ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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43話

「で、次は誰とバトルすればいいわけ?」

 

 コルニ発情疑惑の後、何故か彼女も連れて飯を食いに行った。

 大人二人はまた篭るんだとか。何をしているのやら。

 で、一応マスタータワーに帰ってきたわけではあるが、開口一番にコルニが言った言葉がこれである。

 

「はい! あ、あたしがやる!」

 

 ユイガハマが元気に手を挙げ、発言権を得た。

 そこまでして俺を好きなようにしたいのだろうか。

 そんな執着してまで何させる気なんだ?

 ちょっと怖くなってきたんだけど。まあ、勝てないだろうけども。

 

「………あの、こう言っちゃなんだけど、大丈夫なの?」

「ば、バカにするなし! あたし、これでもゆきのんと特訓してるんだから!」

「………………」

 

 コルニが心配するのも無理はない。

 どうしてもユイガハマだけは強そうに見えないのだ。こう、なんというかコマチやイッシキみたいな計算高さもなさそうだし、初めの頃は俺のバトルを模倣しようとして失敗してたくらいだし。まあ、あの時は心の持ちようが違ってたからってのもあるけど。

 だからといって、ユイガハマの実力でなんとかできるほど、メガシンカは甘くない。ユキノシタがどういう風にユイガハマを鍛え上げてるのかは知らないが、んー怖い。イッシキが言うには強くなってるっていうし…………。

 

「大丈夫よ。ちゃんと秘策を用意してあるから。付け焼き刃に近いものだけれど」

「ユイガハマに小難しい秘策といってもダメだと思うぞ」

「ヒッキー、あたしのことバカにしすぎだし!」

「それくらい分かってるわ。もっと単純な秘策よ」

「ゆきのーん、それフォローになってないよーっ」

 

 ガバッとユキノシタに抱きつき、うわんうわん言っている。

 暑苦しい、と言う言葉も聴き慣れてきた今日この頃。

 

「まあ、取り敢えずコマチ。ボール取りに行くよ。後、バッジも渡してなかったし」

「了解であります、隊長!」

 

 敬礼とかイッシキみたいだな。

 あざとい。けどかわいい。さすがコマチ。

 

「イッシキにはないものがあるな」

「なんですか、せんぱーい。それ嫌味ですかー?」

「本心だ」

「もっと酷いです。いいですよ、もう。先輩がコルニのお尻を見ているのをユキノシタ先輩に言いつけてあげます」

「おい、やめろ、俺が悪かった。マジで悪かったから。見てないけど、そういうことあいつに言ったら「すでに聞いてるわよ」というかすでに聞かれてるこの状況を作り出すな。俺が半殺しにされるだろうが」

 

 とどめを刺さないところがポイントだな。なにそれ、超エグい。

 

「さて、オシリガヤくん。ユイガハマさんのバトルが終わったら、あの約束を果たしましょうか」

「マジでやめてくださいお願いしますさっきは俺が悪かったから悪いのはすべて俺でいいから…………約束?」

 

 すかさず土下座して謝っていると変な単語が聞こえてきた。変なというかこの状況に似つかわしくないってだけだけど。

 

「言ったでしょう。あなたとバトルするって」

「ああ、言ったな。え? なに、マジでやるの? 俺の手持ち二体だよ? 黒いの入れても三体だよ? 暴君なんか面倒くさいって言って絶対取り合ってくれないだろうし」

「あら、ならばその三体でいいじゃない。三対三のバトルで。やらないっていうのなら………分かるでしょ?」

「はい…………」

 

 怖いからっ!

 マジで怖いからっ!

 そんな言葉を切らないで!

 ゲンガーに驚かされるよりも恐怖を味わってるよ…………。

 

『にっ』

 

 …………………。

 

「「「「うわっぁぁああああああっ!?!」」」」

 

 突然、俺たちの陰から何かが出てきた。

 何かなんて顔を見ればすぐに分かる。

 ちょうど今俺が思い浮かべていたゲンガーだ。

 まさかこんな真っ昼間に野生のゲンガーがこんなところに出てくる………なんて?

 

『ケシシシシっ』

 

 驚く俺たちの反応に満足したのか、一笑いすると壁の方まで行き寄りかかって腹をぽりぽりと掻き出した。

 あれ、絶対野生じゃねぇな。

 

「……なに、あの腹立つゲンガー。校長のゲンガーを思い出すわ」

「あ、あああの時もイタズラされてたもんね」

 

 まだ驚きが止まらないのかユイガハマの声が安定しない。

 

「イタズラ程度のもんじゃなかったけどな」

「私はあの校長とはバトルしたことないから、よく知らないわ」

「先輩、よくあのメンバーに勝てましたよね」

「あんなのマグレだマグレ。ゲンガーに大爆発された時にはもう終わったかと思ったくらいだ」

 

 あの一撃でリザードンもオーダイルも戦闘不能になったからな。あれはマジでヤバイと思った。

 

「………ねえ、ヒッキー。あの時からダークライ……だっけ? あの黒いポケモンは一緒にいるの?」

「正確にはあの日の二日前に初めて会った」

「………その頃には伝説のポケモンを扱える実力があったというわけね」

「………トツカに言われるまでずっとダークライだって知らなかったけどな」

「先輩はすごいんだかただの変人なのか分かりませんね」

「ちょっとー? 俺は普通に常人だからな? 変人でも変態でもない」

「よく言うよ。鬼畜なバトルをしたり、ハーレム作ったり、そんなの変態以外の何者でもないじゃん」

 

 お、おう、コルニ。戻ってきたのか。

 

「あれ? ゲンガー? あんた何でこんなところにいるの?」

「けっ」

 

 コルニが声をかけるが、腹を掻くだけで応対しようとはしない。

 つか、コルニは知ってるんだ。

 

「お前のポケモンか?」

「おじいちゃんの。見ての通り自分大好きポケモンだからかっこつけなの」

「まるでヒキガヤくんね」

「や、俺じゃないだろ。………ダメだ、例えられそうな奴がいない」

「こんなところで友人関係の狭さが出てくるとは……」

「お前も人のこと言えんだろうが。まあ、でもポケモンも人間と同等の感情を有する生き物だからな。たまにはああいうのもいていいんじゃないか?」

「まあ、そうなんだけど。時々ムカつくのよ」

 

 ああ、家族であるコルニですらムカつく時があるのか。相当だな。

 しかもあれとあの博士が手を組んだ時には面倒なことにしかならないのが想像できてしまう。コルニも苦労してんだな。

 

「お兄ちゃん、ハーレム作るのはいいけど、作るんだったらみんな平等に、だよ」

「ねえ、そもそもハーレムとか作る気ないからね。俺にはコマチがいればそれでいい」

「そういうのみんなの前で言うのマジで勘弁してくれる? コマチ恥ずかしいんだけど」

「大丈夫だ。俺も恥ずかしくなってきた」

「なら何で言ったの?!」

 

 男には言わなきゃならない時があるんだよ、ユイガハマ。

 むろん、それが今かどうかは別であるけど。

 

「さて、ユイさん。早速始めよっか」

「あ、うん、お手柔らかに…………」

 

 ユイガハマのバトルか。

 超久しぶりに見るような気がする。

 コマチやイッシキのバトルはよく見てるんだけど、ユイガハマだけはあんまりないんだよなー。

 

「あれ? 博士は?」

「さあ?」

「誰が審判やんの?」

「決まってんじゃん」

 

 あ、俺なのね。

 分かったから、そんなじっと見ないでくれる? 恥ずかしいんだけど。ちょっとさっきのゴムの感触を思い出しちゃうからマジでやめてっ。

 

「んじゃ………何体使うわけ?」

「一体でいいんじゃないの。さすがにキツいでしょ」

「あ、うん、ならそれで…………」

 

 あれ?

 ちゃんとルール理解してる?

 

「いくよルカリオ!」

 

 俺が疑問を抱いているとコルニが先にルカリオを出してきた。

 さっきは大変ご苦労様でした。

 

「マーブル、あたしたちもいくよ!」

 

 ユイガハマが出してきたのはドーブル。

 嫌な予感がする。

 ユキノシタが秘策あるとか言ってたけど………まさかな。

 いやでもあいつならやり兼ねんし………。

 

「かくとうタイプ相手にノーマルタイプを出してくるとか、弱点ついてくださいって言ってるようなもんだよ」

「うん、分かってる。でもあたしはマーブルを信じてるから」

「あー、じゃあ、バトル開始」

 

 準備はもう良さそうなので開始の合図を送る。

 これ、多分すぐに終わりそう。

 

「ルカリオ、メガシンカの一撃で終わらせるよ。命、爆、発! メガシンカ!」

 

 二つの石が反応し合い、ルカリオが姿を変えていく。

 いやー、ヤバイな。

 メガルカリオのかくとうタイプの技を受けたらドーブルは間違いなく一撃で倒れる。

 ユイガハマ、それをお前は分かっているのか?

 

「グロウパンチ!」

 

 駆け出したルカリオは一瞬で距離を縮める。

 

「ごめんね。少し痛いけど、堪えてね」

 

 振り下ろされた拳はそのままドーブルに入った。

 だが、今のでは終わらない。

 ユイガハマが少し申し訳なさそうな顔をしてるのが、それを如実に物語っている。

 すでに秘策とやらに移っているのだろう。

 

「がむしゃら!」

 

 おいおいおいおいっ。

 ユキノシタさん?

 あなたなんて技覚えさせてるんですか?

 ちょっとどころのチートじゃないよ?

 いくらドーブルだからってマジな方の技を覚えさせるなよ。

 

「ルカリオ!?」

 

 攻撃を堪えたドーブルの我武者羅な体当たりに後方へと吹き飛ばされていくルカリオ。コルニも驚きを隠せないようだ。

 他の奴らは…………あ、みんな知ってたのね。知らないのは俺とザイモクザとコルニだけなのね。

 そうですかそうですか。俺は仲間に入れてもらえないのか。まあ、いいんだけど。

 

「………なに、今の………初心者、だよね…………?」

「……うん、初心者だよ。コマチちゃんとイロハちゃんと同じ初心者。でもあたしはまだ難しいバトルはできないんだー。それをザクロさんで痛いほど味わったよ。ヒッキーのバトルを真似しようとしたけど難しかったし、ゆきのんみたいに頭が回らない。コマチちゃんやイロハちゃんみたいに計算高くバトルを組み立てることもできないの。でもね、あたしでもできるバトルはあるってゆきのんに教わったんだー。それがこれ。ふつう、攻撃は躱すものだけど敢えて受けることでダメージが大きくなる技、その一つががむしゃら」

 

 なるほど………。

 だから敢えて、ドーブルを出したのか。

 嫌な予感というものはよく当たる。

 まさかドーブルの可能性に目をつけてくるとは。しかもユイガハマでも難しく考えないで済む、技を堪えてそのまま攻撃。単純かつ大ダメージを与えることができる技のコンボ。

 トレーナーとしての実力がない分、技のコンボでカバーしたということか。

 

「それだけじゃないわよ。ドーブルを見なさい」

 

 ユキノシタに言われてドーブルに目を向けると………。

 元気になっていた。

 何か持たせているのか?

 持たせているとすれば攻撃して回復するような物。

 たべのこしって感じもするがあれは攻撃とは関係ないからな………。

 もっと単純な………。

 

「っ!? まさか貝殻の鈴を持たせてるのか?!」

 

 ドーブルの首回りをよく見ると貝殻が取り付けられていた。

 

「ええ、ただ攻撃を受けて反撃して大ダメージを与えるだけでは物足りないじゃない」

「………だから『少し痛いけど、堪えてね』か………。回復まで付いてくるとはこりゃ本格的にヤバイな」

 

 何がヤバイって、それをユイガハマが使ってるということだ。

 ユキノシタが編み出した戦法らしいが今のユイガハマには打って付けすぎる。下手したら負けそうである。しかもあのドーブルはダークホールもスケッチしちゃっている。おまけにハードプラントまで覚えているとか、もう危険じゃねぇか。

 

「だから自信満々だったわけか……。確かにいい手だよ。ユイさんにも打って付けな戦法だと思う。でも! あたしたちはまだやれる!」

「うん、分かってるよ。がむしゃらでは倒せない。だからこうするの」

 

 うわー、なんかユイガハマに影がかかりだしたように見えるんだけど。

 ちょっと怖いよ。マジで怖い。なんでみんなそんなにバトル中は人が変わるの? 人間怖い。

 

「ッッ!? ルカリオ気をつけて! 何か来る!」

「マーブル、ダークホール!」

 

 危険を察知したコルニはフラフラと立ち上がるルカリオに喚起を促す。

 それに応えるように辺りに波導を張り巡らし始めるが、仕掛けて来たのはダークホール。

 まあ、まずコルニは知らない技だろう。当然効果も分からない。

 ただ、あの黒い穴は危険な物ということくらいは本能的には分かったらしく、「跳んで!」と咄嗟に叫んだ。

 だが、それも虚しくルカリオは黒い穴の中に吸い込まれていった。

 

「ルカリオ………」

「マーブル」

 

 ユイガハマが指示するとドーブルは黒い穴から眠っているルカリオを引き出し始める。

 

「ルカリオ!」

 

 コルニが呼びかけるが眠りから覚めることはない。

 

「これが今のあたしにできるバトルだよ。…………ヒッキー。ヒッキーはさ、あたしたちをできる限り巻き込みたくないって考えてるんだろうけど、あたしにもできるバトルはあるんだよ。この前は初めてのことだったから何もできなかったけど…………、あたしも戦える!」

 

 なぜか俺の方に向き直って語り出すユイガハマ。

 あれ?

 なんか話が飛んでない?

 今ってそういう感じの空気だっけ?

 いや、まあ、メガシンカ相手にバトルできてるし、いざフレア団に襲われたとしても落ち着いてバトルすれば、ドーブルのダークホールで眠らせている間に逃げることだってできるのは分かったけど………。

 え? なに? 俺なんかした?

 

「………これはあたしの負け、かな…………悔しいけど。起きないもんはしょうがないよね」

「………よかったー。そう言ってくれて。正直あたし、これ以上はやりたくなかったんだー」

 

 コルニが負けを認める? とユイガハマはお団子頭を押さえながら笑顔を浮かべる。その目には安堵の色があった。

 

「え? なに? もういいの?」

「うん、ちゃんとヒッキーにもあたしのバトルを見せることができたから。えっと、その………どうだった?」

「あ、や、まあ………強くなった、というか足りない物のカバーはできてるんじゃないか? 知らんけど」

 

 どうだったって言われても、強くなったと言うわけにもいかんだろ。ユイガハマのトレーナーとしての実力が向上したわけじゃないんだし。例えるなら付け焼き刃の戦法だ。何かあっても取り敢えず逃げに徹するならば何とかなる。だけど、そもそものトレーナーとしての実力が上がってない限り、応用も難しいところだろう。

 

「ほんと!? やったー、やっとヒッキーに認めてもらえた!」

「いや、認めたってわけではないけど。というか何を認めるんだよ」

「え? …………だって、ヒッキーって絶対あたしは弱いから連れて行かないとか言い出すじゃん」

 

 なんかテンション上がったかと思えば一気に下がったんだけど。

 寒暖差激しい奴だな。

 

「言い出すじゃん、って決定なのかよ。や、間違ってはないけど」

「…………ハチマン、何があったの………?」

「それは言えないな。言えばお前まで巻き込むことになる。というか既に巻き込まれてる可能性だってある。ま、ジムリーダーのお前ならその内何か掴むかもしれんが、その時はその時だ。お前はジムリーダーとして振る舞えばいい」

 

 これ以上誰かを巻き込むのは御免だ。

 知り合いってだけで俺の心の隙を突かれることになる。そうじゃなくてもこれだけの大パーティにまで発展してしまったのだ。

 当初はコマチの護衛目的でついてきたってのにどうしてこうなった………………?

 

「なにそれ、納得できないんですけど」

「お前が納得しようがしまいが、俺には言う義理はない」

「うわっ、なにそれ、超ムカつく!」

「おう、ムカついてろ。危険なもんは危険なんだ。まあ、気になるなら博士に聞いたらいいんじゃないか? 俺についての情報くらいは持ってるだろ。それで察してくれ」

「ちぇ、今言えばいいのに………」

「面倒なことにはしたくないからな。既に面倒だし」

 

 俺一人だったらどんなに楽だったことか。

 まあ、ユキノシタがいなかったら今頃はフレア団の檻の中にいるんだろうけど。

 そん時はどうしてるかね、俺。

 

「その割には働くわね」

「そりゃ、死にたくないからな」

「死ぬようなことなの?」

「さあ? そんなことまでは知らねぇよ。何なら俺が知りたいくらいだな」

 

 殺されそうにはなってたけど。

 

「あっそ。ならもう聞かない。でもあんたが泣きついてきても相手してあげないから」

「まあ、泣きつくこともないだろうな。現にお前より権力あるし」

「マジで何者なの………?」

 

 コルニに泣きつくような事態って全く想像できないよな。

 どちらかといえばまだ博士の方が可能性的にはあるんじゃね?

 

「だから博士に聞けって。俺の口からはとても言えるような奴じゃない」

「…………ヒッキー」

「お兄ちゃん………」

「せんぱい………」

「な、なんだよお前ら………」

 

 言葉を濁すとユイガハマとコマチとイッシキが俺をじっと見てきた。

 

「「「犯罪だけは犯してないよね?!」」」

 

 おいこら、お前ら。

 

「してねぇよ。多分…………おそらく…………あれ? 本当にないよね? いくらギリギリセーフのラインくらいまではやってたとしてもそれで捕まるなんてことは…………」

 

 あれ? なんか段々自信なくなってきたぞ?

 でも今のところ何も言われてないし。

 

「「「本当になにしたの!?」」」

「大丈夫だ、まだ誰も殺してはない」

「まだって………、これから誰か手にかけるつもりなのかしら?」

「やるかっ! そんなことになる時点で俺の手に余る仕事だっつの。おい、ザイモクザも言ってやってくれ」

 

 ユキノシタまで俺の言葉を拾ってきては頭を抱えている。

 取り敢えず、俺と仕事をしているザイモクザに弁明を求めた。

 

「うむ、我の知る限りでは誰も手にかけていない。ただ………」

「「「「ただ………?」」」」

 

 ただ………?

 皆が唾をゴクリと飲む音が鳴り響く。

 どうでもいいけど言葉にするとなんかエロい。ほんとどうでもいいな。

 

「最近は女を引っ掛けてくる!」

「「「「ぶっ!?」」」」

 

 ザイモクザの爆弾にコマチ以外の女性陣が噴いた。

 どうかしたのか? とはとてもじゃないが聞けない。

 聞いたら何を言われることやら。想像しただけで恐ろしいわ。

 

「あ、今我、上手いこと言った」

「上手くねぇよ。何だよ、お前まで俺を女誑しだと思ってんのか? 結構俺と仕事してきたお前なら知ってるだろ。俺のぼっち人生を」

「爆ぜろリア充!」

「弾けろシナプス!」

「「バニッシュメントディスワールド!」」

 

 ついザイモクザと一緒にポーズを取ってしまったじゃねぇか。

 

「って、何させるんですか、先生」

 

 突然会話に割り込んできたヒラツカ先生のせいで俺とザイモクザは羞恥心にさらされている。現にみんなの俺たちを見る目が痛い。心に刺さる。何なら物理的にも刺さってる感が否めない。マジでゴミを見るような目である。

 

「いや、なに、聞いたことのあるような声が聞こえたんでな」

「や、あれ正確にはリアルですから。というか知ってたんですね」

 

 ケラケラと笑うヒラツカ先生に思わずため息が出てしまった。

 

「私を甘く見るなよ」

 

 こんなんだから結婚できないんじゃないか?

 早く誰かもらってあげて。

 

「ダメだこの人。つか、何か用っすか?」

「特に用はない。ドンパチしてたみたいだから降りてきてみただけだ」

「ああ、そうっすか」

 

 実際に何しに来てるのかは知らないが、調べ物でもしていて休憩がてら降りてきたってところだろうな。

 

「それにしてもユイガハマが勝つとは。これはヒキガヤも危ないんじゃないか?」

「や、それはないでしょ。どっちかって言うとイッシキの方が怖い」

「なるほど………ようやく君にも苦手な相手が出てきたというわけか」

「なんでそんな嬉しそうなんですか。そこまでして俺に勝ちたいのかよ」

「勝負事は勝ってなんぼのものだろう」

「間違っちゃいねぇけど、教え子相手にムキになんないでくださいよ。大人気ないですよ」

「若いから私はいいんだよ。若いから」

「二回も言う必要ないでしょ」

 

 そんなに大事なことなのかよ。

 というか若いからって理由にすらなってないし。

 

「ちょっとー、そこのキモい人ー。あたしらを放っておかないでほしんですけどー」

 

 それは一体誰のことなんだろうね、コルニさんや。

 返事をしたら認めたことになりそうだから、振り向きたくもない。

 

「呼んでるぞ」

「はぁ……………」

 

 無理だったけど。

 先生に言われたらもうどうしようもない。

 さっさと返事をしないと先生にまで何かされそうだ。

 

「なんーー」

「………コルニさん、この後ヒキガヤくんとバトルすることになっているのだけど、よかったら観に来ないかしら」

「え? マジ? 見たい見たい。ハチマンが木っ端微塵にやられるところとか超見たい!」

 

 おいこら、声をかけておいて無視するなや。

 なんだよこの辱め。

 先生のにやけ面がすげぇ腹立つ。

 

「残念だけど、木っ端微塵にできるかは保証できないわ。だって彼は鬼畜だもの」

「ねえ、俺に声かけておいて無視するのとかやめてくれます?」

「それではポケモンセンターへ行きましょうか。行くわよ、ヒキガヤくん」

「お前ら…………」

 

 ユキノシタの提案でコルニがバトルの観戦権を獲得した。

 はあ………マジでバトルするのね。

 


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