やはり新年になると忙しいですね。書いている暇すらなかった………。
「ハクリュー、りゅうのまい!」
出てきて早々、ハクリューが使ってきたのはりゅうのまいか。
水と炎と電気を三点張りに作り出し、それを合成していき、竜の気へと変える技。竜の気を纏うことにより攻撃力と素早さが上がっていく。
「れいとうビーム」
「こうそくいどう!」
ゲッコウガのれいとうビームを素早い動きで躱していくハクリュー。
うねうねと動きやがって。
「みずしゅりけん」
いくつか水でできた手裏剣を飛ばしていく。
「アクアテール!」
だがハクリューは上がった素早さを生かして旋回し、水を纏った尻尾で全ての手裏剣を弾いていきた。
「くさむすび」
草を育て上げ、打ち返されてくる手裏剣を防いでいく。同時にハクリューにも伸ばしていくが、まあ届かないだろうな。
「ハクリュー、だいもんじ!」
育った草のせいで見えないが、恐らく炎でできた『大』の文字が作り出されたことだろう。
「ゲッコウガ」
アイコンタクトで合図を送り、影を増やしていく。
吐き出されただいもんじにより草は焼かれ、草壁を壊された。
その足元には一つだけ穴が空いている。
「れいとうパンチ」
「薙ぎ払えし!」
無数の影を竜巻を起こすことで消し始めた。
長い尻尾でも無理があると判断したのだろう。さっきのミロカロスで学習されたな。
「けど、そこじゃない」
竜巻を起こすハクリューの足元(足ないけど)、言うなれば竜巻の中心に穴が開く音がした。
たどり着いたみたいだな。
「コウ、ガッ!」
これで当たっただろうな。しかも一発でハクリューにはご退場してもらうことになるだろう。なんせ、ミロカロスを倒すのにグロウパンチを連発して攻撃力が格段に上がっているんだ。倒れなかったら逆に驚きだぜ。
「リューッ?!」
悲鳴とも呼べる叫び声が聞こえてくる。
効果抜群だもんな。無理もない。
「アクアジェット!」
なっ!?
まだ倒れてないのか?!
いや、でもさすがに倒れてないとおかしいぞ。それか………。
「コウガ!?」
反撃を受けたゲッコウガが俺のところにまで真っ逆さまに吹っ飛ばされてきた。
何とか地面に叩きつけられる前に体勢を持ち直し、着地を成功させる。
一方のハクリューはというと竜巻が止み、息を荒くして姿を見せた。その尻尾にはタスキのようなものが模様のように巻かれていた。
あー、だから見落としていたのか。ハクリューにあの巻き方をされちゃ、模様にしか見えねぇわ。
きあいのタスキ。
持たせておくと何とか持ちこたえてくれる不思議なタスキ。
まさかあんな風に付けているとは誰も思わないって。
「しんそく!」
「まもる!」
目にも止まらない、というか音すら後から聞こえてくるような速さで突っ込んできたハクリューは未完成の壁と一緒にゲッコウガを吹き飛ばした。
ちょっとなんか意外すぎるんですけど。
あれ? ハクリューってこんなに強かったっけ?
やべぇ、話で聞いたあのドラゴン使いのよりも恐ろしいかもしれん。
「かげうち」
吹き飛ばされた先にあった壁の影にそのまま潜り込み、今度はゲッコウガがハクリューとの距離を一気にゼロにした。
「………くっ、ヒキオのくせに生意気………」
「うひゃー、やっぱりあのユミコも押されてんじゃん。マジ、ヒキタニくん、リスペクトっしょ!」
トベよ、何を言ってるのかよく分からん。
「ハクリュー、戦闘不能。やっぱりシングルスの方がヒキガヤくんは動きやすそうね」
「あん? あの時のことか? そりゃ、まあ、一人だからな。自分の考えだけでバトルを組み立てられるから楽ではある」
「せんぱーい、忘れてるかもしれませんけどー、ミウラ先輩ってハヤマ先輩と一緒にリーグ戦に参加してるような強者ですよー」
らしいな。
それは今のハクリューで感じたわ。ようやくなんかスイッチが入ってきたというか乗ってきたというか。
「ジャローダ、今度こそゲッコウガを落とすよ!」
ジャローダか。………くさタイプか、キツイな。
「どうする?」
「コウガ!」
「ああ、そう。なら最後までお前の全力見せてもらうぞ」
どうやら交代はする気ないみたいだ。まだまだ燃え尽きないらしい。それだけルミとのバトルはいい経験になったということか。
「つばめがえし」
今度はこちらから行かせてもらおう。
白い手刀を携えてゲッコウガはジャローダの懐へ切り込んでいく。
「へびにらみ」
身体の模様を見せるようにくねらせ、ゲッコウガに一瞬の隙を与えた。
怯むというよりは麻痺。
筋肉が硬直してしまい、思うように動かせ無くなってしまうというのが原理だったような気がする。よくは覚えてない。なんせポケモンの技って多すぎるんだもん。
「まきつく」
身動きできない間にジャローダは上手く回り込み、体全体を巻きつけてゲッコウガを捕らえた。
「いばる」
そして、えっへんとした偉そうな態度を見せつけてくる。
うわー、なんかマジでムカつく感じだな。女王の威厳ってか。
「メロメロ」
おい、ミウラさんや。一体どこまでゲッコウガを犯ろうとしてんだよ。あ、でもメロメロはあいつ効かないんだったな。
「いえき」
あ、特性まで奪ってきた。
口から紫色の液体を吐いてきたんだけど。絵面が悪いな。
なんか俺が策を出そうとしても悉く先回りして潰してくるし。
「はあ………、しょうがない」
ま、これもバトルだし、ルール違反じゃないし。そっちがそこまでしてくるなら俺たちも犯るしないよな。
「ゲッコウガ!」
いばるを使われて頭に血が昇っているかもとか思ったけど、そうでもないらしい。
いや、実際どうなのかは分からんが、俺の声に反応してあの水のベールを作り出した。おかげで俺の視界もジャローダの身体の模様になってしまっている。
あ、そういやこれも特性とかってコンコンブル博士が言ってたような………。まだ未完成で特性も変わってないからか? いえきで消えたのはあくまでへんげんじざいの方ってことか? 俺にはよく分からん。分からんけど、こっちはまだいけるってのは分かる。それだけ分かればゲッコウガならばいくらでもやりようがある。
つか、なんか、締め付け感半端ないな。SMプレイみたいでなんか嫌だわ。さぞかしゲッコウガも嫌だろうな。さっきから外野でゲッコウガとジャローダを睨んでくるマフォクシーがいるもんな。ああ、女って人間とかポケモンとか関係なく、怖い生き物だな。
さて、頭に血が昇ってたわけでもないし、れいとうパンーーー。
「リーフストーム!」
がはっ?! 息がっ………?!
な、なんじゃこれ。マジか………。
やべぇ、超痛ぇ。
拳を氷で覆う前だったからまだひこうタイプなんだろうけど、この衝撃波は痛いっての!
風を起こして無数の葉で攻撃してくるため、身体中に痛みが走っていく。
なんとかしないと俺がヤバい。
ゲッコウガ、めざめるパワー!
「コウ、ガッ!」
身体の内から光を発し、無数に舞う葉を焼き尽くしていく。俺も何とか空気を吸えるようになった。なんだよ、これ。結構負担がでかいじゃねぇの。
次はこのままれいとうビームだな。
「コウガ!」
距離を保つために遠距離からの攻撃。本当はパンチの方にしたかったけど、近づいたらリーフストームの餌食になりそうで怖い。
「アクアテール!」
え、ちょ、おい。
ジャローダまでアクアテール覚えてんのかよ。
え? なに? まさかみんな覚えてたりするわけ?
「あっ! ジャローダの尻尾が凍っちゃったっ」
トツカの発言に皆の視線がジャローダに集まっていく。
どうやら冷気を水で何とかしようと考えたのだろうが、逆に凍りついてしまったらしい。
「れいとうパンチ」
今度こそパンチを当ててやる。
尻尾に気を置いたジャローダに一気に攻め込んでいった。
「くさむすび!」
と、足元から草が伸び始めてくる。
おいおい、ここで足止めかよ。
ハヤマよりも秀逸に流れを組まれてねぇか?
「氷で刃を作り出せ!」
「コウガ!」
だが、まあ、お得意の手刀で斬り裂いていこう。
あいつならできないはずがないからな。
「なっ!?」
「ローダ!?」
ゲッコウガを絡めとろうとした草をいとも容易く斬り裂いていき、ジャローダの懐へと飛び込んでいく。
「コウ、コウ、コウ、ガッ!」
パンチなのに刃で攻撃していくという、ちょっと特殊な技に変わってしまっているが、単に拳にまとわりつく氷が刃のように伸びているだけなので、誰も文句は言わないだろう。というか言わないでくれ。自分で命令しておいて実際に見てみるとおかしな状況にしか見えてこない。
「ジャローダ!」
氷の刃に斬り裂かれながらもジャローダはミウラの声に応じ、技を出してきた。
「リーフ………ストーム……………かよ」
またか。
だが、一度使っていれば、威力が衰えているはず。それに今は効果抜群となるみずタイプでもない。
何とか持ちこたえられるだろう。
「コウガァァァ?!」
違う!?
威力がさっきよりも上がっているだと!?
実際に俺に伝わってくる衝撃波がそれを如実に語っている。
考えろ。
リーフストームは使えば使うほど遠距離からの攻撃技の威力を落としていくような効果を備えている。だが、今は全くもっての逆。どちらかといえばその効果が真逆に働いているような…………。
「………以前何かで読んだことがあるわ。確かジャローダにはもう一つの特性があって………あまのじゃく、と言ったかしら……………」
あまのじゃく!?
確か追加効果が真逆に働く特性だったか?
そうか、それならば納得もいく。
ということはこのジャローダはリーフストームを使えば使うほど、威力を高くしていくっていうことかよ。
「ゲッコウガ! さっさと畳み掛けねぇとまずい!」
「コウガ!」
再び俺のところにまで飛ばされてきたゲッコウガを呼びかけると、奴も気が付いたのだろう。ポケモンのことは俺たちよりもポケモンの方が知っている。しかも直接技を出して受けているんだ。勘のいいこいつならもう俺の出す次の一手も理解しているだろう。初めての試みだが、やってもらうぞ。
「えんまく!」
まずは目眩まし。
「かげぶんしん!」
次に影を増やす。
「あなをほるとかげうち!」
それからの二手に分かれて接近。
「ジャローダ! 最大規模のリーフストーム!」
ミウラも動いてきた。
最大規模のリーフストーム。見てみたい気もするが。出されたらこっちが終わってしまう。
惜しいが先に潰させてもらうぞ。
「とんぼがえり!」
影から、穴から無数のゲッコウガが出てきて、体当たりをかましていく。
草葉の嵐も吹き始めるが構わず、本体が最後に攻撃を当て、ジャローダを押し蹴り、弾む力を利用して帰って来る。水のベールも丁度解け、視界も元通り。
「このまま少し休んでろ。仕事だ、リザードン!」
俺の元に戻ってきたゲッコウガに変わってリザードンの登場。ボールには入らないんだな。
さて、そろそろこいつにも暴れてもらいますかね。
「ジャローダ!?」
「ジャローダ、戦闘不能ね」
「くっ…………」
すげぇ、悔しそう。
ボールを戻しながら唇を噛んでいるのがよく分かる。
「………ゲッコウガ、いつの間にかまた新技覚えてましたね」
「見た技は大体使えるって話だったけど、それ以外でも使えたんだね。やっぱりすごいや、ハチマンたちは。ちゃんとお互いのことを理解し合ってる。タイミングもバッチリだよ」
ああ、トツカに褒めてもらえるだけでここまでやってきていてよかったって気持ちになるわ。
「………ハヤトは昔から絶対に負けたくない奴がいるって言ってた。ユキノシタやユイがずっと誰かを探しているのも分かってた。一色がハヤトを見ているようで違う誰かを見ていることにもなんとなく気づいてた。それが全部あんただってのに最近のあんたを見てきてようやく気がついた。…………ヒキオ、あんた本当に何者なの」
あー、これはなんかマジで答えないといけない奴だな。
というかハヤマは何も説明してなかったのだろうか。あんなイケメンスマイルをふりまくような奴なのに、結局中身は案外俺と大差ないんじゃないか?
「………『Raid On the City,Knock out,Evil Tusks.』 町々を襲い尽くせ、撃ちのめせ、悪の牙達よ」
懐かしいな。サカキから直接聞いた時は驚いたが、まああの強さは半端なかったからな。上に立つものとしての強さと風格は持ち合わせていた。それが悪の組織であろうとも。
「ッ!?」
「俺はロケット団の幹部の一人だ」
「はっ?」
「えっ? お兄ちゃん?!」
「ちょ、先輩! 何言ってんですか?!」
「なんて言ったところでどうせ信じないだろ。まあ実際、嘘だけど」
みんなコケやがった。
俺がロケット団とか有り得ねぇだろ。
まあ、確かに勧誘はされましたよ? しかもボス直々に。でも普通に断るだろ。なんでロケット団なんていう悪の組織だと分かっていながら足を踏み込む奴がいるんだよ。
「………あんさー、はっきり言ってくんないとわかんないんだけど。結局何が言いたいわけ?」
ロケット団の話が出てきたというのにこの肝の座りよう。さすが女王だわ。
周りの空気なんか重たーくなってるってのに。
「何が言いたいかなんて愚問だな。何も言いたくないってのが答えだ。お前に教える必要もなければ知る必要もない」
「あーしはハヤトのことを知りたいの。ハヤトは何も教えてくれないし、見せてくれても行き着く先があんたかユキノシタにしか行きつかないし。だったら聞くしかないっしょ」
「……………教えないってのがハヤマの答えなんじゃねぇか? 巻き込みたくないのか、単に言いたくないのか、信用されてないのか。俺には関係ねぇから分からんが」
結局ハヤマも俺と同じ生き物なんじゃねぇの?
何事も一人でやった方が早いし巻き込んだ方が心が痛む。
「そ、それは…………」
「心当たりがないとも言えないって感じだな。実は薄々気づいていたんじゃねぇの? ハヤマはここぞという時には自分たちを頼ってくれない。一人でなんとかしようとしてしまう」
言葉に詰まるということはその兆しがないわけではない。そういうことだろうな。
「は、ハヤトはそんなんじゃない! ハヤトは………」
「俺が言うのもなんだが、一人でなんでも出来ちまう奴は臆病なんだよ。協力を仰いだが上に怪我をされちゃ、心が痛むし、苦しくなる。だったら最初から一人でやった方が楽だし、一人だから何も気にしなくていい。それがあいつだろ」
「………でも、それでもあーしはハヤトについていくし! ハンテール!」
あらら、怒り任せのバトルにならないといいけど。
「からをやぶる!」
ハンテール。
パールルという海底に住むポケモンが進化した姿。パールルには二つの進化があり、牙が特徴的なのがこのハンテールである。もう一体サクラビスという進化先があるがあっちは美しい鱗が特徴的である。
そしてハンテールは見た目の通り牙を使った攻撃などが得意の、いわば物理型。
「リザードン、りゅうのまい」
水と炎と電気を三点張りに作り出し、それらを絡め合わせて竜の気へと変えていく。
「あまごい」
今度は雨を降らせてきた。
こうしてみるとイッシキが能力変化やフィールドの細工をするようなバトルの型を身につけたのはミウラの影響なのかもしれない。
以前俺たちがバトルした時はギャラドスしか相手にしていなかったために、ミウラのバトルスタイルを見誤っていたが、シングルスでフルバトルすればイッシキに似ている気がする。
はっきり言って上手いと思う。
「かみなりパンチ!」
「バリアー!」
殻を破ったことにより防御力が弱まったので、効果抜群のかみなりパンチを出してみたものの、躱すわけでもなくバリアーを張り、受け止めた。
「壊せ!」
「ハンテール!」
壁をそのまま壊すよう命じるとハンテールはすいすいすいと身をくねらせてあっさりとバリアーを放棄してジャンプした。動きの一つを取っても俊敏さが上がっているのが分かる。
なるほど、だから雨ね。
「アクアテール」
本当に全員覚えてるんだろうな。
ここまでくると一貫して覚えていないと面白くないぞ。
「ドラゴンクロー」
振り返りざまに裏手の爪で振りかざされる水のベールに包まれた尻尾を弾いた。
「かみなりパンチ」
もう片方の腕ですかさず懐に飛び込み雷の拳を叩き込んだ。
「ふいうち!」
拳が叩き込まれる前に一瞬でハンテールが姿を消した。
「ソニックブースト!」
「シャアッ!」
よし逃げよう。すぐ逃げよう。さっさと逃げよう。
逃げるは恥だが役に立つ?
いやいや、逃げこそ正義である。恥ではない。正当で作戦的な行動である。
だから逃げるは正義で役にも立つ、が正しいんじゃね?
つか、これいつのドラマだよ。見てないからよく分からん。
「かみつく!」
翼を畳んで逃げるリザードンの尻尾に噛みつこうと牙をむいたハンテールが追いかけてきた。だが殻を破り雨の中をすいすいと動き回れるとはいえ、リザードンのこの動きにはついてこれないらしい。
さすが瞬間的速度だけにかけた動きだよな。
「エアキックターン」
ソニックブーストで上がったスピードを急激に押し殺し、空気を蹴って反転。
向かってくるハンテールの方に向きを変えた。
「かみなりパンチ」
右の拳に電気を纏わせ、掬い上げる。
「ーーーバトンタッチ!」
ミウラがそう言うとハンテールは右拳に当たる前に強制的に彼女の元へと戻っていった。
とんぼがえりとは違い、攻撃はしないがその分、自分が上げた能力を次のポケモンに引き継がせることができる技。
「サクラビス!」
うわっ、まさか相方まで連れてやがったし。
交代で出されてきたのはサクラビス。パールルのもう一つの進化先。
尻尾を絡め合わせてバトンタッチ行う。そして、ハンテールはミウラの持つボールの中へと戻っていった。
「サクラビス、あやしいひかり!」
カッと光を発したサクラビスにより俺もリザードンも目眩ましにあってしまった。めっちゃ目が痛い。
「ドわすれ」
今度はドわすれか。
頭の中を一回空っぽにすることで冷静になり、遠距離からの攻撃に強くなる技。
「からをやぶる!」
またか。
こいつも殻を破って素早さを上げてくるのかよ。
あー、くそ、やっと目が戻ってきた。
「リザードン、りゅうのまい!」
殻を破っている間にこっちも動けるようにしておこう。
再度りゅうのまいで纏う竜の気を高めていく。
使った回数だけ纏う竜の気が高まり能力も上がるのがこの技の強みだよな。
「サイコキネシス!」
「ドラゴンクローを構えろ!」
どうせ身動きを封じてくるなら中からこじ開けるまでよ。
ここで雨も上がった。
「そのまま叩きつけろし!」
「破れ!」
超念力でリザードンの身体を固めてきたところを両腕を開くようにして強引に破った。
「ッ!?」
「かみなりパンチ」
拳に電気を纏わせサクラビスに突っ込んでいく。
「こ、こうそくいどう!」
ミウラの命令が一瞬止まったことでサクラビスの反応も遅れてしまっている。
それでもバトンタッチで得た素早さが物を言ったらしく、リザードンの拳は空を切った。
「うずしお!」
逃げた先で大きな渦潮を作り出していく。
そういえば、イッシキのヤドキングも使ってたな。巻き込まれたらほのおタイプのリザードンには少々キツイものがあるぞ。
「ブラストバーン!」
究極技の炎でならあの渦も蒸発できるだろう。
そう考えた俺はリザードンにブラストバーンを打たせた。
放たれた渦潮は真っ直ぐリザードンの方へと押し寄せてくる。それを地面を叩き割って炎を巻き上げることで壁を作り出し、同時に蒸発させ始めた。
「あまごい!」
そうはさせないというかのようにあまごいで水気を増やしてきた。
天井近くに発生した雨雲により雨が降り注がれ、炎の威力が弱まり始める。
「もう一発だ!」
「ちっ、サクラビス! ふぶき!」
もう片方の腕で再び地面を叩き割り炎を巻き上げると吹雪を起こし、巻き上がっていく炎を霧散させていく。同時に雨を氷の粒に変えて、確実に炎へ打ち込んでもくる。
これ以上の火力を出そうとすれば、策は二つか。
一つは特性もうかを発動させる。
もう一つはーーー。
「リザードン、メガシンカ」
メガシンカ。
俺の持つキーストーンとリザードンのメガストーンが共鳴を起こし始める。光に包まれリザードンは姿を変えた。
黒い蒼炎竜。
その言葉を彷彿させる黒い体色に蒼い炎を撒き散らすリザードン。
色を変えた蒼炎は渦潮をいとも簡単に飲み込み、蒸発させた。吹雪も雨も意味をなさない。まさに究極の技。
「サクラビス、バトンタッチ!」
ミウラはリザードンのメガシンカを一睨みするとあっさりサクラビスを戻した。いや、戻したというよりはメガシンカを待っていたと言う感じか。
「行きな、ギャラドス!」
代わりに出てきたのはミウラの六体目の、そして切り札でもあるギャラドス。以前、フレア団に襲われた時にギャラドスのメガストーンを奪われており、メガシンカはできないはず。
だから恐るるに足らない存在ではあるのだが…………。
「…………なるほど。メガシンカができないのなら能力上昇を引き継ぐことで同等の力を得たってわけか」
バトンタッチを、それも二回も立て続けに行ったのにはそこに狙いがあったのだろう。
ハンテールとサクラビスを以前から連れていたのかは知らないし、バトンタッチも覚えていたのかも俺には知り得ないことだが、よくもまあ、考え出したものだ。ハヤマの差し金かあるいは自らによるものか。ま、どちらにせよ上手く流れを作れたというのは彼女の実力だ。これだけのバトルを見られれば、俺としては何も言うことはない。
「だが、まあ、それで負けてもいいかっていうのは話が別なんだよな………」
やっぱ、バトルって勝ってなんぼじゃん?
まずはサクラビスと尻尾を絡めて力を引き継いでいるギャラドスを地面に叩き落とさないとな。
「ソニックブースト」
急加速、急接近。
「ギャラドス、躱してぼうふう!」
ぼうふうか。
雨が降っている状態ではどこにいようとも技を受けてしまう範囲技。しかも雨粒を大量に打ち付けてくるほのおタイプにはちと嫌な状況である。
「エアキックターン」
早々に方向転換。
引き継いだ能力により上昇した素早さを見事に見せつけられ、ギャラドスは気流を操り風を起こし、荒れた風がフィールド全体を支配していく。
乱気流と言ってもおかしくはない。
方向を変えたところで意味をなさないその威力は凄まじく、建物が壊れないかちょっと心配なまである。
「トルネードドラゴンクロー!」
暴風の影響をどうせ受けるならこちらも回転させてみよう。
リザードンは竜の爪を立て、前に出すと回転を始め、乱れた動きをしながらも確実に暴風の中を突き進んでいく。
「ストーンエッジ!」
くるっと回って地面に尻尾を叩きつけるギャラドス。
割れた地面からは岩が突き出し、リザードンへ向かっていく。
「トップギアで突き進め!」
ギア最大で岩を突き出される岩を砕いていく。
「たつまき!」
今度は身体を円形にして回転を始め、竜巻を起こし始めた。
このギャラドスは風を味方につけるのが上手いのかもしれないな。
「はあ…………、そこまでするならこっちもそれに応えないとな。リザードン、風を斬れ」
それならば、その上をいくまでだ。
全力を持って叩き潰すのが礼儀ってもんだろ。
リザードンはその命令だけで回転をやめ、竜の爪をさらに伸ばして吹き荒れる竜巻に振り下ろした。
その一撃で風は霧散し、雨雲まで消し飛んだ。
「「「「なっ!?」」」」
一同が驚いているが、今までのリザードンを見てきたら、これくらい驚くようなことでもないだろうに。
「リザードン!」
呼びかけるとリザードンは一瞬でギャラドスに詰め寄った。
「ーーーかみなりパンチ」
「アクアテールで受け止めるし!」
けどまあ、あっちは能力上昇を引き継いでいるからなあ。止められないこともないもんな。
「ーーースイシーダ」
だから一瞬の威力を上げ、地面に叩き落とす。
効果抜群だし、ようやく狙いが定まった。
さあ、始めようか。
「ーーーじわれ」
運良く身体が痺れてギャラドスは動けなくなっている。
そこに地面を叩き割り、できた穴に落とし、挟み込む。圧力で押されて飛び出してきたギャラドスに戦う力はもうない。
まさに一撃必殺。
「「「「「えっ?」」」」」
「ギャラドス!?」
ミウラが呼びかけるもギャラドスに反応はない。当たり前だ。これが一撃必殺なんだから。
「一撃………必殺…………。あなたまさか………とうとう、その領域に踏み込んだというの……………?」
いや、そんな大層なもんでもないだろ。
ルミなんか普通に使ってきてたし。スイクンだからかもしれないけど。それでも扱えてるのには変わりないんだから、そんな大層なもの扱いされたら俺よりもよっぽどルミの方がやばいと思うぞ。まあ、イッシキには使えないんだし、そう考えるとルミはやばい子だな。
「………メガシンカを超えれば何とかなるんじゃないの……………? ハヤト……………嘘つき………」
「俺はメガシンカがリザードンの限界だとは思ってねぇよ。つか、こいつらに限界を決めつける方が間違いなんじゃねぇの」
「……………」
「ま、メガシンカができなくなってどうするのかと思っていたけど、これだけのバトルができれば充分だろ。メガシンカがなくてもギャラドスはメガシンカ並みの動き、いや、それ以上の動きを見せていた。案外、ミウラにはこういうバトルの方が向いてるんじゃないかって思ったくらいだ」
「………メガシンカがない方がミウラさんは伸び伸びしていると、そう言いたいのかしら?」
それは違うな、ユキノシタ。
「そうじゃない。メガシンカを切り札にしてた時よりも、できなくなった後の方が強さを求めてたんじゃないかってことだ。これから先、ハヤマに踏み込んで行くにしろ、自分たちに限界を作ってる時点で奴らに勝てはしない。けど今のミウラなら勝ちに拘っている。ハヤマに合わせるわけでもなく自分のリズムで」
「……………限界限界、あんたにあーしの気持ちなんか分かるわけないし!」
「そりゃ、分かるわけがない。俺はミウラじゃない。でも客観的に見た感想は言える」
「くっ、だったらあんたを倒すまでだし! ハンテール!」
ギャラドスをボールに戻すとハンテールを再度出してきた。まだやる気かよ。
「ギガインパクト!」
怒りに任せたように怒鳴りつけ、一瞬戸惑ったハンテールはそれでもミウラに従って突っ込んできた。
「かみなりパンチ」
ハンテールには悪いがここは全力で行かせてもらう。
突っ込んできたハンテールに拳を一発叩き込む。
「ハンテール、戦闘不能ね」
「ユ、ユミコ! もういいよ!」
「うっさい! あーしはヒキオを倒さないと気が済まないの! サクラビス!」
倒れたハンテールをボールに戻してサクラビスを出してきた。
ほれほれ、溜まってるもん全て出してみそ。
「ハヤトは嫌がるかもしれない! これ以上踏み込んだらあーしたちから離れていくかもしれない! でも! それでも! あーしはハヤトと一緒にいたいの!!」
泣き叫ぶミウラがようやく素直になった。
いやー、恋する乙女してますなぁ。
「あまごいからのこうそくいどうで近づいてハイドロポンプ!!」
一気に命令を出されたサクラビスは、それでも一つ一つを丁寧に練り上げていく。
恐らく特性がすいすいで、こうそくいどうでリザードンの背後に一瞬で詰め寄る寸法なのだろう。
そして、近距離からの水砲撃。
うん、それだけ分かれば充分だ。
「ブラストバーン」
どこに来ようが詰め寄ってくるのが分かれば、自分の周りに炎の柱を建てればいいだけの話。
俺の目で捉えられなかったが、サクラビスは読み通りリザードンの背後に現れ水砲撃を撃ち出す態勢に入った、らしい。
らしいというのは撃ち出される前に炎柱に狩られてしまったからだ。
「サクラビス、戦闘不能」
ふぅ、やっと終わったか。
やっぱり六対相手は疲れるわ。
って、おいゲッコウガ。いつの間にマフォクシーに膝枕されてんだよ。
「はあ………、ほんとあなたっていつでも強いわね」
「ユミコー!」
いいご身分なボケガエルは置いといて。
ミウラに話すとしますかね。
「………ねえ、ほんとにヒキオって何なの?」
「さあ? でもヒッキーは強いでしょ?」
「なんであんたはそんな嬉しそうなの…………」
「うぇっ!? や、やー、別にそんなことはないんだけどなー、たはは………」
口ではそう言いながらもニヤケ面が止まらないユイガハマ。
じーっと見てるとくいくいっとシャツの裾を摘まれた。振り返ってみるとイッシキがじとっとした目でこちらを見てきている。
「な、なんだよ………」
「先輩、人のこと散々あざといあざとい言っておきながら自分が一番あざといって理解してないですよね」
「あ? なに? どゆこと?」
「ふんだっ、意地の悪い先輩は一生悩んでればいいんですっ!」
それだけ言ってミウラの元へといってしまう。
何なの、あいつ。何が言いたかったわけ?
「……………」
「なんか言いたそうだな」
「あら? ただの鈍感男にこれ以上言うことはないわ」
「すでに言いたいこと言ってるじゃねぇか……………」
はあ…………、何なんだろうか、さっきから。
イッシキといいユキノシタといい何が言いたいんだよ。
「…………全て話すつもり?」
「元よりそのつもりだったが?」
「そ。あなたに任せるわ」
「止めないんだな。仮にもお前の幼なじみだろ」
「あら、それがどうかしたかしら? ………もしかしてヤキモチ?」
「なわけねぇだろ」
ヤキモチとか。
そう言うんじゃないから。
や、ちょっとは嫉妬心持ってたみたいですけど? 当たらずも遠からずだからそう言うのやめてほしい。
人の心の中を読まれてるようですごく怖い。前例がたくさんあるため余計怖い。あと怖い。
「そうかしら。私、可愛いからてっきり恋しちゃったのかと思ったわ」
「自分で言うなよ」
「事実だもの」
「………否定はしねぇけどよ」
「………」
ユキノシタの自信にはため息しか出てこない。
しかも否定の材料がないのが余計に困る。
「ミウラ………」
「………なに?」
「いいんだな?」
「ん。あんたのおかげでちょっとすっきりした。あーしはハヤトに踏み込む」
「そうか。なら心して聞け」
ミウラにそう言いながらも全員に目配せをする。
「………ハヤマはフレア団に意識を乗っ取られていた」
「「「「「ッ!?!」」」」」
その一言で一同は目を見開く。
「ハヤマの様子がおかしくなったのはいつ頃だ?」
「………あーしらが、襲われた、あと………え? でも、そんな………ハヤトが…………」
ようやく合点がいったらしい。
「ヒ、ヒッキー。どうしてハヤトくんが………?」
「恐らくハヤマのことだ。以前から何かしらの情報は持っていたのだろう。襲われた後に接触を図られ、お前らを巻き込まないように一人で会ったんだろうな。で、そこでヤられたと」
「ハヤトくん………それはいくらなんでもあんまりだわー。俺らのことも少しは頼ってくれてもよかったっしょ」
「操られていたとはいえ、あいつに色々と掻き回されたのは事実だ。今はユキノシタの姉貴に引き取ってもらってポケモン協会の方で監視している。今後どうなるかは分からんが、先に言っておく。勝手に敵討ちに行こうなんて考えは持つな。はっきり言って迷惑だ。こっちにも算段があるし、奴らを潰すのが最終目的だ。早まるなよ」
「………ハヤト………」
あ、これ、絶対耳に入ってないパターンだ。
はあ………、仕方ない。
「トベ、取り敢えずミウラのことはお前に任せる。やはりショックがでかいようだ」
「い、いやー、マジヒキタニくん、ナニモンよって感じだわー。マジ怖いわー」
「別にお前らを取って食おうってことはないから」
大丈夫だ。少なくともポケモンじゃないから。
「はあ………、こう見えて俺もショックでかいんだべ。マジやべー」
呆然とするミウラの肩を抱くユイガハマに目配せをすると頷き返してきた。
どうやら俺の意図が伝わったらしい。
ああ、やはりこの話はできればしたくなかったな……………。
どうか早まりませんように。
さがみんの手持ちポケモンのアンケートにご協力いただきありがとうございました。
結果は私の独断と偏見により誠に勝手ながら選出させていただきます。
誰になったかは後々出てくるさがみんにご期待ください。
選出されなかったポケモンに関しましても他の人のポケモンで出したりと、この作品の今後に反映させていただきます。