ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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48話

 俺のリザードンにはイッシキを。

 ユキノシタのボーマンダにはユイガハマを。

 エビナさんとかいうメガネの人はミウラのギャラドスにそれぞれ相乗りした。この配分は仕方ないのだ。ユイガハマもミウラもエビナさんもスタスタと定位置に行ってしまったのだから。残ったイッシキを俺が乗せるしかなかったんだ。

 ……………ハヤマの方に乗ればいいだろ、と言ってやったりしたが、内心あいつのところに乗せたくなかったのはここだけの話だぞ。

 発電所地帯を空から通過して昼近くにはミアレに到着。

 

「ヒラツカ先生、戻りましたよ………………っと」

 

 ………………………。

 え?

 なにこれ。

 どういう状況?

 

「あ、校長先生だ」

 

 プラターヌ研究所に着くと何故か子供がたくさんいた。

 え?

 本当にこれどういう状況なの?

 しかもなんかユイガハマが校長とか言ってるし。

 

「え? 校長…………?」

 

 ……………まさかな。

 ぐいんと首を回してユイガハマが手を振る方を見ると………うわ、なんか見たことのあるじじいがいるんだけど。相変わらず杖ついてるし。

 え? マジでなんでいるの?

 

「久しいのう、皆の者」

「校長先生!? お久しぶりです」

「うっそ、超なついんですけど!」

「あんれー、校長いるべ? マジヤバイっしょ。今日の俺たち神ってるー!」

 

 いや、うん、その………………懐かしいけどよ?

 懐かしいけど、なんか忘れてるような気がするのは俺だけか?

 

「お、ヒキガヤ一行の到着か。ついでにハヤマたちも連れてきたんだな。待ってたぞ」

「ヒラツカ先生。これは一体どういうことなのでしょうか?」

 

 ユキノシタが間髪入れずに奥から出てきたヒラツカ先生に問い質した。

 

「何って修学旅行だよ。お前たちも行っただろ?」

 

 え…………?

 俺、そんなの行った覚えないんだけど?

 覚えてないだけなのん?

 食われた?

 

「え、いや、でも修学旅行って……………」

「どこかのじじいが君達に会いたがって行き先を変更したという横暴の結果だよ」

 

 ……………………。

 

「なあ、コマチ。修学旅行ってちなみに何年に行くんだ?」

「ん? 六年だよ……………て、あ、そうか。お兄ちゃん、行ってないんだった」

「六年かー。道理でそんな行事あったことすら知らないわけだ……………」

「お兄ちゃんのおかげでコマチの修学旅行の時はお小遣いがたくさんもらえたよっ。ありがとうお兄ちゃんっ」

「褒められても嬉しくない…………」

 

 そもそもこんな行事があったとは………。

 

「あの先生………」

「あ、そうか。君はそもそも行ってないんだったな。行く前に卒業したし」

「そう、みたいっすね……………」

「あ、そういえば先輩は行ってませんでしたね。行く前に卒業して」

「我、ハチマンがいなくてすることなかったのは覚えておるぞ………この時ばかりは恨んだものよ」

 

 おいこらお前ら。

 俺が修学旅行に行ってないのがそんなにおかしいのかよ。

 話のネタにするな。

 

「あの、一つ聞いておきますけど、これって積立だったりします?」

「まあ基本的には一年の時からの積立だな」

「なら特別制度で卒業した場合って…………」

「全て返金するぞ? 当たり前だろう。これはスクールの金ではない。ただの預かり金だ」

「………………マジか」

 

 あれ? ってことは俺が卒業したって事後報告した時に親父たちが無性に喜んでたのって、俺が正式にトレーナーになったからとかじゃなくて金が戻ってきたから?

 うーわー、ないわー、マジないわー。

 

「ねえ、ヒッキー。そんなことより何か忘れてるような気がするんだけど」

 

 俺の修学旅行はそんなことで済ませんなよ。

 間違っちゃいねぇけど。

 行ったってしょうがないし。

 

「同感だな。俺も何か忘れてるような気がする」

 

 それよりもこの悪寒はなんなんだろうか。

 身震いとかそういうレベルじゃない。

 恐怖すら感じる。

 

「ふふんっ、ヒッキガーヤくーん!!」

「衝撃のファーストブリットーッッ!」

 

 あ、やべ。

 つい反射的にやっちまった。

 でもまあ、この人だし問題ないか。

 

「つ、ツルミ先生…………大丈夫、じゃなさそうですね」

「わー、ユイちゃんだー。おっきくなってるー。私より育ちすぎだぞ☆」

 

 倒れこんだ悪女に顔を覗き込んだところをユイガハマは襲われてしまった。

 主にあのお胸様が被害に遭っている。

 

「おい、アラサー。年齢考えなさいよ」

「ユイちゃーん。ヒキガヤ君が冷たいよー」

「あっはははは………」

 

 だめだこの人。

 まるで変わってない。

 人間、そうそう変わるもんではないというのが俺の持論であるが、この人に至っては変わってて欲しかった。

 ヒラツカ先生の陰に隠れて誰も見ちゃいないが、あんたも立派なアラサーでしょうに。しかも既婚者で子持ちという上司よりも遥かに上を行ってしまっているという。

 ほんと誰かもらってやれよ。

 

「お久しぶりです、ツルミ先生。ただ生徒の前でそのアホ面醸すのはやめた方がいいんじゃないっすか?」

「大丈夫、みんなこっち見てないから」

「あの………何人かはちらちら見てますよ………」

 

 ほんと、なんでこの人までついてきちゃったの?

 

「それで、ヒラツカ先生。ヒキガヤ君にあんな動画を送っておいてこれはどういう状況なのでしょうか?」

「うむ、実はな。昨日カントーから子供達がやってきたところなのだが、例の動画の通り他所では何かヤバいことが起きているようだからな。しばらくこの子達の警護及び私たちの補佐をしてもらいたいのだ」

「なんつータイミングの悪いこと………」

「そればかりはどうしようもない。来てしまったのだから楽しんで行ってもらわねば、後々トラウマになられても困るしな」

「はあ…………、ボランティアか……………」

「お兄ちゃん、やる気なさすぎでしょ」

 

 そりゃだって、ねえ。

 面倒じゃん。

 年頃のガキ相手にするんだし。

 扱い方が分からん。

 小町のように扱えばいいのならまた話は別なんだが…………。

 

「僕は別にいいよ。先生たちだけじゃ大変だろうし。ダメ、かな?」

「よし、任せてください!」

「急にやる気出しましたよ、この人!」

 

 天使の下した判断には大賛成!

 あんな上目遣いで頼まれた堕ちますって。

 堕ちちゃうのかよ。

 

「では一つ。四冠王にでも挨拶をしてもらおうかの」

「……了解しました」

 

 校長に手招きされてハヤマは子供達の方にへと行ってしまった。

 二つ返事で了承とかどんだけ場馴れしてんだよ」

 

「彼はテレビの取材とかもよく受けているもの。馴れてて当然よ」

 

 あれ? 声に出てた?

 

「そういうお前はどうなんだよ」

「そういうのは姉さんがやるものだから。いつだって表に出るのは姉さんだもの。三冠王と言われようが母が勝手に決めてしまってね」

「すげぇ母ちゃんだな」

 

 うちとは正反対だな。

 うちなんか自主性に重んじますって態度だし。

 

「では、特別ゲストの紹介をします。テレビでも雑誌でも取り上げられて知っている人も多いでしょう。四冠王のハヤマハヤトさんです!」

 

 あれはクラス担任なんだろうな。

 注意点やらの説明が終わるとすっごいキラキラした目でハヤマを見てるんだけど。

 あんた大人だろうが。

 

「えー、皆さん。初めまして。ご紹介に預かりました、ハヤマハヤトです。今回は修学旅行ということで、残り二日間は僕たちも参加させていただくことになりました。短い間ですが、楽しい思い出を一緒に作りましょう」

 

 やべぇ、なんであんなすらすらと文章が出てくるんだよ。

 イケメン、マジパネェ。

 こんだけパネェならフレア団に騙されてることも気づいて欲しいものだ。

 

「ここにいる奴らは全員君たちと同じスクールを出た者たちだ。中にはハヤマのようにすごいトレーナーになった者もいる。遠慮せず聞きたいことを聞くように」

 

 ヒラツカ先生。そんな付け添えしなくていいですから。

 

「そうだ、誰かバトルを見せてくれないか? これだけの面子が揃っているんだ。みんなにもいい刺激になるだろう」

 

 おいこら、スクール生が口々にバトルって言葉に反応し出してんたじゃねぇか。

 俺はやらんぞ。面倒くさい。

 

「ふむ、これも何かの縁じゃ。一つ、儂が孫娘とバトルしようじゃないか」

「つか、予定とか決まってるんじゃねぇのかよ」

「この施設の説明やポケモン達との触れ合いの時間を設けていただけだ。今日は他に予定はない」

「なんて薄い修学旅行なんだ………」

 

 そんなんでいいのかよ。

 行き先からして超適当だな。

 

「あの、ていうか孫娘って…………」

「はあ………おじいちゃん、隠しておくんじゃなかったの? 私にまで隠そうとしてたけど、結構バレバレだからね」

「やはり気づいておったか」

「「「「えええっ!?!」」」」

 

 ユイガハマが老ぼれの言葉を掬い上げて口にすると、イッシキがため息を吐いて暴露した。

 あ、なんだ気づいてたのね。

 それもそうか。

 イッシキにだけ自分のポケモンを贈るとか教育者としてどうなんだって話だもんな。

 

「い、イロハちゃんが…………」

「校長先生の孫ッッ!?」

「なん、だと………、ずっと教師をしてきた私たちでさえも知らなかった、だと?」

 

 いやいや、なんで先生は少年漫画みたいな驚き方してんですか。

 

「…………お兄ちゃん、なんで驚いてないの?」

「知ってたからな」

「うぇっ!? なんですか先輩私のことは何でもお見通しだって言いたいんですか!? 気持ちは嬉しいですし妄想もはかどりますけどこんなところで言われても困るので後日改めて面と向かって言ってくださいごめんなさい」

「おいこら、こんな観衆の前で俺を振るのやめてくれる? 告ってもいないのに」

 

 ああ、マジでシャドーでのこと思い出しちまうじゃねぇか。

 あれはマジで俺史の中でも黒中の黒歴史だわ。

 

「ほっほ、そこの男を侮ってはいかんよ。いつ喰われるか分からんぞ」

「失敬な。校長の方がよっぽど曲者だろうが。そう評価する俺ですら喰らいに来てただろうに」

「それは昔の話よ。あれから強くなったのは見るまでもない」

「あの…………私から言わせてもらえば二人とも曲者ですから………」

 

 おうふ。

 一番痛い一言だわ。

 

「まあよい。してイロハ、旅を始めて一ヶ月。じじいに今の実力を見せてくれい」

「ふふんっ、私は唯一先輩が苦手だって評価してるからね。いくらおじいちゃんでもそう簡単には負けないよ」

「小童が、小生意気に育ちおって」

 

 じじいと孫のポケモンバトルねー。

 未だ現役で校長をやってるあたり、昔のままの実力なのだろう。いや、一つ違うな。プラターヌ変態博士がメガシンカを提唱している。あの時とではメガシンカについての理解もまた違うだろう。はてさてどうなることやら。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 俺たちがカロスに初めて来た時にユキノシタとバトルしたフィールドへと皆で移動。

 いやー、まだあれから一ヶ月くらいしか経ってないんだよなー。

 すげぇ懐かしく思えるんだけど。

 

「ここに来て初めてあなたとバトルしたのは今でも鮮明に覚えてるわ」

「ま、人は負けた時の方が記憶に残りやすいからな。俺やお前は負けるより勝つことの方が多いわけだし」

「それは言えてるかもね。ただ、あの時オーダイルを出していたらどうなっていたのかしらって思う時があるのよ」

「んな変わらんだろ」

「ねえー、お兄さん。あっちのお姉さんは強いの?」

「んー、どうだろうね。俺も今のイロハがどこまでできるのか知らないからね。でも、みんなもトレーナーになればいつかきっと強くなれるよ」

「あ、あたしも! あたしも強くなれる?!」

「う、うーん、どうだろうね」

 

 横にいるユキノシタとやりとりをしていると、離れたところではハヤマたちが子供たちの質問攻めにあっていた。

 

「あいつ、バカだろ………」

 

 ユイガハマのバカっぷりに嘆いていると、ふと反対側にスクール生の女の子がやってきた。

 黒の長い髪を靡かせ、フィールドをじっと見ている。

 

「ほんと、バカばっか……」

「……まぁ世の中は大概そうだ。早く気付けて良かったな」

「あなたもその『大概』でしょう」

「あまり俺を舐めるな。大概とかその他大勢の中ですら一人になれる逸材だぞ」

「そんなことをそこまで誇らしげに言えるのはあなたくらいでしょうね。呆れるを通り越して軽蔑するわ」

「通り越したら尊敬しねぇか、普通」

「………」

 

 なんでこうユキノシタとの会話は脱線ばっかするんだろうか。

 可哀想に、この子置いてけぼりだぞ。俺たちが置いてってるんだけど。

 

「………名前」

「あ、名前がなんだよ」

「名前聞いてんの。普通さっきので伝わるでしょ」

「人に名前を訪ねる時はまず自分から名乗るものよ」

 

 ジロリと一睨み効かせる。

 おかげでちょっと萎縮しちまってるじゃねぇか。

 子供相手に大人気ないな。

 

「………、ツルミルミ」

 

 ツルミ………、まさかな。

 

「私はユキノシタユキノ。そこのはヒキ……ヒキガ………ヒキガエルくんだったかしら?」

「おい、こら。なんでここで会った時のことをまた繰り返してんだよ。いい加減忘れろよ。………ヒキガヤハチマンだ」

「ん? なに? どったの?」

 

 何かを嗅ぎつけてきたユイガハマが顔を覗かせた。

 ほんとこいつポチエナみたいだな。

 

「で、これがユイガハマユイな」

「あ、ツルミルミちゃんだよね? よろしくね」

 

 あれ? なんでこいつ名前知ってんの?

 やっぱりそういうことなのん?

 

「…………」

 

 俺たち二人をじっと見たかと思うとルミが口を開いた。

 

「なんかそっちの二人は違う気がする。あの辺の人たちと」

 

 それはハヤマたちのことを指しているんだろう。

 確かに違うっちゃ違うが。

 

「私も違うの。あの辺の人たちと」

「違うって? 何が?」

 

 ユイガハマが聞き返すとルミは続けた。

 

「みんなガキなんだもん。だから一人でもいっかなって」

「で、でもスクールの時の友達とか思い出って結構大事だと思うんだけどなぁ」

「思い出とかいらない。どうせ、今年で卒業しちゃうし。そしたら………」

 

 天井を見上げて小さくそう呟いた。

 だがその小さな希望をユキノシタは砕いた。

 

「卒業までの辛抱、ね。ある意味それが妥当かもしれないけれど、他の子達はすでにポケモンをもらっている子もいるのでしょう? 卒業してからも旅に出たと知ればまた絡んでくるでしょうね。先輩トレーナーの言うことは聞くもんだとか言って」

「やっぱりそうなんだ。ほんとバカみたいなことしてた」

 

 何かを諦めたような物言いにユイガハマが再度尋ねる。

 

「何があったの?」

「誰かをハブるのは何回かあって………。けどそのうち終わるし、そしたらまた話したりするの。いつも誰かが言い出してなんとなくみんなそういう雰囲気になんの。そんなことしてたらいつの間にか私がなってた。最初は先にポケモンをもらってた子がハブられてたはずなのにいつの間にかもらってない子がハブられるようになって、今は私…………。ほんとバカみたい」

「……………ポケモン、もらってないのか?」

 

 聞いた限りではポケモンをもらってしまえば済むような話のようにも聞こえて来る。

 ポケモンを持っていないからハブられる、そんな風潮が広がっているのだろう。だが、それくらいこいつだって分かっているはず。

 

「………いるよ。ハブられるようになった頃に懐かれた子が」

「ならそれをみんなに見せたら………」

「無駄だよ。今度はこの子が原因で悪化するだけだから。私もそれだけは避けたいの。ポケモンは人間以上に人間の感情に敏感だから」

 

 確かにポケモンは人間の感情には敏感である。

 ポケモンはトレーナーに似ると前にもイッシキに言ったように、ポケモンというのは俺たちが思っている以上に感じ取ってしまうのだ。そして影響されて性格も変わっていく。言うなればトレーナーが好きなものはポケモンも好きになっていったりするのだ。

 

「見せられないポケモンって…………」

「言えない…………どうせ驚くから」

「ま、それだけ意外性を持ったポケモンを持ってるってことか。なるほど、確かにそれは危険だわな」

 

 誰もが驚いて見せられないようなポケモンか。

 伝説のポケモン、なんてな。

 

「あ、そろそろ始めるみたい。ルミちゃん一緒に見よう」

 

 コクっと首を縦に振って俺たちのところから離れる気はさらさらないみたいだ。

 

「ルールを確認する。使用ポケモンはイッシキの方に合わせて四体。技は四つまでとする。交代はなしだ」

「準備オッケーですよー」

「うむ、よろしい」

「では、バトル始め!」

 

 ヒラツカ先生の合図でバトルは開始された。

 向こうではきゃっきゃはしゃぐ子供達。

 こっちとは随分温度差があるように思えてくる。まあ四人しかいないからな。コマチもトツカもあっちで子供の相手をしてるし。

 ザイモクザ?

 あいつは一人後ろの方で見ているぞ。

 

「クロバット」

「ヤドキング、いくよ!」

 

 まずはクロバット対ヤドキングか。

 タイプ相性で考えるとヤドキングの方が有利ではあるが。

 

「最初から儂のポケモンでくるか」

「隠す気なさそうだからおじいちゃんって呼ぶけど、ヤドキングは私の最初のポケモンでもあるから」

「ほっほ、なればよし。クロバット、シザークロス」

「ヤドキング、サイコキネシス!」

 

 ふっ、やっぱりあのクロバットは動きが違うな。

 速さが格段に違う。

 ヤドキングのサイコキネシスも意味をなしていない。

 

「……どういうこと?」

「あ、なにがだよ」

「………今のこそ分かるでしょ。あの女の人の言ってる意味を聞いてるの」

「ああ、あいつのヤドキングは元はあのじじいのポケモンなんだよ。で、あのヤドキングはイッシキが卒業試験でお試しバトルかなんかで使ったらしいんだわ。だから最初のポケモンってことなんだろ」

 

 ルミがキョトンとした顔で俺を見上げてきた。

 何故俺に聞く。

 

「ふーん、そんなのあるんだ」

「俺に聞くな。俺はやってないからな」

「そうね、あなたは先に逝ってしまったものね」

「おい、やめろ。今絶対字が違っただろ。まだ生きてるからな」

「イロハちゃん勝てるかなー」

 

 なんて言っている間にクロバットが旋回して続けてシザークロスを打ち込んでいた。だが、今度はまもるで対応し、その場をしのいでいた。

 ヤドキングが使える技は後二つか。

 

「あの人って強いの?」

「初心者にしては桁外れの強さだな。さすがあざといだけはある」

「………私ならまだ勝てる相手かな」

「……………」

 

 さて、この少女に突っ込むのはやめておこう。

 もう多分言い出したらキリがなさそうだ。

 

「トリックルーム!」

 

 早速使ってきたか。

 もうイッシキも形振り構わずやるしかないと思ったのだろうな。じゃなきゃあのじじいは倒せないし。これでも倒せるか分からないくらいだ。それくらいあのじじいは中々の曲者である。

 

「サイコキネシスで地面に叩きつけて!」

 

 今度はトリックルームにより動きが逆転された空間にクロバットを閉じ込めたことで技の発動に成功した。

 そして、地面へと叩きつけた。効果は抜群ってな。これで倒せるといいんだが。

 

「とんぼがえり」

 

 やはり逃げる手があったか。

 

「あっ!?」

 

 ドリルのように身を捻り回転を加えながら(俺のトルネードみたいなもんだな)ヤドキングへと体当たりをかました。そしてぶつかった衝撃で後ろに下がる力を利用して、ボールの中へと戻っていった。

 トレーナーの意思で交代をしているわけではないし、しっかりと技の効果によるものだからルール違反ではない。

 

「ロコン」

 

 代わりに出されたのは白いロコンだった。

 色違いか何かだろうか。色違いを見たことないからさっぱり分からん。

 というか校長ってキュウコンの方を連れてなかったか?

 

「フリーズドライ」

 

 はっ?

 ロコンがフリーズドライ?

 はっ? えっ? どゆこと?

 

「ヤドキング!?」

 

 急所にでも入ったのだろうか。

 身を屈めて苦しんでいる。

 

「効果抜群な上に急所かよ」

「ねえ、それよりも」

「ああ、俺にもさっぱりだ」

 

 ロコンはほのおタイプのはずだろ?

 一体全体どうなってんだ?

 こおりタイプの技を使うとか聞いたことがないぞ。

 

「ロコンってこおりタイプの技も覚えるんだねー」

「いや、そんなはずは……………」

「ええ、私が知っている限りではロコン、キュウコンはこおりタイプの技を覚えないわ」

「………そういえばお母さんが言ってたよ。おじいちゃんがアローラってところにバカンスに行ったって。その時にこっちでは珍しいロコンを捕まえてきたって」

「ほっほ、うちの娘も口が軽いのう。だが孫娘の持っている知識が広いことは喜ばしい限り。もっとじじいを楽しませておくれ」

「かえんほうしゃ!」

「儂が覚えさせとらん技ときたか。ロコン、躱してほえる」

 

 じじいの言葉に白いロコンはかえんほうしゃを躱そうとしたがトリックルームの中では上手く躱すことができなかったようだ。そのまま炎に包まれたが、それでも「ロォオッ!」と吠えた。

 今度はヤドキングの方が強制的にボールへと帰っていく。

 そして勝手に出されてきたのは運の悪いことにナックラー。

 フリーズドライを使うポケモンを相手に勝てるとは思えない。

 

「すー………はぁー……………、よし! こおりタイプが相手だってこっちは負けないよ! ナックラー、がんせきふうじ!」

 

 多分これまで俺たちが使っていたために覚えたのだろう。

 ナックラーが岩を纏い始める。

 だが、がんせきふうじは当たれば相手の素早さも下げることになる。トリックルームの意味をなくそうとしているのだろうか。

 

「こおりのつぶて」

 

 ふっ、なるほど。

 岩の数だけ氷の礫ってか。

 相殺目的で技を出してくるとは。

 

「もう一度がんせきふうじ」

 

 だが、いつの間にかロコンの後ろに移動していたナックラーが今度こそ打ち出した岩々を当てきった。

 これで素早さは下がっただろう。

 上手くトリックルームを使いこなしていやがる。

 

「ぬう、やるのう。この一ヶ月で何がここまで育てたのやら…………」

 

 とか言いながら俺を見るのやめてくれませんかね。

 距離があるとはいえ、バレバレなんですけど。

 

「ふふん、伊達に元チャンピオンズの元にいるわけじゃないからね。ナックラー、じならし!」

 

 またしても追加効果で素早さを下げてきたか。

 ほんとイッシキはやりにくい相手だわ。

 技の威力よりも追加効果の方に重きを置いている節があるため、それが連続で繰り出されてしまえばあいつの方が有利になってしまう。

 気づいた時にはもう遅いってことになりかねない、そんな怖さを潜めているのだ。

 あざといというか匠というか。

 

「あ、すまん。ちょっとトイレ行ってくるわ」

 

 ま、こんだけ見れたらもういいかな。

 続きを見たい気もするが、予定外にもカントーからの来客がたっぷりときてしまってるからな。当然博士もあっちにつくことになるだろう。

 今はいないが、はてさてどこに行ったのやら。

 

「あら、お花摘みにいってくるとかは言えないのかしら?」

「俺が言ったらお前らキモイとか言うだろうが」

「全くその通りだから何も言えないわ」

「嬉しくない言葉をありがとうよ」

「あ、じゃあ、この続きホロキャスターで撮っておいてあげるね」

「あ、マジで。ならよろしく」

 

 何かを察したユイガハマが俺が続きを見たがってると踏んだのか、そんな申し出をしてきた。

 俺はそれに甘えることにして、トイレという名の博士の部屋へと向かった。

 あそこにいないってことは今は一人だってことだからな。

 あっちの奴らに聞かれても困るような内容だし、今しかチャンスがないんだろうよ。

 




はい、というわけでルミルミ登場回でした。
それと校長はイロハの母方の祖父でした。


原作の林間学校から修学旅行という事にさせていただきます。
これならまあ、いけるでしょう。内容もなぞる程度でアレンジしていきますんで。



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