なんか重い。
なんだろうか、この重さは。
まるでポケモンにのしかかられてるような………。
「………えっ? 誰?」
朝起きると俺の腹の上で緑色の何か丸いものがいた。
たぶんポケモンなのだろう。しかし、こんなポケモン俺は連れていない。何なら拾った記憶もない。
「はっはっはっはっ」
「…………おい、こらサブロー。寝起きで俺の顔を舐めるじゃない」
マジ寝起きで獣に顔を舐められてるとか、なんなのこの仕打ち。
腹は重たいし。
「あ、ヒッキー、起きた?」
「ガハマさんや。これはどういうことなんでしょうか? 何の嫌がらせだ」
丸椅子に座るお団子頭のユイガハマが覗き込んできた。
「マロンが進化したから見せに来たら、まだ寝てたから起こしてあげようと思って。昨日結局帰って来るの遅かったみたいだから、見せられてなかったし」
「進化? こいつか………」
腹のところにいる緑色の丸い物体。こいつがハリマロンの進化した姿なのだろう。色合い的にも似ているし。
「重いんだけど」
「あたしも重たくてどかせないの………」
「ボールに戻すとかあるだろうに」
「あっ………」
「ダメだこいつ」
やっぱりガハマさんはガハマさんでした。
「ま、まあヒッキーも無事起きたことだし、結果オーライ?」
「良くねぇよ。腹の重みで起きたら顔を獣に舐められてるとか、しばらく夢に出てきそうで怖いんだけど」
「どんだけトラウマになったの!?」
いやー鬱だわー。
明日も起きたらこうなってるとか考えた日には寝られないわ、夢に出てくるのは確実そうだし………。
「うん、これはユイガハマが悪いな。うん、そうだ、そうに違いない」
「うぇっ!?」
体を起こしてグラエナを撫でながら言った。
「というわけで罰を与えなければな」
「ば、罰っ!?」
「中間試験、といこうか」
「ヒッキーの笑顔がこんなに怖いなんて……………」
あーあ、まだ八時前じゃねぇか。
早起きだな、こいつも。
ふぁあぁぁ…………、ねむ…………。
✳︎ ✳︎ ✳︎
研究所のバトルフィールドに向かうとイッシキが一人、でんじほうをぶっ放していた。デンリュウの相手をしているのはヤドキング。あいつもでんじほうを撃てたもんな。一からザイモクザに改めて叩き込まれただろうけど。
哀れ、ヤドキング………。
「ね、ねえ、ほんとにやるの?」
「何を今更。ユキノシタばかりだと飽きてくるだろ? たまには違う刺激を受けるのも必要だと思うが?」
「そ、それはそうだけど………、なんかヒッキーが乗り気なのが気になるというか………変に優しくてキモい…………? なんか怖い………」
「はいはい………、褒め言葉だと思っておくよ」
「ほ、ほんとにどうしちゃったのっ!?」
どうもしません。
暴君様がいなくなって頼れる強みが自分だけになってしまったとか、決してそんなことはないぞ。
「はあ……………、狙ったところに飛んでいかない………」
どうやらイッシキはコントロールにあくせくしているらしい。
まあ、確かにでんじほうは命中させるのが大変だからな。そう思うとザイモクザってすごいよな。ロックオンでそこんとこをカバーしてるし、覚えられない奴はロックオンで培った感覚で正確に当ててくるし。しかもロックオンなんかされたら追尾機能が働いちまうし。こうしてみると相手にしたくない奴だわ。面倒臭そう。つか、面倒臭い。
あいつとバトルする時用にじめんタイプでも捕まえた方がいいのかね。
「撃つタイミングが違うんじゃねぇの」
「うぇっ!? せんぱい?! えっ、マジで先輩?!」
どういう意味だ。
俺が来たことだけじゃねぇよな、その驚き方。
「は、早起きですね………、先輩らしくもない………」
「どこぞのアホの子に起こされたんだよ。だから罰を与えるために来たんだが………」
「早く起こしたくらいで罰とか、女の子に対して何してるんですか」
「お前、そうは言うが、寝起きでグラエナに顔を舐められてるわ、腹のところには緑色の丸い何かが寝てるわで、酷い有様だったんだぞ」
「それはユイ先輩が悪いですね」
うわー、とマジな方で引いている。ドン引きである。ユイガハマ、そろそろお前が犯した罪を自覚するんだな。
「あ、あたしが悪いんだっ!? うぅ………、ヒッキーの罰とか鬼畜だから何させられるか怖いよぉ」
「大丈夫ですよ。骨は拾ってあげますから」
「助けてくれないんだっ!?」
ついに後輩にまで見捨てられてしまったガハマさん。
可愛い顔してえげつないな、こいつも。
「で、撃つタイミングってどういうことですか?」
「あ? ああ、うん、まあ、取り敢えず、デンリュウ」
手招きしてデンリュウを呼ぶと、ヨタヨタ歩み寄ってきてくれた。
「でんじほう」
「リュウ」
バチバチと電気を発する球体を作り始めていく。
溜め込むまではいいようだな。
「狙うのはあそこであくびをしているヤドキングだ。周りには何の障害物もない一直線上だ。ヤドキングまでレールを引け。…………そろそろいいだろう。弾を上に弾け。………そうだ。重力の力で降りてくるのを待つ。3……2……1……、発射!」
ズドォーン! と。
いきなり飛んできたでんじほうによりヤドキングは後方の壁に吹き飛ばされていった。
「なっ!?」
「うわっー、やっぱりヒッキーが何させようとしてるのか怖いよぉーっ。絶対怒ってるよー!」
「ざっとこんなもんか。やー、やっぱ、ザイモクザはすげぇわ。あそこまでは俺にもできん」
「いや………、あの………、せんぱい? 人のポケモンで持ち主よりもキレッキレなの撃たないでもらえます?」
「あ、なんか、すまん………」
『というか、いきなり撃つ奴があるか!!』
「あ、生きてたか」
『生きてるわ! 防壁張ったわ! 張っても飛ぶとかどこまで威力上げてんだっ!!』
ドタドタ走ってくるヤドキングがテレパスを送ってくるが、走ってる姿がどうにも辛そう。やっぱ、痺れてるんだな。痺れてても走れるとか、さすが校長のヤドキング。
つか、防壁を破壊してしまうとは。デンリュウ恐ろしい子。
「まあ、こんな感じでできたら上等なんじゃね?」
「上等なんじゃね? じゃないですよ! もっと分かりやすくーーー」
「別に普通に撃ち出してもいいんだけどよ。俺もそんなに経験がないから敢えて一回上に弾いたんだよ。そして頭の中で描いた目標までのレールにまで降ってきた時に撃ち出す。イメージとしてはそんな感じだ。それでコントロールできるようになったら上に弾かずに撃ち出してみるのもいいんじゃねぇの?」
そんな前のめりに聞いてこなくても。
胸元開いたその服じゃ、いくらユイガハマほどないとは言っても見えそうなんだからね!
「意外と考えてたんですね………、なんか悔しいです。先輩にできて私にできないなんて」
「ま、お前よりはザイモクザに仕込まれてるからな。何度あいつのでんじほうを見てきたことか」
「………はあ、まあ、勉強になりました。で、先輩たちはこんなところに何しに来たんですか? その、罰とやらをやりに来たんですか?」
「あーそうそう、そんな感じ。久しぶりにユイガハマを扱こうかなと」
「扱く? 扱くってまさか………」
悪魔の囁きを聞いたかのように一歩一歩後ずさりをするユイガハマ。なんか段々楽しくなってきたんだけど。
もう少し、遊んでみようかな。
「バトルだよ。言っただろ、中間試験だって」
「テストなんて聞いてないよぉー。助けてゆきのーん!」
ついには頭を抱え出して遠くにユキノシタを呼びかける。
「………ユキノシタ先輩が朝弱いのは知ってるでしょうに」
だが、ここにも悪魔がいた。
「うぅ………、ゆきのん………」
現実という知りたくもない事実を知らされた彼女はその場に崩折れた。
「先輩も鬼畜ですね」
「お前には言われたくないな。なんだよ、現実とかいう一番辛い攻撃って」
「いやー、それほどでも。あ、ということは審判が必要ですね。私がやりますよっ」
「ヒッキーの鬼畜、悪魔!」
「さっきは嫌に優しくて気持ち悪いとか言ってたくせにな」
「あ、あんなのあたしの気のせいだったの!」
ギャーギャー騒ぐユイガハマを引きずってフィールドに立たせると。ヤドキングが吹っ飛んでできたクレーターの前に立った。
「ルールはどうするんですかー?」
「俺一体。ユイガハマ全員。技規制なし。交代自由。以上」
「うわっ、なんか簡素にまとめてきましたよ、あの人!」
「あーもー、こうなったらヒッキーなんかギッタンギッタンにしてやるんだから!」
「おーおー、がんばれがんばれ」
「むきーっ!」
うわー、むきーって自分で言っちゃう人、ここにいたよ。まるでアホの子だな。アホの子か。
「サブレ!」
一体目に出してきたのはグラエナのサブレ。そうだ、サブローじゃなくてサブレだ。いまだに名前が覚えられん。
つか、すげぇ威嚇してる。さっきまであんなにじゃれてたのに。
「さて、お仕事ですよっと」
俺が出したのはリザードン。
ま、イッシキいるしね。
「えっと、では、バトル始めっ」
「かみなりのキバ!」
「躱してドラゴンクロー」
早速弱点を突いてきたか。
うんうん、ちゃんとそういうところは身についたようだな。
「サブレ! アイアンテールで受け流して!」
防御はただガードするだけじゃなくてアイアンテールで流してきたか。
ユキノシタの教えなのだろう。
キンッて弾く音にキレがある。
「とっしん!」
方向転換したグラエナは再度こちらに突っ込んでくる。
「じしん」
こちらに来るまでにバランスを崩させることにした。
地面を叩いて起こされた地震によりグラエナはバランスをとられていっている。だが、それでも前に進もうとジャンプしてバランスを取り戻しては走り続けている。
「えんまく」
ならば次は視界を奪ってみよう。
えんまくで視界を奪うとリザードンは黒煙の中を音もなく動き回り、グラエナの背後を取った。
「ドラゴンクロー」
「あっ、えっと……こういう時は、あ、ふいうち!」
ほんとよく叩き込んである。
こういう目眩ましの状態で効果的なのは見えなくても相手を捉えられるふいうちやカウンター系。後はスピードに定評のある技だろうか。
カウンター系は触れたタイミングで出せるし、ふいうちも然り。スピードがあれば逃げも攻撃にも動き出せる。
「捕まえろ」
くるっと身を捻って回り込んできたグラエナの頭を長い爪でガシッと掴む。
捕獲成功。
「うぇっ!? 掴まれた!?」
「先輩、遊びすぎじゃないですか?」
「何を言う。色々と試してるだけだろ。んじゃ、次はそのままソニックブースト」
「ああーっ、サブレーっ!」
上空に連れて行かれるグラエナをユイガハマは涙目で手を伸ばしている。手を伸ばす前に対処してやれよ。
「うぅー………、こうなったらじゃれつく!」
ユイガハマが命令を出すとグラエナがジタバタしだした。頭を掴んでいる竜の爪を軽々と砕かられてしまう。
「かえんほうしゃ」
リザードンから解放された宙を舞うグラエナを上から焼きにかかる。
「サブレ!?」
顔面から受けたグラエナはそのまま身体を地面に叩きつけた。もがく様子から火傷を負ったらしい。
「サブレ、がんばって! かみなりのキバ!」
身体を起こしてブルブルと砂を払うとリザードンを睨みつけ、飛びかかってきた。
リザードンはそれをすぐに見破り、上空へと退避。
「くっ、届かない………、どうしたら……………」
この状態を打開できる策が今のユイガハマにはないらしい。
「はあ………、見てられませんね………。ユイ先輩、遠距離攻撃とかできないんですか?」
「遠距離攻撃………? はっ、忘れてた!」
見かねたイッシキが彼女にヒントを与えた。俺よりも実際の特訓姿を見ているらしいイッシキが覚えてるってのもどうなんだって話だけど。
「サブレ、どろかけ!」
で、使ってきたのがどろかけか。地面の砂を掻き上げ、上空までどろを蹴り飛ばしてきた。結構距離があるはずなのに届くほどには鍛えられているらしい。
「リザードン、トルネードドラゴンクロー」
仕方ないので終わらせることにした。まあ、順調に育てられてるのは分かったし、リザードンの顔を汚すわけにもいかないからな。
「さすが先輩。こんなの朝飯前でしたね」
「そりゃそうだろ。どんだけバトルしてきてると思ってやがる」
泥の中を回転しながら突っ込んでいき、そのままグラエナに直撃。あっけなく第一ラウンドが終了。
「サ、サブレ〜っ」
ダッとユイガハマが涙を流してグラエナに駆け寄って行く。
そういう姿を見せられるとこころが痛むからやめてほしいよね。
「あ、そだ。サブレ、戦闘不能」
おいおい、そこの審判。仕事を忘れるんじゃないよ。
「ま、少しはバトルに慣れてきたみたいだな」
「そりゃ、慣れるよ! でも……」
「いや、ユキノシタでもリザードンに勝ててないんだからな。そこんとこ忘れるなよ?」
「そ、そうだけど………うぅ………、なんか悔しい!」
グラエナをボールに戻したユイガハマが吠えた。段々とポケモンに似てきてるような気がする。普通はポケモンの方が似るはずなのに。
「さて、次は誰でくるんだ?」
「マーブル、お願い!」
定位置に戻った彼女が次に出してきたのはドーブル。いかようにもなる使い方次第では危険なポケモン。
「いわなだれ!」
なぬっ!?
なんばしよっとね!?
それはいかんとですよ。
どげんかせんといかんばいっ。
なんか驚きすぎてホウエンの野生児ギャルみたいになっちゃってる。
「……トルネードメタルクロー。プラスではがねのつばさ!」
こんだけ鋼で固めて回転を加えれば降ってくる岩も砕けるし、防御にもなるだろ。
爪も翼も鋼に変えて回転をしながら降ってくる岩の中を駆け巡るリザードンを見て、それが正しかったのが伺える。
「いつもだったら気張ってるんだが………。やっぱ、ユイガハマを相手にしてると気が抜けるな。どうにも本気を出せん」
イッシキはもうこっちがメガシンカしててもそれなりのバトルになるだろうし、コマチもあまり気を使わなくてよさそうなんだが、ユイガハマだけはな………。まあ、本当はこれが普通であってコマチやイッシキの成長速度が速すぎるだけなんだが………。
「うわっ、ほんとに全部砕いちゃった………」
えー、砕かれることまで見越してたのかよ。だったらやるなよ。これはあれだな。ユキノシタが「ヒキガヤ君のリザードンに勝ちたいのなら、まずはいわタイプの技で攻撃するのが一番ね。リザードンはほのお・ひこうタイプ。いわタイプの技ならばどちらにも効果抜群よ。だからいわなだれ辺りを覚えるといいわ。ま、尤もリザードンに技が当たればの話だけれど。いくら弱点を突いたからって躱しきったり、真正面から砕いてくるような育て方をされてるもの。どうしたって無理でしょうね」ってくらいなことを言ってたんだろうな。
なんか想像できてしまったのが悲しい。
「だったら、は、ハイドロポンプ!」
ねえ、ちょっと。
技名くらいちゃんと覚えようよ。なんかペースを崩されるな。
「コブラ!」
まだ撃ち慣れてないだろうからミスを誘うことにする。
一度止まり、ドーブルが狙いを定めたところで、急加速。
水砲撃が届く頃にはそこにリザードンの姿はない。
「えっ? いない………?!」
取り敢えず、ドーブルに長居されたら後に響く。あいつは前にがむしゃらを使っていた。しかもこらえるも覚えている。何ならダークホールまで覚えていやがる。このタイミングを失くしていつやれって言うんだ。
「リザードン、じわれ!」
急加速からそのまま地面に向かい、叩き割る。
ドーブルの足元までひび割れがいくと呑み込まれーーー。
「マーブル、こらえてっ!!」
急な展開にも叫ばれた命令は意外と的確だった。このタイミングで堪えられてはマジでヤバイ。下克上されてもおかしくなくなってしまう。さすがにそれだけは避けたい。じゃないとこのバトルの意味がなくなってしまう。それじゃ俺が何のために重い腰を上げたのか分からないではないか。
「マーブル!?」
ーーー押し出されてきたマーブルはまだ戦意を喪失していなかった。
「〜〜〜ッ!! がむしゃら!」
きたぁぁぁあああああああああって頭の中では叫んでるんだろうなー。
見るからに顔がニヤけている。
「ソニックブーストからのつばめがえし!」
もうね、マジで倒すしかない。
メガシンカしないだけ喜べバカやろう!
「マーブル?!」
「あちゃー、先輩の変なスイッチいれちゃいましたね。こうなったら先輩、鬼畜ですよ。マーブル戦闘不能です」
あれ………、今の俺ってそんなヤバイ顔してんの?
顔ほぐすか。
「………何してるんですか。キモいですよ」
「や、今の俺って変なスイッチ入ってるんだろ。顔揉んだら少しはマシになるかなと」
「顔は元々なんでどうしようもないですよ」
それはどういう意味だ。
デフォで目が腐ってるってか。知ってるわ! 余計なお世話だ!
「マーブル、お疲れ様。はあ………、なんかヒッキー、マーブルにだけ当たりが強くない?」
「気のせいだろ。こらえるからのがむしゃらをする方が悪い」
「うぅ………、やっぱりだよ………」
しょぼんと落ち込むユイガハマ。
コロコロと表情の変わる奴だな。
「マロン、出番だよ!」
次はハリマロンの進化系か。
取り敢えず、くさタイプだな。うん、焼こう。
「あ、先輩は初めてなんですよね」
「ま、まあ、正確に言えばさっき見せられたけど」
「昨日、先輩がいない間に特訓してたら進化したんですよ。博士が言うにはハリボーグって言うらしいですよ」
ほーん、ハリボーグね。
俺の避け方を真似しようとしてたっけ。結局あれからどうなったんだろうな。焼きたいけど、先にちょっと試すか。
「リザードン、突っ込め」
進化して丸々とした身体には似合わず、ゴロッと転がることで躱される。
「反転してドラゴンクロー」
旋回して方向を戻したリザードンは竜の爪を立てて再度突っ込んでいく。
「マロン、いくよ!」
……………。
命令は? タイミングでも測ってるのか?
そうこうしてる間に竜の爪がハリボーグを掠めた。
「つるのムチ!」
このタイミングを待っていたかのように蔓を伸ばしてきて、リザードンの爪に巻きつけると身体を屈めて投げ飛ばした。力の流れで自分の身体は投げ飛ばされるリザードンと地面の間をくぐり抜けていく。
何気に完成させてるよ。
「タネマシンガン!」
踏ん張って体勢を整えると無数の種を飛ばしてきた。
「かえんほうしゃ!」
地面に手をついてバク転をしたリザードンは後方に下がりながら炎を吐いていく。
無数の種は炎に飲まれ焼かれていった。
「まるくなるからのころがる!」
するとハリボーグは身を丸めて転がり始めた。炎を避けるようジグザグに動き回り、段々とこちらに近づいてくる。
「……………」
ふむ、どうしようか。ブラストバーンを放てば一発で焼き上がるだろうけど………。
……………。
ああ、あれしてみるか。
「リザードン、シャドークロー」
俺の命令に対しリザードンは自分の影に黒い爪を突き刺した。影を伝って爪の先が出てきたのはハリボーグが転がる道すがら。
持ち上げるようにして爪が突き刺さり、転がるハリボーグを吹っ飛ばした。
「つるのムチ!」
すぐに回転を解いたハリボーグはリザードンの翼に蔓を巻きつけてきた。
「タネマシンガン!」
伸ばした蔓を使って遠心力を活かし、種を飛ばしながらこちらにやってくるハリボーグ。
次の命令次第で動こうかね。
「ドレインパンチ!」
ほう、ドレインパンチを覚えさせたのか。
タネマシンガンの中身もやどりぎのタネ。
回復しながらバトルしていくスタイルで育てるつもりなのだろうか。まあ、一番効率がいい戦い方ではある。攻撃しながら回復できれば負けないからな。
「そんじゃ、焼こうか。フレアドライブ!」
蔓もタネも向かってくるハリボーグも。
全てを巻き込みながら自らを炎に包んでいく。
そして、蹴り出した一歩で向かってくるハリボーグを焼き払った。またしても吹き飛ばされたハリボーグは………えっ?
「マロン!?」
「結局、焼いちゃいましたか。マロン戦闘不能です」
マロン〜、とまたしても駆け寄ってくるユイガハマ。あいつはまだボールに戻すという感覚が身についてないのだろうな。それでいいとは思うけど。あいつの場合はああしてポケモンと触れ合うことで何かを掴めるかもしれないからな。別にみんながみんな同じようなことをしなければいけないなんて決まりはないし。
「それよりも何でお前がそこにいるんだよ」
ぺたんと地面に座り込んだ黒髪少女、ユキノシタユキノが俺のすぐの場にいた。位置からして絶対ハリボークが目の前を通ったよな。よく生きてたな。
「ゆ、ゆきのん!?」
「………ヒキガヤくんら………、ヒキガヤ………すー………」
えー。
なにこれ。
どういう状況?
こいつまさか寝ぼけてるのか?
あ、なんかゆらりゆらりと近づいてきたって、あ、ちょ、待てっ、待って!
「………………どうしてこうなる」
いきなり飛び上がってきたユキノシタが俺にのしかかってきた。
つまり押し倒された。
や、なんでだよ。
「ゆ、ゆきのん?! な、なにしてんのっ!?」
「えっ、というかユキノシタ先輩?! 寝てません!?」
すーっと俺の上で寝息を立てている件のお人。
何なの、マジで。
「あーっ!? いたーっ!!」
この声は!?
マイエンジェルシスター、コマチではないか。
「もー、なんで寝てる時はこんな素直なのさ。お兄ちゃんにベッタリじゃん」
ユキノシタの奇行に追いかけてきたコマチがそう嘆いた。
これってまさか前の時もそういうことなのん?
「………どんだけ寝相悪いんだよ」
「ねえ、イロハちゃん」
「ええ、やっぱりユイ先輩もそう思いましたか」
なんか二人がこそこそしてると余計に怖いんだけど。
「はあ………、これだからごみぃちゃんは。そうだけどそうじゃないの! 問題なのは寝相が悪いんじゃなくて、毎回お兄ちゃんのところに行っちゃうのが問題なの!」
へー。
毎回俺のとこに来てんだ。
それって俺が長寝してる時の話だよな。俺の知らないところでそんなことになってたのか?
あ、そうか、だったらあの時俺が早く目が覚めてしまったから……………。
「………ねえ、コマチちゃん? お兄ちゃんちょっと状況が掴めてないんだけど、ユキノシタはよく俺の部屋に来てるのん?」
「やっぱり気づいてなかったんだね…………。もう大変なんだから。ぐっすり眠ってるお兄ちゃんを起こさないようにユキノさんを回収するのは」
「…………ストーカー」
マジか………。
俺って寝込みを襲われてたんだな。
うわー、寝るのが怖くなってきた。
「失礼ね」
「あ、起きた」
「起きましたね」
「…………そう、ここは夢なのね」
「いやいや、現実だから。そろそろどいてくれ、ユキノシタ」
「………………………」
じっと俺の顔を見つめてくる。
ぼんっと急に顔を赤くしたかと思うとさささーっと俺から離れて隅っこの方で体育座りで何かぶつぶつ言い始めた。
「あーもー、だからお兄ちゃんの前では起こさないようにしてたのに………」
あー、だから回収してたのね。さすがのユキノシタでもこの羞恥には耐えられないと見てたのか。さすが俺の妹。
「と、とりあえず、続きしましょうか」
「そ、そうだねー」
二人もどんな顔をしていいのか困り顔をしていた。
ユイガハマはいいとしてイッシキはそれすらも何かあざとく見えてしまう。刷り込みというのも案外恐ろしいものだな。
「さて、気を取り直して。クッキー、いくよ!」
自分の立ち位置の戻った彼女はウインディを出してきた。
「さて、これで最後だな」
俺も体を起こして少し動いて解していく。
はあ………、マジで何だったんだ。
「クッキー、にほんばれ!」
そうこうしてるといきなりフィールドが眩しくなった。どこからともなく太陽の光が降り注いでくる。
「ニトロチャージ!」
炎を纏って走り出すウインディ。
なんかユイガハマのポケモンの中では一番まともなポケモンのような気がする。まあ、グラエナも本当はまともなんだけど。何なんだろうな、あの異様な懐き方。意味が分からん。
「じしん!」
ちょっとレベルを上げよう。
メガシンカまではいかないからまだまだ本気じゃないけど。
「ああっ………、く、クッキー、走って! りゅうのいぶき!」
激しい揺れにバランスを崩して倒れたウインディが、再度立ち上がり炎を纏って走ってくる。加えてりゅうのいぶきとな。
「かえんほうしゃ!」
にほんばれにより炎を技の威力が上がるんだ。使ってなんぼだろ。
ん? あれ? 効いてない?
「チッ、もらいびか。リザードン、一度撤退だ! ハイヨーヨー!」
急上昇をしてりゅうのいぶきを回避。
はあ………、まさかあいつの特性がもらいびだったとは。そりゃにほんばれを使っても相手の炎技まで考えなくていいわな。
「ドラゴンクロー!」
急下降に切り替えたリザードンが文字通り降ってくる。
「クッキー、かみなりのキバ!」
それに対してウインディは電気の通った牙で受け止めるつもりらしい。
なら。
「シザーズ」
ジグザグに動いて照準を惑わせる。
「えっと、こういう場合は、しんそく!」
思い出したかのように叫んでくる。
結構なくらいでユキノシタに対策を練りこまれているらしいな。そしてそれを覚えられたのは特訓のおかげってか。
「さすがどっかでは伝説に出てくるだけのことはある。リザードン、エアキックターン!」
神速で駆け抜けたウインディはーーー。
「えっと、それから、次は…………」
ーーー決まってないらしい。
まだまだ不慣れだな。
ま、こうして特訓の成果を発揮できてるんだからそれ以上を求めるのは酷かもしれん。
「も、もう一度、しんそく!」
ようやく決まったのがしんそくか。
でもそれじゃあ勝てないな。
「ブラスタロール」
急加速し出すウインディの背後に回りこみーーー。
「スイシーダ」
ーーー地面に思いっきり叩いつけた。
「じわれ」
そしてとどめのじわれ。
またしてもひび割れた(もうあちこちでボロボロになってる)地面にウインディが飲み込まれていく。
ぼんっと押し出されたウインディに意識はない。
さすが一撃必殺。
「ウインディ戦闘不能。やっぱ無理でしたか」
「はあ………、クッキー、お疲れ様」
うーん、これで良かったのだろうか。
「えっ? なに? ああ、もう分かってるって」
イッシキのモンスターボールが動き出したようで独り言とも取れる様子を見せてくる。
普段の俺ってあんな感じなのか。ちょっと怖いな。独り言は自重しよう。
「はあ…………、ほんとあざといよね………」
なんか聞き捨てならない内容が聞こえてきたけど、今はそっとしておこう。触れたら殺られる。
それよりももっと重大案件ができてしまったし。
さて、どうしようか、あの子。
なんで俺の周りってどこか残念な奴が多いんだろうか。しかも美人ばかり。勿体ない奴ら。
ちょっと投稿時間が不定期になってきてしまってますね。
内容を詰めているとどうしても時間がかかってきてまして………。
なので、これからは火曜金曜の内に投稿するってことにしておきます。目標は日付変更でいきますけど。
勝手ですけど、ごめんなさい。