ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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32話

『おい』

「なんだよ、いきなり」

『出せ』

「はいはい」

 

 みんなの元へ戻って早々、暴君様が珍しく出たがったので高級なボールから出してやる。

 奴はボールから出ると等間隔に置かれた縦石の方へとスイーっと移動していく。

 

「…………」

 

 無言で石を観察する。

 周りを回ってみたり上や下から見てみたり。

 

「ねえ、ミュウツーは一体何をしているのかしら」

「さあ、あいつの方から出たがったから俺にもさっぱり分からん」

 

 ユキノシタがみんなを代表して疑問を口にしてくる。

 何が気になるのか、ミュウツーは石の観察をやめようとはしない。

 最後には触りだしたし。が、咄嗟に手を離した。

 

『む……? これは…………?』

「あ? なんかあったのか?」

『………地下………これはエネルギーか……………?』

 

 全く聞いていないようだ。

 たぶん、今話しかけても相手にしてくれないのだろう。こいつはそういう奴だからな。

 指先………あれは指先と表現すればいいんだよな? 三つ指で慎重に石に触れては離すを繰り返している。

 

『いや、この今にも持っていかれそうな感覚…………吸収…………? エネルギーの吸収と言ったところか?』

 

 吸収やらエネルギーやら何の話をしてんだか。

 俺にも分かるように言ってくれねぇかなー。

 

『おい?』

「なんだよ」

『少し付き合え』

「えー」

『お前に拒否権はないだろ』

 

 え? なに?

 俺ってこいつにまで人権無視されてんの?

 いや、そもそもこいつはこんな性格だし普段通りといえば普段通りか。

 まあ、借りがあるしその分ということで少し付き合いますかね。

 

「はいはい。なんかよく分からんが、こいつの相手してくるわ。先に行くなりしててくれ」

「そう、分かったわ。気をつけて」

「「「「「ッッ!?」」」」」

 

 最後のユキノシタの発言にみんなして固まってしまった。

 あのユキノシタが気をつけて、だと………?

 

「そっかそっか〜。ゆきのんもついにか〜」

 

 と驚いているのは俺だけのようでユイガハマはこんな感じでニヤニヤ。

 

「おおー、ユキノさんもやりますなー」

 

 コマチはふむふむと何かに理解を示している。そしてニヤニヤ。

 

「デ、デレた………っ!?」

 

 あ、イッシキはなんか別の方で驚いてるわ。そして顔真っ赤。

 

「いやー、さすがハチマンだねー」

 

 トツカは俺には理解できなことを言っている。そしてニヤニヤ。

 

「え? な、なんでみんなして私を見てくるのかしら!? ちょ、ちょっとそのニヤニヤした気持ち悪い笑みはやめてちょうだいっ」

 

 耳まで顔を赤く染め上げていくユキノシタは抱きつこうとしたユイガハマを制止しようと距離を取った。

 意外とユキノシタさんも初心ですね。自分で言ったことなのに恥ずかしがってどうすんのさ。まあ、この状況なら逆に恥ずかしくなるけども。俺ならなる自信があるけども。

 

『人間とは難儀な生き物だな』

「………それはお前らにも言えることなんじゃねーの」

『どうだろうな』

 

 ユキノシタをみんなで可愛がっている間に、俺はスイーっと移動を始める白い体の背中を追うことにした。

 ちなみにザイモクザも付いてきている。呼ばれてないのに。

 

「で、結局何なんだよ」

『この石には何か仕掛けがある』

「はっ? どういうことだよ」

 

 仕掛けって…………。

 いきなり何を言いやがる。

 確かに、こんなにも綺麗に規則的な並べ方をされていれば何かの痕跡か遺跡かと疑わないこともないが。偶然といえばそれまでだし、人工的だったら逆に何のためにと、その先が全く想像できない。

 

『こう、触れた時にエネルギー………それこそ生きるために必要なものを持っていかれるような感覚が僅かにも感じたのだ』

「生きるために必要なエネルギー…………?」

 

 といえば昨日イッシキと見たあの抜け殻のようなポケモンたち。

 あいつらも確か生体エネルギーを吸い取られたとかこの白いのが言ってたような。

 

「どういうことだ? まさかあいつらのことと関係あるのか」

『分からん。だが、オレが感じるままに言えばそうかもしれない。ただの勘だ』

「お前にも勘があるということに驚きだな」

『吐かせ。オレもポケモンだ。理性と本能を持ち合わせている。お望みならば今ここで本能的に暴れ廻ってもいいのだぞ』

「はいはい、俺が悪うございました」

 

 ギロッと睨んでくる目が超怖い。

 さすが暴君。

 睨みつけるだけで相手の戦意を刈り取るとか最強だな。

 

「なあ、ハチマン。さっきから何を話しておるのだ。我にも分かるように言ってくれ」

「ああ、そういやザイモクザには聞こえていないんだっけ。ったく、お前も気難しいやつだな」

 

 ザイモクザが話に加わっていなかったことを思い出し、白いのの肩に手を置いて話し出す。

 

「実はこいつ曰く、この縦石には生体エネルギーを持っていかれるような感覚が微弱ながら感じるんだとさ。で、俺は実際にその生体エネルギーを抜かれたポケモンに遭遇している。何かがあるのは間違いないだろう」

「それはあれか? 来る途中にあった脇道に花を手向けられていたポケモンたちか?」

「お前も見たのかよ」

「うむ。不思議ではあったが花が手向けられていたのでな。たまたま通りかかったノズパスの群れに預けておいた」

 

 ノズパスの群れ………?

 

「ああ、ダイノーズ連れてたんだっけか」

 

 そうだ、こいつダイノーズ連れてたんだった。

 そりゃ説明くらいできるわな。そんで預けてきたのか。

 

「うむ、我働いたぞ」

「はいはい、ご苦労さん」

 

 適当に労い、調査を再開。

 と言っても調べるのは白いのだけど。

 

「で、他には何か気になるのか」

『この石が繋がっている先だな。多分地下に埋まっているはずだ』

 

 そう言うとミュウツーはサイコパワーでその場で穴を掘り始めた。

 擬似的にでも穴を掘れるんだな。

 エスパータイプってやっぱすげぇわ。

 

『ぬぅん!』

 

 バリアーを張って俺たち共々地下へと潜っていく。

 

「ならん!」

 

 のはずだったが、ちょうど潜ろうとした時に唸り声が響いてきた。

 俺たちがいる場所には不自然に影が差している。

 不思議に思って上を見上げるといつか話しかけられた超長身の男の姿があった。

 

「………あんた」

「久しいな、『破壊する者』よ」

 

 なんかやっぱ同じ人間とは思えんな。ポケモンと言われても認められちゃうかも。いや無理だな。ポケモンらしくない。

 

「その『破壊する者』ってのは気になるが、何の用だよ。この前はずいぶんな挨拶をされて、おかげでいろんなことが見えてきちまったんだが」

「そう威嚇するな。3000年前の戦争について何か分かったんだろう?」

 

 そう男が言うと何故かミュウツーがバリアーを解いた。

 だが威嚇は続けている。

 

「ミアレにあった文献くらいのことだがな」

「よかろう。その戦争で最終兵器が使われたことも話したな」

「最終兵器…………………」

 

 そういえば前に最終兵器のこともこいつに言われたんだったな。

 最終兵器ねー。最後にドカンと放って戦争も何もかもが文字通り終わったっていうやつだろ? 

 

「ッッ!? まさかっ!?」

「ふっ、さすがだな。ああ、そうだ。この下には『そいつ』がある。そして、その稼働源は」

「生き物の生体エネルギー…………」

 

 そうだ、何故こいつがそんな3000年前のことを知っているのか。そして何故それを俺に言ってきたのか。そもそもがおかしかったのだ。こいつは知ってるんじゃない。最終兵器を造った本人なんだ。戦争を終わらせた張本人。お伽話かと思っていたが永遠の命を手に入れてしまったポケモンの話も最終兵器になる前の話だとすれば辻褄が合う。そんな大それたエネルギーのやりとりが出来るものなんて一つしかない。

 

「いいか。『その時』は必ず近いうちに来る。弟の子孫がバカなことを企んでいるようだからな。だが、これだけは言っておく。最終兵器だけは絶対に起動させてはならぬ。一度咲いた花は枯れるまで元には戻らぬ。いいな」

 

 またしても言いたいことだけ言ってショウヨウの方へと歩き始めた。

 あ、また名前聞いてないし。いや、聞かなくてももう分かるか。

 奴の名はAZ。偽名か何かは知らないが、3000年前の王にして戦争も何もかもを終わらせたお伽話の主人公。

 

『……何者だ』

「最高齢の人間」

『………信じるのか?』

「事実だからな」

 

 遠ざかる広い背中を見ながら答えると、訝しむように白いのが見てきた。

 

「な、なんだよ…………」

『変わったな…………』

「いや、こんなもんでしょ」

「して、ハチマン。結局どうするのだ?」

「どうするんだ?」

『オレに質問するな』

「ま、結局今から地下に潜ったところでどうにかできるもんでもないし、あるという事実だけを胸に刻んでおけばいいんじゃね? 知らんけど」

『それが妥当だな』

「うむ、さすがに情報が不足しすぎていて、対処し兼ねる」

「最終兵器、およびその起動の仕方。それとあいつが言った『その時』の中心にいるであろうフレア団の動向に目を光らしておくしかないな」

 

 そういや、あいつの弟の子孫が何かしようとしているとかって言ってたよな。ってことはつまりフレア団のボスは王族の子孫ってわけだ。意外と3000年もの間、血は繋がり続けるもんなんだな。どうやって系譜を残したのやら。途中で消え失せたりしなかったのかね。

 

「さて、あいつらのところに戻りますかね」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 あっれーっ?

 あいつらどこいったんだ?

 一応元の場所に戻ってみたら、みんなの姿はなかった。

 なので、ひたすらこの先にあるセキタイタウンを目指して歩いているが全くコマチたちの姿がないのだ。

 電話でもかけた方がいいのか?

 

「む? ………トツカ氏、それは真か? …………うむ、あい分かった。ハチマンにもそう伝えておこう」

「あん? トツカからか?」

「うむ、どうやら皆は先にセキタイに着いてしまったようだ」

「ってことは元の場所に戻らなければ出会えてた可能性があるということか」

「ゴラムゴラム! であるならば急ごうではないかっ! 我腹減った」

「食い意地だけはあるのな」

 

 ザイモクザが急ぐ理由が分かったところで、早速セキタイに向かうとしよう。

 ちなみにやることを済ませた暴君様は自分からボールの中へ帰って行った。

 そんなに居心地がいいのだろうか。

 

「て、ちょっ、まっ!?」

 

 歩き出そうとしたら何故かいきなりゲッコウガに担がれた。

 え? なに? これどゆこと?

 

「あ、あのゲッコウガさん?」

「コウガ」

「うむ、では参ろう」

 

 ゲッコウガとザイモクザは目配せをすると互いに頷き合い、真っ直ぐと態勢を整える。

 え? ちょ、嘘だろ?!

 

「コウガ!」

「待て待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 この日初めて、本物の絶叫マシンを味わいました、まる。

 

 

 

「せんぱーい、大丈夫ですかー」

 

 いつものあざとい声とは打って変わって、心のこもっていない声の主はこれでもイッシキである。

 これでビデオカメラとか回されてたら、俺もとうとう異能に目覚めたのかと思っちゃうレベル。イッシキさん、特定の人から認識されない能力とか持ってないよね?

 

「お兄ちゃん、生きてるー?」

 

 ああ、コマチの声も聞こえて来る。

 癒されるわ〜。

 これでトツカの声が聞こえてきたらそのままどこかへ導かれて行きそう。

 俺は現在、ボケガエルのせいでセキタイのポケモンセンターのフロントのソファーで横になっている。というか倒れている。うぅ、気持ち悪い………。

 

「…………お兄ちゃん、もうダメかも」

 

 絶叫マシンよりも怖い絶叫マシンを味わい、年甲斐もなく吐きそうになっている。横になって何とか峠は乗り越えたが、未だにリバースの気が残っている。

 

「あ、大丈夫そうだね」

 

 コマチの手を掴んで言ったら、大丈夫だと認識されてしまった。大丈夫そうには見えないと思うんだけどな。うー、吐き気が………。

 

「ほら、お水よ」

「お、おう。サンキュ」

 

 イッシキにゆっくりと起こされて、ユキノシタからコップ一杯の水を受け取る。

 何気にユキノシタが優しいのには涙が出そう。

 

「…………この水………」

「オーダイルのよ」

「ぶほっ!?」

 

 盛大に吹いた。

 

「ちょ、汚いですよ、先輩」

「全くお兄ちゃんは。いつまで経っても世話のし甲斐があるなー」

 

 うへへーと嬉しそうなコマチに拭くのは任せよう。

 

「冗談よ。ちゃんとした水だから」

 

 よかった………誰かから摂取した水じゃなくて。

 あー、鼻に逆流しやがった。超痛い。

 ゆっくりと飲み干すと喉がなった。ついでに腸までなった。洗われてるのかね。

 しばらくして、また横になった。というかさせられた。

 

「………なあ、イッシキ」

「はい?」

「なんで、俺はお前に、膝枕されてんだ?」

「いやー、じゃんけんで勝っちゃいましてねー。私だけ先輩イベントがなかったもんですからちょうどいいです」

「よくねぇよ。………つか、なんだよ、先輩イベントって」

 

 ヤバい。

 結構会話がきついわ。

 

「ほら、激オコマチに泣きガハマ、デレノシタと来れば次は私じゃないですか」

 

 なんだよ、激オコマチに泣きガハマにデレノシタって。

 それだけで何を言いたいのか分かっちゃうじゃん。

 でも、えー。

 こいつ、今度は一体何を企んでるわけ。

 超怖い。

 

「…………トツカの膝がよかったなー」

「あ、そういうこと言っちゃいます?」

「言っちゃうな」

「全くこの人は…………。ほんと女心というものが分かってませんね。これで見透かされてるのが余計に腹立ちます」

「で、激オコマチに泣きガハマ、デレノシタときてお前はどうするんだ?」

「今日は姉はすです」

「え、やだよこんなのが俺の姉とか。年下の姉貴ができましたとかどんな漫画だよ」

「ええー、いいじゃないですかー。たまには肩の荷下ろしましょうよー」

「はいはい、んじゃちょっと寝返り打つぞ。同じ体勢も疲れてきた」

「うひゃっ!? ちょ、先輩、髪くすぐったいですよー。私素足なんですからひゃっ」

 

 ソファーに寝るというのも問題だな。腰にくるわ。

 あ、ちょっと楽になってきたかも。

 取り敢えず、外の方に体を向けると三人と目が合った。

 

「口ではああ言ってるのに」

「しっかり堪能してるわね」

「なんかずるい」

 

 えーっとユキノシタさん?

 あなたもしっかりと堪能してましたよね?

 あなた人のこと言えなくてよ。

 

「ま、コマチ的には新しくお姉ちゃんができるのは大歓迎ですけどねー」

 

 あ、なんか二人が闘争心を燃やし始めたぞ。

 

「なあ、イッシキ」

「はい?」

「この位置、視覚的にアウトだったわ」

 

 俺の言葉にユイガハマが顔を赤くしてスカートを抑え、ユキノシタが目潰しをしてきた。

 躱すため勢いよく起きたら、吐き気がぶり返したとさ。

 これはあれだな。体調が悪い時には冗談を言うもんじゃないな。

 

「みんな仲良しだねー…………」

 

 トツカの笑顔が一番薬になりました。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 晩飯を食べてセキタイで一泊。

 ホテルもあるらしいが、移動するのも面倒なのでまたポケモンセンターに泊まることになった。野宿の準備とかしてきてるが、ハクダンの行き来以来、全く使っていないのが現状である。食材だけは賞味期限が近いものから開けて食べているけど。

 

「二人は……寝たか」

 

 同室のトツカとザイモクザが寝たことを確認すると俺は着替えて外に出る準備を始めた。

 AZが言っていた最終兵器の話が本当ならばセキタイ付近にフレア団がいてもおかしくはない。それにザイモクザが溢した鍵穴みたいであるというのも一つの仮説が立てられる。長い部分、10番道路には規則正く並べられた列石があった。ならば本体は丸い部分、セキタイの真下にあると考えてもいいのかもしれない。石質からセキタイと10番道路は関係性があるし。

 

「後はこいつらだな」

 

 あれからゲッコウガから離れようとしないテールナーと俺の寝込みを襲おうとするユキメノコが今夜も例に漏れずやってきていた。

 取り敢えず、ベットに仲良く寝かせておこう。

 ゲッコウガに目配せをしてベットへと運び、並んで寝かせるとリュックを持たずに外へと向かった。

 

「今夜は三日月か」

 

 三日月だから何かあるわけでもない。

 月が関係するポケモンもここにいらっしゃるが、新月じゃないので出かけてはいない。満月はユキノシタが連れてたな。

 

「にしても何もないな」

 

 取り敢えずセキタイを囲む石に沿って歩くことにする。

 ポケモンセンターがあっていくつかの民家があって…………後は石しかない。こうしてみるとマサラタウンの方がよっぽどいいとこのように思えてくるな。何もないが自然だけは豊かだからな。

 

「ん? なんだゲッコウガ」

 

 俺の横を歩いているゲッコウガが何かを感知したのか左前方を差してくる。

 あー、なんか道があるな。不自然的に。

 

「そんじゃ、行ってみますかね」

 

 セキタイタウン北西部。

 なぜかそこだけ脇道が不自然にできていた。

 これやっぱりいるパターンなんじゃねぇかなー。

 まあ、行ってみないことには分からないわけだし。

 

「って、マジであるよ………」

 

 細い道をそのまま行くと先の方に石で囲われた赤い扉があった。

 なにあれ、超怪しすぎるんですけど。

 すごく行きたくない。でも行かなきゃ何も分からんし…………。

 うーん……………。

 

「あ、そういやまだアレ持ってたな」

 

 一つ思い出したのでポケモンセンターに引き返すことにした。

 

 

 戻ってみると一向に起きる気配のないテールナーとユキメノコがいた。

 とにかく放っておいてさっさと例のものに着替えることにする。

 いやー、あのまま持って来といてよかったわ。まさか次に使う日がこんなにも早く来ることになるとは。

 オレンジ色の戦闘服に着替え、これまたオレンジ色のウィッグを被り、着替え終了。

 と、脱ぎ捨てたズボンのポケットからキーストーンが出てきた。

 連中の狙いの中には確かメガシンカも含まれてたな…………。ということは、だ。単身乗り込むとすれば捕まる可能性が大いにあるというわけだ。今までこういう潜入で捕まったことはないが今回は相手が相手だからな。カモがネギを背負って行くわけにもいくまい。

 んー、ユキメノコにでもつけとくか。

 リザードン用にいくつか買ってきたアクセサリーを取り出し、一番フィットしそうなネックレスに石を埋め込んで、首にかけてやった。何かあってもゴーストタイプだし、影に隠れたりするだろ。

 

「さてと、次こそ行きますか」

 

 

 脇道に差し掛かる手前でリザードンのボールをゲッコウガに渡す。

 受け取ったゲッコウガはゴーストタイプになり、影の中へと潜っていった。

 後は暴君様であるが、まあこいつだしいいか。

 取り敢えず、腰には空のモンスターボールをつけておいた。

 以前はリザードンだけでだったため、いざとなったら出して焼き尽くしそれで良かったのだが、今回は相手が相手なため念には念をいれる必要がある。ほら、俺ポケモンじゃないから素早い身のこなしとかできないじゃん? 人質になりそうなものは外しておくべきだと思うわけよ。まあ、変装してるしバレないとは思うけど。

 

「けど、これどうやって入るんだ?」

 

 扉の前までやってきたが、開く気配がない。

 合言葉でも必要なのだろうか。となると合言葉の定番でもやってみるか。

 

「開け、ごま」

 

 プシュー。

 

「マジかよ……………」

 

 開いちゃったよ。冗談のつもりだったのに。

 大丈夫なのか、この組織。その内、俺みたいなのが侵入してくるんじゃないの。

 

「あ、」

 

 なんとなくポケットにカードみたいなのがあった。

 取り出してみると会員証みたいなやつ。バーコードとかあるし、これに反応して開いたのかもしれない。

 まあ、なんであれ入れたんだしよしとするか。

 

「…………」

 

 それにしても暗いな。

 まずは階段か。

 入ってすぐにある長い階段を下りていく。暗いので壁伝えと言うのがポイントだな。

 下りていくと広い部屋? に出た。灯りがあったかと思えばこれまた怪しいリングが床にある。これってあれだろ。くるくるぴょんぴょんだろ。実際には回らんけど。乗ったら一瞬で風景が変わるだけだけど。

 

「行き先の分からないところにはいきませんよー、と」

 

 人の声か?

 どこからか物音がするんだけど。

 ゴーストタイプとかじゃないよね。いや、シオンタウンの幽霊という例があるし………。

 

「あら、お帰りかしら?」

 

 ッッ!?

 やっべー、見つかったー!?

 

「は、ただいま戻りました、バラ様」

「あなた、確かアケビたちのところのだったかしら」

「はい、今回はヘルガナイトを見つけて参りました」

 

 あ、どうやら俺じゃないみたい。

 よかったー。

 やべぇ、心臓が超うるさいんですけど。

 

「ギャラドスナイトにはボスも大喜びだったわ。ただ、ボスはキーストーンの方も必要としているの」

「は、お褒めに預かり光栄であります。今後も精進させていただく所存です」

「そう」

 

 あ、バラ様(笑)の方がこっち来る。

 どうしようか。いや、下手に隠れる方がアレか?

 

「あら? あなたは………見ない顔ね」

 

 なんて考えてたら鉢合わせました。

 緑色? の髪かよ。すげぇ髪色してんな。

 というか、え? こんな目元も見えないサングラスかけて同じようなウィッグを付けてても区別できるのか?

 フレア団ってすげぇな。

 

「取り敢えずついてきなさい。逃げたら殺すわよ」

 

 おおう、容赦ないな。

 さすがフレア団。

 というかマジでここフレア団のアジトかなんかだったのかよ。

 

「………」

 

 よく分からないので黙ってついていくことにする。だって逃げると殺されるらしいし。

 で、そのままついて行くとどっかの部屋に連れて行かれた。ようやく灯りのある部屋にたどり着けたようだ。もうどこを歩いてきたのかよく分からん。廊下暗すぎんだろ。

 

「ボス」

「バラか」

 

 あー、もういきなりボスの登場な感じ?

 部屋の中はモニターがいくつもあるようで、他の団員たちの姿はない。唯一いるのは体躯のいい黒服の男。

 

「一人、見ない顔の団員がいたので連れて参りました」

「ほう、ようやくたどり着いたか」

「ボス…………?」

 

 バラと呼ばれていた女の人が、男に不思議そうな声をかける。

 

「これはこれは態々遠いところからお越しいただいたようで」

 

 振り向いた男の顔は髪と髭が繋がっていた。というかオレンジ色ってここから来たのかね。

 

「ようこそ、我がフレア団へ。忠犬ハチ公殿」

 


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