ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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遅れてしまい申し訳有りません。

ちょっとネタがまとまり切りませんでした。


55話

 昼飯を食った後、何故かハヤマとユキノシタに同行されながら、会議場へと向かった。

 しかも会議の場所が路地裏にある空家というね。何でこんな隠れ家みたいなところなんだよ。まあ、フレア団がどこに潜んでいるか分からんからだろうけど。

 

「ここのようだね………」

「みたいだな」

 

 空家に入るとそこまで広くはない空間に机がコの字に置かれていて、椅子も同じように添えられていた。ちらほらと人も入ってきているようで、すでに何人かは席についていた。

 だが、俺の後ろにハヤマとユキノシタがいるのに気がついた途端、ザワザワとし始める。

そりゃ、こんな有名人二人が揃ってきてたら驚くわな。

 端っこがまだ開いていたためそろ〜りとそちらに向かうと、二人ともついてきてしまった。

 や、ついてこなくていいでしょ。折角他人のフリで済ませようってのに。

 俺といると碌なことにならんのは決まってるんだからな。

 

「…………ねぇ、あの人………」

「うん、ハヤマくんとユキノシタさんを連れてきてたよね…………」

「何者なんだろうね…………」

 

 ほらー、ひそひそとも言えない声で探り始められちゃったじゃん。

 やだよ、こんな羞恥に晒されるのなんて。

 

「………お前ら、もういいだろ」

「言わせておけばいいじゃない。あなたはあなたなんだから。というわけでハヤマ君はもう結構よ」

「はあ…………、一体ユキノシタさんに何があったっていうんだ………。昔はもっと「それ以上は言わないことね。この男に弱みを握られてしまうわ」………はあ…………」

 

 うわー、ユキノシタ強ぇ。

 あのハヤマですらため息で終わるとか………。

 少しは俺の立場を理解できたか?!

 

「うっそー、マジで?!」

「それがほんとなんだって!」

 

 重たい空気の中、端の席に陣取ると外から賑やかと書いてうるさいと読む声が聞こえて来る。

 なんか場違いな声だな。

 

「ここだっけ?」

「そうみたいだよ」

 

 ガチャっと扉を開けて中に入ってきたのは赤みのかかった茶髪………とでも表現したらいいのだろうか。派手な女子を筆頭に女三人が入ってきた。

 

「………まだいたのね、スクール生が」

「みたいだね………」

 

 どうやら二人は彼女達を知っているらしい。

 スクール生ということはあそこにいたということなのだろうか。

 まあ、俺にはどうでもいいことだな。

 

「あれっ?! ハヤマ君?! うっそ、なんでカロスに?!」

「や、やあ、久しぶりだね、サガミさん」

 

 うわー、すげぇ営業スマイル。振り向く一瞬だったが、今スイッチが入ったぞ。

 さっきまでの子供の相手をしていた時よりもいい笑顔である。

 二つ隣に座るハヤマに対応を任せ、俺はぼけーっと壁のシミを数えることにした。

 一つ数えるごとに部屋の中の人数が増えて行く。そんな感覚を覚えていると、背後からの寒気によってその行為が強制的に終わりを告げられた。

 恐る恐る振り返ると、部屋の後ろにも取り付けてあった扉の窓ガラスから見たことのある顔がすげぇ笑顔でこっちを見ている。

 なにこれ、めっちゃホラーなんだけど。

 

「ッ?! ね、姉さん………」

 

 どうやらユキノシタも感じたようで同じように振り返り、固まっていた。

 ひらひらと手を振るとすっと消えて前の方の扉から入ってきた。

 

「すみませーん、遅くなりました〜」

 

 こ、この声はっ!?

 このふわんとした癒しボイスはまさかっ!?

 

「ポケモン協会のシロメグリメグリです。当会議の責任者ですので、よろしくお願いします」

 

 ホワイトボードの前に立ち、ぺこりとお辞儀をするメグリ先輩。

 うおーっ! っと拍手が巻き起こる。

 そうか、彼女がこの会議の責任者になったのか。魔王じゃなくてよかった……………。

 それにしても何なんだ、この異様な拍手は。主に男ども。気持ちは分からんでもないが。

 

「それじゃあ、そろそろ会議の方を始めましょう!」

 

 彼女の一声で、まばらに陣取り喋っていたものが適当な椅子に座っていく。

 ハヤマに話しかけていた女子三人も空いている席へと移動していった。こういう時ってハヤマの横に陣取るものだと思って覚悟をしてたんだが。来なかったな…………。なんでだろう。

 あ、魔王がちゃっかりハヤマの横を陣取った。背後からの威圧に押しつぶされたのかもしれんな。

 

「えー、まずはこの会議の趣旨を説明しておきます。この会議では対フレア団を掲げた会議になり、フレア団が起こした事件の調査、対応、対策を主にしていきます。上手くいけば殲滅に出ることもあるでしょう」

「フレア団………?」

「あの、なんですか、その………フレア団? とかいうのは」

 

 聞き覚えのない単語に口々に質問が飛び交っていく。

 

「フレア団はですね、先日カロスにいるポケモン協会の会員の方が襲撃され、私たちが捕獲した者たちのことです。取り調べを行ったところ、彼らはフレア団と名乗り、カロスを大きく変えるなどと証言している、ちょっと危険な組織のようです」

「………具体的にはどういった危険性があるんですか?」

「まだ具体的なことは分かりません。口を割らないようなので催眠術による聞き出しも行いましたが、数人の幹部たちは催眠術に陥る前に舌を噛み自殺。団員たちの方は詳しいことを知らないようでした。唯一分かったのはボスがいること。そして、その傍に佇む『炎の女』がいるようです」

 

 炎の女………?

 それは初耳だな。

 というか何死なせちゃってんのよ。魔王の恐怖には耐えられなかったのか?

 

「………正直に話せば死なずにすんだのにねー」

 

 ちょっとー。

 何さらっと恐ろしいこと言ってんですか、ハルノさん。

 みなさん、凍りついてますよー。

 俺の横ですんごい冷ややかな目を送っているあなたの妹もいるんですけど。スイクンのぜったいれいどを思い出しちゃうレベル。俺とハヤマが実際に凍りつきそう。

 

「とある情報筋によるとフレア団のアジトはセキタイタウンにあるようです」

「………セキタイ?」

「あの何もないところに…………?」

 

 セキタイを知ってる者にはどうしてアジトがセキタイなのか、理解できないようだ。まあ、何も知らなければ俺だってそう思う。あの何もないようなところにアジトを作る必要があるとは思えない。一つ考えられるとしたら、人気がないから。ただそれだけである。

 まあ、実際には地下空間にドデカい花があるからなんだがな。

 

「歴史を遡ること3000年前。カロス地方では大規模な戦争が起きました。この情報筋の人の話には一説ではイッシュ地方との戦争だったのでは、ということらしいですね。そして、この戦争を終わらせるために造られた最終兵器、それが今回の鍵となっています」

「………最終兵器……」

「あ、あの……」

「はい、どうぞ」

 

 一人の少女が手を挙げるとメグリ先輩はそのまま促した。

 

「その話、聞いたことがあります。確か当時のカロスの王のポケモンがその戦争で命を落とし、それに嘆いた王は最終兵器と呼ばれるものを造り出し、自ら戦争を終わらせたとか………」

 

 ほう、知っている奴もいるのか。

 まあ、俺も図書館で調べられたことだからな。知ってる奴がいてもおかしくはない。というか知ってる奴がいて助かったわ。

 

「あ、それ俺も知ってるわ。確かカロス地方を破壊してしまうような威力だったとか」

「マジ!? そんな危険なものがまた使われようとしてるの?!」

 

 ちらほらと知ってる奴の意見が飛び交い、理解が通っていく。

 

「どんな形なの?」

「そこまでは………」

 

 にわかに知ってる奴が詳細を知るはずがなかろう。

 

「ーーー花よ」

 

 急に口を開いたユキノシタに一斉に視線が集められた。

 なんか俺が見られてるようで嫌なんですけど。

 

「セキタイタウンの地下に眠る巨大な花。今はまだ蕾の状態だけれど、恐らく地上で芽吹き花が開けばカロスは終わるという作りになってるのでしょうね」

 

 やっぱりあの時影にいながらでも話を聞いてたんだな。

 

「シロメグリ先輩、まだ続きがありますよね」

「さすがはるさんの妹だねー。セキタイタウンの南に伸びる10番道路の石碑にはポケモンの生体エネルギーを奪う力があり、そのエネルギーを使うことで最終兵器が起動するみたいです」

「ユキノちゃん、よく最終兵器のこと知ってたね」

「たまたまよ、姉さん。どこぞのおバカさんを迎えに行った時に話を聞けただけよ」

 

 どうも、どこぞのおバカさんです。

 というかそもそもハルノさんがユキノシタを送ってきたんでしょうに。

 

「ふーん、それじゃ当然フレア団のボスのことも知ってるんだ?」

「………言ったところで信じないでしょうけどね」

「へー、で、誰なの?」

「…………フラダロラボ所長、フラダリ。ご存知の通りホロキャスターをカロスに広めた人物よ」

「…………」

 

 場に静寂が広がっていく。

 まあ、当然といえば当然だ。

 カロスの有名中の有名人、フラダリがまさかフレア団のボスだなんて思いもしないだろう。

 

「それ絶対嘘でしょ。みんなの気を引きたいからってそんな嘘じゃ無理があるって、ユキノシタさん」

「だよねだよねー」

 

 くすくすと笑っているのはさっきハヤマに絡んでいた女子三人だった。

 まあ信じ難いのは分かるが、なんか気分を害される奴だな。

 あと、そんなに笑ってると魔王にどやされるぞ。

 

「「「ッッ!?」」」

 

 かと思えば急に黙り込んだんだけど。

 何があったのかと見てみるとハルノさんに睨まれていた。

 

「だよねー、もうユキノちゃんたらそんな嘘はいけないよっ」

 

 だけどそれは一瞬のこと。

 次の瞬間には彼女たちに同意していた。

 

「でも、それを今から検証していくのがこの会議なんだよねー。それ分かってるのかなー」

 

 超笑顔なのに声が冷たい。

 魔王の吐息はこごえるかぜさながらサガミたちの動きを鈍らせる。

 怖ッ! 魔王、怖ッ!

 

「……………」

 

 小さな溜息と共に机の下で俺の右腕を掴んできた。

 悔しいなら言い返してやれよ。お前なら出来るだろ。それともあれか? 姉貴がいるからか? まあ、魔王だもんな。相手にしたら潰されるのが落ちだろうよ。

 

「………それはどうかな。俺はフラダリさん直々に依頼を受けている。その内容は忠犬ハチ公がフレア団と接触しているというものだ」

 

 あ、ハヤマめ。

 お前、それを今言うのかよ。

 てか、言っていいのかよ。

 

「忠犬ハチ公!?」

「ハヤマくん、それって…………」

「ああ、みんなもポケモン協会の一員なら噂くらいは知ってると思いますけど、ロケット団内部分裂と殲滅の黒幕と言われている会長の懐刀ですよ」

 

 ………俺って、そんな風に言われてたんだ。

 なんか噂というものを聞くたびに規模が大きくなってってないか?

 俺そんな大層なことしてないんだけど。

 

「………まさか裏切り?」

「どうでしょうね、ただ彼がフレア団と繋がってることだけは間違いないと思いますよ」

 

 チラッとこっち見るんじゃねぇよ。

 エビナさんがいたら喜びそうで怖い。何なら今早速背中に悪寒が走った。どこかでまた腐ってんのかね。

 

「ふーん、ハヤトはそっち側なんだ」

 

 あーあー、なんかもう魔王にこの会議乗っ取られちゃってるよ。まあ、メグリ先輩も止めようとしないから、意外とこれで上手く意見が飛び交ってるってことでいいのかもしれないけど。ただめっちゃ怖い。

 

「はるさん、言い方言い方………」

「ふふんっ、じゃあヒキガヤくんはどう思う?」

「え、はっ? なんで俺に振るんですか」

 

 ちょっと、いきなり振るのやめてくれませんかね。

 あ、ほら、なんかみんなこっちに視線送っちゃってるんだけど。

 ああ、やだよー、誰か助けてー。おうち帰るー。

 

「だって、ハヤトもユキノちゃんもつまんないんだもん」

「あんた、酷いな………」

 

 何を二人に求めてたんだよ。

 つか、俺に面白さを求めんな。

 

「はあ…………、実態がどうあれ可能性としては否定できないんじゃないですか? フラダリラボは表向きな名前であって実はフレア団が正式名称。その両方のトップがどちらもフラダリって人なら辻褄は合うと思いますけど?」

「ハチ公については?」

 

 そこも聞くのかよ。

 しかも本人に。

 

「態々自分から絡みに行く人間がいますか、そんな危ない組織に。俺だったらそんな面倒なことに首すら突っ込みたくないまである。名前だけで恐れられてあっちから接触を図り、事実としては間違ってはいない情報を拡散した。結局のところどっちが接触したかは誰も問題にしませんからね。で、それはハヤマという有名人にも渡り、ハヤマとハチ公をぶつけておくことでハチ公を牽制しようとしたんじゃないですか? 知らんけど」

「さっすがヒキガヤくん、考え方が斜めだねー。ハヤト、利用されてんじゃないの?」

「ははは、どうだろうね………」

 

 利用されてんだよ、まったく………。

 エリートトレーナーなら気付きなさいよ。

 

「では次の情報にいきましょう。次は早速フレア団絡みの事件です。三日前にアサメタウンで大規模な爆発が起きたようなんですけど、これがその情報筋によるとフレア団が関わっているみたいです」

 

 アサメタウンな。

 あ、そういや結局まだ続きを見せてもらってないじゃん。ルミたちの方に気を取られて忘れてたわ。

 帰ってから今度こそ見せてもらおう。

 

「詳しいことはまだその人も分からないみたいですけど、それもみなさんに調査していただきたいと思います」

「あの、そもそもその情報筋の人って誰なんですか?」

「そうそう、なんか一般的に知られてないようなことも知ってるみたいですし」

「というか話を聞いてるとその人フレア団のアジトに乗り込んでません?」

「………あれ? それだったらユキノシタさんも最終兵器のことを知ってたくらいだから乗り込んで………」

「はっ! まさかその人って!?」

 

 いきなり話がフレア団から情報筋の人物の特定に変わっていってしまった。

 皆の視線がユキノシタに集まっていく。

 ヤバいな、さっきの最終兵器の話が仇となってしまったか。

 さて、どうしたものか。

 

「それはどうだろうね。ユキノシタさんがこの情報を持ち込んだのだとしたら態々こんな回りくどいことはしないと思うな。それにハルノさんもいることだし」

「それじゃあ、ハヤマ君?」

「ばっか、そんなわけないでしょ。ハヤマ君もユキノシタさんと同じよ」

「でも、だったら…………」

 

 どこぞの女子三人が口々にものを言っていく。

 

「こうは考えられませんか? 誰かを迎えに行ったユキノシタさん除いてもう一人、フレア団と接触ができている者がこの情報を流している、てね」

 

 それをハヤマはこう切り返した。

 ほとんど俺への当てつけだとしか思えんが。

 

「「「忠犬ハチ公!?」」」

「俺もそれが正しい見解かは分からないけど、可能性としてはなくはないと思いますよ」

「それじゃあ、まさか今までの情報は偽物…………」

「その可能性は否定できません。ただ実際に事件は起きているし、俺がフラダリさんから依頼された後にネットで調べたら、フレア団に関する情報は全くなかった。そう全くね」

 

 あくまでも忠犬ハチ公、もとい俺がフレア団だと見ているハヤマは、完全否定するつもりはないらしい。というか絶対俺のこと攻撃してるな。

 だが、まあネットの検索でフレア団について一切引っかからなかったことに気がついたのは評価してやろう。

 

「全く、なかったの?」

「検索にすら引っかからない。逆に怪しいとは思いませんか?」

「ということはフレア団自体は本当に存在している組織………てこと?」

「恐らくは」

 

 ハヤマの言葉運びによりフレア団自体が存在するということは信じたらしい。ただ、そこからの話はまだまだ信じ難いってところか。

 というかこいつらハヤマの言葉を信じすぎだろ。

 もう少し自分の頭使って考えろよ。

 

「で、ではでは、以上が今あるフレア団に関する情報になります。調査を行うにあたってチームで活動してもらおうと思いますので、適当にチームを組んでください」

 

 なん、だと………?

 メグリ先輩や、それはさすがにぼっちに強いてはいけないことですよ?

 チームとか無理だな。

 

「………あなたは一般会員扱いなのだから私のところに来なさい」

 

 なんて考えてたらユキノシタがこっちを向かずに小声でそう言ってきた。

 どうやら俺はユキノシタの下にいることで決定したみたいだ。まあ、それが一番動きやすいといえば動きやすいか。今回に限っては。

 それにユキノシタもぼっちといえばぼっちだしな。ぼっち同士チームになっておけば何の問題もないだろう。

 

「………俺もこっちに入れてもらっていいかな?」

「………好きにすればいいわ」

 

 げっ、ハヤマも一緒なのかよ。

 面倒だなー、こいつも一緒とか。

 

「あ、じゃあ私も入ろうかなー」

「ハルノさんはメグリ先輩と一緒に本部との架け橋でしょ」

「ぶー、つまんなーい」

「ははは………」

 

 魔王までこっちに入ってきたら、俺絶対部屋から出なくなりそう。もうね、口撃が繰り返されそうで嫌になるわ。

 

「それでは、皆さん。チームは組めましたかー? 最後にこの会議の議長の選出に移りたいと思います」

 

 議長。

 会議の進行とまとめ役か。

 ま、所詮メグリ先輩とハルノさんがいるからいらないような気もするけど、一般会員の代表が欲しいということなのだろうか。

 あの二人は以前の会話から推測するに、割と上の方の人材らしいし。今回はこっちでの本部扱いだろうし。

 

「……………」

 

 えと………、あの………、どうして俺の方を見てくるのでしょうか…………。

 嫌ですよ? やりませんよ?

 一般会員として参加してるのに俺が前に立ったら意味ないじゃん。

 そもそも立ちたくもないし。というか立てるわけないし。まず噛む。次に噛む。そして締めでも噛む。自分で言ってて情けないが、事実なのだからしょうがない。

 

「だ、誰もいませんか~」

 

 ほわわわっ、て感じの声で聞いてくる。

 なのに何故か視線は俺の方を向いている。

 何なら部屋一帯を見渡して戻って来た。

 やだもう、何このめぐりんパワー。承諾しちゃいそうなんだけど。

 

「あ、あの」

 

 俺がめぐりんパワーに対して葛藤を繰り広げていると、一人の女子が手を挙げた。

 さっきハヤマに絡んでいた赤みのかかった茶髪である。

 

「誰もやりたがらないのなら、うちやってもいいですけど……」

「本当? えと………」

「サガミミナミです。あんまり前に出るの得意じゃないですけど、こういうの少し興味あったし………」

 

 それにこういうこともやって成長できたらなー、なんて思ったり………、とかいってるんだけど。

 なんで俺たちがお前の成長を手伝わねばならんのだ。

 

「では、次回から進行の方をお願いしてもいいかな?」

「あ、はい、分かりました………」

「うんうん、えー、では調査内容をまとめると『フレア団、およびそのボスと傍に立つ炎の女』『フラダリラボとの関係性』『アサメタウンでの事件』ですかねー。ハチ公についてはこちらで調査を行いますので、この三つを皆さんに調べていただきます。裏の取れたものならどんな些細な情報でも構いません。それでは明後日、この時間にここでまた会いましょう」

 

 ホワイトボードにきゅっきゅっと書き込んでいった調査内容。

 うーん、まあまずはそこからやるしかないか。

 本当はもっと進みたかったが、メンバーが知らないやつばかりだったからな。

 だが、そううかうかもしていられないだろう。フレア団の計画は着実に進行している。時間はいくらあっても足りない。

 

「がんばるぞー、えい、えい、おー!」

「「「「「「うぉぉおおおおおおおっ!!」」」」」」

 

 …………………。

 え、なにこれ。やらないとダメなの?

 てか男子。なんでそんなやる気に満ちてんだよ。ライブに来てんじゃないからさ、もっと大人しくていいだろ。

 

「じゃねー、ハヤマ君」

「また明後日ー」

 

 ぞろぞろと帰り出す人の流れの中にはサガミ一行もいた。

 皆がいなくなり、ようやく息ができる感じである。

 

「………ヒキガヤ、これはどういうつもりなんだ?」

「あ? 何がだよ」

「この会議の意味だよ」

「……なんで俺に聞くんだよ」

「君以外にあの情報を仕入れてくるのは無理だ。ユキノシタさんまで巻き込んで………」

 

 まあ、確かにハヤマは知ってるからな。俺がハチ公だってこと。一緒に襲われた身だし。

 

「あのな、先に言っておくが俺はフレア団でもなんでもないからな」

「それを証明するものはないだろう?」

 

 うっ、また痛いとこをついてきやがって。

 俺がフレア団だったとしてどうするつもりなんだよ。なんかここまでくると聞いてみたくもなるじゃねぇか。

 

「ああ、ないな。ユキノシタが全てを知っているわけでもないし。だからこそ、この会議を開いたんだが」

「やっぱり自分がフレア団ではないと誰かに調べさせるつもりだったか………」

「別に次いでだ、次いで。フレア団については俺一人で動いたところでお前が盾となって動きようがない。だから会長に取り次いでもらったってだけだ。まあ、まさかそれがユキノシタさんたちに行き渡るとは思いませんでしたけど」

 

 フレア団を追う中で忠犬ハチ公がフレア団でないことが証明できれば、俺的にはそれでいいんだけどな。

 そうすれば動きやすくもなるってのに。

 

「へー、ハヤトはヒキガヤ君を疑ってるんだ」

「まあね。というかハルノさんはどこまで未来が見えてるんだい?」

「なにハヤト、未来を知りたいわけー? と言ってもほとんど見えてないんだけどねー。まあ、でもヒキガヤ君は白だと思うよ」

「ハルノさんまでヒキガヤの肩を持つんだね」

「あれからヒキガヤ君、もとい忠犬ハチ公のことは会長に聞き出したもの。その話を元にネイティオに過去を見せてもらったけど、これまでの経緯を見れば一目瞭然だったよ」

 

 カラカラと笑うハルノさんであるが、今なんか聞き間違いであってほしいこと言ってたよな。

 

「人のプライバシーをなに勝手に覗いてんですか………」

 

 やめてくださいよ。

 俺の黒歴史をポケモンの力で覗くのは。

 まあ、そうやって未来を知ってユキノシタを唆したんでしょうけど。

 

「…………、ハルノさんがそう言うのなら、本当なのでしょうね」

「はあ…………、やっと信じやがったか」

 

 お前がため息を吐くな。俺の方がため息ものだわ。

 全く、どんだけ俺のこと嫌いなんだよ。

 俺も嫌いだけど。

 

「でも俺は君を監視し続けるよ。俺はまだヒキガヤが白だとは認めてもフラダリさんが今回の黒幕だとは認められない。まだ認めるに足る証拠が出てきていない。だから君が不穏な動きを見せれば俺は君を倒す」

「…………はあ、もう好きにしろよ。面倒臭い奴だな………」

 

 やだよ、こいつ。

 プラターヌ博士よりも怖いストーカーだったよ。

 

「ねえ、三人とも。私を挟んで会話するのはやめてもらえないかしら」

「「す、すみません………」」

「わーお、ユキノちゃんに怒られちゃった」

 

 怖いよ、ゆきのん。

 そんな凍えた声で言わないで。

 あと、俺の手をいい加減放して。痛いんだけど。

 

「それで、これからどうするつもりなのかしら?」

「どうって、そりゃアサメの事件の動画を見せてもらいに博士のとこに行くだろ」

「………そうね、言われてみればこっちにきたのはそれが理由だったわね」

「え? なに? みんなしてもう何か掴んじゃってるの?」

「………姉さん、明後日また会いましょうか。それじゃ」

 

 ユキノシタが席を立ったので俺たちもそれに続いていく。

 ハルノさんの背後を通った時、俺にだけ聞こえるような小声で『ユキノちゃんを巻き込むのはよろしくないなー、少年』と脅しをかけられてしまった。

 どんだけ妹が大事なんだよ。妹はそうでもないみたいだけど。

 この二人に何があったんだか………。

 

「はあ………、昔は仲が良かったのにな」

「………お前まで俺の考え読むのやめてくれない?」

「君もそう思ったのなら相当なものなんだな」

「偶然かよ、ややこしいな………」

 

 部屋を出てプラターヌ研究所に向けて歩き出したユキノシタの背中を追っていく。

 こいつと肩を並べるの、なんか癪だな。

 

「ずっと分からないんだ。どうして彼女は君を気にしているのか。俺と彼女は競うように名声を得てきたが、いつだって彼女は俺を見ちゃいない。あの時からずっと………」

「だからなんだってんだよ」

「俺は君が嫌いだってことさ」

「そりゃ奇遇だな。俺もお前のこと嫌いだわ」

「だろうね」

 

 明確な嫌悪感のキャッチボールをしながら、俺たちは先に一人で進む背中を追いかけ続けた。

 こいつとの会話は疲れるな。

 


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