いきなり消えていて驚いた方もたくさんいると思いますが、半月ほどは毎日連投していきますので、今後とも宜しくお願いします。
今まで色々とポケモンの作品に手を出していましたが、ポケスペを一本軸に絞りました。ただ、どこかでゲームの要素を取り入れたり、ポケスペにないポケモンのゲームを舞台にしようとも考えています。
再度読み返すことになるかもしれませんが、是非とも楽しんで行ってください。
「それにしても本当に久しぶりだな、ヒキガヤ」
コマチたちの後を追い、部屋を出る。
場所はヒラツカ先生が知っているだろうから俺は彼女についていくだけ。
「まあ、五年は軽く経ってるんじゃないですかね」
「元気にしてたか?」
「見ての通りですよ。リザードンだってこの通りだし」
俺の横を歩いているリザードンに顔を向けた。
「シャァッ」
「まさか君がここまで強くなるとは思いもしなかったよ。正直言って君より先に最強の座を手にするのはハヤマやユキノシタの方だと思ってたからな」
「………?」
誰……………?
ん? ユキノシタ………?
「誰だ? て顔してるな。ハヤマの方はトレーナーズスクールで一年間は君と同じクラスだったんだがな。まあ、君のことだ。周りに意識を向けてもいないんじゃ覚えてもいないだろう」
ああ、要するにウェイウェイやっていたトップカーストに君臨する奴らね。
そりゃ、確かに覚えていないわけだ。
「その中にはユイガハマもいたし、同じクラスで言えばトツカも君のことを気にかけてはいたみたいだぞ」
え?
ユイガハマも俺と同じクラスだったの?
あいつそんなこと一言も言ってなかったが……………。
俺の様子を見て、空気を読んだってことなのか?
「そういえば君にも一人友達がいたな。ザイモクザ……だったかな」
「俺はあいつの友達じゃないんですけどね」
「だが、今言った中では覚えている奴、ではあるだろう」
「まあ、たまに連絡してくるくらいには」
「自分からしないのが君らしいな」
いや、あいつに連絡するようなこともないし。仕事以外。
「それにイッシキも君と同じスクールの一個下になる後輩だ」
「あんま信じたくない話ですけど、本当なんですね」
はあ……………。
あいつマジで俺の後輩になるんだな。やだなー。
「つーか、何俺の旅の話を美化してあいつに吹き込んでんですか。さっき散々罵倒してきましたよ」
キモいって二回も言われたぞ。二回も。
大事だから俺も二回言ってやる。
「別に美化してはいないだろう。事実ではあるのだし、君が聞いてて美化しているように聞こえたのなら、私が耳にした時点で君の話は君の思っている以上に綺麗だったんたろう。それか酒のせいだ」
やっぱり酒かよっ!
今度から大事な話は酒のないところでしよう。
「それと、私はイッシキに君のこと話してないぞ? そもそも君と彼女は面識があるだろうに」
「へっ? マジですか………?」
「マジだ、マジ。大マジだ」
「記憶にねぇ………」
「と、ここだな」
マジかー。一気に二人も俺の知り合いが出てきちゃったよ。どうするよ、俺。全く覚えていないんですけど。
先生が一つの大きな扉の前で足を止めた。
「開けるぞ」
そう言って先生がその扉を開くと。
中は庭園になっていた。
「ここは…………」
そこにはたくさんのポケモンがいるようで鳴き声が所々から聞こえてくる。
いや、正確に言えば人間の嬉々とした声も聞こえてくるが。
「ここはこの研究施設で育てているポケモンたちの住処だな。主に観察を目的として育てているが」
「あ、お兄ちゃん。やっとき…………た………?」
「遅かったね、ヒッ………キー………?」
「先輩、遅いです………よ?」
なんか俺を見た途端、三者三様に驚いていた。
うん、大丈夫だ。
俺も色々と驚いてスルーしてたくらいだからな。
「ははっ、まさかハチマン君に懐くとはね」
これは懐いたと言っていいものなのだろうか。
つーか、首がしんどくなってきた。
「やっぱ、こいつ用意してたポケモンのうちの一体とかそういうやつ?」
俺の頭の上で寝ているやつを指差す。
「そうなんだよ。そのケロマツは新人トレーナー用として育てられたポケモンの水タイプでね。でも、一度トレーナーに捨てられた過去を持っているから、なかなか難しいやつでさ」
変態が苦笑いを浮かべて過去を話す。
「よくそんなやつを新人にやろうとしたな。捨てる方にも問題があるだろうけど、捨てられる方にもそれなりの理由があったんじゃないか?」
未だ俺の頭の上で寝ているケロマツを引き剥がして、抱きかかえ直した。
「そのトレーナー曰く、何度も進化を拒み続けたらしいんだ。それが気にくわないらしく、ボールと一緒にこの研究所に送りつけられてね。それ以来、人間不信になって今に至るわけさ」
まあ、進化なんてポケモンの意思な訳だしな。
そのトレーナーも受け入れられなかったというわけだ。
よくある話だな。
「………そうだね、その子は君に託すよ。君なら上手くその子を育てられると思うし」
え?
マジかよ。
いや、まあ手持ちが増えるに越したことはないけどさ。
「これがその子のボールだ」
ストーカー博士が赤いボールを俺に投げつけてきた。
急に投げるなよ。
こいつ抱きかかえてんだからキャッチできねーじゃん。
そう思ってたら、ヒラツカ先生が代わりにキャッチしてくれた。
しかもキャッチの仕方が片手でとかすげー男らしい。
「ほれ」
「あざます」
「それにしても『類は友を呼ぶ』とはこういうことを言うのだろうな」
「そう、なんですかね………」
今回はイッシキの時みたいに否定はできなかった。
近からずとも遠からず。
俺はこのケロマツに幾ばくか親近感を感じていた。
「だけど、そうすると問題は…………」
変態博士は俺たちから少女三人へと視線を向ける。
ユイガハマはまたか、といった表情をし、コマチはよくわかっていないようで小首を傾げているし、イッシキに至っては博士が用意していた他の二体と戯れていた。
つーか、我が妹ながらそこまでアホだったとは…………。かわいいけど。
「博士。例のポケモンたちも用意してみては?」
すると俺の横で先生が博士にそう言いだした。
「おお、シズカ君。ナイスアイデアだ。早速用意するからみんなちょっと待っててくれるかな」
そしてそれを聞いた長身白衣はそのままどこかへ行ってしまった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
戻ってきた彼の手には一つのカバンがあった。
色は茶色。
見た目はどうでもいいか。
「博士、はやくはやく」
「そうだね。それじゃ、出ておいで」
博士がボールを開けると三体のポケモンが姿を現した。
なんかよく見たことのあるポケモンばかりだったが。
「なんでカントー地方のなんだよ」
出てきたのはフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメ。
カントー地方の初心者向けのポケモン。
俺もこの中の一体を選んだ一人だから、よく知っている。
「実はこの三体の最終進化、フシギバナ、リザードン、カメックスにメガシンカがあってね。それでオーキド博士に頼んで用意してもらったまではいいんだけど、まだ進化前でさ。育てようにも僕たちは旅をしてたり、バトルを頻繁にしているようなトレーナーじゃないから、進化させるまでが程遠くてね」
「それでコマチたちの出番ってことですね」
「そういうこと。まあ、この子たちが用意されたのがこういう経緯ってだけで強制じゃないからね。君たちが気に入ったポケモンを選んでくれたら僕はそれで構わないよ」
それじゃ、僕はちょっと外すから、と言って何故か俺の方に向かってきた。
「ハチマン君、ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
そこでウインクするなよ。
スクール時代にそんな奴いたような気もするぞ。
「断っても聞かねーだろうに」
「よく分かってるじゃないか。それじゃ、シズカ君。先に彼を借りてくね」
「ええ、後で引き渡してもらえればそれでいいですよ」
そうヒラツカ先生の言葉を聞くとスタスタ庭園から出て行きやがった。
「はあ…………」
「そんな深いため息つかなくてもいいだろうに。幸せ逃げてくぞ」
「そんなもん現在進行形で逃げて行ってますよ」
俺はもう一度深くため息を吐いて、トボトボと彼の後を追った。
来たのはさっきの応接間。
戻ってくるくらいなら先に話しておけよ、と思わなくもない。
だけど。
二人きりになってまで話をするようなことだ。あいつらに聞かせたくない話なのだろう。
「それで、人払いしてまで俺と話をするようなことって何なんだ?」
「…………いざ話そうとすると、何から話したものか分からなくなるものなんだね」
「なんだよ勿体ぶって。メガシンカについてか? けど、人払いしてまでするようなことでもないだろ」
「あー、その、なんというか君はメガシンカがどういうものなのかは理解してるのかな」
「戦闘中にのみ起こる進化を超えた進化、って程度にしか知らん」
そもそもメガシンカについて調べに来たんだから知るわけないだろうに。
「だよね。………うん、やっぱり君に決めたよ」
「何をだよ」
なんか一人だけ納得して首肯を続けている。
「僕の知り合いにはメガシンカを使いこなせそうで、且つかなりの実力を持ってるトレーナーがいなくてさ。オーキド博士に相談してみたところ、君の話を聞いてね。僕も顔見知りではあるし、ということでコマチちゃんの旅のお供という肩書きで君にカロスへ来てもらったわけさ」
まあ、そんなことだろうとは思ってましたけどね。
じーさんが絡んでることは丸分かりだし。
でも、やっぱりそうなってくるとコマチには申し訳ない気がする。だって、言い方は悪いがあいつは俺を連れ出すための餌になったんだから。
「君とリザードンにはメガシンカの研究に協力してもらいたいんだ。ああ、タダでとは言わない。ここにメガシンカに必要なキーストーンとリザードンのメガストーンがある。どうだい、手伝ってはもらえないかい?」
はあ…………。
もうここまでされてたら断ることもできねーじゃん。こいつそれ絶対分かっててやってるだろ。プラチナむかつく。
だが、丁度いい。俺が話を振らなくてもメガシンカの話をしだしたんだ。聞こうと思ってたことは全部聞いてやる。
「いくつか質問してもいいか?」
「うん、いいよー」
「さっきオーキドのじーさんにカントーのポケモンを用意してもらったって言ってたが、そのメガストーンはそいつらとは関係があるのか?」
「ん? ………ああ、そういうことか。リザードンには二種類のメガシンカが確認されているんだ。だから、あのヒトカゲの分がなくなるわけじゃない。そこら辺は問題ないよ」
なるほど。
メガシンカはポケモンにつき一種類というわけでもないんだな。
「んじゃ次。あいつらのうち最低一人はカントーのポケモンを選ぶことになるが、その場合メガストーンも渡すのか?」
「それはまだ渡さないつもりだよ。最終進化までさせてから渡すつもりだからね。キーストーンも同じ。どっちも研究には大事な資料だからね。あの子たちが旅している間も色々と調べたいことだらけだし、そんな簡単に扱えるほどメガシンカは容易じゃない。使う時にはそれなりの覚悟を持った方がいいからね」
要するに希少なものであるわけだ。
それに実力がないと使えないわけだし。
「仮に俺がアンタの研究を手伝ったとして、何を調べろと言うんだ?」
「まず、メガシンカする時の状況とその時の君たちの感情・体調の異変。次にメガシンカの継続時間。バトル後の体調の変化。この三つを頭に入れてバトルをしてもらう。それと後はメガシンカしてみた感想などを聞かせてくれたら、まずはそれでいいかな」
要は好きに使えばいいのか。
「けど、最初に言ったようにメガシンカは安易に使っていいようなものでもない。力の暴走なんかも時としてありえる。それもすでに実例があるからね。だからこそ覚悟は持った方がいいのさ」
暴走か………。
メガシンカで暴走なんかしたら止められるのか。
強いて挙げれば同じメガシンカしたポケモンで止められるかどうかだろう。
確かに、安易に使うようなものでもないな。
「どうだい? 引き受けてくれるかい?」
「分かったよ。俺にもそれなりの利益があるみたいだし、危険な実験を行おうってわけじゃないんだ。やってやるよ」
俺は差し出されたキーストーンとメガストーンを手に取った。
まあ、こっちに来たのがそもそもメガシンカについて調べてこいって言われてきたんだし。
仕組まれていたこととはいえ、無下にもできないだろう。
「ありがとうっ! ハチマン君」
手を大きく上げて喜びを表す博士。
いい大人がそんなに燥ぐんじゃねーよ。
気持ち悪いからな。
これで俺もメガシンカの鍵を手にしたわけか。
実感沸かねーな。
✳︎ ✳︎ ✳︎
博士との話を終え、庭園に戻ってきてみると、どうやら三人ともポケモンを選んだようだった。
「あ、ヒッキー。おかえり」
「お、おう」
一番手で俺に気がついたユイガハマが大声で俺を呼んだ。………俺であってるよな。
「あ、お兄ちゃん。もうコマチたちはどの子にするか選んだよ」
「みたいだな」
「うーん、いいねー。コマチちゃんはゼニガメにしたのか」
ぬっ、と俺の横から顔を出した博士。
近い近いキモい近いキモい気持ち悪い。
女の子ならまだしもなんで野郎とこんなに近づかなきゃならんのだ。
いや、女の子でも無理ですね。
というか人に近づくのも躊躇われる時点でそもそもが無理だな。
「はいっ!」
「私はフォッコにしましたよ、せーんぱいっ」
いや、別に聞いてないからね。
そんなキラキラとした目で俺たちを見てきたって、ね。
「……言動の一つ一つがあざとい」
「むー、あざとくないですよー」
「いや、もうそんな風に頬を膨らませてる時点でアウトだろ」
「……なんで靡かないんだろう」
声は小さいが聞こえてるからな。
つーか、やっぱり狙ってやってるんじゃねーかよ。
「ちょっとー、聞こえてるんですけどー?」
「えー、なんのことですかー? 私何か言いましたかー?」
うわっ、こいつしらばっくれやがったぞ。
女って怖っ!
「まあまあ、ヒッキーもイロハちゃんもそのくらいで。あ、ちなみにあたしはハリマロンにしたよー。ニックネームはマロン」
「リマッ!」
元気よく挨拶してくるハリマロン。
うん、なんだろう。
ガキみたい?
まあ、なんというかユイガハマに近いものを感じる。
「まあ何にせよ。よかったな、ハリマロン。割とまともな名前がもらえて」
「どういう意味だし、それ!」
いや、だってポチエナにサブレとかつける奴だぞ。
ネーミングセンスなさすぎだろ。
ポケモンにお菓子の名前とか持ってくるかよ、ふつう。
「それにしても先輩、また頭の上でケロマツ寝てますよ」
「言うな。そのことには触れないようにしてんだから」
さっきから首が痛いわ、頭が重いわ、歩きづらいわで正直今すぐにでも降ろしたい。
だがな。
降ろそうとするとこいつ俺の手を叩くんだよ。
俺、こいつのトレーナーになったんだよね?
そういやさっきこいつに親近感がどうのこうのとか考えてたっけ。
あれ、撤回だな。
こいつ、相当頑固だわ。
「相当気に入ってるみたいだね、ヒッキーの頭」
「嬉しくねーよ、そんな情報」
何が悲しくて俺は頭にポケモンを乗せたまま、旅しにゃならんのだ。
「お兄ちゃん、ボールに戻してみたら?」
さも当然のように言ってくるコマチ。
周りもうんうんと首を縦に振る始末。
「そうは言うがな」
俺はコマチの言う通りにケロマツをボールに戻してみる。
赤い光に覆われたケロマツはそのままボールの中に戻っていく。
が。
次の瞬間には俺の頭の上に再び姿を現した。
「結局、この有様ってわけだ」
「まさか、ボールから勝手に出てくるなんて………」
「これ、お兄ちゃんに懐いたというよりはお兄ちゃんの頭を気に入って寝床にしてるだけなんじゃ……………」
え?
マジ?
まさかのそういうオチなの?
「いやいや。そのケロマツは人間不振になってるところがあるからね。それを考えるとハチマン君の頭を気に入った寝床にしただけでも大きな変化だと思うよ」
「だって、お兄ちゃん。よかったね」
おい、コマチ。
何が、よかったね、だ。
ちっともよくねーからな。
首が疲れるだけで何もいいことないからな。
「よくねーよ。俺が首を痛めでもしたらどうすんだよ。お前の旅のお供できねーじゃねーか」
「そこはまあ、なんとかなるんじゃない?」
なんつー適当な。
もう少し俺を労ってくれてもいいじゃねーか。
「慣れれば何てことなくなりますよ、先輩」
「いや、それこそ末期だろ。痛覚が麻痺してるからな、それ」
イッシキ。
お前は俺をなんだと思ってるんだよ。
「それじゃあ、シズカ君。後は僕が引き受けるから、彼と話をしてきてくれて構わないよ」
「そうですか。では、こいつ借りていきますね」
あ、こいつらの相手してたら、なんかあっちで勝手に話進んでんですけど。
今度はなんなんだよ。
「ヒキガヤ。ちょっと私についてこい」
「いやです。お断りし「ああん?」ようかと思いましたけど、やっぱり喜んでついていきます。いや、ついて行かせてください」
あっぶねー。
マッハパンチ並みの音の無さだったぞ、今の。
先生って実はポケモンなんじゃねーかって時があるから、すげー怖い。
タイプで言ったらかくとうタイプ。
「うわっ、先輩なんかキモいです」
「ヒッキー、かっこわるー」
「さすがごみぃちゃんだね………」
うっせ。
お前らも先生のマッハパンチ受けてみればわかるはずだ、この恐ろしさが。
「では、いくぞ」
「はい………」
三者三様の冷たい視線を浴びながら、俺は泣く泣く先生について行った。
お前ら、ぼっちは視線に敏感なんだからな。
✳︎ ✳︎ ✳︎
連れてこられたのは応接間とは逆方向にある一室。
先生が「入るぞー」とノックもなく扉を開け放った。
「……ヒラツカ先生、開ける時はノックをしてください」
「悪い悪い、次からは気をつける」
それ、次もやるフラグだろ。
「だが、ノックをしても君は返事をしないじゃないか」
「それは先生が返事を待たずに入ってくるからです」
二人のやり取りの最中、俺は部屋の中を確認しようと身を乗り出した。
多分これがいけなかったのだろう。
俺は中にいた一人の美少女と目が合ってしまった。
その姿はまさに見目麗しく、清楚な佇まいであった。
「それで、そのぬぼーっとした人はなんですか?」
が、それは見た目だけであった。
ま、現実なんてこんなもんだろうよ。
美しい花にも棘があるとはこのことだろう。
いくら美少女だからといって口を開けばこんなもんだ。
「新入りだ。こいつの腐った性根を直してやってほしい」
は?
俺、一言も聞いてないんですけど。
「お断りします」
ああ、よかった。
こいつが断ってしまえば話は無くなる。
「彼の目を見ていると身の危険を感じます」
理由も聞かなかったことにしておいてやろう。
ぼっちはなんでも受け入れられる寛容な心を持っているからな。
決して、自分より上だと思う奴には逆らえないとかじゃないからな。
「それは心配ない。こいつの自己保身に関しての駆け引きは相当のものだからな。法に触れるようなことはしないさ」
なんか褒められてる気がしないのは俺だけですか。そうですか、そうですか。
あ、それと俺結構昔は法に触れそうなことやってました。てへぺろ。
「はあ、先生の頼みなら無碍にもできませんし、承りました」
「おい、ちょっと待て。黙って聞いてれば何好き勝手に話を進めてんだ」
「あら、ずっと黙ってたから話せないのかと思っていたわ。こめんなさい、ヒキガエル君」
「おい、なんでスクール時代の俺のあだ名を知ってるんだよ」
あれは酷かったな。
ヒキガヤがいつのまにかヒキガエルに変わり、最終的にはただのカエルになったからな。
あいつらマジ許すまじ。
「あら、本当にそう呼ばれていたのね。私はただ、あなたの頭の上にケロマツが乗っていたからそう言ってみたのだけど」
原因はお前かよ。
さっきからお前のせいで俺は罵倒されてばっかだぞ。
けど、一つだけ違和感はあるな。
「だが、なぜそこでヒキガエルをチョイスした? お前、実は俺のこと知ってんじゃないのか?」
カエルにもいろいろと種類があるだろうに、何故そこでヒキガエルなのだろうか。
仮説を立てるのならば、こいつは俺の名前を知っていたか。
もしくはあだ名の方を知っていたか。
前者であれば、どうやって知ったか気にはなるし、後者であれば、スクール関係だろう。
「あら、その言い分は聞き捨てならないわね。私はあなたのことなんて何も知らないわ。教えてくれたことなんて一度もないもの」
彼女が嘘をついているようには見えない。
となるとやはり偶然なのだろうか。
ん? 教えてくれたことなんて一度もない?
それって、つまり………。
「二人とも、言い争うのはそこまでだ」
このままではイタチごっこになると踏んでかヒラツカ先生が仲裁に入ってきた。
「正義と正義がぶつかり合うなんてことは常にある。どちらが正しく、どちらが間違っているわけでもない。ならやはりこういう時はバトルでどちらが正しいのか決めようじゃないか」
「「はい?」」
完璧にハモった。
彼女もそう思ったのか気まずそうに唇を噛んでいる。
「別にそこまでするようなことでは」
「ならば、負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞くってことでどうだ」
「なんでも………」
ごくっと唾を飲み込む。
「ひっ、そのいやらしい目でこっちを見ないでくれるかしら」
相変わらず、ひどい言い草だな。
俺はただ唾を飲み込んだだけじゃないか。
「なんでそうなるんだよ」
「あら、男なんてみんなそんなもんでしょう。間違ってるとでも」
「他のやつならそう思うかもしれねーけど、俺からしてみればお前がそもそも言うことを聞くような魂には見えねーと思っただけだ。変な言いがかりはよせ」
だって、こいつ絶対負けず嫌いだろうし。知らんけど。
「そう。あなたは私をそう捉えるのね。いいわ、バトルしましょう。あなたが私に勝てるとは思えないけど」
うん、決定だなこれ。
こいつ相当の負けず嫌いだわ。
そのせいでバトルも決定になったが。
「というか俺は何の新入りなんだよ。何か活動とかしてんのかよ」
そもそもなんで俺をここに連れてきたんだよ。ここに来なけりゃ、バトルすることもないのに。
「ああ、それはーー」
「私は一応、あるところからトレーナーの指導を任されているのよ、立場上ね。それの引渡しがヒラツカ先生を通じて行われているから、あなたもヒラツカ先生に連れてこられたってわけよ。まあ、あなたの場合はトレーナーとして、というより人として指導しなきゃいけないみたいだけれど。そうね、まずはその頭をどうにかしないといけないわね」
俺は子供かなんかかよ。あ、いや、ヒラツカ先生からしたら子供だろうけど。なんで同じ年代の女子に指導されなきゃいけねぇんだ。
というかあるところってどこだよ。危ない組織とかじゃないよな。ヒラツカ先生も関係してるんだし、ポケモン協会とかなのか?
「ふざけんな。俺はこんな自分が大好きだし、変わる気もない」
「………昔からそうだったものね」
「あ、どういう意味だよ」
「別に、なんでもないわ。それよりもそこも含めてバトルで決着つけましょうか。あなたには返さなければならない借りがあるもの」
「それこそどういう、って、あ、おいっ! ったく、なんなんだよ」
彼女は言いたいことだけ言って先に行ってしまった。
あ、これって行かなければバトルしなくてもいいんじゃね。
「決まりだな。ほら、いくぞヒキガヤ」
げ、この人の存在忘れてたよ。
やっぱ、やんなきゃなんねぇのか。面倒くせー。