ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

66 / 90
なんかすっごい急展開になってしまいました。


62話

「さて、どうしたものか」

 

 未だに体育座りでぶつぶつ言っているユキノシタがいる。

 姉貴が見たらどう思うのだろうか。

 

「ユキノさーん、戻って来てくださーい」

 

 コマチが呼びかけているが一向に顔を上げる気配はない。

 ヤバイな。これは重傷だわ。

 

「……………」

 

 それよりももっとヤバイものを見つけてしまった。

 はあ………、見つけなくていいのに。俺の目はそういう時だけ鋭いんだから………。

 

「先輩、どこ見てるんですか。ユキノシタ先輩のことじっと見過ぎです………よ………っ!?」

 

 あ、ついじっと見すぎてしまった。

 今のでイッシキが気付いちまったみたいじゃん。ヤバイよヤバイ。俺、今日が命日になりそう。この予感、何回目だろうか。

 

「お兄ちゃん、ちょっと来てー」

 

 ふぅ、助かった。

 コマチに呼ばれたので下から変なものを見るような目で見てくるイッシキから解放される。

 

「なんだ?」

「ユキノさんの頭撫でてみて」

「ん?」

 

 ん?

 

「ん?」

 

 あれ?

 俺の聞き間違いか?

 

「ねえ、コマチちゃん? 今なんて言ったの? お兄ちゃんの聞き間違いだよね?」

「えっ? 何言ってるの、お兄ちゃん。耳悪いの? 病院行く?」

「いや、大丈夫だ。問題ない。というよりお前の頭がどうかしてると思うんだが?」

「やだなー、そんなわけないじゃん」

「だったら普通ユキノシタの頭を撫でろとか言わんだろ」

「なんだ、ちゃんと聞こえてるじゃん。さあ、早く撫でてあげて! お兄ちゃんのパワーが入ればきっとユキノさんも戻ってくるはずだよ!」

「いつから俺の手にそんな力があったんだよ」

 

 はあ………。

 これ、しないと永遠とこのやり取りが続くんだろうな。

 はあ………、仕方ない。後で何言われるか分からんが、この使い物にならなくなったダメのんを起こさないとこれまた面倒なことになりそうだし。会議もあることだし、うんうん、仕方ない。

 

「じー………」

「じー………」

「ひゃー……」

 

 や、なんでだよ。

 お前ら、なんでそんなじっと見てくるんだよ。いやに緊張してくるだろうが。何なのこの圧力。俺を殺す気なの?

 

「………やりづらい」

「さあ、早く! お兄ちゃん、ガバッといっちゃおう!」

 

 何をガバッと行くんだよ。

 もう、覚悟を決めるしかないか。

 この後に起こることには目を瞑ろう。見ないことにしよう。ああそうだ。未来なんか見えないんだ。なるようになれだ。それに撫でるのなんて初めてでもない。さあ、俺。ガバッといくんだ。あ、ガバッとってこういうことか。

 

「……………」

 

 ……………………。

 毎回思うが、どうしてこう女子の髪というのは柔らかいのだろうか。ふわっとしているのに艶はあるし、男の髪とは質感がまるで違う。

 しかもユキノシタの場合は黒いからなおさら光が反射して、その、なんというか綺麗である。

 

「わひゃー………、ユキノさんすごい顔になってますね」

「ゆきのんがデレのんになっちゃったよ………。うぅ…………、なんか取られた気分」

「天然って恐ろしいですねー」

 

 はふー………、とお三方が吐息を漏らしている。

 マジでこれ何なの?

 俺にどうしろって言うんだ?

 どっかの漫画の主人公みたいに全員を墜とせっての?

 無理無理無理。

 そもそも俺はこいつらにそんな感情を抱かれていない、はず。しかも一人は妹なんだぞ? ダメだろ。色々とダメだろ。まずこんなこと考えてる時点でアウトだろ。

 ………………落ち着けハチマン。今は何も考えるな。目の前の作業に徹するんだ。感情を排除しろ。感覚を除去しろ。何もかも捨て去って無心でやり過ごすのだ。

 

「うへへへへっ」

 

 えっ?

 なにこの聞き覚えのある変な笑い方。

 

「い、イッシキっ!? お、おおおお前何してんの?!」

「あ、おかえりなさい。いやー、なんか先輩の様子がどこか遠くに行ってるみたいだったので、頭を差し出してみたら無意識に撫でてくれちゃってるみたいです。うへへへっ」

 

 お、俺は無意識で差し出されたイッシキの頭も撫でていたのか…………。

 ダメだ、オートでお兄ちゃんスキルが発動しちまってる。どうする、どうすればいい。これ以上続けていたら色々まずいぞ。

 

「うー、ずるい。あたしも!」

「わーお、お兄ちゃんモテモテー。ついでにコマチもおねがーいっ」

「え、ちょ………」

 

 ずいっと二つの頭が追加で差し出されてくる。

 何だろう。何なんだろう、この状況。

 これ、誰かに見られたらーーー

 

「………………」

「………………」

 

 ………………。

 げっ!?

 今一番見られたくない人と目が合っちまったよ。

 やばいよ、殺される。憂さ晴らしに殺される。誤解をされたまま嫉妬に駆られて殺される!

 

「ひ、ヒキ、ガヤ………うぅ………なんであいつがモテて私がモテないんだ………。もう今日はお部屋戻る………。ああ、結婚したい……………」

 

 あ、ダメージが大きすぎたみたいだ。

 これはこれで面倒だ。

 後で愚痴でも聞きに行ってあげよう。

 取り敢えず、誰かもらってやってくれ!

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 結局、コマチの言う通りユキノシタは頭を撫でていると復活しやがった。意味が分からん。加えて他三人も撫でる羽目になるという。さらに意味が分からん。

 朝からどっと疲れながらも朝飯食いに戻ると博士から俺宛に一通のメールが届いているのを知らされた。送り先が俺のアドレスではないということは俺の知らない人物か、あるいは……………。

 だが俺の予想はどちらも外れていた。

 送り主はーーー。

 

「パンジー、さん?」

 

 ユキノシタがひょっこり俺の後ろから覗き込み呟いた。いつも通りの澄ました顔である。

 

「なんかあったのか?」

「知らないわよ。私たちも連絡なんて取ってないもの」

「あ、そう………」

 

 なんだ取ってないのか。てっきりユイガハマあたりがメールをしてそうだったんだが。

 

『前略、ハチマンくん。突然のメールに驚かせてしまいごめんなさい。早速本題に入らせてもらうけれど、ミアレ出版社の編集長は敵だったわ。それとすでにあなたのことだから知ってはいるでしょうけど、アサメタウンで起きた事件は自然なものではなく『起こされた』ものだった。加えてテレビや雑誌、メディアというメディアは全て抑えられているようだわ。もっと早くに連絡できれば良かったのだけれど、遅くなってしまってごめんなさい。

 PS 私が以前書いた記事を載せておきました。何かに役立てば幸いです』

 

 …………………一応、メールを送ってきているってことは無事ってことなんだな。

 で、この下に続くのがパンジーさんが書いた記事ってやつか。

 

『カロスの伝説のポケモンに迫る!!

 

 カロス地方には二体の伝説のポケモンがいる。与えるポケモン、ゼルネアス。奪うポケモン、イベルタル。あまり詳しいことは分かっていないが、今回はこのポケモンたちの技について迫った。

 与えるポケモンであるゼルネアスが唯一与えられた時があった。大地から力を吸収し、七色の光を放つ美しい技で己の能力を高めたというのだ。古の人びとはだれ言うことなくこの技を『ジオコントロール』と呼ぶようになったという。

 奪うポケモンであるイベルタルは唯一与えた時があった。赤黒い風を起こす技で攻撃し、奪った体力で回復したのだ。古の人びとはだれ言うことなくこの技を『デスウイング』と呼ぶようになったという。

 

 今回はここまでだが、次回も何か見つけ次第、記事にしようと思う』

 

 ジオコントロールにデスウイング。

 どちらも行き過ぎた力だってのはよく分かったわ。

 だが、この記事を読んでどうしろと?

 宣伝か?

 

「あ? まだあんの?」

 

 スクロールを続けているとまだ何か続きがあるみたいだった。

 下の方にまで随分スクロールさせるとようやく最後の一文に届いた。

 

『ジガルデって何か分かる?』

 

 知らん!

 なんだよ、ジガルデって。

 分かるわけないだろ!

 

「ジガルデ………?」

「なんですか、それ。美味しいんですか?」

「知るかよ………」

 

 ジガルデ、ね………。

 

「………なあユキノシタ、ジガルデってどういうスペルで書くんだ?」

「たぶんだけれど………」

 

 適当に積まれていたチラシの裏側にしゅるしゅる書き連ねていく。なんで書けるんだろうか。

 

『gegarde』

『gegalde』

『Zygarde』

『Zygalde』

 

 ……………これはあれだな。下のどっちかだな。

 

「………これは困ったことになったな」

「ええ、そうね。困ったわね」

「えっ? なに、どういうこと?」

 

 ユキノシタも自分で書いてて気づいたのだろう。

 重々しい溜息を吐いている。

 

「ザイモクザ、取り敢えずジガルデに関する情報を洗いざらい調べてくれ」

「う、もぐもぐ………んくっ………ぷはぁ…………ゴク、ゴク、ゴクッ…………ぷはぁ……………ん? そ、そんなに見つめられると我照れちゃう」

「気持ち悪………」

 

 くねくね腰をくねらせるなっ!

 気持ち悪いったらありゃしない。

 

「……先に食ってんじゃねぇよ」

「む、それはお主たちが遅いからではないか。我は腹が減って腹が減ってしかたなかったのだ!」

「はいはい、食い意地だけはあるんだから………」

 

 コマチのカビゴンほど食わないからいいけど。

 あいつ何気に毎食食ってるからな。

 もう面倒だからコマチにカードを持たせているけど、一体いくらにまで減ったのやら………。

 本気で貯金しよう………。

 

「小判のお守りが欲しい………」

「ん? なにそれ?」

「なんでもない」

 

 俺の呟きにユイガハマが食いついてきた。

 そういやユイガハマやイッシキはどうやって金が入ってきているのだろうか。親の仕送りなのだろうか。まあ、コマチは一応もらってるらしいし、どこもそんな感じなのかね。

 

「取り敢えず、そっちは任せたぞ」

「あい、分かった!」

 

 口を拭いながらそう言ってくる。

 はあ………、大丈夫かね。

 ポリゴンZもロトムもいるし、何か掴んでくるとは思うけど。まあ、それなりに長い付き合いだし大丈夫だとは思うけど。

 何故かしら、ザイモクザだから心配である。理由がよく分からん。

 

「………大丈夫なのかしら」

 

 早々に朝食を済ませ、そそくさと部屋を出て行くザイモクザを見てユキノシタがそう呟いた。

 

「知らん」

 

 知りたくもない。

 期待しないで待ってよう。

 取り敢えず、俺たちも朝食を済ませることにした。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 朝食を済ませた後、俺もネットでジガルデについて検索をかけた。だが、まあ出ない出ない。

 何の手がかりもないので先生の部屋に訪れると、ノック一回で部屋に引き込まれてしまった。それから永遠とやれ結婚したいだの最近の男は草食だの愚痴を聞かされてしまった。あ、もちろん八つ当たりもされたぞ。

 そして昼になってしまった。どんだけ溜まってんだよ。

 先生には悪いが会議があるので退場させてもらい、ユキノシタと合流。会議場に向かうとすでに人集りができていた。

 流れに任せて部屋に入るとまだハルノさんたちは来ていない様子。

 カツラさんも来てないと見ると、みんな自由に羽を伸ばしているのがよく分かる。

 

「気楽な奴らだな」

「実際に目にしていないもの。言われてるのと実際に遭遇するのとでは危機感が違うわ」

 

 ユキノシタの言う通りではあるが、それにしても………。

 中でも一番お気楽そうなのはサガミ一行だ。頭の悪そうな会話が止むことなく、わいわい騒いでいる。

 俺たちは彼女たちを横目に定位置となってしまっている真ん中の席に移動した。

 ああ………、端っこが恋しい。

 

「平和な奴らだな………」

「ガッチガチで居られるよりはマシだと思うけれど」

 

 そりゃそうだけど。

 やっぱり主導者ないし重鎮がいなければ気が引き締まらないのもどうなんだろうな。

 

「あら、来たみたいよ」

 

 ユキノシタが扉の方に顔を向けたので俺も続いて向けるとメグリ先輩とカツラさんが入ってきた。

 あれ? 魔王は?

 

「こ、こんにちわ〜」

 

 弱々しい、覇気のない声で挨拶をするメグリ先輩。いつものめぐ☆りんパワーはどこへいってしまったのだ?!

 それでも二人が入ってくると場の空気が変わり、各々が席に戻っていく。

 それを確認したメグリ先輩は早速口を開いた。

 

「あ、あの今日はとっても大事な話があります。というか一大事な事件です」

 

 ポツポツと呟かれる言葉にはどこかやるせなさを感じられる。

 

「………マスタータワーが、倒壊しました。倒壊したのは一昨日の夜だそうです」

 

 はっ?

 えっ?

 はっ?

 

「今はるさんが現場検証に行ってくれてますが、恐らくフレア団によるものかと思われます」

 

 マスタータワーが倒壊した?

 それじゃ、あいつらは?

 コルニやコンコンブル博士はどうなったんだ?

 

「フレア団はもうすでに表に出て活動し始めています。伝説のポケモンが現れたり、最終兵器の起動実験と思われる動きをしていたり、状況は最悪です。未だ死者は確認されていませんが、ポケモンたちが生体エネルギーを奪われているのは事実です。みなさん、早急にフレア団への対応が必要となります」

 

 くそっ、悪い方にしか考えがいかん。

 そもそも本当にフレア団によるものなのか?

 いや、そんなことをやり兼ねないのがフレア団だ。カロスでこんな大々的なことができるのもフレア団しかいない。

 ということはやはり俺があいつらと接触したせいか?

 あいつらと過ごしたから、今は離れている隙に襲ったとでもいうのか?

 俺があいつらと………いなければ……………。

 くそっ、これだから馴れ合いは………………。

 

「………ヤくん」

 

 だが、どうにも今の俺は馴れ合いを捨てきれないでいる。

 こっちに来てから一ヶ月。俺はその一ヶ月で変わってしまったというのか?

 コマチについてきたばっかりにユキノシタやユイガハマ、イッシキまで現れて旅の同行者となり、ザイモクザやトツカもいて。

 

「ヒキ……くん!」

 

 ああ、くそっ!

 どうしてこうなるんだよ。

 いつもいつもいつもいつもっ!

 俺が何したってんだよ!

 

「ハチマン!」

「えっ? あ、ゆ、ユキノシタ?」

「あなたはこれからどう対処すればいいと思うのかしら?」

「はっ? ど、どうするって、何をだ?」

「フレア団に対してよ。今一人一人意見を言い合っているのだけれど。やっぱりトリップしていたのね」

 

 えっ? 何? どゆこと?

 なんか気がついたら目の前でユキノシタがため息をついてんだけど。

 辺りを見渡すと…………ああ、そうか。まだ会議中だったのか。

 ショックのあまり意識が飛んでたみたいだな。

 で、なんだっけ? フレア団をどう対処するかだって?

 はっ、そんなの決まってる。皆殺しだ!

 

「………皆殺しだ」

 

 だがそれはあくまでも個人的なもの組織的に動くのであれば真っ向から攻め込むとか、そういう方が………。

 

「へっ?」

 

 あ、やべっ。口に出てた………?

 

「あ、ああ、いや、それは、さすがにない、よな。うん、すまん。なんか今気が動転してる………」

「はあ………、あなたときたら。少し感情的になりすぎよ」

「すまん。取り敢えず、ボスを捕まえれば何とかなるんじゃね?」

「だそうです」

「う、うん、そうだね。ボスを捕まえるね」

 

 あはははー、と気を使われた笑みを返された。

 うわー、やってしまった。気が動転してるにもほどがあるだろ。

 

「ハチマン、どうしたのだ?」

「い、いや、なんかすんません。ちょっと、今気が動転してるというか………」

 

 ぼそぼそと隣に座るカツラさんが声をかけてきた。

 俺もそれに習って小声で返すとこう返してきた。

 

「君は少し変わったな。昔よりも棘が無くなった感じだ。ユキノシタの娘といるのがいい傾向なのかもしれんな」

 

 どうしてそうなる!

 いや、まあ、俺も思ったけど?

 他人から言われるとなんか背中がぞっとするんだけど。

 むず痒い。

 

「だが、やはり昔の君も残っているようだ。いつスイッチが切り替わってもおかしくはない」

「……はあ………、肝に銘じておきます」

 

 スイッチね。

 切り変われたらどんなに楽か。

 だけど、どっちも俺だから仕方がない。一人しかいないんだから切り替わることもなければさっきのだって俺の意見だ。

 正直皆殺しにしたい。

 ここまで荒っぽい感情が芽生えたのは初めてではあるが、それでも多分これが本音だ。そんな感情を抱く理由ももちろん分かっている。だからこそ切り変われない。

 

「で、ではカツラさん。さ、最後にお願いします」

 

 サガミに促されてカツラさんの番になる。

 まだ慣れないのかよ。噛み噛みじゃん。

 

「うむ。まずはこの男が言ったようにフレア団のボスを何としてでも探し出して取り押さえるのが先決だ。加えて伝説のポケモンの方も対処しなければフレア団が狙ってることは間違いない。この二点に絞り、早急に両者を対処するべきではないか?」

「分かりました。ではその二点に加えて噂程度のことですが8番道路にある大樹を調べーーー」

 

 ズドン! と。

 

 いきなり爆発のような音がした。

 会議場となっている建物は大きく揺れ、ひびが入った。

 

「み、みんな外に出るんだ! このままでは建物の下敷きになってしまうッ!」

 

 カツラさんの喚起により出口に近い者から出始めていく。

 

「一体、何があったというのかしら」

「知らねぇよ」

「……この気配、もしかすると………」

「えっ? どういう意味ですか?」

 

 カツラさんが何かを感じ取ったようだ。この人戦場に度々いるからこういう感覚養われてるのかね。

 

「なっ!? なんだこれはっ?!」

 

 先に外に出た奴らが一斉に驚き始めた。すぐにポールに手をかけ自分のポケモンたちを出していく。

 

「どこかで情報が漏れていたようだな」

「えっ? マジですか? つーことはフレア団がいるのかよ」

 

 俺も感じ取っていたこの悪意に満ちた気配。

 案の定、外には多数のフレア団の姿があった。すでにあちこちでバトルを始めている。

 

「カツラさん、ミュウツーは使わないでください。どこで情報が漏れているか分からない今、あいつを使うのは得策ではない。フレア団と繋がりのある奴がいる以上、奴は見せてはいけない。全員を捕獲できればいいですが、逃げられたら終わりだ」

「うむ、心得た。と言いたいところだが生憎奴は置いてきている。ああ、心配しなくても野生のポケモンたちの番だよ。少し気になるところがあってな」

「そうっすか。なら丁度いい。マスタータワーの仕返ししてやるよ」

 

 暴君様がいないのなら俺たちが暴れるほかあるまい。

 ちょっと今むしゃくしゃしているし丁度いいサンドバッグだわ。

 

「ちょ、ヒキガヤくん!?」

「ユキノシタ、お前はメグリ先輩と他の奴らの指揮を」

「………お願いだから、法に触れるような真似はしないで」

 

 袖をつかんできたかと思うと急にそんなことを呟いてきた。いつもの凛とした出で立ちはなく、しおらしいいつかの姿と重なった。

 あ、これマジモンのやつだ。

 前の時といい今回といい、ユキノシタが変に甘えてきた後って必ず何かが起きるよな。前はフレア団に捕まったし、今回もこれ以上にあったりしないだろうな。

 

「分かってる。殺さない程度に殺ってくる」

「ん」

 

 俺はそう言って狭い戦場へと出向いた。

 まず目に付いたのはサガミの取り巻き二人。

 名前は知らんが片方はムウマとムウマージ、もう片方はゴチルゼルとチラチーノを使っていた。ゴルバット・クロバット計八体に囲まれ、苦戦している様子。

 こいつらから始末するか。

 

「ゲッコウガ、バット八体の始末よろしく。あとフレア団の連中の意識も刈っといてくれ」

 

 命令を出すと影の中を移動する気配を感じた。

 メガシンカ擬きはまだしなくてもいいだろう。素のままでも今のゲッコウガなら倒せるはずだ。それに一対八とかあいつが超喜びそうな展開じゃん。これで勝てたらかっこいいからな。

 

「建物が邪魔だな。このままフレア団の責任にしてこのボロボロの建物壊すか」

 

 けど、ここ狭いしな。ハルノさんがいたらあの人がしてくれそうだったのに。エスパータイプも持ち合わせていることだし。

 はあ………何もかも計算されてるな。

 この場にハルノさんがこないように上手く情報を操作して戦力を一つ落としやがった。

 そして大群で押し寄せて俺たちの戦力を削いで行くつもりなのだろう。倒せなくてもいい。疲れさせることが目的なのだろう。最初から勝てないと分かってても奇襲をかけてきてるんだし。

 

「ユキノシタ! シロメグリ先輩! ありったけのサイコキネシスを!」

「ど、どうする気!?」

「この建物を壊す。狭くて動きにくいし、倒壊するのも時間の問題だ。なら急に倒れてくるより先に壊した方が被害が少ない」

「分かったわ。ニャオニクス、誰もいないか見てちょうだい。シロメグリ先輩、いけますか?」

「うん、分かったよ。エンペルト、フシギバナ。みんなのサポートお願いね! サーナイト、メタモン!」

「オーダイル、ボーマンダ、ユキメノコ、エネコロロ! そっちは任せるわ! ニャオニクス、クレセリア!」

 

 こんだけエスパータイプがいれば十分だろ。伝説のポケモンもいることだし。

 

「リザードン、じしん!」

「「サイコキネシス!」」

 

 リザードンをボールから出して命令を実行させる。コンクリートでできた建物は激しく揺れ、足元から崩れ始めた。破片が飛び散らないようにクレセリアたちがサイコキネシスで抑えてくれているので、クズ一つ飛んでこない。

 マジハンパねぇよ、あのクレセリア。空間ごとの支配はヤバイわ。それに加えてサーナイト二体(一体はメタモンのへんしんによるもの)にニャオニクスの雌だろ。隙がないわ。

 

「さて、と。俺たちも暴れますかね」

 

 見晴らしの良くなった裏路地を見渡すと今度はサガミが苦戦しているのが見えた。

 うん、まあ、あれは苦戦するわ。なんであいつがバンギラスとサザンドラとワルビアルの相手してんだよ。

 メガニウムにフローゼルにエモンガ? 勝てるわけねぇ。エモンガじゃ無理でしょ。

 

「メガニウム、ソーラービーム! フローゼル、アクアテール! エモンガ、でんげきは!」

「リザードン、サザンドラにドラゴンクロー」

「あ、ちょ、エモンガ!? なんでボルトチェンジ使うのよ! あああっ、ルリリ出ちゃダメ!!」

 

 なんかエモンガがサザンドラに真っ先に突っ込んでいったかと思ったら、ボルトチェンジのヒットアンドアウェイで帰って行っちまったよ…………。こんな時でも言うこと聞かないポケモンって、お前のことトレーナーとして認めてないんじゃないの?

 

「ええっ!?」

 

 突然のリザードン登場にもうわけが分からなくなっているサガミさん。

 よくそんなんでポケモン協会に入れたな。

 多分あの二体が認められたんだろうな。二体の扱いはちゃんとしてるようだし。

 

「もう、二体だけにしとけ。邪魔だ」

「え、ちょ」

「リザードン、りゅうのまい」

 

 有無を言わせずサガミにエモンガもルリリもボールに戻させた。

 

「サザンドラ、りゅうせいぐん!」

「ワルビアル、かみくだく! バンギラス、いわなだれ!」

 

 うわー、もうサガミには眼中にないって感じだな。早々に狙いを俺たちに定めちゃってるよ。

 

「トルネードメタルクロー! 朝と同じようにはがねのつばさもだ!」

 

 朝、ユイガハマとバトルした時のように鋼の爪を前に突き出し、鋼の翼を折りたたんで高速回転で色々と降ってくる中を突き抜けていく。

 こうしてみると尻尾がなんか勿体無い気もしてくる。身体は鋼で覆われているが一つ飛び出した尻尾だけが気になってくる。アイアンテールでも覚えさせた方がいいのかね。

 

「ほらお前も働け。死にたいのか?」

「う、え、あ、はい………、め、メガニウム、にほんばれ! フローゼル、かわらわり!」

 

 あ、晴れた。

 なら一発打ち込みますか。

 

「ブラストバーン!」

 

 全ての攻撃を弾き返したリザードンは思いっきり地面を叩いた。

 割れた地面からは火柱が噴きだしてくる。日差しが強いおかげで火力が強くなっているな。

 

「ソーラービーム!」

 

 フローゼルがバンギラスを叩き、メガニウムがワルビアルにビームを放った。

 リザードンはそのままサザンドラを焼き上げ、バトルは終了。

 次の相手を潰すとしよう。

 

「ゲッコウガ!」

 

 取り敢えず逃げられないようにゲッコウガに意識を刈り取ってもらっておこう。

 呼ぶとすぐに跳んできた。

 もうバット八体とそのトレーナーを潰してきたようだ。なんだこいつ、さらに強くなってんな。まだ例のアレを使ってもないのに。

 

「あ、あんた………」

「ほら、次だ次。働け」

「ちょっ!? 命令しないでくれる!」

 

 ギャーギャー騒いでいるサガミは放っておいて。次はあのデルビル・ヘルガー・グラエナの集団だな。

 

「リザードン、じしん!」

 

 四足歩行どもの足元から崩しにかかる。

 

「フシギバナ、メタモン、はっぱカッター! エンペルト、ハイドロポンプ! サーナイト、マジカルシャイン!」

「オーダイル、ハイドロポンプ! ユキメノコ、エネコロロ、10まんボルト! ボーマンダ、だいもんじ! クレセリア、ニャオニクス、シグナルビーム!」

 

 あっちもあっちでフルで相手してるみたいだな。

 放っておいても大丈夫だろう。

 

「サイドン、サイホーンたち! ロックブラスト!」

 

 うわっ、なんか違うところからも新しいのがきたし。囲まれたな。

 

「私も加わろう!」

「ッ、助かりますっ!」

 

 背中に気配を感じたかと思うと、ナットレイどもを倒してきたカツラさんが助太刀に来てくれた。

 さっきの話の手前、俺のスイッチを入れてはいけないと思ってるのだろう。

 

「リザードン、さっきのだ!」

「シャアッ!」

 

 もう一度トルネードのメタルクローとはがねのつばさで、飛んでくる岩を弾き返していく。

 

「ギャロップ、ほのおのうず! ウインディ、かえんほうしゃ!」

 

 俺が受け持つはずだった四足歩行どもを一気に攻撃していく。

 だが、ほのお使いのカツラさんなら今ので気づいただろう。ヘルガーたちはもらいび持ちであることを。

 

「くっ、もらいびか!」

「ええ、何度か俺とバトルしてます。リザードン対策に入れていてもおかしくはない」

「なるほど、ならばギャロップ、メガホーン! ウインディ、インファイト!」

 

 ほのおのうずで捉えたグラエナたちの方はいいが、もらいび持ちのヘルガーたちには全く炎技が効いていない。それはカツラさんの得意分野すらをも帳消しにしている証明でもある。

 だがカツラさんがそれでどうにかなるわけでもなく、すぐに炎以外の技で対応してきた。

 

「ちゃっかり弱点までついていやがる。ゲッコウガ!」

 

 呼べばすぐくるゲッコウガ。何なら技を言わなくてもすでにみずしゅりけんを撃ち出していた。

 

「リザードン、もう一度だ! 畳み掛けろ!」

 

 ゲッコウガのみずしゅりけんで視界を邪魔されたサイドンたちが一瞬怯んだところに、三回目の鋼のトルネードを叩き込む。

 

「ゲッコウガ、フレア団たちの方は頼んだ! カツラさん、他行きます!」

「うむ、ここは任せい」

 

 リザードンに乗り、今度は空から攻撃しているドンカラスたちの始末に移る。

 上から見るとまあ、こんな狭いところでバトルしてんなーって感じだわ。あの壊れかけの建物を壊しておいて正解だったな。誰も使っていない無人の建物だったみたいだし。

 

「リザードン、かえんほうしゃ!」

 

 円を描いて四方に撃ち出していくが全員には当たらない。狙い損ねたドンカラスとオンバーンとヨルノズクが三方向から同時に仕掛けてきた。

 

「くそっ、リザードン、メガシンカ!」

 

 まずはメガシンカの光で攻撃。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 怯んだところにまずはオンバーンから攻撃をしていく。

 効果抜群でそのまま地面に引っ張られていった。

 

「あくのはどう!」

「ねんりき!」

 

 ドンカラスとヨルノズクがそれぞれ動き出した。

 よし、ならもう俺がいると邪魔になるな。

 

「リザードン、ブラスタロール!」

 

 リザードンから飛び降りながら命令を出すとそのまま翔けていった。

 

「かみなりパンチ!」

「ひっ!? ヒキガヤくん!?」

 

 下からユキノシタの声が聞こえてくるが俺に構わなくていい。

 リザードンが二体に雷の拳を当てたのを確認すると、一拍手。

 黒いオーラが俺を包み始めた。

 

「ドリルくちばし!」

 

 一体のオニドリルが俺を焦点に定めた。

 いいところにきてくれた。

 

「拝借させてもらうぜ」

 

 俺を包み込んでいた黒いオーラをそのままオニドリルに向かわせる。オニドリルは黒いオーラに包まれると目の色が変わった。

 ふっ、さすが黒いの。

 

「乗っ取り成功」

 

 ダークライのさいみんじゅつによりフレア団のオニドリルを拝借。

 地面に落ちて行っている俺を回収させ、リザードンの元へと戻る。

 

「なっ?!」

 

 フレア団員が俺を見てぎょっとしていた。

 

「リザードン、ドラゴンクロー!」

 

 改めて下を見るとユキノシタがボーマンダをメガシンカさせていた。それにメグリ先輩のフシギバナも姿を変えている。あれがおそらくメガシンカした姿なのだろう。

 

「ん? なんで急にダンゴロをたくさん出してきたんだ………?」

 

 ダンゴロ?

 この流れでそんな進化もしていないポケモンを大量に出してくる意味あるのか?

 いや、意味がなければ出さないはずだ。それにあのフラダリが何の目的もなく奇襲をかけてくるなんてことはあり得ない。いくら情報がフレア団に流れていたとしても今このタイミングで来る必要なんて何かがあると言っているようなもの。そしてそれには俺たちが邪魔であるのも伺える。だが、こんな奴らでもポケモン協会に属している者たちを倒せるなんて梅雨にも思っていないのも事実。あいつはそういう奴だし、だったら………やはりさっきの考え通り足止めないし戦力の低下。

 そしてあの大量のダンゴロが鍵だというのであれば………。

 

「ッッッ!?!」

 

 くそったれ!

 まさか捨て身で攻撃してくるとか団員たちも何も思わないのかよ!

 

「ゲッコウガ! 全力でまもる!」

「ッッ!? ギャロップ、ほのおのうず!」

 

 俺の叫びに察したカツラさんも近くにいた奴らを守るためにほのおのうずでバリアボールを作り出した。

 

「「ッッ!?」」

 

 遅れてユキノシタたちも気づいたようだが………。

 

「「遅いぜ。ダンゴロども、だいばくはつ!」」

 

 くっ!?

 やっぱりそうきやがったか。

 上空にいても爆風に煽られて飛ばされそうになる。

 

「こんな狭い裏路地で爆発させんなよ………」

 

 くそっ!

 ユキノシタたちの安否が分からない。

 それに他の奴らも対処できていないはず。これじゃあ死人が出てもおかしくないレベルだぞ。現にフレア団なんて捨て身の爆発だったのだろうし。

 

「…………なんて奴らだ………」

 

 爆風の中降り立ってみるとフレア団どもはしれっと立っていた。煙でよくは見えないがオレンジ色のシルエットははっきりと立っている。

 

「ふはははははっ! さすがはフレア団のスーツ! 五百万もするのは伊達ではないわ!」

 

 誰かがそんな笑い声をあげている。

 スーツのおかげで無傷だと?

 あれにはそんな大層な効果があったというのか?!

 それじゃあいつらは最初から捨て身ではなく、守られていた?!

 

「くそったれ!」

「きゃあっ!?」

「ひゃあっ!?」

 

 煙の中で悪態をついていると甲高い声が二つ聞こえてきた。

 どちらも上ずってはいるがどこか聞き覚えのある声である。

 

「オニドリル、きりばらい」

 

 使えるかは知らんが命令を出すと煙を一掃してくれた。後で野生に返してやろう。

 

「ッッ!?!」

 

 なんて呑気なことを考えていられるほど余裕な状況ではなかった。

 

「ユキ、ノシタ………メグリ先輩……………」

 

 咄嗟にリフレクターを貼ったのだろう。サーナイトとメタモンとニャオニクスは自分で貼った壁に押しつぶされ、あのクレセリアでさえすでに取り囲まれている。

 ボーマンダとフシギバナのメガシンカも解けている。

 

「動くな! こいつらを殺されたくなければ動かないことだな!」

 

 何このよくドラマとかである展開。マジでこんな展開が存在したんだな。フィクションの世界だけだと思ってたわ。

 

「くっ、何、なのよ! あんた、たちはっ!?」

 

 初めて遭遇する名も知らぬ協会のメンバーが腕を押さえながら立ち上がった。

 ゲッコウガを探すとすでに八枚刃のみずしゅりけんを構えていた。その後ろにはサガミたちが転がっている。運のいい奴らめ。

 

「フレア団だよ、フレア団。覚えときな! お前ら余所者にまでボスの邪魔はさせねぇ!」

 

 ユキノシタにテッカニンの刃を突きつけているハゲのフレア団幹部がそう告げた。ハゲは幹部だったもんな。

 

「は、ハチマン………!?」

 

 少し離れたところからカツラさんが声を投げてくる。

 あー、うん、ようやくカツラさんが言ってたことが理解できたわ。確かにスイッチなるものが俺の中にもあったようだ。あんなことを考えてる時点で理性が働いてるってな。

 

「よお、責任者出てこいよ。こいつらの命が惜しくないのか?」

「……あ、あの………責任者は………」

「ハチ公とか言ったか? 奴がトップなんだってな。ボスが言ってたぜ」

 

 ははっ、フラダリが俺を知っている以上、バレてるわな。

 

「………バカな人たち。その名をこんな形で、しかも私たちを人質にして口にするなんて、あなたは終わりよ」

「ああっ!? 何勝手にしゃべってんだ!!」

「くあっ!?」

 

 後ろ髪を引っ張られ苦痛の表情を浮かべるユキノシタ。

 

「命、惜しく、ないの、かしら………?」

「次はないぜ」

「ぐぅ………」

 

 ああ、もうダメだ。

 この内から湧き上がってくる何かに逆らえそうにない。

 

「………すんません、カツラさん。スイッチってこれのことだったんすね」

 

 ぼそっと呟くと聞こえたのか唇から読み取ったのか、カツラさんが再度ハチマンと声を飛ばしてきた。

 だが、もう俺はカツラさんの忠告には従えそうにもない。

 あいつらは犯してはいけない領域に踏み込んできやがった。重罪だ。罪には罰が必要だ。

 

「ダークライ」

 

 一声かけると俺は影に呑まれた。

 そして一瞬でユキノシタを取り押さえているハゲの後ろに降り立つと黒いオーラで包み込んだ。

 隣にいたメグリ先輩の方にも黒いオーラを飛ばしていく。

 オーラに囚われたフレア団幹部二人は強制的に二人を解放し、コケそうになっていたユキノシタを抱きとめながら、今度はテッカニン共々黒い穴に吸い込まれていくのを見届けた。

 

「「な、なんなんだぁぁぁああああっ!?」」

「テメェらは一生そこからは出られない。つーか出てくんな。ギラティナに食われろ」

 

 ダークホールの先がどこに繋がっているのか。いつだったかそんな疑問を抱いたことがあった。何とは無しにダークライに尋ねるとこの世の裏側に繋がっているのだとか。『この世の裏側』と言えばシンオウ地方にそんなところに住む伝説のポケモンがいた。

 名はギラティナ。

 破れた世界とかいうこの世の裏側に住む反物質を司るポケモン。

 ダークホールの先はそこへ繋がっているらしい。

 

「すまん、すぐ終わらせる」

「バカね、あなたたちも無理はできないのでしょうに」

「なんだ、気付いてたのか。でも今回は無理そうだ」

「私たちの、所為よね」

「別に、そんなんじゃねぇよ。ただ今回は我慢できなくなっただけだ。俺の私情だ」

 

 ユキノシタを座らせるとゲッコウガに合図を送る。空ではすでにリザードンが逃亡者を全員火の海に捕えていた。

 

「オーダイル!」

 

 こいつはほんとになんで俺の言うことも聞くのだろうか。そろそろいいだろうに。まあ、俺が呼んだんだから来てくれるぶんには嬉しいけどよ。ボロボロのくせに悪いな。

 

「ユキノシタは任せた」

「オダッ!」

 

 ドッサドッサ歩いてくるオーダイルにユキノシタたちを任せ、俺もお掃除に取り掛かる。

 一匹たりとも逃しはしない。

 

「ダークライ、フレア団全員にダークホール」

「クレセリア、マジカルシャイン」

 

 逃げ出し始めるフレア団員の目の前に黒い穴を作り出し、突然のことで躱せない奴はすぐに呑まれた。

 躱せた者たちもゲッコウガによって意識を刈り取られていく。

 そうして上も下もフレア団は一人も活動できる者を失った。

 

「み、みなさーん、生きてますかーっ!?」

 

 メグリ先輩がみんなの安否を確認していく。

 

「きつ………」

 

 そんな中、俺は立っているのもキツくなっていた。さすがに感情任せに力を使うのは負担がでかい。感情に身を置くのも考えものだな。

 

「ヒキ、ガヤくん…………」

「生きてるよ」

「そう、よかった…………」

 

 その場にへたり込む俺をユキノシタが心配そうに覗き込んできた。

 そのまま仰向けになって空を見上げているとバラバラとヘリコプターの音が聞こえてくる。

 あの人なんてタイミングで戻ってきてんだよ。もうちょっと早く来てくれれば俺が楽できたのに。魔王め。

 はあ…………、これじゃダメなのは分かってはいるんだが、どうしても無理なものは無理なようだ。感情は恐ろしい。




ご報告。
さがみんのポケモンは、メガニウム、フローゼル、エモンガ、ルリリになりました。
フローゼルの案の流れが使えそうだったのと数の多かったエモンガ、マリルリと致しました。ただマリルリはルリリがなつき進化ということで、目に見て分かるなつき具合も必要かと思いましてルリリにしました。
他にもたくさん面白い意見がありましたので、他の人たちのポケモンなどで使わせていただこうかと思っています。


さて、情報漏れは誰が原因なのでしょうね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。