「まったく、この男は一体どこまで強くなれば気がすむのかしら………」
「追いかけるこっちの身にもなれって感じですね」
「そうね……」
「…………たははは………」
「何かしら、その苦笑いは」
「やー、ヒッキーを追いかけてるってところは否定しないんだなーって」
「っ!? べ、別にそういうことではないのよ。これは言葉の綾というかイッシキさんの言葉というか、とにかくそこに私は含まれていないわっ!」
メグリ先輩のポケモンとゲッコウガを回復マシンで休めている間の出来事。
これまでのバトルを思い出しながら戦力を確認しているとそんな会話が聞こえてきた。ツッコミたいことも色々とあるが、これからのことを考えている俺は忙しいから何も言わないぞ。俺マジクール。
「メガシンカねー………」
なんだかんだ今いるメンバーの半分はメガシンカさせることができる。戦力的には申し分ない。イッシキという新たなメガシンカ使いとメタモンという何者にもなれるびっくり箱も出てきたことだし。
ただメグリ先輩とバトルして分かったこともある。多分、あの人はまるで裏社会というものを見てきていない。ハルノさんの側にいながらも真っ白すぎるのだ。多少はそういう場面にも出くわしているのかもしれないが、肝心なところは全てハルノさんがやっているのだろう。あの魔王というキャラでメグリ先輩を守っているのかもしれない。
「ヒキガヤくーん、お姉さんのことそんなにジロジロと見られても何も出てこないよー」
当の本人はこんな調子ではあるが、いつだったか会議でフレア団を殺したようなことを言ってた気もする。メグリ先輩はハルノさんにそういう一面があるのを知ってはいるだろうが、実際に見たことはないはずだ。そもそもハルノさんが見せるわけがないのだから。
まあ、それを言えば妹の方にも当てはまることかもしれない。態々悪戯するような口調でいじっているが、彼女に危険が迫れば影で汚れ仕事を平気でしているように見える。
なんであれ、守りたいものを守るための必要悪を演じている、彼女に対しての総括はそんな感じである。
「魔王が魔王を倒したところで、世界は平和になるんですかね………」
「どしたの、お兄ちゃん。目がますます濁ってってるよ」
「いや、別に。いつまで経ってもどこに行っても同じような輩はいるんだなーって」
コマチが気持ち悪いものを見るような目で俺を見てくる。泣いていいかな。
それにしてもフラダリという魔王をハルノさんが倒したらどうなるのだろうか。そんなことにはなりそうにないが、仮にそうなった場合、魔王が変わっただけにしか感じないかもしれん。
「英雄が出てこない限り、魔王の支配は終わらないんじゃないかなー」
で、当の魔王様は英雄でない限り支配は続くという。まるで自分が支配しますよって感じに聞こえてしまってならん。暇潰しにこんな想像するんじゃなかった。
「英雄か。そういうのはハヤマの専売特許ですね」
しかも英雄っぽい奴は俺たちのせいで囚われの身になってるし。
「ハヤトは英雄にはなれないよ………。何でもできて、何でも分かっちゃう。そんな英雄がいたらつまんないよ」
つまんないの一言で英雄を否定されてしまったハヤマさん。マジかわいそうっす。
「ま、英雄なんかいたらいたで面倒なことになりそうですけどね。戦争とかドラゴンの分裂とか」
「あー、イッシュ地方の伝説? あったね、そんな話も」
「それくらいしかイッシュ地方に関しては知りませんけどね。行ったことがないですし」
「へー、ヒキガヤくんでも行ったことがない所ってあるんだー」
あ、なんか魔王様と初めてこんな長く会話が続いたかもしれない。今日の俺、超頑張ってる。
「そりゃ、そうでしょ。オーレ地方とかに行ったことがあってもよく知らないくらいですし」
「その節は妹がお世話になりました」
「らしいですね。あっちでのことなんてほとんど覚えてないんで、ユキノシタに言われるまで気づきませんでしたよ。今でもそんなことがあったっけなー、って感じだし」
思い出したくもないしな。なんで告白したところはなくなってないわけ。
おい、黒いの! 俺の黒歴史こそ食ってけよ!
「ユキノちゃんも大変だねー。何度も助けられてるのに、当の本人は覚えてないんじゃ、お礼の言いようもないもんねー」
「姉さん、その件に関してはもう済んだことよ。今更蒸し返すのはやめてもらえるかしら? それとも姉さんもヒキガヤくんに助けられたとか?」
ええ、確かに。その件に関しては済みましたね。ユキノシタがあんなことしてくるとは思わなかったが。
ああ、今でもあの背中の感触は忘れられない。
「それはどうかなー」
「そうかしら。彼は会長の懐刀よ。姉さんが関わった事件にもいたかもしれないわ」
「や、それはないだろ。こんな恐ろし………綺麗な見目麗しい、人当たりのいい仮面をつけた人、印象に残らないはずがない」
魔王様を忘れるなんて恐れ多いわ。
「あなたの記憶は当てにならないわ」
「そうだった………。俺の記憶なんて食われてるからちぐはぐなんだった」
ユキノシタさん、今日は当たりがキツイっす。やっぱり姉のん嫌いなのん? あ、でも最初のポケモンを同じみずタイプにしてるし、他にもエスパータイプや鋼タイプも連れてたりするし、実は大好きだよな。
うーん、ツンデレ?
「あ、そうだ、記憶で思い出した! ヒキガヤくん、明日死ぬかも」
「はっ?」
「へっ?」
なんて考えていたら思考が停止してしまった。
一瞬場に無が走る。
音も匂いも色も何もかもが感じられない、真っ黒な世界。
「えっと………、何のご冗談でしょうか? ドッキリ企画とかだったら人選間違えてますよ?」
ぶるっと体が震えたことで我に返り、言葉を紡いでいく。
全く何の冗談だよ。俺が死ぬとか。ないない。
「それが冗談じゃないんだなー。お姉さんがどんな力持ってるか知ってるよね?」
「えっ? なんかできましたっけ? あ、や、でも何でもできそうだから逆に絞りきれねぇ………」
魔王だからなー。何でも知ってそうだし、何でも調べられそう。あれ? できないこと何もなくね?
これはマジで答えが分からん。言いたいことが分かるから分かりたくない。
つまり分かってますね………。
どうせ未来予知だろ。
「未来予知………。姉さん、ネイティオに一体何を見せられたのかしら?」
「明後日、ヒキガヤくんはベットの上で寝てます。そしてみんなは悲痛の表情。さあ、そこから導き出される答えは何かなー?」
怪我でもしたんじゃねぇの。んで数日くらい起きないって言われてるとか。
「あら、それだけでは彼が死んだとは限らないわ。疲れて寝ているだけかもしれないし、悲痛、というのであれば怪我して帰ってきたとも考えられるもの」
ユキノシタも同じ意見かよ。
「ユキノちゃん、これだったらどう? お医者様がヒキガヤくんはもういないって言ってたんだよ?」
「ッッ!?」
ハルノさんの言葉を聞いたユキノシタの目の色が変わった。怯えた目というか何かを確信したという感じで目が震えている。
ただな、それは間違いだ。
「…………なんか結構具体的なようで抽象的ですね。たぶん、それ死んでませんよ。死んだ人間に『いない』って表現もおかしいでしょ。しかもコマチが泣いてませんから、まだ生きてますよ」
「お兄ちゃんの生死の境ってコマチが泣くか泣かないかなの?!」
お兄ちゃん、コマチを泣かせてまで死ねません!
「コマチに泣かれたら三途の川を渡ってる途中でも戻る自信まであるぞ」
泣かれないなら泣かれないで悲しくて死ねないんだろうな…………。
結局どう転んでも俺って死ねないのか。無敵だな。
「骨の髄までシスコンだったことに、コマチびっくりだよ!?」
「へー、それじゃ、ヒキガヤくんはどうして寝てるのかなー?」
怖いッ………。
なんでそんな見下ろすかのように顎をあげてんの?!
「そもそも俺はダークライがいる限り死にませんから。あいつが力を使うのには俺の夢を食う必要がある。黒いの曰く、他の夢よりも俺の夢の方が好きなんだとか。何度見ても飽きないらしいですよ。だからあいつがいる限り俺は捕食源であるからして死ぬことはない。どうせまた記憶を食われてるんじゃないですかね」
契約のことも思い出したからな。当然なんで俺なのかって聞いた話も思い出したわ。
「でも、それだと『いない』って意味はどうなるのかしら?」
「…………完全記憶喪失。お前らの知ってる俺はいなくなったって意味なんじゃねぇか?」
で、最悪のケースがこれだな。歩くための筋肉の動かし方とか、そういう無意識下での記憶は消えていないが、ダークライと契約したエピソード記憶ーー思い出が全て食われること。当然、思い出がなければ自分が誰かとか相手が誰なのかも思い出せない、まさに記憶喪失となるのだ。
一度だけ危ないところまできたが、その時は三日もすれば全部思い出した。だが、今回はどうなるんだろうな………。ハルノさんの未来予知の話が本当であれば、俺がそうなる理由は明らかである。
「あ、あたしたちとの思い出が………なくなる……ってこと…………?」
「そういうことだ。ま、今に始まったことじゃない。俺とあいつはそういう契約を結んでいる。記憶がなくなるのなんて初めてじゃない。ただ、今回はそれだけ強い力を使う必要があるって話だ」
強い力。
すなわち全てを破壊するどこぞの最終兵器とやらの力に対抗するため。
今回の俺のやることはそれなのだろう。
その後がどうなるかも分からんが、取り敢えずの俺の未来はそこに終結することになる。
「………戻るんですか?」
「戻るには戻るぞ。それがいつになるかは知らんが。ほら、思い出してみろよ。俺はスクールのことをこの一ヶ月の間に思い出したんだぞ。記憶を戻すのは黒いのの気まぐれなんだ。詳しい時期なんか俺には分からん」
ま、それがいつ食われたのかは知らんけど。
だがイッシキが心配するほど長くもない、と思う。
「それって、つらく、ないの………?」
「慣れだ慣れ。記憶がなくなるって分かってるんなら、知識で補えば何とかなる」
慣れって怖いな。
脳が麻痺しておかしくなってくんだもんな。普通、こんなのは異常なはずなのに、俺の脳はこれを当たり前だと認識してしまってるんだから、手遅れである。
「どういうこと?」
「文章に書き起こしとくんだよ。しかも今回はユキノシタさんのおかげでこれからその準備もできる。記憶がなくなっても今の自分の状況とかこれまでの経緯なんか書いとけば、その後に自分のすべきことが見えてくるってもんだ」
その間は俺が書き溜めている手帳を使うことにすればいい。何回か記憶を食われてく内に、覚えている間に記録しておけばいいのでは? という結論に至ったのだ。
多分、それで以前もどうにかなってたんだろうし、今回もどうにかなるのだろう。
何なら、こうして未来が分かったために今から準備ができるんだから、逆にありがたいくらいである。心の準備もこれからの準備も寝る前にでもやっておこう。
「どうして、そこまで自分を犠牲にできるの…………」
すでに悲痛な表情を浮かべているユキノシタが聞いてきた。
やっぱ、未来予知当たらないかもしれない。
「犠牲? 俺は一度も犠牲だなんて思ったことがないぞ。これが俺の日常だ。当たり前なんだよ。確かにお前らからすれば特殊なケースかもしれない。けど、俺はそういうところに縁があるようだから仕方ないんだよ。来るものをいちいち回避なんてできるわけねぇだろ。だったら真っ向から叩き潰した方が早いし、今までもこれからもそうするつもりだ。どんな手を使ってでも相手の息の根を止める」
毎度こんなことに巻き込まれてたら逃げるのも疲れてくるってもんだ。だったら叩き潰した方がスッキリするから、そうすることにしたまでである。
いつの間にそれが当たり前の日常に組み込まれてしまってるが、これが俺の日常なんだから仕方がない。コマチが旅に出るってなるまでは基本的には家にいたが、たまにこうして事件に出向いていたりもしている。それは親も知らない事実だ。
だがそれでいいのだ。下手に知られて手伝われるより、一人の方がやりやすかった。それは今も変わらないだろうが、今回はすでにこいつらも巻き込まれてるからな。一人でやらせてはくれない。
「いやー、どっちが悪党なのか分からない発言だねー。でもお姉さんは好きだよ」
「姉さん、茶化さないでっ!」
ハルノさんの軽い口調を妹が鋭い口調でかき消した。
「それに給料を今以上に下げられたくはないからな。少し無茶なくらいが、後でがっぽり特別手当がもらえる。何なら会長に脅しもかけられる。忠犬ハチ公は会長の懐刀なんて言われてるが、別に実際はそうでもないし。どっちかつーと会長の懐に当てられた刀って表現の方が合ってると思うぞ」
お金って大事だよね。
特に我が妹のカビゴンとか超穀潰しじゃん?
コマチのために日々働いてくれてるからいいけど、食費がすごいのなんの。だから俺は少しでも金が必要なのだ!
あって困るようなもんでもないし。
「会長、命狙われてるんだ………」
「命じゃないですよ。金の方です」
今度帰ったらほんとにゲッコウガの手刀でも当ててみようかな。捕まるな。お縄だわ。
「………お金のためなの?」
訝しむように俺を睨んでくるユキノシタ。
お金のためではあるが別にそれだったらもっと他にも稼ぎ方なんていくらでもあるって。それだけで俺が身を削るかよ。
「いや、後は俺の腹わたが煮えくり返ってるってのもある」
「でも、だからって」
「勘違いすんなよ、ユキノシタ。俺は平凡な日常を過ごしたいんだ。それを邪魔する奴は例えそれがお前であってもあらゆる手で封じ込める。あるいは手懐ける。それが無理ならギラティナの前に行ってもらう」
「ッ!?」
一睨みきかせたら怯えられた。
まあ、なんて怖い。いつの間に魔王が乗り移ったんだろうか。
「ま、そういうことだ。世界は怖いんだよ。お前らはそんな世界に足を踏み入れてきたんだ。大丈夫、俺がいるからには死なせはしない」
「最後、かっこつけたつもりなの…………」
コマチ、そこは言わない約束だろ。
「悪いかよ。俺はこれでも今が結構気に入ってるんだ。だからこそ腹わたが煮えくりかえる怒りを覚えてるんだ。暴れなければ気が済まん」
「悪魔だ………。悪魔がいるよ………」
なんていうのが休憩中の会話であった。
なんだこの濃い会話。
よく一度も噛まなかったな、俺。えらいぞ、俺。すごいぞ、俺。
✳︎ ✳︎ ✳︎
会話の流れで俺の未来が分かったり、みんなに悪魔と言われて距離を取られたりして、一時の休憩も終わり。
そんなこんなしてたらすでに外は真っ暗になってしまい、仕方がないので夕食も取り、急遽取り付けられてしまったハルノさんとのバトルにようやくありつけた。
メガシンカ同士のバトルになるから建物が壊れないか心配だな。
「さぁーって、それじゃ始めよっか」
「ほんとにやるんすね」
「当然。あの時のお返しもしなくちゃいけないからね」
「はあ…………」
フレア団の問題を終わらせてからでもいいものを。
必要あるのかよ、この人とのバトルって。
ま、言ってもしょうがないし、二体同時のメガシンカを堪能させてもらいますかね。
「ルールを確認しておくぞ。使用ポケモンは二体のダブルバトル。技の使用制限はなし。以上だ」
「あ、シズカちゃん。技の使用は公式ルールでお願い」
「……と言ってるが、ヒキガヤいいのか?」
「はあ………、どこまで拘るんですか。まあ、いいですよ」
「それでは、バトル始め!」
技は四つまでの制限付きか。
なんか久しぶりだな。
「カメックス、バンギラス。負けたらお仕置きだよ」
「自分のポケモンを脅すなよ………。リザードン、ゲッコウガ」
ほら、出てきてすぐ振り向いて言葉を失ってるじゃねぇか………。
かわいそうに。
やはり魔王は恐ろしい。
「「メガシンカ!」」
四体同時のメガシンカ。
ハルノさんの両中指に嵌め込まれた指輪が光り、カメックスの甲羅とバンギラスの尻尾が共鳴するように光を発し始める。
俺のキーストーンも反応し、リザードンの首につけたメガストーンと結び合っていく。
ゲッコウガだけは水のベールに包まれ、その水を背中の手裏剣にかけることでメガシンカを遂げた。
うっ、目が………。
これ、は………バンギラスのすなおこしか。また厄介な。
「しおふき!」
げっ!?
一発目からやばいのきたよっ!?
全快であるほど威力の上がる危険な技、しおふき。
背中の甲羅から長く伸びた一本の砲台から撃ち出されたしおふきは天高く昇ると弾けて、バケツをひっくり返したかのように一気に降り注いてきた。砂嵐も降り注ぐ水にかき消されていく。
「リザードン、ソニックブースト! ゲッコウガ、かげぶんしん!」
急加速したリザードンは降り注ぐ水魔の間をくぐり抜けるようにカメックスの方へと向かいだし、ゲッコウガは影を増やして、バンギラスの意識を引きつけた。
「バンギラス、なみのり! カメックス、あまごい!」
降り注ぐ水魔をかき集めていき、波を起こす。サーフィン感覚で波に乗ったバンギラスが次々とゲッコウガの影を消していき、カメックスへと突っ込んでいくリザードンの行く手を阻むべく、道を塞いだ。
その背後ではカメックスが雨雲を作り出していく。
「ブラスターロールで躱して、かみなりパンチ!」
波を制御して突っ込んでくるバンギラスを翻って躱し、そのままカメックスへと突っ込んでいった。
「ゲッコウガ、みずのはどうでバンギラスの波の制御権を奪え!」
バンギラスに影を消されながらも気配を消して背後についていたゲッコウガが、バンギラスの操る波の制御権を奪い、ギャラドスの姿へと作り変えていく。降り注ぐ雨粒をも飲み込み、ギャラドスは大きく育ち、バンギラスの足元から水気を奪い、地面に叩き落とした。
だが硬い鎧を身に纏ったような姿のバンギラスにはあまり効果がなさそうである。
「バンギラス、ストーンエッジ! カメックス、ハイドロカノン!」
いつの間にか雷を纏った拳を当てていたリザードンの腕を掴み抑えていたカメックスが、背中の砲台をそのまま下ろしてリザードンの顔面に照準を合わせた。
バンギラスも鋭利の利いた岩をいくつも纏い、それらをタイミングをずらして撃ち込んでくる。
「リザードン、はがねのつばさで身を守れ! ゲッコウガ!」
分かってますよと言わんばかりに、水で作り上げたギャラドスの口を大きく開き、水の弾丸を撃ち出していく。
みずのはどうだんか。最初から使っていたわやり方だな。つか、今でも使うんだな。
「発射!」
鋼の翼で身を包むようにし、直接撃ち込まれた水の究極技を受けた。身体は大きく距離を剥がされて後退し、降り注ぐ雨によって水気を含んだ地面になっていたことで、着地に失敗したリザードンの身体は地面をスライドしていった。
「バンギラス、かみなり!」
雨雲から撃ち出された雷がギャラドスに乗るゲッコウガ目掛けて落とされた。
「ゲッコウガーーー」
ここでまもるを指示してしまってはゲッコウガが出せる技が後一つになってしまう。それはよろしくない。多分これもハルノさんの算段だろう。
くそっ、今出した技でできるとすれば………。
「ーーーギャラドスを身代わりにしろ!」
乗り物となっていたギャラドスを撃ち上げ、水でできたギャラドスはゲッコウガの身代わりとなって分解されていく。
「カメックス、じわれ! バンギラス、なみのり!」
カメックスはゲッコウガが地面に着地したところを狙って地割れを起こし、バンギラスが水の主導権を奪い返すと起き上がったリザードンの目の前に移動した。
「げきりん!」
バンギラスは水を一気に竜の気へと昇華させて纏上げ、暴走させて突っ込んできた。
「カウンターで撃ちかえせ!」
躱すよりもここはカウンターを狙った方が得策だろう。いや、今この時点で得策なんてないか。リザードンにとっては不利なフィールドと化している。どう動こうが何かしらのリスクは付いてくる。
「ゲッコウガ、みずしゅりけんを地割れに転がせ!」
昼間も使ったような気がするぞ。
まあ、対策されてそうだが何とかなるだろ。
ゲッコウガが前宙しながらカメックスが起こした地割れに八枚刃の手裏剣を投げ込み、転がした。
「かげぶんしん!」
そして、そのまま宙で影を増やしていく。
「スイッチ!」
バンギラスを投げ飛ばしたリザードンも飛び上がると一瞬でバンギラスの前にはゲッコウガが、カメックスの前にはリザードンの姿があった。上手く影が働いたようだな。
「ゲッコウガ、みずしゅりけん! リザードン、じわれ!」
ゲッコウガは再生された背中の手裏剣をバンギラスに投げ込み、リザードンはお返しと言わんばかりにカメックスの足元だけに地割れを起こした。
いつの間にあんな正確性を会得したのだろうか。あれじゃもう必中の一撃必殺になってるぞ。
ヤベェ………。
「カメックス、ハイドロカノン! バンギラス、もう一度げきりん!」
カメックスが地割れに落ちる前に一発の水弾を撃ち込んできた。一撃必殺に集中しているためリザードンに躱す余力はない。
同時にゲッコウガも手負いのバンギラスに狙われていた。影を次々と消されていき、時間の猶予がなくなってきている。
「チッ」
「カメックス、リザードン。ともに戦闘不能!」
カメックスとリザードンは相打ちか。
地割れに挟まれ飛ばされたカメックスも、一撃必殺に集中していて水の究極技を躱せなかったリザードンも、地面に身体を強く打ち付けるとメガシンカを解き気を失っていた。
「ゲッコウガ!」
リザードンをボールに戻しながら、腕を掲げる。するとゲッコウガも同じように右腕に八枚刃の手裏剣を持って掲げた。
手裏剣はみるみるうちに大きくなり、巨大なみずしゅりけんへと変わった。
「みずしゅりけん!」
げきりんの反動で混乱しだしたバンギラスに巨大な八枚刃水手裏剣を撃ち込む。
激しい衝撃音とともにバンギラスの身体は奥の壁にまで一気に飛んで行った。壁にはバンギラスの型跡ができるくらいの衝撃だったらしく、気持ちちょとだけ建物が揺れた。
うわっ、やりすぎたか?
「バンギラス!?」
背中から壁に食い込んだバンギラスの身体は前のめりになっていき、やがて地面に倒れ伏した。その時にメガシンカも解かれ、戦闘不能になったことを表していた。
「バンギラス、戦闘不能! よって勝者、ヒキガヤハチマン!」
結局、最後に残ったのはこいつかよ。
ま、なんとなく予感はしてたけどよ。
というか、ハルノさんがすげぇ疲れてるんだけど。取り繕ってるみたいだけど、ちょっと隠せていないのがなんか新鮮である。
「………あの仮面を持ってしても隠せないほどの気力がいるってことか。使うのにはそれなりの態勢が必要ってことだな。二体同時メガシンカは」
さて、明日に備えて今日は早く寝ましょうかね。