして?!」
ミウラに抱きかかえられたハヤマは意識がないようだ。
まあ、伝説のポケモンを四体も自分のポケモンにして、メガシンカとダーク化、それとカラマネロの催眠術も抜けきってないんだから、ぶっ倒れて当然だわな。
「終わった………のね………」
「まだだよ」
あ、戻ってきた。
三鳥捕まえといてなんて涼しい顔してんだよ。
「あ、あなた………たちは………?」
「ルギアのスナッチには成功したけど、まだリライブを行っていない。それが済まなきゃ、今回のことは終わりとは言えない」
「スナッチ………?」
「おい、オリモト。ユキノに言っても専門用語だから分からんと思うぞ」
困惑しているユキノに助け舟を出してやった。
「いやー、おめっとさん。スナッチできたみたいだね」
「や、お前には言われたくないわ。なんだよ、結局三鳥を同時にスナッチしやがって。しかも一発って………」
「ベテランを舐めてもらっちゃ困るよ、ワトソン君」
「誰がワトソンだよ」
「あ、あの………そちらの方たちは………」
集まってきたイロハが再度オリモトたちの紹介を促してくる。
「やーやー、どうもどうも。以前ヒキガヤに告白されたオリモトカオリっていいまーす!」
「おい、やめろ。それ絶対悪意を持っての自己紹介だろ。蒸し返すなよ、そんな過去の話。ねえ、ちょっと? マジでやめてもらえます? お願いします、マジで勘弁してください! ってか、俺はこんなことしてる場合じゃねぇんだよ。さっさと終わらせてセキタイに行かねぇと」
「うわっ、お兄ちゃんがイロハさん並みの早口で長文を言い切った!?」
思わずスライディング土下座でもしちゃいそうな勢いになってしまったが、何とか抑えた。こんなところでさらに羞恥を晒してたまるか。
「「「「こここ、告白?!」」」」
あーあー、四人が口ついてきちゃったじゃん。
だから今そんなこと言ってる場合じゃないんだって。
「と、とにかく、ルギアを元に戻してフレア団の方も片付けないとーーー」
「お兄ちゃん?!」
「ハッチー?!」
「先輩?!」
「ハチマン?」
うん、なんかダメそう。
このまま最終兵器起動とともに俺の過去も浄化してくれないかなー、なんて思っちゃったり…………。
「たらし………」
うっ………。
それ、そういうの、一番言われたくない言葉なんですが………。
そもそも俺がどこぞの主人公たちみたいなん展開になってること自体が間違いなんだから。
ねえ、その目怖いからやめてね、サガミさんや。
まあ、取り敢えず。みんな無事なようで何よりだな。俺はこの後無事で終わりそうにないけど。
「あいつの読み通り占拠しておいて正解だったな」
「そうですね。一時はどうなるかと思いましたけど、中央を設けておいて正解でした」
「さて、ジムリーダーや四天王たちが上手く動いてくれたおかげで、全て終わったようだし、我々も戻るとしよう」
「そうですね。みんな大丈夫かなー」
「心配ないだろう。あいつが何とかしているはずだ。あいつはそういう男だからな」
「ですね」
取り敢えず、一週間に一話は確実に。
頑張って金曜にも投稿できるようにしたいですね。