ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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遅くなって申し訳ありません。


58話

 さて、二回目の会議が始まったわけだが。

 この配置おかしくね?

 なんで俺がカツラさんの隣に座ってるわけ? しかもコの字型の真ん中の位置に。右側からハルノさん、カツラさん、俺、ユキノシタ。

 なんかこれじゃ俺らが重役みたいになってんじゃねぇか。ダメじゃん。当初の目的が何も達成されていない。

 まあ、みんな俺は他三人のおまけにしか思ってないだろうけど。

 

「それじゃあ、サガミさん。進行お願いね」

「は、はひっ! はい、で、では、今日は皆さんの報告からお願いしましゅ」

 

 その一言で順々に手が挙げられてフレア団について調べたことを発表していく。噛み噛みなサガミは顔を真っ赤にしていた。当然、前に立って進行役を全うできていないサガミたちも発表していたのだが、これといって誰も成果と言える成果はなかった。

 あ、いや一個だけあったな。

 どうやら昨日、ミアレタワーでちょっとしたいざこざがあったらしい。それがフレア団と関係あるのかと聞かれれば全くないとのことらしいが、相手は子供たちだったらしい。

 なんとなく、嫌な予感がする。

 関係ないといいけど。

 

「では、最後にユキノシタさん………」

「分かりました」

 

 なんで順々に発表していってるのに真ん中の面子は最後になるんだろうか。

 まあ、俺が発表するわけじゃないからいいんだけど。

 サガミなんてただ紙に書かれてる言葉を読んでいってるだけだし、順番を選んでるわけじゃないだろうからな。この順番も紙に書いてあったのだろう。大方、真ん中の人たち、あるいはユキノシタさんは最後に、的な感じか。もはやメグリ先輩も他の人たちを当てにしていないということか。かわいい顔して冷たい人だな。

 はっ!? まさかあのお花畑は俺たちだけに向けられているという証拠なのでは!?

 うっわ、なにそれ超ハッピー。天使のご加護が俺たちだけに向けられるとか最高じゃないか。

 

「これまでの発表にもあるようにアサメタウンで爆発が起きています。ただし、その爆発はただの事故などではなく、ポケモンによるものであると付け加えさせて頂きます」

「というと?」

 

 メグリ先輩が食いついてきた。

 

「とある少年が、爆発が起きたとされるほぼ同時刻に、プラターヌ博士のところに当時のアサメタウンの様子を撮った動画が送られてきました。博士の見解ではその動画に映っていたのは二体の伝説のポケモン、ゼルネアスとイベルタルのようです」

「伝説のポケモン!?」

 

 がやがやと一帯が騒がしくなっていく。

 伝説と聞いて静かにしてはいられないか。

 

「その前にまずは今一度、今回の事件に関連するカロス地方の歴史を確認しておきます」

 

 コクコクとメグリ先輩が頷く。それを合図にユキノシタは再度口を開いた。

 

「3000年前、カロスでは大規模な戦争が起きました。前回シロメグリ先輩が仰っていたようにその戦争は『最終兵器』というものにより終わりを迎えました。そして今、フレア団も同じ『最終兵器』と言うものを起動させようとしています」

 

 一呼吸入れるために辺りを見渡す。

 彼女の目にはじっと聞く者、半信半疑で聞く者、手遊びをして一応聞いてますよアピールをしている者。様々な態度が見えたことだろう。

 後半の奴ら、何やってんの?

 

「ここからは私たちの推測ではありますが、フレア団は伝説のポケモンを狙っているのではないでしょうか。前回のシロメグリ先輩の説明にはアサメタウンでの爆発にはフレア団が関わっているという情報がありました。そして、その同時刻に二体の伝説のポケモンがアサメタウンに現れ、暴れていた。全く関係がないとは考えられないでしょう。他にも最終兵器の起動にはポケモンの生体エネルギーを必要とすることが判っています。片や生命を与えるポケモンとされる伝説のポケモン。そのような強大なパワーを持つゼルネアスなら最終兵器を起動させるのに必要な生体エネルギーを供給できてしまうのではないでしょうか」

「………もしフレア団が本当に最終兵器の起動を目的としているのであれば、またとない絶好のポケモンであるな」

 

 うんうん、とカツラさんが首肯する。

 

「一つ、よろしいかな?」

「何なりと」

 

 彼は俺を挟んでユキノシタを見上げた。

 それに気づいたユキノシタが続きを促す。

 

「その最終兵器があるのは………」

「セキタイタウンというところの地下です」

「では、その場にあるという根拠は?」

「実際に見てきました。カツラさんに渡された報告書にもあったと思いますが、フレア団のアジトはセキタイタウンにあり、その地下には大きな蕾のような機械がありました。そして、直接フレア団のボスからの説明も受けています」

「ふむ………、私は実際に見ていないからなんとも言えないが、それを裏付けるものはあったりするのか?」

「ええ、最終兵器の在り処であるセキタイタウンの南に位置する10番道路、そこに佇む列席にはその生体エネルギーを吸い取る力があるということが判りました。ただし、一体のポケモンから取り出される生体エネルギーでは最終兵器が起動できるとは思えません。もし可能であれば危険極まりない代物です」

「なるほど………、実際に目にし、地形からも判断材料があるとくるか………」

「………カツラさんの『兄弟』が教えてくれたんですよ」

「そうか………、ならば真実なのだろう」

 

 ぼそっと俺が伝えると、カツラさんはあっさりと信じてくれた。

 

「………ちょっとー? どうしてそれで認められちゃうんですかー?」

 

 だが、間延びした声のヤジが飛んでくる。

 

「逆に否定する材料はないと思うのだが?」

 

 カツラさんは質問に質問で返すという嫌な技で聞き返す。

 

「いっぱいあると思いますけど? そもそもこの会議に持ち込まれる情報は忠犬ハチ公って人からなんでしょう? しかもその人、フレア団と繋がりがあるとか噂されてるじゃないですか。そんな人からの情報なんて信用できないとは思わないんですか?」

「そうですよ! ユキノシタさんが言うにはフレア団のボスというのもホロキャスターを世に広めたあのフラダリさんだって言うし。全くもって信じられません!」

 

 サガミの取り巻きたちが次々と吠え出す。

 

「そうか………、だが残念ながら私は忠犬ハチ公と呼ばれる男を知っている。彼の噂はほぼ尾びれがついて広まっているだけであって、過激な者でもない。はっきり言ってしまえば君たちと変わりない年頃の奴だ。確かに色々と繋がりを持っているのは否定しないが、彼は優秀な、それこそ私よりも強いポケモン協会のトレーナーだ。こういうのは些か心が痛むが、私だったら君たちよりも彼の話を信じる」

 

 いやー、泣けるね。

 そこまで言われちゃ、俺泣いちゃう。

 でも泣かない。だって、横ですごい危ない者を見る目でユキノシタ姉妹が両側から見てくるんだもん。

 ………カツラさんを見てるようで絶対俺を見てるよね。視線が痛い。

 

「あ、あにょ………、わ、私からも一ついいですか?」

 

 サガミが手を上げてきた。なんか珍しいな。

 

「何だ?」

「そ、そのあなたの横の男が言っていた『兄弟』ってのは誰なんですか?」

「………ポケモンだよ。私のせいで生まれたな」

 

 しかも突いてくるところが鋭いとか。言い換えればそれだけ細かい奴だってことか。やだね。

 

「ポケモン、ですか………?」

「うむ。私もかつては悪に手を染めてしまった者。だからこそ、彼の行動の一つ一つに理由があるというのも理解できてしまう。分からないのであれば分からないままでいい。だが、彼の話だけは信じてやってほしい」

「………………」

「で、では今日はこの辺で」

 

 空気を察したメグリ先輩がパチンと一拍手して強引にターンを奪った。

 

「あ、あの!」

 

 と思ったが他にも手が上がってしまった。誰だよ、空気読めない奴。

 

「どうかしましたか?」

「そ、その……前回いたハヤマ君は…………? 今日、姿がないみたいですけど」

「あー、ハヤトはちょっと用事があるみたいだから。後で会議の内容はこっちで伝えておくよ。だから気にしないで」

 

 ハルノさんの口調は軽いのに、言葉が重い。

 なんだこの威圧感。

 さすが魔王だわ。笑顔で釘さしてきてる。まあ、その方が俺としてもありがたいけど。

 

「では、以上ですかね。最後に話をまとめておきますと、アサメタウンで起きた爆発事故は事故ではなく伝説のポケモンによるものだった。そこにはフレア団が関わっている可能性がある。そして、当のフレア団はセキタイタウンにアジトを構え、その地下には3000年前に造り出された最終兵器が眠っている。最終兵器はポケモンの生体エネルギーを糧に起動する極めて危険なものであり、フレア団はその動力源に伝説のポケモンを使おうとしている可能性がある。以上のことを踏まえて、明日じっくり話し合いましょう。時間と場所は今日と同じです」

 

 ま、これ以上会議を続けても意味はなさそうだからな。

 というかやはり会議なんてやめておけばよかったのかもしれない。

 俺一人………は俺の横にいる奴が許さないだろうから、せめて俺の知っている人物くらいは集めて情報の共有をしておくくらいでよかったかもしれん。マジで使えねぇ。

 

「「「「はいっ!」」」」

「………なにそれ」

「あー、なんか白けたー」

「…………」

 

 おいおい、サガミさんよ。お前の友達(笑)は言いたい放題だな。俺が言うのもアレだけど友達は選んだ方がいいと思うぞ? 友達いないからよく分からんけど、さすがにあれを友達だとは俺だったら思いたくない。

 ぶつくさ言いながら彼女たちは流れに続いて部屋から出て行った。サガミもそれを追うようにして普通に出て行く。

 ま、どうでもいいけどよ。あんな奴ら。邪魔さえしなければ。

 

「…………あの子たち、ハチ公に暴れられたらひとたまりもないんじゃないかなー」

「………そもそも暴れませんって」

 

 ハルノさんや。

 あれくらいの奴らをいちいち相手にしてたら俺が疲れるからしませんって。なんて面倒な。

 

「はあ………、何度言っても聞かない人を相手にしている暇はないわね」

 

 残ったのは結局俺たち五人だけ。

 やっぱり、あのまま流れに乗って出て行くべきだったかも。これじゃ、俺たちもこっち側の人間と思われてしまう。

 や、そもそもユキノシタといる時点でそれも詮無きこと…か。

 

「さて、ハチマン。まずは、遅れて申し訳なかった」

 

 向き直ったカツラさんがいきなり頭を下げてきた。

 え? なに? どしたんすか?

 

「や、別にいいっすよ。そもそも会議に現れるなんて一言も聞いてませんでしたし」

「そうか………。では本題に入ろう。今回の事件、君はどう絡んでいるのだ?」

 

 この人、何もかもが急だな。まあ、いいけど。

 

「どうって………、取り敢えず、経緯から今までの流れを話していきますんで、自分で纏めてもらえますか。多分、俺以外の視点から見るのもいいでしょうから」

「分かった」

 

 どう絡んでいる、なんてただの被害者でしかない。何なら幽閉されかけてもいる。

 だからどうせなら経緯を話して行った方がこの人の場合はいいのかもしれない。端的ながら見てきているユキノシタやハルノさんたちとは違うんだし。

 

「まず、あるジャーナリストが初めてフレア団という単語を使ってきた。どうもその人も何か引っかかっているものがいろいろあるらしい。んで、その後に恐らく3000年前のカロスの王と思われる男から、戦争の話を少しだけ聞かされた。それらを調べている時にフレア団がネットで検索にかけても一切の情報がないことが判った。書き込みすらないのはおかしいと思いませんか?」

「確かにそれは怪しいな………」

 

 問いかけてみると顎に手を当てて考え始めた。

 様になってるところがさすがというか。年の功を感じる。

 

「それでまあ、少し危険視しておくかってなった後しばらくして、フレア団から襲撃されてしまったんすよね。まあ返り討ちにして捕まえましたけど。で、そんなこんなでセキタイタウンに向かっていた時に10番道路で生体エネルギーを抜き取られたポケモンを見つけた。そして列石には生体エネルギーを吸い取る力があることも判った。これらは全部カツラさんの『兄弟』のおかげと言っていい。で、当のセキタイタウンに着いたところでたまたまフレア団のアジトを発見し、呼び込まれたってわけだ。一度白い顔の太った男に捕まってしまったが、ユキノシタがやってきて二人でフレア団のボスであるフラダリの元へ行くと、勝手に説明口調になって教えてくれたってわけですよ」

「へー、それじゃ、ヒキガヤくんが助かったのは私のおかげでもあるんだね」

「ソウデスネ。ソノセツハアリガトウゴザイマシタ」

 

 そういえばユキノシタを行かせたのはあなたでしたね。

 ネイティオの未来予知とか、俺の何を見られてんだか。ちょっと怖いな。

 

「なんで片言なのよ………」

「んで、六日前にアサメタウンで伝説のポケモンが暴れたってのが今までの簡単な流れですかね」

「ふむ………なるほどな。さっきはああ言ったが、実際に見聞した者が一人だけと言うのであれば疑わざるを得ない。しかし二人ともなれば話は別だ。それに、話を聞く限りあちらさんから君たちに絡みに来ている以上、今後も何らかの接触があると見て間違いはなかろう」

「ただここに来てちょっと問題が出ちゃってるんですわ」

「何か、あったのか?」

 

 じっと見つめてこないでくれますかね。なんか恥ずかしいですけど。

 というかサングラスで睨まれてる感じで怖いってのもある。

 あとハゲてるし。

 こっちも様になってるというか。

 何なのこの人。芸人?

 

「ハヤマハヤトがフレア団の白い顔の男に操られていました。恐らく連れていたカラマネロというポケモンの力でしょうね。そのポケモンは催眠術のエキスパート。超強力らしいですよ」

「ハヤマハヤト………? あの四冠王か?」

「ええ」

「私たちの幼馴染なんですよー」

「………そうか。そうなってくると些か面倒なことになっているな。少し考えをまとめる時間が欲しい。また後で………、そうだな、夕食でも一緒にどうだ?」

「分かりました。俺もカツラさんには話がありますし」

「私も参加「姉さん、まずは二人だけにしておいた方がいいわ。カツラさんの『兄弟』の話もあるでしょうし」………ぶー、なんかユキノちゃん。ヒキガヤ君のことは私が一番分かってますオーラがすごいんだけど」

「それは姉さんの目がどうかしているだけよ。それか頭」

「言うようになったね、ユキノちゃん」

「あら、昔からこうよ。ただ姉さんが知らなかっただけ」

「ふーん」

 

 この二人は仲が良いのか悪いのかよく分からん関係だよな。まあ、一つ言えるのはお互いに相手のこと好きすぎでしょって感じか。特にハルノさんの方。皮肉な言い方はしてても、ユキノシタに色々注意喚起とかしてるし。

 

「さて、ヒキガヤ君。帰りましょうか」

「あ? ああ、それじゃカツラさん。また後で」

「ああ、また後で話をしよう」

 

 そう言って俺は立ち上がると、カツラさんも動き出した。

 片付けを一人でせっせとこなしていたメグリ先輩にお礼を言って先に出ると、そのままユキノシタと二人でプラターヌ研究所に帰った。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 会議から戻ると珍しい顔が俺たちを待っていた。珍しいっていうかただ単にミウラが出迎えただけなんだけど。

 

「ねえ、ハヤトは?」

 

 はあ……、やはりこっちは隠しておくのももう限界だよな。

 これ以上隠しておくのは無理か。

 こいつらにどこまで話すかだが、その前に……。

 

「ハヤマについては色々話しておかないといけないことがあるんだが……、その前に俺とバトルしようぜ」

「はっ? なんであーしがヒキオとバトルしなきゃなんないの?」

「これから話す情報は、それだけ重要度が高いものだからだ。その分比例して危険度も高くなってくる。必然、自分の身を守れるだけの力が要る訳だが……ハヤマに関わる話である以上、今一番確かめなきゃいけなくなるのは……」

「あーしってこと? ふん、ヒキオのくせに生意気」

「どうする?」

「どうせバトルしないと話してもくれないんでしょ。だったらやるしかないっしょ」

「フルバトルシングルスの技の使用に制限はなしだ」

「なんだっていいし。この際だから昔あんたに負けたリベンジしてやる」

 

 えっ?

 俺ってミウラともバトルしてたのん?

 

「あ、おかえりゆきのん。あれ? ヒッキーとユミコ? どったの?」

「ハヤマ君がいないことで溜まったミウラさんの鬱憤を晴らさせるつもりなんじゃない?」

「あー、ガス抜きかー。ってか、本当にハヤトくん、どこいったの?」

「その話はあの二人のバトルの後でね」

 

 なんか後ろで言ってるけど放っておこう。

 それよりも。

 

「なあ、もう一回聞くけど、ハヤマ以外はフラダリと会ってないんだよな」

「………何度も言ってるっしょ。あーしらはただハヤトについてきてるだけだし。………いつも一緒にいるのに仕事のこととかはほとんど話してくれないし」

「白い顔の小太りの男も見てないと」

「見てない」

「そうか、ならいい」

「………ねえ、ヒキオ。やっぱりハヤトは…………」

「全員よりは一人だけの方が被害は少ない。あの馬鹿が考えそうなことじゃないか」

「……………………」

 

 うわー、ハヤマの奴、なんて乙女な娘の心を傷つけてんだよ。イケメンのくせに解せぬ。

 そうこうしてると、研究所にあるバトルフィールドに到着した。だが先客がいたようだ。

 

「甘すぎる!!」

 

 あ、今日のイッシキは重雷装巡洋艦か。駆逐艦に軽巡洋艦もやってたからな。そのうち戦艦も来るかもしれんな。……………いや無理か。どう足掻いてもイッシキがお姉さまキャラとかまったく想像がつかん。

 じゃなくて! 今日はマフォクシーのブラストバーンをぶっ放している。例に漏れず相手をしているのはザイモクザ。なんか弱みでも握られたのかね………。怒られてるし。

 

「おーい、代わってもらってもいいかー」

「うぇっ!? せんぱい?! またこの登場の仕方ですか?!」

「や、お前らがここを使ってただけだから。別に企んでやってるわけじゃない」

「………というか何なんですか、その組み合わせ」

「ん? そりゃバトルするからに決まってんだろ」

「はっ? 頭でも打ったんだですか? 先輩が自分からバトルとか、絶対何かあるでしょ。じゃなきゃ先輩、自発的な行動しませんし」

「…………まあ、なくはないな」

 

 ハヤマのこととか。

 

「ま、つーわけで」

「分かりましたよ。私たちの知らないうちにスクールの娘に手を出してた先輩のバトル、しっかりと堪能させてもらいますよ」

 

 おいこら、危ない表現をするな。

 俺の横でミウラがすごい睨んできてるじゃないか。

 ふぇ~、めっちゃ怖いよう。

 

「な、なんでしょうか?」

「………別に。ヒキオがそういう危ない奴だったんだと改めて理解しただけだし」

「間違った方向に理解しないでいただけると嬉しいんですが………」

「ふんっ」

 

 ダメだー。

 ハヤマがいないと誰も止めてくれない。ユイガハマですら止めてくれない。っていうかお前ら見てないで止めてくれよ。

 

「って、お前らなんつー目で見てるんだよ。しかもなんか増えてるし」

「っべー。マジやべーっしょ。ヒキタニ君とユミコがバトルとか」

「あーあ、ハヤ×ハチ見たかったなー」

 

 呑気だね君たち。

 まったく、大丈夫かこいつら。

 

「さっさとやるし」

 

 ふいっと睨んできたあーしさんはさっさとイッシキと交代していった。仕方がないので俺もザイモクザと交代する。

 

「………もう、我は疲れた」

「ご苦労さん。俺の気持ちが少しは分かっただろ」

「苦労しているのだな」

 

 はあ………、と二人してため息を吐いていたのは一瞬である。

 長々とそんな話をしていたらイッシキからヤジが飛んでくるからな。

 

「審判は私がやるわ」

 

 ユキノシタが自分から言い出すとは。相手がミウラだしてっきり嫌だと思ってたんが。

 

「ルールはさっき言ってたようにフルバトルシングルスの技の使用に制限はなし、でいいのかしら?」

「ああ」

「そう、それじゃ。始め!」

 

 さて、ミウラがどこまで全力を出してくることやら。メガシンカできなくなった今、どうやるのかちょっと見物である。

 

「行きな、ミロカロス!」

 

 まず出してきたのはミロカロスか。となると切り札はあくまでもギャラドスということなのかね。

 

「ゲッコウガ」

「コウガ」

 

 呼ぶと影の中から出てきた。

 あ、道理で今日顔見てなかったわけか。

 ダークライとなんかしてたのかね。

 

「ミロカロス、ハイドロポンプ!」

「ゲッコウガ、つじぎり」

 

 ゴゴッと唸るような水砲撃を黒い手刀でいとも簡単に真っ二つにしてしまうゲッコウガ。いつの間にそんな芸を身につけたんだよ。

 

「回り込め」

「くっ……、ドラゴンテール!」

 

 一瞬でミロカロスの背後に回り込むと、ミロカロスは長い尻尾に竜の気を纏わせ、振り回してきた。これではゲッコウガでもそう簡単に近づけないか。

 

「くさむすび」

 

 なら動きを封じてしまおう。

 地面から伸びる草に絡まれていき、ミロカロスを捕らえる。

 

「アイアンテール!」

 

 だが尻尾を今度は鋼に変えて草蔓を切り刻み始めた。

 さすがポケモンリーグの常連、といったところか。

 機転が利く。

 

「とぐろをまく」

「いわなだれ」

 

 上から降り注ぐ岩々を掻い潜りながら、次第にとぐろを巻いていく。

 

「かげぶんしん」

 

 あっちが攻撃力やら防御力を上げてくるのならこちらは影を増やそう。

 使うごとに数が増えていく影でミロカロスの視界を覆い尽くすと、一斉に動き始める。

 

「グロウパンチ」

 

 影の数だけ攻撃できて、攻撃力も上げられる。なんていい流れなのだろうか。

 

「ドラゴンテール!」

 

 薙ぎ払うように次々とゲッコウガの影を消していく。

 だが、それでもこの数ならば………。

 

「ミィッ!?」

「ミロカロス!?」

 

 どれかは当たるよな。

 でもって一発当たると次々と技が決まっていくわけだ。

 ゲッコウガ(影)のパンチを一発受けて少し身体が怯んだところに、次々とポンチが繰り出されていく。

 唸るミロカロスと叫ぶミウラ。

 

「つじぎり」

 

 それではとどめといこう。

 本体が黒い手刀を携えて、影の中を掻い潜っていく。

 

「ミロカロス! りゅうのはどう!」

「ミィっ?! ミィィッ!!」

 

 ぐるんと身体を捻り、空中で態勢を立て直すと黒い手刀を振り上げるゲッコウガに照準を定め、竜の波導を打ち出した。

 

「斬れ」

 

 だがこれも今のゲッコウガなら斬ってしまうだろう。

 こいつは俺の知らないところで成長している。ただ今回に至ってはルミとのバトルで倒れされてしまったのが悔しかったのだろう。何かさらなる強さを求めているのがふつふつと伝わってくる。

 

「なっ!?」

 

 ミウラの反応にはお構いなく、ゲッコウガは黒い手刀でミロカロスを十字に切りつけた。

 そして、そのまま地面へと投げ落とす。

 

「ミロカロス!?」

「あら、ミロカロス、早速戦闘不能ね。………ねえ、さっきからゲッコウガの気迫がいつもと違うんだけど。何かあったのかしら?」

 

 ドスンと身体を地面に叩きつけるミロカロスを見て、ユキノシタは判定を下した。

 

「ああ、まあ、久々に悔しい思いをしたからな。自分を限界まで追い込む積もりみたいだぞ」

「はあ……、全く。あなたのポケモンに限界なんてあるのかしら……」

 

 シュタッと俺の前に戻ってきたゲッコウガをやれやれといった目で見てくるユキノシタ。外野からもそんな視線が送られている。

 

「さあな」

「ヒキオ、あんたマジで何者なわけ? ハヤトやユキノシタより強いし。それにここ最近はあのナントカって連中に狙われたりもしてるみたいだし。おかげで気になってぐっすり眠れやしない」

 

 それは………、なんか申し訳ない気分になるな。だが俺が悪いわけではない。あっちが悪いんだ。それに俺だけが狙われているわけでもない。ミウラのお熱なハヤマだって狙われているのだ。だから俺一人のせいじゃないやい!

 

「何者って言われてもポケモン協会の者としか………」

「あら? あなたは私の物よ?」

「ねえ、ちょっとユキノシタさん? それ絶対違うモノだよね。道具扱いしてるよね?」

 

 なに、ふふんっと勝ち誇ったような態度してんだよ。

 すげぇドヤ顔だな。今の写真に撮っておけばよかった。

 

「ミロカロス、戻りな」

「ちょ、ゆきのん、いきなり何言ってるの?!」

「そ、そうですよ! それじゃあ、まるで愛の告白じゃないですか?!」

「あら、そう聞こえたのならごめんなさいね…………。はあ、意外と口に出すのも憚れるくらい恥ずかしいわね、これ。でもこうでもしないと………」

 

 後半、何か小さい声で言ってるのは分かるんだけど、ちょっと遠くて聞こえない。

 気になるからもう少し大きな声で言ってくれよ。変な想像しちゃって落ち着かないんだけど。主に恐怖心で。

 

「ユキノさーん、ちょっと踏み出したみたいですねー。さあ、二人とも! ユキノさんに負けないよう頑張って下さい!」

「え?! コマチちゃん!?」

「コマチちゃん、何言ってるの!? 私はそんなんじゃ………」

「えー?」

「せ、せんぱーい。大好きですよー。頑張ってー」

「ひ、ヒッキー、あ、ああああああい愛ってあたし何言おうとしてんの!?」

「マフォー」

 

 おおう、棒読みと一人ノリツッコミ。

 なんだろう、これ。全く嬉しくもない愛の告白とか、逆に過去のトラウマを蒸し返されてる気分なんだけど。でもその割にはみんなして顔が赤いのは何ででしょうね。

 というか最後。どさくさに紛れてポケモンがいたよね。

 

「ハクリュー、ゲッコウガを倒すよ!」

 

 あ、ミウラが二体目に出してきたのはハクリューか。

 再開しようってか。

 んじゃ、ゲッコウガ。次もよろしく。

 ほら、マフォクシーに手を振ってや………、そんな目で俺を見るなよ。こっちも怖いんだけど。悪かったよ。俺が悪かったから射殺すような目で俺を見ないでくれ。

 




皆さん、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。

さがみんのポケモンのアンケートに答えてくださって方々、本当に有難うございます。なかなかに面白い案が多く、参考になっています。
まだまだ受け付けておりますので、詳しくは活動報告の『年末年始企画:相模南のポケモンをみんなで決めよう』をご覧ください。

選出は私の独断と偏見でさせていただきますのでご了承ください。

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