ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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ついに、というかようやく? 奴の登場です。


64話

 ユキノシタが泣き止んだ後、ガチ百合展開になっていた。百合百合のべったべたな展開にイッシキまでもが引いていたのは俺だけが知っていることでもないだろう。

 マジなんなのこの子たち。目覚めちゃったの?

 

「取りあえず、私はゴミ焼却に行ってくるね」

「煮るなり焼くなり好きにしてください」

 

 真っ黒なセリフを最後に愛しの妹とは別れてヘリの中へ乗り込んでいった。あ、メグリ先輩が置いてかれてる。

 これは連れて行けということなのか?

 まあ一人にするのも可哀想なので、というかこんな状態で放っておくとかどんな罰が降り注ぐか分からないので、一緒に行きますとも!

 カツラさんもトツカが手当てした者たちを病院に連れて行くとか言い出して行ってしまったし。

 

「ん? ザイモクザ? あ、そういやザイモクザ来てなかったのか」

 

 着信があり表示されたザイモクザの名前を見て、奴の存在を思い出したどうも俺です。

 調べ物に夢中で、しかもこいつらに存在も忘れられて、こんなことになってるなんて知らないんだろうな………。

 

「どうした? 何か分かったか?」

『ゴラムゴラム! さっぱり分からん! というかなんなのだ! この地方は! 全くもって情報がないぞ!』

 

 思わず、切ってやろうかと指が動いたぞ。寸でのところで止まったけど。声でかいんだよ。

 

「ポリゴンやロトムでも収穫はなかったのか?」

『ない、こともない、のだが………』

 

 歯切れが悪いな。

 ということはーーー。

 

「ジガルデかどうかが分からない、か」

『うむ、取りあえず見つけてきた情報を言うとだな、とある炭鉱の奥深くに深き緑の眼を持つ化物がいるとかいないとか………。噂程度の話なので我にもよく分からん』

「炭鉱の奥深くに眠る深き緑の眼の化物ねぇ」

 

 化物って点では怪しいが………、ジガルデがそもそもどんな姿形をしているのかも分からないんだし、何とも言えん。ただ調べて無駄ではないだろう。この際ポケモンたちが拾ってきた情報を当てにするしか道がなくなってしまったわけだし。

 

『………ジガルデは本当にいるのか?』

「知らん。それをお前が調べてるんだろうが。で、その炭鉱がどこだか分かるのか?」

『う、うむ、取りあえず今からそれを調べようと思う』

「そうか。あ、それとまたフレア団に襲われたわ。んじゃな」

『なっ!? ちょっ、ハチマーーー』

 

 ふう………。

 無駄に声がでかい奴め。

 さっさと終わらせるに限るな。

 

「ジガルデについて何か分かったのかしら?」

「いや、さっぱり」

「およ、コマチにも電話だ」

 

 今度はコマチにか。

 一体誰からだ?

 男か? 男なのか?

 お兄ちゃんの知らない間に男を作っていたのか?

 

「はいはーい、コマチですよー。およ? タイシ君。どったの? …………ふむふむ、それじゃお兄ちゃんに変わるね」

 

 ずいっとホロキャスターを差し出してくるコマチ。

 

「え? なんで俺に変わる必要があんの?」

「いいからいいから」

「チッ、仕方ない。………なんだクズムシ」

 

 こいつと話すことなんてないのに。

 

『ちょ、お兄さん!? いきなりひどいっす!」

「で、何の用だ? コマチならやらんぞ」

『えっ、や、そうじゃないっす、や、それもそれで困るっすけど…………じゃなくて!』

 

 これは次会った時に刑罰だな。

 

『ねえ、なんか洞窟の奥に化物がいるらしいんだけど』

 

 あ、カワ…………カワ………カワなんとかさん。

 ひょっこり出てきた。

 後ろでニドクインやガルーラと青みのかかった黒髪の小さな女の子が戯れている。妹かね。

 なんかほのぼのとしてる。

 

「お、おおう、カワサキ。なんだよいきなり」

『や、なんか数年前まで炭鉱だったところの洞窟の奥になんか得体の知れない何かがいるとかって噂があって』

 

 炭鉱!?

 今さっき話に出てきたところだぞ?

 偶然か?

 

「なあ、それって深き緑の眼の化物とかそんなやつか?」

『えっ? 知ってたの?』

 

 やはりザイモクザと同じ噂か。

 

「いや、今ちょうどザイモクザから聞いた。それでその洞窟とやらはどこにあるんだ?」

『レンリタウンってところの近く。今レンリタウンに来てるから』

「なるほど、だからその噂を耳にしたってわけか」

 

 どこにあるのか知らんけど。初めて聞いたぞ、レンリタウン。どこだよ、レンリタウン。

 

『うん』

「その洞窟はなんか名前とかあったりするのか?」

『終の洞窟。一度足を踏み入れれば永遠に帰って来れないってところからつけられたんだって』

「帰って来れないってことは『死』を意味するってか。つまりは終わりを意味する洞窟ってことか………」

 

 これはもしかするとビンゴなのかもしれない。

 終の洞窟。偶然かもしれないが、入ったら終わりの洞窟。アルファベット最後のZの名にふさわしい洞窟である。

 深き緑の眼の化物がジガルデを意味しているとみてもいいのかもしれないな。

 

「取りあえず、その洞窟には入るな。多分マジで帰って来れないかもしれん」

『い、行くわけないじゃん! 洞窟とか怖っ………あ、や、な、何でもない!』

『ま、まあ、そういうわけっすから』

「なあ、何でもいいだけどよ、後ろで妹? が野生のゴーストと仲良くなってんぞ?」

『後ろ? けーちゃん!?』

 

 カワサキが慌てて振り返ると妹がゴーストを交えて遊んでいた。

 

『ね、姉ちゃん…………』

『ゴースト………タイプ……………ひぃっ!? 見るなっ?! こっちを見るなっ!?』

『取りあえず切るっす!』

 

 ……………。

 カワサキはゴーストタイプが苦手と。

 うん、だから洞窟にも入りたくないんだな。

 

「終の洞窟ね。いかにもな名前だわ」

「だな。多分ジガルデがその化物の正体と言っていいかもしれん」

「調べてみる必要はあるわね」

 

 いつの間にかポケモンたちにより綺麗さっぱり片付けられているんだけど。何ならミミロップが地面をたがやして土を掘り起こしてるし。

 あ、くさタイプが総出で種を撒き始めた。

 

「そこのあなたたち! 建造物破壊の容疑で逮捕します!」

「はっ?」

 

 えっ? なに?

 いきなり出てきたかと思えば逮捕って。

 

「警察?!」

「なっ!? こっちは被害者なのに!?」

「ないわー、マジないわー」

 

 ぞろぞろと張った黄色いテープを越えて警察どもが入ってきた。

 

「彼女たちは関係ないわ。実行したのは私たち三人よ」

「おい、ユキノシタ………」

 

 ちょっ、俺とメグリ先輩の背中押さないで?!

 何考えてんの?

 

「ユキノシタ………!? いえ、だからと言って犯罪を見逃してはいけない。しっかり反省させなきゃ」

 

 どうやらユキノシタと聞いてピンときたらしい。だがそれでも俺たちは犯罪者扱いなのな。

 

「捕まえて!」

 

 カシャンと俺たち三人の腕に手錠がかけられる。部下三人ですか。ジュンサーさんも偉くなりましたね。

 

「つーか、逮捕の前に事情聴取するべきじゃねぇのかよ………」

「それは署で行います! さあ、連れてってちょうだい!」

「はあ………、やっぱりどこもかしこもカロスの奴らは使えないのばっかだな」

「何か言ったかしら?」

「いーえー、別に。ただ所詮現場は馬鹿ばっかだなって。しかも来るならもっと早く来てほしかったなーって思っただけですよ。権力だけのジュンサーさん」

「なっ!? それ以上言えば公務執行妨害で罪を重くするわよ」

「そもそも犯罪者でなければ公務執行妨害にもならないでしょ。発言の自由はあるわけだし」

「そう、だったらいいわ。あなたを公務執行妨害でも逮捕します。さっさと乗りなさい!」

「へいへい…………ったく、フラダリの狙いはこれだったのかよ………」

 

 テープを潜ってこんな狭い裏路地にバックで入ってきたと思われる白黒のパトカーに、よっこしせと乗り込む。

 後部座席はシートがちゃっちぃな。

 

「ゆきのん………」

「ユイガハマさん、ちょっと行ってくるわ。大丈夫よ、誤解が解ければすぐに戻ってくるから。姉さんによろしく」

「っ!?」

 

 ユイガハマはユキノシタの意図に気づいたのか、目を輝かせていた。

 

「あなたバカなの?」

 

 俺の横に乗り込んできたユキノシタが開口一番にそう口にする。

 

「バカは警察だろ」

「それは否定しないけれど」

「それに誤解が解けて、はいそうですかじゃ立場がイーブンにしかならない。こうして間違いを指摘しておけば、誤解が解けた後に上から言える、こともある」

「そこで詰まってるようでどうするのよ………」

「ねえ、なんで二人はそんなに落ち着いてるの?」

「シロメグリ先輩、人には知らない方がいい過去の一つや二つあるものです。ユキノシタなんかーーー」

「ねえ、ヒキガヤくん? あなた私の何を知っているというの? 返答次第じゃもぐわよ」

「怖ぇよ。言ってみただけだろうが。俺が知ってるのなんてお前がオーダイルを暴走させてたことぐらいだぞ」

「えっ? ユキノシタさん、オーダイルを暴走させたことあるの?!」

「いいわ、ヒキガヤくん。もいで欲しいのね」

 

 ずいっと俺の顔のすぐそばに乗り出してくる。

 近い………。

 メグリ先輩がはわわわっと顔を赤くしてるのが視界の端に映ってる。

 

「えっ? マジで………何をもぐつもりなのん………?」

「わ、私の口からそれを言わせようとするだなんて。それともそっちの方が喜ぶのかしら?」

 

 なんでそこで顔を赤く染めるんだよ。マジで何しようとしてんの?

 

「口に出せないことをしようとしてる時点でアウトだろ………」

「ねえ、二人とも? 一応ここパトカーの中なんだけど………どうしてそんないつも通りなの………?」

「「誤解なんてすぐに解けるからですよ」」

「なんで一言一句被ってるの………」

 

 それはこっちのセリフだ。

 

「車の中で暴れないでちょうだい。暴れたって逃げられないわよ」

「逃げるだなんて。どこかの誰かさんじゃあるまいし」

「それは誰のこと言ってるんですかねー」

「べ、別にあなただなんて言ってないんだからね」

「そんなツンデレ風に言われても棒読みすぎて萌えすらしない」

「この二人………、いつもどんな会話してるの〜」

 

 メグリ先輩の嘆きと同時にパトカーは発車した。

 実は俺もユキノシタも結構テンパってテンションがおかしくなっていることには誰も気づいていないだろう。

 二人とも布石は打った。けど、上手くいくか自信ないのが本音でもある。

 はあ………、どうなるんだよマジで。時間がないってのに。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「だから言ってるでしょ。俺らはフレア団に襲われたんだっつの」

「フレア団なんて組織はないわ。あれはネット上の架空の組織よ。そんなところの名前を出してきても無駄よ!」

 

 はあ…………。

 これ何回目だよ。

 ずっとこれのワンパターン。もう飽きてきたまである。

 それにしてもここまで無能な連中に成り下がっていたとは。

 

「失礼します! ただいま新たな証言が入りました!」

 

 ようやくきたか。

 姉のん、待ってました!

 

「彼らが襲われたのは事実です! オレンジ色のフレア団と名乗る組織が、彼らカントーのポケモン協会より臨時に集められフレア団対策会議を開いていたところを襲われたようです。その際に建物も」

 

 さすが魔王。

 俺が説明しなくてもこれで………。

 

「なお、カントーのポケモン協会の理事より、『忠犬ハチ公と三冠王、そして部下を誤認逮捕とはいい度胸だな』との、こと、です…………はい」

 

 どこぞの魔王が勝手に理事の名前使ったんだろうな。まあ、おかげでこの部屋の連中は血の気が引いて行っている。青い。すっげぇ青くなってんぞ。

 無論、他の部屋でも同じ状況だろう。メグリ先輩は苦笑いを浮かべてるだろうけど、ユキノシタは多分ドヤ顔になってるんだろうな。想像できてしまうのが悲しい。

 

「で、誰でしたっけ? 公務執行妨害だなんだ吠えてたのは」

「ッ!?」

「さっきからフレア団が存在しない組織だって言い切ってたのは誰でしたっけ?」

「ッッ!?」

「折角俺が先に事情聴取した方がいいじゃないかって言ったのに、それを無下にしたのは誰でしたっけ?」

「ッッッ!?!」

 

 あ、なんかもう泣きそうになってる。彼女の部下たちも目を合わせようとしない。あ、でも一人だけため息吐いてるぞ。

 

「先輩?」

「ひぃっ?!」

 

 あれ?

 なんか突然入ってきた男が俺を捕まえたジュンサーに声かけたら、ビクって跳ねたぞ?

 

「また、ですか?」

「ひぃあっ!?」

「すいません、うちの先輩が。誤認逮捕なんて警察として面目極まりない。この人正義感は強いんですけど、早とちりが激しくてよくやらかすんですよ」

 

 ぶるぶる震える彼女の頭をがっちりホールドして握っている。

 あれ? どっかで見たことあるぞ?

 

「いや、それはそれで問題だろ」

「まあ、それで隠れていた事件が見えてくるんでお咎めはないんですよ。今回もフレア団という組織の情報が入り、ここ最近起きていた事件の裏も見えてきたところなのです。といってもあなた方には迷惑をかけてしまった」

 

 彼女の頭を押さえつけながら一緒に頭を下げてきた。

 

「先輩には後できつくお仕置きしておきますので、それでどうかお許しください」

 

 この男、彼女に何する気なんだろうか。

 気になる。けど聞かない方がいいだろう。

 それに………。

 

「分かりました。本当はもっとやり返したい気分ではありますけど、あんたに任せます。次こんなことがないようにしっかり躾けてください」

「はい、お言葉通りに。しっかり躾けておきますよ」

 

 なんか俺と同じ匂いがする。

 

「すっかり遅くなってしまいましたね。車回しましょうか?」

「いいっすよ。それよりあいつらも解放されるんでしょ」

「ええ」

「んじゃ、俺たちは帰りますよ」

「玄関までついていきます。先輩共々」

「ひぃあっ!?」

 

 ああ、この人楽しんでるよ。

 まさか何か仕込んでるとかないよな?

 訝しみながらも部屋から出るとちょうど二人も部屋から出てきた。

 

「それじゃ、みなさん! お仕事頑張ってください!」

「「「はい〜」」」

 

 ほんわかした空気なのは右隣の部屋のメグリ先輩のところ。

 さすがめぐ☆りんパワー。

 さぞ彼らも癒されたことだろう。

 

「もう………仕事やめようかな……………」

「だな………、こんなことしてたって何になるんだって話だよ………」

 

 反対にユキノシタのところはどんよりしている。

 さぞ怒られたことだろう。

 ただ一人だけなんか嬉しそうなのは俺の見間違いであってほしい。

 

「あら、ヒキガヤくん。あなたその目で拘留ってことにはならなかったのね」

「俺の目はそんなに犯罪的なのか………?」

「よかったわ、これでまたあなたといられるもの」

「はいはい、そうですね」

 

 そういうこと、平然と言わないでくれる?

 思わずドキッとしたじゃねぇか。

 玄関まで行き外に出ると、同行してきた警察どもが深々と頭を下げてきた。

 

「本日は……ま、まことにもうひぁっ?!「先輩?」申し訳ありませんでした!」

 

 すでに躾けは始まっているのかね。

 どんな躾けだよ。

 なんか気になって二度見しちゃったよ?

 

「………ねえ、なんだかさっきと随分威勢がなくなっているのだけれど。何したの?」

「俺じゃない。あの横の男だ。よく誤認逮捕をやらかすってもんで、あの後輩に毎度躾けられているらしいぞ」

「…………変態」

「どうしてそこで俺を睨む。俺は無関係だ」

「私が間違ったことをしたらヒキガヤくんもあんな風にしてくるのかしら…………」

「なんだ、してほしいのか?」

「なっ!? そそそそんなこと言ってないわよ! 私はただヒキガヤくんも彼も同じ匂いがしたから、あなたもそうなのかもしれないと思っただけよ! けけけ決してそれも有りかもとか思ってないわ! ええ、断じて思ってないわ!」

 

 なに、この焦り様。

 しかも言葉と表情が一致してないし。

 まさかな…………。

 

「ヒキガヤくん。そういうことはお仕事終わってからだからね! それまで、めっだよ!」

 

 うん、この人は癒される。

 何も爆弾を落としてこないから安心するわ。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 警察署を出てぼちぼちプラターヌ研究所に向けて歩いている。別にそれほど遠くはないと思ってたのだが、いかんせんポケモンたちがいないのだ。そのことを忘れていた俺たちは徒歩という考えてもいなかった手段で帰るしかなくなってしまったのだった。

 リザードン、迎えに来てくれー。

 

「て、また電話かよ。今度はポケナビの方だし。悪い、先行っててくれ。多分またあの話だわ」

 

 何なの、今日に限って。

 みんな寂しいのん? 暇なのん?

 

「そう、あまり遅くならないでね。あなたの帰りをみんな待ってるはずだもの」

「ああ」

 

 ポケナビに表示されていたのは知らない番号。

 誰だよ、一体。

 なんでポケナビの方を知ってるんだよ。

 

「もしもし? どちら様でしょうか?」

『………本当に出た』

「あん………?」

 

 この声、どっかで聞いたことあるぞ。

 

『ハチマン、ホウエン地方に来たよ』

 

 ハチマン。

 そう呼ぶのはトツカとーーー。

 

「その声はルミルミか。なんで番号を知ってるんだよ」

『お母さんが教えてくれた。それとルミルミキモい』

「なんであの人が知ってるんだよ」

『ヒラツカ先生から聞き出したみたい』

「俺のプライバシーってなんなの………」

 

 何勝手に教えてくれちゃってんの?

 あの人バカなの?

 

「それで、何の用だ? 何かあったのか?」

『取りあえずホウエン地方のオダマキ博士のところに来たから報告」

「そっか、てことは校長を倒せたんだな」

『強かった』

「だろうな。スイクンが相手でも怯まんだろうからな、あのじじいは」

『それでオダマキ博士がハチマンと話したいんだって』

「ほーん、んじゃ代わってくれ」

『うん』

 

 オダマキ博士か。

 以前世話になったがどうかしたのかね。

 まあ、久しぶりだから話したいことでもあるのだろう。

 

『ハチマンくん! ようやく連絡が取れた!』

「ちょ、なんすか、いきなり。声でかいって」

『いや、すまん。少し取り乱した。積もる話もあるのだが、まずは君に渡したいポケモンがいてだな』

「渡したいポケモン? そっちに預けたポケモンなんていないですけど」

『うむ、そうなのだが、まあ、取りあえずポケモンセンターに向かえるかい?』

「はあ………、まあ、多分もうすぐ着くでしょうけど」

『すまないな。どうしてもトレーナーは君がいいと言って聞かないポケモンなのだよ。まあ、君の知らないポケモンでもないし、使ってやって欲しいんだ』

「俺の知ってるポケモンねー」

 

 ホウエンで知ってるポケモンといえばキモリか?

 えっ、でもあいつどっかの森の中に帰って行ったよな。

 んじゃ誰だよ。全く心当たりがない。

 

「あー、送ってくるんだったらカロス地方のミアレシティってところの南にあるポケモンセンターでお願いします」

『分かった。それにしても君はまた厄介ごとに巻き込まれているのかい?』

「どうしてそう思うんですか?」

 

 鋭いな。

 まあ、娘バカップルが巻き込まれやすいからな。勘も鋭くなるか。

 

『ルミ君がスイクンを連れて君の前に現れたとか、どう考えても君に先のことを示して欲しいといった感じではないか』

「いや、それはないでしょ。ルミが来たのだってただの偶然だし。何ならスイクンとは初対面っすよ………、多分」

 

 あれ? 俺が忘れてるだけ? んなわけないよな?

 

『そうか………何にせよ、初めての旅でスイクンに使命を与えられるルミ君も何か持っているのだろうな』

「でしょうね。と、ああ、着きましたよ」

 

 博士と話していたらミアレ南のポケモンセンターに着いた。

 プラターヌ研究所も目と鼻の先ではあるけど、まあこっちの方がポケモンを受け取るのに野次馬が入らないからな。

 

『お、では転送マシンの方に行ってくれ。こっちも準備する』

「はいよ」

『……ハチマン、私これからどうすればいいの?』

「ルミか。スイクンが何をしようとしているのかは知らんが、まずはライコウとエンテイを集めることだな」

『それなんだけど、博士が言うにはここだけの話、リラって人行方不明なんだって』

「はっ? マジで?」

 

 えっ? なんで?

 行方不明って行方不明?

 あの人が?

 ライコウ連れてるような人が?

 

『でも博士が取りあえず、ライコウやエンテイを呼び出すこともできなくはないって』

「というと?」

『エメラルドって人のところにフーパってポケモンがいるから、そのポケモンに頼めば会えるかもって』

「フーパ? ……あー、なんかそんな名前のポケモンがいたな。すまん、よくは知らん」

 

 フーパ………、どんなポケモンだっけ………。

 名前に聞き覚えはあるが、姿が全く思い出せん。見たことあったようななかったような気もする。どっちだよ。

 

『大丈夫、明日会えるらしいから』

「なんつー段取りだよ。やることが早ぇな」

『もう博士も慣れたんだって』

「それはお気の毒に………」

『あ、準備できたみたい』

「はいよ」

 

 ポケモンセンターの中にある転送マシンの前でルミと話しているとようやく準備ができたみたいだ。

 

『今送ってる』

「何が出てくるのやら………」

 

 転送マシンにようやくモンスターボールが送り出されてきた。

 

「きたぞ」

『うん、開けてみてって』

「めっちゃ怖い」

『いいから』

「はい………」

 

 ルミに促され、ボールの開閉スイッチを開く。

 中からは俺より背丈のあるポケモンが出てきた。

 体色は薄い緑色。

 種族名はジュカイン。

 そう、ジュカイン。

 

「やっぱりお前か………」

「カイカイッ」

「うおっ、ちょ、おま、いきなり抱きつくな」

 

 笑顔でタックルしてくるなよ。お前の方が強いんだから。

 

『君が帰った後にわたしの所に来てな。君に連絡も取れないし、そうこうしてる間に進化したのだよ』

「ちょ、まて、落ち着け! すんません、なんかキモリ………今はジュカインか。居候させたみたいで」

『いや、構わないよ。それにしても随分懐いているようだね』

「それに関しては俺が一番驚いてます。なんなのこいつ」

『ポケモンがトレーナーを選ぶなんて珍しいことだからね。大事にしてあげてくれ』

「俺の場合、そっちのポケモンしかいませんけどね」

『君こそ珍しい生き物なのかもしれないな』

「それ言うとルミもじゃないですか?」

『人間だけが選ぶ側というわけでもないからね。そっちも自然なことだと思うよ』

「つか、あ、ちょ、待て! 取りあえず一旦離れろ! 重い!」

 

 はあ…………、何なのこの懐き様。

 リザードンともゲッコウガとも違う、オーダイルでもないな………あー、ユキメノコか。あいつに近い。だがこいつは雄のはず。

 …………今どっかで愚腐腐って笑いが聞こえたような…………。

 

「で、ジュカインが首に巻いてる丸い石二つは何なんですか?」

『ん? 君はメガシンカを使えるんじゃなかったのかい? ルミ君からそう聞いているのだが』

「そうじゃなくて、なんでキーストーンと誰のメガストーンかも分からない石をもたせてるんですかって話ですよ」

 

 そうなのだ。

 なんかキーストーンとメガストーンを首に巻きつけてきたのだ。

 さっきからそっちの方が気になって仕方がない。

 

『メガストーンの方はジュカインのだよ。ジュカインもまたメガシンカできるポケモンなんだ。ここに来た時から肌身離さず持っていたぞ』

「………森へ帰ったのはメガストーンを取ってくるためだったとか、そういう落ちじゃないだろうな」

 

 おい、そこ。目を合わせろよ。

 

『それとキーストーンは流星の民からのご厚意で戴いた』

「いいのかよ、俺に渡して」

 

 流星の民ってそんなに心広かったっけ? あそこにとっちゃ大事なものだろうに。

 

『一つ、実験をして欲しくてね。キーストーンとメガストーンはそれぞれ一つずつ反応するだろう? だったらキーストーンが二つあれば二体同時にメガシンカできるのではないかって思ったのだよ』

 

 二体同時のメガシンカね。

 

「それこそ、あんたの娘婿に頼めば………」

『まあまあ、表向きはそういう理由ってだけだよ。どうせ君はそっちでも何かと忙しそうだからね。落ち着くまで使ってくれ』

 

 ぐっ、ここまで言われちゃ返しようもない。心配しすぎでしょ。

 

「はあ………、そういうことならありがたく使わせてもらいますよ。俺も二体同時のメガシンカには興味がありましたんで」

『なんだ、やはり君もそこに行きついていたのか』

「俺はどうやらそっち側の人間らしいですよ」

『はっはっはっ、だったらこっちに就職するかい?』

「遠慮しておきます。仕事してますんで」

『ま、こうして研究職の外で動いてくれる若者がいるというのも心強いことだよ。それじゃ、そろそろ切るけどルミ君とは話すかい? ルミ君も何か話すことあるかい?』

 

 話すことねー。

 

「あー、ルミ。取りあえず無理はするなよ。諦めるのも一つの手だからな」

『うん、大丈夫。ハチマンも気をつけてね』

「ああ、んじゃな」

『うん』

 

 まあ、これくらいしか俺にはもう言えることがない。

 あとはルミがどうするかだし、スイクンたちが何を求めてるかだし。

 なるようになるだろ。

 通話を切って後はこの密林の王をどうしたものか。

 ちょっと懐きすぎじゃない?

 メーター振り切ってるまであるぞ?

 

「新しいポケモン、か…………」

 

 俺のパーティーに新しく参加したジュカイン。

 このことを知っているのは俺とルミとオダマキ博士のみ。

 ……………。

 

「悪いな。多分、お前をみんなに紹介するのはもうちょっと後になりそうだわ」

 

 敵を欺くのならまずは味方から。

 誰にもジュカインの存在を知られなければ、最後の切り札になるかもしれない。

 しかもメガシンカするって言うし。

 

「カインっ!」

「うぉ、ちょ、だから飛びつくなっつの!」

 

 ほんとしばらくしか一緒にいなかったってのになんでこいつはこんなに懐いているのだろうか。マジでそこんとこ誰か教えて。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 プラターヌ研究所に戻るとなんか総出で出迎えられた。

 

「お勤めご苦労!」

 

 俺はいつからギャング系になったんだよ。

 

「お兄ちゃん、お勤め大変だったよね。コマチが癒してあげるよ」

 

 だから俺はギャングじゃない。

 

「先輩、背中に刺青ありましたっけ?」

 

 ない。あるわけがない。彫りたくもないわ。

 

「ヒキタニくん、マジヤバイわー。イケイケだわー」

 

 意味が分からん。お前の言語がヤバイわ。

 

「ヒキオ、おかえり」

 

 あ、なんか普通にミウラが大人しい。

 ちょっと新鮮。

 

「………変態」

 

 まだ言ってんのか。

 あれは俺のせいではないと何度言ったら分かるんだ、ユキノシタ。顔を赤くするんじゃない。

 

「ヒッキーががえっでぎだよぉー、うわぁあぁぁああああっ!!」

 

 泣きすぎ。そしていきなり抱きつくな。あ、おい、鼻水付けんなよ!

 一応お前のおかげでハルノさんを呼べたんだろうが。

 

「ひゃっはろー、ヒキガヤくん、大変だったねー」

 

 んで、この人はなんでいるの?

 つか、さっきのって絶対この人知ってたよな?

 だから来る前に退散したんだよな?

 うわー、魔王恐るべし。

 

「ヒキガヤ君、おかえりなさい」

 

 はふぅ、癒される。

 

「ハチマン、おかえり」

 

 はふぅ、二度癒される。

 

「けぷこん! 我が相棒が無事で何よりである!」

 

 うっ、なんか急に吐き気が………。

 

「………何やってんの? みんなして」

 

 ちょっと総出すぎて引く。マジで引く。

 何なの? 新たな嫌がらせ?

 

「いやー、ユイさんがこんなんだから」

「うん、まあ、これは結構深刻な問題だよな」

 

 俺の胸の中で泣き虫るユイガハマに俺もちょっと慄いている。

 

「ユイ先輩、はるさん先輩に連絡してから、落ち着かなくなりだして、しまいにはここまで崩れてくんですよ。落ち着かせる私たちの身にもなってください」

「うん、それは、なんか、すまん………」

 

 なんか湿っぽくなってきた腹回りに不快感を覚えながらも、イッシキにそう返した。

 

「さて、ヒキガヤ君」

 

 え? なに?

 これ以上に何かあるの?

 

「イッシキさんから聞いたのだけれど。あなた、今後の方針を決めたそうじゃない」

「はっ? え? なに、いきなり」

「せーんぱい、約束しましたよね? 会議が終わってみないことには何とも言えないって」

「あー………、言ったな、そんなこと。なんか色々ありすぎてて忘れてたわ」

 

 マジで忘れてたわ。

 そういや昨日言ったな。ミウラとバトルした後にイッシキにじわれを教えろとかも言われたな。思い出したわ。

 

「それじゃ、忠犬ハチ公さんがどう動こうとしてるのか教えてもらえるかしら?」

「…………何も考えてないんだけど?」

「なら、今考えなさい。私たちも考えてるもの」

「へいへい」

 

 はあ………、総出でお出迎えってこれのためかよ。

 ま、分かってたけどね。きゃっきゃうふふなイベントが起こるはずがないんだから。

 さて、これからどうしたものか。


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