ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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ごめんなさい。

新作のサンをやってたら遅れました。

おかげでエンディングまで行きましたけど。


47話

「はっ!?」

 

 ここは………?

 

「…………ユイガハマ……………?」

 

 目が覚めるとどこかの砂浜にいた。

 横にはユイガハマと…………イッシキもいた。

 二人ともよく寝て………………?

 

「ッッッ!? おい、ユイガハマ! イッシキ!? 起きろ! おい!」

 

 寝息がないのに気付き、大きく揺さぶってみる。

 だが、二人とも全くの無反応。

 しかも体温が感じられない。はっきり言って冷たい。死後硬直。物体としての気配はあっても人としての気配は感じられない。死……死………、こいつらは死んでいる……?

 おいおい、マジかよ!?

 なんでだよ!! なんでこいつらが……………?!

 

「ふざっけんな! 二人とも、起きろよ! 起きてくれよ!? なあ、なあ!」

 

 くそっ、なんで実行犯の俺が何ともなくて巻き込まれただけのこいつらが息してないんだよ。

 おかしいだろっ!

 なあ、神様。

 聞こえてんなら返事しろよ!

 

「くそっ………、なんで………なんで、だよ……………」

 

 これが今まで俺がやってきたことへの報いだとでも言うのかよ。言っちゃなんだがまだ法に触れるギリギリ前のところだぞ。なのに、こんなのってねぇぞ!

 

「くっそぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「はっ!?」

 

 ここは………?

 見たことのない天井………これ天井か?

 

「………起きたようだね」

 

 ん?

 この声………。

 

「………ハ、ヤマ……?」

「なんだ? もう俺の顔を忘れたのか?」

 

 軋む体を無理やり起こして辺りを見渡すと暗がりの部屋の窓辺に月光に照らされたハヤマハヤトの姿があった。

 なんでこいつがいるんだ………?

 

「その様子だと何故俺がいるのかも覚えていないようだね」

「あ、ああ…………」

 

 癪だがハヤマの言う通り全く覚えていない。

 こいつがいる時点ですでに何かあったのは明白だ。でなければ俺とこいつが一緒の部屋にいるはずがない。ましてやこいつの口ぶりから察するに俺が目を覚ますのを待っていたと取れる。俺たちの関係からして、まずそんなことはあるはずがないこと。それが起きているということは逆説的に何かあったのだろう。

 

「結構うなされていたが、何か怖い夢でも見たのか?」

 

 夢………?

 はっ! そうだ!

 

「おい、ハヤマ。ユイガハマとイッシキはーーー」

「もう寝てるよ。今起きてるのは俺くらいだろうね」

「じゃなくて生きて……」

「ははっ、本当にどうしたんだ? ユイもイロハも君が助けたんじゃないか。ヒヨクシティに戻ってきてからはピンピンしてるよ」

 

 ここはヒヨクシティ………となるとポケモンセンターのベットルームか?

 ん? 俺が助けた?

 けど、さっき二人は……………。

 あれは、夢、なのか…………?

 は、ははっ……………。

 勘弁してくれ。なんつー夢見てんだよ。つか、夢見て動揺しすぎだろ、ったく………。

 

「………くそっ」

 

 情けないやら恥ずかしいやらのいろんな感情が溢れかえり、苦しくなって枕にダイブした。

 ………俺はいつの間にかあいつらの死を受け入れられなくなってしまったらしい。ただの他人であれば知らぬ存ぜぬの関係であるため、死のうがどうなろうがどこか他人事であった…………。

 だが俺はもうあの二人を、いやユキノシタや他の奴らもか、俺がこっちに来てから今まで関わってきた奴らを赤の他人だとは思えなくなってしまったようだ…………。多分、この男のことも。こいつが死ねば周りの奴らは悲しむ。俺はそんな顔を見たくはない。

 これはまずいな。非常にまずい。

 こんだけの人数が俺の『弱点』になってしまったのだ。

 いくら巻き込まないように一人で動いたとしてもこいつらを人質に取られてしまえば、俺には何もできなくなってしまう。相手に従うしか手がなくなってしまう。

 それが嫌で単独行動をしていたというのに……………。

 

「さて、俺がここにいるのにも訳ありなのはそろそろ分かってきたかな」

「………ああ、それは最初から分かった」

「ならば単刀直入に言わせてもらうよ。ヒキガヤ、フレア団と手を切れ。今ならまだ間に合う」

 

 はっ?

 こいつ、何言ってんだ?

 フレア団と手を切る?

 俺が?

 そもそもこいつの言い方だと俺がフレア団とつながりを持っているみたいじゃないか。

 はっ、そんなことあるはずがないだろう。あるとすればロケット団くらいだ。何故かサカキとは電話番号を交換している。

 や、まああれは仕方なかったんだ。あの人怒ると怖いから。

 それにしてもハヤマはマジで何を言っているんだ?

 

「………おい、その言い方だと俺がフレア団の人間みたいじゃないか?」

「みたいじゃなく、そうだと言っているんだ。ちゃんと証拠もある。お前、顔パスで奴らのアジトに入っていっただろ」

 

 見てたのか………?

 見てたのなら分かるだろ………。

 

「それだけなら俺も変装しての潜入捜査だと思った。だけどあの後カロスの情報通であり慈善活動で有名なフラダリラボの所長であるフラダリさん直々に依頼もされた。フレア団の中に忠犬ハチ公が加わったと」

 

 フラダリに会っただと…………!?

 あの野郎…………、そういうことかよ。

 シャラにいる間、全くの音沙汰無しだとは思っていたが、俺の知らないところでこんなカードを切ってたのかよ。

 別にハヤマが言ってることは間違いではない。俺がフレア団のアジトに入ったというのもフラダリの肩書きも、だ。

 だが、一つ。こいつは知らないのだ。フラダリがフレア団のボスであるということを。

 だから、奴の依頼内容が嘘だとも思わないし、当然ハヤマならこれを受け入れる。

 くそっ、やられた…………。

 まさかこんな形で反撃してくるとは。

 

「………何も言わないんだな」

「言ったところで聞く耳持たない奴に話したところで意味ないだろ」

 

 二段ベットの上の段の板にあのバーニングヘアの憎たらしい笑みが見えてくるわ。

 情報操作。

 これは奴らの専売特許である。

 それを今まさに実感したわ。

 

「ヒキガヤ、もう一度言う。フレア団と手を切れ。でなければユイやユキノシタさんの手前やりたくはなかったが、君を消すしかない」

「………できるのか? 二回バトルして二回とも俺の勝ちだぞ」

「やってみないと分からないこともあるだろ」

「ああ、あるな。けど、無理だな。そもそも俺はフレア団とは何のつながりもない。それにお前の情報には一つ欠落している部分がある」

「欠落? ………何が欠落しているというんだ?」

 

 本当に知らないようだ。

 知らないってのはある意味幸せだよな。

 

「フレア団のボスの名はフラダリ。表向きは慈善事業を主とした取り組みをしているフラダリラボこそがフレア団なんだよ」

「何を言っている………。そんな出任せの嘘に俺は引っかからない。あんないい人がフレア団のボスとかそっちの方が嘘にしか聞こえない」

 

 だからこそ、見えなくなるってこともあるんだけどな。

 

「………だろうな。お前ならそう言うと思ったよ、ハヤマ」

「………………しばらく、君たちとは行動を共にさせてもらう」

「好きにしろ」

 

 寄りかかっていた窓辺から身体を起こすとハヤマはドアの方へとスタスタ歩いて行った。

 

「で、結局お前はなんでこのタイミングでいたわけ?」

 

 ドアに手をかけたのを見計らい一つ尋ねてみる。

 結局教えてくれなかったしな。

 

「………それについてはハルノさんが予知した未来に君が伝説のポケモンを呼び寄せると出ていたからだ。それも君をフレア団だと確信した理由でもある」

「ああ、そうかよ」

 

 それだけ言ってハヤマは部屋を出て行った。

 ………ユキノシタの姉貴か。

 未来予知、あのネイティオからだろうな。

 ユキノシタがフレア団に忍び込んできたのもあのネイティオの予知の結果を聞いたからって言ってたし。

 案外、あの人もあっち側だったりして……………。

 

「否定できないのがあの人らしいな」

「ぐがぁー、くがぁー」

 

 ッッ!?

 

「い、いたのかよ………ザイモクザ」

 

 いきなり獣のようないびきが聞こえてきてガバッと身を起こしていしまった。

 どうやら反対側の二段ベットの上段で寝ているらしい。

 なんで俺がハヤマと話している間はいびきが出なかったんだよ。起きてたりしねぇよな。

 

「……となるとこの上にトツカってわけか」

 

 ザイモクザのいるベットの下段に誰もいないのを見ると残りはこの上しかない。

 道理でいい匂いがするわけだ。

 

「………やっぱり俺は………………群るべきじゃないんだな」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 あれから再び眠りに落ちた。

 今度は何も見なかった。

 今更ながらにあれはダークライの仕業だったのだろう。ということはまたどこか記憶が削られているというわけか。昨日のことを覚えていないあたり、さぞ新鮮で旨かったのだろうな。

 そして朝。

 俺が着替えてフロントへ行くと何故かジョーイさんに礼を言われた。

 他にも昨日押し寄せていたらしき人たちからも礼を言われる始末。

 はて、これはどういうことなんだ?

 

「あら、早いわね」

「ユキノシタ………」

 

 彼女は一人、ソファーで優雅に紅茶を飲んでいた。

 

「なあ、なんかさっきから礼を言われるんだが………」

「そりゃだって、あなたは昨日の異常気象を正常にした張本人なのよ。お礼くらい言われるわよ」

「マジか………」

 

 向かい側のソファーに腰をかけ、うだる。

 

「ま、実際はどうだったのかは知らないわ。帰ってきた時には何故かハヤマ君たちも一緒だったもの。彼の言い分だと駆けつけた時には全てを終わらせたあなたを回収するだけだったらしいわよ。フリーザー、サンダー、ファイヤー。この伝説の三鳥を相手に無双するとかあなたは一体何者なのかしらね」

 

 ……………………………。

 全く覚えてない。

 ユキノシタが言っているのだから嘘ではないと思うが、全くもって想像できん。

 それにフリーザーにサンダーにファイヤーだって?

 なんだってそんな奴らがこんなところにいたんだよ。

 それにその三鳥がいたってことはあいつは出てこなかったのか?

 

「…………ルギアは?」

「はい?」

「ルギアはいなかったのか?」

「…………そこまでは聞いてないわ。ただあなたが海に落ちたユイガハマさんを助けて、人工呼吸までしたというのは聞いているのだけれど」

「…………………え? マジ?」

 

 ちょっと有り得ない話に反射的に身を起こして聞いてしまった。

 や、だって俺がユイガハマに人工呼吸とか……………。

 言ってしまえば俺のファースト…………。

 

「嘘かどうかは本人たちに聞いてくれるかしら。私はその場所にいなかったのだし。私が言えるのは帰ってきて早々倒れるのだけはやめて欲しかったわね。心臓が飛び出る勢いだったわ」

「お、おう………そうか。なんか、すまん」

 

 再びソファーの背もたれに倒れかかり天井を見上げる。

 するとぬっとあざとい笑顔が現れた。

 

「先輩、キスしましょうか」

「やめてくれる? 絶対今の話聞いてたよね」

「ふふん、では遠慮なくー」

「待て待て待てっ!」

「もう、冗談じゃないですかー。私だってそんな軽い女じゃないので好きでもない人とキスなんかできませんよ。………先輩とならあれですけど」

 

 なんで目を合わせないのん?

 恥ずかしいからやめてくる?

 

「……………お前は昨日のこと覚えてるんだよな? 俺は一切覚えてないんだが、その…………」

「えー、まあ覚えてるには覚えてますけど、私ユイ先輩が海にダイブしてからの記憶ないんですよねー。目が覚めたら先輩がユイ先輩に人工呼吸してたくらいしか」

「もういいわ………」

 

 聞きたくなかった…………。

 これ、マジのやつだ。

 

「なんですかせんぱーい。そんなにユイ先輩の唇の感触を覚えてないことが悔しんですかー?」

「ばっかばか、なんでそういう話になるんだよ」

「えへへへっ」

 

 なんだよその気持ち悪い笑方。

 まだ撫でてもいねぇのにそんな声出すなよ。まだとか言っちゃってるよ俺。

 

「あ、お兄ちゃん。もう起きて大丈夫なの?」

「おう、コマチ。もう大丈夫らしいぞ」

 

 遅れてコマチが登場。

 

「あ、………ヒッキー…………」

「ユイガハマ…………」

 

 その後ろには寝起きのユイガハマがいた。

 なんでみんなしてタイミング悪いんだよ。

 顔が見れねぇだろ。

 

「えと、その………、や、やっはろー?」

「なんで疑問系なの? それとその挨拶はどの時間帯でも有りなの?」

「あ、はははは………だよねー、うん」

 

 なんかすげぇ話しづらいんですけど。

 ちょ、なんでそこで顔を赤くするんだよ。

 

「その………昨日は助けてくれてありがと……………」

「お、おう…………」

「…………………」

「…………………」

 

 き、気まずい…………。

 誰か会話に割って入ってきてくれよ。

 いつもだったら空気を読んで入って来るユイガハマがこれじゃ誰も入ってこれないってか?

 

「ふふんっ」

「えへへっ」

「…………」

 

 あ、違った。

 こいつらこの状況を楽しんでやがる。ユキノシタなんか全く興味すらないのか本読み始めちゃったし。なのにチラチラ目線を上げて見てくるのはどういうことなのでしょうか?

 

「あ、と………その、悪いんだが、昨日のこと全く覚えちゃいないみたいなんだわ………」

「そう、なんだ…………そっかそっか。覚えてないのか……………」

 

 え、なんでそんな嬉しそうなのに残念そうなんだよ。意味分かんねぇよ。

 

「「せーのっ」」

「え、ちょ、イロハちゃん、コマチちゃきゃあっ!?」

「うおわぁっ!」

 

 えー、何この状況。

 会話に割って入って欲しいとは思ってたけど、これはねぇだろ。会話関係ないし。

 なんだってこんな柔らかい乳圧に顔を埋めなちゃならんのだ。

 ああ、助けてよかった。覚えてないけど、こんな柔らかい感触を味わえるのならば悪くないかも……………。

 

「ひ、ヒッキー!? う、動いちゃダメ!? く、くすぐったいよぅ」

「すまんユイガハマ。でもお前がどいてくれなきゃ俺にはどうすることもできないんだわ」

 

 ヘビーボンバーってこんな感じなのだろうか。

 え、なにそれめっちゃ楽しそう。

 

『ハチマン、メールだよ。ハチマン、メールだよ』

 

 …………………。

 

「「「「…………………」」」」

 

 な、なんだよ。言いたいことあるなら隠さず言えよ!

 

「お、お兄ちゃん…………」

「それはちょっと…………」

「絶対ダメだからね! そっち側に行っちゃダメだからね!」

「うおっ、ちょ、ユイガハマっ、あ、暴れんなっ、む、胸が……………」

 

 うおぉぉおぉおおおおお!

 い、息が………息が、できん……………。死ぬ………。

 

「あ、ごめん………」

 

 ようやくユイガハマのお胸様から解放されて大きく空気を取り入れることができるようになった。

 

「それで、その危ない着信音は一体なんなのかしら?」

「お願いだからそんな目で見るのはやめてくれ。これはな、ザイモクザがポリゴンで作り上げた試作品なんだよ。トツカの声も本人の協力を経て作った。だから問題はない」

「まあいいわ。ヒキガヤ君の今後の対処は要注意ということで。それでメールの相手は誰からなのかしら?」

「お、おう…………なんだ先生からかよ」

 

 なら見なくていいか。

 どうせ面倒な内容だろうし。

 

「いいから見なさい」

「はい…………」

 

 ギロリと睨まれてしまったので、中を開いて読んでいく。

 えーと、なになに。

 

『ヒキガヤ君、旅の方は順調でしょうか。昨日お別れしてから私はプラターヌ研究所の方へと戻りました。そして今朝、とても一大事な問題が起こりました。つきましてはその動画を添付しておきます。確認してください。 P.S. 動画は昨日撮られたものです』

 

 いつもいつも思うけど、なんであの人メールだとこんなに堅苦しいんだろうか。もっと軽くていいと思うんだが。

 まあ、それはいいとして。

 動画………?

 これか。

 取り敢えず再生と。

 

『ず、ザザッ、「なんだ、あれは!? ポケモンなのか!?」「と、ともかくにげるんだ!?」』

 

 何かを見つけた人々が逃げていく。

 その表情は恐怖心がにじみ出ている。

 

『「うわっ…、うわわわっ!?」「トロバ!!」』

 

 これを取っているのは少年だろうか。

 声はするものの大きく振れて状況がいまいちつかめない。

 ただ緊迫した状態であるのは分かる。

 衝撃音がまるで爆発が起きているかのような凄まじいもので、不意に動画が宙を舞った。

 どうやら少年が投げ出されてしまったらしい。

 そこに何か大きなものが横に流れていった。

 これがポケモンなのだろうか。脚しか見えなかった。

 

『「トロバ!!」』

 

 さっきとは違う少女の声で少年のだと思われる名前が叫ばれた。

 急に動画が引いたかと思うと、少年が今いたところで爆発が起きる。

 衝撃で透明な箱に入ったモンスターボールと………あれはなんだ? 分からないが何か赤いものが一緒くたに飛ばされていった。

 

『「サイホーン! このまま安全なところまで走って!!」「どうするの!?」「アタシはもう一度もどる!! エックスをこのままにしておけない!!」「ワイちゃーん!!」』

 

 顔は見えないが最初の方の少女がエックスとかいう奴のところへ行ってしまったようだ。名前からして男なのだろうか。何をやってるんだよ。

 

「ッッッ!?」

 

 そして最後、二体のポケモンが事の元凶であることが分かるような争う風景が映し出され動画は終わった。

 これって……………。

 

「な、に、それ………」

「特撮………?」

「……………は、ははっ………」

 

 とうとうこの日が来てしまったようだ。

 もうね、乾いた笑いしか出てこないわ。

 

「ヒッキー………?」

「はっ、とうとう始めやがった」

 

 フレア団………フラダリ……………。

 これがどこの町だか知らないが町一個ダメにしてしまうようなポケモンを呼び出してんじゃねぇよ。しかも二体も。

 

「まさか……!?」

「ああ、フレア団だ。こんな常識外れの力を持ったポケモンは伝説に語られるような存在だろう。すなわち………」

「カロスの伝説を動かそうとするバカな人たちはフレア団しかいないと」

「ああ………、すぐにミアレに向かうぞ」

「「いえっさー!」」

 

 お前ら絶対事の重大さ分かってないだろ。まあいいけどさ。

 

「それとハヤマたちにも伝えてくれ。あいつらしばらくついてくるとか言ってたし」

「え? 本当にっ? わ、分かったよ!」

 

 昨日、カロスでは一体何が起こっていたんだ?

 こっちでは伝説の三鳥が暴れてたっていうし、どっかの町では違う奴らが暴れてたみたいだし。

 どれもこれもフレア団のやり口なのか?

 分からねぇ。分からねぇけど、まずい状況だってのは明白だ。

 だから俺が取る行動なんてのは決まっている。

 

「………ハチ公の名を動かすしかないか」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 寝ていたザイモクザ、それにトツカも起こしてフロントでユイガハマを待っているとドタドタと慌てた様子の五人衆が現れた。

 

「ヒキガヤ………、ユイに急かされてすぐに準備はしたが、何かあったのか?」

「ああ、まあな。で、それを調べにここを黙って出て行ったりすればお前の疑いが深まるばかりだろ? だからこうして呼び出したってわけだ」

「殊勝な判断だな。それについては否定しないよ」

「ま、とにかく俺も詳しい事は分からん。研究所に行ってみない事にはさっぱりだ」

「………そうか、事情は分かった。ならば俺たちも一緒に行こう。君の顔を見るにあまり無視できそうな話題ではなさそうだし」

「決まりだな」

 

 トツカたちには先に説明、というか動画を見せておいた。

 苦い顔をしたかと思うと俺の案に賛同してくれた。

 

「おや? みなさんお揃いでどうかなさいましたか?」

「あれ? フクジさん………って、あ、そうか。ヒッキーと」

 

 フロントの自動ドアが一人でに開くと外からフクジという老人がが入ってきた。

 ユイガハマがそう呼んでいるからそうなのだろう。

 

「…………知り合いか?」

「え…………?」

「ヒッキー、何、言ってるの………?」

「お兄ちゃん、昨日コマチとバトルしたジムリーダーだよ!?」

 

 ジムリーダー………?

 ッッ!?

 そういうことか!

 バトル描写は思い出せんが確かにそんなことがあったというのは事実として残ってはいるな。そこには確かにフクジというジムリーダーの名前も残っている。

 

「え、っと先輩? いきなり手帳なんか取り出してどうしたんですか?」

 

 イッシキが聞いてくるが今はそれどころではない。

 俺には昨日の記憶、というか思い出が全くない。

 すなわち昨日出会ったというフクジさんとの思い出は全くもって覚えてないのだ。

 どんな会話をしたのかも全く知らない。

 ただし、出会ったという事実だけはある。名前と肩書きだけは知っている状態なのだ。

 それもこれも全てダークライによるものだろう。あいつとの契約は確か『奴の力を使う代わりに俺のエピソード記憶を食らうこと』だったからな。

 

「あった………。俺史と一致する」

 

 手帳にはこまめに出会った人物たちの顔を肩書き、それにどんな状況で出会ったのかを書き足していっている。

 これもいつダークライに思い出を喰われるか分からないためだ。

 最初の頃はいきなり思い出がなくなっていて会話すら成り立たなかったりしていたが(そもそも思い出を育むような人物がごく僅かだったけど)、こまめに書き残しておけばたとえ忘れたとしても知ることはできると考え出したのだ。

 俺って頭いいな。

 

「えっと、そのすみません。ちょっと急用ができまして…………バトルは次ってことでいいですか?」

「ふむ………、君には感謝しても足りないくらいです。君の頼みとあらば受け入れましょう」

「ありがとうございます」

 

 無難に対処していると後ろから驚きの声を上げられた。だが今は流してやろう。

 

「何と言っても君はこの街のヒーローです。逆に断れば私の名が廃れます」

「………フクジさん、それは違いますよ。フクジさんの言うヒーローってのはいつだって悪と立ち向かうような奴のことを言うんでしょうけど。そこには自分の身を守るために戦ったり、何かを守るために自分のエゴで動いた結果、感謝されてるだけです。別にヒーローだとか思われたいなんてことは考えていないし、ましてやそんな風に見て欲しいとも思っていない。状況からして自分にしかできない、あるいはしないと自分が死ぬ恐れがある。ただそれだけです」

 

 カントーの図鑑所有者たちがそれだ。

 別にヒーローだとか思われたくて動いたわけではない。彼らは彼らでサカキに目をつけられて因縁をお互いに抱いてしまったからだ。

 そして、結果的にサカキの心が動いただけのこと。

 

「例えばロケット団なんかは図鑑所有者たちが歯向かってボスの心を揺さぶることができた。だからしばらくは音沙汰なく、ボスは姿を消していた。その後に問題を起こしたのだってそれを知らない部下たちだ。それを止めたのは紛れもなくロケット団のボス」

 

 だが、奴は自分で自分の組織を止めにかかった。

 それはサカキの意にそぐわなかったからだ。自分のいない間に好き勝手にされて、それで動いただけのこと。

 俺もあれはサカキのやり方だとは思わなかったからな。当然内部から潰しにかかったさ。

 

「結局ヒーローなんてのはその場その時によって誰がその位置にいるかで見え方が変わるんですよ。例えそれが悪党であっても。だから俺がヒーローだなんて全く思ってません。どっちかっつーと悪党の方が向いてたりするまである………。今後何が起こるか分かりませんけど、目の前にあるものだけに囚われていると真実を見落としますよ」

 

 取り敢えず、昨日のことには触れずに会話を終了。

 これで記憶がないことは悟られないだろう。

 

「ほっほ、よくぞ言われた! ヒキガヤハチマン、これを持って行きなされ!」

 

 ぽいっと何かを投げてきたので慌てて受け取ると、ジムバッジだった。

 

「実力は先のことでよく分かった。トレーナーとしての素質も然り。なれば制度に基づき渡すのみです。それに必要となる時が来るかもしれません。持って行きなさい」

「ふっ、そういうことなら遠慮なく。ありがとうございます」

 

 よく分からないが、ジムバッチを渡してもいいと認めてもらえたようだ。

 そもそもジムリーダーは実力を認めた者にバッジを渡す規則となっている。それを明確なものにするためにバトルをするのであって、別にそれが必須というわけではない。

 だからこれは理にかなっている。

 

「んじゃ、行っていきます」

「はい、行ってきなさい」

 

 こうして俺たちはフクジさんに見送られてヒヨクシティを後にした。

 もちろん空から行くぞ。

 急ぎだし。

 

 

 

 

 フレア団が動き出したのならば俺も動かないとな…………………。




取り敢えず、最初にモクローを選ぶのなら物理特化か素早さが伸びるようにするべきですね。

能力的には両刀いけますけど、基本的に物理特化の技しか覚えないという………。

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