ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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41話

「このモココは何覚えてるんだ?」

「さあ、何覚えてるんですかねー。ほうでんはさっき使ってましたけど」

『えっと、………………ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、だそうだ』

「これまたトリッキーな技構成だな。ほうでん、シグナルビーム、わたほうし、コットンガード、エレキネット、でんじは、だとよ」

「コットンガードとか可愛くていいじゃないですか。もふもふですよ」

 

 首回りの綿を触りながら嬉々とした表情を浮かべるイッシキ。

 モー、と気の抜けた声で鳴くモココは全く嫌そうではないからいいだろうけど。

 

「俺からするとエレキネットの方が厄介だわ」

「それってどんな技なんですか? 実際には見たことないんで覚えてないです」

「俺も実際に見たことはないが、電気の通った網で攻撃するんだわ。あらかじめ貼っといてそこにポケモンを誘き寄せて触れた瞬間に電気ショックを与えて、尚且つ網で捉える。うわー、自分で言ってて嫌な技だわ」

 

 容易にそんなバトルをするイッシキが想像できてしまう。しかも不敵な笑みを浮かべるあの顔で。

 

「へー、結構使い勝手いいですね」

「お前は好きそうだよな、そういう技」

 

 基本真っ向からいくユキノシタとは180度違う型のイッシキは、技の威力よりも組み合わせやトリッキーさを重視している節があるんだよなー。

 

「別に好きってわけではないですけど、みんながそういう技を覚えてくるんで、私も少しは勉強し直したんですよ」

 

 ああ、なるほど。だからか。

 それにしてもイッシキが復習をしているとは。

 

「意外だな。お前が復習をしてるとか」

「先輩酷いですね。これでも私は卒業試験の実技はトップだったんですから」

「それはさっきヤドキングから聞いたわ。ただペーパーがトップってわけではないのが実にお前らしいな」

「あんなにたくさんの技覚えられるわけないじゃないですか。計算だったら、その場で解けばいいから楽なんですけどねー」

 

 ええー、覚える方が簡単じゃね?

 計算とかいちいち公式を使いこなさないかんから面倒なんだけど。

 

「全くもって俺とは真逆だな」

「そう考えるとユキノシタ先輩とかハヤマ先輩ってすごいですよねー」

「確かにな。どれを取っても非がない」

 

 あの二人の頭はマジでどういう作りになってるんだろうな。あとハルノさんとか。凡人の俺らには想像できねぇわ。

 

「んー、女の子みたいだしメロメロでも覚えさせようかなー」

「お前が教え込むメロメロとか種族関係なく効果ありそうで怖いわ」

 

 メロメロを覚えたら、さらに厄介なポケモンになりそう。その内、攻撃させてもらえない技のコンボとか編み出してきそうで怖い。

 

「やだなー、そんなことあるわけないじゃないですかー」

「現にヤドキングに効果あっただろうが」

「まあ、私とヤドキングには色々と事情がありますからねー。後から知りましたけど」

「てことは、こいつが今いる理由も知ってるのか?」

「それは来た時に私が心配で来たって言ってたじゃないですかー。それ以外にないですって」

「すまん、ちょっとヤドキング借りるぞ」

「はーい、どうぞー」

 

 どこか話が噛み合わないのでヤドキングを連れ出し、少し離れたところで小声で切り出した。

 

「おい」

『なんだ?』

「さっきイッシキが校長の孫だとか言ってたよな? 本人はそのことを知ってるのか?」

 

 イッシキが校長の孫だとして、だ。どうしてイッシキは校長を祖父とは言わないんだ?

 

『ああ、そのことか。それは知らないはずだ。長年祖父としては会ってなかったらしいからな。オレっちもイロハが小さい時に何度か会ったくらいだ』

「ロリコン?」

 

 小さい頃のイッシキに惚れたとか?

 大いにありえそうだな。

 

『断じて違う。昔はもっとこう素直だったのだが、いつの間にかあんな風に変に捻くれてしまってな。ご主人も心配でオレっちにイロハの観察を言い渡してきたのだ』

「で、イッシキのメロメロにかかったふりをして近づいたと?」

『あ、そこはマジで惚れた。あんな可愛い娘に育っているとか思いもしなかったからな』

「やっぱロリコンだろ」

 

 ダメだこいつ。

 溺愛っぷりに拍車がかかってる。

 手に負えないレベル。

 

『何を言う。あの可愛さを理解できないお前の頭の方がおかしいのだ』

「いや、普通に可愛いとは思うぞ。ただあざといんだよなー。自分の見え方を理解しているからこそ、仕草一つを取っても計算されている。だからこそあれに靡いたら男として終わりな気がする」

 

 あのあざとさに堕とされるのだけは御免被りたい。

 

『可愛いければなんでもいいだろうが』

「お前は絶対どんかんじゃないな」

『それは特性の話か? 確かにどんかんではないが、今はそんなのどうでもいいだろ。それよりもさっき言ったようにオレっちがここにきたのはイロハが心配だっただけだ』

「………まあ、なんかピースはがっちり嵌ったわ。あの校長が実はイッシキの祖父であるから、特別気にかけていてお前を送り込んできた。バトルセンスもあの老人の血を引いているから、という部分があるのは分かった。ただ、なんで正体を教えないのかが分からん」

『ご主人もお前みたいな一面があるとだけ言っておこう』

「俺みたいなねー」

 

 さっぱり分からん。

 ま、取り敢えずイッシキのルーツが分かったからよしとするか。

 

「つか、なんで来たのがお前なの?」

『一番若いからだ』

「マジかよ。後のみんなって結構歳いってんのか」

『ご主人が若い頃からいる者もいるからな』

 

 それはフーディンあたりのことだろうか。

 当時はあの人もメガシンカであることを理解してなかったけど、メガシンカを普通に使いこなしていた。自分で使うようになって改めてあの人の凄さは分かる。

 

「ちなみにお前は?」

『イロハが生まれた頃に生まれた』

「え? 何それ、俺より下ってこと?」

『そういうことになるな』

「少しは俺を敬え」

『断る!』

 

 ヤドキングってイッシキと同じ歳だったんだな。

 あー、だからそれもあってヤドキングだったのか。案外、イッシキのために用意していたポケモンなのかもな。

 

「せんぱーい、ヤドキングー、なんで取っ組み合いになってるんですかー」

 

 すげぇ棒読みのイッシキがやってきた。

 取っ組み合いって言っても俺は一方的にやられてるんだけど。超痛い、そして重い。

 

「なんでもいいですけどー、モココでバトルしてみたいので相手してください」

「いいけど、ゲッコウガはあれだぞ?」

「リザードンでいいですよ。先輩にヤドキングを使いこなされるのも嫌ですし」

 

 戻ってきてからずっと寝ているゲッコウガの背中に顔をすりすりしているテールナーがいる。もうほんとあいつゲッコウガのこと好きすぎじゃね?

 

「…………ああ、テールナーにとってゲッコウガは兄みたいな存在らしいですよ。ゲッコウガが先にトレーナーの下へ行ってしまって寂しくて拗ねてたみたいです。さっき聞きました」

 

 じっと見ていると俺の視線の先に気がついたのか説明してくれた。

 ああ、だからあんなにゲッコウガもといケロマツには当たりが強かったのね。

 なるほど、だからメロメロを使ってきたのか。そこまでしてゲッコウガに構って欲しかったのね。で、バトルした後には自分がさらにベタ惚れになってしまったと。かわいそうに、ゲッコウガも大変だな。

 

「女の子だな」

「ですねー」

 

 あれ?

 だとするとテールナーのメロメロが全く効かないのは妹だと認識してるからとか?

 いや、エネコロロのメロメロも効かなかったし、それだけとは限らんか。

 うん、やっぱあいつは変わってるわ。

 

「立場も似たようなやつだったのね」

「先輩そっくりです」

「モー」

 

 首回りをもふもふされているモココが鳴いた。

 

「で、俺らは躱せばいいのか?」

「ちょっとくらいは攻撃してもいいですよ」

「直接攻撃はしたくないな」

 

 特性せいでんきが働いてくるからな。痺れさせたくない。

 

「それじゃ、よろしくです☆」

「あざといから」

 

 リザードンと一緒にイッシキたちと距離を取る。

 

「いきますよ」

「いつでもいいぞ」

「モココ、まずはでんじは!」

 

 あ、こいつ。

 俺が痺れさせたくないって言った側からでんじは使いやがって。

 

「地面にかみなりパンチ」

 

 リザードンは地面を叩き砂を巻き上げる。でんじはは砂が壁となりリザードンに届く前に霧散する。

 

「ほうでん!」

「かえんほうしゃ」

 

 モココが電気を乱れ打ちしてくるので炎で掻き消していく。

 威力はそこそこだな。

 

「わたほうし!」

「これこそ焼け」

 

 ふわふわした綿毛を飛ばしてくる。風に靡く綿毛はふわっと炎を躱し、中々焼けない。

 なに、このしぶとさ。

 

「じしん」

 

 今度はこちらから攻撃してみる。

 直接は触れたくないので離れたところからでも攻撃できて尚且つでんきタイプには効果抜群のじめん技を放った。

 

「コットンガードで衝撃を吸収して!」

 

 首回りのもふもふを膨らませ体全体を覆い、身を綿で包む。

 じしんの衝撃は綿により吸収され、攻撃をやり過ごされた。

 

「モココ、リザードンに突っ込んで」

 

 膨らませた綿を小さくして走りこんでくる。今度は何をしたいのかね。

 

「えんまく」

 

 まあ、目くらまし程度ならいいだろう。

 この状態でできるかどうかも知っておくことは大切だからな。

 

「エレキネット!」

 

 煙の中からバチバチしている糸が飛んでくる。

 地面を蹴って後方に下がり、糸をやり過ごす。

 

「うーん、今はこんなもんですかねー」

「だな。ほうでんの威力はそこそこあるが、ほとんど攻撃技は覚えてないだろ。お前からしたらあんまり関係ないかもしれんが、どう使うかはお前の器量次第だ」

 

 煙が晴れたところでイッシキがバトルを止めた。

 どうやらこれくらいでいいらしい。

 

「あ、それなら大丈夫ですよ。今ので大体掴めたので。取り敢えず、目先はコマチちゃんとのフルバトルってとこですかねー」

 

 おいおい、マジかよ。

 今のだけで見えてくるとかこいつの潜在的なバトルセンスは相当なようだ。

 さすがあの校長の孫だな。本人は知らないみたいだが。

 イッシキがモココとヤドキングをボールへと戻す。

 

「結局俺はお前らのバトルを見てないからな。ちょっと楽しみではあるぞ。ただ段々とユイガハマとの差が広がってるのがなー」

「それこそ心配ないですよ。ユイ先輩はユキノシタ先輩と毎日特訓してますし、たまにバトルの相手してたりするんで分かりますけど、強くなってますよ」

「そうなのか? ならいいんだが」

 

 ユキノシタにユイガハマを任せてからというものは俺は彼女とバトルをしたことがない。何ならバトルしてるところすら見たことがない。だからどうなってるのかは全く知らないのだ。

 

「先輩も気にしてたんですね」

「そりゃあな。あいつが俺を守れるくらいには強くなるとか言ってたし、ザクロさんのところに単身乗り込んだくらいだし、今どうなってるのかは気になるだろ」

「コマチちゃんのことは気になってたりします?」

「いや、あいつはもう独り立ちできるな。俺の予想が正しければそろそろカメールが進化する」

 

 コマチはビオラさんとのバトルですでにバトルスタイルは確立してるし、ポケモンも淡々と捕まえて手数を増やしてるし、何も心配することはないな。

 それに、あいつは強いやつとバトルすればより強くなる。コルニとバトルすれば何かが大きく変わる、そんな予感もあったりするくらいだ。

 

「それって具体的に言うとコルニとのバトルでってことですよね」

「ああ、メガシンカ相手にカメールを出せば化けるだろうな」

「みんなこうやって強い相手とバトルして強くなっていくんですねー。今なら先輩が強さを求めた理由がなんとなく分かります」

「や、まあそれはまた別事情ではあるんだが………よっと」

 

 リザードンに跨り、イッシキに手を差し出す。

 

「先輩はもっと強くなりたいとか思ったりします? あ、ありがとうございます」

 

 イッシキは握り返してきたので引き上げた。

 

「まあ、フレア団をどうにかできる力くらいは欲しいよな。ゲッコウガ、テールナーを頼んだぞ」

「コウガ」

 

 ゲッコウガにテールナーを任せるとテールナーはゲッコウガに抱きつき、ため息をひとつ吐いて高らかにジャンプした。

 あれ一人用だから俺たちまでは無理だよなー。

 

「フレア団……………」

「あ、悪りぃ。あんま思い出したくないよな」

 

 あんまり頭を通して喋ってなかったので、今更禁句を口にしたことを後悔した。

 

「いえ、そうじゃなくて、あの時私は何もできませんでしたから。それがちょっと悔しくて」

「いや、あれが普通だろ。コマチだってユキノシタが傍にいたから冷静になれただけだろうし」

「それでも悔しいもんは悔しいですよ。先輩が来なかったら私たちどうなってたか」

「泣いてたもんなー」

 

 かすかにシュンとした空気を醸し出してくるので、からかってみた。

 

「うっさいですよ!」

「痛ッて」

 

 すると案の定、背中を抓られた。

 容赦ないね、この子。

 

「………今でも時々あの時のことを夢に見るんですよねー」

「それ悪夢ってやつじゃないのか? それならユキノシタに頼んでクレセリアの三日月の羽をもらうといいぞ」

「いやー、それがちゃんと王子様が助けに来てくれるんですよねー」

「楽しんでのかよ……………」

「………やっぱり先輩はあったかいです」

 

 おそらく顔を背中に引っ付けてきた。

 腹に回されている腕には力も込められる。

 

「………こんだけ引っ付かれたら熱も持つわ」

「バーカ。ふふっ」

 

 そのままリザードンに乗ってマスタータワーへと向かった。

 途中からゲッコウガがテールナーを背負っていた姿はまるで兄貴分だった。

 がんばれよ、兄貴。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「たっだいまーって、あれ? コマチちゃんがバトル中?」

 

 マスタータワーに戻ってくるとコマチがコルニとバトルをしていた。

 ゴーリキー対プテラ。

 

「あ、おかえりイロハちゃん。ヒッキーも。早かったね」

 

 俺たちに気づいたユイガハマが手を振ってくる。

 

「はい、行ったらすぐにお目当のポケモンがいましたので」

「すぐに捕まえて来れるところがイッシキさんらしいわ」

 

 彼女の声にようやく一帯が俺たちの姿に気がついた。

 

「で、今どういう状況? 見たところジム戦も兼ねてるみたいだが」

「うぇっ?! なんで分かるの!?」

 

 いや、驚くようなことでもないだろ。

 見れば分かるし。

 

「や、ゴーリキー使ってるし」

「さっきコジョフーをプテラが倒したところよ」

「ふーん、まあこれからか」

「そうなるわね」

「プテくん、つばさでうつ!」

「ゴーリキー、迎え撃ってかわらわり!」

 

 コマチが手持ち三体でコルニが後二体か。

 プテラの他には何を出してくるのやら。

 対応の相性から見ればカマクラかね。

 

「ちなみにトツカは勝ったのか?」

「負けたわ。ミミロップはノーマルタイプですもの。かくとうタイプの技は効果抜群。それにバトルごとにコルニさんも強くなっていってるわ」

「いやー、ミミロップは頑張ってたんだけどね。波導がやっぱり厄介だよ」

「きあいだま!」

 

 お恥ずかしい、と苦笑いを浮かべるトツカ。

 おのれ、コルニ。トツカにこんな顔させるなんて。

 

「先輩、顔怖いです」

「躱して、はかいこうせん!」

「そ、そうか。まあ勝ち負けはこの際どうでもいいって言ったらあれだけど、あんまり意味はないんだよな。ただメガシンカというものを味わって欲しかっただけだし」

 

 イッシキにはチョップをいれておく。彼女が「あうっ」とあざとい声をあげるのを忘れることはない。

 

「なら、あなたが相手してくれればいいじゃない」

「俺以外のメガシンカも味わっておくべきだと思ったんだよ。フレア団がメガストーン集めてるようだし、メガシンカさせて来ないとも限らない。だからな」

「ボーマンダのもフレア団から取ってきたものだものね」

「今のうちにローキック!」

 

 あ、それ言っちゃう?

 こいつらそれ知ってるのか?

 また怒られるのは嫌だぞ。

 

「………そんな顔しなくても全て話してあるわよ」

「………聞いてなかったがどこまで話したんだよ」

 

 訝しむ俺の顔から読み取ったのか、適当な答えが返ってきた。

 

「プテくん!?」

「かわらわり!」

 

 ローキックで地面に落とされたプテラにゴーリキーが突っ込んでいく。

 

「具体的に言えばあなたが一人でまた変な考えに至って、フレア団のアジトを偶然見つけて勝手に乗り込んで、捕まったってところまでよ」

「言われたくないところは全部なんだな」

「先輩でもミスするんですねー、て思いましたよ」

 

 イッシキがユキノシタの背中から顔を覗かせてくる。

 

「俺も人間だからな」

「ハチマン、気を付けなきゃダメだよ。相手は悪の組織なんだから」

「はい、すんません! トツカさんの言う通りです!」

 

 トツカに怒られてしまったので誠心誠意謝る。土下座もしようかと思ったが、そこまでするとトツカが嫌がりそうだったのでやめておいた。トツカには嫌われたくない。

 嫌われたら死ぬまであるな。

 

「ヒッキー、キモい」

「プテラ戦闘不能」

 

 俺が戦闘不能になりそうだわ。

 

「あ、プテラ負けちゃいましたね」

 

 首を回してコマチたちのバトルに目を向けるとコマチがプテラをボールに戻していた。

 これで残りは二対二か。

 先にゴーリキーは倒してしまわねば、ルカリオまでにいった時に手も足も出なくなってしまうな。

 

「カーくん、いくよ!」

「ニャオニクス………、エスパータイプだね。かくとうタイプはエスパータイプを弱点に持つ。だけど、そんなことであたしたちを倒せるだなんて思わないでね!」

「いえいえ、そこまでは思ってませんよ。でもまずはゴーリキーを倒させてもらいますっ。カーくん、サイコキネシス!」

 

 ゴーリキーの動きをサイコパワーで封じる。

 身悶えすることすらできないゴーリキーはコルニの指示を煽っている。

 

「ゴーリキー、きあいだま!」

 

 動かせない掌にエネルギーだけを集めていき凝縮させていく。

 段々と弾丸へと変化していく。

 

「させませんよっ。カーくん、床に叩きつけて!」

 

 念動力でゴーリキーを床に叩きつける。

 それも一度ではなく何度も。

 

「くっ、発射!」

 

 苦し紛れに貯めたエネルギー弾を解放した。

 弾丸はまぐれにもカマクラに向けて飛んでいく。

 

「ふっ、カーくん、ひかりのかべで打ち返して!」

 

 鼻で笑ったコマチはカマクラにひかりのかべを命令。

 カマクラは壁を作り出し、バットのように構えをとった。

 ブンッと大きく振り、エネルギー弾を打ち返す。

 

「ひかりのかべにあんな使い方があったなんて……」

「いや、あんな使い方誰もしないだろ」

 

 ユキノシタの反応につい突っ込んでしまう。

 や、マジで野球かよって思うわけよ。

 しかもライナー性で元来た軌道を通って念動力により身動きの取れないでいるゴーリキーに向かっていってるし。

 はっきり言ってこれミラーコートと一緒だな。

 

「ゴーリキー!?」

 

 ははっ、まさか自分の技でとどめを刺されるとはコルニも思わなかったようだ。大丈夫だ、俺たちも思ってなかったから。

 誰の影響なんだか。

 

「ますますヒキガヤくんに似てきてるわね」

「いや、俺と一緒にしないでくれ。俺でもあんなことはしたことがない」

「血は争えませんねー」

「聞いてねぇし」

 

 ユキノシタもイッシキもコマチと俺を一緒にしないでほしい。俺もあんなことはしたことないぞ。そりゃ、相手の技を誘導してそのまま相手にぶつけるってことはしてるけどさ。壁で打ち返すとか考えたことなかったわ。

 

「…………リザードンに覚えさせてなかったからってのもあるけど」

「それ、一緒じゃん………」

 

 いやん、ユイガハマに独り言を突っ込まれちゃった。

 

「まだ、いけるよね。ゴーリキー、かわらわり!」

 

 フラフラと立ち上がるゴーリキー。

 あれでまだ立てるのか。結構しぶといな。

 

「カーくん、サイコキネシス」

 

 再度拳が届く前に身動きを封じた。

 

「叩きつけちゃえー☆」

 

 そしてめちゃくちゃいい笑顔での指令。

 コマチもあんなあざとい声出せるんだな。

 やだな、なんか知りたくなかったわ。

 

「ゴーリキー戦闘不能!」

 

 ゴーリキーは今度こそ意識を失った。

 

「ねえ、ヒキガヤくん。私たちがコルニさんとバトルするのはメガシンカを体感するためだって言ってたけれど、その相手をするコルニさんには何のメリットがあるのかしら?」

 

 博士の判定の後にユキノシタは俺を見上げて聞いてくる。

 

「メリットねー。ユキノシタが思うジムリーダーのあり方ってのはなんだ?」

「…………絶対的な強さ、動じない冷静さ、鋭い観察眼は確実に必要だわ」

 

 まさにこいつらしいわ。

 ただ合ってはいる。

 

「んまぁ、そうだな。ジム戦以外にもジムリーダーが担う役はある。ザクロさんが言ってたように周辺地域の警戒もその一つだ。ただあいつはまだそういうのは無理だろうから、そこは前任のコンコンブル博士に任せればいい」

「じゃあ、何が問題なの?」

 

 ユイガハマがこてんと小首を傾げてきた。

 

「『暴走』『負けなし』『慢心』。ユキノシタならこの単語に心当たりあるんじゃないか?」

「ッッ!? そう、そういうことね。だから私たち『全員』なのね」

「ああ、そういうことだ」

 

 まあ、ユキノシタには馴染み深い単語だよな。

 彼女の場合は『負けなし』と言われるような実力をハヤマとともにつけていき、『慢心』して、オーダイルを『暴走』させた。

 ただ、コルニの場合はメガシンカを『暴走』させて、操れるようになってジム戦では『負けなし』。そして今は『慢心』していた。

 順番は違えど、足りないのはいつでも冷静さだ。ユキノシタはもっと冷静になっていれば暴走させることもなかった。コルニは慢心して冷静さに欠けているのだ。

 

「あの、二人だけで理解しないでもらえますー? もっとちゃんと説明してください」

 

 ぶー、とあざとく頬を膨らませるイッシキ。こんな些細なとこでもあざとさを忘れないその姿には感服します。

 

「あー、んじゃ俺のバトルを例えるとして?」

「鬼畜」

「お、おう………」

 

 即答で鬼畜はないでしょ。もう少し具体的に例えようぜ。

 

「なんか言い返したいところだが、ユキノシタのバトルは?」

「んー、ゆきのんはねー、攻撃的?」

 

 ユイガハマはユキノシタのことについては自分で答えたいんだな。ほんと大好きすぎでしょ。百合百合しくて目の保養になるわ。

 

「イッシキのバトルは?」

「計算された変化技を駆使したバトルって感じかなー」

 

 今度はトツカが答えた。

 俺だったら鬼畜って言い返してるな。

 

「コマチのバトルは?」

「模倣からの鬼畜プレイ」

 

 ローテーションが一周し、再びイッシキに回ってきた。

 

「ちょ、イロハさん!? コマチのことそんな風に見てたんですかっ?!」

 

 バトルの最中(というか交代時間?)なのにコマチが咄嗟にツッコミを入れてくる。

 何気に聞いていたらしい。

 止めていいのかよ。

 

「あっははー、だって先輩以上に鬼畜になる時あるし」

「それはお前もだから心配するな」

「あ、酷いです先輩」

 

 さっきの分を言い返してやるとまたしても頬を膨らませる。そのふくらんだ頬を両側から突っつきたくなるのは果たして俺だけなのだろうか。

 

「ま、こんだけ個性の強い奴らの相手をしてれば、嫌でもいろんな型の経験を積めるわけだ」

「それで私たち『全員』ってわけですか。よく分かりませんが納得しました」

 

 よく分からないのなら、それは納得してないって言うんじゃねーの?

 

「でー、だから?」

「だから、毎日連戦していればコロコロ変わる型に対応できる冷静さを持てるってわけでしょ!」

「なんだ、気付いてたのか?」

 

 バトルが止まってると思ったら、二人して聞き耳を立てていたようだ。そら止まってるわ。

 

「悔しいけど、気づいたのはコマチとバトルしててよ!」

「そりゃよかった。自分で気づいてくれなきゃ意味がないからな」

 

 俺の誘導ででも気づいてくれなかったらどうしようって感じだったけど、ちゃんと自分で気づいてくれたみたいだな。よかったよかった。

 

「………あんた、初見であたしが冷静さに欠けているとかよく見破ったわね。自分でも気づいてなかったのに」

「自分じゃ気付きにくいもんだからな。俺も一度経験があるからよく分かる」

「暴走でもさせたの?」

「いや、俺の場合は見てる世界が狭かったってことを思い知らされた。もっと冷静に世界を広げて見ていたら、勝てたかもしれないがその時の俺はあの二人には勝てなかった。だからこそ気がつけたって感じだけど」

 

 まさかチャンピオンが現ジムリーダーと元ジムリーダーに負けるとか自分でも思ってなかったからな。あれは俺にとっていい転機だったな。あの後はほんとに転機になったけど。誘拐とかマジないわ。言い方変えれば拉致監禁だからな。あと強制労働?

 

「お前さんにもそんな時代があったんじゃのう」

「何しみじみ言ってんの。博士にあった後の話だぞ」

「ああ、あの時は狂気じみてたわい」

「こらこら、涙を流すな」

 

 何をそんなにしみじみと思い出してんだよ。怖いからやめてほしいだけど。

 

「ま、そういうわけだから。未熟なジムリーダーへ元チャンプからの洗礼ってやつだ」

「あんた、またあたしのことバカにしたでしょ! いいわよ、見てなさい! このバトル絶対勝って見せるんだから!」

 

 ビシッと俺に人差し指を向けてくる。

 こらこら、人に指を刺しちゃダメって教えられなかったのか?

 おいじじい、ちゃんと教育しろよ。

 

「あ、ちょ、お兄ちゃん!? コルニさんのこと煽らないでよ!」

「や、お前はその方が楽しめるかなーって思って」

「そんなのめちゃくちゃ燃えるに決まってるじゃん! 燃えすぎて疲れちゃうんだよー」

「あ、それはなんかごめん」

 

 さすが俺と血を分けた兄妹。

 相手が強ければ強いほど燃えるらしい。

 燃えて疲れるところまで同じとか似すぎだろって感じだが。

 

「もう始めから全力でいくよ、ルカリオ!」

 

 ようやくルカリオさんのご登場。

 コルニのためとはいえ、ルカリオに連戦させて疲れてないか心配だわ。

 

「命! 爆! 発! メガシンカ!」

 

 ここにきて何度目になるのか分からないくらいメガルカリオを目にしてるな。

 カッコイイから別にいいんだけど。

 


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