ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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65話

 どう動く、かね。

 まあ、そろそろいいか。

 

「明日、フレア団を堕とす」

「………本気?」

 

 少し間があった後にユキノシタが苦い顔で聞き返してくる。

 

「ああ、もう好き勝手されても困るからな。物的証拠がないから攻める機会を伺ってたが、こうも俺を目の敵にされたんじゃ我慢ならん。フレア団を壊滅させる」

 

 今まではフレア団の物的証拠、あるいは確定的な何かができないか機を待っていたが、もうここまでされてはただ一方的に被害が出るだけだ。そろそろ堕とさないと本当にヤバイ。

 

「当然、私たちもついて行きますよ?」

「どうせ言っても聞かないだろ。好きにしてくれ。ただ、ついてくるんだったら戦力を教えてくれ。使えるものは全て使う」

 

 イッシキの言う通りこいつらはみんなついてくることになるだろう。本当は連れて行きたくないが、言ったって聞きそうもないし、それならば俺が動かした方がまだ安全かもしれない。

 だったら、初心者三人(もう初心者って言わない方がいいだろうけど)を除いた奴らのポケモンを知っておくべきだ。こっちで捕まえたポケモンよりは今まで育てたポケモンの方が経験があるし、扱いも慣れているはず。それに必要ならばポケモンの貸し借りも行えるからな。コマチたちの戦力強化にも繋がる。

 

「それは私たちが今までに捕まえたポケモンたちを教えろってことかしら?」

「ああ、そういうことだ。ポケモンによっては貸し借りをしてもらうことになるかもな」

「そう……、私のポケモンはあなたが知ってる六体の他に実家にペルシアン、マニューラ、フォレトス、ギャロップがいるわ」

 

 まずはユキノシタ。

 オーダイル、エネコロロ、ボーマンダ、ユキメノコ、ニャオニクス、クレセリアに加えて、ペルシアン、マニューラ、フォレトス、ギャロップがいるのか。

 ペルシアンがいるのはなんかユキノシタらしい。

 逆にフォレトスがいるのは意外だったわ。

 だが、まあいいポケモンばかりだな。

 

「お姉さんはねー………ねえ、ヒキガヤくん。私のポケモンって何知ってる?」

 

 聞き返すなよ。

 思い出せってことかよ。

 

「はっ? えーっと………カメックスにネイティオ、メタグロスにバンギラス二体にハガネールが今持ってる奴ですよね………。後はパルシェンとかドンファンとかいませんでした?」

 

 確か、あの決勝戦で使ってたパルシェンとドンファンが今連れているポケモンの中にいなかったはず。というかすでに六体連れ歩いてるし普通に無理か。

 

「うんうん、記憶力ばっちりだね。さすがリーグ優勝者」

「逆にあれが俺だったって気づいてたんですね」

「そりゃ、私を倒せた相手なんて数少ないからね。嫌でも覚えちゃった」

 

 あの時の話を彼女としたことなかったが、あっちは気づいてたんだな。気づいててずっとなんのアプローチも取ってこなかったのか。

 で、今…………今更なんかされちゃうとかないよね?

 

「…………私から脅迫まがいに聞き出しておいてよく言うわね」

「へー、そんなこと言うんだー。最初のポケモンを選ぶ時に私がみずタイプ選んだからって、同じみずタイプのワニノコを選んできたのは誰だったかなー」

 

 相変わらず仲のいい姉妹だこと。

 なんとなく分かっていたけど、やっぱりそういう理由だったんだな。

 

「あら? 昔のことなんて記憶にないわ。私はワニノコーー今はオーダイルのあの子に魅かれただけよ」

「じゃー次は私ですかねー」

 

 無視ですか。そうですか。

 イッシキ、後でお仕置きされても知らんからな。ほんとこいつは怖いもの知らずだな。

 

「あ、イッシキとコマチとユイガハマはいいわ。知ってるから」

「うぇっ?! 酷いです………」

 

 いや、分かってるのに聞く必要もないだろ。

 それとも何か? 新しく何か捕まえたのか?

 

「逆に何か新しく捕まえたのかよ」

「いえ………、変わりないです………」

 

 そんなに言いたかったのか?

 なんでそこで落ち込むんだよ。

 

「んじゃ、次はあーしらか。あーしはヒキオとバトルしたポケモン六体のみ」

 

 あら意外。

 アーボックとか捕まえてると思ってたのに。

 

「俺はピジョットにエアームドっしょ、それからグライオンにムクホーク、ヒノヤコマ」

「……………」

 

 …………………。

 え? 何こいつ。

 割とガチなトレーナーになろうとしてたのん?

 マジで?

 バトルしてみた方がいいのかね。

 

「せんぱーい……って、あーですよね。トベ先輩がひこうタイプを極めようとしてるの知りませんよね」

「いろはすー、そんな褒めても何も出ないべ?」

「出さなくていいです。それと別に褒めてませんから。それとキモいです」

「ないわー、いろはす、そりゃないわー」

 

 さすがいろはす。躱し方が慣れてる。

 

「あ、私のこそ知らないよね。エビワラーにゴーリキー、ドククラゲにオムスターにモジャンボだよ。筋肉と触手のパラダイス! あ、一つ空きがあるからヒキタニくんもパーティーに入らないっ? 今なら大歓迎だよ。愚腐、愚腐腐腐っ」

 

 ………………………。

 さっきの悪寒はこの人だったのか?!

 というか今までエビナさんのポケモンを見たことがなかったな。

 なんか分かってはいたけど、分かってはいたけど…………マジかー……………。

 拘り方が絶対におかしいと思う。

 

「エビナ、擬態しろし」

 

 さすがあーしさん。

 鼻血を吹き出したエビナさんにすかさずティッシュを渡している。

 おかん力半端ない。

 

「私はフシギバナにエンペルト、サーナイトにメタモンとグレイシアだよ。あ、でもグレイシアは今自宅療養中だけどね」

「……なんで先生がそこで恨めしそうにシロメグリ先輩を見てるんですか。そんなにサーナイトが欲しかったんですか」

 

 メグリ先輩の口からグレイシアが出てくるとすごい目で彼女を睨んでいるアラサーがいた。

 怖いよ怖い。メグリ先輩が怯えちゃってるからそんなに睨まないで………。

 

「うう………、まさか進化の途中で石が落ちてくるなんて…………、結局私はかわいいポケモンとは縁がないのだよ」

 

 あーあ、今度は泣き出してしまった。

 もう放っておこう。その内復活してくるだろ。

 

「トツカも………」

「変わりないよ。それとも捕まえた方がいい?」

「いや、ハピナスのままでいいぞ。一人くらい回復させることができるポケモンを持ってた方がいいだろうからな」

 

 トツカはこのままでいて欲しい。

 何ならいるだけで癒されるからな。

 頑張れるってもんだ。

 

「うん、分かった」

「で、この中でメガシンカできるのは………ユキノシタのボーマンダに先生のエルレイド。シロメグリ先輩のフシギバナと後は………」

 

 誰がいたっけ?

 

「僕のミミロップと」

 

 あ、忘れてた。

 そうだ、コンコンブル博士に仕込まれて安定するようになったんだったな。

 俺としたことが。トツカ検定一級試験を合格できないではないか。

 あったらいいな、トツカ検定。

 

「カメックスとバンギラスよ」

 

 未だメガシンカした姿を見たことのないハルノさんのポケモンたちか。

 バンギラスって二体いたよね? あのどちらかがってこと? それともあの二体すらもできちゃったりするのん?

 

「ヒキガヤくんのリザードンも入れなきゃね」

「キーストーンの数は?」

「私が一つ」

 

 博士にもらったユキノシタが一つだな。

 

「私も一つだ」

 

 この研究所の実験用として借りてる先生のが一つ。

 

「あ、お姉さんは二つ持ってるよー」

 

 二つか。

 ということはメガストーンも二つ、つまりメガシンカできるバンギラスは一体だけってことだな。

 

「私も一つ」

 

 メグリ先輩も一つか。

 というか二つ持ってるハルノさんがおかしいんだよな。今の俺も人のこと言えないけど。

 

「僕も一つ」

 

 そうだな。結局博士からもらってたもんな。

 

「あーしも持ってる。もう使う機会ないけど」

 

 それな。ほんとそれ。

 誰かメガストーン他に持ってないのかね。

 

「俺のを入れて計八つか………」

 

 ほんとは九つだけどね。

 

「どうする?」

 

 どうする? とかいいながらコマチを見ないでください。

 なんか分かりましたから。

 

「いえ、やめておきましょう。メガシンカはまだ早い。タイミングはユキノシタさんの判断にお任せます」

 

 前にプラターヌ博士がカメックスのメガストーンは貸してるとか言ってたのは、ハルノさんのことだったのだろう。

 だからコマチに返そうかってことなんだろうけど。まだ早いよな。

 

「そう」

「それで、だ。ユキノシタ、コマチにニャオニクスを貸してやってくれないか?」

「いいけれど。理由は?」

「ニャオニクスは雄と雌とでは得意分野が違う。雄のカマクラはサポートに回り、ユキノシタのニャオニクスを強化して戦う方が効率がいいと思う」

「………そうね、以前フレア団に襲われた時にコマチさんも上手く使いこなしていたことだし、いいでしょう」

 

 そう言ってユキノシタはモンスターボールを一つコマチに手渡した。

 

「あ、ありがとうございます、ユキノさん………。でも、いいんですかね」

 

 受け取ったコマチであるがちょっと遠慮がちである。

 

「問題ないわ。どうせ実家から誰かを連れてこいっていうのでしょうから」

「ああ、その通りだ。連れてきて欲しいのはマニューラだな。後イッシキにフォレトスを貸してやってほしい」

「そっちの理由も聞いていいのよね?」

「マニューラは素早いポケモンだからな。奇襲をかけるのにも使える。フォレトスは単にイッシキのタイプバランスを考えただけだ」

 

 ペルシアンやギャロップもいいし、フォレトスもびっくりな感じでいいのだが、やはりこういう場合は素早いポケモンを連れていた方がいいと思うんだよ。

 今まで俺もリザードンだけ(いてもダークライ)だったから、忍び寄るようなポケモンは貴重なんだよな。

 それとイッシキのポケモンはあく・ゴースト・くさが弱点になりやすい。むし・はがねのフォレトスでそこをカバーできれば戦力強化に繋がるはずだ。

 

「そう、なら後で送ってもらうようにするわ」

「次はメグリ先輩ですね。グレイシアを呼ぶことはできないんですよね?」

「うん、ちょっと前に無理させちゃったから」

「と言うことは手持ちが四体だけってことになりますね」

 

 グレイシアは戦力外と考えるべきだよな。

 となると………。

 

「うん、捕まえる?」

「いえ、ユキノシタさんのパルシェンとドンファンを借りましょう。………扱いきれないことは、ない、です、よね……………?」

 

 段々心配になってきた。

 あの最強のめぐ☆りんパワーがある限り大丈夫だとは思うのだが、ハルノさんのポケモンだし……………。

 

「どうだろう………、はるさんのポケモンはみんな強いからなー」

「大丈夫だって。メグリだったらあの子達も言うこと聞いてくれるって」

 

 そんな短絡的に言われると余計に心配になってくるんですけど。

 

「そ、そうですかー? それならお言葉に甘えさせてもらいます」

 

 ま、まあハルノさんが予め言い聞かせていることを期待しておこう。

 

「えーっと、次はユイガハマか」

 

 次はこいつらなんだが………。

 

「あ、あたしもあるんだ………」

「いや、ユイガハマは今以上に持たせると却って扱いきれないだろうしな。やめておこう」

「うぅ………、事実だから否定できない………」

 

 特にない。

 というかこれ以上ユイガハマは無理だ。今が精一杯である。

 

「イッシキはユキノシタからフォレトスを借りるとして………、じわれ、上手くいったのか?」

 

 それよりもじわれは扱えるようになったのだろうか………。

 

「ッッ!?」

 

 この悔しそうな表情を見る限り、無理だったのだろう。

 

「そうか」

「………なんとなく、コツというか撃ち方みたいなのは、見よう見まねでできます。でも地面にヒビが入る程度で………」

 

 ポツポツと零れ出る言葉にもどかしさがにじみ出ていた。

 それだけ特訓してたのだろう。

 

「そこから先が上手くいかないと」

「…………はい」

 

 少し間があったが、ようやく認めた。

 間があった理由は分からないが、俺の期待に応えられなかったとか思ってるんだったら思い上がりも甚だしいところだ。

 だってーーー。

 

「そりゃそうだろうよ。今のお前にじわれが使えるなんて思ってもないから」

 

 ーーー誰もイッシキが一撃必殺まで習得するなんて思っちゃいないんだから。

 

「うぇっ!? なんか酷くないですか!? あんまりです! 訴えてやります! かわいい後輩を弄ぶとか鬼畜です!」

「でんじほうにしろ究極技にしろ、扱うのは難しい。でんじほうはコントロールが上手くいかなければ究極技なんてそう簡単に撃てるものでもない。だが、それ以上に難しいのは一撃必殺の技だ。あんなデタラメな技、そうそう扱えるわけがない」

 

 この一ヶ月の急成長には目を見張るものがあるが、そろそろ己の限界、経験の壁を見せる必要があった。

 だからこそ扱いの難しい三種類の技を覚えるように仕向けたんだし、現実を見せたのだ。

 

「なんですか、自慢ですか。大人気ないです」

「いやいや、それなら実際に使えそうな人に聞いてみようか? ユキノシタさん、一撃必殺って誰が覚えてます?」

「うーんとねー、カメックスとハガネールとドンファンがじわれ使えるよ」

 

 ………魔王はやはり魔王だった。

 基本的に覚えるやつら全員じゃねぇか。なんだこの人。マジで魔王じゃん。

 

「ほ、ほらみろ、俺よりも恐ろしい人がいるじゃねぇか。ちなみにユキノシタは?」

「あなた喧嘩売ってるのかしら? 誰も使えないわよ。唯一使えそうなのがギャロップだけど、無理だったわ。………そういえば、あれから特訓も何もしてなかったわね。今は使えるかもしれないわ」

 

 ギロッと睨まれた。

 姉とは逆に恐ろしい。そんな睨まないで。

 ハルノさんに触発されて一撃必殺を覚えさせようとしてたのは分かったから。

 

「一応試してるのね………」

「はあ………、やっぱり先輩たちみたいにならないと無理なんですかねー」

「まあ、そうね。一撃必殺を扱えるトレーナーは真っ黒なのかもしれないわよ」

 

 誰が真っ黒だ。真っ黒なのはハルノさんだけだっつの。

 

「ですよねー。ほら、私たちってピュアピュアじゃないですかー。だからどう足掻いても無理なんですねー」

「おい、お前ら。一撃必殺使えないからって壁作るのやめてくれる?」

 

 誰がピュアピュアだよ。

 お前らの方が腹黒いじゃねぇか。

 それと一歩下がらないでくれます?

 

「………でも、正直言えば、これが先輩のいる領域なんだって思い知りました。でんじほうは狙えますけど、途中で軌道を曲げたりだとか、ブラストバーンは先輩みたいな猛々しい炎にならなかったり、まだまだです。私には到底無理な高みです」

 

 とふざけてたのが一転、イッシキがまた儚げな表情になった。

 

「………いいことではないか。そうやって立ち止まることで技の深みが理解できてくるというものだ。君の得意分野はなんだ? 攻撃か? 防御か?」

「…………フィールドの支配、です」

「そうだ。私の言った二つのどちらでもない。言ってしまえばヒキガヤとは違う路線のトレーナーだ。ならば、何を落ち込む必要があるというのだ? 君はヒキガヤとは違うんだぞ?」

「そう、ですね………。私は先輩やはるさん先輩じゃありませんよねっ」

 

 あ、なんか明るくなった。

 イロハちゃんふっかーつっ! とか宣言してるんだけど、あれどうしたらいいと思う?

 

「ああ、そうだ。ユイガハマたちもだぞ。この際言っておくが、誰かの後を深追いするのは却って自分の道を見失うことになる」

「たはは………、よくわかんないけど、自立しろってことでいいのかな………」

「そういうことだと思いますよ。初心者トレーナーって看板はそろそろ取り下げた方がいいみたいですねー」

 

 うーん、そういうことだったのか?

 うーん、分からん。

 ただユキノシタのことをじっと見ているのが気になる。

 

「それで、どうやって攻め込むつもりなのかしら?」

「回りくどくやっても効果はないだろう。正面突破で行く」

「確か入り口が電子ロックで締まってなかったかしら?」

「そこはザイモクザの出番だ。ポリゴンやロトムに解除してもらう」

 

 というかまずポリゴンたちがいなければ攻めこめもしないというね。

 こういう時、ザイモクザ様々である。

 

「あい、分かった!」

「その次は? 中を把握できているの?」

「いや? 手当たり次第に壊していく。無差別だ。連中がどうなろうが知ったこっちゃない。そもそもあいつらのスーツはあんな形をしてて装甲服になってるからな。ちょっとやそっとじゃ死にはせんだろ」

 

 ダンゴロのだいばくはつで無傷だったのには驚いたぜ。一番近くにいたくせに誰一人として傷一つ負っていない要因が、あのオレンジ色のスーツらしいからな。

 見た目の割の高機能とか何なんだよ、あのスーツ。

 ちなみに俺も1着持ってるんだけど。

 つか、あのスーツもらっとけばよかったんじゃね?

 あ、やべ………、なんでそのことに気づかなかったんだよ。ただで手に入るところなのに、あー惜しいことをした。

 

「攻める時間帯とかも決まってるのかしら?」

「夜の方がいいだろう。日中から動いてたんじゃバレバレだし」

「なんか、泥棒の気分ですね………」

「やることあんまり変わんないし………」

 

 まあ、見る側が違えば盗人だろうな。

 

「俺としてはメガストーンを回収していきたいんだけどな」

「そういえば、あそこでボーマンダのメガストーンも取ってきたのよね」

「そうそう、ギャラドスのを探してたんだが、どうもフラダリが持ってるみたいだし」

「それってあーしの?」

「ついでだ、ついで。なんかムカつくから一個や二個貴重なもん盗ってってやろうって思っただけだ。他意はない」

「はっ? 他意とかキモ………」

 

 えー、別にそういう意味で言ったんじゃないのに………。

 あーしさん、厳しすぎ。

 

「たらし………」

「キモいです」

「ヒッキー、ユミコまで手を出すの………?」

「お兄ちゃん、やっぱり鬼いちゃんだったよ」

「なんでお前ばかりモテるんだ」

 

 アラサーが仰いでいる。その頬には一雫の水滴が流れていった。

 

「ここまでくると、我は羨ましいとも思えなくなってきたぞ………」

 

 逆にザイモクザは女性陣の目に怯え、以前とは異なる感想を抱いている。

 

「ハヤ×ハチの方をぜひ推進!」

 

 聞こえない。

 ハチマン、ナニモキイテナイ。

 

「エビナ、擬態………。あんた、そうやって気遣おうとしなくていいから。あーしは自分の力で取り戻すし、誰かの施しを受けようなんて思ってないし」

「デスヨネー」

 

 マジ勇ましいあーしさん。

 リスペクトっす。

 

「ねえ、一つ聞きたいのだけれど、これって明日に拘る必要あるのかしら?」

「ないな。ただ時間は早い方がいいってだけだ」

「だったら明日一日空けてくれないかしら。貸し借りしたポケモンに慣れる必要もあると思うのだけれど………」

「あ、やっぱそう思う?」

「ええ、使うのはあなたじゃないもの」

 

 うん、確かに俺じゃないな。俺基準で考えてちゃダメなんだったな。

 

「バトル、ってことでいいのか?」

「それでいいとは思うのだけれど。みんなはどうかしら?」

「まあ、バトルが一番分かりやすいんじゃないかなー。これから叩きの場に行くんだし。どういう風に戦うのが好みなのかもそれで分かるだろうし」

 

 と言うのはメグリ先輩。

 誰も反対意見を出してこないし、バトルとなると………。

 

「組み合わせはどうすっかなー………」

「自分のポケモンとバトルするのは何だか気が引けるわ」

「ねー。私もそれは嫌だなー」

「えっ?」

 

 えっ?

 あのハルノさん……あ、違った、魔王が?

 

「んー? なにかなー、その反応はー。ヒキガヤくーん? 説明してくれるよねー?」

 

 怖い。

 笑顔なのに目が笑ってない。

 ユキノシタが本当にこの人の妹なんだって自覚させられるくらい怖い。

 

「え、いや、その…………ハルノさんはてっきり自分のポケモンでも相手なら容赦なくやるもんだと思ってたんで…………」

「酷いっ!? 酷いわ、ヒキガヤくん! 私をなんだと思ってるのっ?」

「えっ? ま、魔王?」

 

 演技臭いセリフを吐いてくるので、思わず正直に言ってしまった。

 あかん、これオワタ………。

 

「よーし、それじゃあパルシェンとドンファンにはヒキガヤくんの相手してもらおうかなー」

 

 つまり、俺はメグリ先輩の相手をしろってことでしょうかね………。

 自分が相手しないところをみると一応時間の方は気にしてくれているらしい。

 

「えっ? でもヒキガヤくんってフルバトルできないんじゃ………」

「大丈夫大丈夫っ! リザードン一体でリーグ戦に乗り込んでくるくらいだからハンデくらいあってないようなものよ!」

「は、はあ………、ヒキガヤくん、えと……、大丈夫なの?」

「ま、なんとかなるでしょ」

「じゃ、じゃあ、調整の相手をお願いしてもいいかなー?」

「喜んで」

 

 メグリ先輩にお願いされたんじゃ、無理であろうとなかろうと引き受けるに限る。

 

「ねえ、ユキノちゃん。ヒキガヤくんってメグリにだけ甘くない?」

「あら、今頃気づいたのかしら? 彼曰く、シロメグリ先輩やトツカくんが癒しの対象らしいわよ」

「メグリはともかくあの子をチョイスってどうなの………? ヒキガヤくんってそっち系?」

「………否定できないのが辛いところね」

「うわー………」

 

 ねぇ、ちょっとそこの姉妹。

 二人で俺の悪口言わないでくれる。ちょこちょこ聞こえるように言ってくるのが、刺さるんだけど。

 せめて聞こえないように言って!

 

「ご、ごほん! えーっと、じゃあミウラとユイガハマとはもうバトルして実力も大体把握してるからいいとして、トベとエビナさんのポケモンたちはお初なんだよなー。誰と相手したい?」

「え、えー、そう聞かれても………あ、取り敢えず、お三方はなしでオナシャス!」

 

 お三方ってのは俺とユキノシタ姉妹だろう。

 取り敢えず、トベを蹴りたい。なにこのチャラさ。

 

「じゃあ、ザイモクザな」

「え、えー、ないわー、ヒキタニくんマジないわー」

「バカ言え、お前どうせ女子相手に本気出すとか無理くね? とか言い出すだろうが」

「ひ、ヒキタニくんが俺のことを理解してくれているっ!?」

 

 なんか超感激って目を向けてくるんだけど。男からそんな目を向けられても嬉しくない。あ、トツカなら大歓迎。トツカの性別はトツカだからな。性別の枠なんてものに縛られない存在なのだ。

 

「目を輝かすな。気持ち悪い。つーわけで、ザイモクザ。トベの相手いけるか?」

「問題ない。我がでんじほうに痺れるがいい!」

「んじゃ、トベとザイモクザで。それとエビナさんは」

「トツカ君とバトルしてみたいなー」

「えっ? 僕っ?!」

「うん、実力的にはトツカくんが丁度いいかなって」

 

 結構普通の選択だったな。もっと極端なところをくるかと身構えてたのに。

 

「どうする、トツカ」

「ぼ、僕はいいけど………」

「んじゃ、決まりな。エビナさんの相手はトツカってことで」

「ちょ、先輩! 私たちの相手は誰がするんですか?! まさかユキノシタ姉妹とやれとか言い出しませんよね?!」

「言わん言わん。イッシキの相手はコマチだ」

「へっ? あ、ふぇっ?」

 

 こらこら、言い直さなくていいから。

 あざといんだよ。

 

「コマチの相手ってイロハさんだったの?」

「それもダブルバトルな。コマチがニャオニクス二体をどう動かすのか見なきゃならんし」

「………全力勝負、だよね?」

「もちろん」

「なんか久しぶりだなー。コマチちゃんと本気でバトルするの」

「そうですねー。負けませんよ!」

「こっちこそ!」

 

 にこにこ笑ってるけど、うん、こいつらは目が笑ってるから安心だ。やはりあの姉妹は高度な技術を持っているんだな。あ、イッシキも使えたか。

 

「んじゃ、明日はバトルで戦力確認。明後日の夜にフレア団を襲撃。それでいいな?」

 

 決定内容を確認すると皆が頷き返してきた。

 どう、なるかね………。本当にこれでいいのか不安ではあるが。まあ、どうこう言ったところで未来なんて変わらないんだし、なるようになれだ。

 というわけでこれにて作戦会議は終了。

 なんか後半はバトルの話になって盛り上がっちゃってるけど、これ一応フレア団倒すための戦力確認だからね?

 

「飯食った後、早速ザイモクザとトベのバトル見るのもアリか」

「おおう! なんか食った後に運動とか腕がなるっしょ!」

「えっ? ハチマン………? それは我に対する嫌がらせか?」

「なにを言う。時間は有意義に使わなくては。それにお前ら今日は一度もバトルしてないだろうが」

「きゅ、救援に向かえなかったのは謝るから、どうか! どうか御慈悲を!」

 

 さあ晩飯だー、と動き出した俺たちにザイモクザが一人泣きついてくるが、まあ今日の罰だ。

 

 

 コマチが今がどれくらいの強さなのか、実は知らないというのは内緒な。

 我が妹ながら中々バトルしてるところに出くわさないんだよ。


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