赤い二枚の翼は一枚の大きな三日月型の翼へと変わり。
水色の体には鎧が取り付けられ。
一回りくらい身体が大きくなったボーマンダ。いや、正確にはメガボーマンダか。
ザイモクザがプラターヌ博士からもらってきたメガシンカの一覧にはボーマンダのことも載っていた。だから実物を見てピンときたし、コンコンブル博士もプラターヌ博士の研究の情報提供者。知っていてもおかしくはない。
「これが……………メガシンカ………………」
新たな姿にユキノシタは心底驚いている。
俺も最初はこうだったし、無理もない。
「あ、わ………私…………」
ボーマンダを見たまま身体を凍りつかせるユキノシタ。
氷の女王が凍りついてどうするって感じではあるが、ちょっと無理やりすぎたかもしれない。
だけど、こうでもしないとこいつは多分メガシンカを、というか新たな力を手にしようとはしないと思う。
ただ一つ、気がかりなのはーーー
「………大丈夫だ。今のお前は昔のお前じゃないだろ。強大な力でも今のお前ならコントロールできるはずだ。自信持て」
微弱に震える肩に手を置いて彼女の懸念を拭ってやる。
暴走。
ユキノシタにとっては苦い思い出であるオーダイルの暴走が頭の中をちらついているみたいだ。
「ヒキ、ガヤ………くん……………」
「それにお前の知識の中にもあるだろ。怒りを力に変える技が」
「…………そう、ね。私は昔の私じゃない。メガシンカについても知識を持っているし、すでに暴走だって起こしてる。今更怖がるものなんてないわよね」
「そうだな」
「ふふっ、あなたは今も昔も私の側にいてくれるのね」
「たまたまだ。たまたま」
すっと緊張がほぐれていき、表情が柔らかくなっていく。
もう大丈夫だな。
「………なんかムカつくんですけどー。ルカリオ、こっちもいくよ! 命! 爆! 発! メガシンカ!」
コルニのグローブにはめ込まれたキーストーンとルカリオの左腕に付けられたメガストーンが共鳴し出す。
徐々に白い光に覆われていき、メガルカリオへと姿を変えた。
「バトル、開始!」
博士の声でバトルが始まった。
「ルカリオ、あたしたちの力見せつけるよ! まずはバレットパンチ!」
素早い動きで駆け出すルカリオ。
その身体は波導を常備していて、気圧されそうなオーラを放っている。
「ボーマンダ、だいもんじ!」
口を大きく開けたボーマンダは炎を吐き出し、ルカリオを焼き尽くしていく。炎は「大」の文字を作り出し、ルカリオの両腕ごと拘束していく。
「波導で弾き飛ばして!」
そうコルニが言うとルカリオは内側から濃縮な圧力をかけて一気に炎を弾いた。
俺たちから見れば焼き尽くされたかのように見えていたが、目立ったダメージは負っていない。さすがメガシンカといったところか。波導の操り方もさっきとは比べ物にならない。逆に俺の時と何が違うのか気になっちゃうレベル。
「突っ込め!」
再度走り込んでいくルカリオ。
それに対してユキノシタはというと。
「ボーマンダ、そらをとぶ!」
一瞬で宙へと逃げ、攻撃を回避した。
ま、それが妥当か。
だいもんじを波導で弾き飛ばしたんだ。ハイドロポンプを撃ったって同じ結果になることだろう。ならば、一旦仕切り直すのがベストと言える。
「連発で、はどうだん!」
距離を取ると今度はコルニが仕掛けた。
はどうだんで遠距離からの猛攻撃をしようという算段らしい。そして、それくらいならば呼んでくると踏んでいる目をしている。
「回転しながらドラゴンダイブ!」
竜を具現化させて纏い、身体を回転させながらルカリオ目掛けてボーマンダが堕ちてくる。
あれも俺の飛行技の一つだな。技こそ違えどやっていることはトルネード。回転をつけることではどうだんを弾き、そのまま攻撃に転じるという流れなのだろう。
「はどうだんに飛び移って躱して!」
波導で弾を操り、足場にしていく。
足場に使った弾は順にボーマンダに襲いかかる。
はどうだんを回転で弾きながら真っ逆さまに落ちるボーマンダは勢いを殺せない。
このままならば地面にダイブすることになる。
「エアキックターン」
「ぶっ!?」
吹いた。
おい、マジかよ。
今度はストレートに使いやがって。
何だよ、そういう名前を言うのが恥ずかしかったんじゃねぇのかよ。
「まるで先輩を見てるようですね」
「プテくんも覚えた方がいいのかなー」
覚えなくていいと思います。
あんなのただアニメを見て取り入れてみただけのもんだし。
バトルスタイル的にコマチにはちょっと違う気がするし。
何ならユキノシタも俺とは似て非なるバトルスタイルをしているんだし、違うような気がする。
「グロウパンチ!」
地面すれすれで踏みとどまり急上昇してくるボーマンダに、今度はルカリオが突っ込んでいく。
ボーマンダは竜を纏ったまま躱そうとしない。このままお互いにぶつかるつもりらしい。
「ルカリオ!」
と、誰もがそう思って見ているとコルニがルカリオを呼びかけ合図を送った。
何を仕掛けるつもりなのか見ていると最後に足場に使っていたはどうだんを自分とボーマンダの間に移動させ、それをものすごい勢いで叩いた。
弾は力と力の押し合いにより爆発しボーマンダを襲った。回転していたのも逆手に取られたようだ。弾けるエネルギーすらも攻撃に使われ、真っ逆さまに落ちてくる。
「だいもんじ」
ユキノシタの一言で身体をくるりと回転させて上を向き、口を大きく開けた。
放たれた炎は一直線にルカリオへと宙を駆け巡る。
「波導で壁を作って!」
対するルカリオは波導で炎の勢いを抑え、その間に翻って躱した。
「ドラゴンダイブ」
再度竜を纏ってルカリオへと突っ込んでいく。
だが、同じ展開ではいくらコルニでも対処法を編み出してくるはず。
「連発ではどうだん」
ルカリオは距離があるうちから攻撃を始めた。
はどうだんを何発も当てて体力を削るつもりなのだろうか。だとしたらひこうタイプのボーマンダにはそれほどダメージは通らないように思うんだけど。
「ギアをトップにしなさい」
ボーマンダは四本の足を折りたたむと急加速して、はどうだんの猛攻の中をくぐり抜けていく。
「バレットパンチ!」
「翻って」
「なっ!?」
目の前まで迫ってきたボーマンダにパンチをお見舞いしようと腕を伸ばすと翻って躱され背後を取られた。
ボーマンダはそのままルカリオに突撃し、地面に叩きつけた。
あの………二人とも、一応ここ室内だってこと覚えてる?
「くっ、やるわね。ルカリオ、こっちも負けてられないよ!」
先ほど連発したはどうだんを地面に寝っ転がりながら操り、空中から見下ろしているボーマンダに次々と当てていく。
「ボァァァァアアアアアアアアアアアアアンンンッッッ!!」
四方八方から打ち付けられていくボーマンダ。バランスを崩して落っこちてきた。
ドンッという鈍い音がタワー内に響き渡る。
身体からは煙を上げ、目の焦点が定まっていない。
「ゆ、ゆきのん!」
「大丈夫よ、ユイガハマさん。さっきのヒキガヤくんの言葉でこれも織り込み済みだから」
心配そうにユキノシタを見つめるユイガハマ。彼女もあの暴走を目撃した一人だからな。あの目を見るとつい思い出してしまうのだろう。どうにもできなかった頃のユキノシタを。
「おじいちゃん、ちょっとこれまずくない?!」
「暴走の一歩手前だな」
継承者組は過去の自分たちのことでも思い出しているのだろう。険しい顔でボーマンダのことを見ている。
「ルカリオ、さっさと倒しちゃうよ。バレットパンチ!」
さっさと倒す、ということはバトルを終わらせてしまえば、メガシンカも解かれ、あの危険な状態からも解放されるということなのか。過去の経験を生かした対処法なのだろうが、こっちもこっちで策があったりするんだよな。
「落ち着きなさい、ボーマンダ。今こそあなたの新しい力を使う時よ。全ての力をぶつけなさいーーー」
オーダイルの暴走をコントロールさせることに成功したあの技を、ユキノシタがボーマンダに命令する。
「ーーーげきりん」
カチッと何かが噛み合ったかのように咆哮は技に変わっていく。
炎と水と電気を全て纏い、常時竜の気を作り出している。バチバチという音が俺たちの恐怖心を煽ってくる。
「なっ!?」
コルニが驚いた顔を見せるもボーマンダは攻撃の手を止めない。
地面を蹴り出し、パンチを打ち込もうとするルカリオに突っ込んでいく。
「る、ルカリオ! 波導で躱して!」
咄嗟に命令を変え、ルカリオは波導の力でボーマンダを抑え込もうとするも、逆に竜の気に呑まれてしまい身動きを封じられた。
そこにボーマンダが遠慮なく突っ込みルカリオを弾き飛ばした。
「ルカリオッ!?」
コルニが呼びかけるも壁に内受けられたルカリオからの返事は返ってこない。唯一確認できたのはメガシンカが解けたことのみ。
「ルカリオ戦闘不能。ボーマンダの勝ち」
技を放ったことで落ち着きを取り戻し、すっきりした顔をしているボーマンダのメガシンカも解かれた。
「お疲れ様、ボーマンダ。あなたのおかげで私も覚悟を決めることができたわ。ありがとう」
「また負けた…………。しかも初めてメガシンカ使った相手に………………」
ボーマンダの顎を撫でながらお礼を言うユキノシタに対し、コルニはルカリオをボールに戻しながらそんなことを呟くいた。
「まあ、そう言うな。あれも元チャンピオンの器じゃ。初めてのことだろうと柔軟に対処する力は持っておる。それにハチマンも付いているんだ。強くて当たり前だ。それよりもハチマンはお前に何か掴み取って欲しいみたいだぞ」
そんな一言を祖父に拾われからかわれ始める。
「何かってなんなのよ…………」
「それは本人にしか分からんそうじゃ」
二人がブツブツと孫子で言い合っているのをじっと見てるとユキノシタに声をかけられた。
「ありがとう、あなたのおかげで克服できた気がするわ」
「あー、悪かったな。いきなりメガシンカ使わせて」
「いえ、どうせ私一人じゃ使うことを拒んでいたと思うから、無理やりにでもやってくれないと一生使わなかったと思うわ。あなたにはああ言ったけど」
一生って………。
姉貴の方はメガシンカをバンバン使ってるらしいのに。バンバンて程でもないか。
「………げきりん、オーダイルの暴走もこれでコントロールしたのかしら?」
「ご明察。あの時の俺にできる唯一の手段だったんでな。でなきゃ、お前と同じ歳のクソガキが暴走をコントロールできるわけないじゃん」
「クソガキ、ね。あなたがクソガキだったら私たちは何になるのやら」
「ゆきの〜ん。お疲れ〜」
走り寄ってきたユイガハマがそのままユキノシタの胸にダイブする。「ユイガハマさん、暑苦しいのだけれど」とか言いながら頭を撫でている。このツンデレさんめ。
「せい!」
「ぐふっ」
何故かいきなり背後から拳が飛んできた。
超痛いんですけど。
骨に当たった感が半端ない。
「あんた結局何企んでのよ。さっさと言いなさい!」
くるっと回されて胸ぐらを掴まれてキッとした目で睨んでくるのは、やはり(というかこいつしかいないが)コルニであった。
「ねえ、痛いからやめてくれる?」
「やめて欲しかったら、吐きなさい」
「なんでそんな尋問みたいになってんの?」
「あんたが言わないからでしょうが。って、ちょ、なに? なにすんの?」
いや俺はなにもしてないから。
と思ったら、ユイガハマとイッシキがコルニの両腕を掴んで押さえつけ出した。その背後からはユキノシタが脇に腕をとして身体を押さえつける。
「「はーい、ちょっと離れましょうねー」」
「仲がいいのには別になにも言うことないのだけれど、ちょっと距離というものを考えて欲しいわ」
「え? ちょ、ちょっとーっ!?」
三人はそのままコルニを引きずって何処かへと行ってしまった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
ご主人様に残されていったボーマンダにオボンの実を食べさせていると、ようやく四人が帰ってきた。何故かコルニだけはげっそりとしている。一体なにがあったというのだ。
コマチに聞こうかとも思ったが、ニコニコと見ているところを見るとこいつもグルなのが分かる。女って怖い…………。
「うぅ………ユキノさん怖い………………」
「あら、まだお仕置きが必要だったかしら?」
コルニが涙目でポツリと零すとすげぇいい笑顔でユキノシタが睨んだ。笑顔で睨むってすごい芸当だな。
「めめめ滅相もございません!」
「そう」
青ざめた表情で許しを請うと一段とげっそりした顔つきになった。
「せーんぱい? なにじっと見てるんですか? キモいですよ?」
「キモいは余計だ。つか、お前らコルニに何したんだよ」
「やだなー、何もしてませんよー。ただちょーっとだけコルニのことを教えてもらっただけです」
「マジで何を聞いたんだよ……………」
なんかみんなして怖いんだけど。
コルニ、お前は三人に何を言わされたんだ?
「…………コルニ、お前何言わされたんだ?」
「ッッ!? し、知らない! ああああんたになんか絶対絶対ぜぇーったい教えてやんないんだからっ!!」
顔を真っ赤に染め上げてまくし立ててくる。コマチがそれを見て「子供だねー」とケラケラ笑っていた。 多分、お前の方が年下だと思うぞ。
「はいはい」
ま、言う気がないなら別にいいんだけど。
気にならないかといえば嘘にはなるが聞いたところでどうにかなるようなことでもない。特に女子間の会話の内容は男子には分からんことが多々あるからな。
「さて、今度はイッシキかコマチあたりとバトルして欲しいところではあるが…………。さすがの連戦はルカリオが可哀想だからな。明日出直すとしよう」
「あたしは可哀想じゃないっていうの!」
「別にそうは言ってないだろ」
「言ってないけど、そう聞こえた!」
ぶすーっと俺の睨めつけてくる。
何だろう、やっぱり年上には見えない。
いいとこ同じ歳か。
コマチよりも年上かとも思ったが、段々そうも見えなくなってくる。
だからと言って直接歳を聞くのもな…………。
絶対「乙女に歳聞くとかあんたどういう神経してるわけ」って言われそう。コルニだけならいいんだが、最悪なことにここは女子の比率が高い。俺の一方的な負けルートが確定している。下手に口を開けば、俺は殺されるだろう。
「というかお腹すいた………」
隠すことなくそういうコルニが果たして乙女なのかはさておき、確かに飯時の時間ではあるな。
「シャラには何か美味しいものがあったりするのかしら?」
「んー、シャラサブレ?」
「それはこの前食ったわ」
固かったって記憶しかないけど。あ、あと飲み物ないときついな。
「えっ? お兄ちゃん、食べたの?! コマチ食べてないよ!?」
「ユイガハマも食ったぞ」
「ユイさん?!」
「たははー、ごめんねー。別に隠すつもりじゃなかったんだけど、話題に出すとヒッキーが何か言ってきそうだったから」
「先輩、最近どうしたんですか。なんか気持ち悪いですよ。人がよすぎる先輩とか超気持ち悪いです。あと気持ち悪い」
どんだけ気持ち悪いんだよ。
というか俺が奢るとかそんなに変なのか?
「おい、気持ち悪いって何回言うんだよ。そんなに言うんだったら、どんな俺ならいいんだよ」
「どんな先輩って………いつものように後輩には甘い………って、はっ!? まさか先輩私色に染まろうとして聞き出してたりしますか?! 考えはいいですし大変嬉しいですけどまだ早いというか私に覚悟がないのでもっと時間を置いてからもう一度言ってくださいごめんなさい」
「なんで振られてんだよ。つか、長ぇよ」
とりあえず最後のごめんなさいしか聞き取れなかったぞ。よく噛まないで最後まで言えたな。呆れるを通り越して感心するわ。マジパネェ。
「とにかく! 先輩はいつものようにしてればいいんです! 変にいい子ぶるのはやめてください!」
「いい子ぶるってなんだよ。それじゃ、いつもの俺が悪いやつみたいじゃねぇか」
「「「…………………」」」
「なんでそこで誰も否定しないんだよ」
俺とイッシキの会話にいつもであれば入ってきそうな女子さんにが無言で俺をじっと見つめてくる。ごめん、嘘。睨んでるの間違いだったわ。
「だって、ね」
「コルニさんを堕としたお兄ちゃんだし」
「ヒッキー、時々無自覚で鬼畜だから」
「鬼畜って…………」
みんなして俺をどういう扱いをしてるんでしょうか。聞きたくないけどここまでくると気になっちゃう。聞きたくないけど。
「…………いつも、なの?」
「ええ、そうね。特に不安感が強くなった時にはその力を発揮するわね」
「うわー………」
引くわー、みたいな目で見ないでくれます?
結構傷ついてるんですよ? 見せないけど。
「それじゃ、あたしも………」
「先輩の毒は乙女の心に敏感ですから」
「…………………こんなのの何がいいんだろ」
なんかよく分からんが、俺が危険視されてるのはよく分かったわ。これからは余り気づいても入り込まないようにしよう。というかさらっと流そう。うん、そうしよう。
「「爆ぜろ、リア充め!」」
✳︎ ✳︎ ✳︎
残念な二人の叫びの後。
じじいとヒラツカ先生だけを残して昼飯を食いに街をぶらつき、適当な店に入った。
何でもちょっと調べたいことができたんだとか。何を調べたいのかは何となく分かる。ゲッコウガのことだろう。みんなには伏せておくようだけど、ユキノシタは何かを感づいてるし、コルニも何も言ってこないが言ってこないだけであって話題を振れば何か言ってきそうではある。後は知らん。そこまで知識を持ってるわけでもなさそうなので、げきりゅうが発動したとでも勘違いしているのかもしれない。まあ、それならそれで結構。説明しなくて済むから楽である。
「それでいきなりコルニさんとバトルさせたのはどういう意図があったのかしら?」
「あ、それ今聞いちゃう?」
「今だから聞いているのよ。こんな話、ひと段落してる時くらいじゃないと話してくれそうにないじゃない」
よく分かっていらっしゃる。
「まあ、特に意図なんてものはないんだけど。コルニが「ちょっと! それ以上言ったらあんたの息の根止めるからね!」ふぁが、ふぁがふぁふぁふぁ」
答えようとしたら、パンと口の中に詰め込まれた。
あの、これ窒息死しそうなんですけど。結構な勢いでヤバいよ。三途の川が見え始めてるからね。見るの二回目かな。二回ともこいつが原因だけど。
「………はあ、はあ、はあ……………死ぬかと、思った……………」
「あんたが悪いんでしょうが!」
肩で息をして肺の中に空気を目一杯送り込んでいると顔を真っ赤に染め上げたコルニがキッと睨んできた。
睨まれてるのに怖くないのはなんでだろうな。
「すっかり仲良しになったみたいだねー」
声だけ聞けば俺の心も一気に和んでいくのだが、内容を頭に通していくとトツカの発言に異議を申し立てたくなってきた。
「「仲良くなんかない!」」
被った……………。
なんでこういう時に限ってタイミングが被るのだろうか。後内容も。
ユキノシタのことといいコルニのことといい、トツカにはそんなに仲良く見えているのだろうか。天使だから仕方ないが、それでもちょっとは否定させて欲しい。
「………まるで自分の時を見ているような気分ね」
「まるっきり一緒だもんね………」
ユキノシタとユイガハマもよく見るこの光景を思い出したのか苦笑いを浮かべている。
「あー、もうこの話は終わり! 終わりったら終わり! それより、明日は誰とバトルすればいいわけ!」
自分の不利な空気を一掃しようと話を強引に切り替えていく。さすがにかわいそうに思ったのか誰も止める気は無かったようだ。
「明日は…………イッシキあたりからでいいんじゃね? まあ、初心者だし勝てるとは思うけど」
うん、勝てるとは思う。思うけど、イッシキの相手はコルニからしたら嫌なバトルになるだろう。イッシキが誰を使ってくるかにもよるが、癖のあるポケモンしかいないため、攻撃一筋のコルニにはちょっときついかもしれない。
「へー、イロハは初心者なんだ」
「コマチも初心者ですよー」
「な、なんならあたしも初心者かも…………」
ちょっと言い出しにくかったのか、ユイガハマだけ声が幾分か小さかった。
「三人が初心者で、ハチマンとユキノさんが元チャンピオン。で、後の………」
「あ、自己紹介がまだだったね。僕はトツカサイカだよ」
「サイカさんは…………ねえ、ハチマン。サイカさんって女の子だよね」
「だったらどんなに良かったか…………」
トツカの容姿に惑わされる者がここにもいましたよ。まあ当然だな。どっからどう見てもこんな可愛い子が男子だとは思わないよな。
「あっははは………、僕一応男の子なんだけどなー」
「うそっ……………」
案の定、言葉を失って固まった。
その気持ち、よく分かるぞ。
「え、だってミミロップとかいう可愛いポケモン連れて…………え? え?」
ちょっと歯車が合わなくなったのか、微弱ながら震えている。壊れる前兆かな。
「大丈夫だ。俺も陥ったことだ。それよりトツカはメガシンカを扱えるくらいの実力を持っているのは確かだぞ」
「うむ、トツカ氏は我を超えたと言っても過言ではない」
「誰………?」
「ぴぎぃっ」
今の今まで眼中にも無かったのかザイモクザにはすごく冷たい視線を送り始めた。
「あー、この暑苦しい見た目中年のメガネは一応俺と同じ歳のザイモクザヨシテルというでんじほうオタクだな」
「けぷこん! いかにも、我こそ古より紫電の秘技を授かったザイモクザヨシテルであーる! ジムリーダーコルニ! 我らのでんじほうに痺れるがいい!」
「あの、恥ずかしいんでそういうの大声で口にするのやめてくれます?」
「ぐぎゃあっ!?」
奴なりの自己紹介をしたというのに一蹴されてしまった。
ざまぁ。
「ねえ、ハチマン。この人ヤバくない?」
「ああ、そうだな。いつもこれだからもう見慣れたけど、確かに危ない奴でしかないよな」
初めて見る者からすれば確かに危ない奴である。俺たちがいなかったらすでに捕まってるレベルだな。
「中二、うるさい」
「中二さん、ここ一応お店なんで静かにしてください」
「……………先輩、場所変わってください」
ザイモクザの目の前に座るイッシキはげんなりした顔で俺を見てきた。
ちなみに机を挟んで、コルニ・俺・トツカ・ザイモクザ。向かいにユキノシタ・ユイガハマ・コマチ・イッシキの順に座っている。さりげなくトツカの横に座ったのがポイント高いな。その横にすんごい勢いでコルニが座ってきたけど。
「この中で順位をつけるとしたらどうなるの?」
「ヒッキーとゆきのんが一番にきてー、その次に中二? さいちゃん? それから…………イロハちゃんとコマチちゃんってどっちが強いの?」
「………取り敢えず、ユイさんが一番弱いのはよく分かりました」
「あー、バレちゃった?」
「や、分かるだろフツー」
「ヒッキー、ちょっと黙れし!」
やだ、怒られちゃった。
にしてもコマチとイッシキってほんとにどっちが強いんだろうな。初バトルではイッシキが全勝でコマチが一敗だったみたいだが、果たして現状はどうなのだろうか。
「でもユイガハマさんはあれから随分と強くなったわよ。ザクロさんに指摘されたのもあるのかもしれないけれど、技の使い方も間合いのとり方もよくなってきてるわ」
「でへへー、ゆきのんに褒められると照れるなー」
ユキノシタには甘えた顔になるのな。抱きついてるし。どんだけ好きなんだよ。百合百合しい。
「そういえば、あれからイロハさんとは本気のバトルしてませんでしたね」
「言われてみればそうだね。うーん、でももうちょっと待ってほしいかなー。後一体捕まえればコマチちゃんと同じ手持ち数になるし、それで全力でバトルした方が対等で楽しそうかなーって思うの」
「おおー、現状でのフルバトルですか。いいですね、それならいくらでも待ちますよ」
「というわけで先輩、明日付き合ってください」
「上手い具合にヒキガヤくんを釣り出したわね」
「恐るべし、イロハちゃん」
あれ? なんか勝手に明日の俺の予定が埋まっていくんですけど?
「何が「というわけ」だよ。それなら午前中はコルニとバトルな。それだったら付き合ってやらなくもない」
「…………やっぱり、なんか気前いい先輩って怖いです」
「なんでだよ………」
キモいならまだ分かるが(分かりたくないけど)怖いってどういうことだよ。
「いいですよ、勝っても負けても明日は午後から付き合ってもらいますからね!」
「へーへー」
イッシキに新しいポケモンねー。
何を捕まえようとしてるんだか。
エスパータイプじゃありませんように。