ポケモントレーナー ハチマン   作:八橋夏目

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感想、加えてアンケートのご意見ありがとうございます。
これらを参考に本作の続きを書いていきたいと思います。



ついに今回奴が進化します。

ついでに後書きにおまけもあります。


26話

 カセキ研究所でなんやかんやしてるとコマチの方のホロキャスターにコールが入った。

 どうやらあいつらがコウジンタウンに着いたらしい。

 

「あー、どうやら連れが来たみたいなんで俺らいきますわ」

「そうか。今回のことは本当に君たちには迷惑をかけてしまってすまなかったね」

「いえいえ、こうしてプテくんとも仲良くなれたわけですからお気になさらず」

「ラーッ」

 

 バサバサと翼を動かすプテラにコマチが別れを惜しむように頭を撫でている。

 

「一応、チゴラスとメガストーンらしきものを見かけたら、動きますんで。たぶん、もう遅いでしょうけど」

「ありがとう。その言葉だけでも我々にはありがたい。気をつけてな」

「うす」

 

 バイバーイ、とプテラに手を振るコマチと一緒にカセキ研究所を出た。

 さて、犯人はオレンジ色の服装をしたやつだったか。そんな怪しいやつ、いたら一発でわかると思うんだがな。

 

「で、あいつらはどこにいるって」

「ポケモンセンターで待ってるって」

「なら、さっさと行こうぜ。ユイガハマあたりがキャンキャン吠えてそうだし」

「あいあいさー」

 

 コウジンタウンのポケモンセンターは…………北の方にあるのね。

 にしてもあれだな。

 コボクから山を超えない限りポケモンセンターがないっていうのも不便なところだな。

 山の麓にも小さいのでいいから作ればいいのに。

 

「いやー、それにしてもプテくんの肌は見た目あんなんだけどスベスベですなー」

「んー、まあ科学の力ってすげーってことなんだろ。ニビを初めとして今じゃいろんなところで化石の研究から復元までしてるからな。ただ復元だから大昔の化石ポケモンたちが本当にあの姿をしていたのかは不明だけどな」

「それでもすごいことだよねー」

「まあな」

 

 トボトボと歩きながらそんなことを話しているとすぐに赤色の屋根が見えてきた。

 案外近かったな。

 

「あ、ユイさんだっ」

 

 ててて、と走り出すコマチの先にはユイガハマがポケモンセンターの建物の前で体育座りをしていた。

 

「こ、ゴマヂぢゃーんっ!」

 

 自分の名前を呼ぶコマチの姿を認識すると、ぶわっと目に涙を浮かべて立ち上がりこちらに走り出してきた。

 

「じんばいじだんだがら~」

 

 うわー、号泣だよ。

 そんなに心配するもんなのか。まあ、俺はするけど。

 野生のポケモンに連れ去られるとかすごい確率の話だけどさ。

 泣くことはないだろうに。

 

「あれ、ヒキタニ君」

 

 自動ドアが開くと中からイケメンが出てきた。

 

「なんでお前がいるんだよ」

 

 ハヤマハヤト。

 俺たちと同じトレーナーズスクールにいたユキノシタの幼馴染…………になるのか?

 漫画とかじゃ幼馴染とか一つのアドバンテージだなんて言われてたりするが、現実では思春期に入ればこんな冷たい関係になるらしい。欲しいと思った時期もあったが、こいつらを見るといたらいたでそんないいもんでもないと認識せざるを得なくなっている。

 

「あ、せんぱーい。いきなりいなくなっちゃうもんだから心配しましたよー。コマチちゃんを」

 

 ハヤマの陰から顔を見せたのはイッシキだった。

 ハヤマがいる時点でいるのはわかってたけどよ。匂いをかぎ付けるようにひょこっと顔を出すなよ、あざとい。

 

「……ああ、まあ、その悪かったな。お前らまで連れて来ちまったみたいで」

「いや、それは大丈夫だ。俺たちも目的地は同じみたいだから」

 

 え?

 なにそれ、シャラに向かってるってこと?

 ハヤマの笑顔がなんか憎たらしく見えてくる。

 

「あ、ハチマン!」

「むふんっ、無事だったようだな」

 

 トツカ(かわいい!)にザイモクザとぞろぞろと見知った顔がポケセンから出てきた。

 なんかユイガハマと金髪縦ロールにすっごい睨まれてるのはなんでだろうな。

 

「………そう」

 

 お、おう?

 ユキノシタは今なにを理解したんだ?

 

「……おう………?」

 

 あれ?

 そういやカワなんとかさんたちは?

 

「カワサキさんたちなら置いてきたわよ。彼女たちには彼女たちの旅があるもの」

「そうか……で、これはなんだよ」

「カワサキさんのホロキャスターの番号よ」

 

 ああ、これはどうもご丁寧に。

 あいつも律儀だな。

 

「ありがとう、って言ってたわ」

「そうか…………」

 

 うーむ。

 それにしてもいつの間にか大所帯になってしまったな。

 さすがにこの人数でポケセンの前に入るには迷惑になるんじゃね?

 

「あ、先輩。私、カセキ研究所に行ってみたいです。連れてってくださいっ!」

「それは俺も是非行ってみたいところだね。ヒキタニ君、案内してくれないかな」

 

 おい、イッシキにハヤマ。

 俺に何を案内しろと言うんだよ。

 

「なんか今日はそれどころじゃないらしいぞ。泥棒が入って大変な状況でな。コマチを連れ去ったプテラもそのせいだと言われたし」

「バタバタしてたから、今日は無理そうでしたよ」

「そっかぁ」

「なあなあ、いろはすー。輝きの洞窟ってところで化石掘ってるみたいだべ」

「え? 化石掘れたりすんの!? あーし、超行ってみたいんだけど!」

 

 茶髪のチャラ男がまた面倒くさそうなことを言いだしやがったぞ。

 金髪縦ロールもすでに行く気満々になってるし。

 

「あ、だったらみんなで行こうよ。化石とか滅多に取れるようなものでもないし」

 

 トツカもこの意見には乗り気らしい。

 それならば、俺も行くしかあるまいな。

 

「じゃあ、みんなで行こうか」

 

 というわけでハヤマの指揮の下、輝きの洞窟に向かうことになった。

 けど、確か輝きの洞窟って険しいところを行かなきゃ行けないんじゃなかったか?

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 9番道路へ出るまでの道中。

 

「トベ先輩、どうやって行くんですかー」

「町の南東にある9番道路から行けるみたいだべ。………うっそ、マジかー。これはないわー。マジないわー」

「トベ、どうかしたのか?」

 

 トベと呼ばれるチャラ男がホロキャスターを見てげんなりし出すとハヤマが尋ねた。

 

「いやー、道が険しすぎて人間の足じゃ歩きづらいとかマジやばいっしょ」

「……なるほど、別名トゲトゲ山道か。なら、空から飛んでいけばいいんじゃないか?」

「それだわーっ! さすがハヤトくん。天才的っしょっ」

 

 ………なにこのハイテンション。

 超疲れるんですけど。

 

「ヒキタニ君たちもそれでいいかな」

「俺に振るなよ。ま、別にいいんじゃねーの。俺はリザードンいるし」

「私は行くなんて一言も言ってないのだけれど」

「ええー、ゆきのんも一緒に行こうよー」

 

 すでに泣き止んだユイガハマによりユキノシタは確保される。強制参加ご苦労様です。

 

「僕もトゲキッスがいるから大丈夫だよ」

「我も問題ない」

 

 いつの間にかジバコイルに乗って行く気満々になっているザイモクザ。

 どうしたんだ?

 なんか今日テンション高くないか?

 いつにも増してウザさを感じるぞ。

 

「いろはすとユミコとエビナさんは俺のポケモンで行くとして、ユイは」

「あ、あたしはゆきのんと一緒に乗るー」

「と、あとはひ……ヒキタニ君? の妹ちゃんだけど」

「兄に乗せてもらいますので、大丈夫ですっ」

 

 トベよ………。

 お前も俺の名前を覚えてはくれないのだな。

 誰だよ、ヒキタニ君って。

 いねぇよ、そんなやつここには。

 

「アーッ」

 

 なーんか聞き覚えのある声が聞こえてくるんですけど。

 これ、同じパターンか?

 

「あ、プテくん!」

 

 前方からさっきのプテラが飛んでくる。

 今度はなにしに来たんだ?

 

「わっ、本物のプテラだ」

「結構、怖いですね」

 

 初めて見る者にとっては怖いんだよな。

 あの顎が特に。

 牙がゴツゴツ生えていて噛まれたらって想像してしまったら、背中に寒気を感じるくらいだ。

 そう考えるとコマチはやっぱりすごいんだなー、と感心せざるを得ない。初めてでしかも連れ去られたというのに、トラウマになるどころか仲良くなってるし。俺なんて…………考えるのはやめよう。

 

「大丈夫ですよー。この子が例のプテラですから」

 

 コマチが自分の前に降り立つプテラに飛びつきながらそう言った。

 見た目とは裏腹に甘えた声を出すプテラに一同が胸を撫で下ろした。

 

「……どうしたんだ。別れてからそんなに時間経ってないと思うんだが」

 

 事実、一時間も経っていない。

 なのに、コマチに会いに来るとは何かあったのだろうか。

 

『どうやら暇を持て余しているらしい』

「あ、そういうこと………」

 

 通訳してくれるやつがいると楽だな。

 さて、暇を持て余しているプテラをどうしようか。

 研究所に連れて行くか、それともこのまま輝きの洞窟まで連れて行くか。

 

「プテくんが輝きの洞窟まで連れてってくれるって」

 

 コマチはプテラの意図を理解したようで、コマチの言葉にプテラがコクコク首を縦に振る。

 んー、こいつって輝きの洞窟で発見された化石とかだったりするのか?

 

「コマチ、プテくんに連れてってもらうね」

 

 すっかりコマチに懐いてしまったプテラにまたがり、俺に「イエィ!」とポーズを取ってくる。

 

「はあ………まあ、いいんじゃねーの」

 

 どうせ暇を持て余してるらしいし、連れて行ってもいいか。後でちゃんと返しに行こう。

 

「ッ!?」

 

 なんだ今のは!?

 ぞくっとしたものが背中を駆け抜けたぞ。

 身に覚えのある感覚。

 だが、いいものではない。

 はっきり言って悪い方。

 殺気………、あるいは獲物を狙う視線。

 同業者のような匂い。

 

「ザイモクザ」

 

 背負っていたリュックを名前を呼びながらザイモクザに投げつける。

 

「うおっとぉ! ハチマン、いきな……り…………」

「お前はこっちに残れ」

「お、おう………」

 

 感じる視線を辿ると白いスーツを着たスキンヘッドの男と、その周りには赤っぽいオレンジ色のスーツを着た奴らの姿があった。

 間違いない、あいつらだ。

 

「リザードン!」

 

 ボールから出すと、俺の異変に気がついたユイガハマが服の袖を引っ張ってくる。

 うっ、思ったよりこいつ力あるんですけど。

 

「ユイガハマ、離せ」

「いや……」

「離せっ」

「いや!」

 

 握る力を一層強くし、俺を引きとめようとしてくる。

 人の空気に敏感なユイガハマは当然、俺の変化にも気付くってわけか。

 なら、仕方ない。こうするまでだな。

 

「離したら、絶対ヒッキー行っちゃうもん!」

「…………なあ、ユイガハマ。俺が昔言ってたこと律儀にやってんじゃねーよ。確かに違和感はなくなった。だから今日からお前の好きな髪型にすればいい」

「ッッ!?」

 

 言葉を濁してあの日俺が言ったことの答えを返してやった。

 こいつ、あの日から俺に見せるために茶髪に染めてお団子頭にしてたとかだろ。まあ、お団子頭は気に入ってたみたいだけど、ずっとするか普通。

 おかしいだろ。

 もっと他にも髪型あるんだし、そっちを楽しめよ。

 なんて気持ちを言葉に乗せるとユイガハマの手が俺の服からぽろっと外れた。

 

「いくぞ、リザードン」

 

 リザードンに乗るとバサッと翼をはためかせ、飛び始める。

 これでいい。

 今、誰かがついてきて仕舞えば、足手まといにしかならない。あの時はただの試験だったからいいが今回はどうなるかわからない。得体の知れない相手にみすみす隙になるもんをつれていけるかっ。だから、これでいい。

 

「狩りの時間だ」

 

 チラッと見えたユイガハマの顔はーーー。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 リザードンに乗って向かったのは8番道路。それも崖の上にある道の方。

 地つなぎの洞穴という洞穴があり、奴らがそこへ入っていくのが見えた。

 さて、どうするか。

 このままついていってもいいが、いかんせん洞穴の中は真っ暗だ。

 この中でバトルなんかしたら、やりづらいことは目に見えている。

 反対側回るか。

 

「リザードン、山を越えて反対側に回るぞ」

「シャァーッ」

 

 今頃、ユイガハマは泣いているだろうな。

 あんな悔しそうな、悲しそうな目をしてたんだ。間違いなく泣いてるだろう。

 だからと言って、あいつをあのまま連れていくわけにもいかない。あれでいいんだ。

 何回もそう心の中で繰り返していると、渓谷を越えてバトルシャトーの建物がうっすらと見えてくる。

 

「……いた」

 

 ポンとリザードンの首を軽く叩き、停止を促す。

 山の麓にはオレンジ色の服装の奴らがたくさんいた。

 白いスーツのスキンヘッドが少数であることから、あのオレンジ色のスーツが奴らのトレードマークらしい。

 オレンジで、この人数で、悪人。

 たぶん、これがフレア団という悪の秘密結社なのだろう。秘密というほど秘密裏に動いてるわけではなさそうだが。

 

「フレア団………」

 

 何はともあれ、奴等は潰しておかなければ、かえって危険だ。

 

「もしもし」

『ハチマンか、今度はどうした?』

 

 ポケナビで理事に連絡を入れる。

 

「フレア団と思われる連中を確認」

『ッッ!? それは本当なんだろうな』

「今朝方、コウジンタウンというところのカセキ研究所に賊が入った。オレンジ色の服装をしていたらしい。それから殺気を感じてきてみれば、一致する服装の奴らが集団でいる。リーダー格っぽいのは白いスーツ。だが、オレンジのメガネを全員していることから推測ではあるがフレア団だと思われる」

『なるほど……集団で同じ服装。うーむ、実に悪の秘密結社と言ったところの戦闘服を連想させるな』

「ああ、輸送用ヘリを至急回してくれ。カロスにも繋がりくらいあるだろ」

『分かった、そっちには今ちょうど適任者がいる。彼女に話を回して、ヘリを動かそう』

「場所は7番道路地つなぎの洞穴ってところの付近だ」

『了解。一人も逃がすなよ』

「逃がすかよ」

 

 んじゃ、理事のお許しも出たわけだし。

 超久しぶりに、狩りますか。

 

「リザードン、ケロマツ。いくぞ」

「シャア!」

「ケロッ」

 

 リザードンで連中の真上に移動する。

 

「かえんほうしゃ」

 

 辺り一面を炎で焼き尽くし、火の海を作り出す。

 植物の皆さん、ごめんなさい。

 

「な、なんだっ!?」

「上だっ!?」

「き、きたぞ!」

「一人かっ?」

「ズルズキン、とびひざけり!」

「シザリガー、シェルブレード!」

 

 ズルズキンとシザリガーがこちらに跳んでくる。

 後のやつらは円形に陣を組んで消火活動を始めた。

 みずタイプのポケモンが意外といたことに驚いたわ。

 

「ドラゴンクローで叩き落とせ」

 

 その一言でリザードンはズルズキンとシザリガーを爪で抉るように切り裂き叩き落す。

 その光景に奴らが呆気にとられている間に俺はリザードンから地面に降り立った。

 

「お前らがフレア団だな」

「ふはははっ、まさか一人で乗り込んでくるとは。作戦では二分裂させて潰すはずだったのだがな。まあ、いい。お前ら、今ので分かっただろうが手加減は無用だ。存分にやっちまえ!」

 

 白いスーツのスキンヘッドがそう高らかに言うと、パチンと指を鳴らす。

 合図に合わせて俺を取り囲むように、四方八方から赤いサングラスで睨めつけられる。

 

「ケロマツ、くさむすび」

 

 俺の肩から降りたケロマツは地面を叩き無数の草を伸ばしてくる。

 それは消火活動しているみずタイプのポケモンまで絡め取り、火の海のさらに外側にまで範囲を広めて草を伸ばし、円柱状のドームを完成させる。逃げ場なんてものは空しかない。

 ふむ、相手はスコルピにテッカニン、ヘルガーにワルビル。スカンプー(臭そう)にサイホーン、パルシェン、ハブネーク。その他諸々の姿があるか。

 つか、何人いるんだ?

 

「サイホーン、とっしん!」

「ハブネーク、ポイズンテール」

「ワルビル、じならし」

「テッカニン、きりさく」

 

 一斉にボールから自身のポケモンを出し、俺に突っ込んでくる。

 空を飛べるものはリザードンへ行っているが、あっちは任せよう。

 

「ケロマツ、かげぶんしん」

 

 まずは数を増やして。

 

「トーテムポール」

 

 今朝やっていた影を使ってタワーを作り、攻撃の範囲を広めるアレ。

 あの後、一応俺が次使うときはそう言うと取り決めたやつだ。

 影の上に影が乗り、頂上には多分本体がいる。だが、今回はタワーを三つも作りやがった。俺、そこまで指示してないんだが、まあ奴なりの考えなのだろう。

 

「みずのはどう」

 

 全方向へとみずのはどうを弾で撃ち出し、地面を踏み鳴らすワルビル、尻尾を振り下ろしてくるハブネーク、とっしんしようと突っ込んでくるサイホーン、かえんほうしゃを放つヘルガーに的確に当てて足を止め、地面に叩きつける。

 空ではスバットやゴルバットをリザードンがかえんほうしゃで纏めて戦闘不能にしている。

 テッカニンだけが動きが素早く躱されているが、リザードンに近づいた途端に竜の爪で切り裂かれている。

 かつての血が騒ぐのか、なんか楽しそうなのは気のせいかな。気のせいだよな。気のせいってことにしておこう。

 

「いわなだれ」

 

 かげぶんしんにより雪崩れてくる岩の数は数え切れないくらいに増えて、俺すらも巻き込もうとしている。

 まあ、俺は大丈夫なんだが。

 

「ドンファン、ころがる!」

「サンド、サンドパンもころがる!」

 

 草のドームの中を計三体のポケモンが転がりだす。

 

「ニューラ、つじぎり!」

「スコルピ、ドラピオンもつじぎりだ!」

 

 他にもシザリガーやキリキザンがつじぎりで岩を切り裂いていく。

 

「ズルズキン、ずつき!」

 

 ココドラやサイホーンもずつきで落ちてくる岩を砕いていく。

 数が多いな。

 

「ケロマツ、ハイドロポンプで一掃しろ」

 

 四方八方で動き回るポケモンたちに水の砲射撃を撃ち出す。

 躱せるものもいれば、動きが鈍くて諸に受けたポケモンもいた。

 

「これでもまだいるか。もう一度くさむすび」

 

 戦闘不能になったポケモン諸共、草で絡め取り動きを封じる。

 

「テッカニン、シザークロス!」

 

 リザードンが追いかけていたテッカニンがケロマツの影ごとスパッと切り裂いていく。影は次々と消え、くさむすびを使った直後のケロマツは大ダメージを受けてしまった。

 たぶんマグレだろうが、これはさすがにいたいな。

 フラフラとした足取りでケロマツは立ち上がり、テッカニンを睨みつける。

 

「ドクロッグ、どくづき!」

 

 スキンヘッドの男が勝機と見て、ボールからドクロッグを出して長い腕を紫色に染めて突いてくる。

 

「まもる!」

 

 だが、一瞬痛みを気にして技を出すタイミングが遅れてしまい、攻撃をそのまま食らった。

 二度も効果抜群の状態で技を受けたら、立っているのも不思議に思えてくる。

 

「ブラストバーン!」

 

 テッカニンを追いかけて降りてきたリザードンが地面を叩きつけ、炎の柱を作り出す。

 炎を伸びた草に伝わり、絡め取ったポケモンもフレア団も丸ごと焼いていく。不思議なのはあのスーツが特殊な作りでできているのか、下っ端たちは全く火傷を負っている様子が見受けられない。声すらも上がらないからな。

 

「……ケロマツ、今がお前の成長時らしい。自分よりも素早いポケモンにお前はどう切り抜けるんだ? これから先、もっと強い奴らを一遍に倒さなくてはならなくなることもあるかもしれないぞ」

 

 ゴウカザルと戦った時も腕のリーチの差で負けたんだ。まあ、あれは俺の判断ミスでもあったけど。

 

「さて、もう一度言うぞ。ケロマツ、あいつらを倒せ」

「……ケロッ!」

 

 ブルブルと震える身体を自分で叩き、飛び出した。

 ケロームスを手に取り、ドクロッグとテッカニンに投げつけていく。

 リザードンが仕留めてしまったためフレア団で戦えるポケモンは他にいないようだ。

 

「テッカニン、かげぶんしん!」

「ドクロッグ、ヘドロばくだん!」

 

 相手はそれぞれでケロムースを回避していく。

 だが、ケロマツの狙いはそこではないらしい。

 どうやらこれは時間稼ぎのようだ。

 

「………進化を選んだか」

 

 白く光り出すケロマツ。

 シルエットが段々と大きくなっていく。

 

「ま、まさか進化っ!?」

「な、なんか長くないですか?」

 

 …………確かに、長い。

 普通はすぐに終わるはずなのだが、一向に進化が終わろうとしない。まるでまだ進化をしているようである。

 姿は大きくなり俺の肩の高さくらいにまで大きくなりやがった。

 白い光りが消え現れたのはーーー

 

「はっ、やるじゃん、ゲッコウガ」

 

 そう、奴は二連続進化をやり遂げやがった。

 ケロマツはリーチの差と己のスピードの限界を悟り、拒んでいたはずの進化を選び、それまで溜まっていた進化のエネルギーを全て使い切ったようだ。

 それで最終進化までいくとか、相当拒んできたようだな。頑固者め。

 だが、そんな心境とは反対にゲッコウガは初めて恥ずかしそうに俺を見てくる。

 ああ、だから進化を拒んでたのか。

 

「……別に進化したからって嫌いにもならんし、お前を使いこなしてみせるさ。だから胸を張れ。今のお前は最高にかっこいいぞ」

 

 進化を拒んでいた理由。

 それは姿を変えたことでトレーナーに嫌われることを恐れていたのだろう。しかも自分でも扱いにくい奴であることを自覚してるのか、進化したことで飛躍的に上がった自分の能力にトレーナーがついてこれるかも心配だったのだろう。だから、頑なに進化を拒んできた。

 ったく、いきなり恥ずかしがり屋になるなよ。調子狂うじゃねぇか。

 

「テッカニン、きりさく!」

「ドクロッグ、かわらわり!」

 

 二体がゲッコウガに向かって突っ込んでくるが、攻撃はどちらも当たらない。

 奴は影に潜り、まずはテッカニンの背後を取った。

 あれは………かげうちか。

 ゴースト技を使うことでゴーストタイプになり影を使って移動する。

 また、新しく戦法を増やしたか。

 

「………ニン……」

 

 影から出てきたゲッコウガは両手に刀を作り出し、テッカニンを切り裂いた。

 今度はつばめがえしか。効果抜群だな。

 一発でテッカニンを仕留め、ドクロッグを睨みつける。

 

「どくづき!」

 

 地面を思い切り蹴り出し、一瞬にして距離を詰めてくるドクロッグに対して、ゲッコウガはかげぶんしんで躱し、またしても背後を取る。

 動きがリズミカルで想像以上に素早さが上がっているみたいだな。

 

「コウガッ!」

 

 つばめがえしで一発ノックアウト。

 さて、後は最後の仕上げといくか。

 

「ダークライ、スキンヘッド以外全員にダークホール」

 

 リザードンが作り出した炎に焼かれたポケモン諸共、フレア団を夢の世界へと連れて行くように伝えると各々の足元に黒い穴を作り出していく。

 当然、逃げる体力もないポケモンたちは穴に落ち、逃げようとした下っ端たちも吸い込まれていく。

 

「さーて、詳しく話を聞かせてもらおうか、ハゲ頭」

 

 リザードンとゲッコウガと俺とでスキンヘッドを取り囲む。ゲッコウガなんか刀を首に突きつけてすらいるよ。

 ひぃぃぃッ!? と情けない声を上げているが、そんなことで許すはずがなかろう。情報を引き出すまで逃がすかよ。

 

「まずはフレア団について聞かせてもらおうか」

「……わ、分かった、と言いたいところだが、お前はそんなことしてる暇はないと思うぜ」

「あ? どういうことだ?」

「言っただろ。お前らを二分裂させるって。要するにあっちでもすでにドンパチやってるってことだ」

 

 は?

 つまりそれって…………。

 

「はっはっはっ、その顔だよ! 俺が見たかったのは!」

 

 落ち着け、俺がいないからといってあっちにはハヤマもユキノシタもザイモクザもいる。そう簡単にやられるはずもないだろう。

 

「…………そうか、お前らは俺をおびき寄せる餌だったというわけか」

「誰が釣れるかは分からなかったが、まさか一人で来るとは想定外だったぜ」

 

 こいつ………。

 すっげぇ殴りたい。

 と思ったら、バラバラバラバラと長くて黒いヘリが飛んでくる音が聞こえてくる。

 やっと来たか。

 

「どうやら俺には暇ができるらしいぜ。お前にとってはお迎えだな」

「ちっ」

 

 唾を吐き捨てるスキンヘッド。

 超様になってて怖い。

 んでもって髪がやばい。

 こいつ、毛がない分こういう時はウザさを感じなくていいんだろうなー。

 

「あっれー、もう終わっちゃったのー?」

 

 地上に降り立ったヘリの中から、女性が一人姿を見せた。

 ん? んん?

 どっかで見たことあるような………。

 

「お姉さんも遊びたかったなー」

「もう、はるさん。それだけ特殊部隊ってところは優秀ってことですよ」

「分かってるわよー、メグリ」

 

 ひょこっと彼女の後ろからもう一人小柄な女性が姿を見せてくる。

 あー、そうだ。引渡し。

 

「ダークライ」

 

 自分の影をポンと踏むと中に黒い穴が現れ、中からさっき吸い込んだフレア団とそのポケモンたちを出してくる。

 

「……………」

「………えっと、君が一人でやったの、かな?」

 

 黒い穴をまじまじと見ていたかと思うと、小柄な方が俺に聞いてきた。

 

「別に、過程の話はいいでしょ。とりあえず、こいつらの輸送を」

「はいはーい」

 

 もう一人は軽い調子で自分のポケモン出して、ヘリの中へと運ばせていく。

 出したのはカメックスとネイティオ、それにメタグロス。

 エスパー二体はサイコキネシスでプカプカと適当な人数を持ち上げ運んでいき、カメックスは一人一人担ぎ出した。

 

「みんなもお願い」

 

 小柄な人もエンペルトにサーナイト(色がなんか違う)、メタモンを出してフレア団たちを運んでいく。メタモンはサーナイトに変身し、これで四体がサイコキネシスを使って運んでいることになる。

 こうしてみるとカメックスとエンペルトが大変そう。

 

「ねえ、君名前は?」

 

 ポケモンたちに任せたのか俺のところにフラフラと背の高い方がやってくる。

 やっぱり、どこかで見たことがある気がする。

 

「はあ、別に名乗るような者ではないです」

「またまたー。これだけの人数をあっという間にやっつけちゃうような強いトレーナーが、そこら辺にいるトレーナーなわけないじゃん」

「あー、じゃあ理事の直属の部下ってことで」

 

 下手に名前を教える気になれない俺は、同じところに所属してるみたいだし、肩書きを名乗っておく。

 

「へっ?」

 

 そうしたらこんなすっとぼけたような声が返ってきた。

 ふっ、変な顔。

 

「ポケモン協会の理事?」

「ええ」

「その直属の部下?」

「はい」

「…………あなたがハチ公?」

「周りはそう呼んでるみたいですね」

「「…………………」」

 

 小柄な方も聞いていたのか、呆気に取られている。

 

「……どうしよう、メグリ。私たちよりも上司っぽいよ」

「だから、特殊部隊の人たちはすごいんですって」

「まあ、歳下っぽいしいいよね。なんなら、椅子ももらっちゃう?」

「はあ………はるさんも変わりませんね」

 

 コソコソと二人で話し始める。

 なにやら不穏な言葉まで聞こえてきた。

 

「しっかり聞こえてんですけど」

「あ、ごめんね、えと………」

「ヒキガヤです」

「あ、ヒキガヤくんって言うのか」

 

 笑顔が癒される。

 トツカやコマチとはまた違った癒しを感じるわ。

 この二人は笑っているが、背の高い方は笑顔が怖い。

 絶対よからぬことを企んでる顔である。

 

「私、シロメグリメグリっていいます。よろしくね」

「はあ……」

「私はユキノシタハルノです! 何でメグリには答えてお姉さんには答えてくれないのかなー、ヒキガヤくん!」

 

 怖ッ、めっちゃ怖ッ!?

 笑顔だけど目が笑ってない。

 静電気でも起きれば髪がぶわっと逆立ちそうなくらいの凶相が俺には見えて来る。

 というかユキノシタ!?

 そうか、見たことあると思ってたら、ユキノシタの姉貴か。確かにあのジャーナリストが持ってきたビデオに映っていた人に似てなくもない。大人らしくなっているせいか雰囲気が違うが、所々面影が残っている。

 

「あ、と、とりあえずこいつもお願いします。どんな手段を使ってでも情報を引き出してください」

「あれ? 君は一緒に来ないの?」

「俺は……ん?」

 

 ユキノシタの姉貴がキョトンとした顔で聞いてくるので応えようとしたら、ファサッと赤っぽいオレンジ色のウィッグが降ってきた。

 

「おい、お前らってまさかズラ?」

「……人それぞれだ」

 

 そうね、スキンヘッドもいるもんね。

 ということはこれを使えば。

 

「あの、一つやりたいことがあるんでヘリの中借ります」

 

 運ばれてヘリの中で山積みになっているフレア団を見てあることを思いついた。




「ギャラドス!?」
「ひゃっほう、ギャラドスナイトいただき〜。チゴラス、逃げるぞー! ニャスパーズ、ねんりき!」
「くっ」
「「ユミコ!?」」
「やってくれたな、お前たち。リザ、オーバーヒート! エレン、ほうでん! ブー、ふんえん!」
「ハヤトくん、ユミコのことは私たちに任せて」
「トベ、ヒナ。頼むぞ」
「オッケー、ハヤトくん! ピジョット、かぜおこし!」
「カーくん、ニャーちゃんにてだすけ。プテくん、はかいこうせん!」
「ニャオニクス、エナジーボール! オーダイル、ハイドロカノン!」
「全主砲斉射、ってーっ!」
「ユイガハマさんとイッシキさんはここにいてね。ザイモクザ君、僕も行くよ」
「トツカ先輩………みんな…………」
「………助けて、……ヒッキー…………」
「グゥラァルルルッ!」
「お前ら、遠慮なくやっちまえ!」
「「「「「「フレーフレー、フレア団ッ!!」」」」」

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