「負けたよ。まさか君までメガシンカが使えるとは思ってもみなかった」
お仲間さんたちと少々やり取りをした後、こっちにきたハヤマが俺にそう言ってきた。その背中を追う金髪縦ロールの目が俺を睨んでいたようにも見えたのは気のせいとしておこう。
ここでこいつと握手でもすれば、はい仲直りって展開なのかもしれないが、生憎俺はこいつと慣れ合う気はない。
この様子だと俺のことにも気づいてないようだし、このまま水に流すとしよう。
「ほんとだよ。いつの間にメガシンカが使えるようになったのさ。コマチにも教えてくれたっていいじゃんか」
「いやー、やっぱり先輩は強いですね。スクール時代のバトル大会を見てるようでしたよ。あの時もハヤマ先輩をコテンパンにしてましたもんねー」
……………………。
「ん? どういうことだい、イロハ」
「あれ? ハヤマ先輩覚えてないんですかー。先輩たちが六年になる前に新入生を呼び込むためのバトル大会なんてのがあったじゃないですかー。あの時、ハヤマ先輩が負けたのはこの目の腐った先輩ですよ」
はい目の腐った先輩です。
おのれイッシキ。
俺が隠そうとしていたことをペラペラとしゃべりやがって。
こいつのことだからーーー
「バトル大会…………それに、ユキノシタさんが誰かと…………いや、待てよ。あいつなら……………そういえば、あいつもリザードンを連れてたな………ああ、そういうことか。それだったら、確かに人のポケモンでもあれだけのバトルができていてもおかしくはないな」
ほらみろ。この状況と今の言葉だけで全て結びつけてしまったじゃねーか。
「君はあの時の学生………なのか?」
「ど、どの時だよ」
「ユキノシタさんのオーダイルが暴走した時に二度も止めに入って、なおかつ一回目ではバトルしながらリザードンにかみなりパンチを覚えさせたあの学生なんだろ」
あれ…………?
どうしてその部分はみなさんはっきりと覚えてらっしゃるのでしょうか?
そろそろ忘れてもらっても結構ですのよ。
なんなら忘れてくださいおねがします!
「………だったらなんだよ」
「いや、自慢じゃないが俺は今までに負けたのはユキノシタさんと姉のハルノさんとのバトルくらいだ。その中で一度だけ例外が起こった。そして今日もまたタッグバトルだったが俺は負けた。………は、はは、やっぱり君は強いな」
「別に強くなんかねぇよ。お前が相手の実力を見誤っただけだろうが。油断して自分の手の内を全てさらけ出した。それが敗因ってだけだろ」
「だけど、そこを突けるのも実力だと思うんだけどね」
ぐぬぬ………。
ああ言えばこう言い。こう言えばああ言う。
なんだよこのイタチごっこ。
「………そもそもこの男に喧嘩を売ったことが間違いよ」
トツカの手当てをしたユキノシタがこっちに参加してきた。
「………どういう、ことだい?」
「三日天下、忠犬ハチ公…………巷ではこの男はそう呼ばれているわ」
「なっ!?」
「それに姉さんも一度負けているわ。一番大きな大会でね」
あ、あのユキノシタさん………?
俺のことを話すのはそれくらいにしてもらえませんかね………。
ちょっと胃が痛くなってきたんですけど。
マジで俺の黒歴史を掘り返さないで!
「………………そうか。けど、次君とバトルする時は負けないよ」
「あっそ……好きにすれば。バトルする機会なんて来ないだろうけど」
「あーもー、お兄ちゃん! こういう時は次も勝たせてもらうぜ、的なことくらいは言わないとダメだよ! やり直しッ!」
「え? コマチちゃん? なんでそんなことを言わないといけないんでしょうか。別に好きでバトルしたわけじゃないんだし、次なんていつ来るかも分からんもんをなんでそんな恥ずかしいセリフで返さねぇとならねぇんだよ。やだよ、恥ずかしい」
「そんなこと言ってると誰ともバトルしてもらえなくなるよ」
「いいことじゃねえか。俺の稼働率が下がるんだぞ。万々歳じゃねぇか」
「はあ………………このごみぃちゃんはいつもこうなんだから……………」
「だ、大丈夫だよ! その時はあたしがバトルしてあげるから」
「…………相手になる日が来るといいな」
「それ、どういう意味だし!」
キャンキャン吠えているユイガハマはさておき、このハヤマという男。以前に比べてユキノシタに対してよそよそしいような気がする。そんな注意して見ていたわけではないが、スクール時代に毎日バトルをやっていたような仲とは到底思えないのだ。ユキノシタが変わったのかこいつが変わったのか。そんな細かいところまでは分からないが、何かがあって今の状態になっているのだろう。
「なあ、もういいか。俺は疲れた。というか腹減った。飯食いに行かせろ」
「……ああ、ごめんごめん。引き止めて悪かったな」
「悪いと思うなら、次からは引き止めるなよ」
「それはどうだろうね。君には少し興味が湧いてきたよ。どうだろう、今度お茶でも」
「行かねぇよ」
あれはなんだろう。
向こうの方で鼻血を吹き上げて金髪縦ロールにティッシュを鼻に押しつけられてるメガネ女子がいるんですけど。愚腐腐、という背筋凍るような気味の悪い笑い声が聞こえてくるけど、…………大丈夫だよな。ちょっと心配。主に俺の身が。
「おい、そこの木の陰で寝てるボケガエル。起きろ、飯食いに行くぞ」
珍しく俺の頭から木の陰に避難をして、足を組んで寝ているボケガエルを叩き起こす。
こいつ一日中寝てんな。
超羨ましいじゃねーか。
「あれ、そのケロマツは君のだったのかい」
一向に起きようとしないバカの首根っこを掴んでみょーんと持ち上げると、ハヤマが聞いてきた。
「だったらなんだよ」
「いや、前にケロマツと対立してるトレーナーを見かけたことがあってね。その子かどうかはわからないけど、もしその子だとしても君がトレーナーなら安心だと思っただけさ」
「前のトレーナーね。ま、こいつから見限ったらしいし、俺としちゃこいつのセンスは買ってるんだ。なんだかんだで懐いているとは……………あれ? こいつって俺に懐いてるのか? 俺のこと、ただの寝床としか思ってないんじゃ……………」
「………一緒にいればご飯が出てくるし」
「頭で寝てても文句も言わなくなったわね」
「あと、強いポケモンともバトルできますもんねー」
……………………………………。
あれ?
俺ってうまく利用されてね?
「ま、まあまあ。みんなもその辺にしとこうよ。他のポケモンたちの懐き方が異常なだけで、ケロマツが普通なんじゃないかなー」
「そうね、人のポケモンと即席のコンビを組んでもバトルで勝つくらいだし」
「愛情にもいろんな形のものがありますしねー」
「私のテールナーは特に懐いてもいないですしねー」
女性陣に散々言われてる俺って一体……………。
「え? イロハさんのフォッコってもう進化したんですか!?」
「そうそう。見たい?」
「見たい!」
コマチではなく、何故かユイガハマが飛びつくようにイッシキの肩に手を置く。
あう、とかかわいい声を出しているがやはりあざとい。
「それじゃ、出てきてテールナー」
「テーナ」
ボールから出てきたテールナー(というらしい)キランと片目ウインクをする。
着々とトレーナーに似てきているようで何よりです。
「かわいいー」
「テーナ」
「毛、ふさふさー」
「テーナテーナ」
「触っても…………大丈夫よね」
「テーナー」
うわっ、これはヤバイわ。
何がヤバイってイッシキがポケモンになったかのように見えることだ。
それくらいには再現できていて、怖いくらいである。
「………あざとい……」
ボソッと。
俺の本音をこぼしたらいきなりかえんほうしゃを放ってきた。
未だに首根っこを掴んでみょーんと吊り下げていたケロマツが、咄嗟にみずのはどうで壁を作って防いでくれた。まあ、たぶん自分を守るためのついでだろうけど。
「………うん、確かにこれは懐いているとは言えないね」
「むしろ攻撃されてるわね」
「でもカーくんはどっちかと言えばこんな感じですけどねー」
「でしょー。だから、先輩にどんなポケモンでもなつくとは限らないんですよ。分かりましたか!」
いや、まあそうかもしれんが。
そもそもテールナーとは話したことすらないわけだし、初対面で話したこともない奴とは俺だって一緒にバトルして勝てるとは思えねーよ。まず、指示を聞かないところから始まるだろうし。
「お、おう。まあ、普通に考えたらそうじゃねーの?」
「お兄ちゃんは普通じゃないから」
「さいですか………」
もう好きにさせておこう。
そう思わざるを得ないこの状況ってなんなんだろうね。
みんな好き勝手言いすぎでしょ。事実だけど。なんなら俺も賛同しちまってるとこあるけど。
「はは………そうか、だからイロハは俺たちにバトルするように促してきたのか」
「どういうことだよ」
「いや、こっちの話さ。気にしないでくれ」
気にして欲しくないなら、意味深な口ぶりで発言しないでもらえませんかね。
もう、気になりすぎて今日六時間寝られるか心配なレベル。そこまで心配してねーな、これ。
「それじゃ俺は行くけど。イロハはどうする?」
「今日はこっちにいます」
「そっか、まあゆっくりしててくれ。まだミアレは出ないから俺たちもいるし」
「はい、それじゃまた」
そう言うとハヤマは自分のグループへと引き返していった。
あれ?
ここは俺が飯食いに行って立ち去る場面だったはずじゃ…………?
「あなたもあれくらい自然にできないものかしら」
「ほっとけ」
✳︎ ✳︎ ✳︎
あれからトツカとザイモクザとイッシキを引き連れて、昼食を食べに出かけた。
サウスサイドストリート(研究所がある通り)にあるお食事処、レストラン・ド・フツー。
このレストランはちょっと他の店とは違い、料理を注文してから出てくるまでの間、ダブルバトルをすることができる(というかしなければならない)のだ。
だが、問題なのは俺たちが七人で来ているということだ。
とりあえずじゃんけんして決まったペアは次の通り。
・コマチ対ユイガハマ
・ユキノシタ対イッシキ
・トツカ対俺
余り、ザイモクザ
哀れザイモクザ………。
ということで。
トツカとバトルすることになったわけであるが……………。
「ハチマン、手は抜かないでね」
と釘を刺されてしまった。
さて、ここで問題です。
手を抜くとはどこら辺のことまで言うのだろうか。
「それって……………」
「うん、もちろん、メガシンカ使ってね」
やべぇ、かわいい。
「お、おう。けど、いいのかよ」
「それも経験、でしょ?」
ぐはっ!?
トツカに経験とか言われるとちょっと危ない方へと思考が向かっていってしまうんですけど!
大丈夫だ、トツカ。
二人でやれば怖くないからな。
「あ、まあ、そうだけどよ。んじゃ、リザードン………とおい、起きろ。今回はバトルしねぇと飯にありつけねぇぞ」
「ケロッ!」
それは一大事! と言わんばかりにシュタッと開始位置につきやがった。自由でいいよね、君。
「ニョロボン、トゲキッス。お願い」
新しい技を覚えた二体できたか。
トゲキッスの方はどんな仕上がりなったのかは分からないが、ニョロボンはカウンターも覚えさせたんだ。一度復習がてらに攻めてみるか。
「じゃあ、私が審判しますねー」
ユキノシタが初心者同士のバトルの審判を務めていて、暇になったイッシキが審判を買って出た。
「……できるのか?」
「先輩、私をなんだと思ってるんですか」
「あざといビッチ」
「あざとくもビッチでもありませんよーだ」
あっかんべーをしてくる時点であざといと思います。
「バトル開始」
ちょ、いきなりだな。
「ニョロボン、ケロマツにどくづき。トゲキッス、リザードンにマジカルシャイン」
まあ、そうくるなら、お望み通りメガシンカしますかね。
「リザードン、えんまく。ケロマツ、ケロムースで鼻を覆ってかげぶんしん」
咽せないようにケロマツにはマスクをつけさせ、回避に回す。
そして、リザードンがそれを確認して黒煙を吐き、空気中に充満していく。
イッシキが「ちょ、先輩ひどいです。けむたいですよぉー」というあざとかわいい声を出していたが、気にしている暇はない。
「メガシンカ」
俺がポケットの中でキーストーンを握り締めるとリザードンの首に巻いたスカーフの下にあるメガストーンと反応を示し始める。
それぞれの石から発せられる光が結合し、混合していく。
「ブラストバーン、みずのはどう」
今回は室内なので口から炎の究極技を繰り出す。
マジカルシャインの光はリザードンに届くことなくかき消された。
ケロマツは影も含めて全員でみずのはどうで壁を作り、光を遮った。ニョロボンも同時に飲み込まれてしまい、拳すらも届かない。
「ニョロボンにかみなりパンチ、ケロマツはトゲキッスにみずのはどう」
今度はこっちが攻めに転じる。
「トゲキッス、はどうだん。ニョロボンはーー」
トツカが言い切る前にリザードンが技を決める。
だが、リザードンは弾き飛ばされて帰ってきた。
「え? ニョロボン、今の技って一体……………」
トツカがニョロボンが出した技に驚きを見せる。
まあ、自分の知らない間に知らない技を覚えてたら普通は驚くよな。
「カウンターだ。さっき暇だったから覚えさせてみた」
「ええっ?! そんな簡単に覚えさせられるもんなの!?」
「い、いや、一応三回目くらいでやっと成功したんだけどよ」
「いやいや、三回目で成功って十分早いよ!? ………そっかぁ、ハチマンってやっぱりすごいトレーナーなんだね」
「え、あ、や、別にそうでもないと思うぞ」
なんとなくトツカに褒められると顔が赤くなっていっているような気がする。
それにむず痒い。
「先輩、また覚えさせたんですか」
「またって、人のポケモンに覚えさせたのって初めてだと思うんだけど」
「………覚えてないとかどんだけですか。たぶん、オーダイルはユキノシタ先輩が知らない技まで覚えているはずですよ。先輩のせいで」
「え? マジ?」
「マジです」
あれまぁ。
それはそれはまたとんでもないことを。
覚えさせたのがオーダイルということはスクール時代の、それも最後の方なんだろうな。
「ニョロボン、今のはタイミングもバッチリだったぞ。後はトツカと息を合わせられるように特訓をしておけ」
「ボンッ」
コクっと頷くニョロボン。
真面目なやつだよな。
「さて、目的も果たしたし、終わりにするか」
「いくよ、二人とも」
「ケロマツ、お前いい加減なんか他にも技覚えただろ」
聞くと目をそらして、どこ吹く風の様子。
『……ふむ。れいとうパンチ、れいとうビーム、つばめがえし、ハイドロポンプ、くさむすび、グロウパンチ、えんまく、がんせきふうじ、いわなだれ、まもる……………この短期間でよくこれだけの技を覚えられたな』
「え? マジ? それやばくね? つか、ほとんどこの短期間の間に見た技ばっかだな」
『一度見れば体の相性が合う大体の技は使えるんだとか。だが、トレーナーが使いこなせなかったら使う気が失せるとも言ってるな』
「おいおい、スペック高すぎだろ。ただ寝てるだけなのに、天才かよ」
『ただ、今までのトレーナーは奴を使いこなせなかったみたいだな』
「うん、それは使いこなせないと思うわ。初心者向けのポケモンのはずなのに、いかようにでもバトルスタイルが組み立てられる奴とか初めて見たわ。ベテランでもきついぞ、絶対」
『オレらの中でも異端だな』
異端すぎるわ!
そら、前のトレーナーも送り返してくるわ。見ただけでいろんな技を覚えてしまって、トレーナーが的確な指示が出せなければその技は使わないとか、きまぐれすぎんだろ。
しかも進化は拒否するわでトレーナーの方も嫌になるのも無理はない。
まあ、俺としてみれば願ったり叶ったりではあるんだが。
進化しようがしなかろうが、こんだけのスペックがあれば、次のジム戦とかもこいつだけでいけたりするんじゃね?
けど、それするとリザードンが拗ねるからな。
「ニョロボン、ケロマツにどくづき。トゲキッスはゆびをふる」
「そこまでできるんだったら、ケロマツ。ニョロボンにくさむすび! リザードンはトゲキッスにかみなりパンチ!」
ため息を一つ吐いて走ってくるニョロボンの足元に蔓を伸ばし、奴の足を絡め取り、宙吊りにしてから床に叩きつけた。
指を振って竜の気を帯びた波導を放ってくるトゲキッスにお構いなしに突っ込むリザードン。ジグザグに動き、波導の軌道をそらし躱していく。
ゴスっという音とともに倒れるトゲキッス。
ニョロボンはすでに戦闘不能になっていた。
「…………にょ、ニョロボンとトゲキッス、戦闘不能…………。なんかケロマツ強くなってません?」
「ああ、知らんうちに強くなってやがった。というかこいつのスペックの高さに驚いてるところだ」
くさむすびで一発KOとか、草生えるな。草技だけに。
「やっぱり、あのスピードには敵わないなぁ」
「いや、充分だと思うぞ。ニョロボンもトゲキッスも確実に強くなってる」
「そう? ハチマンがそう言うんだったら間違いないね」
パァッと明るい笑顔を見せるトツカ。
思わず抱きしめたくなった。
「それにしてもケロマツってよくわからない子ですねー」
「こいつの場合は分からないくらいがちょうどいいような気がする。お前には特に扱いが難しいだろうし」
「まあ、メロメロが効きませんもんねー」
じとーっとした目でケロマツを見据えるイッシキ。カロスに来た日にこいつ、ケロマツに叩かれてたし。理由があざといから、というね。
「さて、あっちも終わったようですし、今度は私の番ですよ、先輩」
✳︎ ✳︎ ✳︎
結果的に言うと、イッシキは負けた。まあ、ユキノシタが相手だったんだし無理もないが、それだけが理由ではない。ナックラー(イッシキの新顔)がバトル中にも拘わらず、イッシキを追い回すというハプニング? が起きたからだ。イッシキによると出会った時から追いかけ回されて、ハヤマたちと旅を続けている間もつきまとってきたためボールに入れたんだとか。
どんだけ好きなんだよ、と思わなくもないが、イッシキのあざといメロメロにやられた被害者なのかもしれない。オスみたいだし。哀れナックラー。
あと、ユキノシタがユキメノコでバトルしているのを初めて見た気がする。あいつ、意外と強かったんだな。技のタイプバランスが良すぎるし。聞くとみずのはどうの他にも10まんボルトやシャドーボールも覚えてるんだとか。逆らったら凍らせる以外にも水攻めや電気を浴びせられる可能性もあるんだな。なにそれ超怖い。
で、その負けたイッシキはというと。
「むー」
ナックラーを抱きかかえながら拗ねている。その頬を膨らませる意味はあるんですかね。あざとすぎる……………。
「あざとい…………」
「あざとくないです」
「にしても意外だな。お前がナックラーを捕まえてるとか」
「捕まえたというよりついてきたんですよ。実力はあるんですけど、私に対してはこれなんで手のかかる子です」
ナックラーの頭を撫でてそう言ってくる。
「ま、いいんじゃねーの。ナックラーが最終進化すればフライゴンっつードラゴンタイプに進化するし」
ホロキャスターでフライゴンを検索。
画像をタッチしてそれをイッシキに見せた。
「ほれ、こいつ」
「…………全然この見た目からは想像できない姿ですね」
「でも強いのは確かだぞ。それに空も飛べるから飛行要員としても役に立つ」
「はあ……………この子が、ねー」
さっきからずっと撫でてるけど、ナックラーのことは何気に気に入ってるんではないだろうか。口ではああ言ってるが、自ら抱きかかえるくらいだし。
「………他には何か捕まえたのか?」
「いえ、まだ新顔はこの子だけです。一応、ミアレジムのバッジも取ったんですよ、この子で。でも特に何かを目指してるわけでもないんで、これからどうしようか悩んでまして」
「目標ねー」
しおらしいイッシキというのも珍しいな。
「先輩はやっぱりリーグ大会の優勝とかだったんですか?」
上目遣いで俺に見つめてくる。
それをナックラーがアホっぽい顔で見ているのを見て、何とか現実に帰ってきた。
「あー、や、別にそんな大袈裟なことは全く考えてなかったぞ」
「そうだよ、イロハちゃん。そもそもヒッキーが特例の卒業をしたのだって、他に強いトレーナーがスクール内にはいなくなったからって理由だったんだよ」
「……………そういえば、そんなこと前に言ってましたね」
俺、言ってたのか……………?
というか俺と接点あったのか?
こんなやつ見たことないと思うんだが。
「強さ、ですか…………。確かに先輩は異常なまでに強いですからね。あのハヤマ先輩ですら勝てませんでしたし」
「いや、それはタッグバトルだったからだろ。あいつのバトルを見てると一人でバトルした方がやりやすそうだったぞ。それにフルバトルをしたらあいつに負ける可能性だってある」
「それはハヤマ先輩の不戦勝って意味ですか?」
「………そうだった、俺にはフルバトルすらできなかったな……………」
なんという盲点。
そもそもがありえない過程だったじゃないか。
それは確かにハヤマの不戦勝になるな。
「ま、冗談はさておき、強いトレーナーさんには出会えたんですか?」
「いや、出会えたけど出会いたくはなかったな。オーキド博士の孫のグリーンっていうキザな男とかトキワジムの元ジムリーダーとか、チャンピオンになった三日間のうちに二人にコテンパンにされたし」
「つまり、リーグ優勝してチャンピオンにも選ばれた頃の先輩でも勝てなかったという相手ですか」
「そういうことだな」
理解が早くて助かります。
サカキのやつ、ニドクインを倒したからといって好い気になるなよ、とか言ってサイドンでじわれを構してくるとか酷くない?
けど、まああの二人のおかげで今があるような気もするけど。特にサカキには鍛えられたからな。カウンターとかじしんとかあいつに伝授されたし。
「世の中には先輩よりも強い人がいるもんなんですねー」
「世界は広いからな」
なんて話をしてたら注文の品が出揃った。
なんつーか、ザ・フツーって感じの料理だった。味も見た目も普通。強いて言えば家庭料理っぽくて悪くはない。
「そういえば、ハチマン。ニョロボンを貸してくれって言ってたのってカウンターを覚えさせるためだったの?」
「ん? ああ、そうそう。ユキノシタが技次第でいろんなバトルスタイルに変化するって言ってたんだし、選択技として一つくらいトリッキーなのでも覚えとくと面白いと思って覚えさせてみたんだ」
食べながら、トツカがそう聞いてきたので、俺も正直に答える。
「あら、それはニョロボンだけにではないのでしょう?」
「え? ああ、まあついでに、な」
「ついで、ね。あなた前にもオーダイルに技を覚えさせたわよね」
「……らしいですね…………全く覚えてないけど」
「酷い話よね。人のポケモンで勝手にバトルしたり、技を覚えさせたり。しかもそれでバトルの幅が広がっているのだから隅に置けないわ」
ですよねー。
まあ、あの時は必死だったってことにしておいてください。覚えてないけど。
「れいとうパンチはあなたが覚えさせた技の中でも使用頻度は高いのよね。他にはシャドークローだったかしら。いきなり使った時には驚いたわ。あと、あなたがいなくなった後にはげきりゅうをコントロールできていたんだから、とんだ置き土産だと思ったわね」
「聞けば聞くほどオーダイルって誰のポケモンなのか分からなくなってきますよねー」
それな。
俺も聞けば聞くほど自分のポケモンのようにすら思えてくる。
「うーん、やっぱりお兄ちゃんは将来育て屋さんとかむいてるんじゃないかなー」
「………ポケモン協会に就職してるので間に合ってます」
いいよね、ポケモン協会。
給料は出るし、特に問題がなければ休日だし。しかも俺、依頼さえこなしてくれれば自由にしていいらしいし。
そう思うと親父も母ちゃんも大変だな。毎日に社畜人生を歩んで、俺はあんな風にはなりなくないな・………。
「して、ハチマン。お主はいつメガシンカなんてものを手に入れたのだ?」
あ、いたんだザイモクザ。
一人、他の人とバトルして負けたかと思ってたんだが。
「そうだよ! お兄ちゃん、なんでコマチたちには何も言ってくれなかったのさ」
「そりゃ、まあ、使いこなせるようになってからじゃないと、暴走したら大変じゃねーか。それに今日初めてちゃんとしたバトルをしたわけだし」
暴君相手にやってたんだから大丈夫だったけどね。あいつとやって暴走しなければ多分暴走はしないはず。それくらい激しいバトルになるからな。というかあいつ何気にメガシンカしたポケモンにも容赦なかったな。さすが暴君。
「それでなんだが………ハチマン。これを見てくれぬか」
ザイモクザが何枚かのコピー用紙を見せてくる。
書いてある文字を読んでいくと………。
「………メガシンカできるポケモンの一覧か……」
いつの間にこんなものを用意したんだよ。偶然か? 偶然なのか?
「昨日、プラターヌ研究所に行ったらハチマンに渡してくれと頼まれてな」
仕組まれてたかー。
なんつータイミングだよ。
「なんでまた俺になんだよ………」
「どんなポケモンがメガシンカできるの?」
ユイガハマに言われて、続きに目を落とす。
「…………今いる俺たちのポケモンじゃ、リザードン、ゼニガメの最終進化のカメックス、ボーマンダ、くらいか。あとリザードンだけが二種類あるみたいだな…………」
……………やっぱりあいつのメガシンカは知られていないのか………?
「………意外と見つからないものよ。メガストーンというものは」
あ、一応自分のポケモンのことだから知ってはいたのね。
まあ、こいつは人にベラベラしゃべるようなやつでもないし、カロスに来た目的も知らねぇんだよな。
「………だろうな。俺だってもらいもんだし」
唯一、手に入れられそうなのはカメックスナイトだな。
博士のところに行けば確実に一つは手に入れられる。
だけど、まだコマチ自身がトレーナーとしての経験を積んでいないし、まだまだ先の話になるだろう。
うん、強くなったコマチとバトルしてみたい気もするな。この前のジム戦でのコマチのバトルを見る限り、面白い方へと育ってくれるだろうし。
「それからもう一つ。シャラシティに行って来いと言われたぞ。なんでもそこにはメガシンカおやじと呼ばれてる師父がいるらしい。そやつに会えばメガシンカについての知識も増えるんじゃないだろうか」
「メガシンカおやじね…………。特に次の目的地を決めてたわけでもないしシャラにでも行くか」
「………ねぇ、ハチマン。もしよかったらシャラシティまで僕もついていっていい?」
「シャラまでとは言わず、俺の人生についてきてくれないか?」
「ハ、ハチマン…………そんなはずかしいよ」
困った顔を見せるトツカかわいい、とつかわいい。
「…………あの………なんかトツカ先輩にだけ贔屓してません?」
「……あははは、ヒッキーさいちゃんのこと大好きだから」
「彼が男の子で本当によかったわ。女の子だったら……………ね」
「ですね…………」
こうして、トツカを迎えた俺たちの次の目的地は決まった。
ご拝読ありがとうございます。
申し訳ありませんが、これでストックは尽きました。
次回からはこのまま一万文字前後でいこうと思うので毎週金曜に投稿してことになると思います。以前みたいな週二で一万文字書くのはきついのです。
本当は7月一杯は毎日連投でいこうと思ってたんですけどね………。
筆がかなり乗れば火曜にも投稿することがあるかもしれません(二話分くらい書ければですけどね)。
それでは誠に勝手なことではありますが、これからも宜しくお願いします。