ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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はい、まずはちょっと遅れてごめんなさい。

最後の方が間に合いませんでした。

続きは後書きで。


46話

「フクジさん!」

 

 ポケモンセンターに行こうとしたら、いきなり誰かが入ってきた。

 ジムの関係者かな?

 

「どうかしましたか?」

 

 落ち着いた物腰でタイプするフクジさん。

 

「アズール湾で急に荒れた天気になり、ポケモンたちが! トレーナーたちも被害に遭い、ポケモンセンターが一大事です。至急対応をお願いします!」

 

 は? マジで?

 

「すみませんな。こうしてはおられないみたいだ。コマチさん、バトル楽しかったですよ」

 

 そう言って俺たちを置いてジムを出て行こうとするじじい。

 くそっ、なんだってこうも次から次へと問題事が舞い込んでくるんだよ。

 

「……………で?」

 

 うわー、何この性格悪そうな笑顔。

 俺に何をしろってんだよ、ユキノシタ。いいよ、分かったよ。やるよ、働きますよ。

 

「はあ………ザイモクザ、アズール湾、及び周辺地域の被害状況の確認。ネットの方が写真とかアップされてるだろ」

「あい分かった」

「ユイガハマ、シャラとは連絡つけられるか?」

「一応、博士とコルニちゃんの番号は持ってるよ」

「んじゃ、そっちは任せた」

「みなさん、一体何を………?」

「じじい一人でできることなんて知れてるでしょうに。ほら行きますよ」

「わー、せんぱいかっこいいー」

「うっせ、褒めるならもっと心を込めろ」

 

 こんな時でもイッシキは茶化してくるんだな。

 

「恩に着ます」

 

 取りあえず、全員でポケモンセンターに向かうことにした。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ジムを出るとさっきまでは晴れてすらいた空が黒く重たい雨雲により覆い尽くされていた。雨も風も、終いには稲妻すらも見える雷も鳴り、激しく荒れた天気となっている。こんな短時間で荒れるとか、カロスの天気は悪くなるととことん悪くなるのかね。

 ポケモンセンターに向かうと、なんかすげぇ混んでた。

 え? ちょっと予想以上すぎるんだけど。

 

「これは…………」

 

 ヤバいな。

 人が多すぎる。

 あと、ポケモンも。

 

「あ、フクジさん!」

「フクジさんだ!」

「フクジさんが来たぞ!」

 

 一人が俺たち、というかフクジさんに気づくと口々に伝わっていき、みんながこっちを見てきた。

 

「フクジさん、ここは任せます。俺たちはジョーイさんの方に声をかけてきますんで」

「すまんの」

 

 住民の方はフクジさんとお付きの人に任せて、俺たちはフロントに向かった。

 こんなちょっとの距離なのに人をかき分けなければ行けないとかどんだけだよ。

 酔いそうだわ。

 もうすでにユキノシタが顔色悪くなってるし。

 

「………ジョーイさん」

「回復、ですか? 申し訳ありませんが只今回復マシンの方がいっぱいでして」

「やっぱりか………」

 

 マシンの方がいっぱいか。

 けど、あのプテラの傷も早く手当てしないと危険度は高いし………。

 

「お兄ちゃん、どうしよう…………」

 

 マジで詰まったな。

 俺にもこれ以上何も案が浮かんでこない。

 

「大丈夫、僕に任せて」

「え? トツカ?」

「ジョーイさん、寝台の方に空きはありますか?」

「ええ、そちらでしたら…………後僅かではありますけど」

「一台貸してください」

「……分かりました。ついてきてください」

「ありがとうございます」

 

 あ、なんか寝台は借りられることになったらしい。

 それにしてもトツカは何を考えているんだ?

 

「トツカ、お前…………」

「出てきて、ハピナス」

「ハッピ」

 

 ハピナス………?

 あれ?

 トツカってハピナス連れてたっけ?

 それともいつの間にか捕まえてたとか?

 

「任せてとは言うけれど、一体ハピナスでどうする気なのかしら?」

「僕たちでプテラを治療するんだよ。フロントじゃ人が多すぎてできないからね」

「はっ? マジで?」

 

 ちょっとトツカさん?

 そんな可愛い顔してとんでも発言しないで。

 前を歩くジョーイさんまで驚いて振り返っちゃってるよ。

 

「できるよね?」

「あら、ここには元チャンピオンが二人もいるのよ。できないなんてことはないわ」

 

 ああ、またか。

 どうやらトツカの『できるよね?』が『ユキノシタさんには無理かな』に聞こえてしまったらしい。ユイガハマの時といい、ほんとこいつの頭って単純だよな。

 

「はぁ………分かったよ。他に案があるわけでもないし。けど、ハピナスを連れているってことはそれ相応の技を覚えてるんだろうな」

「もちろん。この子はバトル用に育ててたわけじゃないから」

「ということはずっと連れていたってことかしら?」

「うん、最初からいたよ。ただバトルさせるわけでもないし、あんまり自分の夢とか語るのは恥ずかしいからみんなには見せてなかったけど。でも旅をしながら培ってきた経験と知識はそれなりにあると自負してるよ」

「トツカには敵わんな」

「ふふ、みんなにはいつも助けられてるからね。僕にできることはやりたいだけだよ」

 

 ああ、いいなー、この笑顔。

 嫁に欲しい。

 でも男なんだよなー。なんで男なんだろうなー。男じゃなかったらいいのに。

 

「先輩、段々と危ない路線に突入しようとしてません?」

「何言ってんだ? もう全員が危ない路線に踏み込んでるだろうが」

「………この二人、絶対話し噛み合ってないよ………」

 

 何が言いたいんだよ。

 

「ここなら、まだ」

「ありがとうございます」

「………それにしても他の部屋は見事に埋め尽くされてるわね」

「ここも時間の問題です。それにマシンの方もすでにオーバーしてますし」

「こっちの要件が済めばお手伝いしますよ」

 

 あ、マジで?

 まあ、適材適所。できるやつがやるべきなんだろうけど。

 

「それでは」

 

 ジョーイさんが一回も笑顔を見せなかったな。

 あの天使のスマイルも今日は見せている暇がないというわけか。それくらい状況がやばいという証拠でもある。

 

「さて、コマチちゃん。プテラを見せてくれるかな」

「りょ、了解であります。出てきて、プテくん」

 

 

 ボールから出てくると寝台の上にプテラが飛び乗った。翼は使い物にならんみたいだな。というかすげぇ気にしてるし。

 

「ハピナス、タマゴうみ」

「ハッピ」

「取り敢えず、私はきのみをすりつぶしておくわ」

 

 産むというか腹のところにある袋からタマゴを取り出した。

 あれ食うと元気になるらしいぞ。

 食ったことないけど、味も美味いのだとか。食ってみたい気もするが今は無理だな。また今度トツカにというかハピナスにお願いしてみようかな。

 

「うん、ありがと。後は小さくなって患部にいやしのはどうを当てといて」

「ハッピ」

 

 トツカの指令でハピナスは小さくなりながら寝台に飛び乗り、プテラの体をよじ登っていく。

 

「トツカ先輩。そのタマゴ、どうするんですか?」

「ハピナスのタマゴは特別製でね。食べた者を元気にする魔法のタマゴなんだ。そのまま食べさせても問題はないんだけど、この中身をーーー」

 

 うん、こっちは任せておこう。

 さて、俺ができるようなことが無さそうなこの状況。

 頼られはしたがすでにトツカとユキノシタで役割分担できてるしな。

 技術の発達によって生み出された傷薬も俺がやろうが誰がやろうが関係ないし。

 となると……………ポケモン自らの力を発揮してもらうとするか。

 

「…………」

 

 じっとプテラを見つめてみる。

 頭に『?』を浮かべたかのような疑問のまなざしを送ってくる。

 ああ、カメックスみたいにバカにしてこなくてよかった。あいつ、俺に伝わらないだろうとか思って裏で何言ってるか分からんやつだからな。陰口とかもう慣れたわ。

 

「………むにむに」

 

 横にいたコマチの顔で変顔を作ってみる。

 めっちゃかわいい。さすが俺の妹。

 

「ひょっろー、おひいひゃん? はにひへんの?」

「先輩キモいです気持ち悪いですとうとう頭がイカれたとかマジ勘弁してくださいごめんなさい」

 

 別にイッシキとは会話すらしていなかったのに振られるというね。

 

「まあ、少し付き合ってくれ。俺がやると絶対イッシキがバカにしてくるから」

「すでにバカにしてますけど」

「今以上にバカにしてくる」

 

 俺がやったらバカにしてくるどころか本気で引かれそうなまである。

 だからお願いだからお兄ちゃんを危ない者を見るような目で見ないで!

 

「仕方ないなー、プテくんの為だからだよ。いい? 分かった?」

「おう、すまないね」

 

 できるだけ痛くないようにコマチの顔で変顔を作っていく。

 次第にプテラも自分で変顔をやり出し、真似をしてくる。

 よしよし、順調順調。

 

「………できたわよ、って何をやっているのかしら、あなたたち兄妹は」

「ほんろ、はにやっへんへしょうへー」

「まあ、ちょっとな」

「………また?」

「………またです」

 

 あ、なんかユキノシタにはバレたみたい。

 すごいなこいつ。

 これだけで理解するとかあれの頭の中読まれてるんじゃね?

 試しに何か悪口でも言ってみるか?

 ユキノシタユキノの胸はまだ発育段階である。

 

「ねえ、そんなに死にたいのかしら?」

 

 うっ………。

 やっぱりこいつには俺の頭の中が見えているらしい。なにそれ、プライバシーとか関係無くね?

 お願いだからその鉢を振りかぶらないで!

 

「ふふっ、ハチマンのやり方はハチマンにしか出来ない芸当だよね。あ、ユキノシタさん、それもらうね」

 

 ………………。

 ………………。

 いいなー、俺もトツカに看病してもらいたいなー。

 そんでもってきゃっきゃうふふなことに……………男だからなー。はあ……………。

 

「先輩、ヤバイです! 目がどんどん腐っていってます! キモいです!」

「よし、トツカ。俺の目を治してくれ」

「ハチマンはそのままで充分かっこいいよ」

「そ、そそそそうか?」

「うわっ、先輩の目がどんどん輝いていく! 輝く先輩とか先輩じゃ無くてキモいです………」

 

 どうやらトツカに褒められると目の腐り具合も治るらしい。

 なにそれ、薬より良薬じゃね?

 良薬口に苦しとか真っ赤な嘘じゃん。超甘い。甘々だわ。

 

「ヒッキー! 絶対ダメだからね! そっちの世界に踏み込んじゃダメだからね! ヒナが喜びそうな展開とかマジ勘弁だからね!」

 

 お、おう、ユイガハマ。

 シャラとの連絡はついたのか?

 

「それで、シャラシティはどうだったのかしら?」

「あ、ゆきのん、うん、あのね。二人とももう対応に当たってるって。ただ、マスタータワーが孤立してて大変なんだって。主にコルニちゃんが取り残されてだけど」

 

 あいつ何やってんの?

 あの陸の孤島とかただでさえ満ち潮の時には行けないってのに、何そっちに残ってんだよ。バカなの?

 

「でもコルニちゃんがタワーにいるおかげで流されてきた野生のポケモンたちは避難できてるみたいだって言ってたよ」

 

 はあ…………まあ何とかなってるのね。

 それならいいわ。

 

「さてと、これを飲ませて体力も回復してもらおう。そうすればハチマンが最後に治してくれるから」

「や、俺が治すわけじゃないからな」

 

 どうやらこっちにも理解してる奴がいた。

 すごいね君たち。

 どんな頭の作りになってんの?

 

「さあ、これ飲んでみて」

「アーッ」

 

 トツカに差し出された液体をプテラが口に含んでいく。

 ハピナスの幸せタマゴが入ってるおかげか、抵抗なんて文字の欠片も見当たらない飲みっぷりを見せるプテラ。

 ほんと良薬口に苦しとかって真っ赤な嘘だったんだな。

 

「いつもはこの後に傷薬を使ったりしてるんだけど。それだとちょっと時間かかるんだよねー」

「ほ、ほんとですか?!」

「うん、なんせ空いた穴を塞がないといけないからね。でも今回はハチマンがやってくれるからすぐに治ると思うよ。それじゃ仕上げをお願い」

「はいよ。ザイモクザ、Zさん出してくんね?」

「うむ、いでよ、Z!」

 

 Z改め、ポリゴンZ。

 奴が今回の鍵となるポケモンだ。

 

「Zさんや。じこさいせいをお願いできるかね」

「ジー」

 

 くるくるっと進化して胴体から切り離れた手足を回転させて了承の意を見せてくる。

 

「ジー」

 

 体の細胞の成長を促し、胴体部分を少し大きく育て上げた。

 

「アーッ、アーッ」

 

 プテラもそれを見て理解したのか、自分からZを真似して再生を施し始める。

 すると見る見る内に傷口が塞がっていき、いつものような陽気さを取り戻していった。

 

「………治った…………プテくん、治ったよ! よかったね、プテくん!」

 

 傷が塞がったのを見るとコマチはプテラへと抱きついていった。

 

「………あれ? プテラってじこさいせいなんて覚えましたっけ?」

「んにゃ、覚えんぞ」

「それじゃどうして………」

「ものまねよ」

「ものまね? それポケモンの技?」

 

 ………んー、まあ知らなくてもおかしくはないのか?

 どうなんだ?

 や、でもトツカもユキノシタも技を知ってたみたいだし。

 やっぱりユイガハマだからかな。

 

「そう、ものまねは相手のポケモンの技を一時的に覚えることができるのよ」

「あれ? でもコマチ、プテくんにそんな技覚えさせた記憶はないですよ?」

「今覚えさせてたのよ」

「あ、だからコマチちゃんで変顔を作ってたんですね」

 

 イッシキは説明されれば理解が早いんだよなー。

 単に知らないってだけだから。

 となるとやっぱり首を傾げているユイガハマはアホの子決定だな。

 

「…………俺がやると絶対変な目で見てくるだろ?」

「ドン引きでしたね。ガチの方で警察呼びますね」

 

 だろうな。

 だから俺もコマチにやってもらったんだ。

 

「………お兄ちゃんって技マシンかなんかなの?」

「失礼な。ただ単に技の本質を理解してるまでだ」

「機械よりもすごいことだっ………」

 

 そうか、俺って機械にはまだ越されていなかったのか。

 そのうち人間国宝とかになるんじゃね?

 

「……ハチマン、取り敢えず調べ上げられたことだけ言っていくぞ」

「頼む」

「アズール湾付近で巨大な積乱雲が発生。気温の寒暖が激しく、近づくことすら難しいらしい。実際に逃げてきた者の書き込みを見ると地獄絵図だったらしいな。地獄絵図………いい響きである「お前の主観はいいから」う、うむ……、雨も風も雷も、終いには霰なんかも降っているらしい。そしてたまに晴れ間がさす時もあるのだとか」

 

 積乱雲…………気温の急激な寒暖……………雨風雷………そして霰に晴れ間………………。

 

「あ、雷で思い出したけど、昼間になんか黄色いポケモンが飛んでいくのが見えたよ。電気がバチバチ言ってた。雷かなーって思ってたけど、多分ポケモンだと思うなー」

「あ、それでしたら昨日、水色のポケモンが飛んでいくのを見ましたよ。先輩とポケモン捕まえに行ってる時です」

 

 ……………………………。

 

「なあ、ザイモクザ。そもそもアズール湾ってどこにあんの?」

「む、ここからだと北西に位置するな…………。それがどうかしたのか?」

 

 北西か。

 ……………なるほど。

 そういうことか……………。

 や、でも待てよ。そうだとしたら結構ヤバいんじゃね?

 こんなことしてる暇なんてないぞ!

 

「は、はは……………マジかよ。こりゃ確かに地獄絵図だわ」

「え? 何か分かったの?!」

「取り敢えずアズール湾へ行く」

 

 分かったというか嫌な予感ができたというか。

 

「うぇっ!? いきなり!?」

「確かめないことには何も言えん。だがもし俺の想像通りならはっきり言って色々と終わる」

「…………分かったわ。行きましょう。どうせ止めても勝手に行くでしょうし」

「ゆきのん?!」

「………いくらフクジさんやポケモン協会でも状況が分からなければ対応すらできないもの。行ける者が行くのが妥当よ。それに私たちも協会の人間だし」

「プテくん、戻って」

 

 コマチがプテラをボールに戻すのを確認してフロントに向かった。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「これ、は…………」

 

 フロントへ行くと怪我をしたとみられるポケモンたちが大量に運ばれてきていた。

 人の方はなんとか落ち着きを取り戻してはいるが、さっきまではいなかったポケモンたちが運ばれてきているのはちょっと予想していなかった。

 

「みなさん」

「フクジさん、これは………?」

「実はカントーからの貨物船が巻き込まれたようで、その船員とポケモンたちが運ばれてきまして…………」

 

 キャパオーバーなところにさらにってか。

 これはいよいよもってヤバいぞ。

 

「ヒキガヤくん、あなたはアズール湾へ行きなさい。ここは私たちが何とかするわ」

「ユキノシタ?」

「幸い、あなたのやり方を見せてもらったもの。マシンが足りないのならポケモンの技で治すまでよ」

「…………分かった。行ってーーー」

「ウガァラァッ!」

「え? ちょ、まっ、待ってぇー!」

「な、なんだ?」

 

 見るとウインディがユイガハマを背中に連れてポケモンセンターを飛び出して行ってしまった。

 え? ちょ、え? マジ?

 このくそ忙しい時に?

 うそん………。

 

「ユイ先輩! ………先輩、ゲッコウガ借りますね!」

「お、おい、イッシキ?!」

「コウガ」

「あー、もう分かったよ。そっちはお前に任せた」

「コウガ!」

 

 イッシキはゲッコウガに背負われ飛び出して行った。

 仕方ない、あっちはゲッコウガに任せよう。

 

「あれは………」

「貨物船に紛れ込んでいたウインディですよ。カントーから遥々やってきたみたいですね。すみません、色々とご迷惑をおかけして」

 

 おいおい、あのウインディは何がしたいんだよ。しかもユイガハマを拉致してまで。

 

「それはもういいですけど」

「お兄ちゃん!」

「ああ、こっちも急ぐぞ」

「隊員Z! こちらはお主に任せるぞ!」

「ジー!」

 

 ともかく俺はコマチとザイモクザとともにアズール湾に向かうことにした。

 外に出るとさっきよりもさらに雨脚が強くなっていた。ウインディのせいでドアが壊れなくて本当によかったわ。この分だとドアがなかったら水が中に入ってたからな。

 さすが自動ドア。

 

「リザードン」

「プテくん、病み上がりだけどお願い」

 

 俺はリザードンをコマチはプテラを出して、それぞれに乗って飛翔。

 ザイモクザはもちろんジバコイルに乗ってるぞ。

 雨風叩きつけられながら港の方まで来ると、まだ避難し遅れている人たちがいた。

 どうやら足を怪我してポケモンの方も主人を運んで動けるような状態じゃないようだった。

 

「お兄ちゃん、先に行ってて。あの人たちポケモンセンターまで運んでくる!」

「あ、おい、コマチ! ザイモクザ、コマチについてやってくれ。それとリュックはお前に預ける。中身は必要だったら好きに使ってくれていい」

「けぷこん! 我が相棒の頼み、確と受け止めた! ジバコイル!」

「じばー」

 

 ぽいっとザイモクザにリュックを投げつけると綺麗にキャッチしてくれた。そしてそのままコマチを追いかけて地上へ降りて行く。

 やれやれ、なんか結局一人になってしまったぞ。

 えー、マジでどうしようか。

 

「シャアッ」

「うん、まあ、取り敢えず行くしかないよな」

 

 リザードンも再び移動し始めたので、行くしかなくなった。

 あーあ、マジで行きたくないんだけど。

 だって、ねぇ。

 行ったら帰ってこれるか分からんし。

 最悪、というか多分最初から暴君に出てもらうことになるだろうし。

 

「色々あったけど、三つ巴は初めてだな………」

『この気配………、やはりか』

「あ、お前もう分かるの? すげぇな。つか、自分から出てくるのな」

『オレはこれでも戦闘重視に造られたポケモンだぞ。気配を探るくらい造作のないことだ』

「そうだな。だったら戦闘は任せた」

『仮にも今はお前のポケモンだぞ。もう少しトレーナーとしての計らいはないのか?』

「逆にそんな計らいをしたらお前が暴れられんとか言って暴れそうじゃん」

『結局暴れるのには違いないのだな。否定はしないが』

「というわけでよろしく」

 

 アズール湾に近づいていくにつれて雨風が強くなってくる。

 マジでアレも降ってくるし、雷なんかゴロゴロ程度で済んでないし。地響きまで起こしてるからな。揺れるおかげでさらに波が高くなって、飛んでるっていうのにかかりそうな勢いである。

 

「………フレア団と関係してるのか………?」

『どうだろうな。だが、どの道鎮めるほか助かる手はない』

「天気に影響を与えるポケモンは厄介だな。お前が可愛いくらいだ」

『なら今すぐにでもバトルして叩き潰してやろうか?』

「それとこれとは別だ。お前は規格外のポケモンだぞ。戦闘になったら間違いなく俺が負ける」

 

 逆風、横風に揺さぶられながら何とかアズール湾と思しきところが見えるところまでやってきた。

 

「ちょ、ほんと、に! 待ってっ! 待ってってばぁ!」

 

 すると下から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 見るとさっき飛び出して行ったウインディとユイガハマの姿があった。その後ろからはゲッコウガの背中に担がれたイッシキの姿もある。

 

「なんでこんなところに来てるんだよ………」

『どうやらウインディが何かを感じ取ってるらしいな』

「はあ…………ならなんでよりにもよってユイガハマなんだよ」

 

 わけが分からん。

 この先に待ち受けている脅威を感じているのなら自分の力を引き出せるような強いトレーナーを選ぶべきなんじゃないか?

 こう言っちゃ彼女に悪いが、ユイガハマはまだ初心者だぞ。

 こんな惨事であのウインディの力を引き出せるとは到底思えないんだが………。

 

『主人を選ぶポケモン自身にも思惑はある。何か考えがあるのではないか?』

「だといいけど」

 

 ウインディはあるところでは伝説のポケモンとされているんだとか。

 どんな伝説なのかは知らん。一度調べたこともあったような気がするけど、全くと言っていいほど内容がなかった。ただ伝説とされているってだけだ。

 だがこうしてこの先に待ち受ける三つ巴を遠路遥々カントーから嗅ぎつけてきたとしたら、ある意味で伝説のポケモンなのかもしれない。

 

「はあ…………やっぱりか」

 

 しばらく突き進んでいくとこの異常気象とも呼べる悪天候の原因がそこにいた。

 犯人は三匹。

 俺たちに背中を向けている、ファイヤーという名の俺がさっきロープウェイから見かけた火の鳥。

 んで、その向かい側でバチバチと紫電を散らしている、サンダーという名のユイガハマが見たらしき雷の鳥。

 そして、海面に叩きつけられて水飛沫を上げている、フリーザーというイッシキが見た氷の鳥。

 ファイヤーを見かけた時は「おや?」って感想しかなかったのに、後々話を聞いていくとそれがフラグだったことがよく分かる。

 これ以上問題起こすなよ。面倒臭いな。

 

「あー、もうよく分かんないけど、あれを止めたいことだけは分かったよ! クッキー、いくよ!」

「あ、ちょ、ユイ先輩! 何考えてるんですか! ゲッコウガ! 跳んで!」

 

 うーん、下は下で問題だな。

 どうしたものか。

 

『取り敢えず、行ってくる』

「ああ、ただあの三鳥が揃っているってことは忘れるなよ」

『ハッ、オレを誰だと思ってる』

 

 並走して飛んでいた暴君様は、一足先に三鳥の方へと行ってしまった。

 

「俺たちもやるしかないな………ん?」

 

 戦闘用にメガシンカさせようとキーストーンを取り出すと、まだ進化をさせていないのに発光していた。

 ん? どゆこと?

 

「まあいい。リザードン、メガシンカ!」

 

 考えても仕方ないのでまずはこの状況を片付けることにしよう。

 片付けられるか分からんが…………。

 相手は伝説のポケモンが三体だぞ?

 いくらこっちに暴君様がいるからといって、いくらメガシンカしてるからといって勝てる相手とは思えない。

 何なら天候を司るポケモンが相手だ。負けじとサイコパワーで竜巻を作り出したり、黒い穴で眠らせようが、すぐに技自体をかき消されてしまうだろう。

 つまり伝説といっても今の俺のカードではクレセリアの方が戦いやすい相手だったということだ。それだけ天候を操るポケモンは要注意なのである。

 

「ミュウツー、フリーザーはこっちで受け持つ! 残り二体を頼む!」

『好きに、しろ!』

 

 スプーンでファイヤーの炎を撃ち返しながらそう言ってきた。

 俺たちは海面から上昇してくるフリーザーの方へ移動し、二鳥への道を塞いだ。

 

「かえんほうしゃ!」

 

 フリーザーに向けて蒼い炎を吐くと、スイスイスイと身軽に躱されてしまった。やはり弱点をつこうが伝説に名を残すポケモンは格が違うな。

 

「躱せ!」

 

 俺たちを敵と判断したフリーザーは二鳥のところへ行く前に俺たちを潰しにかかってくる。

 

「ほのおのキバ!」

 

 俺たちが躱したところに飛んできたフリーザーの真下からウインディが噛み付いてきた。

 急な重みにバランスを崩したフリーザーが旋回を始めた。

 

「クッキー、離して!」

「ヤドキング、でんじほう! テールナー、かえんほうしゃ! モココ、ほうでん!」

 

 なんだよ、お前らも参加するつもりなのかよ。

 ったく………あいつら。

 

「おい、ユイガハマ!」

「ヒッキー、止めたってあたしはやるよ! クッキー、バークアウト!」

「ウィッ、ガァッ!」

 

 いつの間に名前つけたの?

 というかなんだかんだ使いこなしてね?

 

「今更止めねぇよ。もう一度かえんほうしゃ!」

「シャアッ!」

「それより相手が誰だか分かってんだろうな!」

「知らない! けどクッキーが! この子がこの争いを鎮めたがってるの! だからあたしも戦う!」

 

 知らないのかよ。

 マジかよ。

 これ絶対終わってから教えた方がいいパターンだよな。

 伝説のポケモンだなんて聞いたら卒倒しちゃうとかそんなことないとは言い切れないもんな。

 それにしてもこいつ、怖いもの知らずすぎんだろ。逆に怖いわ。

 

『くっ、すまん! そっち行った!』

「イッシキ、下からユイガハマをサポートしてやれ!」

「言われなくてももうしてますよ!」

 

 それもそうか。

 そもそもウインディが宙を駆けている時点で、どこぞのエスパー姉さんみたいにバリアーかなんかで足場とか作ってるわな。

 

「リザードン、ファイヤーにドラゴンクロー!」

 

 暴君を超えて俺たちの方へと突っ込んでくるファイヤー。

 やべ、あの技ゴットバードじゃねぇか。

 くっ、仕方ない。俺がいる状態で回転とか三半規管がおかしくなって吐くかもしれないが、このままだと確実に堕とされる。

 

「俺に構うな。トルネード!」

 

 もう攻撃をするとかそういうのは今はなしだ。まずは生き残ることを考えよう。

 

「………、シャアァァァアアアアアッ!」

「う、ぐっ、あ、うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおッッッ!?!」

 

 これはヤバイ。

 マジでヤバイ。

 何がヤバイって目が回るとかの次元じゃない。

 目を瞑っていてもぐるぐると視界が渦巻いていく。

 脳が揺さぶられて案の定気持ち悪い。

 ジェットコースターとか比じゃないわ。

 はっきり言って死期を感じるレベル。

 

「………はあ! …………はあ! ……………はあぁぁあああああああ!」

 

 し、死ぬかと思った!

 ポケモンマジやべぇ。

 あんな回転を加えていても何ともないとかマジでヤバすぎるだろ。

 

「リザー、ドン、……あっちへ、は、行かせ………るなっ!」

 

 頭痛ぇ。

 目がぐるぐるする。

 

「ユイ先輩! 攻撃がきます!」

「マーブル、こらえる!」

 

 マー………ブル?

 …………ああ、ドーブルか。

 

「ブラスト………バーン」

 

 リザードンの背中にしがみついてるのがやっとだわ。

 自分が乗った状態では飛行技禁止だな。俺が死ぬ。

 

「がむしゃら!」

 

 ………なるほど。

 トレーナー戦では一度見せてしまえばアレだが、野生のポケモン相手なら効果ありってか。

 やるじゃん。

 

「やったっ!」

「ユイ先輩! すごいです!」

 

 フリーザーを再び海に落としたことで二人は歓喜の声を上げている。

 こっちもファイヤーの背中に思いっきり究極技をくれてやったぜ。

 相手もほのおタイプだから効果はそんなないが、衝撃からの怯みくらいは与えられたはずだ。

 

「アーッ!」

「アーッ!」

 

 なんかファイヤーとサンダーとで共鳴みたいなのが始まったぞ。

 二体だけとかおかしくない?

 こいつらって普通三体で一つみたいな存在だろ………?

 

「ッッ! 逃げろ! ユイガハマ!」

「えっ?」

 

 フリーザーはまだ戦える。

 いくら堪えてからの我武者羅な攻撃を受けていたとしても相手は仮にも伝説のポケモン。そんなことでやられていては伝説の名が泣いてしまう。

 

「ウィガァッ!」

 

 察したウインディがユイガハマとドーブルを海へと振り落とした。

 そして、奴は独り凍りついた。

 

「ーーーユイガハマ!」

 

 俺の身体は頭とは切り離されてしまったのかというくらいの素早い動きで海へと身を投げ出していた。

 くそっ! 

 やっぱりだ!

 やっぱり誰かと群れるのはそれだけリスクが高くなってしまうんだ!

 俺はずっと独りだったのもリスクが少ないから。俺独りの方がなんでもやりやすかったというのに。

 だというのに俺は何かをこいつらに欲してしまっていた。

 それが何かは分からないが、ただ自分の欲望のためだけにこいつらを巻き込むとか、結局フレア団やロケット団がやっているようなことと変わらないではないか!

 くそったれ!

 死なせてたまるかよ!

 

「こん、のぉっ!」

 

 先に届いたドーブルの尻尾を掴みリザードンへと投げ上げる。その反動で俺の身体は完全に海の中へとダイブすることになってしまった。

 ーーーくそっ、たれが!

 背中から叩きつけられて痛みが走るが、そんなことは今はどうでもよかった。人間、こういう状況の時は痛みなんか二の次になるらしい。

 身体の向きを強引に変えて暗い海の中を見渡す。

 見えない。

 ユイガハマはどこだ?

 くそっ、こんな考えてるような余裕はないってのに!

 

 ぐあっ?!

 なんだ………?

 赤い………光……………?

 いたっ! あそこか!

 何でもいい。おかげでユイガハマを見つけることができた。

 多分意識を失っているであろうユイガハマの足を掴み手繰り寄せる。

 重い。

 水圧というものはこんなにも重たいものだったのかよ。しかも濡れた服とか尚更か。

 チッ、息がやべぇ………。

 ここまでかよ。

 折角掴んだってのにこんな形でこいつも死なせることになるのかよ…………。

 くそったれ!

 

 …………いや待て。

 一つだけまだある!

 

 ゴォォォオオオオオオオオオオッッッ!! という音が水を伝って聞こえてくる。

 なんて、タイミング…………だよ。

 でも今はお前の力を貸してもらうぞ!

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 ザパァァアアンッッ! と海の中からの復活。

 戻ってはきたが意識が朦朧としている。

 何とかこいつの首根っこに抱きついたが、しがみつくのがやっとだわ。

 無い力を振り絞ってユイガハマ共々背中によじ登る。

 

「ん………? 白く無い?」

 

 夜だからというわけでは無いだろう。

 それにさっきの赤い光。あれはこいつの目だ。

 だがあの目は以前に見たことがある。

 あれは確か…………そう、シャドーのダークポケモン……………。

 

「ダーク、ポケモン………?」

 

 ッッッ!?

 まずい!

 まさかこいつまであいつらの手に堕ちていたというのか?!

 確かに三鳥の諍いにフレア団は関係無い。関係あったのはシャドーの方だ!

 だが、一切その話を耳にはしていない。

 あのじじいが俺にシャドーの話を隠すとも思えないし。

 

「ルギャァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 粛清の咆哮。

 三鳥の長とも呼べる鳳、ルギアの役目。

 だが、効いていない?!

 やはり………くそっ!

 

「ルギ、ア…………落ち着け」

 

 こいつはダークポケモンに堕ちている。

 ダークオーラが見えるわけではないが、今のこいつは間違いなくダークポケモンだ。本能的に役目を感じてやってきたみたいだが、力を上手くコントロールできていない。

 その証拠に咆哮が雄叫びへと変わってしまっている。

 ーーーまずい。

 非常にまずい状況になった。

 よりにもよって、俺の意識が薄れていっている時に……………。

 くっそ!

 どうにでもなりやがれ!

 

「ルギア! そこから先その技を放てばお前は戻れなくなるぞ! 自我を保て! 一発でいい! お前の仲間に向けてエアロブラストだ!」

 

 叫んだはいいが伝わってるかは分からない。

 それにもう限界だ。

 頭が痛いわ、方向感覚がなくなってきてるわ、これひょっとすると死ぬの?

 

「ルゥゥゥゥゥゥギャァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 ーーーああ、どうやら伝わったみたいだな。

 今度こそ俺はもう無理だわ。

 意識を持ってかれるわ。

 ミュウツー、リザードン、ゲッコウガ。後は頼んだ。腑抜けた主人ですまない……………。

 

 

 

「ーーーおっと、君をこのまま死なせるわけにはいかないな。今君がいなくなればユイやイロハ、それにユキノちゃんも不覚ながら悲しむだろう。それにしても君にはいつも驚かされてばかりだ。まさかこのタイミングでルギアまで呼び出すとは。だけど、今回ばかりは君のその突出した能力に感謝してるよ。これで俺も力を手にすることができる」




またちょっとシャドーを使わせてもらいました。
ポケスペには一切出てこないんですけどね。
まあハチマンたちの物語なので、お許しを。

この先進めていくうちにどうなるかあらすじ程度しかできてませんが、今回の話がちょっと鍵になってくるのは間違いないでしょう。多分………おそらく…………。


いよいよサン・ムーンが今日発売ですね。
『やっと』って感じですけど。
もちろん買いますよ。

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