「ただいま帰りましたよーっと」
「あ、おかえりー」
「なんだユイガハマだけか」
「なんだってなんだし! イロハちゃんは中二とでんじほうを撃ってるよ」
「ふっ、そりゃ何より」
どうやらザイモクザに頼み込んでデンリュウにでんじほうを覚えさせているらしい。
ちゃんと伝わっていたようでよかったよかった。
「………あなた、ほんとイッシキさんには甘いわね」
「………見てて危なっかしいんだよ。急成長遂げる奴ほど、滞ると何もできなくなる」
「それはあなたの経験談かしら?」
「ま、それもあるな」
「ユイ、ユミコたちは?」
「ユミコたちなら部屋の方にいるんじゃないかな」
「ありがとう」
ハヤマはそう言ってミウラたちを探しに行った。
はあ………、ようやく解放された気分だな。
あいつといるとなんか疲れる。
「……で、コマチは?」
「コマチちゃんならさいちゃんと出かけたよ」
「天使がいない、だと!?」
「なんでそこで驚くし!」
「や、だってなんか疲れたから癒されようかと思って………」
「だ、だったらあたしが………」
「あ? なに?」
「な、なんでもない! ヒッキーのバカ!」
酷い言われようだな。いつものことだからもういいんだけど。
「………ヒッキーは、さ。二人でしか、その………癒されないの?」
「ばっかばか、そんなわけないだろう。ルミルミという天然もいる!」
「………ロリコン」
「うぐっ………、お前らも一度目にすれば理解できるはずだ。あ、あとメグリ先輩も癒されるぞ」
「ううー、なんでそこにあたしたちが一切出てこないし」
「癒しというのは普段の環境から外れたところで噛みしめるもの。お前らからは日常を噛みしめてるから、逆に癒しにはならない。まあ、だからといって疲労の原因ではないからな。そこだけは穿き違えないように」
「………ねえ、ゆきのん。これって褒められてるの?」
「………少なくとも悪い評価ではないようね」
「そっか、少しはあたしたちにも心を開いてくれたってことなのかな」
「いやいや、開ききってはないぞ」
そもそも人間誰しも開けっぴらになれるわけないだろうよ。
「でしょうね。でも開いているのは事実なのでしょ?」
「うっ………、それは…………どうだろうな」
「もう、昔と変わってないんだから………」
「そうなの?」
「うん、昔もね。ヒッキーが卒業しちゃう少し前に初めて話して、それで卒業試験の時には一緒に逃げ回ってたんだけど、素直じゃなかったよ」
「へー」
「あ、でもイロハちゃんにはあの頃も甘かったかも」
「へぇー」
ちょ、近くないですか?
というか段々と近づいてきてますよね。
ゆきのんアップとかユイガハマにしてやれよ。すげぇ喜ぶと思うぞ。
「ヒキガヤ君ってモテモテだったのね、知らなかったわ」
さらにアップしてんじゃねぇよ。
それにモテモテってなんだよ。
んなわけあるか。
「ち、近いって」
「ゆ、ゆきのん、近すぎない…………?」
「あ、ごめんなさい。ついヒキガヤ君の女癖が悪いことに我を失ってたわ」
「我を忘れるほどのことでもないだろ。そもそもモテてないし」
「「………鈍感」」
いやいや俺は鈍感なんかじゃないぞ。ただの経験から学んだ事実を言ってるまでだ。
「ただいま帰りましたよーっと」
あ、そんなこんなしてたら我が癒しの天使たちのお帰りではないか。
「………さすが兄妹……、一言一句同じだ………」
「およ? どうかしましたか?」
ユイガハマがコマチの挨拶に驚いているとコマチが下から覗き込んだ。
「いえ、ロリガヤ君の性癖について話し合っていただけよ」
それをユキノシタがさも当然のように答えていく。
「おい、さらっと憶測を俺に貼り付けんな。コマチが凄い目で見てくるじゃん」
「まー、お兄ちゃんだし? 今更何があっても動じないつもりだったけど? ロリコンはちょっと………」
ドン引きである。
妹に捨てられたらハチマン死んじゃう。
「待て待て待て! だからそれはただユキノシタが勝手に決め付けているだけだ! 俺はいたって普通のノーマルだ!」
「まあまあ、ヒッキーお疲れみたいだからからかうのは………」
「あら? からかってなんかいないわよ?」
「余計ひどいわ!」
「冗談よ。でもまあそれだけ年下に対して面倒見がいいとしておいてあげようかしらね」
「何故に上からなのん? もうそれでいいけどよ」
前言撤回だな。
もうマジで疲れてきた。
でも今日の内に博士から例の動画を見せてもらわなければ………。
「ハチマン、お疲れなの? だったら僕が疲れをほぐしてあげるよ」
「トツカ………、お前だけだ、この女性陣に付けられた傷を癒せるのは」
「泣かないでハチマン」
よし、完全復活!
さすが天使! マジ天使!
「………二人とも立場取られちゃってません?」
「たはは………、さいちゃんは強敵だから………」
「………分かってても難しいのよ………」
「まあ、最近は腕を掴めるようになったみたいですから、及第点としておきましょう」
「ゆきのん、いつの間に?!」
「き、気づいたら体が動いてるのよ…………」
「ううっ………、みんな無意識でやっちゃってるよ」
「ユイさんもイロハさんみたいにやってみたらどうですか?」
「や、やー、あれはもうあたしにはできないでしょ」
「案外新鮮でウケがいいかもしれないですよ?」
「どうかなー、やってみようかなー」
「なら私も………」
「いえ、ユキノさんはその調子でやっちゃってください。ユキノさんが計算高くなったらお兄ちゃん頭こんがらがるでしょうから」
「そう、なのかしら?」
「はい!」
女子三人はなんか別の話で盛り上がっているが、俺はこれからのためにトツカパワーを蓄積保存していく。
これでなんとかしばらくは乗り切れるだろう。
「なんだ? このシュールな絵面は」
「あ、ヒラツカ先生」
「あそこの変人は誰だ?」
「先生の元教え子です」
「私はそんな教え子に育てた覚えはない!」
チラッと見ると先生がなんか決めポーズを取っていた。
あれ、言ってみたかったんだろうなー。
先生、ああいうの好きそうだし。
「で、本当にどうしたんだ?」
「いえ、ただ会議の方がいささか面倒な空気になって、結果ああなったのかと」
「ああ、なるほど」
「それよりも忘れていたこちらも悪いんですけれど、私たちが呼ばれた当初の理由とやらを聞かせてもらえませんか?」
「ん? ああ、そうだった。スクールの方に気を取られていて忘れていたよ。なら全員集めてきてくれないか? 話はみんな集まった後だ。博士には私から言っておこう」
「分かりました」
俺がトツカを堪能していると話はすでに決まっていた。
ああ、トツカパワー恐るべし。
✳︎ ✳︎ ✳︎
女子三人がハヤマたちを呼んでくるということなので俺とトツカはバトルフィールドの方に行くことになった。
で、着いてみたらなんかすごいことになってた。
「どっかぁーん!」
「ぬぅ、ならばこっちもレールガン!」
デンリュウとエーフィがバトルしているのだが、なんかもうイッシキがでんじほうをマスターしていた。しかも命令がザイモクザみたいになってきてるし。なんだよ「どっかぁーん!」って。どこぞの軽巡洋艦なのん?
「スーパー念力!」
サイコキネシスな。
普通に言ってくれ。さっぱり分からん。
「コットンガード!」
サイコキネシスにより体の自由を奪われたデンリュウは、自身を綿で包み込むことで地面に叩きつけられる衝撃を緩和させた。
「破壊せよっ!」
地面に叩きつけても意味がないと判断したザイモクザはとどめを刺しにかかった。
はかいこうせんも覚えてたっけ?
あのエーフィ、滅多にバトルしないから何使ってくるか覚えてねぇわ。
「デンリュウッ!?」
「あーあ、やっぱエーフィの方がまだまだ上手か」
「ハチマン?!」
「先輩!?」
二人して俺たちが来たことに驚いている。それくらいバトルに熱中してたということか。
というか俺の存在だけに驚いてない? トツカには驚かないの?
「よお、まずはデンリュウをクリアしたみたいだな」
「ハチマン、何なのだ?! この娘は! 強すぎるとかの問題ではないぞ! コツをつかむのが早すぎて我の二年間が悲しくなってくるぞ!」
ああ、うん、なんか言いたいことは分かるわ。
ザイモクザはライコウのでんじほうを見てから二年に渡り、研究してきた。そうして今のでんじほうを操ることができている。対してイッシキは今日初めて使っただろうでんじほうを物の見事に完コピしていた。
やべぇ、こいつ何なの?
「誰のせいだと思って」
「誰だよ」
「それを言わせようとするの、先輩らしいですよねー。はあ…………、なんでこんな人に勝てないのかな」
「こんな人とは失礼な」
「それで、どうかしたんですか? こんなところに来るなんて先輩らしくもないですよ」
「ああ、まあちょっと集合かけに来た」
「先輩が人を集めるとか絶対誰も集まらなさそう」
「俺がじゃねぇよ。ヒラツカ先生に言われたんだよ」
「ほら、結局研究所に呼ばれた理由、まだ聞いてないでしょ? だからそれを今からみんなに話そうってことになったんだよ」
トツカが埒のあかない会話に終止符を打ってきた。
トツカってユイガハマ並みに空気を読めるよな。
あれ? ってことは、トツカ最高じゃね?
これからトツカさえいればなんでもできるんじゃね?
「ああ、そういやなんで来たのかすっかり忘れてましたねー。そもそもなんで呼ばれたんでしたっけ?」
「アサメタウンでの事件」
「アサメタウン? ……ああ! あの動画の! あれ、アサメタウンっていうところで起きたんですか? そんなこと言ってなかったような……………先輩、またよからぬことでも企んでません?」
「何もねぇよ。企むってなんだよ」
「だって、先輩だし」
おいそこ!
うんうん、と同意しない!
「つーわけだ。ほれ、行くぞ」
「ああん、待ってくださいよー」
回れ右してすったか歩き出すとイッシキはデンリュウをボールに戻して小走りで追っかけてきた。
続けて後の二人もついてくる。
「で、結局先輩の会議はなんだったんですか?」
「フレア団だよ。それ以上は言わん」
「もう、別にいいじゃないですかー。私も巻き込まれてる身なんだし」
「そもそも、まだ外に情報開示できる段階ですらないんだ。だから話すことがない。というわけで会話も終了」
「ぶー、先輩、そんなんだと女の子にモテませんよ?」
「これでモテてたら逆にそいつは好き者だと思うぞ」
「うっ………、なんなんですかね、この攻略難易度が異様に高いゲーム。無理ゲーだよ」
会話終了。
ほんとに終了しちゃったよ。
まあその方が楽だけど。イッシキとの会話じゃ何を暴露されるか分かったもんじゃない。まあ、こいつだけに限らんか。最近じゃ、周りにいる女子は皆何かしら俺の過去を知っている。それを度々暴露されたんじゃ、次何を暴露されるかちょっと怖いまである。
記憶なくなるのも考えもんだな。
「と、ここか」
目的地に到着し、扉を開く。
中にはすでに人が集まっていた。
「遅かったな」
「バトルしてましたから。行った時にちょうどザイモクザが終わらせてくれたから良かったものの、続いてたらもっと時間かかってたと思いますよ」
先生との気のないやり取りをして博士の方を見る。
何をにこやかスマイルのでいるのかは知らんが、気持ち悪からやめてほしい。
あ、ほら、エビナさんが鼻血吹いてるじゃん。
貧血にならないのかね。
「では、博士。全員集まったことですので」
「そうだね、それじゃみんな。これを見てもらえるかな」
先生が博士を促すとテレビのスイッチを入れた。
そうして再生されたのはメールに送られてきたものと同じ動画だった。
『ず、ザザッ、「なんだ、あれは!? ポケモンなのか!?」「と、ともかくにげるんだ!?」』
何かを見つけた人々が逃げていく。
その表情は恐怖心がにじみ出ている。
『「うわっ…、うわわわっ!?」「トロバ!!」』
これを取っているのは確かトロバという少年だったか。
声はするものの大きく揺れて、やはり状況がいまいちつかめない。
ただ緊迫した状態であるのは分かる。
衝撃音がまるで爆発が起きているかのような凄まじいもので、不意に動画が宙を舞った。
どうやら少年が投げ出されてしまったらしい。
そこに何か大きなものが横に流れていった。
これがフラダリと博士の会話にも出てきた伝説のポケモン、ゼルネアスかイベルタルなのだろう。脚しか見えなかった。
『「トロバ!!」』
さっきとは違う少女の声で少年の名前が叫ばれた。
急に動画が引いたかと思うと、少年が今いたところで爆発が起きる。
衝撃で透明な箱に入ったモンスターボールと何か赤いものが一緒くたに飛ばされていく。
『「サイホーン! このまま安全なところまで走って!!」「どうするの!?」「アタシはもう一度もどる!! エックスをこのままにしておけない!!」「ワイちゃーん!!」』
顔は見えないが最初の方の少女がエックスとかいう奴のところへ行ってしまう。
「ッッッ!?」
そして最後、二体のポケモンが事の元凶であることが分かるような争う風景が映し出され動画は一旦終了。
この画なら分かりやすいな。
こいつらが恐らく伝説の二体。
動画は切り替わり、トロバという少年がどアップで映し出される。
『ぼ、ぼくの後ろに映っている様子が見えてますか!? これは劇でも映画でもありません! アサメタウンで今、現実に起こってることなんです!』
博士の部屋に近づくにつれ、ヒラツカ先生から送られてきた動画の声の主と思しき音声が聞こえてくる。
『博士!! プラターヌ博士!! これ……ブツン!!』
これで動画は終了。
何故後半のほんの少しを送ってこなかったのかは甚だ疑問ではあるが、まあ容量がでかくて送れなかったってことにしておこう。
それよりも。
「それで、この動画の伝説の二体はどっちがどっちなんだ?」
「「「ッッ!?」」」
俺の一言に部屋中の空気かビクッとなる。
おかげで俺もビクってなってしまった。
やだ、何それ。超キモい。
「赤黒い方が破壊ポケモン、イベルタル。四足の方がゼルネアスだよ」
そう言って、博士は巻き戻して二体が綺麗に写っているところで再度止めた。
ふむ、ということはこの四足歩行の方が生命を分け与えるゼルネアスなのか。
どっちも土地を荒らしてるようにしか見えないが、ゼルネアスが通ったところは草が生い茂っている。
反対にイベルタルが技を打ち出したところには何もなくなっている。
まさに自然が破壊されていた。
「前にハチマンくんには伝説の二体について聞かれたことがあったよね」
「ああ、聞いたな」
「僕も半信半疑だったけど、これで史実が証明されたよ。生命を与えるポケモン、ゼルネアス。奪う側のイベルタル。この二体は対となるポケモンであり、その力は生命に関わってくる、扱いを間違えれば危険なポケモンたちなんだ」
「なら、やっぱり『Z』はいるのか?」
「それに関しては僕からは何も言えないよ。ただ僕個人の意見としてはいるんじゃないかな」
「ぜっと?」
「取りあえず、お前らにはまずこの二体のポケモンについて知ってもらわねぇと話が進まねぇよな」
ユイガハマがコテンと小首を傾げてくるので説明を付け加えることにした。他の奴らも同じだろうし。
「というわけでザイモクザ。説明を頼んだ」
「うむ、というか自分でもできるであろう?」
「資料がない」
「………仕方あるまい。我が相棒の頼み、聞いてやろう」
俺もザイモクザに説明してもらった身。
だから資料はザイモクザの方が持ってるんだよな、この件に関しては。
「我の調べたところによるとカロスではおよそ3000年前に戦争が起きているのだ」
ザイモクザが目線で、これでいいか? と聞いてくるので、俺は首肯する。
「そして、それは他の地方とのものだったという説もあるのだ。その戦争では大量の命が奪われた。そこには件の二匹のポケモンの姿もあったのだとか。命を分け与える生命のポケモン、ゼルネアス。全てを覆い尽くし朽ちらせる破壊のポケモン、イベルタル。この二体の力は壮大で後にこの戦争を終わらせることとなった最終兵器の基礎となったらしいのだ。そして、この二体がそれぞれXとYに例えられるポケモンだろうと我は考えている。名前をアルファベットにすると頭文字がXとYになるからな」
取りあえずこれを見よ、とパソコンを操り、図書館で借りた本の内容を一言一句違わず打ち出した資料を画面に映し出した。
そうそう、これこれ。
俺が説明するには持ってない資料の一つだ。
~Xのポケモン~
千年の寿命が尽きる時、このポケモンは二本足で立ち、七色に輝く角を広げ、カロスの大地を照らす。すると人もポケモンも活力が漲り、荒れた大地は潤いを取り戻した。そうしてエネルギーを使い果たしたそのポケモンは枯れた大木のようになり、その周りには深い森が形成された。後に人々はこう語る。二本足で角を広げる姿はまるで『X』のようだった、と。
~Yのポケモン~
千年の寿命が尽きる時、このポケモンは禍々しい翼を広げて、鋭い咆哮を走らせ、カロスの大地を包み込んだ。すると人もポケモンも活力を奪われ、潤う大地は一瞬にして荒れ果てた。そうして無数のエネルギーを得たそのポケモンは翼を折りたたみ繭のような格好になって山奥で眠りについた。後に人々はこう語る。翼を広げて叫ぶ姿はまるで『Y』のようだった、と。
厚い胸を張ってえっへんと態度に表すザイモクザ。
は、放っておき俺も付け加えていく。
「ザイモクザが言ったようにXとYで表される要因だ。で、だ。なら、どうしてZで表されるポケモンはいないんだってわけだ。キリが悪いと思わないか?」
「確かに、そうね。XとY。この資料を見る限り、ゼルネアスとイベルタルに結び付けられるわね。そうなるとX・Yと来てZが来なければ些か妙だわ」
「だろ? で、博士にそういうポケモンはいないかって話になったんだが、博士も知らないって言うんだよ」
代わりに出てきたのがポリゴンZだったんだよなー。あいつ、なんだかんだ進化して強くなってるし。
「えっと、確かホウエン地方には陸と海を広めたっていう伝説のポケモンがいましたよね。で、そのポケモンの過剰な力を抑える力を持つ竜神様ってのがいたような………」
「おおう、イッシキがちゃんと知ってたぞ…………。バカじゃなかったんだな」
「失礼な! これでも誰かさんを追いかけるのに必死なんですからね!」
あ、こら何変なこと言ってんだよ。
ほら、みんななんか空気が変になってるじゃねぇか。
おいそこ! 笑うんじゃねぇよ、ハヤマ!
「グラードンとカイオーガ。それにレックウザね。確かにレックウザはあの二体を抑制する力を持っているわ………はっ!?」
「気づいたか。そういうことだ」
「え? なになに? どゆこと?」
ユイガハマは当然分かってない様子。逆に今での理解できていたらアホの子卒業ものだわ。
いつ卒業できるのやら。アホの子じゃなくなったらユイガハマがユイガハマで無くなりそうな気もするけど。
「力の抑制……………、三体目のポケモン、キリの悪いアルファベット表記…………だからZなのね」
「ああ、どんなポケモンかも分からんが、いるとしたらレックウザと同じように強大な力を持つ二体を抑制する力を持ったポケモンだろうな。Zは」
「………実は僕もそこにはずっと疑問を抱いていたんだ。どうしてXとYがいるのにZの話がどこにもないのか。そんなことを頭の片隅に置きながら、ポケモンについて研究をしてきた。それから、ある時ふと思ったんだ。生命を司るXのポケモン、破壊を司るYのポケモン。この二体がそれぞれの力を滞りなく無限に使えるとしたら、カロスは、いやこの世界全てがどうなってしまうんだろうと。君たちはどう思う?」
あんた、またですか。
ほんと、人に考えさせるの好きだよな。人のこと言えないけど。というか同じ聞き方してるし。
「どうって、そりゃ生態環境がおかしくなるんじゃないですか? あるところでは生命力に溢れ、あるところでは朽ち果てた大地が広がっている、的な感じに」
ハヤマが以前の俺と似たようなことを言っている。
おい、真似すんな!
「そうなってしまえば、些か問題ですね。一箇所で起こった生態環境の崩れは連鎖するように次々と無の力が呑み込んでいくでしょうし。生命力も限度を超えれば、朽ち果てる原因となりますし…………。なるほど、一見して正反対な存在で有りながらも、力の抑制がなければ招く結果は同じだということね」
「そういうことだ。だからZという存在がなければこの二体のポケモンは好き放題にできてしまい、結果今のカロスは生まれていない。いわばZは生命の秩序を正すポケモンだろうってことだ」
「あうー、なんか話が小難しくて頭痛くなってきました」
「まあ、頭の片隅にでも置いておけ。知らないよりは知ってた方がいいからな」
まあ、難しくなってくるよな。
ただ、今回に限っては知らないでいる方が後々怖いことになると思うぞ。
「博士や先生にも言っておきますけど、フレア団なんてのがカロスにはいるみたいなんですよ。奴等の狙いはよく分かってませんけど、俺の見てきた限りじゃ3000年前の戦争で使われた最終兵器とやらが鍵となってるみたいですよ」
「ッッ!? それは本当か?」
先生が急に驚愕の色を見せた。
まあ、先生には何も話してなかったもんな。
「ええ、イッシキ。10番道路に行った時のこと覚えてるか?」
「じゅ、10番道路、ですか? うーん………、あっ!?」
イッシキに投げかけると、ちょっと時間がかかったがようやく思い出したようだ。
あの時のポケモンたちのことを。
「思い出したか。俺とイッシキはセキタイタウンに向かう前に一回だけ10番道路に行ったことがある。その時に見つけたポケモンは生体エネルギーを抜き取られた抜け殻と化していた。はっきりいって死んでいるみたいだった。だが実際は死んではいないらしい。そのポケモン自身が生きることを諦めなければ、そのうち活力を取り戻すそうだ」
「それって………」
「まあ、話はここからだ。俺はその事を看過できなくて10番道路を調べた。あそこには列石があるのはみんなも知ってるだろうが、どうもあの石には生体エネルギーを抜き取る力があるらしい。俺たちが見つけたポケモンも恐らくその石が原因だろう。で、だ。何故そんな石が10番道路にあると思う?」
俺が博士みたいに投げかけてみると、ユキノシタは早々にため息を吐いた。
「…………だからあなたはセキタイタウンを調べたということね。そしてまんまとフレア団のアジトの中に呼び込まれた」
理解が早くて助かるわ、ほんと。
「さすがユキノシタ。話が早いな。どうにも10番道路とセキタイタウンの地形が怪しくてな。こっそり夜にセキタイタウンを調べたらフレア団のアジトとやらに入れてしまったんだわ。それがハヤマが見た場面でもある。しかも入ったら入ったで抜け出せなくなるし、なんか変なのに捕まって牢屋にブチ込められるし、散々な目にあったわ」
「それで生きて帰ってこれてるだけすごいよね………」
「それな」
コマチの言う通りである。
まあ、後でなんか言われそうで怖いけど、話しておかないとどっちにしても怒られそうだし。
余り言いたくなかったけど。
「………敵のアジトに乗り込んだということは、その、ボスにも会ったのか?」
「ええ、会いましたよ。ハヤマは余り信じてないようですけど。何なら博士も信じないでしょうね。仲良さそうだったし」
先生が早くもその点に気がついてくれた。
この際だし、全員の前で言ってやろう。
「………僕の知ってる人なのかい?」
「フラダリ」
「「「ッッッ!?!」」」
「ま、まっさかー、そんなわけあるわけないじゃないか。だってフラダリ氏はフラダリラボでホロキャスターを開発し世に広めた偉大な人だよ。そんな人がフレア団のボスだなんて有りえないよ」
やはりこうなるか。
俺と一緒に旅していたものは当然驚きの顔を見せるが、博士とハヤマたちはあり得ないといった顔をしている。
「という感じに大体の人は証言するから信じてもらえないんだけどな」
「………私も見ているのだけれどね」
「ま、今はそこは置いといてだ。フレア団のアジトが何故セキタイにあるのか、親切にも教えてくれちゃったわけよ、これが」
「………なんだったの?」
「最終兵器が地下に眠ってるんだわ。実際に見せてくれたから間違いない」
「見せてもらったって、お兄ちゃんなんかお友達みたいになってるね………」
「いやいや、俺に友達ができるわけがなかろう。あんな奴ら友達にもなりたくないわ」
そもそも会話からしてそんな仲良さげなものじゃなかったし。ほとんど皮肉の言い合いだぞ。
「で、だ。最終兵器はポケモンの生体エネルギーを使うことで動く仕組みになっているみたいなんだが…………」
「………あの子たちは最終兵器とやらを起動させるためのエネルギーとして使われた、っていうんですか」
ジトッとした目でイッシキが俺を見てくる。
そんな目で俺を見るなよ。悪いのは俺じゃないんだから。
「そういうことだな。ただ、そんなポケモンたちの生体エネルギーをどれだけ使えばカロスを破壊できるのか分かったもんじゃない。ここからは俺の憶測の話でしかないが、もしその最終兵器とやらを起動するのに必要なエネルギーを永遠に蓄えることができたら?」
「…………生命ポケモン、ゼルネアス。あなたが言いたいのはそういうことね」
「ああ、アサメタウンで起きたその動画の事件も俺はフレア団が絡んでると睨んだ」
「ついに動き出したというわけであるな」
ザイモクザの言う通り。
ついに動き出したのだ。
その証拠にこの動画で伝説の二体が写っているのだ。
「………でも、証拠はなくないか? アサメタウンのこの事件がフレア団と絡んでいるだなんて、俺にはまだ結びつかないな」
ん?
マジでこいつ馬鹿なのか?
あれ? でもなんかミウラたちもハヤマのことを変な目で見ているし………。
これって………、んなわけないか。
「まあ君の話は分かったよ。言いたいことも分かった。だけど俺にはそれを信じるに値するまでの証拠が足りていない。だから俺は俺で探ってみるよ。君の証言の裏付けも兼ねてね」
ダメかー。
どんだけ話してもハヤマは信じる気が全くなさそうだ。まるでフレア団を味方しているかのような、そんな気さえしてくる。
だが、ミウラたちの反応も気になるな。
ハヤマと旅をしているのだから当然、フラダリと会ったかもしくは会ったことくらいは知っているだろう。だからフレア団のボスがフラダリだということを信じられないのは置いておこう。しかし、今の反応はどう考えてもハヤマの言っていることに驚いているようだった。
「話はそれだけかい?」
「ああ、俺からはな」
「そうか、なら、うん。ちょっと出かけてくるよ」
「………好きにしてくれ」
ハヤマがそう言って出て行くとミウラたちも怪訝な表情を浮かべ合わせながら、ハヤマの後について行った。
「………どう、したんですかねー、ハヤマ先輩。なんからしくないというか………」
そういやここにもハヤマを知る人物がいたな。
少し聞いてみるか。
「……お前から見てもおかしく見えるか?」
「はい、なんかいつもだったらもっとこう話を信じた体で話すのに、今日は全く耳を傾けていないというか…………」
「……マジで何なんだろうな」
イッシキから見ても変だと思えるのなら、やはりミウラたちの反応は同じだろう。あいつらもハヤマの反応を訝しんでいる。
やはり、あいつは、ハヤマは………………。
ま、仮定の話をしたって意味ないよな。
えー、会議に重鎮がいないことやハヤマの今後を今回やりたかったのですが、思いの外長くなってしまい次回に持ち越しになりました。
気になっている方はたくさんいるかと思いますが、ちゃんと重鎮も用意してありますし、いない理由もちゃんとあるんですよ。
次回をお楽しみに。