ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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しばらくバトル回になりますね。


66話

 晩飯食った後。

 俺たちは早速、ザイモクザとトベのバトルを観戦するべくバトルフィールドにやってきた。

 審判はどのバトルもヒラツカ先生がやるらしい。なんか「ここは譲れません」って言われた。どこの正規空母?

 

「使用ポケモンはトベに合わせて五体! 技の制限はなしだ! 交代も自由! 思う存分戦ってくれ! それではバトル開始!」

 

 はやっ。

 もう始まったし。

 

「ダイノーズ!」

「はがね・いわ………、ムクホーク!」

 

 まず最初のバトルはダイノーズとムクホークか。

 一見、ダイノーズの方が有利に見えるが、素早いムクホークにはインファイトというかくとうタイプの技がある。トベがしっかり覚えさせていれば戦況はどちらに転がるか分からんな。

 

「主砲、斉射!」

 

 えー、あいつ最初から手加減なしかよ

 食後だからゆっくりしたいんだろうな。ということはさっさと終わらせようって魂胆か。

 

「ムクホーク、こうそくいどう!」

 

 ロックオンで狙いを定めてきたダイノーズから振り切るためか、高速で近づいていく。

 

「ってーっ!」

「上昇!」

 

 発射と同時に切り返して直角に上昇。ムクホークはでんじほうを躱した。

 だが、追尾機能を付けられたためそう簡単に逃げ切ることはできない。軌道を変えたでんじほうがすぐにムクホークを追いかける。

 

「切り返し!」

 

 素早い動きで天井近くまで上昇すると一気に切り返し、天井を這い回るようにでんじほうを引きつけていく。

 

「下降!」

 

 このフロアを一周するように自陣に下降してきた。

 

「斉射、ってーっ!」

 

 ムクホークが降りてきたのを見計らい、ザイモクザは次を仕掛け始めた。

 

「でんこうせっか!」

 

 地面すれすれで切り返し、さらにスピードを上げたムクホークがダイノーズへと突っ込んでいく。

 撃ち出された二発目のでんじほうに臆することなく勇敢に立ち向かっていくが、何か策はあるのだろうか。俺であればギリギリまで引き付けてからの後ろのでんじほうで相殺するが果たしてトベにそこまでの技術があるのやら………。

 

「ぬぅ、ならば連続だ!」

 

 だがあっさりと躱されてしまった。真正面からザイモクザはチビノーズたちも使ってでんじほうの連発に切り替えた。躱したでんじほうも軌道を変えてムクホークを追いかけていく。

 当のムクホークは迫り来るでんじほうの弾群に道を阻まれるも、体を捻ってギリギリのところで躱している。

 

「左にナイフエッジロール!」

 

 ムクホークは素早く動いている中、トベの命令通り転がるように二回転して左に流れた。

 横に一回転して身体を流すことで、急な切り返しについてこれなかった二つのでんじほうが連発で撃ち出されたでんじほうに相殺されてしまった。

 なるほど、少し甘く見てたのかもしれない。

 

「かげぶんしん!」

 

 転がった先で影を増やし始め、ダイノーズを撹乱していく。

 

「ねっぷう!」

 

 影の方が翼をはためかせて熱風を送り込み、その間に本体が熱風の中に潜り込むのが見えた。

 一方ダイノーズはというと落ち着いている。

 

「ボム!」

 

 ボム?

 爆弾?

 今度は何の技のことなんだ?

 …………………マグネットボムとかじゃないよな?

 

「ぬう、当たっていない……」

 

 熱風の中、か。

 多分技が当たらなかったのは蜃気楼でも起こったのだろう。そんでもって熱風で溶けたのだろうな。

 

「インファイト!」

「っ、てっぺき!」

 

 少し上を見ていたダイノーズは下から現れたムクホークに蹴り上げられ、一蹴り入れられる。

 ザイモクザの命令通りにてっぺきを張り二発目を受け止めるが、すぐに壁が壊されてしまった。間もなく三発目が入れられ、ダイノーズの重たい身体は宙に舞い上げられた。

 そして四発目の蹴りで地面に叩き落とされ、猛攻は終了。

 

「ふひっ」

 

 だが、まあ、さすがというか。

 ザイモクザは猛攻の間に動くのをやめ、チビノーズたちにムクホークの背後に回らせていた。

 

「なっ!?」

 

 チビノーズ三体に捕まえられたムクホークは猛攻の疲れが出たのか、動きが鈍くなっていて振り解けない。

 逆にダイノーズはまだまだ戦える状態である。さすがの耐久力だな。

 

「レールガン!」

 

 うわぁー、すげぇ嬉しそう。

 こう決め技を叫ぶことができるタイミングとか、あいつが喜びそうな展開じゃないか。

 

「ムクホーク!?」

 

 ダイノーズが撃ち出した一閃がムクホークに直撃し、トベの背後の壁にまで吹っ飛んで行った。

 あーあ、また壁が。

 

「ふっ、決まった」

 

 なんかあっちではダイノーズと勝利のポーズを取っているが放っておこう。

 

「ムクホーク………は、戦闘不能だな」

 

 ムクホークの容態を見に近寄って行ったヒラツカ先生が判定を下した。

 まあ、あそこで立ち上がったとしても身体が痺れて思うようには動けまい。

 どちらにしろ終わっていただろ。

 

「乙っ、やー、マジザイモクザキくんパネェわ。あんなでんじほうヤバイっしょ。マジリスペクトだわー」

 

 トベが何を知ってるのか理解できないが、まあ褒めているのだろう。

 喜んでいるけど、誰だよザイモクザキくんって。

 

「次はグライオン!」

「ダイノーズ。大義であった。休んでいるが良い。我も次のポケモンと行こう! 出でよ、Z!」

 

 ここでポリゴンZ出してくるのか。

 まあ、対グライオンを考えるとジバコイルたちよりはZの方が動きやすいかもしれない。

 なんせでんきタイプを出したら主砲が使えなくなるからな。じめんタイプというだけで持ち合わせる無効化はザイモクザの天敵とも言える。

 

「れいとうビーム!」

「あくのはどう!」

 

 まずはお互いの技の相殺か。

 いつの間にれいとうビームを覚えていたんだか。

 

「シザークロス!」

 

 技の相殺で上がった煙に紛れて、グライオンがZに向けて飛び出した。

 

「れいとうビーム!」

 

 もう一度撃ってきたか。

 だが今度はグライオンが引かないらしい。特徴的な両腕のハサミを構えて飛び込んでいく。

 

「ジジッ!」

 

 Zは凍ったハサミで斬り付けられ、難なく後ろに下がった。

 

「テクスチャー2!」

 

 テクスチャー2か。

 相手が最後に出した技に強くなるようタイプを変える面白い技である。

 今回はほのお、かくとう、どく、ひこう、ゴースト、はがね、フェアリーのいずれかなのだが、はてさてポリゴンZは何タイプに変化したのかね。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 ということはほのおタイプか?

 いや、あいつが理解できてるとも思えんのだが………。

 

「がんせきふうじ!」

 

 自分の周りに作り出した岩を飛ばして、かえんほうしゃの威力を抑えていくグライオン。

 

「はかいこうせん!」

 

 技を切り替えたポリゴンZのはかいこうせんが飛ばしてくる岩々をも砕き、グライオンを飲み込んだ。

 テクスチャー2でノーマルタイプでなくなってるからタイプ一致ではないが、それでもグライオンの体力を一気に削れたのは間違いない。

 

「だいちのちから!」

 

 踏ん張ったグライオンがヨロヨロと起き上がりながら地面を大きく叩きつけた。

 するとゴゴゴゴッと地響きがして、ポリゴンZの足元から火柱が噴き出しーーー

 

「こうそくいどう!」

 

 ーーー躱された。

 来るのを読んでいたのだろう。

 グライオンは地面に落下した。

 

「れいとうビーム!」

 

 すかさずZのれいとうビームが放たれ、地面に倒れ伏すグライオンに直撃した。

 効果抜群。

 もはやグライオンには戦う力が残っていないだろう。やっぱ最初のポケモンだけあってポリゴンZは強く育てられている。

 

「グライオン戦闘不能!」

「グライオンでも勝てないのー………マジパネェ」

 

 グライオンをボールに戻すトベが一人愚痴ている。

 ムクホークとは系統の違ったひこうタイプを出してきたんだろうが、そこもザイモクザによまれてたんだな。ま、それくらいやってくれなきゃ、俺の部下として働いてないってな。

 

「Zよ、見事であった。次も行くぞ!」

「ジジッ!」

 

 今度は交代なしか。

 なら、次はトベがどう仕掛けてくるかだな。

 

「ヒノヤコマ!」

 

 ヒノヤコマか。

 まだ最終進化を遂げていない状態。進化してほのおタイプを手に入れているが、そこを上手く使えるかだな。だが所詮焼け石に水のような気もする。相手はあのポリゴンZ。ザイモクザのポケモンの中では一番厄介な技を覚えてる奴だ。そう簡単に落ちるわけがない。

 

「ニトロチャージ!」

「トライアタック!」

 

 加速を始めたヒノヤコマに三色の光線が飛び交った。

 隙間を縫うように躱していくが、その間にポリゴンZが次の構えに入っている。

 

「主砲斉射!」

 

 ロックオンでヒノヤコマを捉えると。

 

「ってーっ!」

 

 でんじほうが放たれた。

 すぐに右に折れたヒノヤコマの後を追うようにでんじほうも追尾していく。

 

「切り返し!」

 

 もう一度右に折れ、トベの元へと向かっていく。

 

「ヒノヤコマ、ループ!」

「ヒノー!」

 

 追いかけてくるでんじほうを引きつけて、宙返りをして後ろに付いた。

 そういや、こういう場合ってどう動いてきたっけ?

 

「ひのこ!」

 

 口から吐かれた火の粉によりヒノヤコマの後を追おうとしたでんじほうが爆発。

 半円を描くようにしてヒノヤコマが再度ポリゴンZに向けて駆け抜けた。

 

「ってーっ!」

「はがねのつばさ!」

 

 もう一度放ってきたでんじほうを今度は鋼の翼で打ち返しに行った。

 だが、最終進化のファイアローですら無理かもしれないのに、ヒノヤコマでは無理だ。

 

「あ、あれは!?」

「進化っ!?」

 

 すると皆が驚くように白い光に包まれたヒノヤコマを見ている。

 進化が始まったのだ。

 まさかこのタイミングで進化するのか。それくらい追い詰められているという証拠でもある。

 パチンッ! と指を鳴らしたトベはウインクして命令を出した。なんかウザい仕草だな。

 

「打ち返せ!」

 

 強引にでも鋼の翼ででんじほうを打ち返した。

 

「甘いわっー!」

 

 だが、ロックオンをされていたのだろう。

 ポリゴンZに当たる前に停止し、再度進化したファイアローの元へと帰っていく。

 

「躱してブレイブバード!」

 

 大きな鳥を模した光に包まれ、ファイアローがでんじほうを躱した。

 その先にはZがいるが。

 

「こうそくいどう!」

 

 あっさりとこうそくいどうで躱されてしまった。

 ファイアローの右翼の下をすり抜けたZは向きを変える。

 

「でんじは!」

 

 バチバチとした波を送り、ファイアローを痺れさせた。動きの鈍ったファイアローはとうとう地面に倒れ伏す。

 

「レールガン!」

 

 でんじほうよりも細く、かつ速くなった一閃でファイアローにとどめを刺した。

 

「ファイアロー!?」

「ファイアロー、戦闘不能!」

 

 これでトベのポケモンは残り二体。ピジョットとエアームドだったか。多分次に出してくるのはエアームドの方だろうな。ピジョットが切り札っぽいし。

 

「マジ強いわー。ヒキタニくん相手じゃないから勝てるんじゃね? とか思ってた俺がバカみたいだわー」

 

 いや、バカだろ。

 ユイガハマよりマシかもしれないけど。

 

「Zよ、大儀であった。次は休んでいるが良い」

 

 ザイモクザはようやくZをボールの中に帰したか。

 

「エアームド、お前の実力を見せてやれ!」

 

 こらこら、フラグを立てるんじゃない。

 エアームドがかわいそうじゃないか。

 

「出でよ、ジバコイル!」

 

 対してザイモクザが出してきたのはあいつの乗り物と化しているジバコイル。

 あいつも結構な付き合いらしい。捕まえた時がコイルだったらしいし、それから進化を重ねるために点々としてたみたいだからな。

 強さは充分と言えよう。

 

「げぇ、はがねタイプ…………、ないわー、ザイモクザキくん、それはないわー」

 

 ポリゴンZのまま、あるいは他の違うポケモンで来ると思ってたらしいが、よりによってジバコイルだったことがショックなようである。まあ、ジバコイルもはがねタイプの持ち主だからな。何ならザイモクザのポケモンが割とはがねタイプを持ち合わせているし。仕方ないといえば仕方ない。

 

「いつでも掛かって来るが良い!」

「なら、行かせてもらうよ! エアームド、きんぞくおん!」

 

 うわっ、耳痛ぇ。

 こういう雑音系の技って見てるこっちにも影響あるからやめてほしいよね。

 

「マジックコート!」

 

 遠距離からの防御力を下げる技であるが、しっかり跳ね返しやがった。

 これにはトベも考えが及んでいないことだろう。

 

「うげぇ、マジか………」

「エレキフィールド!」

 

 今度はザイモクザが動き、フィールド一帯に電気を張り巡らせた。これででんきタイプの技の威力が底上げされることになる。

 

「エアームド、こごえるかぜ!」

 

 ひこうタイプでは珍しくこおりタイプの技を覚えてるのか。

 こごえるかぜは当たった相手の素早さも下げてくる。

 案の定、ジバコイルの両脇の磁石が凍ってしまって、上手く電気を発することができなくなっている。そのせいで、磁場で浮いている身体も機動が上手く掛かっていない。

 

「つじぎり!」

 

 翼を黒く染め、動きの鈍ったジバコイルに襲いかかる。

 

「ジャイロボール!」

 

 ジバコイルが高速回転を始めた。

 高速回転により両脇の磁石の氷が溶け始め、動きにキレが出てきた。ジャイロボールに素早さを上げるような効果はないのにな。

 激しいぶつかり合いで、両者とも後退する。

 

「主砲、斉射!」

「エアームド、来るぞ! こうそくいどう!」

 

 エアームドもこうそくいどうを覚えているのか。案外、みんなに覚えさせてたりしてな。

 

「ってーっ!」

 

 ジバコイルのロックオンからのでんじほうが解き放たれた。

 急上昇をして逃げるエアームドの後を追いかけていく。

 

「ウォーターフォール!」

 

 上昇から一転、失速したエアームドがくるりと身体を翻らせて、下降しながらでんじほうを躱した。

 

「ゴッドバード!」

 

 エアームドが急下降しながら内なる力を溜め込んでいく。

 上空ではでんじほうが軌道を変え、再度エアームドを追いかけてくる。

 

「ジバコイル、もう一発!」

 

 ザイモクザにそう命令されたジバコイルはもう一発のでんじほうを作り出していく。

 その間にぐんぐんとエアームドに距離を縮められている。

 

「ってーっ!」

 

 でんじほうが放たれたと同時にエアームドの技も完成した。

 縦横無尽にゴッドバードが炸裂し、全てを巻き込んでジバコイルに突っ込んでいった。

 

「ジバコイル!?」

 

 やられてはいない。

 だが思いもよらない突撃に、場の空気は持って行かれた。

 

「エアームド、交代ーーー」

 

 爆風から出てきたエアームドにトベがスーパーボールを掲げるが、当のエアームドは戻ってこれない。戻ってこないというよりは戻れないといった感じか。

 

「……ああ、そういやあのジバコイルの特性はじりょくだったな」

「じりょく?」

「相手がはがねタイプであれば絶対に交代をさせない、倒れるまでボールに戻せない特性よ。はがねタイプの天敵といってもいいわ」

「ほえー」

 

 ユキノシタの説明にコマチが関心を示しているが、理解しているのだろうか。理解しているよね。じゃないとお兄ちゃん泣いちゃう。

 

「ふはははははっ! 我がジバコイルの特性は磁力。某のエアームド、此奴を倒さぬ限り戻ることはできぬ!」

 

 してやったりとドヤ顔を浮かべて高笑いしている奴がいるぞ。

 つか、交代する意味あったのか?

 残ってるのはピジョットだろ?

 …………ほのおタイプの技でも覚えてるってならまあ分からんでもないが。

 

「くっ、んじゃもう一度ゴッドバード!」

「二度も同じ技ではやられん! ジバコイル、もう一度エレキフィールド!」

 

 いつの間にか消えていたエレキフィールドを再度起こし、フィールド一帯に電気を張り巡らせる。

 

「かげぶんしん!」

 

 エアームドが力を溜め込んでいる間に、ジバコイルの影を増やし始めた。

 影は後ろ向きに上昇しているエアームドを取り囲むように柱になって伸びていく。

 

「全主砲斉射!」

 

 ジバコイルによって道を固定されたエアームドの技が発動した。近くのジバコイルの影から次々と飲み込んでいき、本体へと一気に急降下してきた。

 

「ってーっ!」

 

 無数のでんじほうが降り注ぐエアームドに集結される。

 だが、それでも構わずエアームドはジバコイルの影を強引に突破し、本体に突撃した。

 

「………相打ち………、いやジバコイルに白旗だな」

 

 煙が巻き上がりどうなったかは分からない、恐らく勝ったのはジバコイルの方だろう。

 技の相性、威力共にジバコイルの方が勝っていた。

 

「ジャイロボール!」

 

 ザイモクザの突然の命令に煙の中で何かが動き出した。恐らくはジバコイルが高速回転を始めたのだろう。

 そしてそうであったことを証明するかのように、痺れを受けたエアームドが煙の中から飛ばされてくる。

 

「エアームド!?」

 

 トベが焦りの色の入った叫声を上げ、エアームドを呼びかける。

 地面にバタリと鋼の身体を打ち付けたエアームドに反応はない。

 

「エアームド、戦闘不能」

 

 またしてもザイモクザの勝利。このまま完勝しそうだな。まあ、あいつのことだからするんだろうな。

 

「くはーっ、マジかー。エアームドでも勝てないのかー………」

 

 今のバトルはエアームドだけでなくトベにもダメージが入ったようだ。

 ボールに戻しながら、トベがため息を吐いている。

 

「ふははははっ! 今のバトルは面白かった。だが、それだけでは我には勝てぬ! 某の最後のポケモン、篤と味わわせてくれい!」

 

 いや、そんな決めポーズ取らなくていいから。みんな引いてるぞ。

 

「ザイモクザキくんがここまで強かったなんて、俺たちも考えが甘かったわー。これはマジでやるしかないっしょ! ピジョット、最初から全力でいくぞ!」

 

 とうとうトベの最後のポケモン、ピジョットの登場である。

 前に一度見たことあるが、その時は強さを測るほど見ていられなかったからな。

 最後のポケモンだし、切り札的存在はどれほどの強さなのか見せてもらおう。

 

「ジバコイル、大儀であった。休んでいるが良い」

 

 ジバコイルはこれにて退場か。

 そうなると次は何を出して来るんだ? ロトム? あの二本の剣? それとも唯一の雌であるエーフィか?

 

「出でよ、Z!」

 

 なんだ、またZか。

 まあ、強いからいいけどね。

 

「またポリゴンみたいなの………」

 

 どうやらトベはポリゴンZを知らないらしい。

 まあ、俺たちも知らなかったくらいだし、無理もないか。

 

「ピジョット、ソニックブースト!」

「ぶっ!?」

 

 えっ?

 マジで?

 うそん。

 トベもあれ知ってるのかよ。どういうことだってばよ。実はあいつ、隠れオタクとか?

 エビナさんがいるから否定できねぇ……………。

 

「あら、どこかの誰かさんが使ってる技じゃない」

「遠まわしに言わなくていい………。余計に刺さる」

 

 じとーとした目で横にいるユキノシタが俺を見てくる。

 えー、マジでどういうことなのん?

 

「Zよ、かげぶんしん!」

 

 ゼロからトップに急加速して迫ってくるピジョットを影を増やして撹乱し、攻撃を躱した。

 

「エアキックターン!」

 

 これもか………。

 もはや偶然とは言えないな。

 空気を蹴って方向を180度転換し、再度ポリゴンZに向き直る。

 

「「こうそくいどう!」」

 

 そして二体は高速で移動を始め、互いに隙を狙っていく。

 フィールドを立体的に使い、至る所でいがみ合っている。

 

「ブラスタロール!」

 

 先に仕掛けたのはトベの方だった。

 背後を取られたピジョットが翻り、Zの背後に回りこんだ。

 

「ブレイブバード!」

 

 鳳を模した光に身を包み、背後から襲い掛かった。

 急激な変化に対応できず、Zは攻撃を諸に受け、地面すれすれで態勢を立て直した。

 

「主砲、斉射!」

 

 上空で攻撃の反動を受け、怯んでいるピジョットに照準を合わせる。

 

「ってっー!」

 

 そして放たれたでんじほうがピジョットに襲いかかる。

 

「ローヨーヨー!」

 

 うん、もうこれ絶対知ってるパターンだわ。

 マジかー、ないわー。マジないわー。

 でんじほうに向かっていくように下降をし始め、Zに迫っていく。

 

「れいとうビーム!」

「オウムがえし!」

 

 近づいてくる的には凍らせるというのも手ではあるが、そう簡単に凍るようなものでもない。

 というか、飛行技を使ってる時点であのピジョットは他のポケモン達とは格が違うと見た方がいいだろう。

 しかもピジョットの前には電気が溜め込まれていく。

 恐らくはでんじほうだろう。

 何を狙ってオウムがえしを使ってきたかは分からないが、何か策があるのだろうな。

 でんじほうとれいとうビームが交錯し、相殺された。衝撃で爆風が生み出され、土煙が二体を覆う。

 

「はかいこうせん!」

「ぼうふう!」

 

 いきなり激しい風にフィールド一帯が覆われ始める。

 ピジョットのぼうふうだ。

 そのせいでZのはかいこうせんも的を外れ、建物の破壊になっていっている。

 これ以上、壊すなよ。マジでこの研究所が崩れるぞ。

 

「落ち着くのだ、Zよ。まずは主砲斉射!」

 

 この中でもいつも通り技を使わせるのな。どんだけ好きなんだよ、でんじほう。

 

「そのままかげぶんしん!」

 

 ふむ、複数攻撃か。

 あの状態のまま影を増やすことができるのは初めて知ったわ。まさかそこまで達するほど育てられているとは………。

 

「ってーっ!」

 

 暴風が荒れ狂う中、でんじほうの乱れ撃ちが始まった。

 やっべ、これ俺らの巻き込まれるやつだ。

 

「すまん、ゲッコウガ。まもる」

 

 マフォクシーに膝枕されながらバトルを見ていたゲッコウガが起きることなく、俺たちを守るように壁を貼ってくれた。

 何でもいいが何様だよ、こいつ。イチャコラしやがって。

 

「うひゃー、研究所壊れないかなー」

 

 ほんとそれ。

 天井やら壁やらが乱れ撃ちで破壊されていくのが音だけで分かってしまう。

 さっさと終わらせないと建物の方が持たない気がするぞ。

 

「ソニックブーストで躱せ!」

 

 高速移動ででんじほうが飛び交う中を翔けていくピジョット。

 よくあの中を一発も当たらずに躱せるな。多分リザードンもできるだろうけど。

 

「ゴッドバード!」

 

 躱す間も無駄にせず、力を溜め込んでいく。

 こんなに場を荒らしている当のポリゴンZは、やっぱりどこか壊れてしまったのかもしれないな。進化に失敗したか?

 

「来るぞ、Zよ! 引き付けろ!」

 

 ピジョットが技を切り替えて暴風もやんだというのに、未だでんじほうを乱れ撃ちしていた(ロックオンしてなかったのかと問い質したい気分だ)Zさんがようやく目標をセットした。

 はあ…………、やっと終わったか。あーあ、めちゃくちゃじゃねぇか。

 

「テクスチャー2!」

 

 力を溜め込みながら迫ってくるピジョットを見据えて、タイプを変えてきた。

 

「まだだ! もっと引き付けろ!」

 

 ようやくピジョットの技も完成し、発動に切り替わる。

 それでもザイモクザはまだ引き付ける気らしい。

 

「ーーー今だ! レールガン!」

 

 ピジョットの突撃が成功する瞬間に一閃が迸り、天井へと撃ち上げた。

 今まで撃っていたでんじほうとは比べものにならないほどの速さを持つレールガン。エネルギーを速さに回したザイモクザオリジナルのでんじほうらしい。だがこれくらいのでんじほうをライコウが使っていたというのだから、伝説の恐ろしさは計り知れない。

 

「ふっ、さすが特性てきおうりょく。テクスチャー2でタイプを変えて正解だったわっ! ふはははははっ! ふひっ」

 

 ああ、だからか。

 テクスチャー2を使ったのもそのためだったのか。

 ポリゴンZの特性はてきおうりょく。タイプ一致の技の威力を底上げする特性。そしてテクスチャー2でタイプをひこうタイプに強いでんきタイプに変え、でんじほうをタイプ一致で撃たせた。そのおかげでいつもにも増してレールガンの威力が上がっていたのだ。

 

「さすがザイモクザだな」

 

 ザイモクザはやはりああ見えて結構な手練れのトレーナーである。

 メガシンカこそ使えるポケモンがいないが、何か一つを極めたトレーナーと言うのも恐ろしい限りである。今のあいつとバトルしたら俺たちは勝てるのか想像もつかない。それくらいには改めてあいつの強さを思い知った。

 

「ピジョット!?」

 

 シューと落ちてきたピジョットをトベがダイビングキャッチした。よくキャッチできたな。体壊すぞ。

 

「トベ……、そうか、ピジョット戦闘不能! よって勝者、ザイモクザ!」

 

 先生がトベに尋ねるが、彼は首を横に振りピジョットの状態を伝えた。

 それにより判定が下された。

 

「改めて、ザイ………ザイ……ザイツくんが強いってことが分かったわね」

「お前、せめてこういう時くらい名前覚えてやれよ………」

 

 誰だよ、ザイツくんって。

 トベといい、ザイモクザの名前覚えてやれよ。

 

「ひこうタイプの専門、ね」

 

 トベがここまでひこうタイプに拘り、ポケモンの技以外の飛行術を使ってきたのは驚きだった。もっとこう適当な感じなのだと思ってたが、なんだかんだ言って真剣にひこうタイプと向き合ってるらしい。

 それなら俺もフレア団との決着がついた後にでもバトルがしてみたくもなってきた。

 その時には今以上に強くなってるだろうしな。


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