ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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72話

 現実に戻ると外はすっかり日が傾いていた。

 

「えっ? 夕方?」

 

 マジで?

 えっ、あの空間ってそんなに時間の進み具合が違うのん?

 

「なんてこった。初めての試みの代償が時間でくるとか………」

 

 今は時間が惜しいってのに。

 

「しかも誰もいないし………」

 

 見渡す限り、部屋の中には誰もいない。

 まあ、恐らく六時間は経ってるんだし、逆に待ってられても怖いわな。

 

「お前の記憶、少し覗かせてもらったけど。お前はアサメの住民を全員解放したんだ。こんなことになってるなんてほとんどの人間が知らないだろうが、それでもお前は守れたんだ。ちゃんとジムリーダーとしての責務は果たした。今はゆっくり休んどけ」

 

 帰り際にダークライによりコルニの記憶を覗かされた。あの長い道のりは歩いてる時間で俺にコルニの記憶を見せるためのものだったのかもしれないな。

 

「さて、戻りますかね」

 

 コルニの病室を出て取りあえずロビーに向かう。他にどこに行けばいいのかよく分からんし、誰か一人くらいはいるよね?

 それにしてもあれが炎の女の正体なのか。確か彼女の名はパキラと言ったか?

 アナウンサーをやってる傍ら、四天王としても居座るほのおタイプのエキスパート。これが炎の女と言われる所以か。

 

「で、あの白い服の方がチャンピオンね」

 

 ショートカットのコルニたちと一緒に逃亡していたチャンピオンの女性。どうやら彼女は四天王のパキラの動きにずっと気を張ってたらしい。しかも博士の弟子にも当たるみたいだし。まあ、このカロスでメガシンカが使えなければチャンピオンの道も遠いよな。

 

「あ、ヒッキー。戻ってこれたんだ」

「死んでねぇよ」

 

 ユイガハマか。

 他には誰も顔見知りは残ってないのかね………。

 

「それでどうだったの?」

 

 どう、とは聞くまでもなくコルニのことだろう。

 

「もうしばらく寝てると思うぞ」

「それじゃ会えたんだ」

「まあな。ただ、やっぱこういうことには慣れてないみたいでな。あいつ単純だから耐えられなかったみたいだ」

「そっか」

「だからまあ、そのまま休んでろって言ってきた」

「ヒッキーらしいね。…………何時間経っても戻ってこないし心配したんだから」

 

 目線を逸らして俯くと俺の服の袖を摘んできた。

 

「それについては俺も驚いてる。まさか人の夢に入り込むだけでこんな時間差ができるなんて思わなかったわ」

「知らなかったの?!」

 

 くわっと見上げた彼女の顔はガチで驚いている様子である。

 

「やる前に言っただろ。閃いたって。代償とか何も考えてなかったっつの。知ってたら先にやっといて欲しいこととか言ってたわ」

「何して欲しかったの?」

「………………うーん、特に思いつかん」

 

 言われて考えてみたが、そもそも計画がグダグダなためやって欲しいことも特に思いつかなくなっている。

 

「ないんだ?!」

「取りあえず他の奴らは?」

「スルー!? ……ポケモンセンターとかにいると思うよ」

「お前は行かなかったの?」

「ゆきのんが実家に連絡するから待っててって」

 

 指さした方を見るとユキノシタが電話をかけていた。

 すげぇ億劫そうな顔をしている。そんなに電話かけたくないのかよ。実家と何かあったのん?

 

「ここって電話オーケーだっけ?」

「あそこは電話スペースなんだって」

「へー、ちゃんと区画を設けてるんだな」

 

 さすがトツカが評価した病院だけのことはある。設備も柔軟に施されてるみたいだな。

 

「………ねえ、ヒッキー。今夜本当にやるの?」

「あ? やるって?」

「だからその………フレア団を倒しに………」

「ああ、どうやら今日しかないみたいだ。おバカなガハマさんが覚えてるか心配だけど、フレア団はゼルネアスの捕獲に成功したらしい」

 

 今日を逃したらドカンと一発打ち上がりそうだからな。こうしてる間にも打ち上げられる可能性だってあるし。

 つか、もう一体の方は結局どうなったんだろうな。

 コルニの記憶の中じゃ、『大樹の下に繭がある』なんて噂があったらしいが。

 

「ば、バカにすんなし! あたしだってそれくらい覚えてるもん!」

「そうか、それはよかった。成長したなユイガハマ」

 

 ああ、ちょっと感動したら涙が………。

 

「うぅ……、ちっとも嬉しくないよぅ………」

「で、まあ、伝説のポケモンの生体エネルギーが、しかも与える側のゼルネアスを捕獲されたんだったら、今夜あたりに最終兵器が起動するかもしれん。取り敢えず、ゆっくりしてられる時間は皆無だってことだ」

「かいむ? 時間はタイムだよ?」

「やっぱりアホの子は健在だったか」

 

 今度は違う意味で泣けてきた。

 やっぱりアホの子はこのままらしい。

 

「あら、生きてたの」

「生きてるよ、おかげさんで」

 

 開口一番でひどくない?

 さっきはあんなにモジモジ顔を赤くして『お守り』を渡してきたのに。

 

「今実家に姉さんのことを話してみたんだけど、やっぱり何も知らないみたい。ただ一度かけてるみたいで『ユキノちゃんがかけてきたら敵を欺くにはまずは味方からだよって伝えておいて』って言ってたみたいよ。全く………、本当に何がしたいのかしら、あの人は」

 

 似てるようで似てない。

 やっぱりあの恐ろしさまではコピーできないか。

 

「………敵を欺くにはまずは味方から、ね」

 

 要するに今の俺たちはハルノさんの策中にいるってことか。何を考えているのか知らんが、これも妹を守るためなんだろう。

 

「………なに?」

「いや、最後まで怖い人だと思っただけだ」

「そう。ジムリーダーたちにはまだ説明していないけれど。しておいた方がよかったかしら?」

「いや、最初はジムリーダーたちも戦力に入れようかと思ってたけど、ユキノシタさんが何かを狙ってるみたいだから言わなくて正解かもしれん。それに………」

 

 正面玄関には慌てた様子で博士とプラターヌ研究所で見たビデオのアサメの少年たちが走りこんできている。

 これは何かあったみたいだな。

 

「おお、ハチマン無事だったか」

「コルニも生きてましたよ。まだしばらくは寝てるでしょうけど、心の整理ができたら必ず起きてきますよ」

「そう、か………」

「で、何を急いでんの?」

「あ、ああ、すまんの。その………あの子達の連れの一人がセキタイタウンに向かったみたいだ」

「…………図鑑もらった奴か」

 

 今度もやはり図鑑所有者は巻き込まれる運命なんだな。

 ジムリーダーたちも挙って集まってきたし。

 

「博士、ジムリーダーたちに『フレア団の基地はセキタイの地下にある。地下には最終兵器も隠されている。ゼルネアスを手に入れた今、フレア団は最終兵器を起動させてくるだろう。起動されればカロスは終わる』って伝えておいてください。俺たちは先に向かいます。………忘れんなよ」

「わ、分かった。………のう、お前さん。どうやってそこまでの情報を手に入れたんだ?」

「俺を誰だと思ってるんすか。んじゃ、そっちは頼みます。ユイガハマ、今すぐ全員集めろ。セキタイにぶっ飛ばす」

「うん、分かった!」

 

 あいつの名前はなんだったか。

 確か………エックス? だったか?

 どうやらあいつも聡い方なのだろう。そしてやはり誰かを巻き込むのを嫌うところがあるらしい。

 ま、あの捻くれた性格を見れば一発か。実例がここにいるんだからな。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「ヒキオ!」

「ヒキガヤくん!」

 

 ミウラ一行とメグリ先輩他天使たちもぞろぞろと集まってきた。ユイガハマ、メール打つの早くない? 集まるのにそんなに時間かかってないよね?

 

「一人、フレア団に奇襲をかけに行きやがった。それに乗じてこっちも攻め込む」

「まだ夜にはなってないよ?」

「着けば夜だ」

「そういう理由なの?!」

「とにかく時間がない。急ぐぞ」

「「ラジャー!」」

 

 あざとい敬礼をする年下二人に突っ込むのはやめておこう。これだけ人がいると絶対俺が不利になる。

 リザードンをボールから出して背中にまたがる。

 ユイガハマはユキノシタのボーマンダに(クレセリアは出さないらしい)、コマチはプテラに掴まれ、ミウラとエビナさんはギャラドスに、トベはピジョットに乗り、トツカはトゲキッスに、イッシキは………あれ? イッシキは飛べないのか?

 

「なあ、お前は飛べるんじゃないのか?」

「いつ落とされるか分かりません」

「意味が分からん。自分のポケモンだろうが」

「もう一段階進化しないと人間を運ぶほどの力はないみたいです」

「はあ………、取り敢えず飛行戦ができるようにはなったが、てか。分かったよ、後ろ乗れよ」

「はぁーい、お邪魔しまーすっ」

「あざとい………、つかヤドキングとかの力でも飛べるだろ」

「えっ? そうなんですか?」

「お前ね………。ほら、あそこのアラサーを見なさい。エルレイドにお姫様抱っこされそうになってるぞ」

 

 飛べないけど、念動力でついてくるらしい。来る時にも思ったけど、いっそテレポートした方が早んじゃねぇの?

 

「あっちはもっとすごいぞ。メタモンが何でもしてくれるみたいだ」

「………メタモンってどこで捕まえられますかねー」

「お前今楽できると思っただろ」

「何のことですかー?」

「こいつ………」

 

 いつでもどこでもあざとさは抜け目ないのね。

 

「何してるの、ヒキガヤくん。さっさと行くわよ。時間がないのでしょ」

「はあ………、分かったよ。しっかり掴まっとけよ」

「いえっさー」

「ぶー、なんかイロハちゃんにだけ甘い」

「あら、私じゃ不満かしら?」

「そ、そういうわけじゃないから! ゆきのんにこうして抱きつけるのも今のうちだもの」

 

 こいつらも緊張感がねぇな。いや、逆に今のうちに堪能しておこうってことなのか?

 するとイッシキも………。

 うわー、女って怖い生き物だわ。

 

「それで、結局何がどうなっているのか説明してくれるんでしょうね」

 

 全員で飛び始めるとユキノシタ話しかけてきた。

 というか説明の要求だった。

 

「………四日前、マスタータワーが倒壊した日、博士たちはフレア団からあるポケモンを守るためにマスタータワーを捨てたって言ってただろ。そのポケモンが何なのかは確かに口にできないようなポケモンだ。だがフレア団の計画に必要があるのかって言われたら、そうでもなさそうなポケモンではある」

 

 博士たちが隠そうとしていたポケモンの正体。それはディアンシーというダイヤモンドを作り出すポケモンだった。ダイヤの自動製造ってことで、あいつを狙う輩はそこら中に潜んでいる。だからこそ博士たちは俺にすら言う気が無かったというわけだ。

 ま、すでに俺はあいつのことを知ってるんだけどな。ホウエン地方にいた時にどこかの無人島に降りたことがあり、そこにディアンシーがいた。テレパシーで会話もできるようで二、三日程度ディアンシーの世話になったのだ。まあ、博士たちが知るわけもないしな。教えるわけないか。というかあいつが俺のことを覚えているんだろうか………。

 ただ、ディアンシーにはもう一つ、秘密があったりする。本人に聞いた話だがメガシンカできるんだとか。ただその時はメガストーンを持っていなくて見つけたら教えてくれって言われたことがある。だがやはりディアンシーの存在自体が秘密裏にされているためか、当然メガシンカのことなんてカロスでは誰も知らないみたいだ。

 現に、以前ザイモクザ経由でプラターヌ博士からメガシンカするポケモンの一覧をもらったが記載は一切なし。博士ですらその存在は知らないというわけだ(ちなみにジュカインやラグラージのメガシンカも書かれていなかったな)。俺も当時は理解できてなかったと思う。すまん、ディアンシー。

 カロスに来てるってのは聞いていたが、まさかシャラに匿われていたとは………。

 あれ? そうなると今あいつは無防備な状態ってことなんじゃねぇか?

 ヤバくね?

 

「まあそこは終わってから話すが、その後行き場を失った二人の前にカロスチャンピオンが現れたんだ。彼女は名はカルネ。女優でもある彼女はかつて博士からメガシンカを継承した弟子でもあるらしい。それから三人は転々と歩き回り、二日前の夜、8番道路の噂を聞きつけてやってきた。タイミング良くフレア団と、アサメの子供達に出くわして、コルニは負けた。二日前に俺たちを襲撃したのはあの日の夜に8番道路にあった大樹を移動させるためだったんだ。ポケモン協会の名を連ねる者からの排除。まあフラダリの考えそうなことではある。ただまんまとやられた俺たちはそのことに気がつかなかった。フラダリの思惑通りに事が運んだってわけだ」

 

 ディアンシーのことも心配だが、こっちはこっちで腹立つんだよな。

 まさかあの襲撃の意味がこんな大事なことを隠すためのものだったとか、そのことに気がつかなかったあの日の俺に腹が立つ。

 あそこで俺が気付いていればコルニを始め、アサメのあいつらももう少し安全な動きができただろうに。

 悔やんでも仕方ないが、分かっていても悔やんでしまう。

 

「それじゃ、あの襲撃は足止め………ないし戦力を削ぎ落とすためだったってこと?」

「ああ、戦力が削がれれば対策を考えなければならない。そうなれば自然と大事な事すらも忘れてしまうと考えたのだろう。現に俺はその噂の事を今日まで忘れていた。聞こう聞こうと思っていたが、結局はこんなもんだ」

「………確か、サガミさんたちが情報を流してたんだよね」

 

 メグリ先輩が申し訳なさそうに、それでいて悔しそうに呟いた。

 サガミか。

 あいつ結局あれからどうなったんだ?

 自殺とかしてないよね?

 あ、なんか思い出したら不安になってきた。

 

「ええ、けどそれもフレア団に騙されてですよ。どうやらフレア団の上層部にはアナウンサーが混じっているようだ。インタビューとかこつけてあいつらに近づいたんでしょう。メディアを抑えられたのもそいつの影響だと考えていいでしょうし」

 

 別に庇うつもりはない。事実、あいつはフレア団に情報を漏らした。許しがたい罪である。

 けど、だからと言って責めるのはお門違いだ。そういうのも込みなのがこの裏社会って奴なのだから。

 

「誰だか分かってるような言い方ね」

「そいつの名はパキラ。カロス四天王の一人にして、炎のエキスパート。そしてもう一つの顔がフレア団の『炎の女』って奴だ」

 

 炎の女と呼ばれるフレア団の上層部の女。コルニの記憶の中ではコレアという恐らくバラ様(笑)と同格の奴に指示を出していた。

 そこを鑑みるに彼女たちよりも上の立場、フラダリの次くらいと想定してもいいかもしれない。それくらいには根強くフレア団に関わっている女であることが分かった。

 

「え、それってつまり………四天王の一人が敵ってことですか?」

 

 後ろで驚いた声が聞こえてくるが、それが事実なんだよ。

 

「ああ、そういう事だ。さっき言ったようにチャンピオンも動いている。どうやら彼女もパキラを訝しんでいたらしい」

「それで旧知の博士の前に現れたのね」

「タイミングがいいのか悪いのかは分からんがな」

 

 で、そのチャンプは行方不明ってか。

 姿を眩ませるのが上手いこと。

 さすが女優。………関係ないか。

 

「それで、これからフレア団のアジトに向かうわけだけれど。どう動くつもりなの?」

「まずは何としてでもゼルネアスを解放する。これもさっき言ったが、先に一人アジトに向かった少年がいるんだわ。そいつが何とかしちゃうかもしれんし、できないかもしれん。今頃ジムリーダーたちもセキタイに向かってるだろうし、行ってみない事には何も言えんのが現状だ。はっきり言って後手に回りすぎた」

「もう! それじゃどうするのさ!」

 

 コマチよ。そんなに怒らないでくれ。お兄ちゃん、コマチパワーがなくなったら戦えないぞ。

 ちなみにコマチパワーは俺の防御力をぐんぐん上げちゃう優れもの。コスモパワーとか目じゃない。

 

「最終手段はある」

「でもそれははるさん先輩が言ってたことに繋がるんですよね………?」

「それが俺の運命って奴だろうからな。どうしたって結果は同じだ。それが今回俺のやるべき事なんだよ」

 

 いつだって世間は甘くない。

 俺にだけ甘くないように思えるが、こうしてこいつらと一ヶ月過ごして、俺が記憶を失うことでこいつらにも辛い思いをさせてしまうことに気がついた。

 結局、世間は平等に甘くないのだ。

 

「………考えたくもないけど、あなたの言う最終手段を使って記憶を失ったとして。それから私たちはどう動けばいいのかしら? あなたの記憶がなくなれば指示も出せないでしょ。この際、そこも説明してちょうだい」

 

 こっちにきて出会った当初だったら、こいつは俺を止めただろうに。今じゃすっかりフォローに入ろうとしてるよ。人って変わるもんなんだな………。

 

「………分かった。まず、メグリ先輩と先生とでミアレの路地裏のどこかにあるポケモン協会を襲撃して、乗っ取ってください。俺の推測が正しければ、今のポケモン協会は効力を失っている。何なら誰もいないかもしれません」

 

 ずっとおかしいと思っていたことの一つ。

 どうしてここまでの事態になってもポケモン協会は何の音沙汰もないのか。

 ジムリーダーが選出され、四天王とチャンピオンの座がある時点で、カロス地方にもポケモン協会はあるはずだ。なのにそのポケモン協会が動いてないなんておかしすぎる。フラダリによって丸め込まれているのかもしれないが、それならそれで奪還してしまわなければ、今後が危うくなってしまう。それにフレア団を片付けた後にも支障が出ることだろう。

 ならば今の内に取り返しておいて損はない。

 場所もコルニが一度行ってるみたいだったため、ミアレの路地裏ってのは分かった。裏路地のどこかまでは分からないのは俺の地理不足が原因かもしれん。ふっ、笑いたきゃ笑え。

 

「分かった。私はシロメグリのボディガードってわけだな」

「ええ、さすがに一人で行かせるわけにもいきませんから。それとザイモクザ。お前は終の洞窟に向かえ。何としてでもジガルデを叩き起こすんだ」

 

 俺が動けないのならば、一応俺の部下となっているザイモクザが適任だろう。他に動ける奴がいるわけでもないし。

 ユキノシタでもいいかもしれないが、俺の後釜にはこいつが一番適任なのだ。

 許せ、ユキノシタ。

 

「ゴラムゴラム! 我が相棒の命とあらば、この剣豪将軍。尽力尽くすまでよ!」

「それからミウラたちは好きにしてくれていい。ハヤマを探すなり誰かについていくなり、この戦いから降りるなり、好きにしてくれて構わない」

「ふん、言われなくてもハヤトを探すし」

「最後はユキノシタ。俺にもしもの事があったら、後はお前に任せる。責任を押し付けるようだが、全てはお前に一任する」

「それなら尚のこと、無事でいてもらわないと困るわね」

「そうであったらどんなにいいか。だが未来を変えるなんてそう簡単なことじゃない。可能性は捨てるべきじゃないぞ」

「………分かったわ」

 

 苦い顔で、それでも俺の目を見てそう言い切った。

 別に今生の別れになるんじゃない。だからそんな悲しそうな顔はするなよ。

 

「えっ? それだけなの?」

「それだけだが?」

「もっとこう具体的なこととかあるんだと思ってた!」

 

 ユイガハマ………。

 いくら俺でもそこまで万能じゃないぞ。

 

「あるわけねぇだろ。派生的なところはいいとしてもフレア団自体をどうするかとかなんて、今日が終わらなければ何も見えてこねぇんだよ。ここで具体的なことが言えたらそれこそ未来予知だっつの!」

 

 ハルノさんなら見えるかもしれないが、あの人も何か考えがあっての単独行動に出てるし。当てにしない方がいい。

 

「というか先輩。どうしていきなりそんな詳しくなってるんですか!?」

「コルニの記憶を覗かせてもらった。あいつらの逃亡生活の様子を見てきたんだ」

「やっぱり人間やめましょう! 私はそれでも先輩のこと受け入れますから!」

「やめて! そんな同情の声色出さないで!」

 

 まだ俺を人間のカテゴリーに入れてくれよ!

 やだよ、人間じゃなくなったら何になるんだよ。

 

「………ダークライって恐ろしいポケモンなんだね。ゆきのん知ってた?」

「まさかここまでだとは思っていなかったわ。まあ、それもヒキガヤくんだからかもしれないけれど」

「だよねー………」

 

 お前ら………。

 こういう時でも百合百合しいのはどうかと思います!

 

「ゴホンッ! で、だ。ハルノさんとハヤマのことも一応頭に入れておけ。あの人が何を考えて単独行動に出たのかは知らんが、…………ユキノシタの害にだけはならないはずだ。あの人はお前の実の姉貴だ。普段どんなにおちょくってきててもお前のことは守ろうとするだろうからな」

「………それが相討ち覚悟だったとしても?」

「………お前にあの人を助けたいって気持ちがあれば、時が全てを決めてくれる」

 

 普段はどんなに疎ましく思ってても、実の姉が死ぬかもしれないってなるとここまで心配できるんだ。絶対なんとかできるさ。

 

「イベルタル、デスウイング!」

 

 ッッ?!

 イベルタル、だと………?!

 

「チッ! 全員回避!」

 

 咄嗟に指示を出したことでポケモン自身が判断して下方から飛んでくる黒い光線を躱した。

 変に体勢を崩されてしまったためにイッシキが落ちそうになったとか、口に出そうものならこのまま突き落とされそうだな。

 

「あら、外したのね」

「パキラ………」

「ッ!? この人がですか?!」

 

 赤いフレームの眼鏡をかけた女性が赤黒く禍々しいオーラを放つ伝説のポケモン、イベルタルに乗って現れた。

 これはイベルタルもフレア団に落ちたということか。

 そうなるとますますZに頼る他なくなってくるぞ。

 

「ああ、フレア団の上層部の四天王だ」

「へえ、わたしのことをよく調べ上げてるのね。感心だわ」

「過去にジムリーダーが悪の組織の幹部だったことはあった。ボスがジムリーダーだったこともある。だが四天王ってのは初めてだぜ」

「だったら、こういう敵も初めてではなくて? エスプリ、やりなさい」

 

 一人、じゃないのか?

 

「リョウカイシマシタ」

「………AI?」

 

 全身スーツとヘルメットを着用しており、まるでAIで起動しているロボットのように見える。

 

「中身はいるわよ。あなたたちにとっては最も嫌な相手でしょうね」

 

 だが、生身の人間がいるらしい。

 

「イケ、リザ」

「リザッ!? ハヤト………?!」

 

 出てきたリザードンを見たミウラが口に手を当ててちょっと涙目になって呟いた。

 おいおいマジかよ。まさかのそういう展開なのか?

 伊達にカラマネロで操ってなかったってか。

 脱走したというのもこれが理由なのだろう。

 

「趣味が悪いぞ」

「そうかしら? とっても楽しいおもちゃだと思わなくて?」

 

 ダメだこいつ。

 イかれてやがる。

 

「思わねぇな」

「でもこれはまだ試作品。いつ中身がどうなるかこっちにも分からないのが難点ね。ま、使い捨ての消耗品だし、どうでもいいけど。完成品の方もすでに動いてくれてるし」

 

 こいつ………。

 いくら中身があの寝取られ王子だとしても殺させはしねぇよ。

 あいつには言ってやりたい文句が山ほど残ってるんだ。お前なんかにみすみす殺させてたまるか。

 

「……リザードン、イッシキを任せるぞ」

「シャア!」

「せ、先輩?!」

 

 リザードンにイッシキを任せ、背中に立つ。

 

「イベルタル、やりなさい!」

「来い、ダークライ」

 

 イベルタルが翼を大きく開く。

 同時にダークライが俺を黒いオーラで包み込み、目の前に姿を見せた。

 

「デスウイング!」

「ダークホール!」

 

 リザードンから飛び上がり、一直線に飛んでくる禍々しい光線を黒い穴で吸収していく。

 

「………報告には聞いていたけれど、その力、本当みたいね」

「リザ、メガシンカ」

 

 リザードンに乗ったエスプリがメガシンカさせてくる。

 だが、どこか禍々しいオーラを感じてしまう。

 なんというか、以前にもこの感覚を味わったことがある。

 そう、まるでダークポケモン…………。

 

「ボーマンダ、ユイガハマさんをお願い。クレセリア!」

「え、ちょ、ゆきのん?!」

 

 ユキノシタも戦闘態勢に入り、ユイガハマをボーマンダの背中に残し、自分はクレセリアに飛び移った。

 くそっ、まだ来るのかよ。これキツすぎんだろ。黒いオーラのおかげで落ちないからいいけど、このままじゃ力尽きて落ちかねないぞ。

 

「エルレイド、メガシンカ!」

「メタモン、あのポケモンに変身して!」

 

 先生もメガシンカさせてきたし、メグリ先輩もメタモンをイベルタルに変身させてきた。

 

「みんな、こっちに!」

 

 どうやらイベルタルに変身させたメタモンの背中に俺たちを集めてポケモン達に自由に戦ってもらおうとしているらしい。

 

「イベルタル、あんな小細工は消しとばしなさい」

「させるかよ。ゲッコウガ!」

 

 どこからか出てきたゲッコウガが、軌道を変えたデスウイングを水のベールと防壁で弾き飛ばした。

 えっ? あいつマジで何なの?

 まもるを使いながらのメガシンカのエネルギーで消し飛ばすって………。俺そこまで考えてなかったわ。

 

「あら、変わったポケモンね。いただいちゃおうかしら。イベルタル、もう一度やっちゃいなさい」

 

 身体を引き、翼を大きく開くと一気に黒い光線を飛ばしてくる。駆けつけたいところではあるが、どうやら体力を奪われてしまうようで、身体が言うことを聞かない。

 

「中二先輩、いきますよ」

「うむ」

「「レールガン!!」」

 

 いつの間にかザイモクザと合流していたイッシキがリザードンの上から命令を飛ばした。ジバコイル、その上に乗るザイモクザに抱えられたエーフィ、ダイノーズ、その上に乗るヤドキング、リザードンの上にイッシキといるメガシンカしたデンリュウ、そしてポリゴンZ。計六体からのレールガンがイベルタルへと撃ち出された。

 

「サンダー、カミナリ」

 

 ミウラ達と対峙していた寝取られ王子がハイパーボールを投げ込んでくる。その中からは凄まじい電気が迸っており、雨雲を呼び込んでいるようであった。

 すでにファイヤーがミウラ達の相手をしているのをみるとフリーザーも捕獲されてると思った方がいいかもな。

 

「サンダー………」

 

 ボールの中から出てきたのは伝説のポケモン、サンダー。

 雷を自在に操る、敵に回せば危険なポケモン。

 それにしてもどうしてあいつがそんなポケモンたちを………?

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。サンダーにより六閃は無と化し、代わりに雨が降り出してきた。

 ヤバい、来る!

 

「クレセリア、サイコキネシス!」

「カーくん、ニャーちゃん、サイコキネシス!」

「サーナイト、サイコキネシス!」

 

 エスパー組がサイコキネシスで落雷を止めた。

 だが、伝説の力は伊達ではなく、これでも力が拮抗しているだけの状態である。

 

「フリーザー、フブキ」

 

 またしてもエスプリがハイパーボールを投げてきた。

 守りが手薄になったところにボールから出てきたフリーザーが猛吹雪を飛ばしてくる。

 

「リザードン、マフォクシー、だいもんじ!」

 

 あ、なんかイッシキが勝手にリザードンにまで命令出してるし。

 あれ? つかリザードンってだいもんじ使ったことあったっけ? 多分使えるだろうけど、俺は使った記憶がないぞ。

 それにしてもあいつ、ポケモン二体に人間一人乗せた状態でよく飛んでられるな。全く落とす気配ないし。さすが俺のポケモンである。

 

「ボーマンダ、クッキー、だいもんじ!」

 

 ユイガハマも戦闘に加わってきた。終わった後にショックとか受けてないといいけど。この状況、初めての奴らにとっては結構過酷だぞ。

 

「イベルタル、デスウイング」

「くっ、ダークライ、もう一度だ」

 

 イベルタルが身を引き、翼を大きく広げていく。

 

「マジカルシャイン」

 

 だが、イベルタルの攻撃が出されることはなかった。

 真下から太陽のように光り輝く何かにイベルタルが狙われ、咄嗟に躱したことで技は失敗に終わったのだ。

 マジカルシャインで思いつくのはユキノシタかトツカくらいだが、二人とも首を横に振ってくるのでどちらでもないらしい。

 

「オホホホホッ! まだ虫ケラが混ざっていたようね。いいわエスプリ。後は任せるわよ。私にはやるべきことがあるの」

「あ、おい、待て!」

 

 下にも自分の敵がいると把握したからなのか、高笑いをしてパキラがさっさとセキタイの方へと飛んで行ってしまう。

 

「リョウカイシマシタ。ルギア、オマエモヤレ」

 

 追いかけようとしたが、遮るようにエスプリがボールを投げ、中身を出してきた。

 

「くっ、マジかよ」

 

 あの大雨の日の夜の記憶がなくなってるから、こいつらがどうなってるのか分からなかったが、そりゃ姿を見せないわけだよな。捕獲されてたら行方すら分かるわけがない。

 それにフレア団としてもここまで捕まえてくるような奴をみすみす逃すはずがない。

 

「ダーク、ルギア………」

 

 最後に投げ込まれたハイパーボールから出てきたのは、真っ黒で赤い目のルギアだった。




ディアンシーとも顔見知りなハチマンであった。

To be continued

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