ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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ついにペンダントの中身が………。


67話

 トベとザイモクザのバトルも無事終わり、各々が就寝した日の翌日。

 ミアレに来てから七日目。

 俺たちは朝から熱心にバトル観戦である。そう熱心にである。

 

「あなた、もう少し落ち着けないのかしら?」

「や、だって、コマチのバトル見るの久しぶりだし………」

 

 だってコマチがバトルするんだぞ?

 これが落ち着いていられるかっての。

 

「ルールは昨日と同じで技の使用制限はなし、交代も自由だ。ただし、使用ポケモンは五体だから最後は一体になるだろうが基本ダブルバトルだ。君たちにとっては経験の少ないダブルバトルであろう。やりたいことを全てやって悔いのないよう存分バトルしてくれ」

「「はいっ!」」

「それではバトル始め!」

 

 早速バトル開始か。

 朝食も済ませて活力も滾っていることだろう。

 

「カーくん、ニャーちゃん! いくよ!」

 

 コマチの最初のポケモンは二体のニャオニクス。一体はユキノシタに借りた奴だ。

 

「フォレトス、マフォクシー!」

 

 あ、最初からマフォクシー出して来るんだ。

 何か策でもあるのかね。というかやっぱり俺の見間違いじゃなかったのかもな。それだったらこのバトル、最後が見物になるだろう。

 

「………よかったのか? お前のポケモン同士をバトルさせることになってるけど」

「ええ、平気よ。まだフォレトスにはニャオニクスを紹介していないもの。下手に情が入るよりは紹介を遅らせた方がいいと思ったのよ」

「なるほど。それは一理あるな」

 

 トレーナーのポケモンになればポケモン同士で家族みたいな感覚になってくるかもしれないしな。実際のところは知らないけど、下手に情が入るよりはこうして遅らせておく方が今回は得策かもしれない。

 

「カーくん、てだすけ! ニャーちゃん、シャドーボール!」

 

 二体のニャオニクスが仲良く? 手をつないで、メスの方の技の威力を高めてきた。それだけでなく、一回の技の発動で同時に二つのシャドーボールを作り出してくる始末。てだすけ恐るべし。

 

「フォレトス、こうそくスピン! マフォクシー、マジカルフレイム!」

 

 対して、フォレトスは高速で回転を始め、突っ込んでいき、マフォクシーは炎を巧みに操り壁を作った。

 

「カーくん、リフレクター! ニャーちゃん、チャージビーム!」

 

 カマクラがリフレクターでフォレトスを受け止め、その隙にチャージビームで攻撃を仕掛ける。同時に遠距離系の技の威力も高めてきた。

 

「マフォクシー、雌の方にスキルスワップ!」

 

 フォレトスに意識を引きつけている間に、マフォクシーは雌のニャオニクスと特性を交換か。

 カマクラは確かするどいめだったが、あっちの特性は何なんだ?

 

「なあ、お前の方のニャオニクスの特性って何なの?」

「すりぬけよ。リフレクターやひかりのかべに影響されずに攻撃できるわ」

「………これはイッシキに軍配かな」

「あら、そうとも限らないわよ?」

「どういうことだよ………」

「まあ、見てなさい」

 

 特性をも操り出したんだし、イッシキの方が有利だと思うんだが………。

 何か秘策でもあるというのだろうか。

 

「ニャーちゃん、なりきり! カーくん、リフレクターでフォレトスを叩きつけて!」

 

 そうか。

 確かカマクラもなりきりを使っていた。同じニャオニクスならば当然覚えていてもおかしくはない。

 なりきりで奪われた特性になりきってしまえば、元の特性をマフォクシーにコピーされただけに過ぎないんだ。

 

「そういうことか」

「ええ、そういうことよ」

 

 確かにこれは軍配を上げられるものではないな。

 となると、これから二人ともどう動いてくる?

 

「ジャイロボール!」

 

 受けて止めていた壁でフォレトスを地面に叩きつけようとするカマクラ。そしてその壁を高速のジャイロ回転で壊そうとしているフォレトス。

 なんだあれ………。

 

「マフォクシー、二体にシャドーボール!」

「ニャーちゃん、こっちもシャドーボール!」

 

 激しい技の応酬にユイガハマたちは息を飲んで見ている。

 特にあいつは見入っていた。自分と同じタイミングでポケモンをもらったというのに、成長速度の違う後輩たちに触発されているのだろう。

 

「カーくん、サイコキネシス! ニャーちゃん、みらいよち!」

 

 すかさずカマクラがフォレトスとマフォクシーの動きを封じてきた。

 その間に雌の方がみらいよちを発動。

 上手くコンビネーションが取れている。

 

「フォレトス、パワートリック!」

 

 さすがに叩き落したりするのは難しいらしい。二体同時にかけるだけで精一杯みたいだな。

 逆にフォレトスは動けないのをいいことに、自分の攻撃力と防御力を入れ替えてきた。防御の高いフォレトスが使えば、攻撃力が高くなるという絶妙な技である。

 

「カーくん、ニャーちゃん、一旦交代だよ!」

 

 それを見たコマチが取った行動は惜しむことなく交代だった。

 イッシキが攻撃に切り替えたのを悟ったのだろう。

 

「ゴンくん、プテくん!」

 

 二体のニャオニクスをボールに戻したコマチは、次にカビゴンとプテラを出してきた。どうやらカメックスはトリらしい。

 

「きた! マフォクシー、ワンダールーム!」

 

 ずっとカビゴンとプテラが出てくるまで居座るつもりだったのだろうか。

 狙ってたかのように二体が出てきたタイミングで防御変換の部屋の中に閉じ込めた。

 

「だから先にパワートリックを使ったのね」

「だろうな。パワートリックで攻撃に転じたと表向きは見せといて交代を誘い、あの二体が出てきたタイミングで部屋に閉じ込める。陽動が上手くなってんな」

「妹の方は心配しなくていいのかしら?」

「あれくらいでやられる魂じゃない。逆にスイッチが入ったと言ってもいい」

「さすが兄妹ね」

 

 イッシキの陽動にようやく気がついたコマチの目の色が変わってきた。

 それにコマチも何の布石を打たないまま交代したわけじゃない。最後に放ったみらいよちをあいつが上手く使えれば、展開も変わってくる。

 

「ゴンくん、フォレトスにほのおのパンチ! プテくん、マフォクシーにストーンエッジ!」

 

 カビゴンが飛び跳ねて一気にフォレトスに詰め寄っていく。

 プテラは尻尾で地面を叩きつけ、岩を起こしていく。

 

「フォレトス、躱してプテラにジャイロボール! マフォクシーはブラストバーン!」

 

 フォレトスはギリギリまでカビゴンを引きつける腕の下をくぐり抜けるようにしてパンチを躱し、そのままジャイロ回転しながらプテラに突っ込もうとする。

 当のプテラはストーンエッジを相殺されただけでなく、さらに自分の真下の地面からも炎が噴き出し、慌てて躱していた。

 

「ゴンくん、裏拳!」

 

 逃げるようにしてプテラに向かうフォレトスを裏拳で炎を纏った拳を打ち付けた。

 

「フォレトス!?」

 

 やはりフォレトスでは素早くないため逃げ切れなかったか。

 その間にもプテラがマフォクシーに飛び込んでいた。

 

「プテくん、ドラゴンクロー!」

「くっ、フォレトス、ボディパージ! マフォクシー、マジカルフレイム!」

 

 多分、リザードンとかボーマンダのを見て覚えたんだろうな。

 プテラが竜の爪を携えて、マフォクシーを切り裂いた。だが寸でのところで炎の爪を作り出し、竜の爪を挟むように受けて止めている。

 

「ジャイロボール!」

 

 ジリジリと啀み合うプテラの背後からジャイロ回転しているフォレトスが現れる。

 

「ゴンくん、ふきとばし!」

 

 息を大きく吸い込んだカビゴンが突風が起きたかのような息吹を放った。一息でワンダールームが壊され、こっちにまで強風が舞い、髪がボワってなった。一瞬だがユキノシタの長い黒髪が鼻をくすぐってきてむず痒かった。

 プテラに攻撃を当てたフォレトスはそのままの勢いでイッシキの元へと吹き飛ばされていく。地味に技を当てているところがポイントだな。さすがボディパージ。体重を軽くしたことで動きも早くなっていたか。

 

「フォレトス、ちょ、とまっ!? フォレトス?!」

 

 あーれー、て感じに飛ばされてきたフォレトスが、イッシキの目の前で何かに撃たれた。何かなんて分かっている。ニャオニクスのみらいよちだ。

 ふきとばしもタイミングを合わせていたということか。

 

「も、戻って!」

 

 何とか耐えたフォレトスを見てイッシキはすかさずボールに収めた。というかボールを見た瞬間、勝手に入っていった。

 

「あれは別にフォレトスが勝手に入っていったわけではないわよ。ふきとばしの技の仕様だから」

「……分かってるよ」

 

 そんな誰もユキノシタがちゃんと育てられていないとか思ってないから。逆にそんなに否定されると疑っちゃうよ? 顔真っ赤だし。

 

「あ……」

 

 そして勝手に他のポケモンが出てくるというね。今回出てきたのはナックラーだった。出てきてすぐイッシキに抱きつきにいっている。

 

「あ、ちょ、こら、攻撃しなさい! すなじごく!」

 

 ナックラーに抱きつかれたイッシキは強引に引き剥がして、カビゴンへと向かわせた。

 

「マフォクシー、かえんほうしゃ!」

 

 態勢を立て直そうとしているプテラに火炎放射が放たれる。

 

「プテくん、翼でガード! ゴンくん、じしん!」

 

 プテラは咄嗟に翼を盾にして、炎を受け止めた。

 カビゴンはナックラーが起こした砂地獄を地面を揺らすことで回避した。しかもその揺れはマフォクシーにも伝わっている。

 

「うひゃっ?! マフォクシー!? ん〜〜〜っ、一旦戻って!」

 

 思うように主導権を握れないイッシキはもどかしさが残る中、マフォクシーを一旦ボールに戻した。

 

「少し休んでて。ヤドキング! うずしお!」

 

 交代で出てきたのはヤドキングか。

 マフォクシーは今しがた弱点技を受けたし、フォレトスもなんだかんだダメージを受けている。ここで出せるとしたらヤドキングが安定だろうな。やっぱりデンリュウはそういうことなんだな。

 

「プテくん、上昇! ゴンくんはもう一度じしん!」

 

 ヤドキングが作り出した渦潮を上空に逃げることでプテラは回避。カビゴンはもう一度地面を揺らして二体の足元のバランスを崩してきた。

 

「くっ、こっちも空を飛べたらいいのに………」

 

 上に逃げられたプテラを見て悪態を吐くイッシキ。

 確かにイッシキとユイガハマは上空でのバトルが困難である。唯一できそうなのはエスパータイプのヤドキングとマフォクシーであるが、どちらかといえばそっちは苦手な部類のエスパータイプだ。純粋に浮いた動きができるのは、やはりニャオニクスの方が得意だろう。

 

「分かってる。でも本当はアンタにカビゴンの相手をして欲しい……の………」

「ナァァァァァッ!」

 

 ナックラーが突如、雄叫びを上げた。すると白い光に包まれていく。

 

「しん……か………」

 

 あのナックラーは進化する気がないもんだと思ってたんだが。

 イッシキもどこかナックラーの進化には諦めた感を出していたが、奴の方からイッシキに歩み寄ったということか。

 なるほど、だから最後のハグだったということか。知らんけど。んなアホな。

 

「……!? うん、分かった。ヤドキング、きあいだま! ビブラーバ、りゅうのいぶき!」

 

 進化したビブラーバは一気にプテラとの距離を詰めるべく、上昇していった。

 

「プテくん、はかいこうせん!」

 

 そして放たれた竜の息吹はプテラの破壊光線に受け止められた。ここからは押し合いか。

 

「ゴンくん、メガトンパンチ!」

 

 一方でカビゴンはヤドキングが投げたきあいだまをパンチで弾いた。弾いた方向にはーーー。

 

「ビブラーバ!? 躱して!」

 

 ーーー上空で技の応酬をしているビブラーバがいた。だがイッシキの命令を遂行する余裕はないようで、身を捻った時には正面と下からと同時に技を受けた。

 

「くっ、ヤドキング、でんじほう!」

 

 仇を討つかのようにすぐにヤドキングを動かしてきた。

 放たれたでんじほう、いやレールガンは一閃を描き、プテラに直撃した。痺れを受けたプテラはバランスを崩して真っ直ぐと地面に落ちてくる。

 

「プテくん!? ゴンくん、ギガインパクト!」

「ヤドキング、まもる! ビブラーバ!? お願い、ばくおんぱ!」

 

 だが力尽きたビブラーバがばくおんぱを発することはなく、カビゴンの猛突進をヤドキングが単体で守りきる形となった。

 

「プテラ、ビブラーバ、共に戦闘不能!」

 

 両者ともに初の脱落が出た。プテラを相打ちにできただけでもナックラーは進化してビブラーバとしていい働きをしたと思うぞ。

 

「プテくん、お疲れ」

「ビブラーバ、もっと強くならなきゃね」

 

 ヒラツカ先生の判定の後、互いにポケモンをボールに戻した。

 

「いやー、まさか進化してくるとは思いませんでしたよ」

「私も進化するつもりがないんだとばかり思ってたんだけどね。多分、先輩の与えてくれた試練のおかげなんじゃないかな」

「お兄ちゃん、また何かイロハさんに入れ知恵したのー?」

「入れ知恵って失礼な。現実を見せてやっただけだ」

 

 まあ、じわれを習得しようと悪戦苦闘した結果、ナックラー自身も思い知ったのだろう。今の自分にはじわれは使えない。

 だけど、さっきのイッシキの何気ない悪態がナックラーに火をつけた。そしてその結果進化するという道を選んだのだろう。

 ただの俺の憶測でしかないから本当のところは分からんが、そういうポケモンなりの思いもあっての進化だったのは間違いない。

 

「さて、続きいきましょうか」

「そうだね。フォレトス!」

「カーくん、いくよ!」

 

 イッシキはフォレトス。コマチはカマクラか。フォレトスを選んだのはやっぱカビゴン用にかね。

 

「ゴンくん、ほのおのパンチ! カーくん、てだすけ!」

「フォレトス、ボディパージで躱して! ヤドキング、いやしのはどう!」

 

 カビゴンの背中に乗ったカマクラはカビゴンのパンチの威力を上げてくる。フォレトスは突っ込んでくるカビゴンを体重を軽くして素早い動きで躱した。そのフォレトスにヤドキングが波導で体力を回復させている。

 

「カーくん、サイコキネシス! ゴンくん、もう一度ほのおのパンチ!」

「そう何度も同じ手は使わせないよ! ヤドキング、うずしお! フォレトス、リフレクター!」

 

 反転して再度フォレトスに飛びかかるカビゴンに背後からヤドキングが渦潮を作り出して、飛ばしていく。

 カマクラに動きを封じられたフォレトスは炎の拳をリフレクターを張って弾いた。

 

「カーくん!」

 

 コマチの命令により、自由を奪われたフォレトスは地面に叩きつけられる。

 ちょうどその時、背後からは渦潮が二匹に襲い掛かった。

 

「カーくん、もう一度サイコキネシス!」

 

 サイコキネシスで渦潮の中で水をコントロールし、避難所を作り出していく。

 

「ヤドキング、きあいだま!」

「ゴンくん、フォレトスにのしかかり!」

「フォレトス、躱してジャイロボール!」

 

 カマクラが渦に逆回転を加えていき、相殺している間に、展開は動いた。

 ヤドキングが渦の中に向けて放ったきあいだまはのしかかりのために大ジャンプしたカビゴンに躱され、ジャイロ回転に移ろうとしていたフォレトスを押し潰した。

 

「これはさすがのフォレトスも耐えられないと思うわ」

 

 ユキノシタの言う通り、これまでのダメージを考えるにいくらヤドキングに回復してもらったからといって、立て続けに攻撃を受けていれば、倒れるのも時間の問題だろう。しかもあの巨体に押し潰されているのだ。はがねタイプといえど無理が祟るだろう。

 

「………ゆきのん、カビゴンの体力って底が知れないんだね………」

「そうね、最後まで攻撃の手を緩めずに押し潰されながらもジャイロ回転をしているフォレトスの攻撃をモノともしないものね」

 

 そうなのだ。さすがユキノシタのポケモンといったところか。

 最後の最後までフォレトスは攻撃の手を緩めずに動き回っているのだ。

 これが最後の攻撃だと言わんばかりに。

 

「ゴンくん、もう一度交代だよ!」

 

 堪らず、見ていたコマチの方があっさりカビゴンをボールに戻した。

 今回のバトルはやけに交代が続くな。

 

「フォレトス、戦闘不能!」

 

 巨体から解放されたフォレトスは意識を失っていた。

 これでやられてしまったが、カビゴンには相当のダメージが入っているはず。

 

「お疲れ様、フォレトス。あなたの頑張りは無駄にしないからね」

 

 先生の判定を受け、フォレトスをボールに戻すイッシキ。

 その目は何かを決意するような目をしていた。

 

「ニャーちゃん、エナジーボール!」

「ヤドキング、シャドーボール! マフォクシー、かえんほうしゃ」

 

 その健闘にイッシキも触発されたのか、カマクラを畳み掛けた。

 ようやく渦潮を解いたカマクラの目の前には黒い塊が飛んできており、コマチの叫びも虚しくカマクラは吹っ飛ばされた。

 

「カーくん!?」

 

 ヤドキングを狙ったエナジーボールはボールから出てきたマフォクシーに焼き尽くされ、地面に撒き散らされた。

 

「カーくん、ひかりのかべからの突撃!」

 

 壁に打ち付けられたカマクラはもぞもぞと動いたかと思うと、ひかりのかべを何重にも作り出し、そのままマフォクシーに向けて飛び出した。

 やっぱり壁で攻撃とかどうかしてると思うぞ。

 

「ニャーちゃん、みらいよち!」

「ヤドキング、シャドーボール! マフォクシー、ブラストバーン!」

 

 みらいよちを放つ雌の方にはヤドキングのシャドーボールが、マフォクシーの目の前まで壁を携えて迫ってきたカマクラには炎の究極技が繰り出された。

 何重にも重ねたひかりのかべを強引に突き破るように炎がカマクラを襲い、躱すよりも技を取ったニャオニクスにシャドーボールが直撃した。

 

「カーくん、ふいうち!」

 

 そんな中、新たな命令が下された。

 究極の炎で壁を突き破っていくマフォクシーの背後にカマクラが移動していた。不意をつくように現れ、マフォクシーをぶん殴った。

 

「木の棒!」

 

 だが、寸でのところで尻尾にさしていた木の棒で受け止められ、時は止まった。

 

「マジカルフレイム」

 

 イッシキの命令が一瞬の時を破り、突如究極の炎は向きを変え、木の棒に集まりカマクラに襲い掛かる。

 マジカルフレイムで究極の炎を操ってきたか。なるほど、威力が伴わないなら制御に目をつけたってところか。確かにブラストバーンの炎は普通の技とは種類が違う。あの炎を操れるだけでも攻撃には幅が出てくるだろう。

 

「カーくん!?」

 

 不意をついてもカマクラはマフォクシーには勝てなかった。

 やはりイッシキはコマチよりも一段上にいるのだろう。

 

「ニャーちゃん!?」

 

 二体のニャオニクスは各々で地面に倒れ伏していた。

 これで戦局は大きく傾いてきたな。

 

「ニャオニクス、戦闘不能!」

 

 先生が判定を下したため、コマチはカマクラをボールに戻した。

 そして、雌の方のニャオニクスが近くで倒れていたのもあって自ら拾い上げにいった。

 

「お疲れ様。カーくんもニャーちゃんもゆっくり休んでて」

 

 ん? あれ?

 雌の方はボールに戻さないのか?

 

「ゴンくん、カメくん! 後がないけど全力でいくよ!」

 

 ようやく最後の二体。

 コマチにとっては厳しい戦況になってることだろう。まあ、だからと言って落ち込むかといえば楽しむ魂なんだよな、あいつ。

 

「コマチさんは何度もバトルに出て攻撃を受けてきたカビゴンと一度も出ていないカメックス。対してイッシキさんはヤドキングとマフォクシー、それにまだ一度も出ていないデンリュウがいるのね…………。コマチさん、苦しいんじゃないかしら」

「そうだね、コマチちゃんもイッシキさんもどんどん強くなってってるけど、やっぱりイッシキさんの方が上なのかな」

「イロハちゃん、なんだかんだ言って最初から私たち三人の中じゃ一番強かったし、そうかも…………」

「あら、そうとは限らないかもしれないわ。まだ何か秘策を隠し持っていてもおかしくはないもの。ねえ、シスコンさん?」

 

 誰だよ、シスコンって。

 何で俺を見て言うんだよ。

 

「…………どう、だろうな………」

「ヒッキーがコマチちゃんをヒイキしていない!?」

「どしたの、ハチマン。どこか具合でも悪いの?」

「ねえ、ちょっと? 何で俺がコマチを贔屓してないだけで、おかしい子扱いなの………?」

 

 ついにトツカにまで心配されてしまった。俺はそんなに重病なのだろうか。

 

「だってー、ヒキガヤくんはー、妹ちゃん一筋だもん! お姉さんにももう少し構って欲しいなー」

「はいはい、そういうのは自分の妹にやってください」

「ヒキガヤくん、面倒事は身内で処理しろだなんて、酷い人ね」

「酷いのはお前だろ。しっかりと自分の姉を面倒事って認識になってるじゃねぇか」

「あーん、酷ーい、ユキノちゃんのいけずー」

「姉さん、その這いずり回すような手つきで触るのやめてもらえるかしら。気持ち悪いのだけれど」

 

 うわー、姉妹で百合百合展開ですか。そうですか。

 ユイガハマが羨ましそうに見てるぞ。

 

「ヤドキング、きあいだま! マフォクシー、にほんばれ!」

「カメくん、ハイドロポンプ! ゴンくん、かみなりパンチ!」

 

 お、カビゴンがまた新しく技を出してきたぞ。まあ、どれも俺たちのを見て習得したんだろうけど。

 きあいだまを雷を纏った拳で殴りつけ、どこからか太陽の光を降らせてくるマフォクシーに水砲撃が撃ち込まれた。にほんばれにより水技の威力が抑えられているため、マフォクシーは何とか耐えたが、これまでのダメージの蓄積は拭えない。

 

「ソーラービーム!」

 

 まあ、そうだろうな。

 そのためににほんばれを使ったんだろうし。

 マフォクシーは木の棒を掲げて光を取り込み、瞬時にカメックスに向けて太陽光線を撃ち放った。

 

「ミラーコート!」

 

 おおう!?

 マジか。いつの間に覚えさせたんだ?

 覚えてると言ったら俺の知ってる限り、ルミルミとかコマチがあまり接点のない奴しかいないんだけど。それともユキノシタのポケモンで誰か覚えてたりするのか………?

 

「私は教えてないわよ」

「……なら誰だよ」

「ぼ、僕………なんだけど」

「えっ、トツカ?」

「うん、一応ね、ハチマンにカウンターを教えてもらってから誰か他に返し技を覚えるポケモンはいないかなって調べてみたら、ミミロップが、その………」

「あー……、覚えたな、そういや」

「う、うん、でね、その………ミミロップと試しにやってみたらできちゃって………」

「マジか………」

 

 マジですか。

 まさかミミロップさんでしたか。

 トツカ大好きミミロップなら無理でもできそうだもんな。

 

「マフォクシー!?」

 

 そうこうしてる内にマフォクシーがソーラービームを返されて、戦闘不能になっちゃったよ。

 

「マフォクシー、戦闘不能!」

「マフォクシー、お疲れ様。ゆっくり休んでね」

 

 マフォクシーをボールに戻したイッシキはいつもつけているペンダントを握りしめた。

 

「すー………はー………、いくよ、デンリュウ!」

 

 出てきましたか。ようやく。

 これで二対二。

 タイプ相性で見ればイッシキの方が有利ではあるが、つい今しがたコマチは返し技を見せている。それが今後にどう影響してくるのやら。

 

「でんじほう!」

 

 デンリュウもヤドキングも同時に電気を集め始めた。

 これで決めるつもりなのかもしれない。決まればいいが、そう簡単にいくとも思えないんだよな。

 

「ゴンくん、ギガインパクト! カメくん、からにこもる!」

 

 カビゴンがヤドキングに突っ込んでいき、カメックスが甲羅の中に潜り込んだ。

 だが、カビゴンがヤドキングに届く前に二体のでんじほうが放射された。

 カビゴンは止まる気配がない。否、止まる気がないのだ。このまま相打ち狙いでヤドキングを倒す気なのか………?

 

「いっけぇぇぇええええええええええっ!!!」

 

 コマチが久しぶりに雄叫びを上げている。

 これで決めようとしてたのはコマチの方だったか。まずはヤドキングを堕としてしまうつもりらしい。

 カメックスはクルクル回転しながらでんじほうを躱した。

 

「ヤドキング、きあいだま!」

 

 そして今度はイッシキが突っ込まれる前にカビゴンを堕としにかかる。だが、ヤドキングが命令を遂行することはなかった。

 

「ヤドキング!?」

「………みらい……よち………?」

 

 ユイガハマの言う通り。

 ヤドキングはユキノシタのニャオニクスが最後に放ったみらいよちに撃たれてしまったのだ。そこにカビゴンの猛攻が入り、吹き飛ばされてしまった。

 だが、何か引っかかる。あのみらいよちはヤドキングの周辺からは発動しなかった。どこからか操られてきたかのような………。

 

「………これは………カビゴン、ヤドキング、ともに戦闘不能!」

 

 相打ち覚悟のカビゴンが見事、目的を達成しやがった。

 

「ヤドキング………、お疲れ様」

 

 ヤドキングをボールに戻すイッシキもみらいよちが飛んでくるとは思っていなかったらしい。

 予想していなかった事態に頭がついて行っていないらしい。

 

「お疲れー、ゴンくん。ナイスファイトだったよ。後はニャーちゃん達に任せてね」

 

 カビゴンをボールに戻したコマチの言葉である。

 ニャーちゃんに任せてね?

 どういうことだ?

 ニャオニクスは二体とも戦闘不能になったはず………じゃ………っ!?

 

「くくくくっ」

「ど、どうしたの、ヒッキー!? いきなり笑い出すとかキモいよ」

「いや、すまん、コマチに一本取られたと思ってな」

「えっ? どういうこと?」

「コマチのポケモンはあと何体だ?」

「えっと、そんなの見れば分かるじゃん………。カメックス一体………」

 

 ユイガハマに問いかけるとやはりそう思っているらしい。

 やはりコマチの罠に嵌ってたんだな。

 

「二体よ」

「えっ?」

「私のニャオニクスはまだ倒れていないもの」

 

 自分のポケモンのことだからか、最初から気がついていたらしいユキノシタ。だからコマチに何かあることを匂わせてたのね………。

 最初から言いなさいよ、まったく。

 

「えっ、えっ? ど、どういうこと!? ねえ、ゆきのん、分かるように説明してよ」

「そうね、まずニャオニクスが二体とも倒れたでしょ。その時、カマクラの方は戦闘不能になった」

「う、うん………それがどうかしたの? 先生もジャッジ下してたじゃん」

「あれはカマクラに対してよ。私のニャオニクスはただ倒れてただけで戦闘不能にはなってないわ」

 

 そういうことだったんだよ、いやマジで。自分の妹にしてやられた気分だわ。

 

「そういうことだ。コマチはさも戦闘不能になったかのように見せかけて、ニャオニクスを抱いてただけだ。あいつはまだ戦えるし、みらいよちもそのおかげで軌道修正に入った。だからヤドキングは撃たれたんだよ」

「えっ、と……それだとダブルバトルとして反則にならない?」

「それがならんのだわ。みらいよちが発動する数瞬前には、カビゴンはでんじほうで既に戦闘不能になっていた」

「あっはっはっはっ! 妹ちゃんも中々の策士だねーっ! お姉さん気に入っちゃった!」

 

 豪快に笑うハルノさん。

 彼女もまた気付いてたみたいだ。魔王やっぱり恐ろしい。

 

「さて、イロハさん! これで二対一ですよ! 今度こそ勝たせてもらいますよ!」

「そうだね」

 

 コマチの言う通り、俺の予想とは裏腹に展開はイッシキピンチになってしまった。

 あれ? これ、コマチちゃんがマジで勝っちゃう?

 

「ここまで追い詰められるなんて思ってもいなかったよ。先輩には上手くいった流れもコマチちゃんには対応されちゃうし、やっぱり兄妹でもバトルスタイルには好き嫌いが違うんだね」

 

 どこか吹っ切れたというか、ピンチだというのにどこか落ち着いた口調のイッシキに違和感しか感じない。

 やっぱりそうなのか? だとしたら、いつから持っていたことになるんだ?

 

「おかげで私も決心がついたよ。トツカ先輩やユキノシタ先輩の時みたいになっちゃうのかなーって思って、これをバトルで使うのは躊躇ってたんだけど。もう、私も全力を出し切ることにするよ」

 

 首に巻いていたペンダントを外すと中をカパッと開けた。ここからだと遠すぎて中が見えない。

 

「イロハさん、それっ!?」

「昔、先輩がくれたんだ。知識がなかったからただの綺麗な石だと思ってたんだけど。くれた先輩もただの綺麗な石だって言ってたしね。でもこうしてみんなと旅をするようになって、これが何なのか理解できた。先輩との思い出だし、大切に持ち歩いていたけど、まさかデンリュウがもう片方を見つけてくるなんて思わなかったよ。大雨の日にアズール湾に先輩を追いかけて行ったの覚えてる? あの時にね、途中でデンリュウが見つけてきたの」

 

 これは………ビンゴですね。

 やっぱりこいつも持っていやがったか。けど、話の節々に俺が出てくるんだが………、俺あいつにあげた覚えないんだけど。

 

「いくよ、コマチちゃん! これが私たちの今の全力!」

 

 そう言ってイッシキはペンダントを握りしめた。

 

「デンリュウ、メガシンカ!」

 

 ペンダントとデンリュウの尻尾が光を発し始める。

 その光は徐々に結び合い、反応を示していく。

 白い光に包まれたデンリュウは姿を変えーーー。

 

「メガ、シンカ………」

 

 ーーーメガシンカした。

 

「ちょっと、待って。イッシキさんがどうしてキーストーンを持っているの? それにメガストーンの方だって」

 

 ユキノシタは目の前の光景が信じられないらしい。

 

「ハチマン……は、知ってたの?」

 

 トツカも少し戸惑ってる様子である。

 

「いや、だが何となくそんな予感はしていた。たまに俺のキーストーンと共鳴するかのように光を発してたんだ。もしやと思ってたけど、まさか持ってるなんてな」

「思い、出した………。ヒッキーの卒業試験の時だ! 体育館倉庫で隠れてる時にヒッキーが何か落としてイロハちゃんがもらってた。あたしも何か欲しくて制服預かってろって言われたけど、ヒッキーとの思い出って言ったら絶対それだよ!」

 

 ……………へー。

 全然覚えてないや。

 なんかユイガハマとイッシキと一緒に隠れた記憶はあるんだけど。

 そんな細かいところまで覚えてないっつーの!。

 

「カメくん、ハイドロポンプ! ニャーちゃん、サイコキネシス!」

「デンリュウ、アイアンテール!」

 

 ニャオニクスに身動きを封じられ、カメックスに水砲撃で狙われるも、デンリュウはそれら全てを鋼の尻尾で弾き飛ばした。

 

「こうそくいどうからのシグナルビーム!」

 

 一瞬でニャオニクスの背後に回ったデンリュウはカラフルな光線で意識を刈り取った。

 

「カメくん、りゅうのはどう!」

 

 何故、そこでりゅうのはどうなのだろうか。デンリュウ、つまり電気の竜とでも考えたのかね。タイプがどう変更してるのかは知らないが、安直な考えな気がするぞ。

 

「デンリュウ、りゅうのはどう!」

 

 同じ技なのに威力がまったく違う。

 あれ? やっぱりドラゴンタイプが加わったのん?

 竜を模した波導はカメックスを飲み込み、弾き飛ばした。

 

「取りあえず……、ニャオニクス、戦闘不能!」

 

 あ、先生も戸惑ってるぞ。

 まあ、まさかあのイッシキがメガシンカに必要なものを揃えてくるなんて、思ってもみなかっただろうからな。狼狽えるのも仕方がない。

 そして、今度こそコマチはニャオニクスをボールに戻した。

 

「メガシンカを使うのにはそれなりの覚悟が必要、か。今のイッシキは悩みに悩み抜いて出した答えだから、覚悟は充分ってことかよ」

 

 プラターヌ博士にキーストーンをもらった時に言われた言葉。今のイッシキは充分にその覚悟を備えているらしい。メガシンカを完全に物にしているのが何よりもの証拠である。

 

「カメくん!?」

「ガメーっ!」

 

 起き上がったカメックスはまだまだやる気に満ち溢れていた。

 

「これがイロハさんの全力………。こっちも全力でいくよ! カメくん、ハイドロポンプ!」

 

 気づけば太陽の光もなくなり、水技への影響もなくなっていた。

 

「デンリュウ、ひかりのかべ!」

 

 ひかりのかべ一枚を作り出し、それだけで水砲撃を受け止めた。

 

「カメくん、からにこもる!」

「かわらわり!」

 

 そしてカメックスを狙ったものだと思ったら、自分で作り出したひかりのかべを乱雑に叩き壊した。

 破片が宙を舞う。

 

「デンリュウ!」

 

 イッシキの呼びかけに応じるように戻っていく。

 そしてイッシキの前に立つと電気の塊を上に投げ上げた。

 あ、あれ………使ってるんだ…………。

 

「レールガン!」

 

 落ちてきたところをズドン! と撃ち出した。

 

「カメくん、ミラーコート!」

「ゲッコウガ、まもる!」

 

 カメックスへと伸びる一閃はザイモクザオリジナルに引けを取らない速さと威力。

 しかもひかりのかべの破片に触れるや、プリズムとなり乱雑に屈折していった。これにはカメックスも真っ直ぐ来る一閃しか受け止められず、多方向から次々と襲い掛かる何発もの屈折閃に崩れ落ちた。

 

「カメくん!?」

 

 効果抜群の技を何発も受けたカメックスは身体が痺れたまま気を失っていた。

 

「くっ………、なんという威力だ。と、とにかく、カメックス、戦闘不能! よって勝者、イッシキイロハ!」

 

 あーあーあー。

 建物が。

 穴だらけじゃねぇか。

 何てことしてくれるんだよ。

 

「ったく、成長しすぎだっつの」

 

 妹どもは二人して大きな成長を遂げていた。




ダブルバトルは描くのが難しいです………。

次は腐女子と天使のバトルですよ。

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