「うぅ…………今なら先輩の気持ちも分かりそうです……………気持ち悪い………」
マスタータワーに着くとイッシキがぐでんと地面に倒れていた。
『困ったなぁ』
その横では困り果てた顔をするヤドキングが頭を抱えている。
「分かっただろ、急にあんなスピードで走られたんじゃ、心の準備ができてなくて身体・精神ともに保たないって」
「はい…………、というか、ヤドキングが、あんな早く走れたのが驚き、です…………」
それは俺も驚きだったわ。
こいつ、図体デカイくせにあんな速度で走れるとか……………。あ、トリックルームを使ってたとか? それなら説明もつくけど…………、果たして走りながら使えるものなのだろうか。
「ある意味でイッシキさんもヒキガヤ君に似てきてるわね」
何かに関したように俺とイッシキを見返すユキノシタ。
腕を組んで右手を顎の下に当ててポーズを取っているのが、様になっててちょっとムカつく。
「『も』って自分もそうなってることに自覚してるんだ……」
「あ、や、そういうわけじゃないのよっ」
ユイガハマの言葉に彼女は取り乱し始める。
顔は赤くなり、食い気味に否定するその姿にはちょっと笑えた。
「おお、きたかい。入っとくれ」
なんて話しているとタワーの中からコンコンブル博士が出てきた。
今日も今日とて作業着姿である。しかも足首まくってるし。歳食ってんだか若いんだかよく分からん。
「取り敢えず、勝負よ!」
「ふぁ、ふぁかったから、ふぉの指ひゃめい」
イッシキをどうしようかと考えていると、ビシッとコルニに指を刺された。文字通り、物理的に。おかげで頰が痛い。
『いろは、担ぐぞー』
「うん、よろしく………」
ぐでっとしていたイッシキはヤドキングにより無事タワーの中へと運ばれていく。
なんかあの二人仲良すぎない?
少なくともお互いをよく知ってる感はある。
「……………あんた、結構女の子のことじっと見てるよね。変態…………?」
「謂れのない肩書きを俺に与えるな。それにその称号はすでにあのストーカー博士にくれてやったわ」
「おじいちゃん?」
「あの人は一回きりだからストーカー被害にはあってねぇよ。いるんだよ、もう一人」
「ふーん」
横で俺を変な目で見てくるコルニにそう返した。
……………何気にタメ口で話しちゃってるけど、こいついくつだよ。まあ、いくつでもいいか。歳なんか聞いたらコマチに「お兄ちゃん、女性に歳聞くとかコマチ的にも一般的にもポイント低いよ」だのユキノシタに「変態」だのユイガハマに「ヒッキーさいてー」と馬鹿にされるのが目に見えている。あ、ちなみにユキノシタは冷たい視線という俺を一瞬で射殺しそうな目で見てくるのがポイントだな。………なんだそれ。俺死ぬじゃん。
「さあ、やるわよ」
「はあ…………面倒くさ……」
コルニに引きづられるように俺は最後にタワーの中に入った。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「では、早速バトルといこうかのぅ」
「なんであんたまでやる気見せてるんだよ」
じじいの言葉に思わずツッコンでしまった。
条件反射って怖いね。
「こわやこわや。お前さんもメガシンカさせてくる奴とはバトルしておらんだろ?」
全く怖いとは思ってないいつも通りの軽い口調。
見渡せば、他の奴らは俺たちから距離を取っている。コルニもコルニで俺から距離を取って、モンスターボールでジャグリングをしていた。しかもローラースケートで走りながら。
「いや、すでに二回バトルしてるな」
「私の他にも誰かとやったのか?」
「ちょ、なんで先生までいるんですか!? ………ハヤマたちっすよ、覚えてるか知りませんけど」
「おお、ハヤマたちか。ちゃんと覚えてはいるが君の口からその名が出てくるとは驚いた」
「俺も驚きですよ。本来関わることのない奴の名前を口にするなんて」
観衆どもの中に紛れるようにヒラツカ先生がいた。
帰ってなかったのかよと思うが口にはしない。言えばマッハパンチが飛んでくるから。今度はあてるらしいし。
ハチマンガクシュウシタゾ。
「ミウラさんとのタッグバトルでしたけど、私たちが勝ちましたよ」
「あ、ちなみに二人ともメガシンカさせてきましたよ。それでもヒッキーが勝っちゃいましたけど。あたしも参加したのに全く歯が立たなかったなー」
補足するようにユキノシタとユイガハマが付け加えてくる。
ユイガハマのあれは仕方のないことだ。相手は四冠王とか呼ばれてる奴とリーグ戦のベスト4の常連とか言われてる奴だぞ。しかもメガシンカも扱いこなすような奴らが相手だったのだ。あそこで初心者の彼女が上手く立ち回れていたら、逆に頭大丈夫かと疑ってしまうレベル。特にユイガハマだし。
「ほう………、というと何か? ヒキガヤはメガシンカしたポケモンの相手をするのは四体目ということになるのか?」
「そういうことになりますね」
「や、あのタッグバトルはハヤマが相手の実力を図り損ねただけだろ。明らかにメガシンカを使うタイミングを間違ってたと思うぞ」
それに勝ったのだってタッグバトルだったから。前にも思ったがハヤマはタッグを組んでバトルをするよりは自分だけで組み立てた方が上手くいくと思う。俺もどこまで通用するのか分からないくらいには実力を兼ね備えている。
「何でもいいからさっさとやるよ!」
俺たちがメガシンカしたポケモンとのバトルの話をしていると痺れを切らしたコルニが割って入ってくる。
「どうやらうちの孫が我慢ならんようじゃ。相手してやってくれ」
「はあ……………面倒くさ。つか、フィールドは?」
ジム戦も兼ねてるんじゃなかったっけ?
なら、フィールドに移動しなくていいのかよ。
「いらん、バトルできればそれでいいのだ」
「適当なジムだな」
「ここはジムじゃないから別にいいじゃん」
へー、ジムじゃないんだ。
「ルールは?」
「三対三のシングルス。使う技は一体につき四つまで。ただしメガシンカを絶対に使うこと。交代はあんただけ有り。あたしに勝てたらバッジもあげるわ」
「いつも通りか、まあいいんじゃねぇの」
「そうかい、なら早速ジムリーダーコルニ対ヒキガヤハチマンのバトルを始める。バトル開始!」
あ、もう開始なんだ。
「いくよ、コジョフー!」
「まずはよろしく、ゲッコウガ」
「コウガ」
まずはゲッコウガからですかね。
で、相手はコジョフーときたか。
単純な相性で言えばかくとうタイプは苦手ではあるが………うちのゲッコウガさんは特殊だし問題ない。
「あくタイプ………コジョフー、まずはとびひざげり!」
シュタッと地面を蹴り上げ、宙を舞うコジョフー。確かフラダリも使ってたな。そんなに需要があるのだろうか。よく分からん。
「かげうちで躱して攻撃」
落ちてくる蹴りを影に隠れて躱す。
技を外したことで着地の反動のダメージを受けて、身動きを取れなくなっているところに影から出てきて殴りつける。ダメージとしては大きくはないが、次に繋がればそれでいい。
「つばめがえし」
吹き飛んでいったコジョフーに追い打ちをかけるように命令。
ゲッコウガは手刀を作り出して走り出す。
「スピードスター!」
起き上がりながら腕で宙に円を描き、中を割って星を打ち出してくる。流れ星はゲッコウガの視界を遮るように、壁を作った。
「斬れ」
目の前にできた壁をいとも簡単に切り裂き、道を作り出す。
「くっ、だったらドレインパンチで迎え撃って!」
今度は攻撃と同時にエネルギーを吸収するという異様な格闘技。
イッシキのナックラーが使っていたギガドレインのような技なので受け止めるのは得策じゃないな。
「かげうち」
ゲッコウガはシュッと影に潜り一瞬でコジョフーの背後に回ると二本の手刀でバッテンを描くように斬りつけた。
「コジョフー!?」
コルニが呼びかけるとふらつきながらもしっかりと二本脚で立ち直す。
「あー、一発じゃ無理か。なら、もう一回だな」
「コウガ」
俺のところに帰ってきたゲッコウガにもう一度行くように促す。
「くるよコジョフー。引きつけて!」
走り出したゲッコウガに攻撃を仕掛けるわけでもなく、じっと待つ。何かを狙っているのは明白だな。引きつけたいみたいだし、少し誘いに乗ってみるか?
「今だよ! とびひざ「ハイドロポンプ」げり!?」
ま、どうせさっきはずした分を当てようとしてたんだろうけど。そう簡単に攻撃させるかよ。
コジョフーが地面を蹴り上げて大きくジャンプしてくる。それをゲッコウガは水砲撃で地面へと押し返した。
「つばめがえし」
とどめのひこうタイプの技。
効果は抜群だし、これで終わるだろう。
「コジョフー!?」
コルニの二度目の呼びかけ。
だが、コジョフーは今度こそ反応を示さなかった。
「コジョフー戦闘不能。やるな、ハチマン」
「俺じゃなくてゲッコウガが、ですけど」
「………速い……………それに策が読まれてる……………」
ボールにコジョフーを戻すとじっと睨んでくる。これ気にしたら負けかな。でもすごい目つき悪いんだけど。
「コルニ、次のポケモンを」
「あ、うん。ゴーリキー、お願い!」
二体目はゴーリキーか。となるとやはりジムリーダーとしての専門タイプはかくとうになるのか。
ひこうタイプの技をぶつけとけば大丈夫そうだな。
「ゴーリキー、相手は強いよ。でも私たちも負けてない。いくよ、きあいだま!」
エネルギー弾を作り出すゴーリキー。
どうでもいいけど、ヒラツカ先生が超嬉しそう。なんだろう、ゴーリキーが出てきたからか? カイリキー連れてるくらいだし、好きではあるよな、ああいうの。
「さて、少し様子を見ますかね」
ちらっとこっちを見てくるゲッコウガに頷いて合図だけ返しておく。
「発射!」
結構でかくなったきあいだまを打ち込んでくる。
「まずは四等分にでもしてみるか」
「コウガ」
シャキンと二本の手刀を出すと、エネルギー弾に向かっていく。
そして、縦と横に切りつけて四等分にしてしまう。
「き、斬った!?」
「こないんなら、つばめがえし!」
切りつけてからそのまま脚を止めずにゴーリキーへと直行。
「躱して、ローキック!」
ゴーリキーは身を屈めて二本の刃をやり過ごすと、足を伸ばして勢いのついたゲッコウガの足を捉えた。
まあ、当然転けるわな。
「かわらわり!」
「かげうち」
追撃として振り下ろされるチョップを地面に倒れる流れで影へと潜り躱す。
「ゴーリキー!」
「やれ」
影からゴーリキーを蹴り上げ、宙に移動して地面へと叩きつけた。
「ゴーリキー!?」
抜群技ではないためまだ戦闘不能に追い込めてはいない。
「いっけぇぇーー!」
何かを仕掛けていたコルニが吠える。
地面へと降り立ったゲッコウガを押しつぶすように、エネルギー弾が上空から打ち込まれた。
「ナーイス、ゴーリキー」
「リキ」
ハイタッチをして喜んでいるが、お前らこれ見たら絶対泣くぞ。
「ゲッコウガー、生きてるかー」
「コウガ」
すげぇ棒読みで声をかけてみると仁王立ちしたゲッコウガさんが土煙の中から姿を見せた。
うわー、超ピンピンしてる。
「えっ!? 効いてない!?」
「ほう、きあいだまはかくとうタイプの技。ゲッコウガはみずとあくタイプの持ち主。普通であれば効果は抜群で大ダメージを受けていていいはずのものを……………いや、待て。確かゲッコウガはタイプが変わる特性も持っているとか聞いたかことあるぞ………まさか」
「意味分かんないんだけど!? ゲッコウガにはかくとうタイプが効果抜群のはずじゃ」
じじいは分かって孫は気づかずか。
やはりまだ少し未熟なジムリーダー様なのかもしれんな。
「へんげんじざい。最後に使った技のタイプに変わる特性、という説明でいいのかしら」
「ま、そんな感じになるな。要は覚えてる技のタイプになら何にだって変化するって奴だ」
ユキノシタが思い出すかのようにプラターヌ博士の説明を口にしていく。
あいつ、バトルしてたのに意外と聞いてはいたんだな。俺は聞いてなかったけど。
「はっ!? 何それ、反則すぎない」
「それに関しては俺も賛同だな。だけど、それがこいつだから仕方ないんだ」
「もう、メガシンカとかなくていいんじゃない?」
「そういうわけにもいかんのだわ、これが」
「くっ、ゴーリキー、みやぶる!」
「つばめがえし」
みやぶるを覚えてるとか。
目力が半端ないな。あと目付き悪い。
ま、どうせすぐにタイプ変わるし意味ないような気もするけど。
「ローキック!」
再度足元を狙ってきた。
だが、そう何度も同じ手を使わせるわけないだろう。
「コウガ」
突き出された足をジャンプで躱し、その足に着地する。
こっちからは見えないが、今絶対悪い顔をしてることだろう。ニタァと笑ってそう。想像したら不気味すぎだったわ。
「とどめ」
「コウガ」
二本の手刀でクロスに切り裂き、大きくジャンプしてこっちに帰ってくる。
「ゴーリキー!?」
またもや土煙が吹き荒れ、ゴーリキーの姿が見えなくなるが、ドサッという何か倒れる音がした。
「………ゴーリキー、戦闘不能」
煙が晴れると案の定ゴーリキーは地面に倒れ伏していた。
コニルはそれを見ると静かにボールへと戻す。
「どうしたコルニ。ジムリーダーのお前が押されてるではないか」
「うるさいよおじいちゃん。分かってるから」
ニヤニヤとコルニを挑発する博士。何孫を煽ってんだよ。ここは落ち着けとか少しアドバイス的なこと言う所なんじゃないのん?
「ルカリオ! あんたに全てを託すよ!」
最後に登場したのはルカリオだった。
となるとこいつがメガシンカしてくるというわけか。
波導の持ち主とか結構厄介な相手だな。
「んじゃ、ゲッコウガ。メガシンカしないといけないみたいだから交代……………って、またですか」
交代と聞くとどうしてこいつは嫌がるのだろうか。
「コウガ、コウガコウガ」
「いや、待て。何言ってるのかさっぱり分からんが何となく分かった。分かったけど、マジでやんの? 俺、どうやってやってるかも知らんぞ」
「コウガ」
「いや、そんな胸を張られても」
任せろと言わんばかりに胸を叩くゲッコウガ。
マジでメガシンカしたポケモン相手にやろうっていうのかよ。
どうなっても知らんぞ。
「負けても文句言うなよ。これはあくまで実験だからな」
「コウガ」
こうして、俺たちは例の現象をルカリオ相手にぶつけてみることにした。
あれ、何気体力の消耗が激しいから嫌なんだけどなー。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「ちょっと、ゲッコウガはメガシンカできないじゃない!」
「まあそう言うなって。ゲッコウガの相手にならないんならメガシンカさせるまでもないってことだ」
本来の目的は伏せておいた。できるかも分からないもんをやってみるんだから仕方ないよな。
「言ってくれるじゃん。いくらタイプが変化するからって言ってもすでにみずとゴーストとひこうは使っていて後一つ隠してるだけじゃん。だったら、あたしのルカリオを倒すことはできないよ。そんな生半可な小手先は通用しないんだから!」
メガシンカには絶対的な自信を持っているようで、今までとは違い強気な態度を見せてくる。
それならそれでいいんだけど。
逆にその力を見せて欲しいくらいだ。他のメガシンカなんてじっくり見てる暇なんてなかったし、この際だからメガシンカというものを側から見せてもらおうじゃないか。
「あ、そうだゲッコウガ。これ付けとけ」
そう言って俺はゲッコウガに青色のリングを放り投げた。
俺とお揃いなのはどう思うか知らんが、これもそろそろやっておかないとな。
「早速何かしようとしてるみたいだけど、いくよルカリオ! まずはグロウパンチ!」
命令とともに動き出したルカリオ。
メガシンカはまだしてこないか。
やはり、一度ルカリオを追い込まないとどうにもできなさそうだな。
「ゲッコウガ。あれをどうやるかはお前に任せるが、取り敢えず追い込まないとメガシンカはしてもらえないらしい。ちょっと無理するがいいな」
「コウガ」
本人の了承も取れたので命令に移る。
「かげうち」
差し迫るルカリオを影に潜って回避する。
「またその手? けど、あたしたちには通用しないよ。ルカリオ、波導でゲッコウガを感じて!」
さすがに切り札ともなれば、ポケモンの性質、特殊性を十分に把握しているようだ。ルカリオは波導を操るポケモン。技でなくともそれは効果的で、奴ら特有の能力である。
「ルカッ!」
背後の影から現れたゲッコウガにすかさず振り向いて拳を叩き込んでくる。
かくとうタイプの技ならば効果はないが…………。
「バレットパンチ!」
ルカリオのもう一つのタイプであるはがねタイプの拳技も覚えるんだよなー。
じゃないとあそこまで自信満々に言ってくるわけがない。
「ハイドロポンプ」
拳を受けながらも水砲撃をゼロ距離で撃ち出した。
水圧により距離を取ることができ、これで仕切り直しとなるだろう。
「はどうだん!」
バランスを崩しながらも片手ではどうだんを撃ち出す。
チッ、出てきたか。
はどうだんは追尾機能がある技だからな。逃げたところでまた追いかけてくる。技自体を消さない限りは永遠と。
「ゲッコウガ、つばめがえし!」
ならば叩き切るしかないだろう。
ゲッコウガは二本の手刀を携えてはどうだんに走り込んでいく。
「もう一度はどうだん」
体勢を立て直したルカリオが波導を操ってサイドからはどうだんを撃ち込んできた。
三点方向からの追尾か。
追いこむ前に先に追い込まれてしまったな。
「ゲッコウガ!」
「コウ、ガァァァァァァァッ!!」
ピンチでラッキーとはよく言ったものだ。
どうやってあの現象が起こるのか分からなかったが、どうやらゲッコウガがピンチになると発動するらしい。一体何なのかは分からないが、すでに俺の視界はゲッコウガのものへと変わっている。
つばめがえしで叩き切るにもハイドロポンプで打ち消すのも時間が足りないか。ならばこれしかないな。
「かげうち」
だが影には入らずただゴーストタイプになり、かくとうタイプの技を無効にする。
ゲッコウガを中心に集結するのであれば、はどうだんの最後は当然同士討ちからの霧散。
「な、に、これ…………」
「ルカッ!」
「………そうだね、何が起こるか分からないのがバトルだもんね。いくよ、ルカリオ! 命! 爆! 発! メガシンカ!」
ようやくルカリオをメガシンカさせてきた。コルニのグローブにはめ込まれたキーストーンとルカリオの左腕に取り付けてあるメガストーンとが共鳴し合い、結び合う。
普通はこれがメガシンカである。だが、このゲッコウガの現象はマジでなんなんだろうか。メガシンカともフォルムチェンジとも言い難い何とも不思議な現象。しかも多分であるが未完成。なんかこう力が殻に覆われていて、全力を発揮できていない感覚がある。
「ボーンラッシュ!」
槍のように長い骨を作り出すと真ん中でへし折り、二本に分ける。二刀流で来るつもりらしい。ならばこっちも二刀流で相手しようではないか。
「つばめがえし」
二本の手刀を再び作り出し、打ち込んでくる骨を受け止める。だが、身体を捻ってゲッコウガの腕からすり抜けて骨も地面に捨てた。
「はどうだん!」
さっきのハイドロポンプのお返しと言わんばかりにゼロ距離ではどうだんを撃ち込まれた。
やべえ、なんかくっそ痛いんだけど。ポケモンっていつもこんな痛みを受けてんのか? 鈍器で殴られたんじゃないかって感じなんだけど。殴られたことないから分からんが。
ーーーこれ撃ったら交代だな。
ふらつく感覚をどうにか耐えながら立ち上がる。
「まだまだいくよ! はどうだん!」
だが、王手をかけるように何発ものはどうだんを時間差をつけて撃ち込んできた。
もう躱す気はない。
この一発で一掃して交代だ。
「………」
もっと、もっと引きつけて。
さすがに背後からこないようだ。丁度俺も巻き込む形になる立ち位置にいるからかな。
「ーーーハイドロカノン」
口を大きく開いて全てを飲み込むような破壊の水砲撃を撃ち出す。
ルカリオははどうだん諸共に飲み込まれていった。遥か先にある壁にまで飛んでいき身体を叩きつける。壁がくずれなかったのが何よりも幸いだな。
うーん、タイミング・威力ともに一発目としては上出来だわ。
「ルカリオ!?」
「スイッチ!」
水の究極技を撃ち出した反動で動けなくなり、意識も俺の身体へと帰ってくる。ゲッコウガの水のベールもなくなり、ぐったりと地面に座り込んだところをボールに戻して、リザードンと交代させる。
この瞬間を待っていたリザードンが雄叫びを上げながら、そのままルカリオに突っ込んでいく。
「メガシンカ」
このままの姿ではメガルカリオには歯が立たないことを充分に体感した。ゲッコウガのあの現象ですら押されていたのだ。こちらもメガシンカしなければすぐにやられてしまうだろう。
なるほど、確かに自信を持つのも頷ける。それほどまでにメガシンカとは圧倒的な力を持つことになるようだ。ヒラツカ先生やハヤマたちとのバトルでは感じ得なかったメガシンカの凄み。継承をしているだけのことはあるな。
「黒い、リザードン……………はっ、ルカリオ、ボーンラッシュ!」
ハイドロカノンに耐えた身体を鞭打って奮い立たせ、再度骨作り出して黒いリザードンに放り投げてくる。
「ドラゴンクロー」
竜の爪を立てて、骨を弾き、勢いを殺させはしない。
「かえんほうしゃ!」
「波導で防いで!」
リザードンが青い炎を吐き出すとルカリオは波導で壁を作って、炎を防いだ。擬似的なまもるというわけか。
「グロウパンチ!」
ルカリオだけが分かるように(おそらく)波導で道を作り、炎の中を走り抜けてリザードンに拳を撃ち込んできた。
攻撃力もこれで上がってしまったか。
さて、どうしたものか。
「連続でグロウパンチ」
好機と見たコルニは連続してのグロウパンチを命令。
だが、そう簡単には空きさせてやるかよ。
「カウンター」
突き出された拳を掴み、振り回して地面に叩きつけた。
「ルカリオ!? しっかりして! あんたなら出来るよ。ボーンラッシュ!」
地面に倒れてながらでもいくつもの骨を作り出して、方向を曲げて投げてきた。当たれば地面タイプの技であるため今のリザードンには効果抜群である。
「ドラゴンクロー」
再度竜の爪を立てて、骨を弾いていく。
その間にルカリオは立ち上がり体勢を立て直していく。
「これで決めるよ! ルカリオ、はどうだん!」
どうやらとどめを刺しにくるようだ。となるとこちらもそれ相応の技で対応させてもらおうか。
「ブラストバーン!」
地面を叩きるつけ青い火柱を吹き上げる。
ルカリオは撃ち出したはどうだん諸共、今度は青い炎獄で焼き尽くされていく。
「ルカリオ!?」
コルニが呼びかけるが返事はない。というか炎が燃え盛っていて姿すら確認できない。あいつ生きてるよな。
「ゲッコウガ、生きてるかー? 生きてたらあれ消火してくれねぇかなー」
「コウガ」
そう小声で言うとボールから出てきて消火活動を始めた。究極技とあの現象を行った後だというのに悪いねぇ。
「ル、ルカリオ……………」
鎮火して舞い上がる煙の中にはメガシンカの解けたいつもの姿のルカリオが地面に倒れ伏していた。
「ルカリオ戦闘不能。リザードンの勝ち。よって勝者、ヒキガヤハチマン」
「お疲れ様、ルカリオ。あんたはよくやったよ」
コンコンブル博士のコールの後にコルニはそう言ってルカリオをボールへと戻した。
リザードンもバトルモードから解けてメガシンカを解除する。
「はあ……………」
なんかやっと終わったかと思うと、急に疲れが舞い込んできて立っているのも辛くなってきた。思わず地面に座り込んじゃうレベル。ぶっ倒れないだけ成長したな。
「色々と聞きたいことは山々だが、メガシンカについては問題ない。充分に扱いこなしている」
「そりゃどーも」
博士が俺のところにやってきて、賞賛してきた。これで一応継承したってことになるんだろうか。認められたようだし。
「…………悔しい……………あんたなんかに負けるとか…………」
目尻に涙を浮かべながら俺のところにやってきたコルニはそう零した。
「あんた、何者なの………」
「あー、此奴はカントーリーグをリザードン一体で制覇した元チャンピオンなんよ」
キッと睨んでくるコルニに祖父の方が俺の正体を打ち明けた。
それを聞いた彼女は意外なものを見る目で驚いていた。
「………イミワカンナイんだけど。なんでそんなのがカロスにいるのよ」
「妹の旅についてきた」
「シスコン?」
「断じて違う」
なぜコマチについてくるだけでシスコン扱いされなければならないのだろうか。
こっちがイミワカンナイんだけど。
「ハイ、約束のバッジ」
コルニが差し出してきたバッジは対照的な形をしたものだった。
「ファイトバッジ。…………次は絶対勝ってやる!」
それだけ言ってどこかに行ってしまった。
「………相当悔しかったみたいだな。お前さんには礼を言うべきか」
「なんだよいきなり」
「コルニは最近になってメガシンカをコントロールできるようになってな。それまでは暴走させたりなんかはしょっちゅうじゃ。メガシンカが使えるようになってからはジムでも負けなし。少し刺激が足らなかったのだろう。だから今日はお前さんに負けて久しぶりの感覚を思い出したんだろうよ」
負けなし、ねー。
あいつもあいつなりにやってきたってことなんだろ。だったらそれでいいんじゃね? と思うんだけど。
負ければ悔しいか。
そんな感覚最近じゃ俺も味わってないな。
「のう、少し付き合ってくれんか?」
「どうせ拒否しても無理なんでしょ」
「よく分かってるな」
「はあ…………じじいの戯言に付き合うとしますかね」
重たい体を起こして、みんなに見送られながら博士の背中を追った。