ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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金曜日は急遽お休みさせていただき申し訳ありません。
話の型はできていたのですが、ところどころ気に入らず纏まらなかったので、お休みさせていただきました。
それと四月からは週一投稿になることもあります。ご了承ください。
だから本当は三月で終わらせたかったんですけどね。


おかげさまでシャドー編を完結させることができました。
まだお読みでない方は是非、立ち寄っていってください。
これからのキーマンがいます。


77話

 眩しい光が差し込んできたことで目が覚めた。

 ……………どこよ、ここ。

 

「ゴラ……」

「ボスゴドラ………。群れに帰ってなかったのか」

 

 俺を放って群れに帰ればよかったものを。

 まあ、おかげで守られてたわけだけど。

 

「…………全く、自分が嫌になるな」

 

 過去も未来も。

 俺はいつも通り面倒ごとに巻き込まれている。

 裏社会に浸かるようになったのもシャドーが元凶だし、未来からは後始末に来ることになるみたいだし。

 はあ…………、今から憂鬱になるな。

 

「ヘルガー、ねぇ………」

 

 思い出したからよかったものの、思い出さなかったらどうしてたんだろうね。

 一応、俺のポケモンだったわけだし、かつての主人に忘れられてるとか、ヘルガーからしたら悲しすぎるだろ。俺だったらすぐに噛みついてやるな。

 ……………うわっ、マジで思い出してよかった。

 

「他にも俺のボールに収まったポケモンがいたのには驚きだが、どうやらダークライは今回の騒動を解決するヒントを持ってきてくれたみたいだな」

 

 シャドーでの約八ヶ月の記憶しか戻ってきてないけど。それでも全部奪われているよりは断然いい。

 そして今回の鍵はセレビィだ。

 時渡りの能力の持ち主として有名ではあるが、奴にはもう一つの力がある。

 それがダークポケモンの正常化させる、通称リライブという能力。過去に俺はその力のおかげでリザードンとヘルガー、それにエンテイとスイクンをダークオーラから解き放ったようだ。

 過去に実証があるのだから今回のルギアも該当するだろう。

 だが、どうやって呼び出そうか。

 笛はリュックの中にあるはず。そのリュックは恐らくコマチたちが持っているだろう。となるとあいつらと合流しなければならないが今頃どうしているやら。

 それに昔の俺がセレビィを呼べたのは正規のルートで通ったからであるが、今回はここにあの祠はない。果たして、それがどう影響してくるのか。

 

「ーーマン」

 

 ウバメの森ですらセレビィの祠があった。しかもその祠からは時の間にいけるともされている。

 そういうセレビィに関連する祠が何もないここで、果たして本当に来てくれるのだろうか。来てくれなければ、あのダークルギアを俺が…………。

 

「ハチマン!」

「うおっ?! な、なんだ?!」

 

 いきなり名前を呼ばれたので、声のした方を見るが、誰もいなかった。キョロキョロと見渡しても誰もいない。

 え、なに? めっちゃ怖いんだけど。

 

「こっち。上」

 

 上の方から声がしたので、さらに上を見ると空に穴が空いていた。

 えっ? もっと怖い現象が起きてるんですけど?!

 何がどうなってんの?

 

「ハチマン、これ………。もらったからあげる」

 

 ひょこっと顔を出した見覚えのある少女が、いきなり何かを放り出してきた。

 放り出されたそれはひらひらと宙を舞い、風に煽られながら落ちてくる。

 

「羽? ………七色の羽とか珍しい………っ!?」

 

 七色の羽、だと?

 七色、つまり虹色。

 虹色の羽。それってまさか…………!

 

「ホウオウに会えたよ。エンテイもやってきて、ライコウには会えなかったけど、スイクンとエンテイのおかげでホウオウに出会えた」

「ルミ………、お前って奴は…………」

 

 ツルミルミ。

 二週間ほど前、カロスにやってきたスクール生の一人。ただ彼女は他のスクール生徒とは違い、連れているポケモンがスイクンだった。スイクンといえば、伝説のポケモンであり、俺がダークオーラから解放したポケモンである。まさかここでも繋がりがあったのには驚きだ。

 そんなポケモンがどうして彼女のところにいるのかといえば、スイクンがルミに何かを感じ取ったからである。ポケモンも時にはトレーナーを選ぶ。それがルミに働いたというわけだ。

 ったく、なんてタイミングのいい奴なんだ。やはり強運の持ち主というわけか。

 虹色の羽があれば可能性は出てきた。いや、虹色の羽だけではどうこうできないが、これから相手にしようとしているのはルギアである。ダーク化してはいるが、奴はホウオウとは対となるポケモン。そして、虹色の羽と対となる銀色の羽の持ち主でもある。

 この二つの羽があれば、いけるかもしれない。

 

「あ、それとこっちはサプライズプレゼントね」

 

 彼女がそう言ったかと思うと空に空いた穴が急にでかくなった。そこから影が飛び出してくる。俺の頭上を越え、背後に着地したようだ。

 

「お前ら………」

 

 振り返るとそこにはかつて俺のポケモンとなったエンテイとヘルガーがいた。

 

「ルミ、これはどういうことだ?」

「今のスイクンのトレーナーは私。だけど、エンテイとヘルガーは誰のポケモンでもないでしょ? だから連れて行って。ハチマンなら使いこなせるでしょ?」

「ほんとサプライズすぎんだろ。ありがたく使わせてもらう」

 

 この上ないサプライズだわ。

 まさかここで戦力強化とか、全く予期してなかったからな。

 ルミもホウオウに会うのには大変だったろうに、何も言わずに羽を寄越してくるし。これはマジで今回で終わらせないとな。

 

「それとな、ルミルミ」

「なに?」

「エンテイもヘルガーもかつては俺のポケモンだ」

「………やっぱり」

 

 驚いた、という感じにはならなかった。

 

「なんだ、気付いてたのか?」

「んーん、そんな気がしただけ」

 

 どうやらエンテイとヘルガーから何か感じ取っていたらしい。さすがスイクンに選ばれるだけのことはある。これから開花するであろうルミのトレーナーとしての力がどれほどのものか、今から楽しみだな。

 

「ハチマン、私はこっちに残るよ。ほんとは手伝いたいけど、ハチマンが何に巻き込まれてるのかも知らないし、却って足手まといにしかならないから。だから私ができるのはここまでだよ」

「………そう、だな。その方がいい。トレーナーとしての素質は十分だけど、さすがにこういう裏の社会にはそっちの経験の方が必要だ。何も知らないなら何も知らない方がいい」

「うん…………。ねぇ、次会った時にさ、またバトルしてよ」

 

 ちょっと残念そうな顔になるが、それ以上の変化はない。

 すぐに表情も変えてバトルの予約までしてくるし。

 

「ああ、それくらいならいいぞ。いつでも受けて立ってやる」

 

 ま、でもそれくらいならいつでも大歓迎だ。

 お礼も兼ねて、今度会った時には全力でバトルしてやろう。

 

「約束だよ」

「ああ、約束だ。………と、約束ついでに俺のお願いも聞いてくれねぇか?」

「なに?」

「俺、財布も何も持ってない状態なんだわ。モンスターボールくれね?」

 

 いやね? 戦力強化は嬉しいんだけどさ、俺何も持ってないのよ。財布ないからボールすら買えないし。

 

「………ぷ、くくくっ」

「笑うなよ………」

「だって、かっこいいセリフが全部台無しなんだもん」

「そりゃ悪うございました」

 

 自分でも分かってるさ。そもそもかっこいいセリフ自体が似合わないんだし。

 

「いくつ?」

「………三つばかり」

「ちゃんと約束守ってよ」

「ああ、まあ、忘れるまでは覚えておくわ」

 

 この一ヶ月の記憶まで食われたらなー。マジで忘れるからなー。一応、手帳には書き残してあるけど。

 

「なにそれ。はい、ボール」

「すまんね」

 

 カバンから出したモンスターボールを三つ渡してきた。

 いや、ほんとすんません。助かります。

 

「………頑張ってね、最強のリザードン使いさん」

 

 それだけ言うと穴は消えた。

 最後にちらっと奥の方でスイクンが頭を下げてきたのが見えた。それともう一体、ポケモンがいた気がするが、あの不思議な穴はそいつの能力だったのだろうか。

 

「まさかルミにまで助けられることになるとは」

 

 だが、これで方法は見えてきた。

 後はあいつらと合流してハヤマを誘き出し、ルギアをリライブする。

 

「……………だから、そもそもここはどこで、あいつらは今、どこにいるんだって話だ」

 

 結局そこが分からなければ、動きようもなくね?

 

「ほっび」

 

 草むらの中からひょっこりポケモンが出てきた。

 名前はホルビー。カロス地方に生息する耳が器用なポケモンだ。

 

「ん?」

 

 よく見ると特徴的な長い耳には何やら挟まっている。

 人のポケモンか?

 ホルビーといえば近しいところでトツカが連れているが……………えっ? トツカ?

 

「なあ、ホルビー。その耳のもの借りてもいいか?」

「ほっび」

 

 そう言うと素直に差し出してきた。

 ………これ、ホロキャスターだな。

 いくら野生のポケモンでも、こうもあっさり自分のものを差し出したりはしないだろう。はっきり言って人馴れしすぎだ。ということはやはり…………。

 

「ほっびほっび」

 

 受け取ると俺の肩までよじ登ってきて、操作を促してくる。

 えっと、こっちを開くのか? これって録画の再生じゃねぇか。あいつらに繋げるとかって話じゃないのかよ。

 

「まあいいか。取りあえず見ろってことなんだろうし」

 

 言われるがままに動画を再生する。

 

『ーーーえず、ハチマンは生きてると見ていいわ。いくら記憶がなくなっていたとしても彼がそう簡単に死ぬような男じゃないもの』

『自信満々だっ?!』

 

 うん、まずはユイもユキノも落ち着いてるな。

 取り乱してたらどうしようかと思ったわ。

 

『我もそれには同意である! ハチマンが必ずや我らの元へ帰ってくるだろう! 我もその時のために準備している!』

『そんでー? あーしらはどうするっての?』

『本当は姉さんやハチマンをここまでさせたフレア団をこの手で潰したいところだけれど。ハチマンが言っていたようにハヤマ君を何とかしましょう』

『何とかって、何か策でもあるわけ? ないっしょ。ヒキオでもどうしようもなかったんだし』

『………そうね、でも誘き出すことくらいは可能かもしれないわ』

『そ、そんなことできるんですかっ?!』

 

 相変わらず二人は仲がよろしくないようだし、イロハもいつも通りだし。

 

『単なる私の推測よ。だけど、彼は来るわ』

『どうしてそう言いきれるし』

『彼の狙いは恐らくハチマンと私だからよ』

『はっ? なにそれ、嫌味?』

 

 え? そうなの?

 俺って因縁とかつけられちゃってたりしてたのん?

 

『そう受け取ってもらっても構わないのだけれど。………スクールにいた頃、私とハヤマ君が毎日バトルしてたのは覚えてるかしら?』

 

 ごめんなさい。全て忘れました。

 あの二人、そんなことしてたんだ。毎日大変だったんだな。

 

『それがなに?』

『姉さんからの言いつけだったのだけれど、彼は一度も嫌がらなかったわ。その頃の私も姉さんが絶対だったから素直に従ってた。でも私はあることを機にそれをやめたわ』

『ゆきのん、それって………』

『ええ、オーダイルの暴走よ。あの時、初めて追いかけたいと思う背中を見たわ。だから姉さんの言いつけは捨てたの』

 

 動画を一時停止。

 そして手帳を取り出して、えー、と? オーダイルの暴走………ね。おーおー、あったあった。これだこれ。えーっと、なになに? ユキノのオーダイルがげきりゅうに呑まれて暴走。それを二度に渡り、俺が止めたと。三度目にはげきりゅうをコントロールできるようにしたのか………。

 これ、スクールの頃の話なんだよな?

 少なくとも歳が二桁になったばかりのぺーぺーの話だろ?

 俺って一体どんなチート技を使ったんだ?

 一桁の時だったらもう自分が怖くなっッちゃうよ?

 うん、まあ、取りあえず概要は分かったので、再生っと。

 

『……………嫉妬、ですか?』

『分からないわ。でも恐らく近いでしょうね。ハヤマ君は急に態度を変えた私とその原因である彼に何かしらの感情を抱くようにはなったと思うわ』

 

 イロハの推測にユキノは首を横に振って返した。

 だが少なからず感情が挟まっていることまでは否定しない。

 

『ハヤトに限ってありえないっしょ。ハヤトはそんな』

 

 この一ヶ月の間にハヤマと何度か会っているが…………、言われてみれば俺を敵視してるようなところがなくもないな。表に出さないだけで、やはり内側は人間そのものなのだろう。

 

『そんな感情を抱かない、かしら? 全く分かってないわね。そうやって彼を絶対的なものとしているから上手くいかないのよ。私もその一人だもの。彼は私がどんなに冷たい態度を取っていても怒らない、悔しがらない、いつも通りの平然とした態度を取っているってずっと思ってたもの。そのせいでこんな状態になってしまったと言ってもいいわ。だから私が言えた義理じゃないけれど………、ハヤマ君も人間よ? 絶対なんてものはないわ。どんなに優しくても人間なのよ』

『〜〜ッ』

 

 あーあ、言われちゃったよ。

 もう何も言い返せないって顔になってるぞ。

 

『だから私が囮になるわ。場所は昨日と同じ12番道路。場所の特定ができない以上、そこら周辺を張る方がいいと思うの』

 

 12番道路。

 なるほど、だから12番道路なのか。

 そこに俺も向かえば、全てが整うってことか。

 っていうかこの動画、昨日のものなのね。

 

『そ、そんなの危険すぎるよ!』

『そ、そうですよ! 先輩なしで今のハヤマ先輩を相手にするなんて無茶ですよ!』

『ハチマンも姉さんも自分の出せる限界までの力を出してくれたわ。私もそれくらいしなければ、二人に顔を向けられないもの』

 

 ユイやイロハの言葉に顔を背けるユキノ。

 

『………ユキノさん、一つ確認しておきますけど、あっちは伝説のポケモンが四体もいるんですよ? もし本当に来たら勝てるんですか? お兄ちゃんがいても取り逃がしたのに』

 

 そこにコマチが割って入った。

 さすが俺の妹。コミュ力の塊。

 

『………狙うのは、ハヤマ君よ。ハヤマ君を引き摺り下ろして、あの変なスーツから出すのよ。そうすれば、伝説のポケモンたちも鎮静できるはず。そして、それをやるのはミウラさん、あなたよ』

『へっ? あーしが?』

 

 あーしさん、二度目のドッキリ。

 声が裏返って顔が真っ赤である。

 

『意外そうな顔ね。でもあなたが一番の適任者よ。ずっと近くにいて、どんなに振り向いてもらえなくとも彼のこと好きなのでしょう?』

『う、あ………』

 

 あーあーあー、その辺にしてやれよ。

 茹で上がってるぞ。

 

『そろそろ彼も昔の因縁から解放されるべきだわ。私から卒業してもらわないと。そして私もね。ちゃんとけじめをつけないと。…………ごめんなさい、こんな私たちの私情の絡んだことになってしまって。でも、それでもみんな力を貸してくれないかしら』

 

 けじめ、ね。

 俺が撒いた種だってんなら、俺が回収する必要があるんだよな。何にも覚えていないけど。

 

『わ、分かったよ、ゆきのん! あたしも何ができるか分かんないけど、頑張るから!』

 

 空回りしないでね。

 

『まあ、お兄ちゃんが原因でもあるみたいですしねー。終わったらお兄ちゃんに文句をたくさん言いましょう!』

 

 穏便にね。

 

『わ、私も? 先輩には? ユキノ先輩の背中を守ってやってくれ、なんて言われちゃいましたし? それにハヤマ先輩がいつまでもあんな状態なのは嫌ですし? が、頑張っちゃおうかなー』

 

 おーい、いつものあざとさはどこへ行ったんだ?

 

『あーしらは別にあんたのことなんてどうでもいいから。ただ、ハヤトを元に戻せるってんなら、その話乗ってやるし』

 

 こっちはこっちで素直じゃねぇな。

 

『ユミコ、やばいわー。マジ、かっこいいわー』

 

 気楽な奴め。

 

『ユミコが行くなら私も手伝うよー。早くハヤ×ハチのカップリングを見たいし。愚腐腐腐』

 

 腐った奴め。

 

『うんうん、やっぱりユキノシタさんはそう言うよね。だから僕も手札を用意してるんだ。大丈夫、絶対何とかなるよ』

 

 ……………………。

 やられたっ!?

 まさか、トツカに全部仕組まれてた?!

 いや、予防線を張ってたってことなんだろうけど、なんかトツカの手のひらで踊らされてる気分だわ。

 ……………それも悪くないとか思っちゃう俺って一体………。

 や、でも仕方ないだろ。こんなドアップでニヤニヤした笑顔を見せられたらね。カメラ目線とか絶対俺の心を鷲掴みしようとしてる。してないか。

 

『みんな…………。明日で全てを終わらせましょう』

 

 動画はここで終わった。

 意気込んではいるが、すっげぇ心配だなー。

 だって、あんな過去があるんだしなー。

 うーん、ポンコツのんが出ませんように。

 

「ほっび」

 

 えっ?

 もう一個あんの?

 はあ………。

 ホルビーに言われて、その下にあった動画も再生してみた。

 

『ユキノシタさん』

 

 この声はトツカ?

 というか今度は真っ暗なんだけど。まさかの音声だけなのん?

 

『あら、二人とも。さっきの作戦に何か不備でもあったかしら?』

『いや、そういうわけじゃないんだけど、さ。ユキノシタさん、まだ何か隠してるよね』

『………否定はしないわ。でもこれは私にできる最大限のことだもの』

『………我が相棒が心を開き始めた者がいなくなるというのは、我としては残念である』

『……………これは私が原因なのよ。私が全てを懸けて終わらせるのが当然でしょ』

『……………行っ、ちゃったね………』

『うむ、やはり我らでは止めるのは無理そうであるな。皆の手前、口に出すのを憚られたが』

『あれ、死ぬのも厭わない、って感じだよね』

『うむ。ハチマンの背中をずっと見てきた影響なのか、元来彼女の考え方なのか。あやつと考え方が似ている』

 

 いやいや。

 俺は端から死ぬつもりなんてないから。何をするにしても死ぬようなことはしないから。

 だけど、まあ、やはりというか。

 ヤバイな……………。

 このままだと、あいつは絶対に何かする。どうするつもりかは見当もつかないが、最終手段を使うようなことになればユキノは死も厭わないのだろう。

 俺のせい、だよな………………。

 俺があの時、ハヤマを逃さなかったら、こんなことにはなっていないんだ。俺がハヤマ本人を捉えることも視野に入れていれば、ユキノが自分を賭ける博打に出なくてもすんだんだ。

 だったらもう、決まったも同然だ。

 これから行く12番道路が最終決戦の場だってんなら、今度こそ絶対に引っ捕らえてやる。ユキノもユイもコマチもイロハも、全員あんな奴に奪われてたまるかよ。

 決意が固まったところでズドーン!?! と激震が走った。振動でこけた。めっちゃ手が痛い。

 どうやら南の方からは激しい戦いが始まったようだ。

 それなら俺も俺の仕事をするとしますかね。

 

「久し振りのところ悪いが、また力を借りるぞ」

 

 無言で二体は頷いてくれた。

 ヘルガーもずっとエンテイと共に行動してたんだな。よくついて行けたもんだ。

 

「取りあえず、ボスゴドラ。お前はこれからどうする?」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 エンテイに跨り、颯爽と駆け抜ける。

 ボスゴドラも無事俺についてくることとなり、ヘルガー共々ボールに収めた。

 んで、今は12番道路に向けて爆走中。

 

『マスター。聞こえますか、マスター』

 

 えっ?

 何?

 今度はどこから声がすんの?

 と思ったら、テレパシーだった。急に視界が変わり、目の前には見たことのないポケモン? がいて語りかけている。

 

『コウガ』

 

 ああ、そういうことね。

 久しぶりに視界を共有してるのね。必要なくなったから使ってなかったけど、ちゃんとできることに驚きだわ。

 

「えっと………、お前がディアンシー、でいいのか?」

『コウガ、コウガコウガ』

『はい、マスター』

 

 通訳ご苦労さん。

 

『記憶がないことはお聞きしましたわ。わたくしのことを忘れられてしまったのは残念ですが、それも世界を救うためだとお聞きしました。やはりマスターはマスターなのですね』

「その………マスターってのは………」

 

 マスターなんて呼ばれたことないから、なんか恥ずかしいんだけど。

 えっと、ちょっとお嬢様気質な子ってことでいいのかね。

 

『コウ、コウガ』

『マスターはマスターです』

「さ、さいですか………」

 

 もう、呼び方は何でもいいや。諦めよう。

 

「単刀直入に言う。力を貸してくれ」

『コウコウガ。コウガコウガ』

『………カロスに来てからわたくしはあまり人と接することもありませんでしたし、いるのはわたくしを狙う者たちだけでした。わたくしも寂しくしていたところです。そんな時にマスターは来てくださいました。あの大雨の日、わたくしも天候の異常をこの目にし、そしてマスターの姿も見つけました。本当は手伝いたかったのですけれど、すくんでしまって………。でも、今度こそわたくしはマスターの役に立ちたいです。ホウエン地方にいた時に偶然出会ったマスターに優しくされた恩を返したいです。わたくしのこと、使ってくださいますか?』

 

 なんだ、お呼びじゃないとかって言われたらどうしようか迷ったが、まさか寂しかったと言われるとは。

 世の中、よく分からんもんだな。

 

「もちろんだ」

『コウガ』

『ふふっ、マスターならわたくしの力を最大限に発揮することができるのでしょうね。では、後ほどお会いしましょう』

「ああ」

 

 視界の端にメガニウムの上で項垂れている誰かさんがいたが、まあちゃんと会えたみたいだし、許してやろう。

 元の視界に戻ると道無き道を行くエンテイの後ろ頭が映った。

 

「どうやらあっちも上手くいったみたいだ」

 

 これで手札は十二分に揃えられたはずだ。

 エンテイたちが予定外だったために大幅に戦力が強化され、ルギアのダーク化を解くヒントも得た。道具も揃っている。

 今のハヤマのポケモンも全て分かっている。あっちには更なる手札はないだろう。

 

「ユキノの話じゃ、ハヤマをまずは伝説ポケモンから引き剥がす予定らしいが………」

 

 ただ、あいつはフレア団の駒。

 つまり、奴一人が来るとも限らない。

 あいつらはそれを考慮しているのだろうか。

 

「言えるわけないか………」

 

 言ったらそれこそ反対されるもんな。

 あいつらも気づいているかもしれないが、今のユキノには言えなかったのかもしれない。お互いに言い出せなかったのかもな。

 でも言っておかないと後々酷い目に逢うかもしれないってのも分かってるのかね。

 

「ッッ! 見えた!」

 

 ようやく、12番道路が見えてきた。

 なんで分かるかって?

 んなもん、天気がぐちゃぐちゃになってるからだ。

 ユキノの読み通り、ハヤマはやってきて、戦闘中のようだ。

 一体、どんな手で誘き出したんだか………。

 

「っ?!」

「ユキノさん?!」

「クレセリア、ムーンフォース!」

 

 黒いルギアに向かっていくクレセリアに乗ったユキノ。

 だが、俺はその場に出ることはなかった。

 足止めが入ったのだ。

 

「エンテイ、だいもんじ」

 

 コロトックのシザークロス。

 確かカロスには生息していなかったはず。あんまり詳しくは覚えてないが野生とは考えにくい。

 

「ニョロトノ、ハイドロポンプ!」

 

 くっ、今度は横から攻撃してきやがった。

 一体なんだってんだ?

 フレア団なのか?

 

「悪いけど、そのエンテイ、返してもらうから」

 

 返してもらう?

 はっ? どういうことだ?

 

「っ!?」

 

 ニョロトノと焦げたコロトックが警戒を強める中、二人の少女が現れた。

 …………俺はこの内の一人を知っている。

 成長して大人びた印象になっているが、声は変わらないし、何よりこの戦闘モードに纏う空気。記憶がなくても何か危険を感じたことだろう。

 オリモトカオリ。

 俺がシャドーにいた時のお隣さん。そして、俺が人生初の告白をしてしまった少女がそこにいた。


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