ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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最初に言っておきます。

二話分くらいあります。ごめんなさい。


44話

「それで、なんで先生までついてきたんですか」

 

 ポケモンセンターに着くと中でバトルフィールドの貸し出しを申請して、移動した。

 何故か先生までついてきてるんだけど。

 

「ふっ、これもメガシンカの研究の一環だ」

「そもそも先生の教科は国語でしょうに。なんだって研究職に」

「用語を教えるための研修だと思ってくれ。後は校長に頼まれたのだ」

 

 多分、後者が目的なんだろうな。

 自分の孫娘の旅が心配でスクールの一職員に頼み込むかって感じだけど。

 過保護すぎんだろ。人のこと言える立場じゃないけど。

 

「さて、それじゃ始めましょうか」

「へいへい」

「ルールはどうするんだ?」

「先生が審判なのね」

「手持ちは三体。技の制限はなし。交代もありでいいわ。どちらかのポケモンが三体とも戦闘不能になったところでバトル終了。それでいいかしら?」

「何でもいいぞ」

 

 だって、リザードンもゲッコウガもなんかやる気になってるんだもん。

 君たちバトル好きだよね。強い相手限定だけど。

 

「そうか。ならバトル始め!」

「行きなさい、オーダイル」

「んじゃま、ゲッコウガよろしく」

 

 なんだよ、ユキノシタが出したのってオーダイルかよ。

 ってことは後の二体はメガシンカを手に入れたボーマンダと伝説のポケモンであるクレセリアか?

 俺の手持ちの限界の数でやるのだし、それに合わせてんのかね。若干手持ちとは言えない奴いるけど。

 

「アクアジェット」

「かげぶんしん」

 

 水のベールに身を包んだオーダイルを影を作り出して惑わせる。

 それでも一掃するように一つ一つ影を消していくので、その間にフィールドのど真ん中に移動させる。

 

「くさむすび」

 

 オーダイルはみずタイプ。

 ならばくさタイプの技を使わない理由がない。しかもくさむすびはアクアジェットの勢いを殺すのにも上手く使えるからな。

 

「躱しなさい」

 

 だが、そこはオーダイル。幾多のバトルをしてきた経験から危機を察知したらしい。言われるまでもなく自分から躱した。

 

「れいとうパンチ」

 

 水のベールに身を包んだまま拳に氷を張り巡らせ突っ込んでくる。

 

「まもる」

 

 二つの同時技をドーム型の防壁を貼ることで全てをゼロにする。

 使い方によってはいい技だよね。

 

「つじぎり」

 

 真正面にいるのでそのまま今度はこっちが突っ込むことにする。

 黒い手刀を携えて、懐に飛び込む。

 

「ドラゴンクロー」

 

 だが、咄嗟に出した竜の爪により弾かれてしまう。

 あー、こりゃ千日戦争になりそうだな。

 どっちの攻撃も当たらないんですけど。

 

「す、すごい………」

「どっちも攻撃受けてないとか、マジ………?」

 

 コルニがなんかすげぇ目をキラキラさせている。

 なに、どうかしたの?

 

「やっぱりゲッコウガには隙がないわ」

「そうか? 俺からしてみればオーダイルには俺の考えが読まれてる気がしてならんのだけど」

「さて、このバトルは終わらせることができるのかしら」

「まあ、終わりは来るだろ。ゲッコウガ!」

「コウガッ!」

 

 俺が呼びかけるとまたアレが始まった。

 俺の視界はゲッコウガのものとなり、力が漲ってくる。

 だが、こうして頭で理解してからコレに入ると力が制限されているのがよく分かる。

 本来であれば、もっと爆発的な、こうメガシンカに近いパワーの変化があるように思える。それを抑えこむように壁があり、こじ開けることもできない。

 まさに博士が言っていたように力の一端にしか触れることができない状態である。

 やはり、この先の力が欲しければ秘薬を使うしかないのだろうか。

 

「なに、あの水のベール…………」

「さあ? なんだろうね」

「アクアジェットじゃないですかね」

「来たわよ、オーダイル。りゅうのまい」

 

 こちらが力を溜め込んでいるとオーダイルは炎と水と電気を三点張りで作り出し、それを竜の気へと変え始めた。

 

「ドラゴンクロー」

 

 竜の気を腕に纏い、爪を立て攻め込んでくる。

 どういう原理ででかくなったかは分からない水の手裏剣でガードに入る。

 竜の爪を弾き、空いた懐にすかさず飛び込み黒い手刀で切り裂いた。

 オーダイルに身体を捻られて追撃を躱された。

 

「ならば、かげうち」

 

 影に入り身を潜める。

 こうして見るとユキノシタがいかに集中しているかが分かる。

 オーダイルと一緒に精神を張り巡らせていて、影にいるというのに見られているような感覚に陥るのだ。

 なに、こころのめとか使えたりするの?

 ほんとにぜったいれいどとかしてきそうで怖いんだけど。

 

「左後方30度地面にシャドークロー」

 

 うわ、なんかガチの命令なんだけど。

 

「ッッ!?」

 

 手刀で受け止めたけど、心臓に悪いな。

 

「当たりのようね。オーダイル、そのまま出てくるまで切り裂いてあげなさい」

 

 うーわー、この子容赦ないんですけど。

 ここは出るしかない、おわっ!? やべぇ、これ俺ら死ぬ。

 だが、普通に出たんでは狙われるだけ。

 どうしたものかって、ちょ、マジ、怖ッ!

 

「……コウガ」

 

 ほーん、なるほど。

 それいいかもね。採用。

 

「あら、ようやく出てきたわね。オーダイル、ドラゴンクロー!」

 

 よし、まんまと引っかかってくれたな。

 

「影………ッ!? オーダイル、後方にドラゴンテール!」

 

 さて、徐々に数を増やしていくか。

 

「これも影……はっ?!」

 

 よしよし、これで俺たちがいる陰には意識が離れたな。

 

「オーダイル、ハイドロポンプで一掃しなさい!」

「オダッ!」

 

 水砲撃により俺たちが作り出した影はかき消されていく。

 だが、それでいい。

 

「真下がガラ空きだぞ」

 

 影から出てオーダイルをぶん殴る。スカイアッパーみたいな感じになったな。まあ顎は頑丈そうだし大したことないか。

 それにしてもなんかこれ昔を思い出すわ。

 

「やっと一発入った!」

「なんなのこのバトル………」

「いやー、次元が違いますなー」

「久しぶりに本気出してますねー、先輩」

 

 あ、確かに初めて攻撃入ったな。

 以前バトルした時はエネコロロだったから早かったのか?

 オーダイルが相手だと時間かかるのも仕方ないのかもしれないな。

 

「くっ、一枚も二枚も挟んでくる癖は変わらないわね」

 

 人間、そうそう変わりませんって。

 

「オーダイル、ハイドロポンプ!」

 

 あらら、飛びながら砲撃してきましたよ。

 まあ、ここは壁でも作って守りましょうかね。

 

「アクアジェット!」

 

 今度は強行突破かよ。

 躱そ。

 

「かげぶんしん」

 

 ほんと気持ち悪いくらいに増えてきたな。

 そのうちどっかの街の人口を越すんじゃないかって思っちゃったりするんだけど。

 ちょっと変化球でも出してみるか。

 いわタイプになるけど、影があるから大丈夫だろ。

 

「がんせきふうじ」

 

 岩がゲッコウガの周りに現れた。

 

「発射」

 

 一斉に岩を飛ばしていき、四方八方から逃げ道を塞ぐ。

 当然、上にもいるので逃げるなら穴を掘って逃げるくらいしか逃げ道はない。

 

「オーダイル、めざめるパワー」

 

 ユキノシタが入った瞬間、オーダイルの体内から黄色い光が迸り、岩々を一瞬で粉々にしてしまった。一瞬バチバチっていってたのは気のせいかな。

 それにしてもめざめるパワーか。

 ポケモンに秘められた潜在的な力を技にしてしまう、しかもタイプまでポケモンによって異なる、まさにめざめるパワー。

 俺はオーダイルに覚えさせてないぞ。

 いつの間に覚えさせていたんだ?

 って、人のポケモンの技を知ってる方がおかしいよな。

 

「ゆきなだれ」

 

 あ、また新しい技きたし。

 しかもご丁寧に影全部にまで技を発動させちゃってるし。

 

「聞こえているのか知らないけれど、いつもいつもあなたが知っているオーダイルってわけじゃないわよ」

 

 しっかり聞こえてるから。

 いや、まあそうだけどよ。

 なんかちょっと寂しい気もする。

 

「コウガ」

 

 え? なに?

 はっ? マジで?

 お前ほんと優秀すぎんだろ。

 

「……めざめるパワー」

 

 しかもほのおタイプなんだとか。

 やべぇ、絶対にほのおタイプにはなれねぇって思ってたけど、まさかのここでなれちゃったよ。

 上から降ってくるゆきなだれはゲッコウガの体内から迸る赤い光によって溶けていった。

 

「………ねぇ、実はゲッコウガって強かったりする?」

「強いも何も先輩と手を組んだ時点で敵なしってくらいには最強だよ」

「え? じゃあ、あたしとのバトルって…………」

「本当はゲッコウガで一人勝ちできてたかもしれませんねー」

「うっそ…………」

 

 いやいや、そこまではないから。

 これはあれだ。相手が強いほどゲッコウガが自分に使えそうな技を盗みにいってるからだ。

 だから今は強く見えるんだ。まあ、実際強いけど。それについてこられるオーダイルもやっぱり強い。

 

「本当にそのゲッコウガは相手にすると厄介ね。バトルの最中に相手の技を見ただけでモノするなんてゲッコウガくらいよ」

 

 そりゃどうも。

 特に俺が育ててるってわけでもないから別に褒められても嬉しくもない。

 勝手に育つんだもんなー。楽でいいけど。

 

「オーダイル、アクアジェット!」

 

 また懲りずにアクアジェットか。

 さて、また同じ手で躱すのもな………。

 は? マジで?

 またなの?

 お前、もう伝説のポケモンになっちゃっていいんじゃない?

 

「じんつうりき」

 

 どこから覚えてきたのか知らんが、いつの間に俺の知らないうちに覚えたらしい。

 見えない力で水のベールに包まれたオーダイルの動きを封じる。そして、上下に引っ張ったり、空中で振り回したり地面に叩きつけたりして、ダメージを与えていく。

 とうとうエスパータイプにまでなっちゃったよ。

 プレートのポケモンみたいだな。

 

「オーダイル、集中しなさい。無理に動けば相手の思うツボよ。落ち着いて自分の力に自信を持ちなさい」

 

 身悶えて暴れていたオーダイルが大人しくなった。

 俺には忠実だって言ってるけど、ユキノシタへの方がよっぽど忠実だと思う。

 

「りゅうのまい」

 

 じんつうりきで身体を動かせない分、動かなくても発動できるりゅうのまいをしてきた。炎と水と電気の三点張りからの合成。絡み合う三つのエネルギーは次第に竜の気へと変化し、水のベールを竜の気へと昇華させた。

 二度も使われたんじゃ、いよいよもって危険だ。

 そろそろ狩りに行かなければ。

 

「まずはげきりんでじんつうりきを破りなさい!」

「ウォダァァァアアアアアアーッ!」

 

 おおう、綺麗に破られちゃったよ。というかそれが普通か。げきりんだし、りゅうのまいを二回も使ってるし。

 スピードも格段に上がっているはず。

 つーか、そろそろげきりゅうも発動してくるんじゃね? やばくね?

 

「そのままゲッコウガに突っ込んで!」

「まもる」

 

 取り敢えず壁でも作っておこう。

 あの荒れ狂う竜の気を何とかしないとな。

 近づくのすら怖いんだけど。

 

「押し切りなさい!」

 

 あ、やべ、今ピシって言ったよ、ピシって。

 ドーム型の壁にヒビ入ってんじゃん。

 うおー、げきりんパネェ。

 早く影に入ろう。

 

「逃がさないわよ。シャドークロー」

 

 あら? あらららららら?

 考え読まれちゃってるよ?

 やっぱり同じパターンで躱すのはユキノシタ相手には分が悪いね。

 咄嗟に黒い手刀で受け止めたけどさ。

 

「ウォダァァアアアアアアアアアアッ!!」

 

 あー、なんか一層気合入っちゃったよ。

 つか、重い……。

 

「つばめがえし」

 

 上から体重をかけられているので、少し身体を下げて懐に潜った。

 オーダイルは雄叫びの最中に前のめりになって、バランスを崩す。

 

「カウンター」

 

 だが、ユキノシタの命令で前のめりになった身体を頑丈な脚で踏み止め、ゲッコウガの白い手刀を掴んだ。

 

 ーーーやばい。

 

 ゲッコウガの身体が危険を察知したのか、素早く手刀から手を離し、遠心力を活かしてオーダイルの脇を潜り抜け背後に回った。

 なんか本能によって助けられたわ。

 どんだけ戦い慣れしてんだよ。

 

「ドラゴンテール」

 

 おい、マジか。

 これでもまだ仕掛けてくるかっ?!

 オーダイルは再び身体を前に倒し、地面につけていた尻尾を振り上げてきた。

 

「つじぎり」

 

 躱すのも難しそうなので、どうせダメージを受けるならこちらも攻撃することにした。だってほら、攻撃は最大の防御とかいうじゃん? 運良く受けないって可能性もあるし。

 

「痛ッて?!」

 

 まあ、無理だったけど。

 すげぇ痛い。

 ポケモンって改めて大変な生き物だなって思うわ。人間に命令されてバトルしてダメージ受けてボロボロになって。

 それでも気に食わなければ捨てられる。

 人間、クソだな。

 ポケモンの方がカースト上なんじゃないの?

 トレーナーである俺が言うなって話か。

 

「みずしゅりけん」

 

 吹っ飛ばされるついでにでかい水の手裏剣を投げておく。

 

「ハイドロカノン!」

 

 げっ、このタイミングで使ってきやがった。

 この状態じゃ躱しようがないんですけど。

 影にも入れないわ、守り壁を作っても究極技になんか意味をなさないわ。しかもん何気に竜の気も帯びてるんですけど。乗せんなよ。

 仕方ない、先は読めないがこれしかないな。

 

「ハイドロカノン」

 

 こっちも同じようにぶつけるとしよう。

 さっき投げたみずしゅりけんが丁度二つの究極技の遭遇点になってるし。超どうでもいいな。

 下からくる勢いとこっちから撃ち出す水の勢いでゲッコウガの身体が上昇していくのが分かる。ただ、下からくる水が段々と竜の形に変わってきていて不気味である。

 こんだけ高く(高くて怖いなんてことはないぞ? ほんとだぞ?)昇って水で身体が隠れてしまえばこっちにもやりようがあるな。

 密かに影を増やして、身体の硬直状態の時間を少し稼ぎ、オーダイルの背後に移動する。

 そして地面を叩き殴り。

 

「ッ!? オーダイル!」

 

 割れた地面から草を伸ばしてオーダイルの身体を絡め取る。

 

「げきーー」

「つじぎり」

 

 ユキノシタの命令よりも先にオーダイルの意識を狩った。

 

「オーダイル!?」

「オーダイル戦闘不能。さすがだな」

 

 先生がジャッジを下した後に何言っていたが、やっと自分の視界に戻った俺の脳はそれどころではなかった。

 疲労困憊。

 長時間の融合は俺の身体に負担がかかることが分かった。

 これからは必要最低限でしか使わない方がいいのかもしれない。

 繋がってる時はいいが、その間に俺の身体が狙われたどうしようもない。勝った後も他にまだ敵がいたとしたら絶対にこの身体では逃げ遅れてしまう。

 なるほど、新たな力を欲すれば必ずデメリットがあるというわけだ。

 

「ゲッ、コウガ………」

「コウ、ガ………」

 

 水のベールも無くなったゲッコウガもさすがに疲れたらしい。あいつ自身にもあの状態は堪えるものがあるみたいだな。

 

「お疲れ様、オーダイル。ハチコウガ相手によくやったわ」

 

 ユキノシタがオーダイルをボールに戻しながら変な名前を口にした。

 

「………なんだよ、ハチコウガって………」

「あら、あなたたちのことよ。ハチ公のゲッコウガ。だからハチコウガ」

「普通にゲッコウガでいいです」

「いい名前だと思ったのだけれど」

 

 ハチコウガって…………。どうなの、それ。

 俺がゲッコウガをハチコウガって呼んだりするわけ?

 ないな………。呼んでも返事しないまである。というか刺されそう。

 

「その流れでいくと先輩のリザードンはハチドンですね」

「やめてやれ。蜂蜜いっぱいかかったどんぶりみたいで気持ち悪い」

 

 イッシキがリザードンまでいじめてくるんですけど。

 そんなこと言うからゲッコウガにいじめられるんじゃないか?

 ユキノシタは俺と一緒で怖いみたい。

 後、基本食事はユキノシタが作るから逆らわないみたい。

 この時点で俺よりも上にいるよね、ユキノシタって。

 

「………ねえ、なんでみんなそんな普通に会話してるの………?」

「え? どうかしましたか?」

 

 なんか俺たちの会話を驚愕した表情を浮かべて唖然としているコルニがいた。

 どうかしたのか?

 

「や、その反応はおかしいでしょ! こんなバトル、見たことないよ! おじいちゃんでもこんなバトルしないのに」

「まあ、あの二人は別格だからねー」

 

 これくらい普通じゃね?

 つか、二人とも一応元チャンプだし。

 これくらいできないと逆に、ね。

 

「なに、君達も二人の後を追っているよ。大丈夫だ、ちゃんと影響されている」

「それって褒めてます? 先生」

 

 多分、褒めてるんだと思うぞ、イッシキ。

 

「当たり前だ。大絶賛している。いつか私が倒す日を待っているぞ」

「『私を』じゃないところが先生らしいね」

「どんだけ勝ちたいんだよ」

 

 ほんとこの人大人気ないな。

 

「さて、長話をしているとゲッコウガが回復してしまいそうだから続きと行こうかしら。ボーマンダ、いきなさい」

「マンダッ!」

「うっわ、やっぱりボーマンダきちゃったよ。すまんゲッコウガ、一発だけ頼むわ」

 

 こそっと隣にいるゲッコウガにモンスターボールを渡しておく。

 

「コウガ」

 

 これマジでクレセリア出てくるんじゃねぇの?

 やだなー。

 ボーマンダは絶対メガシンカさせてくるし、リザードンでいくのがベストじゃん?

 それの起点を作るためにゲッコウガには一発攻撃を当ててもらうとして、仮にリザードンでボーマンダを倒したとして、クレセリア相手に果たしてどこまでいけるか。

 オーダイルを見る限り、ボーマンダもクレセリアも俺の想定内で終わらせているはずがない。俺の手持ちは分かりきっているため、何か対策はしているはずだ。ゴリ押しのバトルも今回は無理だろう。

 うーん、先が読めん。

 

「あら、そのままゲッコウガでくるのね」

「まあ、ゲッコウガにはやって欲しいことがあるからな」

「そう、………ボーマンダ、ドラゴンダイブ」

「端から飛ばしてくんなー。ゲッコウガ、えんまく」

 

 黒煙を出して、竜を纏ったボーマンダの視界を遮る。

 その間にゲッコウガは煙の中を走っていき、ボーマンダの背後に回った。

 

「れいとうビーム」

 

 ドラゴン・ひこうタイプであるボーマンダには効果が抜群過ぎるこおりタイプの技を使わないとな。せっかく覚えてるんだし。

 

「急上昇」

 

 氷の光線ははずれたようで、黒煙の中をボーマンダが上昇していくのが見えた。

 上か………。

 

「ハイドロポンプ」

 

 地面に水砲撃を叩きつけて、ゲッコウガも上昇。

 

「旋回、かみなりのキバ」

 

 上昇していた身体をくるっと旋回して、空気を思いっきり蹴り急降下してくるボーマンダ。

 そのキバはビリビリと電気が走っている。

 

「……………」

 

 躱そうと思えばゲッコウガならば普通に躱せるだろう。だけど、ただ単に躱したのでは次の攻撃の起点にはならない。

 

「………躱さ、ないの?」

 

 コルニがポツリと呟く。

 躱さないのかと聞かれれば当然躱しますとも。ダメージを自分から受けに行くとかカウンターでも覚えてない限りやらないって。

 

「今だ! 躱せ!」

 

 ボーマンダのキバが当たりそうな距離まで引きつけてからの回避。

 これならば、攻撃にしか意識がいっていないボーマンダの背後を取れて、次に繋げられるはず。

 

「ッッ!? つばめがえし!」

 

 チッ、首から後ろにはまだ技を使える場所があるのに気づいたか。

 気付かなかったら楽だったのに。

 

「コウ、ガッ!」

 

 だが、やはりゲッコウガは身のこなしが上手い。

 長い舌を使ってボーマンダの首に巻きつき、地面へ叩きつけるように力を加え、自分は反動力で白く光る翼の下を潜り抜けた。

 なんつー身のこなしだよ。

 

「すごっ…………」

 

 ほら、コルニの口が大きく開いちゃってるじゃん。もう少し恥じらいを持てよ、とは言わない。言うとこの女子率の高いメンバーから何を言われるか分からんからな。ハチマン、ヒビガクシュウシテルヨ。

 

「スイッチ!」

 

 俺がそう言うと、ゲッコウガは赤いボールをみずしゅりけんに挟んでボーマンダの方へと投げた。

 そして、自分は俺がスイッチを押して開いたボールへと吸い込まれていく。

 投げたボールの中からは当然、奴が出てくる。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 待ってましたと言わんばかりの雄叫びとともに、地面へと落ちていくボーマンダに勢いよく突っ込んでいくリザードン。みすしゅりけんはしゅるしゅるしゅると空気を切る音とともにボーマンダに襲い掛かった。

 

「ボーマンダ! エアキックターン!」

 

 だが、瞬時に状況を納得したユキノシタはどこぞの誰かが使っている飛行技を使ってきた。

 なんでエアキックターンだけは隠す気がないのかしらん?

 

「トルネード!」

 

 再度思いっきり空気を蹴って急上昇してくるボーマンダ。

 おかげでみずしゅりけんがボーマンダの突撃によって消えちゃったよ。ダメージとかあまりなかったみたいだな。

 多分、何かしらの技は使ってくるはずなので、追加で回転を加えておく。これである程度の技ならば何とかできるはずだ。

 

「ドラゴンダイブ!」

 

 再び竜を纏ったボーマンダは回転しだしたリザードンに突っ込んでいった。

 竜気と竜気がぶつかり合い、激しい爆発が起こる。

 

「「つばめがえし!」」

 

 煙が上がってポケモンたちは見えないが、二人して考えていたことは同じなようだ。

 キンッ、キンッ、と何かがぶつかり合う音が聞こえてくる。

 そんなこんなしていると二体の激しい攻防により煙が晴れ、姿を見せた。

 翼をはためかせて宙に浮く二体の竜。

 赤と青の対照的なドラゴンはそれぞれ首に体色を表す石を付けている。

 こっから見ても意外と目立つな。

 

「ボーマンダ!」

「リザードン!」

 

 ごくりと周りから唾を飲み込む音が聞こえてくる。

 

「「メガシンカ!!」」

 

 俺の握るキーストーンとリザードンの蒼黒いメガストーン、ユキノシタの髪飾りとボーマンダの赤と青の対反する色のメガストーンが共鳴を起こし始める。

 進化を超えたメガシンカ。

 こうしてユキノシタとメガシンカ同士でバトルさせる日が来ることになるとは。

 

「ドラゴンダイブ!」

「ハイヨーヨー」

 

 竜を纏って突っ込んできたので、急上昇して回避。

 

「上昇!」

 

 カックンと上に方向を変え、上昇してくる。

 リザードンはそれを見て、急降下。

 だが技は出さない。

 

「躱せ」

 

 くるっと身を翻して、ボーマンダのとっしんを躱した。

 

「エアキックターン」

 

 それじゃ、本物を見せてあげましょうかね。

 リザードンは空気に圧力をかけて踏みとどまる。そして激しく空気を両足両翼で打ちつけ急上昇を図る。

 

「トルネードドラゴンクロー」

 

 竜の爪を前に突き出し最初から回転させ、空気抵抗を減らしていく。

 

「ボーマンダ、ギアを上げて! いわなだれ!」

 

 えー、こいつも新しく技覚えてるんですけど。しかもいわタイプ技とかないわー。

 

「リザードン、そのまま突っ込め」

 

 ま、丁度今は回転をかけてるから降ってくる岩も砕けるだろ。

 

「さすがリザードンだな。一枚二枚程度の小細工など通用しないのは昔から変わらないな」

「…………そんなに、強いん、ですか………?」

「ん? ああ、基本ヒキガヤが手を加えたポケモンは一癖も二癖も持っている。一般的な攻撃パターンじゃ躱すどころが逆に利用されかねない」

「…………はあ…………………」

 

 なんか先生とコルニが話してるんだけど。

 珍しい組み合わせだな。

 

「やはりこの程度では効かないわね」

 

 降ってくる岩をドリルで砕き、上昇を止めない。

 ボーマンダはふっと動きを一瞬だけ止めて、翻った。

 

「ドラゴンテール!」

 

 横から竜の気を纏った尻尾で回転しているリザードンの竜爪を弾いた。

 バランスを崩したリザードンは背中から地面に落ちる形となった。

 つまり。

 

「ギガインパクト!」

 

 空いた懐が狙い所となってしまったのだ。

 リザードンはすぐさま回転を止め、爪も解除した。

 そして、飛び込んでくるボーマンダをただひたすら待ち受ける。

 

「…………」

 

 まだだ。

 もう少し…………。

 

「ッ!! カウンター!」

 

 タイミングを合わせてボーマンダの首に掴みかかり、同じ速さで急下降していく。

 そして、地面スレスレのところで脚と尻尾でボーマンダの身体を持ち上げ、くるっと後方宙返りで地面に叩きつけた。

 

「ボーマンダ!?」

 

 ユキノシタの声にボーマンダが唸り声をあげたので、リザードンはすかさず上昇して距離をとった。

 

「あそこからでも切り返してくるなんて…………」

「ボーマンダ、眠って回復しなさい」

 

 え? ちょ、マジで?

 回復とかないわー。なんだよ今までの俺たちの労力は。

 

「仕方ない。眠ってるうちに終わらせるか。リザードン、りゅうのまい」

 

 まずはりゅうのまいで竜の気のご加護を受けることにする。

 メガシンカにりゅうのまいとか鬼畜だろとか言うなよ。イッシキあたりが絶対に行ってきそうだから。

 リザードンは炎と水と電気の三点張りからの合成で三つのエネルギーを竜の気へと昇華させていく。

 

「じしん!」

 

 そして、勢いよく下降し地面を激しく揺らした。

 眠っているボーマンダは当然、地面の上に立っている。

 ひこうタイプは飛んでいてこそ真価を発揮するものだ。だから今の飛んでいないボーマンダはただのドラゴンでしかない。

 

「くっ、ねごと!」

 

 うはっ!

 まだあったのかよ。

 つか、うるさい!

 なんだよ、これ。ハイパーボイスか?

 

「はあ………はあ………耳痛ぇ……」

 

 あーあ、自分のでかい声でボーマンダが起きちゃったじゃん。

 もう少し攻めておこうと思ったのに。

 

「そろそろ終わりにしましょうか。ボーマンダ、りゅうせいぐん!」

 

 いいよ、もう。新しい技とか。

 しかもりゅうせいぐんとかザクロさんも使ってたけど、覚えタノってあの時ってことはないよね?

 

「リザードン、ギア最大! こっからは全て出せ! ソニックブースト!」

 

 ゼロからいきなりトップに切り替え、降り注ぐ隕石群の中を突き進んでいく。

 

「そらをとぶ!」

 

 急上昇をしてリザードンから距離を取られた。

 

「ハイヨーヨー!」

 

 両足で地面を蹴り上げ、直角に切り返し、こっちも急上昇を始める。

 

「ドラゴンダイブ!」

 

 ボーマンダはあろうことか降り注ぐ隕石群の中を掻い潜って急下降してきた。

 まさにすてみタックルだな。

 一つ間違えれば自分も針の筵になるというのに。

 

「シザーズ!」

 

 左右に移動して焦点を撹乱させる。

 隕石を躱しながら撹乱とか我ながら無茶な要求だったな、と口にしてから思った。

 思ったけどできてるところがすごいよな。

 

「躱してエアキックターン!」

 

 身を捻ってボーマンダの突進を躱す。そして、そのまま空気を深く蹴りつけ下降へと切り替える。

 これで背後は取った。

 

「ボーマンダ! 翻って躱しなさい!」

「甘い。コブラ!」

 

 背後に着いたリザードンから背中を守るように身を捻り、逆に背後を取ろうと動き出したので、一瞬だけ急停止し、再度急発進させなおもボーマンダの背後に着く。

 

「ブラストバーン!」

 

 ボーマンダがリザードンを見失った一瞬を狙って、背中から直接究極技を叩き込んだ。

 燃え盛る火ダルマは叩きつけられた勢いで地面へと身体を打ち付けた。

 

「げきりん!」

 

 だが、燃え盛る火ダルマ(注:ボーマンダさん)は中で竜の気を激しく唸らせ、目の色も変えた。

 そして、上空にいるリザードンの懐に一瞬で舞い戻ってきた。

 

「デルタフォース!」

 

 究極技を放った直後なのでリザードンの動きは鈍い。

 そこに暴走を自身の力に取り込んだげきりんを躱す素早さはない。

 攻撃を受けるしか手がないな。

 それにしてもデルタフォースとか…………。

 どこまで覚えさせたんだよ。

 そこら辺までいくともう超上級者向けだからね。それを何マスターしてんだよ。

 

「仕方ない、あまり見せたくはないが、リザードンに『全て出せ』って言った手前、やるしかないよな」

 

 多分、こいつらの前では初めて魅せる技。

 や、技自体は最近よく目にしているか。

 

「リザードン、ーーーげきりん」

 

 空中で大三角形を描くように動いてリザードンを攻撃しているボーマンダが、俺の一言で地面へと再度叩き落された。

 

「ボ、ボーマンダッ!?」

 

 突然のことに一瞬理解が追いつかなかったユキノシタが地面に叩きつけられたボーマンダを呼びかける。

 だが、今回は返答はなく代わりにメガシンカが解かれた。

 つまり、これはボーマンダが戦闘不能になった証。

 

「ボーマンダ、戦闘不能」

 

 …………ふぅ。

 長いよ、すげぇ長いよ。

 ようやく二体目倒したとこかよ。

 あと一体いるとか、もう疲れたんですけど。

 強敵相手には一瞬の隙も与えられないからな。平団員100人相手にする方がまだ楽かもしれん。や、それは言い過ぎか。100人とか数で負けるわ。

 

「リザードンが…………げきりん……………?」

「それがどうかしたか?」

 

 ユキノシタがなんか信じられないものを見たかのような目で見てきた。

 や、リザードンですよ、あなた。メガシンカしたらドラゴンにタイプ変更するポケモンですよ? げきりんくらい覚えますって。

 まあ多分、そこじゃないんだろうけど。

 

「お前のオーダイルにげきりんを覚えさせたのは俺だぞ? そんな俺がげきりんを覚えるリザードンに覚えさせてないわけないだろ」

「…………そ、そうね…………。ごめんなさい、ちょっと取り乱してしまったわ。その………オーダイルやボーマンダのげきりんとは威力が違いすぎてたものだから………」

 

 だろうな。

 ボーマンダは覚えたてだし、オーダイルもユキノシタの方が覚えていることを知らなかったんだから、当然使う機会もなかった。

 逆に俺は『お掃除』に使ってたからな。完成度は比じゃない。

 

「んで、あと一体だけど、やめる?」

「やめないわよ。今の私の実力があなたにどこまで通用するのかはっきりさせておきたいもの」

「さいですか」

 

 続行するらしい。

 俺的にはもう疲れたからやめたい気はする。

 

「ねぇ………、本当に二人とも何者なの…………?」

 

 あー、ちょっと刺激が強すぎたか?

 コルニの目の色が消えかかってるんだけど。

 

「あたしとのバトルなんて、全然…………」

 

 目尻に涙を浮かべている。

 こりゃ、マジでな方でアウトだったわ。

 

「………そう言うな。あの二人も君と同じトレーナーだ。付け加えるなら君と同じポケモン協会に実力を認められたトレーナーだ。その二人が君に何故バトルを見せていると思う? 何故あの時ユキノシタが君を誘ったと思う?」

 

 ………よかった。

 そういやここには『先生』がいるんだった。

 あれ? まさか先生、最初から気付いてたのか? だからついてきたとか?

 いや、俺もユキノシタがコルニを誘った時は驚いたけど、よくよく考えてみれば彼女なりに俺のやり方に加わってきたのかもしれない。

 

「え、それは………」

「トレーナーの可能性だよ。君のバトルを見る限り、どこかポケモンに遠慮をしている節があった。まあ、無理もない。聞けば過去にメガシンカを暴走させたというじゃないか。有り余る力に慄くな、というのも可哀想な話だ。だから過去の経験を踏まえてユキノシタは君を誘ったんだよ」

 

 暴走。

 この中でそれを経験したことがあるのは、俺が知ってる限りユキノシタとコルニだけ。だから俺たちが気づかなかった部分にも気づけたのだろうし、俺たちには知り得ない克服の仕方を彼女は知っている。

 それを伝えるためにも、あるいはこの状況こそが彼女が作り出したかったものなのかもしれない。

 全ては彼女のみぞ知るってか。

 

「…………私が以前、オーダイルを暴走させた時にはこの目の腐った男が全てを変えてくれたわ。そう、『全て』ね。だけどあなたはまだ暴走からの先をどうすればいいのか見つけられていない。だからヒキガヤくんと私のバトルで、あなたが思う強者同士のバトルで何か見つけて欲しかったのよ。私のようにね」

 

 ……………ええ話やなぁ。

 ほとんど俺が関係してるけど。

 ただ一つ気になる。コルニの場合は俺たちだとして、ユキノシタの場合は強者同士って誰だったの?

 

「さて、再開しましょうか。ヒキガヤくんは薄々気が付いているだろうけど、クレセリア、いきなさい」

 

 はい、気付いてますよ。

 エースが来てメガシンカが来たら、最後は伝説しかないでしょうよ。

 

「はあ………本当はこのままリザードンで行きたかったんだけどな。あんな話聞かされたら、俺もこいつを出すしかないだろ」

 

 まさかとは思うけどこの流れもユキノシタの策略だったり?

 有り得そうだから怖いんだけど。

 

「リザードン、お疲れさん。悪いが交代だ」

「シャア」

 

 リザードンも話を理解していたらしく、あっさりと了解してくれた。メガシンカを解くと自分からボールの中へと入っていくくらいには理解している。

 リザードンといい、ゲッコウガといい、頭よすぎだろ。

 

「いるか?」

 

 コンコンと右足で俺の陰を二回叩くと、ぬっと影から黒いのが出てきた。

 

「悪いがユキノシタのご指名だ。お前からしたら因縁の相手にはなるかもしれんが、一発頼む」

 

 無言でコクっと首を縦に振って了解してくれた。

 本当はあまり力を使わせたくはないんだが。

 まあ、たまの運動と思っておくか。

 

「………なに、このポケモンたち……………」

「ダークライとクレセリアだよ。シンオウ地方に伝わる伝説のポケモンたちだ」

「ッッ!? ど、どうしてそんなポケモンをこの二人がっ!?」

「さあ、そこは知らん。二人がどうしてあのポケモンたちと出会ったのかは聞いていない。だが伝説をも使いこなすトレーナー。トレーナーならば一度は憧れたことがあるだろう? この二人が使いこなせているのだ。君達にもそのチャンスと可能性はあるんだよ。当然私もな」

 

 ほんと、かっこよすぎんだろ。

 それなのにどうして結婚できないのか。

 俺が十年早く生まれてれば確実に告白してふられてたぞ。ふられちゃうのかよ。

 

「すー………はー………」

 

 ユキノシタが深呼吸を始めたんだけど。

 そんなに気合い入れないとダメなの?

 

「しっかり見ておきたまえ。これがトレーナーの可能性だ」

「クレセリア、シグナルビーム」

 

 はあ………。

 分かってたけどさ。

 マジでみんな新しく技を覚えさせてるのね。

 

「かげぶんしん」

 

 陰に入るくらいだし覚えてるかなーって感じで言ってみたら、覚えていやがった。

 これならこいつも他に俺の知らないところで、新しい技を覚えてきているかもしれないな。

 

「あくのはどう」

 

 陰をクレセリアの周りを一周させ、全方位からの黒い波導を撃ち出していく。

 

「くさむすび」

 

 地面から草を伸ばし、絡め合わせてドーム型のシェルターを作り出した。

 黒い波導は全て草に吸われ、掻き消されてしまった。

 

「大人しくさせた方がいいか。ダークライ、ダークホール」

 

 全ての影が黒い穴を作り出し、徐々にクレセリアとの距離を詰めていく。

 

「ッ!? あ、あれって………」

「あ、気づいちゃった? そうだよ、あたしが使った眠らせる技だよ。元々はヒッキーのあのポケモンが使う技だったんだけど、マーブルがスケッチしちゃってさ………」

 

 そういやさっきユイガハマが使ってたな。

 ………ドーブルが段々と鬼畜化していく。

 

「サイコキネシス」

 

 黒い穴に向けて超念力で草を操り、攻撃していく。

 意識は周りから迫るつつある黒い穴にあるか。

 なら。

 

「下からやれ」

 

 その一言でダークライの本体は影を伝ってクレセリアの下に移動し、黒い穴を出現させた。

 いくら特性ふゆうで浮いているクレセリアと言えど、ブラックホールのごとく吸い込んでいくダークホールにはなす術もなく吸い込まれていった。

 これで出て来れば大人しく眠っているだろう。

 ダークライがクレセリアを取り出すのを待ち、様子を確認する。

 一つ、ユキノシタがなぜか笑っていたのが気持ち悪かった。

 

「眠ったか」

「サイコシフト」

 

 げっ。

 マジで?

 それ覚えてんの?

 状態異常にする奴相手にはもってこいの技じゃねぇか。なにその状態異常殺し。返さなくていいから、そのまま受け取っておけよ。

 

「ダークライ!」

 

 眠り状態を移されながら、何とかダークライは陰の中に引き返した。

 このままだとダークライの方が負けそうだな。

 

「よく陰に隠れるけれど、さすがにこの攻撃は無理なんじゃないかしら? ムーンフォース」

 

 うっわ、ないわー。

 あくタイプが苦手とするフェアリータイプの技。

 しかも月の光を利用した技であるのが何ともクレセリアらしい。

 ダークライも月に関係してるんだし、あくタイプでも覚えてくれたりしないかね。そもそも何覚えるのか知らんけど。

 

「あくのはどう」

 

 起きたかどうかは知らんけど、陰に向けて声を投げてみる。

 反応はない。

 その間にも月の光を溜め込んだクレセリアはエネルギーを弾丸にして飛ばしてきた。向かうはダークライが潜った陰。

 弾丸は陰に当たると何故か吸い込まれていった。

 あ、これダークホールの方だったのか。意外と見分けつかねぇな。

 となると、あいつはどこへ行った?

 

「クレセリア、後ろよ! ムーンフォース」

 

 クレセリアの後ろか。

 なら話は早い。

 

「ふいうち」

 

 バッと消えたかと思うと振り向いたクレセリアの背後に現れた。

 そして、後頭部から背中から殴りつけ、攻撃していく。

 効果は抜群だな。

 

「くさむすび」

「あくのはどう」

 

 振り向くことなく殴られた感触をたどり、ダークライの位置を特定すると草を伸ばしてきた。

 生い茂る草はダークライの細い足を絡め取った。

 ダークライは絡め取られながらも黒い波導をクレセリアの背後に打ち付けていく。

 なんという耐久力。

 普通に効果抜群の技を当てても倒れることがない。

 

「ダークホール」

「懲りずにまた来るのね」

 

 クレセリアは躱すこともなく今度は素直に黒い穴の中へと入っていった。

 特に考えがあるわけでもないが、取り敢えずクレセリアの動きを止めなければ、永遠に耐えてきそうで怖い。

 以前はリザードンで強引な力任せなバトルで切り抜けられたが、そもそもは伝説のポケモン。オーダイルの暴走を克服し、さらにトレーナーとして成長したユキノシタに応えるかのようにクレセリアも力を出し始めている。もう以前のクレセリアと思ってバトルしてはいけないだろう。

 このバトルは伝説のポケモン同士の戦い。

 俺もダークライの本来の力を引き出さないといけないみたいだ。

 

「サイコシフト」

「かなしばり!」

 

 悪夢繋がりで金縛りを思い出し、命令してみた。

 使ったかどうかは分からない。

 だが、次にサイコシフトを使ってきても使えなくなっているだろう。

 

「えっ?」

 

 ダークライに眠り状態を移したはずなのに、またもや黒い穴が出現しクレセリアは吸い込まれていった。

 今度はダークライも陰に潜ることなく、宙に浮いたまま眠っている。生い茂った草に絡まれているので、見方によっては囚われの姫って感じだな。オスかメスか知らんけど。

 だからサイコシフトが失敗したわけではない。

 多分だが、ダークライ自身があらかじめ何個も穴を作り出しておいたのだろう。確かなことは分からないが、そう考えれば辻褄が合う。ヤドキングのトリックルームの重ねがけにでも触発されたのかね。

 

「クレセリア!?」

 

 黒い穴から出てきたクレセリアは眠っていた。

 …………なにこのどっちのポケモンも寝てるとか。

 これがバトルですって言われても初めて見た人には全くそうには見えないよな。

 

「かげぶんしん」

 

 先に眠っていたダークライが目を開いたので命令を再開する。

 

「あくのはどう」

 

 眠っているクレセリアを包囲したダークライは黒い波導で攻撃していく。

 

「起きなさい、クレセリア」

 

 そんなクレセリアを見てユキノシタが声をかけるが、反応は返ってこない。

 その間もダークライは黒い波導を撃ち続けている。

 だが、突然パチッと目が開いた。

 

「ッッ! ムーンフォース!」

 

 起きたクレセリアは月の光を集めていき弾丸にしていく。

 チッ、あとちょっとだったが起きてしまったか。

 ならば仕方ない。これで決めるとしよう。

 

「ダークライ、出力最大であくのはどう!」

 

 両者とも最大火力で技をぶつけ合った。

 爆風は生まれるわ、建物が揺れるわ、それはもう恐ろしいの一言である。

 大丈夫かな、この建物。

 

「クレセリア!」

 

 ユキノシタがクレセリアを呼びかける。

 だけど俺は呼びかけはしない。

 だって、もうそこにはいないし。

 

「クレセリア、戦闘不能………ダークライはどうした?」

「そそくさと陰の中に帰って行きましたよ」

 

 煙が晴れて見えてきたのはクレセリアだけが地面に倒れ伏すという現実。

 ヒラツカ先生の判定を受けてユキノシタはクレセリアをボールへと戻した。

 

「はぁ…………、終わってみれば結果は惨敗ね」

「いやいやいや、俺だいぶピンチだったからね? オーダイルにしろボーマンダにしろクレセリアにしろ、俺たちを倒すために技を新しく覚えさせるとか、ガチすぎんだろ」

「あら、私はこの時のために育ててたようなものだもの。あなたを倒しに行って何が悪いのかしら? 負けたけど」

「や、別に悪いとは言ってないだろ」

「そうかしら? どちらにしろ私が負けたのは事実よ。まだまだあなたには及ばないということね」

「ねぇ、ちょっとー。どんだけ負けたのが悔しかったんだよ。根に持ちすぎだろ」

「言ってなかったかしら? 私、結構根に持つタイプよ」

「重い………重すぎる…………」

 

 何この子。

 めちゃくちゃ悔しがってるんですけど。

 今にも泣きそうなまである。

 

「ゆきのーん、おつかれー」

「ゆ、ユイガハマさん、勢いよく抱きつかないでくれる……聞いてないわね」

 

 ガバッとユイガハマが彼女に抱きついていった。

 そんな百合百合しい二人を見てる俺のところにはコルニがやってきた。後ろにはイッシキとコマチを連れてだけど。

 

「…………あたし、間違ってたのかな………?」

「あ? なにが?」

「心のどこかで暴走させないようにセーブさせて、それでいてルカリオとは心から繋がってるとか言って、メガシンカの裏に自分の弱さを隠したりしてさ」

 

 ぽつりぽつりと呟いていく彼女の姿にはさっきまでの威勢の良さはまるでなかった。

 

「別にいいんじゃねぇの。そんなこと言ったら、本気出す本気出すって言いながら心のどこかでセーブをかけてる俺なんか間違いだらけじゃねぇか」

「結局先輩の本気ってどれなんですかね。今のバトルも本気なのか正直分かりませんでした」

「それくらいでいいんじゃね? 全てが分かったら面白みもクソもねぇだろ」

「それもそっか」

 

 ちょっとイッシキさん?

 俺今回は結構本気出してましたよ?

 というか本気出さないと勝てませんでしたよ?

 

「コルニさん」

「ユキノさん?」

 

 なんてイッシキに念じを送っているとユキノシタがやってきた。ユイガハマの抱きつきには諦めたらしい。

 

「今すぐに克服しろとは言わないわ。そんなもの人それぞれだもの。だけどあなたには言っておくわ。迷ったらヒキガヤくんを思い出しなさい。こんなのでも元チャンピオンだったりポケモンリーグの優勝者なのよ。トレーナーにはいつだって可能性で満ち溢れているわ」

 

 あれ?

 なんか俺褒められてるようで貶されてない?

 

「うん、そうだよね。ハチマンでもチャンピオンになれるんだもん。トレーナーにできないことはないよね」

「ええ」

「ねぇ、ちょっとー。二人の会話なのに俺を貶すのやめてくれない? その内俺のハートがブレイクしちゃうよ」

 

 結局、なんかシリアスな話から俺の過去話で俺以外が盛り上がっていた。

 ほんとみんな俺のこと知ってるよね。

 俺の知らないことまで知ってるのとか正直怖いんだけど。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 翌日。

 少し遅めに目が覚めた俺がポケモンセンターのフロントに行くと既に誰もいなかった。

 あれ? まさかの置いて行かれたパターン?

 コマチにまで見捨てられるとは…………。

 どうしようか。

 今気づいたけどゲッコウガもいない。

 なんか久しぶりにぼっちになったわ。

 ちょっと新鮮。

 カロスに来てからというもの、なぜか行く先々で俺を知る人物に会い、旅の同行者となっていき、今では大所帯にまでなってしまった。おかげで俺のぼっちライフには終わりが告げられ、騒がしい毎日だった。

 ふひーっ。

 静かなのもいいもんだ。

 こういう日には静かに読書をしたくなる。

 ぼっち最高。

 

「あ、あの…………お連れ様でしたらマスタータワーへ行かれましたよ」

 

 なんてソファーでぼっちを満喫しているとジョーイさんに声をかけられた。

 どこに行っても同じ顔のジョーイさんは皆親戚なんだとか。

 どんなDNAしてんだよって話だよ。

 

「うすっ………」

 

 まあ、こんな返答しかできない俺もどうかと思うが。

 噛まなかっただけマシか。

 いつもならいきなり話しかけられて驚いて噛んじゃうからな。驚かなくても噛んじゃうけど。

 あれ?

 俺のアゴって結構柔だったりする?

 仕方がないので、ジョーイさんが不思議そうな顔を向けてくるのでマスタータワーへ向かうことにした。

 ああ、またしばらくお別れだな。俺のぼっちライフ。

 

 

 マスタータワーへ向かうとコルニがすげぇ落ち込んでいた。

 人前でまさかの地面に手をついて『お祈り』を始めるくらいには悔しかったらしい。

 で、その相手というのがザイモクザである。

 まあ、無理もない。

 ロックオンからのでんじほうばかり浴びせてきて、かと思うと不意に違う技で対応してきて一気に流れを持っていくようなやつなのだ。しかも計算してないのが異様に腹正しい。こうしてみるとイッシキが可愛く見えてきたわ。

 

「なんですか、先輩。というかいたんですか、先輩」

「ねぇ、開口一番に酷くね? 俺泣いちゃうよ?」

「冗談じゃないですかー。そんながっかりしないでくださいよー。ほら、今日も可愛い後輩のいろはちゃんはここにいますよー」

「うぜぇ」

「はあー、まったくこの先輩は………。そこは嘘でも『今日も可愛いね、いろは』くらい言えないんですかねー」

「お前は俺に何を求めてるんだよ。つか、誰だよ」

「先輩の真似です」

「似てねぇな」

 

 はあ………やっぱり疲れるわ、こいつの相手は。

 

「あらヒキガヤくん、ようやく起きたのね」

「起きたら誰もいないんで久しぶりのぼっちを満喫してたら、ジョーイさんに声をかけられてな。渋々ここにきた」

 

 ほんと、なんで声かけてきたんだよ。

 せっかくジョーイさんを眺めながら満喫してたというのに。

 

「ヒッキー、目がどんどん腐っていってるよ」

「どうせまたいかがわしいことでも考えているんでしょ。身の危険を感じるからこっちを見ないで」

「………どうした? なんか今日はなんか当たりがきつくない?」

「自分の心に聞くことね」

「ヒッキー、マジさいてー」

 

 え? なに?

 マジでどゆこと?

 

「ふぇ? ハチマン………?」

 

 なんかあざとい声が聞こえてきたのでそちらに振り向くとコルニが顔を真っ赤にして俺を見上げていた。

 当然バッチリと目が合った。

 

「〜〜〜〜〜〜」

 

 すると声にならない声をあげてぐいんと首をすごい勢いで逸らされた。

 え? なに?

 マジで何があったの?

 

「べ、べべべ別にあんたのことなんて好きでもなんでもないんだからね!?」

「うん、知ってる」

「うぅ〜〜〜」

 

 あれ?

 なんか間違えた?

 今度はすごい睨まれてるんだけど。

 コルニ以外にも女性陣はすごいダメなものを見る目で俺を見てくる。

 

「はぁ………これだからごみぃちゃんは。やっぱりごみぃちゃんはごみぃちゃんだよ」

 

 え、なにそれ。

 どっかのツンツン頭の人も言われてたような気がするんだけど。銀髪シスターとかに。

 

「どうせもう行くんでしょ! だったら早く行きなさいよ!」

「え、あ、ああ。まあ、そうだけど。マジでどしたの?」

「うるさいうるさいうるさいっ!」

 

 いたなー、こんなキャラ。

 同じ声の人で。

 

「さて、コルニさんの問題も解決したようだし、そろそろ次の街へ行きましょうか。誰かさんのせいで三日間も余分にシャラに長居してしまったもの」

「その節は大変ご迷惑おかけしました。反省してます」

「心がこもってないのが癪だけれど、まあ許すとしましょうか」

「………ハチマン……………」

 

 ぎゅっと俺の服の袖を掴んできたコルニが俺を見上げてきた。

 その目はさっきのようなキツい目をしたおらず、柔らかい物腰だった。

 

「ありがとね」

「お、おう………」

 

 こうして、コルニと博士とヒラツカ先生に見送られ、俺たちは次の街へと向かった。イッシキやコマチに道中コルニとのことでいじられたのは内緒だぞ。

 

 

 

 

 この日、アサメタウンというカロス地方の南の街で大事件が起きていたことを俺たちはまだ知らない。




はい、ということでますはここまでお疲れ様でした。

字数が段々多くなってきて途中で切ろうかとも思ったのですが、バトルの途中で切るのも後味悪いかなと思い、こんなに長くなってしまいました。
最後が薄いと感じてしまったら申し訳ないです。

おかげで金曜日に投稿できるかどうかが怪しくなってしまいました。
投稿できなかったら休暇日にしたのだと思ってください。来週には投稿できるようにしておきます。


ちなみに一万九千字弱はありました………。

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